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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第五十八話 追跡

「ただいま、サイモン」

「ああ、おかえり。皆もよく来てくれた。……色々聞きたいことはあるが入ってくれ」


 サイモンの邸宅に直接乗り付け、ワイバーンに至ってはガレージ付近に降ろした。

 お陰で魔導車とワイバーンの姿を目撃した住人たちは色々と騒いでいるが。


 招かれたテンペスト達は応接間へと通される。

 大きなソファにどっかりと座ってサイモンが疲れたようにため息を吐いた。


「どうかしましたか?サイモン」

「いや、さっきテンペスト達が急ぎ教えてくれた情報に関してだが……まあ、連絡が来たので大体把握している。急ぎ、怪しそうな所に獣人の警備兵を向かわせているが。まさかここでディストの粉が出てくるとは。お手柄だコリー」

「ありがとうございます。……しかし、アレを襲った賊は逃げてしまっているようで、しかも匂いもほとんど残っていなかった。薬の臭いは空間魔法で遮断できるものの、自分達の臭いまでとなると魔術師が居るだろう」

「コリーの鼻でも追えなかったのか?全く……何処に居ることやら」


 ここでずっと何やら考え込んでいたテンペストが口を開く。


「……逃げたとして、大体どれくらいの距離離れたと思いますか?」

「ん?徒歩のやつも居るだろうし……あの男が死んでからそう時間はたってなかったから……大体30キロ程度までの範囲だろう。微かに残った臭いは南東に向っていたと思うが、来た方向なのかどうかまでは分からん」

「向こうには森があります。恐らくその近くに潜んでいるのでは?」


 今からではもう間に合わないし、闇雲に探し回ったところでどうしようもない、というサイモンの言葉が帰ってくるが……別にただ探すわけではない。

 夜になれば火を使う。火を使えば熱が出るのだ。大体の検討をつけておいてその周辺をワイバーンで赤外線探知して回ればいい。居なくともその範囲を周回しているだけで恐らく見つけられるだろう。


「なるほど……マギア・ワイバーンならではの解決方法だ。やってくれるか?テンピー」

「ええ。もしかしたら大本まで辿れる可能性もあります。それに……今回持ってきている魔導車は前のよりも小さく走破性が高い物です。空と地上から同時に追い詰めることが出来るでしょう」


 魔導車にはまだ空きがある。テンペストが降りて屋敷で眠っていればサイラスとニール以外にまだ7人分乗れるのだ。そこに警備兵を乗せていけばいいだろう。


「よし。7人だな?どういう奴らが必要だ?」

「それは私から。土地勘があれば最高ですね。そしてなるべくならば獣人とエルフが居ると良いでしょう。獣人は鼻が効きますし夜目も効きます。エルフは狙撃隊から1人貸して頂きたい。後の人選は任せますが、薬を持っているとすればそれを解毒出来る魔術師も1人欲しいところですね、最悪の場合は治してもらえるでしょう。吸い込まないように口に当てる布等も装備させておいて下さい」

「サイラス博士だったか……君は様々な事に妙に詳しいな?」

「なに、私は知識を広げることが好きだっただけですよ。用兵などに関しては素人ですが、必要な装備品などは応えられると思います」


 高機動魔導車の窓にもフリアーシステムが搭載されている。魔法によって容易に再現できるようになってからサイラスは小型化を進めさせていたらしく、これに搭載されているのはかなり小さい。

 その内トレーラーの方も換装するはずだ。


「試作品を流してもらってこちらでも色々試しているが、殆どがそのまま実用化出来るものばかりだ。直す必要があるかも分からない位にな。ああそうだ、頼まれていた書類だ」

「レポートですね。お預かりします。……なかなか皆さん細かく書いてくれてますねこれは嬉しい」

「ああ、自分達の所に配備される物だから改善案などを色々盛り込んだらしい。検討してみてくれ。さて、それでは私は部隊を編成するから、皆は出発まで休んでいてくれ。早めに軽く食事を取ってから出発する。そうだな……今から4時間後になるだろう。来てそうそう動いてもらってすまないな」


 結局日帰りになることは叶わなかったが、そのかわり連絡を取ってもらって明日帰ることをテンペストの屋敷に伝えてもらった。


 まずは軽く疲れを癒やしつつ方針を決めていく。

 火を使うのはハンター達も同じなので間違うのはまずい。慎重に見極める必要があるだろう。

 ワイバーンによって位置を特定した後、そのままズームして監視後怪しそうならマークしておく。

 そこに直接魔導車で乗り付けて調査となるだろう。


「どうやって見極めるのさ?」

「ワイバーンに乗ってちゃ臭いは分からんが……悪人ってのは何処か怪しい動きしてるもんだ。ハンターも周りを警戒しているのは同じではあるが、装備品やら連れてきている奴等を見るとハンターとしてはちょっとおかしい所が出てくるもんだ。あと荷物とかな」

「へー……まあその辺はコリーに任せるよ。出発までちょっと寝よ……」


 テンペスト達もとりあえず寝ることにするが、テンペストはそのままワイバーンに飛んで調整を行う。

 夜の出撃はコリーにとっても初めてのことだ。

 サイラス博士達よりも先行して周辺を探ることになるが、その為にしっかりと自己診断をしておかなければならないだろう。


「システム、構造に異常なし。残弾数121。……偵察用ポッドが欲しいですね」


 機首下部に取り付けられているオクロを通じてある程度の偵察は出来るが、ポッドほど詳細には分からないだろう。そこは魔力を使ってなんとかするつもりだ。

 そうして隅から隅までを自己診断して気づく。

 肉体の方でも自分の体を管理できるのでは?と。今更ではあるが、今まで他人を監視して管理することはしてきたものの、自分が肉体を得るとは思っていなかったため自己診断は機械的な物だ。

 今は肉体があるが、それでもきちんと管理出来るのであれば怪我や病気の時だけでなくとも健康維持や体調不良などに役に立つだろう。

 少なくとものぼせたりなどという失態はなくなるはずだ。


 肉体の方へ戻り、早速やってみることにした。

 やり方自体は魔法の取得のときなどとほぼ同じだ。自分の読み取りたい部位などに対して集中していき、そこの情報を自分の体内にある魔力を使って読み取っていく。

 血圧等は大まかに、心拍数に関しては正確にわかる。体温に関しても問題ない。


「……もっと早くに気づくべきでした」


 しかし自己管理が出来るようになったのは便利だ。

 これからは訓練のときなどにもこれらを利用して体調管理に務めることにする。

 とりあえずはやることがなくなったので身体を休めるためにも睡眠を取り、次に気がついたのはサイモンの使用人に起こされた時だった。


 そのまま身体をベッドに横たえてワイバーンへと移る。

 コリーも既に来ており外装のチェックなどをしていた。

 最初は確認項目とにらめっこしながら頑張っていたコリーだったが、今では既に何度もやっていることだ。スムーズに点検を終えて乗り込んできた。


「こっちはいつでも行けるぞ」

『了解です。先行して偵察を行います』

『サイラス、先に行っているぞ。馬車を見つけたところで待機していてくれ。そこを中心に怪しそうな所を探す』

『こっちは今選抜隊が来たところだよ。少ししたら出る。通信装置は彼らのリーダーにも渡しておくよ、直接外に出て行動するのは彼らだ。私は運転だし、ニールは銃座に居るからね。ポイントに着いたら連絡するよ』


 □□□□□□


「さて……」


 頭上をあまり音を立てないようにゆっくりと飛んでいくワイバーンを見送りながら、サイラスはサイモンの編成した部隊を見る。


 リーダーは人狼だ。今は青年の姿だが戦闘時には獣化して戦うらしい。正直カッコイイじゃないか!

 当然鼻も効くし夜目も効く。そして何よりもその攻撃力と素早さが素晴らしい。


「サイラス殿、今回の小隊リーダーとなったザックだ、よろしく頼む」

「こちらこそ。人狼とは心強い」

「貴方は機知に富んだ方だと聞いている。まして例の翼竜が味方となればそれのほうが心強い。今回のメンバーは罠や索敵を担当する孤人のニック、狙撃手を担当するエルフのカミル、後は人族とリヴェリの混成だが隠密の訓練を受けている者たちだ。武器、毒の扱いは長けているが……機密のため顔と名前は申し訳ないが伏せさせてくれ」

「問題ありません。声も出せないでしょう?秘密を守るためとは言え尊敬しますよその徹底ぶりは……」


 声でバレることもあるため声も出せない。

 顔は出せないため覆面をしているし、身体のラインが隠れる服を身に着けている。更に種族は分かっても個人がわからないように身長もほぼ同じだ。

 恐ろしく徹底している。

 顔を隠す面は黒い狼をモチーフとしたものらしい。

 彼らを魔導車に乗せるときも、他の3人は普通に音がしていたのに、彼らのときだけは無音だった。

 歩く音すら聞こえない。


「……それにしても隠密まで出すなんて……ハーヴィン候結構本気です?」

「ニール殿、あのディストの薬はとても危険なものなのです。大量生産こそ出来ないものの、一度使われれば使われた方は何一つ気づくこと無く奴隷化していく。使われるとどの道厄介なので確保しておきたい。……彼らが何者かは知らないが、奪ったと言うなら大本の方で回収部隊が出ている可能性もある。ああいう犯罪組織は情報がやたらに早いのでね」

「追跡する気ですか」

「向こうが接触しようとしていれば、だがな。そうでなければその場で取り押さえて薬を回収する。ああ、追跡の場合は君たちは戻って構わない。こちらが引き継ぎ調査を進めていくつもりだ」


 運転席に座り、後ろの人達が全員用意が出来たのを確認すると、車内の明かりを消して魔導車を起動する。

 窓は既に赤外線映像が映されており、真夜中の景色を明るく見せていた。


「……これは……」

「まだ秘密ですからこれを見たからにはあなた方にも機密を守っていただきますよ?機密だらけなのは隠密の彼らだけではないんです。暗闇を見通し、熱を視覚化する魔道具ですよ。では出発します……早く行かないとテンペスト達はもう探しているはずだね」


 ここまで来る間は特に凸凹した場所は無かった。硬く踏みしめられた道が続いているので思う存分飛ばすことが出来る。

 ライトを付けてアクセルを踏み込めば、低い魔導モーターの音とともに魔導車が加速していく。

 全てのタイヤが駆動輪となっているこの車は、あっという間に最高速度へと重い車体を加速させた。


 いつもなら悲鳴を上げているニールだが、他の人達がいる中で必死に我慢しているようだ。


「ず、随分と早いのだな?」

「あ、掴まっていてくださいね?ちょいちょい揺れる時はあるので。馬車のあったところまでならまあこの速度なら1時間かからず到着しますよ」


 それでも微動だにしない隠密隊。動じなすぎる。逆にリーダーのザックやニック、カミルはしっかりと掴まりながら外を見ていた。

 ニックは既に耳が寝ている。恐らくニールと同じだろう。


 月明かりもない真っ暗な夜道を疾走する。

 最後の方には大分皆慣れてきたようで、余裕が出てきていた。

 1人、ニールを除いて。


 一度外に出て身体を解しつつ、連絡を待つことにする。


 □□□□□□


『こちらはポイントに到着。いつでもどうぞ』

「……また飛ばしたな博士。まあいいが。今のところハンターしか見えないな」


 ワイバーンの方は平地で馬車のそばで焚き火をしながら寝ずの番をしているハンター達をチラホラと見かけたものの、逃げている者達は見当たらない。

 サイラス達の居る地点を中心にして探してみているのだが、居ないようだ。


「もしかして夜通し移動してるのか?」

『索敵範囲を広げます。加えてマナを使った索敵も併用します』

「分かった、操縦は任せてくれ。テンペストは索敵に集中だ。移動しているなら体温が上がっているはずだから、テンペストなら見分けられるだろう」


 速度を上げて少し範囲を広げていく。

 すると森の中で一点反応を見つけた。木々の間から光も漏れている。コリーの言う通りに夜通し移動をするつもりらしい。

 ズームして確認してみる。


『馬が2頭、種族は分かりませんが人数は6名』

「ほう……結構綺麗に見えるな。明かりをつけてくれているから分かりやすい」

『ターゲットですか?』

「まず、ハンターなら夜に行動することは少ない。この時点で既にかなり怪しいな。夜行性の魔物を狩るなら分かるが、その時には明かりは使わん。明かりが見えれば逃げられる」


 更に言えばそういうハンターの場合は物音などにもかなり気をつけながら進むため、歩みはもっと遅くなる。眼下に見える者達は急ぎ足のようだ。

 広くはない山道をずっと通っている事からも狩りのためとは思えない。


「多分、こいつらだろう。テンペスト、マークしてサイラスに連絡を」

『こちらワイバーン、ターゲットを発見。マークしました』

『あれ?意外と遠いですか……まあ追いつくのにはそう時間はかからないはずです』

『ターゲットは時速6キロで移動中。そこからならば約40分で追いつくはずです』

「よく分かるな……」

「ポイントから約70キロ地点、そこから時速6キロで移動する者に追いつく速度は恐らく博士なら高機動魔導車の最高速度まで踏み込むでしょう。しかし途中道も悪くなる所があるのでそれを補正しつつの予測です。大幅にずれはしないはずです」

「流石テンペストだな。俺は書かなきゃ計算出来ん……とりあえずは監視か?」


 到着までは上空で待機しながら監視を続ける。静かな夜に低く響く音が気になるのか時折空を見上げるが見つけられないようだ。

 高度は結構高いし、今はあまり加熱していないため光は見えない。

 黒い小さな機体を月の無い夜空で見つけるのは困難だろう。


『ターゲット、小休止に入るようです』

「そりゃな。ずっと動き続けられるわけじゃねぇ。まぁこっちには好都合だ……火を焚いたってことは暫く居座るなありゃ」


 移動していないなら追いつくのも早くなる。

 と言っても数分の差だろうが。

 暫く上空で監視していると、遠くにサイラスの駆る魔導車の光が見えた。

 かなり狭い道なのだが恐ろしい勢いで走っている。


「……ニール、大丈夫かねあれ」

『少し、心配ですね。……到着まで1分』

「はええな」


 途中でライトを消して、速度を落としてゆっくりと近づいていく。

 後部ハッチが開き、部隊が展開していった。

 隠密はどういうわけか体温もかなり低く見える。恐らく着ている服がそういう機能を持っているのだろう。


「2人前に出たな。偵察か?」

『人狼と狐人の2人です。流石に早いですね』

「獣人にとって森の中は狩場だからな。平地しかまともに歩けない人族相手ならあっという間に追い詰められるぜ?お、途中で止まったな。やっぱ偵察か」


 周辺を気づかれること無く包囲していくのが見える。

 後は報告を待とう。


 □□□□□□


「素晴らしいなこの魔導車と言うものは……今あるものなどよりもずっと早い。お陰で楽に追いつけたな。サイラス殿、感謝します」

「いえ、やることをやったまでですからね。ここから監視とサポートを行います。お気をつけて」

「では皆、俺とニックで罠と見張りを警戒しつつ偵察を行う。カミルは少し離れていつでも撃てるようにしつつ、他から来る何かを警戒しろ。隠密の4人は奴等を囲うようにして誰も逃げられないようにしろ、では行動開始だ」


 後部ハッチが開かれてあっという間に隠密が闇に消える。

 ずっと見ていたのに外に出たと思ったら突然消えたように見えた。

 隣で見ていたニールも、え?という顔をしていたので恐らく同じように思ったんだろう。

 少なくとも、特殊部隊みたいなものだろうと思っていたのだが、魔法がある事を強く認識せざるを得ない物だった。


「ニール、銃座についてください。周りには敵は居ません、安全ですよ」

「うん。それにしても……凄かったね、隠密の人」

「ちょっと予想外でした。あそこまで気配消されるともう何も出来ませんね。この世界の隠密はちょっと怖すぎます」

「敵じゃなくてよかった……っていうか、ハーヴィン候、なんて人達抱えてるんだよ……」


 音もしない、気をつけないと気配すら感じない。マナ感知も微弱。これほどまでに気配がないというのがどこまで恐ろしいものか、今はっきりと感じる。

 特殊部隊なんてものじゃない、もっと恐ろしい何かだ。


 闇に一直線に消えていくリーダーの後ろ姿も見えなくなり、辺りはまた静寂に包まれた。


「一応、熱は感知できますが……どういう素材ですかね、熱もかなり抑えられています。目の部分が見えてないともう殆ど分かりませんね」

「え、そのフリアー……?ってやつでも駄目なの?」

「駄目ではないのですが、輪郭が相当ぼやけて景色との境目が曖昧になっていますよ。温度差があまり無いとこれでも見つけにくくなります」


 時折聞こえるワイバーンの排気音は、そうと分かっていないと何か恐ろしいものの吐息のようにも感じられる。

 サイラスの居る運転席からは、しっかりとワイバーンの機影が明るく表示されており、それがこの森のなかにおいてとても心強かった。


『サイラス殿、聞こえるか?』

『ええ、どうしました?』

『奴等は黒だ。薬は隠せても奴等に付いた薬の匂いは誤魔化せん。この後は我々が引き継ぎ、このまま暫く泳がせてみる。協力感謝する』

『わかりました。私たちは街へ戻ります』


 これで、とりあえず自分達の仕事は終わった。

 帰ろう。

 後はきっと彼らが如何ようにでもしてくれるだろう。


『テンペスト、ここからは彼らが後を付けていくそうだ。帰ろう』

『ワイバーン、了解。先に帰投します』

「あ、ずるい……」

「ニールさん、そんなに早く帰りたいんですか?じゃぁ頑張りましょう」

「あっあっ駄目!今の無しで!」

「はい出発ー」

「うあぁぁぁ!?」


 □□□□□□


 サイモンの屋敷に帰ってからゆっくりと休ませてもらい、翌朝少し遅くに朝食をとる。


「昨日は助かった。感謝するよ」

「あの後、どうなりましたか?」

「ウォルター伯爵領へ入って、スラムの一角で薬が手渡されたそうだ。そのまま尾行を続けさせているよ」

「聞いたことがある名前です」

「覚えてたのか?」


 ウォルター伯爵領は以前、テンペストを捕らえようと賊を送り込んできた所だ。

 詳しいことは教えてもらっていなかったはずだが、どこかで会話だけは少し聞いていたらしく頭の片隅に残っていた。


「え、それじゃぁその伯爵とか凄く怪しいんじゃないんですか?」

「元々私に対して妙に対抗心と言うか、足を引っ張ろうとしてくるところでね。正直面倒くさい……若くして侯爵となり、ドラゴンスレイヤーという称号を得た私が「ずるい」んだそうだ。それなりに苦労してるんだがね」

「なんでそんなに敵視してるんでしょう?」

「いや、以前同じ学校に通っていたんだ。その時に目をつけられたみたいだな」


 サイモンがまだ子供の頃、領主候補として勉強をするために専門の学校へと通っていた。

 当然貴族しか入れない由緒ある所だが、基本的に学校内でも親の立場によって色々と上下関係が出来てくる。公爵家なんかが入ってきてその子供が居るとそれはもう面倒なほどだ。


 その中で男爵から伯爵へと上がったばかりのウォルター領の子が居た。

 地位が低いことから色々と苦労していたのを見て、サイモンは少しばかり助けを出してやったのだが、それが気に入らなかったらしく、以後色々なところで足を引っ張ろうとし始めたのだとか。


「ひねくれているにも程がありますよねそれ?」

「全くだ。当然二度と助ける気にはならなかったんだが、公爵家の長男と少し仲良くなった辺りから余計に嫌がらせが増えたな」


 成績も優秀、魔法の技能も優秀、そして地位もあり友人を次々と増やしていくサイモンとは真逆に、サイモンを陥れようとするがあまり聞くに堪えない罵詈雑言を裏で流しては煙たがられ、陰湿な事をし始めた彼は友人を失い、孤立していく。


「で、それは全部私のせいなんだそうだ。薬の件もあの領地に入っていった時点でもうお察しだね。また何か企んでるに違いない」

「危なくないのですか?」


 テンペストの質問に、ため息混じりで疲れた顔をする。


「色々やってくるんだが、基本的に詰めが甘いというか……ガバガバなんだ、実際」

「失礼します。……報告がありますが……」

「どうせあいつの事だろう?構わん、全員関係者だここで報告してくれ」

「分かりました。……例の薬に関しての報告ですが、領主のサイン入りの命令書を確保しました」

「……な?」

「もう、呆れて何も言えないです……」


 応接室に何とも言えない空気が漂う。

 普通、こういう悪巧みの命令書なんて残しておくものではないと思うのだが、ともかくその内容は把握できた。


 完全な自作自演だったようだ。奴隷に商人のふりをさせて近くまで薬を運び、別働隊と護衛のふりをさせた味方に盗ませ、そいつらが逃げ込んできた所を捕まえたふりをして、内々に処分したことにする。

 そして、箱と一緒に入っていた偽造書類にはサイモンとの繋がりを思わせる文面が……ということらしい。


「馬鹿なんだ」

「ああ、端的に言えばそうなる。一応、経営はできる程度には頭はあるんだが、こういった悪知恵と言うものは苦手らしい。分かりやすくて良いんだが、テンペストを狙ってきたり禁薬に手を出したりと少々見過ごせなくなってきた。悪いがここであの家には消えてもらおう」


 偽造書類がどの程度正確かは知らないが、こちらも用意をするだけだ。

微妙にリアルが忙しいというかなんというか……。

更に部屋の模様替えと掃除してます。

そんな時にプリンタが給紙まともに出来なくなるという状態に……購入しましたがそのお金をペンタブに回したかったよ……!

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夜間個人用でサーマル暗視スコープ もいいね
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