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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
61/188

幕間 ニール

 昨日は散々だった。暗い夜道をライトの光とフリアーの視界があるからと言って、平地で出したくらいの速度で魔導車を飛ばした博士のせいでちょっと足が震えてた。

 広い平地で同じ速度だったトレーラーでは気にならなかったけど、それが狭いところだと曲がった瞬間にぶつかるんじゃないかって気が気じゃなかった。


 その前ではブチ切れてる風竜の頭の前に生身を晒していたし?

 あれはめちゃくちゃ怖かった……漏らしたって仕方ないじゃないか、あんなの怖すぎる。

 怒りを込めた鋭い視線がボクの方を向いた時、本当に死を覚悟した。絶対死ぬって思った。

 あの口から吐き出されている暴風の塊がこっちに迫ってくるのが分かるし、凄まじい轟音が横から聞こえてきてた。だから必死でガトリング砲を向けて撃ったら……倒せていた。


 ボクももうドラゴンスレイヤーって言われてもいいと思う。っていうか称号欲しい。

 あれが有るハンターとかは平民だろうと貴族並みの信用を得る事が出来るって言うし。

 コリーもテンペストも男爵の地位を貰ってるから本当に貴族だし、ボク達とはずっと同じように接してくれているから忘れがちだけど……あの2人が居るからこそ、そしてエイダ様が居るからこそボク達の話って信用されてるんだよなぁ。


 それにしてもテンペストがどんどん遠い人になっていく気がする。

 最初からボク達よりも上の存在だったみたいだけど、そんなのは関係ない。ボクはあの時師匠と一緒にボク達のところに来たテンペストを見てから一目惚れした。


 人族にとっては子供であっても、テンペストは普通の人族の子供と違って、大人の雰囲気がしたんだ。

 とっても綺麗な金色の髪の毛と神秘的な金色の目。そして白くて透き通るような肌。

 神々しいってこういうことを言うんじゃないかな?って思った。

 そんな大人びた雰囲気があるテンペストは、ボク達リヴェリからすれば適齢期の美人そのものだった。

 でも人族が結婚できる年齢まではまだ4年ある。


 テンペストほんと可愛い。めちゃくちゃ美人。なのになんで人族なんだ……短命だし成長するしとても勿体無い。

 ちらっとだけだけど見た裸はもうボクの頭にしっかりと記録されてる。

 ……理性が飛びそうになる度にコリーが思いっきり殴ってくるけど。そしてそのまま娼館に放り込まれる。

 まあ、別に良いんだけど。テンペストに手を出さない為なんだ、頑張らないと。


 で……皆からはなるべくテンペストと引き離されたりとか色々されてるけど、ボクは本気で好きなんだ。ソレくらいの妨害なんて気にしない!

 でも出来ればテンペストと二人きりになりたいなーなんて思ってたらチャンスが来た。


 それで、今日はテンペストに空間魔法を教えることになった。

 ボクを頼ってくれる事が少ないからすごく嬉しい。しかもテンペストと二人っきり!

 鎧とかを着込んでるテンペストは白と黒のコントラストが凄くカッコイイけど、今のように動きやすい普段着を着ていても似合う。テンペストはなんでも似合うなぁ。


 ああ、いけない。授業だ授業。


 空間魔法は今のところテンペストも少しなら使えるけど、マギア・ワイバーンを取り出したいって聞いた時には流石にびっくりした。飛竜だって大きいものならあれと同じくらいにはなるけど、それを収納するために結構ボクは苦労したし、今でも拡張しながらその部屋に繋いでいる。

 だからお金とか凄い掛かって大変になるんじゃ……って思ったんだけどよくよく考えてみたら飛竜倒した時点で問題なかった。ボクの口座も大金が入ってるし……あ、この際新しく作ろうかな?テンペストから土地を買って家を建てて。うん、出来そう。


 で、教え始めたら繋げるためのドアを簡単に作り出した。最初はすぐに消えたけどもう一度やってみたらもう失敗しないし……。絶対、素質はあるんだよね。

 ならもう先に進もうと、そのドアを使って鞄の中身を取り出してもらおうとやらせてみたら躓いた。

 この取り出し口のドアを鞄に繋げるっていう作業で、取り出し口の形はどうとでもなるんだっていうのを体感してほしかったんだけど……。

 かそうなんとか?みたいなことを呟いたらテンペストの正面の空間に、テンペストが使ってるナイフが突然出てきて落ちた。

 取り出し口とか作らないでいきなり出てきたんだよ?意味わかんない。しかもボクのつま先あたりに落ちてるんだけど!


 ……後ちょっとずれてたらこれ、刺さったよね。


 謝られた時、凄くいい匂いが漂ってきたのでどうでも良くなった。許せる。テンペストなら刺さっても普通に許す。


 でもそういうのを押さえ込んで頑張ったよ!


 とりあえずどうやったのか聞いてみたけどさっぱり分からなかったね。

 ここでは無い別の世界。魔法も魔物も居ない代わりに人族が支配しているという不思議な世界。

 そこでは一般的だというやり方でやってみたそうだ。

 コンピューターとか言う物を使って、様々な物の動きなどをカソウ的にシミュレートして実際に実験を行わなくても大体の結果が得られるとかなんとか。その時に中に入れておくものを設定して好きに出し入れできるとかなんか良く分からない。


 とにかく、別にわざわざ空間を繋げなくても目的のものを取り出して手元に出現させるという方法を知っていたみたいだ。

 うー……知りたいけど向こうの技術とかは何回説明聞いても知らない単語が出てきて、それを知るためにまた知らない単語が出てくるループで難しい!


 でもホント流石テンペスト。博士も凄いけどテンペストも底が知れない。

 多分、二人がいるだけで相当な戦力になっているよなぁ。

 あぁでも敵にも博士の記憶を引き継いだかもしれない人が居るんだっけ?何処に居るかわからないけど。


 とりあえず後は授業は一旦お終いだ。

 優秀すぎて一日で終わっちゃった。でも、教え方がうまかったからですって言ってもらえたので満足だ。

 後はその後の方針を決めて、雑談をしていた。

 凄く幸せ……。喋ってる内容は空間魔法に関することとかだけど、内容は問題じゃない。誰と話をしているかだ。


 後、話をしていて思ったけど、テンペストには多分召喚は必要ない。

 よくよく考えてみれば召喚から転移に関しては人を移動させるという目的が必要だけど、テンペストが取り出したいのはあくまでも「大きな物」だから生物じゃない。

 テンペストはマギア・ワイバーン、トレーラー、高機動魔導車を自由に出し入れできればそれでいい。

 であれば、博士はサーヴァントを出し入れできるようにしておけば色々便利だろう。


 ……ボクも何か作ってもらおうかな?

 一応お金有るし……。博士に相談してみようか。

 正直なところボクだけが広域魔法と空間魔法以外で役に立てていない。

 いつも足手まといになっている気がしてならないけど、少しは役に立ちたい。


 なにかこう、ボクも操作できるような何かが欲しい……。ボクの魔法と相性が良いのとかってなんだろう。


 まあ後で博士に相談するとして、明日はテンペストと王都に出て魔術師ギルドに行こう。

 これがデートとかだったらなぁ。

 実際のところテンペストはボクのことをどう思っているんだろう?

 やっぱり人族としてはボクみたいな見た目子供だと釣り合わないとか思われてる?

 ああいや精霊だったっけ……どうなんだろう。気になる……気になるけど……直接聞くのもなぁ……。

 コリーは変態扱いしてくるし。

 博士は……真摯に聞いてはくれそうだけど。


 □□□□□□


 テンペストが自室に戻った後、サイラスのところへと向かった。

 ボクにあった何かを教えてもらいたいのが一つ。土地とか空間魔法用の格納倉庫とかの設計の相談が一つ。そして恋愛相談だ。恥ずかしいけど博士ならきっと笑わずに聞いてくれるに違いない。

 ……多分。


「あ、博士今ちょっと良いですか?」

「良いですよ。ロジャー達との話も終わったんで紅茶を入れるところです。飲みます?」

「貰います」


 暖かい紅茶と、ちょっとしたお菓子が出てきた。お菓子……結構高いんだけどな。って今ならボクも買えるのか!なんかもう色々とおかしくなっちゃうなぁあの金額。

 渋みも丁度良くて飲みやすい。


「で、話ってなんです?ニールさんから相談されるのは珍しいですけど」

「ああ、さっきテンペストに空間魔法教えたんです。何か今まで引っかかっていた問題が一気に解決したようであっという間に基礎部分が終わっちゃいましたけど。それで……ボクもこの領地に土地を買って、新しく倉庫を作ろうと思うんです。テンペストは出入り口を付けているけど特定の人しか入れないガレージを作ってそこにワイバーンとか色々格納するって言ってました」


 今までは誰も入れないように作り終わったら出入り口を塞いでしまうのが普通だった。

 でもテンペストからすればそんなことをするとメンテナンスが出来なくなるし、何かがあった時に修理も迅速に出来ないと言って限定的では有るけど出入り口を取り付ける事にした。

 それを聞いて確かに普通にその部屋にアクセスできるようにしておく、という方法も場合によってはありなのかもしれないと思ったのだった。


「外から贈り物というか、ボクに渡したいものをその部屋に入れておくと、ボクが何処に居てもそれを受け取れるとか……そういう使い方が出来る場所を作っても良いんじゃないかなぁって思ったんです。別に、繋げる部屋は一個だけとは決まってないし、テンペストが魔晶石を取りに行く時にボクも追加を一つ貰いに行くつもりなんで。どう、かな?」

「荷物のやり取りをする場所ね……似たようなのは確かサイモンも持っていたけど、あれはどこでも取り出せたりするものではなかったはずだ。そういうふうに作っておけばどこでもニールに手渡せるようになるってわけだね。その空間魔法だけど、部屋に出入り口が付いていたりしても問題ないのかな?人が居る場合はどうなる?」

「出入り口は閉じていれば部屋として認識してくれるので大丈夫です。逆に言えば閉じてないと繋がりませんね。あと……人が居ても駄目です。あくまでも物だけが対象になっているので生物がいる時点で開けなくなっちゃいます」

「なるほど……ちょっと面倒だけど、まあ想像通りって感じかな?荷物の受取用の部屋、というよりは一定の大きさの空間だけにしておいてそこに入れておいてもらい、確実に扉が閉まるようにしておけば良いんじゃないかな」

「まあそうですね。長距離であっても博士の改良した通信装置のお陰で声だけならやり取りできるし、欲しいものがあったら持ってきてもらって入れてもらうって言う事が出来ると便利だなぁと。逆に送ったから持ってって欲しいとかも出来るし。管理は師匠に任せれば安心な気がします」


 ボクが知っている人の中で、必ず研究室に居て信用できる人となると師匠くらいしか居ない。

 ちょっと寂しい気もするけど……そもそもリヴェリが近くにあまり居ないから仕方ないじゃないか。


「で、その部屋の設計とかも相談したくて」

「私にか?建築関連の人とかのほうが良いんじゃないのか?」

「いえ……ボク達とは違う知識を持っている博士だからこそです。もしかしたら防衛とかの対策もしっかりしたいい部屋を作れるんじゃないかなぁと。テンペストもガレージには自分が認めた人以外は入れないように制限するって言っていたし、何かしらボクの知らないやり方を知っているんじゃないかって」

「なるほどね。色々と試してみたいものもあるし……ニールさんの倉庫でそれが出来るなら色々やれそうだ。考えておくよ」


 やっぱり頼んでみて正解だったかもしれない。

 この研究所のセキュリティーシステム?とか博士たちが呼んでいる物も、魔法を使わないものもあったりして魔法で無理やり突破しようとしてもどれかに引っかかるようになっていたりする。

 他にも色々と作ろうとしているものがあるみたいだけど、今それを動かすための仕組みを考えている最中なんだそうだ。

 将来的には階段を使わなくても上下移動できるようにすると言っていた。

 本当に出来るなら凄く助かるけど……。ハイランドは基本的に上下の幅が大きいから、同じ街の中でも階段や坂が結構ある。


 それに合わせて地階とかがある建物とかだと下に行って戻ってくる時がすごく大変だから、歩かなくてもいいなら楽でいいなぁ。


「ありがとう博士!正直凄い大金が手に入っちゃったから、いっそボクも自分の家を作ろうと思ったんだ。そのついでに自分の空間魔法用の倉庫を新調したくて。受けてもらえて嬉しいよ。あと、これはさっきまでの話とは全然別で関係ないことなんだけど……多分、博士なら笑わないで聞いてくれるかなって思ったから」

「良いけど……何か悩み事とか何かかな?私が手伝えるかどうかはわからないよ?」

「良いんです。……聞いてくれるだけでも良いので」


 でも笑われたりとか、軽蔑とかされると死ねる。

 散々コリーとかに変態とか言われてるから余計に。


「えっと。ボクはテンペストのことが凄く好きなんです」

「ああ、うん、そっちか……。まあそれは知ってる。っていうか自分で言ってますよねそれ」

「テンペストは……リヴェリの基準で言えばホント美人なんですよ。多分他のリヴェリも同じこと言うと思います。でもボク達と違って人族だから博士みたいに大人として成長していきます……でも、多分そういうの関係無しにボクは好きでいられると思います」

「種族の問題は……確かに深刻だね。寿命も違えば姿も違う。しかし本当に好きなんだねぇ……」

「本気ですよ。でもまだ結婚できないって言うし、テンペストもボクのことどう思ってるのかと考えたら気になっちゃって」

「まぁ結婚は……仕方ない。中身は違うけど身体自体はまだ成長できていないからね。ただ、彼女は恋愛というものが分かっていない。人を愛するとか好きだとか、そういう感情がまだ理解出来ないんだ。だから……羞恥心というものも無い。肌を見せてもというか裸で平気で私達の前をうろうろする事が気にならないんだよ、今の彼女は」


 確かに……。よくエイダ様に怒られてたのを思い出す。

 博士からテンペストの元々の成り立ちをもう一度よく聞いてみる。人が作った存在ってどういうことなんだろう?どう見ても人なのに。


「んー……ざっくり言ってしまえば、テンペストの元は計算機だ」

「は?計算機?」

「そう。魔道具に似たようなものがあるだろう?あれだよ。それを高度に発展させていって、AIという人工知能……つまり人を計算で模倣するというシステムが出来上がった。それが彼女の本当の姿なんだ。ただし模倣すると言っても戦闘用のAIだから感情なんてものは必要ない。常に冷静に周りの状況を見極めてパイロット……今のコリーの立場だけど、操縦する人に的確な指示と報告をする。だから状況判断と観察能力に優れているし、的確な指示を与えることが出来る。テンペストが攻撃を受けた時にどちらかに避けろといったとき、それはそっちに逃げた方が生き残る可能性が高いからという感じだ。勘やなんとなくみたいなあやふやなものではなく確率を瞬時に計算した上での発言となる。それは今の人の肉体を得た後でも同じだね」


 すこし素っ気無い感じの物言いと言うか、あまり踏み込んだ関係と言うものを持っていない感じがあるのはそのせいだろうか。エイダ様やハーヴィン候には愛称で呼んだり親しくしているけど、確かにあまり人にくっついたりという感じはしない。

 ……でも食べ物とかになると凄く引き寄せられたりしてるよ?


「私も初めてそれを聞いた時には驚いたよ?AIがまさか人の肉体を得ているだなんて思いもしなかったし、その肉体が元々持っていた感情などをある程度理解するように、そしてより人間らしく振る舞っているんだからね。私はあまりオカルト的な事を信用しないタイプだったけど、この世界に飛ばされてきたこととか不思議な魔法という力と精霊という存在を知って、きっと彼女は人の魂と言うものを持ち得たのではないかって思っているよ。元々あの体は他の子のモノだっていうじゃないか。それを乗っ取る……というわけじゃなかったようだけど、貰った身体に馴染んだ結果としてその子の記憶と習慣を引き継ぎ、人としての感情を覚え始めた。流暢に話をして自分で考えて、相手によっては言葉遣いなどを変えてみたり……。感情として出やすいのは喜びと怒りのようだけど、それ以外もだんだんと覚えていくだろうね。こうなったらもう、人が作り出した数字の羅列の存在ではなくて本当にそこに生きている、一つの生命体であり、魂を持った人間そのものと言ってもいいと思う」


 生きているって言う事とか、生命と言った物が何なのか。そういう事はボク達の世界でもまだ解明されていないし答えは出ない。

 それは向こうでも同じらしい。

 例えば、これまでのテンペストは自分で判断することが出来るが、基本的には命令に従った行動を取る。つまり複雑なゴーレムのようなものだと言われた。

 ワイバーンを制御し、複雑な思考をしながら的確な判断を下して攻撃をする。それがテンペストだった。

 でもそれが人の肉体を得て、中身は同じだとしても人と同じように会話をすることが出来て、感情があって、生活をする。

 そうなったらもうどこからが生命体なのかの境界線が曖昧になっているとは思わないか?ということだ。


 ボクは今のテンペストは人族で、一人の人として見ている。

 理不尽なことを言われたりして怒っているのを見たことがある。美味しいものを食べて幸せそうな顔をしているのを見たことがある。

 確かに言いにくいことを普通に口に出しちゃったり、裸見られてもおもらししてるの見られても平然としているけど……それはボクとしては大した問題じゃない。

 ……というか、ごめんなさい正直凄く興奮しました!


「怒りや喜びっていうのは分かりやすかったんだろう。でも、知識があるが為に抜けているところもある。それが羞恥心や恋愛に関する感情だね」


 前提として、テンペストは様々な知識を仕入れている。

 しかしその中には感情というものを説明できているものはない。出来ていたとしても感じるかどうかはその人次第なので自分がそう思ったらそうなのだとしか言いようがない。

 前のテンペストのパートナーである人の事を聞いた時、ふと悲しげな顔を見せたことがあったそうで、恐らく悲しみと言うものもなんとなくでも理解はしているのだと思う。


 恋愛に関してはまあ置いておくにしても、羞恥心に関しては後付の感情だ、とサイラスは言う。


「別にその辺の獣とかは服なんて着てないだろう?なんでニールさんは服着るのかな?」

「え、それは……服を着てないと恥ずかしい……っていうか、裸で居るほうがおかしいし。見られたくないし?というか、さん付け止めませんか博士……なんかむずむずします……」

「ん?ああ、そうか、じゃぁニール。なんで恥ずかしいと思うんだろうね?生物としては裸であることが普通なんだ。生殖器は泌尿器を兼ねているけど大事なのは子孫を残す機能があるということ。それ自体は恥ずかしいことではない。違うかな?」

「理屈はわかりますけど……」

「だが事実その通りだ。別に隠さなくても良いんだ本来は。でも実際は恥ずかしいし、それを規制する法律まで出来ている。それはなぜかといえば服を着るようになり、裸で居ることが異常となったからだ。そしてそれがずっと長い年月を掛けて染み付いているんだよ羞恥心というものとして。だがテンペストは違う。人というものを理解はしているもののさっき私が言った生物としての人を理解しているに過ぎない。服を着ている理由というものも、彼女にとっては『防寒、防御』などの身を守るための手段として考えているわけだ。だからこれに関しては周りの物がゆっくりとそういうものだとして教えるしか無い。まあ、既にある程度理解はしているけど駄目だと言われているからやらないだけだね、あれは」

「あ、なんか納得しましたそれ。ボクの裸見ても別に動じてなかったし、言い方とか博士の言ってたような感じの言い方でした」


 羞恥心に関しては理解した。

 じゃぁ恋愛感情、好きとか嫌いとかそういうものに関しては……どうなんだろう。どうテンペストは理解してるんだろう?


 ボクが娼館に行っていることを知っても、エイダ様は嫌な顔をしていたけど、テンペストなんかは「性欲というものを発散しなければならなくて、それが出来る場所があるのであれば問題はないのでは?」と言うくらいだ。

 それ自体を嫌悪したりはしていないっぽい。


「テンペストの考え方は理解出来たかな?恋愛感情も似たようなものだよ。自分に好意を向けられている事自体は分かっているみたいだ。でも、だからといって何かするわけでもない。生物として成熟した男女が子孫を残すために性行為を行い、子供を産む……そういったことを上の視点で見ていると思えばいい。家畜を交配させている人からの視点とでも言えばいいんだろうか。『好意を持って接してくれているというのであれば、特に拒否する必要もないと思います』と言ったことがある。好ましいとは思っているけど愛情を持って好きとか嫌いとかではなく、事務的なものだな、あれは。ただまあ、より良い子孫を残すという観点からある程度選り好みはするのかもしれないが」

「そう……ですかぁー……」


 嫌われて無くてよかったと言うべきか、特になんとも思われて無くて残念と言うべきなのか……。

 そうだろうとは思ったけどさぁ!!


「まあ少なくとも嫌われては居ない。恋愛感情何ていうのはその時にそうだと気づくものだったりするだろう?もしかしたらこのまま嫌われなければチャンスはあるかもしれないよ」

「そ、そうですよね!」

「まあ……前提として、君たちリヴェリという種族からすれば適齢期だろうが、人族であるということには代わりはない。残念ながらある程度成長してからでなければ結婚自体は許されていない。それに性行為自体もまだその機能自体が発達できていないから……性欲に負けて襲うようなことがあれば私も許さないよ?」

「し……しませんよ!嫌ですよ皆からボコボコにされるの目に見えててそんなこと出来ませんよ!」

「まあ、我慢できなくなったら発散しに行きなさい。健全に付き合うつもりがあるのであれば、私は止めはしないから。コリーも説得しといてやろう。後は……そうだね、成長したからもう愛せませんとか言うなら止めて欲しい。人族の結婚できる年齢の他の子を見て、テンペストがそういうふうに変わったとしても変わらずに一緒にいたいと思えるのなら……本気であると認めるよ」

「それは……何回も考えましたよ。今の姿のテンペストが今しかないってことも理解してます。いつかは背もボクの倍くらいになって、見下されることになるのも、シワが増えていって老人になるのも理解してます。ボクは死ぬその時までもうこのままの姿だけど、最後まで責任持って隣に居続けたいと本気で思ったから、ボクは博士にこの話をしにきたんです……」


 80年も生きていれば、ずっと生まれたときから死ぬときまで見てきた人も居る。

 人族がどう成長して、どう老化していくのかボクは見ていた。62歳だったかな、あの人が亡くなったのは。ボクもまだ子供だった頃に生まれて、ちょくちょく見ていた商人の子だ。

 やがてその商人が死に、その子が後を継いだ。ずっと顔見知りだったボク達の集落で色々と売ってくれたその人もやがて年老いていきその人の子供が後を継いだ。

 最後に見た時には髭が生えて髪の毛もちょっと薄く白くなり、シワが増えたおじいちゃんとなっていたのだ。

 でも、見た目が変わったからと言ってその人がその人じゃなくなるわけじゃない。

 だってボクは亡くなったことを聞かされるその時まで、きちんと彼に好意を持っていた。友人としてだけど。少なくとも嫌いになったりとかはしなかったな。

 だからきっと大丈夫。


「本当に本気なんですねぇ。そんなに好かれるなんて、テンペストも幸せ者だよ本当に……。もしかしたらニールがテンペストに愛情というものを理解させることが出来るかもしれない。なかなか難しいかもしれないけど、いい相談相手として、そしていいパートナーとしてしっかりと支えてやってくれよ」

「はい!ありがとう博士!」

「それと……」

「はい?」


 なんだろうか。想像するのも禁止とか?無理だそんなの。


「ニールも爵位取れるように頑張ってみたほうが良いんじゃないか?」

「あっ」


 基本的に平民と貴族の結婚というものはあまり無い。

 貴族は貴族同士で結婚して血統を残していくから……。つまり、テンペストの夫になるのであればそれなりの地位が必要だ。

 しかも最終的にボクの方が後まで残る可能性が高いから、地位目当てで結婚したとか言われても文句言えない!


「頑張ります……」


 何か、何か手柄を立てたりする方法でも考えなきゃ……。

 結局、最終的に妙に現実的なところで終わってしまった気がする。

 その後コリーが来てテンペストが呼んでいると言って博士を連れて行ってしまった。……ボク、やっぱりあまり頼りにされてないね?


「って、あぁっ!?ボクの装備とかなんか作ってもらうの相談するの忘れてた!!」


 何とかして認めてもらおうと思っていた矢先に、その一番重要なやつを忘れてしまうとは……。

 でもテンペストの考え方が理解出来たのは大きい。……頑張ろ。

頑張れニール

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