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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第一章 精霊テンペスト編
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第五話 襲撃

 森に入って5日目。身体の中の魔力を感じることが出来るようになったテンペストは、ついに魔法を扱うことが出来るようになったとエイダに教えられた。


 この時点で服は解禁されて今は簡素なローブ姿だ。

 流石に森の中を歩くのに裸では危険過ぎるし、その段階はすでに終えているので問題ない。


「……服を着ると一気にマナを感じにくくなります」

「でしょ?服を着ているとどうしても、服と肌との間の刺激のほうが強くてわからなくなっちゃうの。裸にならなければならない理由はそれなんです。このマナが感じられないと同じマナが体の中に溜まっている状態の魔力の存在を知ることが出来ませんし……。獣人や亜人なんかはそういうことをしなくてもいいというのだから羨ましい限りです」

「昨日もドワーフという単語が出てきましたが、人間以外になにか種族が居るのですか?」

「え?あー……そっか、知らない種族が居るのね?ええ、人間と共に暮らす種族としては私達人間である人族。獣の姿をしていたり、人族に近い姿をしているけれど獣の特徴を色濃く残した獣人族。そして見た目は人族っぽいけどちょっと違う亜人族。この3種族に分かれてるの。それぞれのハーフとかもいるけどそれは置いておきますね」


 人族は単一種族で、肌の色などの細かいところが違う程度の差異しか無い。寿命は約60~120年。

 魔法を扱い、その保有魔力量が多い人は比較的長生きできるしあまり年を取らない。

 最高年齢は193歳で、見た目は大体70程度の老人だったそうだ。

 能力的に突出した所は少ないが、唯一魔法やその他の技術を組み合わせた魔道具と呼ばれる物を開発した。


 獣人族は極めて多種に渡る。魔獣が人族と交わったのが最初であると言われている。

 その為か、二足歩行で人族と同じ手を持っているが、見た目や能力などがその元になった獣の性質を引き継いでいる。

 見た目も完全に獣が二足歩行しているような姿から、耳や尻尾が唯一それと分かる程度まで様々。

 性格は明るく、力が強い。魔法も扱えるがあまり上手くはなく、基本的にその獣の能力を活かしたスタイルで生活している。

 唯一、鳥をルーツとした獣人は空を飛ぶことができるが、体重も重くなっているためさほど長時間飛べるわけではない。


 亜人族はエルフ、ダークエルフ、ドワーフ、リヴェリの4種。

 エルフ、ダークエルフは元をたどれば同じエルフとなるが、エルフの輪から外れて放浪し、厳格なエルフと違って開放的に暮らしているのがダークエルフで、どちらかと言うとダークエルフのほうが人族は付き合いやすい。エルフは融通が利かないのが難点だが、それさえなければ力強い仲間となる。

 共に長身で長寿。魔力の扱いに長けており自然魔法の使い手。エルフの戦闘スタイルは弓で待ち伏せが得意。逆にダークエルフは好戦的で、剣を手に素早い動きで相手を翻弄する。


 ドワーフは逆に背が低く大体人族の半分程度の背丈しか無い。その代わり人族、獣人族、亜人族を合わせた中で最も力が強い。それは見た目にも分かりやすく、背が低いがその引き締まった身体と盛り上がった筋肉は鋼のように硬く、その鍛えあげられた肉体で接近戦では敵なしとも言えるほどの活躍を見せる。手先が器用で金属加工などに長けている。また力仕事が生きがいで、暇な時にはとりあえず坑道に入ってはひたすら掘り続ける働き者。


 最後のリヴェリはエルフとドワーフのいいとこ取りをしたような種族で、見た目は人族で言う子供の状態で一生を終える。しかしその寿命は亜人特有のそれで、エルフやドワーフと同じく数百年の時を生きる。

 とても陽気で人懐っこい性格の為、よく騙されたりなどしているがめげずに強く生きている。

 またその容姿のためいろいろな意味で人気が高い。

 戦闘となれば人族と同じように様々な職種で行動し、ドワーフまでは行かなくともそれなりに力もある上に魔法の扱いに長けている。

 ある意味で人族の上位互換とも言える存在。可愛い。


「……こちらには多種多様な人種が居るのですね」

「そうなの?」

「私が居たところにはこちらで言う人族しか居ませんでした。まして数百年を生きる生物など存在しません。そもそもあの火竜という存在もありませんでしたから」

「それは……想像できないですね。じゃぁ、何かこう敵みたいなのって居なかったのですか?」

「居ません。全ての頂点に人間が立っている状態でした。100億近い数の人間が居たのです。しいて言えばその同じ人間が敵であったともいえます」

「……100億……凄まじい人数ですね!このサイモンのハーヴィン領では今大体1万人位住んでいるそうですから……」

「100万倍です」

「他の種族合わせてもそこまで行くでしょうか……凄いのですね。そしてあのワイバーンを作ったと……」


 ほへー……と目をぐるぐるまわしながら聞いたこともないような桁を想像しているようだ。

 外敵が多いこの世界ではそこまで人族が増えることもないだろう。

 人口過密で様々な問題が起きて、結果大規模な戦争になってしまったテンペストの世界。爆発の後はどうなったのか見当もつかない。一緒にこちらに来ていてもおかしくはないとは思うが遠距離交信すらも反応がなかった以上、確かめる事が出来ない。


「と、とりあえず、魔法の方に話を戻しましょう。昨日、魔法に必要なのは自分の知識、想像力、そして創造力が必要と言いました。後は実戦あるのみですが、昨日聞いた限りでは普通に火の起こし方を分かっているので話が早くて助かります。指先に意識を集中して、そこに火を灯す。そういうイメージを持って下さい。そして何でもいいですから、それに繋がる言葉を考えて唱えるんです。手本を見せますね」


 すーっと息を吸って深呼吸をして、人差し指を立てる。


『我が指先に集いて火を灯せ』


 すると、その人差し指にライターの様にポッ、と火が灯る。

 そして手を振るとそれは消えていた。


「こんな感じです。自分が今のことをイメージしやすいように言葉は変えて構いません」

「これは……凄いです。必要なのは知識と想像力……。マナは様々な物質などにその形を変えられるということで合っていますか?」

「ええ。現象を再現するのが魔法です。実際にその物を行っているわけではありません。まあ、だから創造魔法は凄いんですけど。実体化させるので」

「なるほど……」


 先ほどのように指先に火を灯す。それが出来るなら……それならばもう少し激しい燃焼も引き起こせるということだろうか。知識と想像力。加えて物質として実体化させる創造。

 もしかしたら色々な事が再現できそうだ。


 そして試しに言われた通り指先に集中して火をおこす為にワードを呟く。


『イグニッション』


 バシュゥゥ!と勢いのいい音を立てて青白い炎が指先から吹き上がる。

 気体燃料、つまり可燃性のガスを空気中に噴射して酸素と混合し、燃焼させる。要するにガスバーナーだ。

 単純で高温を得ることが出来る。


「出来ました。なるほどこれは便利です」

「……一発で成功するだろうとは思ってましたけど、まさか応用を先にやってのけるとまでは予想していませんでした。流石です……。私、要りますかね?」

「勿論、貴方が居なければ魔法を扱うことは出来ませんでしたから。しかし、これでこちらの世界でもワイバーンを飛ばす目処が立ちそうです」

「それは何よりです。では一旦炎を消して下さい。というかその炎凄いですね?火、風、そして創造を同時に使用しているみたいですが。それに青い炎ですか……」

「適度に酸素と混ぜ合わせることでこのようになります。赤い炎が出ているのは不完全燃焼を起こしている時です」


 わざと酸素の供給を緩めて大きく燃え上がる赤い炎を出した後手を振って消す。

 燃えているのに指先が全く熱くなかったのには少々違和感があったが。


「熱くなかった理由ですか?無意識に制限をかけているというのが学者の考えです。絶対熱いはずだ!と思っても、熱いのは嫌だと心のなかで思っていると思いますが、それが影響しているのではないかと。実際、自分以外には熱いんですよ。面白いですよね」


 まだまだ完全に分かっているわけではないようだ。しかし、これであのワイバーンに戻った時にもマナを感知することができればあの身体でも魔法が使えることになる。となればジェットエンジンを再現することでまた飛べるはずだ。


 もし飛べるようになったのなら乗せて欲しいと、サイモンに言われている。耐Gスーツはないから速度は控えめでやってやればいいだろうか。


「でも、テンペストがどのような魔法を覚えていくのか……凄く楽しみになってきました!きっと人族の中でもかなり高位の魔法使いになれるかもしれません。では、次に自分の体の中の魔力をまた感じ取って下さい。ちょっと減ってるはずです」

「確かに……最初よりも僅かに流れが少ない感じがします」

「魔法を使うときにはそれに気をつけてね。急激に体内の魔力が無くなると酷い時には意識を失う時もあるから」

「必ず余裕を持っておけばいいのですね」

「そういう事です。その限界を知るために今日は……」


 と、その時突然エイダの言葉が止まった。

 眉をしかめて何かに耳を澄ませているようだった。


「エイダ?」

「テンペスト、小屋の中へ!敵襲です!」

「了解!エイダも!」

「私は外で見張りを。……連絡の手段がないのが悔やまれますね。少々数が多い様です」


 エイダには精霊からの警告が聞こえていた。

 それは木々のざわめきのようなもので、エイダのように精霊の声を聞き取れるものでないと分からない。

 この森のなかに見えない何かが侵入してきたという警告。

 見えないということは恐らく術師が居る。

 姿を消し忍び寄る不可視の魔法。暗殺者や隠密などが使うことがあるもので、姿を見えなくする効果が有るオリジナルワードの一つ。


「距離は?」

「ここに来るまではまだ掛かりそう。姿を消す魔法を使っているけど、あれを使うと走ったり出来ないの。ゆっくりと音を立てないように歩きながらだから……ここまで10分程度で到着するかも知れません」

「敵でいいのですね?では倒してしまっても?」

「それが出来れば一番いいでしょうけど……正確な位置が分かりません。それに近くまで来られて接近戦をされると私は抵抗できません」

「では、こちらに考えがあります。一緒に小屋の中へ。もし出来るのであれば侵入出来ないようにして下さい。私は少しの間応答できません」

「テンペスト?……テンペスト?え?ど、どうしちゃったの!?」


 ガクガクと揺さぶるが全く起きる気配がない。

 ベッドに寝かせて小屋の中で籠城し、テンペストの策を信じるしか無い。

 そして思い出す。


 もしかして、テンペストはワイバーンへ移動できる……?

 今こっちの肉体が反応していないのは彼女が居ないから?

 それならば。


「なるほど。どうするつもりか知りませんが、あれは兵器であると言っていましたね。ではこちらも対抗策を取りましょう」


『土塊よ集え。その身は石の如く、敵を退ける壁となれ』


 小屋を囲うように土の壁が立ち上がり、その壁が石のように硬化していく。

 周りの土を使ったため立ち上がった分の地面が下がり堀のようになっていた。即席の壁ではあるが十分に時間稼ぎになるだろう。


 □□□□□□


 その頃、サイモンの屋敷では突然起動したワイバーンに、監視をしていた警備達が混乱していた。

 騒ぎを聞きつけて駆けつけたサイモンも独特の音を立てて動作確認の為にパタパタとラダーやエルロンなどが動き、背面の垂直離陸用のエンジンを格納したハッチが開く。

 ゆっくりとエンジンが回りだし、次第に耳をつんざくような音が辺りを支配した。


 サイモンには頭を新しく取り付けた跳ね上げ式の扉へ向けて、唸りを上げて外に出たがっているように見え、すぐに命令を出す。


「開けろ!!今すぐに扉を開け!!」

「き、聞こえません!!」


 耳が痛い。

 すでにその音量は怒鳴り声を上げても声が届かないほどになっている。

 仕方なく自分で開け始めると、それで何をしたいかを察した者達が一斉に協力し、扉を開ける。


『緊急時に付きAIによるオートチェック、完了』


 機首についたカメラで扉が開ききったのを確認する。

 センサー類も全て動作している。問題はない。

 ほったらかしだったが油圧なども特に問題はないようだ。

 だが恐らくこれが燃料での最後の飛行になるかもしれない。


 ゆっくりと外へと進み綺麗に整えられた芝生が焼けていく。

 エンジンの出力を上げて……。


『VTOL上昇モード、離陸開始』


 その場から浮かび上がっていき、メインエンジンの噴射口が開く。

 突如襲ってきた高温の暴風に翻弄されるサイモン達だったが、すぐに風の魔法で事なきを得た。

 一際大きな音とともに前に進み始め、垂直離陸用のエンジンも後ろ向きに格納され、推力となる。

 後ろから見れば3基のエンジンが並んで見えるという、むちゃくちゃな構造になっているが、それゆえにその推力は自身の重量の二倍を超える。

 あっという間に速度を上げて離陸用のエンジンをカットし、巡航速度へと移行する。


『IRカメラモードへ移行。正体不明の集団を発見、マーク』


 そこで一旦意識を分けて肉体の方に戻り、外部操作に切り替える。要するにラジコンモードだ。操っているのは最先端の技術の粋を集めた精密機械だが。


「エイダ、耳をふさいでいて下さい。この小屋の300メートル程の所に10人ほどの集団が居ます。確かに通常の光学センサーでは見えませんでしたが、赤外線センサーでは丸見えです」

「テンペスト!ということはこの音は」

「私の身体、ワイバーンです。一度上空をパスして攻撃へ移ります」

「分かった!」


 意味不明な言葉はとりあえず置いといて、あのワイバーンが今上空を飛んで行く音が聞こえる。

 凶悪な唸りを上げて。

 当然それは侵入者にも容赦なく襲いかかる。


『対地攻撃モード、ガンのセーフティを解除。……掃射、終了』


 □□□□□□


「何だあれは!!」

「くそ、不可視化が切れた!身を隠しながら進むぞ」

「すでにここまで侵入したのだ、もう小屋まであと少し。周辺に居た警備は俺達にではなくあのうるさい奴にびっくりしてるだろうよ。向こうに意識が集中している間は俺達は安全だ。行くぞ!」


 そこには音が鳴らないような工夫がされた鎧をつけた男たちが居た。

 別な街にある情報ギルド、そこではすでにテンペストのことがある程度漏れている。

 何か特別な扱いをされている事から、重要な人物であることが推測された。

 そして、サイモンには敵が多い。となれば、テンペストを攫って身代金をせしめようとする者達が出てくるのだ。

 それも直前の情報によると、一緒にいるのは精霊の神子。

 操る魔法と精霊魔法は危険だが、一緒に捕らえれば金になる。


 時期はこの森のなかで無防備になっている時。

 到着した時にはすでに5日目だったが、相当センスが無い限りはまだ裸で訓練中である。

 踏み込めば萎縮して立ち上がることも出来まい。

 神子は抵抗するだろうが、少女を捕らえればおとなしくせざるを得ないはず。


 そうして遠ざかる音を聞きながら、また全身を開始する。

 ……が。


「おい、音が戻ってくるぞ」

「糞、なんだって言うんだ!?あんなうるせぇ翼竜なんて見たことねぇぞ」

「翼竜だろうが俺達には荷が重い、騒ぐな」

「くそ、こっちに向かって……」


 次の瞬間、地面が爆ぜた。

 遅れて25mmガトリング砲の唸り声と上空を通り過ぎるワイバーンのエンジン音。

 一瞬の出来事だった。

 僅か一秒ほどの掃射で100発近いHEIAP弾がばらまかれ、一塊になって行動していた彼らは一瞬でその身体を引き裂かれ、地面に突き刺さった弾丸は穴の中で燃えていた。

 元々装甲を貫き破壊するための弾丸である。装甲を貫いた後、内部の爆薬が起爆し、更に焼夷弾薬が燃え上がり焼いていく。

 火竜も流石にこの弾丸を止めることは出来ず、貫かれた後に内部で爆発を引き起こされて内部を破壊されたのだ。人であれば掠っただけでもその場所が吹き飛ぶだろう。


 敵となれば容赦はしないのがテンペストだ。

 確実に撃破し、息の根を止める。

 その冷徹さは失われては居なかった。


 □□□□□□


「きゃぁぁぁぁ!?」

「頭を下げて耳をふさいで下さい」

「今なにかすごく揺れたんですけど!?」

「ただの衝撃波です」


 音速を超えたワイバーンが低空を飛行したおかげで、鼓膜が壊れそうなほどの音と共に何かがぶつかったかのような衝撃が小屋を襲う。

 幸い、エイダによって屋根まですっぽりと土魔法で覆われた小屋は、その衝撃波の影響を受けずにすんだ。


 少しの間を置いて唸り声のような音が響き渡り……。


「終わりました。侵入者は全滅です。ワイバーンはこれより屋敷へと帰投させます」

「は、はい……。終わった?のね?」

「終わりました。ただし次に離陸するのは厳しいかもしれません。ここではメンテナンスを受けられない上に、燃料も弾薬もありません。技術を確立するまではクロノスワードによって封印することになりそうです」

「そう……でも、想像以上に恐ろしい物だったのですね」

「……兵器ですから」


 壁を解除して元の場所へと土を戻し、外に出る。

 外においてあった薪がバラけて、桶はどこへ飛んだのかすらわからない。


「恐らく、もう少ししたら警備の人たちが来ると思います。ここで待っていましょう」

「分かりました。……先程は土で小屋を囲っていたのですか?」

「え?ええ。あれは……」


 血相を変えてすっ飛んできたサイモンと、警備のもの達が到着するまで二人は魔法についてをエイダが、ワイバーンの装備についてをテンペストが互いに教え合っていた。

 何かがあったとしか分からない二人以外の者達は、やたらと和やかなその雰囲気に安堵するのだった。


「それで……テンペストはワイバーンを動かして賊を倒したということですか」

「ええ。突然だったので説明する暇がありませんでした。扉を開けてくれてありがとう」

「ああ、中身がテンペストであることを知っていたから出来たんだ。なにか緊急事態が起きているのだと。だから飛び立った後にそれに続いて馬を走らせた。……で、賊はどこに?」


 テンペストはその場所へ案内する。

 燃えた跡のある木や折れた木が見え、地面はボコボコになっていた。


「ひっ!?」

「どうしましたか?エイダ様」

「あ、あれ……」


 そこには足らしきものが転がっている。

 よくよく見れば、そこら中に土埃を被って景色と同化してしまった敵の破片が転がっていた。


「……凄まじいな……。何があったのだここで……あぁ、これでは身元も分からんか」

「一番弱い兵装だったのですが」

「これで!?」

「対地無誘導弾は一発積んでいますが、あれを使うと私達も巻き込みます」


 積んでいるのはサーモバリック爆弾。以前は燃料気化爆弾と呼ばれていたものだったが、その爆薬を特殊なものへと変えた物だ。

 効果などはほぼ同じ物で、効果範囲は半径300~400メートル程。

 丁度効果範囲ギリギリかアウトかというレベルだ。


「軍隊を相手に出来るな」

「そもそも、敵の基地等を吹き飛ばすための兵装ですので」

「エゲツねぇ……。テンペストが居た所の戦争には参加したくないな。何も出来ずに一方的に死にそうだ」


 元々テンペスト達ウォーロック隊は、フル装備で完膚なきまでに危険な敵施設とその周辺を壊滅させる為に飛んでいた。

 射程の長い対地ミサイルを放ち、一番の脅威のミサイルを撃破し、続いてこのサーモバリック爆弾で敵基地とその周辺施設を全て破壊した後に全力で離脱……の予定だった。

 こういうことになるのがわかっていたなら、兵装をある程度温存しておきたかったがまあ、仕方ない。

 SAMの破壊のためにミサイル一本を打ち込んでいるし、貫通力の高い対地ミサイルは使用済み。

 ガトリング砲の弾薬も残り200程度しか無い。

 唯一無制限で撃てるのは対空レーザーのみ。代わりに2分間は再チャージのために使えない。

 その電力の確保も翼下に取り付けられた風力タービンが回っていないと意味が無い。


「……とりあえず……テンペストはすでに魔法を扱えます。後は屋敷の庭などでも練習出来るでしょう。センスの塊のようなものですから教えれば教えるだけ強くなれますよ」

「もう魔法を……分かった。それでは二人共馬に乗ってくれ、屋敷まで連れて行こう。……テンペストはすまないがワイバーンをどうすればいいか教えてほしい」


 屋敷では帰還を終えたワイバーンが着陸後のチェックをしていた。

 動かそうにもエンジンがまだ熱く、下手に触ると危険そうということでそのまま庭に着陸したままだ。

 ちなみに、屋敷周辺の家々では……ワイバーンのエンジン音が響き渡った瞬間パニックが起きていた。

 火竜の襲撃の時に聞いた恐ろしげな音、それを火竜の襲撃と勘違いした者達だった。こちらはこちらで色々と厄介なことになっていたのをサイモンはまだ知らない。


 ともかく、テンペストはこれで魔法使いへの第一歩を踏み出した。

 初めての新しい力。これをどう使っていこうかと今から楽しみにするテンペストであった。


鬼かテンペストは。

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