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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第五十九話 ニールの授業

 ハーヴィン領を後にしてそのままカストラ領まで戻ってきた。

 始末は自分で付けておく、ということで協力に関しては断られたが……恐らく負けることはないだろう。


 途中、王都で竜素材を放出してかなりの金額へと変えて来たので資金的にも問題ない。

 トレーラーも修理は終わっており、幾つかの装備が魔力とスペースをあまり食わないものへと換装されていた。


「おかえり皆。魔導車とワイバーンはすぐに点検修理するからね」

「サイラス様!凄いんです!このトレーラーとか本当に!」


 クラーラがロジャーに割り込んで博士に喜びを伝えていたが、すぐにロジャーに頭を押さえつけられる。……が、ドワーフのクラーラはその程度で頭は下がらない。妙なところで力を出してくる。


「クラーラちょっと黙っててくれないかな……まあ、彼女のお陰で色々面白いの作れそうだよ。魔術式と魔法陣を組み合わせて立体的な構造を組み上げられそうだ。博士が言っていた物が作れるようになるかもしれない」

「そう!そうなんです!やっとでこう、複雑なものでも重ねていけるようにできそうなんです!後サイラス様が言っていた、同じ処理をするものをいちいち書かずに、別な場所に誘導することで記述の数を減らすやつ!あれも同じような手順で上手く繋げられそうです!」

「ほう……あ、すまない、私はロジャー達と話をしてくるよ」


 完全にスイッチが入ってしまった博士は2人を連れて奥へと消えていった。

 ああなるともう暫くは戻ってこないだろう。

 取り残された他のメンバーはとりあえず高機動魔導車に関するレポートを親方……ゲルトに手渡す。


「おう、細かく纏めてくれてるな。有りがたい」

「魔導車それ自体はほぼ問題ありません。タレットを取り外して装甲を薄くするだけでも普通に流せるでしょう」

「流石に機能制限は掛けるがな。まずは王国軍に納品だな、既に注文が入ってるんだ」


 そう言って一枚の紙を手渡される。

 見てみると高機動魔導車を10台、魔導ライフル30丁を求められている。料金的にも問題はなさそうだ。

 当然王国軍へ回すものはフルスペックのものとなる。

 とりあえずは武装などを取り付けない素のままの高機動魔導車を納品し、使い勝手を試したいということのようだ。

 恐らく魔術師などを乗せて急襲部隊でも作るつもりだろう。


「……分かりました。まだ納品までは期間が必要です、量産用のラインが完成するまでは手作業で進めて下さい。量産が可能になれば恐らく一気に値段を下げられます。それと、ライフルに関しては扱う兵士に一月の研修期間が必要と伝えてください。徹底的に使い方を仕込みます」

「よし。分かった。しかし……量産と言っているがこいつらを簡単に量産できるのか?」

「人数を増やしたところでコストが掛かるだけですから、そこは魔道具を作り出して部品を延々と製造し続けるものを開発します。……今、新しい制御方法が出来そうだと言っていたので近いうちに完成するでしょう。そうなると新しく大きな工場が必要になりますね」

「なら建築ギルドから職人連れてこねぇとな。後で必要な金額やらを提出するんで見て欲しい」

「ええ、お願いします。それと……この素材を使ってワイバーンのアップグレードを頼みます。ニールお願いします」


 ニールが竜素材を取り出す。大きな風竜の魔晶石が2つとその頑丈な鱗だ。

 皮膜や爪、牙など様々な物が一通り揃っている。

 通常これだけでも一財産となるものだがこれは大半が雄のものだけだ。雌の物はまだ仕舞ってある。

 ちなみに売りに出したもので一番高かったのは雄の生殖器だった。オークションに出したらものすごい勢いで値が上がっていった。

 人の身長を超えるほどの大きなものだが、超が付くほどのレアな物だ。

 今までは飛竜はそもそも倒し切ること自体が難しかったし、大抵の場合は全身に傷が入って値が落ちている。しかしこれは無傷の珍品だったのだ。珍しい物好きな人達がこぞって値を吊り上げてくれたおかげで記載されている桁が凄いことになった。


 全員に分けてもまだなお残るその金額は、自分の身分証を持つニールの手が震えるほどだった。

 しばらく挙動不審になっていたくらいだ。


「これはまた偉く状態がいい!任せろ。と言っても全部は使いきれんから残りは倉庫に保管するが良いか?他の物にも回したい」

「構いません。サイラスのサーヴァントの強化パーツを作るのもいいかと思います」

「そういやあの博士に頼まれていたのがあったんだが……大幅な改修が必要になりそうなんで許可が欲しかったんだが……」

「ロジャーの所に居ますよ。改修にはどれくらい掛かりそうですか?」

「今すぐ許可とっても20日程度は掛かる。全部バラして魔筋も取って、骨格から全てを直さなきゃならんからな」


 かなり大掛かりらしい。

 しばらくは動けなくなりそうなので自分の仕事の方に集中することにする。

 ゲルトと別れて屋敷に戻る。


「ふう……やっと休めるな」

「ずっと移動だったからねー。テンペストはどうするの?」

「サイラスに教わった魔法技術の取得と、写本をしようかと。ペン先とインクの補充もしたいので王都まで行く予定です。今日はこちらに居ますが」

「俺とニールは……やっぱ王都かな?娼館ねぇからなここ」


 まだ小さな街であるカストラ領内のこの街は、研究街として居るため歓楽街としての役割を持っていない。

 煌を含めて数件の酒場がある程度だ。

 そろそろ人数を増やしていくことを考えて、そういった歓楽街の要素を入れていかないと住んでいる人達の娯楽がないままだ。

 研究者たちは研究に没頭することが出来ると喜んでいるが、技術者やその家族達は別だ。


「竜素材のお陰でお金にも余裕があります。私費もある程度投じて工場、学校、そして歓楽街の整備を始めたいと思います。……しかし歓楽街としての機能を私はよく知りません。娼館の機能は分かっていますが人材はどう集めるのでしょう?」

「あぁ……なるほどな。商人ギルドを通して色々とやっていくことになるが……。その、抵抗とか無いのか?」

「特には。男性にはそういった息抜きというか、性欲を解放することの出来る場や、酒などを飲んで楽しめる場というのが大事だと聞いています」

「まぁ、そうなんだが……」


 11の少女に何を言わせているのだろう、という罪悪感がものすごい。

 この辺はコリーの管轄として、既にあるコリーの区画を利用して歓楽街を形成する事となった。

 更に並行して、騒音の大きくなる飛行場を周りの目から隠すと同時に音を外にあまり漏らさないようにするため、山をくり抜く事を決定した。


「山をくり抜くって……どうやって!?」

「すぐに作ろうというのではなく、後々の移動に向けてゆっくりと進めていく予定です。用地としては山しかないこの領地では、なだらかで広い場所は正直な所この場所しかありません。どうせ開発が難しいということでこの領地を丸投げされているのですから、思う存分開発してしまおうと思っています。ゆくゆくは山を削って強制的に平地を作り出す事になるでしょう」

「テンペストが考えることって、なんというか……大胆っていうか……正直簡単にそれが出来るならハイランドはこんなに苦労していないよ?」

「これはサイラス博士とも話し合って決めたことですが、不可能ではないことを確認しています。そもそも魔法のなかった私達の世界では数百メートルの高さの建物を建造する技術力がありました。山を削り、住宅地を形成することも少なくはありません。逆に海を埋めて用地を確保するという事もやっていました。……長い時間を掛けてではありますが数年程度です。これに魔法の技術を加えることで、より円滑に開発を行うことが出来ると確信しています」


 法律というものにがんじがらめにされていた世界では、何かを作ろうにも基準を守っているかどうかなどの様々な審査をくぐり抜けてようやく工事に着手し、その間も何度も検査を受けてなんとか出来上がる。

 ここにはそんなものはない。更に言えば、強度が確保出来ないような構造であっても、無理やり魔法によって強化することで使えるようにすることが出来てしまう。

 建築機械などの補助があって初めて出来る作業ではあるが、それを作ることは恐らく難しくはない。

 そうなれば魔力を持たない人でも操作できるし、魔法を併用すれば地盤強化をしながらということも出来る。


 仕事も出来るし土地は増えるしでいい事だらけだ。


「土地といえば……あの浮遊島、今何処にあるんだろうな?」

「やはり移動しているようで最近は見ていません。そもそもあれに着陸したところで活動できるのかどうか、そして恐らく流れに身を任せるのみでしょうから有効な土地としてはあまり期待できないかと」

「あー……確かになぁ。でもまぁ、近くで見かけたら行ってみよう。あそこに居る翼竜落としておけば食料的にも美味しいぞ」

「外に出れない場合、ニールを連れて行くことも出来ませんが」

「いや、そもそもゆっくり飛んでもらってても怖いのにあんな早いのに乗りたくないよボク!」


 回収が出来ないというのが一番痛い。

 ここは自分でもある程度は回収出来るようにした方がいいのだろうか。


「ニール、空間魔法……教えてもらえますか?ここにいる間に出来るだけ先に進んで置きたいです」

「それなら良いよ!いつでも言ってよ。協力するから」

「では今からお願いします」

「……あぁ、なら俺はちょっとサイラスの所行ってくるわ」


 手持ち無沙汰になったコリーが外に出る。

 サイモンの屋敷のゲストルームでテンペストと二人きりになったニールのテンションは上がりっぱなしだ。

 何よりも自分を頼ってくれたのが嬉しい。

 ニールも男の子だから好きな子から頼られるのはとてもやる気が出る。


「じゃあ……やろっか。今テンペストはどれくらい出来るようになってるのかな?」

「鞄の拡張は10倍まで行きました。拡張に関しては大体分かった気がします」

「十分じゃないかな?じゃぁ……空間を繋げる対象を変えよう。やり方としては似たようなものなんだけど、部屋の場合は手元に取り出し口がないんだ。だから自分でそこにつながるドアをイメージする。とりあえず自分の部屋をイメージして繋げてみて?」

「ドア、ですか。やってみます」


 大きく息を吸って集中する。

 自分の周りにあるマナをかき集めて魔力で形を作り出す。自分の部屋のドアを正確にイメージしてそれを目の前に出現させる……。


「あっ」


 一瞬だった。目を開けた瞬間、見慣れた扉があった……が気づいた時にはもうマナに戻っていた。

 思った以上にそこにない物をあるものとしてイメージを形にする集中力が必要だ。


「一発で成功した時点ですごいけどね?やっぱりイメージとかに関してはテンペストは正確だね。もう一度やってみて。重要なのは自分の思った所に繋げられるかどうかで、ドアの形その物じゃないんだ」


 ドア……つまり取り出し口に関してはあってもなくても良いのだ。

 自分のイメージしている場所へと正確に繋がることが重要で、そこに繋げる入り口自体はどんな形でも良い。実際、ニールの場合には魔力をサークル状にした渦だ。

 ちなみに、これが出来る様になると鞄の中のものをいちいち蓋を取らなくても好きなものを取り出せるようになる。


 ただし、自分の物限定で他人の物や見たことのないものには繋がらない。

 あくまでも自分の知っているもので、その繋ぐ先にも目印が必要だ。それがないと上手く繋げることが出来ない。

 だから今はその入口を作ることだけに集中して、自分の部屋に繋がるかどうかはテンペスト次第となっている。


 そうこうしている間にまた集中し始めたテンペストは、2人の前に扉を生み出していく。

 青白いマナの塊がゆっくりと扉の形を作っていき、やがて木で出来た重厚な扉が出現する。


「扉が出来た。そしたらそこに扉があると信じて目を開けるんだ」


 ゆっくりとテンペストが目を開く。

 ……消えない。成功だ。


「私の部屋のドアです。これを開ければ良いのですか?」

「そうだね。でもまだ向こう側と上手く繋がってないと思うから、開いた瞬間消失すると思う。でもこれで第1段階は突破だよ。流石テンペストだね」


 次に行ったのは元々持っている鞄を使って、そこの中身をさっきイメージした様に空間を任意の場所につなげて鞄の中にアクセスする練習だ。

 しかしこれがやはり上手くいかなかった。

 大抵の人がここで躓くが、それは鞄とは蓋を開けて中身を取り出すものだからという常識が頭の中にあるからで、少しでも疑いが出てしまうと成功しない。


 逆に一度成功してしまえば、「出来る」という事実が頭のなかに出来るので、次回からはさほど苦労せずに繋げられる。

 これが出来たら今度は中にあるものを感知する訓練、それをひとつだけ取り出してみる訓練。


 今度は鞄を離れた場所に置いてそこに繋げて何かを取り出す訓練。

 更に離れた場所に……とやっていきその過程で目印となる魔晶石を自分で作る。目印の魔晶石は純度の高い小さめの魔晶石に自分の魔力を流し込んでいき、自分だけの目印となる魔晶石とするのだ。

 最終的にその魔晶石目掛けて指定した空間へと繋ぎ、物を出し入れできれば成功となる。

 後はその部屋を拡張したりなどすれば、一つの部屋の中に本来の何倍もの容量が入れられる。


「……難しいです……」

「大丈夫、大体皆ここで躓くから……ボクは何か意外とあっさり出来ちゃったんだけど」


 ニールの場合は他の人が普通にやっているのを見て、出来るものだと思いこんでいたからだ。

 ああいうことが出来るんだーと素直に思っていたからこそ、疑いもなく出来た。

 しかしそこから上、召喚となると話は別だ。幾ら出来ると分かっていても、理論上は出来るものだとしても、自分の扱える魔力には限界がある。

 それを突破するためには魔晶石の魔力タンクが必要になるが、それが安いものではない。


「……あれ?でもボクもそろそろ召喚出来るかも……?テンペストから分けてもらったお金で結構な量の魔晶石買えるよね……」


 今は事情が変わっていたのを失念していた。

 やり方は分かっているのだから、それに見合うだけの魔力を消費するだけだ。

 後で実験しておこうとニールは決めた。


 一方テンペストはといえば苦戦中だった。

 現実問題、今まで鞄を使う時には必ずその鞄の中身にアクセスするために口を開けていたのだ。

 その先入観はなかなか捨てされない。

 想像の中でならば簡単に出来るのだろうが、そこは現実である。一筋縄ではいかない。


「……想像?仮想空間……?」


 ならば発想を変えればいいのでは?

 今からやろうとしているのはシミュレーションだ。自分の周辺をリアルに描き出し、それに対してのシミュレーションを行うための仮想空間とする。

 敵との戦闘時、これを使って敵の次の行動を予測して攻撃をサポートしていたのだ。それ自体は難しくない。

 専用ソフトを介して演算をしていけばいいだけだ。

 この場合、自分の手元にある鞄にある空間へアクセスしたい。であればコンソールを開いて自分で設定したものの中身を弄ることでアクセス可能だ。

 コマンドで自分の手元にその物を取り出せる。


 ゴトン、と音がして床にナイフが突き刺さった。


「ちょっ!?テンペスト!?えっ、どっから出したのこのナイフ……刺さるかと思ったじゃないか!」

「申し訳ありません。と言うか……成功、したようです」

「え?鞄に繋がったの?」

「恐らく。先程ナイフを1本取り出す操作をしたので、その結果がこれだったのでしょう」

「え、ええええぇぇぇ……うそ……色々すっ飛ばして成功しちゃったのかぁ……。ちょっと、試していい?この時計を鞄に入れるよ。そしたらその時計を出してみて。今度は落とさないようにね?」


 暖炉の上にあった機械式の綺麗な時計だ。

 それを鞄の中に入れる。これをまた取り出せば成功となる。


 目を閉じてイメージする。仮想空間上に自分の持ち物を詰め込んだ鞄がある。

 その中身の目録を表示し、その中から時計を選び出して……今度は自分の手の上に出現させるように操作をする。

 プログラムが走って結果が表示されれば、手元には……。


 ズシリとした重さが左手に掛かる。

 目を開けてみれば先程ニールが入れた時計その物だ。落としそうになったそれを慌てて両手で押さえてよく見てみた。

 本物だ。成功したらしい。


「……完璧だよテンペスト。ただ、なんか……扉が開いた感じとか見えなかったんだけどどうやったの?ボクがやるときも必ず渦を作るんだけど、テンペストは別なやり方だよね。集中し始めたと思ったら突然手の上に時計が出てきてびっくりしたよ」

「先程のようにドアを介するのではなく、直接鞄の中身を把握してコマンドで必要なものと必要数を入力して取り出すイメージです。私としてはこの方がやりやすかったようです」

「コマンド?ってなんだろ……良くわからないけどまあ、テンペストがその方法のほうがいいって言うなら別に構わない……かな?ちょっとボクには分からない方法だからアドバイスは出来ないけど」


 一度出来るようになってしまえば、目をつぶって集中しなくとも頭のなかで鞄の中身を選択することで自分の手の中にその物を取り出せるようになった。

 別に手の中でなくとも、テーブルの上に出したりも出来る。収納する時には手をかざして指定しながらやると収納しやすかった。


「へぇ……空間を繋げる口が開かないから目立たないし、使い勝手良さそうだね!今の時点で鞄を手元から離した状態で出来ているし。もう段階飛ばしてもいいかも?となると目印となる魔晶石……楔石が必要になるから、それの準備が出来てから次に入ろう」

「楔石ですか。それはどのようなものですか?」

「なんでも良いんだけど、自分の魔力に染めた自分だけが分かる鍵みたいなものだよ。これを設置することでどんなに離れたところであっても、その楔石をイメージするだけで指定した空間に繋げられる。今は鞄が近くにあるから目で指定してるけど、例えばコーブルクとかでこの部屋の何処かにある鞄を指定するのは難しいんだ。だからこそ目印が必要で、その目印が楔石だよ。素材は基本的に純度が高い魔晶石を使う。出来れば属性も無い方がいいかな」


 高純度の魔晶石と聞いて風竜の魔晶石が思い浮かんだが、そういう強力な魔力を内包したものは自分の魔力で染め直す時に苦労するだけだからやらないほうが良いと言われた。


「では、早速購入しに行きましょう」

「いや……売ってないんだ。魔術師でもそれなりに認められた人にしか売ってくれない。というか、そこに行く権利を売ってくれない。ボクが出来たんだからテンペストなら問題ないね。だから行くなら魔術師ギルド。それも中央の王都の方に行かなきゃ駄目かな」


 高純度の無色の魔晶石は、魔術師ギルドによって管理されている洞窟の内部にあるという。

 楔石を作るには一番手っ取り早くて確実なのだが、ギルドに所属している事と、最低でも一つはギルドに寄与していること、そして今やったような物の出し入れを行う事が出来ることが条件だ。

 更に魔晶石であるにもかかわらず、マナの薄い場所で生成されるそれは貴重で高価なため、お金もかかる。

 ギルドに所属していない者で自分でやろうとしている者は、楔石を作りきれずに失敗することが多いのだそうだ。元からある魔力を追い出してそこに自分の魔力を封じ込めると言うのは結構難しいのだ。


 魔力タンクになる魔槽の魔晶石は逆に魔力を流し込んで貯めておけるものの、それをずっと固定することは出来ず楔石にはなり得ない。あくまでも一時的に自分の力を貯めておいて、必要に応じて放出するためだけの物だ。


「テンペストは既に魔術論文は加入する時と、その他にも2回位出してるよね。ワイバーンに関する基礎研究での発見ってことで。あれで十分寄与してるから、他の物もクリアできてる。お金はもうボク以上にあるのもわかってるから問題ない。……ボクは平民だから師匠にお金借りてやったんだよ……返しきるまでタダ働きだったけどね……きつかった」


 それでも割のいい仕事を見つけてやっては、ニールを行かせて稼がせていたのでロジャーも結構優しい。それでも一年近くはほとんど自分のお金を持てずに返済に充てていたそうなので、必要な道具なども購入できず苦労したそうだ。


「どの道王都には行かなければならないのですね」

「そうだね。今は練習だから自分の部屋に繋ぐっていうように言っているけど、テンペストの場合はお金も土地もあるから大きなガレージを作ってそこに繋げるのが良いかもしれないね。召喚とか覚えなくてもテンペストならワイバーンを取り出したり出来そうだよ」

「では飛行場建設と共に秘密格納庫を作って許可のあるものだけが入れるようにしましょう」

「え、普通繋げる場所って出入り口無くすよ?良いの?下手したら格納したもの盗られちゃうけど……」


 ワイバーンを格納できるというのであれば、わざわざ召喚を覚えて置かなくてもこの空間格納の為の倉庫を巨大なものにしておけば拡張し、そこから取り出すだけの魔力を節約できる。


「……召喚の意味があまり分かりませんが……」

「設置場所は自由で魔法陣を使った指定範囲内の物を一気に呼び寄せられる。一個一個出す必要はなくて人も運べる。まあそのかわりに呼び寄せたら元の場所に戻れないんだけど。相互移動が可能になるのは転移だけだよ。使いみちは限られるけど、大量の人員を突然出すことが出来るのは魅力なんだ。……まあ消費魔力激しいんだけどね。範囲の指定が大きければ大きいほどに。人が運べる分余計に大きくなってるし」

「私の場合はむしろ自前で場所を確保できる分、このまま力技で呼び出しと格納を行ったほうが早いというわけですか」

「そうだね」


 貴族でも財力がなければ出来ない分、やれる人は少ないが……テンペストは無駄に多い未開の土地と潤沢な資金がある。

 ここから更に兵器製造などで利益が出るようになれば色々と出来ることが増えていくだろう。

 その分出ていくお金も増えていくが。

 今はまだ小さいから資金に余裕があるだけだ。


 そのまま今日は授業は終わりとして休むことにする。


 自分の部屋に戻ったテンペストはまた上がってきた報告に目を通してサインしていく。

 やはり娯楽施設が無いことが挙げられており、特に子どもたちが遊べる場所が不足している。街道は整備されており歩道と車道に分かれているためそこで遊ぶことは出来ない。


 唯一公共の場として住宅街と商店街の中心にドーナツ型の広場はあるものの、そこも休日になれば出店が出るなどして狭くなってしまう。


「大人だけでなく子供用の娯楽も必要ですか。盲点でした」


 見た目も実年齢も子供のテンペストだが、そもそも遊びという物をしたことがないため考えていなかった。

 とりあえず、実際にどういったものがあると良いのかなどを調査させて作らせることにしてサインを書く。

 その他犯罪者に関する事柄などを見ていくと、捕まった者の中に気になる記述があった。


「3名の不審者……山を迂回して裏から入り込もうとした?」


 険しい山をわざわざ道のない所を上ってきたらしい。

 敵意も確認されており、不法侵入と警備兵に対しての攻撃ということで拘束してある。

 そして一番の問題は……ミレスの紋章の付いたペンを所持していたことだった。

 逃げ出したミレスの残党かもしれない。

 ここはサイラスに報告して対応を決めよう。


ニール「テンペストと2人っきり!やった!!」

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