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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第五十六話 決着

「怖い怖い怖い……何なのこれ!」


 タレットへと中からよじ登ってきたニールを出迎えたのは石礫だった。

 岩陰に隠れているため数は多くないが、タレット部分は若干はみ出ているため暴風の影響を受けていた。壁に隠れるようにして機銃のサイトを覗く。

 目の前には巨大な風竜の尾が横たわっている。その鱗は逆立ち、わずかに青白く発光していた。


「……あれ、周りのマナを取り込んでるんだ……。ってことは早くしないとあのブレスは止まらない?」


 砂塵に隠れて見えにくいが、ちらちらとワイバーンがあの見たこともない強力なブレスを避け続けているのが見える。しかし学習されれば危険だ。

 早いところ決着を付けないと……親友が死ぬ。

 そしてワイバーンがこちらへ向かってきて、そのまま風竜から離れるように方向を変えた。


 当然風竜の頭もブレスを放ち続けている限りはその方向を向く。

 頭が、はっきりと視認できる所に来た。


「今!」


 首元に当たっているのが分かる。ズレている。

 向きを修正しようとした時、思わぬ方向から攻撃を受けた風竜がこちらを目視したのを感じた。

 ぞわっとするような悪寒を感じる。

 やらなければやられる。あの暴風に巻き込まれて死ぬ。


 でも。


 すぐに頭部の方へと狙い直してトリガーを絞る。

 恐ろしい速さで大量の弾がばら撒かれていき、風竜の頭が破壊されていく。いつの間にかブレスは止み、顔の半分を失った風竜はやがて力を失い、力尽きた。

 それと同時に先程までの暴風は嘘のように消え、ワイバーンがその無事な姿をあらわす。


「あ……良かった……無事だったんだ。コリー、テンペスト……」


 力が抜けてふらつきながらも車内に降りて後部座席に座る。

 と、冷たい感触がして慌てて立ち上がった。


「あぅ……」

「ニールおつかれ……ってどうしたんです?」

「ふぁっ!?い、いやなんでも!」


 しかし既に濡れて変色しているズボンを見られてしまった。慌てて隠したが無駄だった。

 サイラスはあぁそういう事か、という様に納得した顔をして優しい目をしている。

 やめて、そんな目で見ないで!


「大丈夫。誰にも言いませんよ」

「……お願いします……」


 まあ、めちゃくちゃ怖かったから仕方ない。そりゃあの顔がこっちを向こうとしている時に平然と居れるのはテンペストとかコリー位だろう。……いや、博士も結構大丈夫そう。あれ?ボクだけ?

 ヤバイこれは本気で情けない。

 あでもちゃんと倒せたし!

 とりあえず魔法でなかったコトにしておく。


「では回収しましょう。まるまる2匹分、大儲けですねぇ」

「それにしても何か……凄く硬かったというか……これじゃぁまだまだ上位種には通用しないかも」

「ええ、威力がまだ低いみたいです。やはりレールガンを使って一撃必殺を狙ったほうがいいのかもしれませんね。トレーラーで来ていれば恐らく一撃だったでしょう」

「あの、とりあえず武装もいいけどもうちょっと安全に操作できるようになりませんか、このタレット……。レールカノンといい、バルカン砲といい、全部ボクが外に出なきゃならないじゃないですか!」

「考えてはいるよ。でもちょっとまだ上手く操作させられなくて詰んでる。出来上がったら車内から操作可能にするから安心するといい。あれはまだ完成じゃないんだよ」


 流石にさっきのような思いはもうしたくない。

 何かあった時に真っ先に死ぬ席に居るとか本当にゴメンだ。早く開発して欲しい……。


 とりあえず、ワイバーンも着陸したようなのでボク達も風竜のそばまで居りていく。

 博士に連れられてテンペストも魔導車から出てきた。

 ……しまった。ここで気を利かせておけばよかった。次は絶対やらないと。


「風竜、ですか。飛行する物に対してはかなり厄介な存在です、流石に今回は私もきつかったです」

「テンペストがきつかったって……強すぎるよこの風竜」

「いやまぁ、一匹目の方は楽に落とせたんだ。俺が移動する目標に対しての練習不足があったものの、わりかし楽だった。だが二匹目は違ったな。こっちの方がオスかね?二回りくらい身体も大きいし、鱗もよく見るとかなりこっちのほうが分厚いしゴツい」

「確かに……。しかもこれ、逆立ってましたね」


 逆立ってから明らかにダメージの通りが変わった。

 オスの鱗が硬いだけじゃなく、魔力によって強化された結果だろう。こういった魔物は他にも居るが、飛竜などでこれをやられると大抵の武器が通らなくなるに違いない。

 それでも削りきることが出来る物が存在していたのが彼にとっての誤算だろう。


「鱗が逆立ってから、周りのマナが風竜へと向かうように流れていました。あのブレスが続いたのもそのせいですよきっと」

「やはりそうですか。となるとこの魔晶石には私のフォースドチャージと同じような力もあるかもしれませんね。そうでなくとも風竜、ワイバーンと相性が良さそうです」


 風を操作する魔晶石だろう、大きさもかなりのものではあるがエメラルドのような綺麗な緑色の結晶が出てきた。

 鱗は首から下はほぼそのまま残っているし、相当な値段が期待できる。


「あ。忘れるところでした。卵見てみましょう、最近産み付けたばかりなようなのでまだ大丈夫なはず……」

「構いません。ただ……」


 降りる場所がない。

 そして回収できるのはニールだけ。

 つまり……コクピットの中にコリーとニールが入ってテンペストの操縦で巣穴へと向かい、そこに鼻先を突っ込んでニールを降ろして回収してもらう。

 洞穴の大きさ自体は横幅は入らないが、縦なら機首を突っ込むくらいならなんとかなる。コリーは非常時に居てもらったほうが安全なので必要だ。

 ニールの体型が子供なので小さいためコクピット内部の後ろ側のスペースになんとか入れるからこそ出来る。


「あれ、案外広い?」

「お前が小さいからだ。まあ変な機動はしないからシートに掴まってろ」

『こういうときのためにタンデムにしておいたほうが良いでしょうかね』


 一応、コクピット内部は余裕があるのでやれないことはない。

 後部のカバーを外してそこにシートを増設するだけだ。パイロットは必要ないので乗っているだけになるが。

 その代わりにカバー下の収納スペースは消える。

 コリーの鎧や武装等が収められているので別な所に置かなければならなくなってしまうのが面倒な所だ。


『離陸します』

「うう……この浮き上がるときとかの感覚が慣れない……っていうか凄く視界広いね」

「真後ろ以外はほぼ全部見えるからな。座ってると真後ろの情報はあっても分からん。さてここだな。奥の方か……テンペスト、ライトを」

『了解』


 ランディングギアを格納したままでも前方へ光を投射出来るように機首下部に設置してある。

 サーチライトを兼ねているため可動式になっており明るさも相当なものだ。


「うわっ眩しいよこれ!?あ、卵あった。見た感じ3個だね」

「テンペストによるとまだ中身は産みたてで育ってないそうだ。全部回収していいぞ」

「うん。……これ、一回食べてみたかったんだけど……」

『『煌』のマスターに分けて調理してもらいましょう。彼なら肉と一緒に美味しく調理してくれるはずです』

「お、それ良いな。あのマスターなら竜の肉なんてのも経験あるだろ。ニール絶対割るなよ!」

「どうせ思いっきり落としてもそうそう割れないから、これ」


 内側からの衝撃には弱いが、外からの衝撃にはめっぽう強い。それが飛竜の卵だ。

 背の高さから落としたところで傷一つつかない位だ。これを綺麗に切るにはそれなりの技術が必要だったりする。

 そういう意味では煌のマスターは元凄腕ハンターだ。申し分ないだろう。


 回収を終えたニールが戻り、そのまま周囲を飛んで他の飛竜が居ないかを確認していくことにした。

 今回はニールも乗っているし、固定されていないのでゆっくりと空を飛んで周辺をサーチしていく。

 ワイバーンに居る間はテンペストもほぼ無制限で魔力を扱えるので、周辺マナとの干渉を広範囲で捉えることが出来た。

 それを索敵レーダーと併用することで、生物のみを的確に見分けることが出来るし、それを画面に表示することも可能だ。


「縄張りの範囲ギリギリのところにも他の飛竜は居ないようだな」

「じゃぁこれでおしまいかな?」

「とりあえず依頼完了で良いだろう。これだけ念入りに探して見つけれなかったんだ、出たらまた来ればいい。俺達ならどうせ被害は殆ど無いから丸儲けだろ?」

「そだね。じゃあ、帰ろうか」


 サイラスと合流してニールを降ろし、村へと戻った。

 またわらわらと村人たちが出てきたが流石に近づかなくなっているようだ。よっぽど怖かったんだろう。

 そのまま真っすぐに村長の家へと向かい、証拠の品を出して依頼完了の印をもらった。


「まさか、出ていってすぐに戻ってくるとは思いませんでした」

「丁度良く見つけられたんでね。ああそうだ、これは村に少し分けていく。王都でも金持ちしかなかなかありつけんぞ、竜の肉なんてな。たっぷりマナを吸っているから土魔術師に食わせてやればいい。ここらの土壌が更に改善するはずだ」

「ありがとうございます!きちんと魔術師を呼んで食べさせておきましょう」


 土を豊かにする為に、豊穣の魔法を扱える魔術師というのはこういった村には必ず居る。

 だからこそ連作障害なども特に出ずに毎年の収穫が出来るのだ。

 この肉を食べながら頑張ってもらえば、魔力を補給しながらある程度広い範囲を一度に豊かに出来るだろう。

 少しずつでも土地を広げていくということは、農村にとっては必要なことだ。


 村長が呼んで食わせると言ったのは食っておけと言われても、高級品であることから換金されないようにという意味もある。

 自分と一緒に食べさせることできちんと目の前で食ったのを確認できるというわけだ。


 これが地竜の肉であれば、土魔法に補正がかかっただろうが今回は魔力の強化だけ……とはいえそれでも相当にありがたいものではある。


「とりあえず番の2匹は倒したが、他の奴等は見当たらなかった。また何かあったらギルドに張り出しておけばいい」


 村長宅を後にし、宿へと向かう。

 今日はここで一泊だ。外はそろそろ空が赤くなってくるところで、一仕事をした後にゆっくりと休める方がいい。

 高級宿並というわけには行かないが、全員ハンターとして野宿も平気なメンバーだ。後は無理やり開こうとしたり下手に触ると死ぬほど辛い目に合うと脅しておけば、魔導車やワイバーンの周りに誰も近寄らなかった。


 □□□□□□


「あの、夕飯の支度が出来たのですが……」

「あ、ご飯出来たってよ!ボクもうお腹空いて仕方ないし早く行こう」

「ああ、焼きたてのパンの匂いがしますね。やはりこの匂いを嗅ぐと食欲が湧いてきます」

「よし、テンペストの事呼んでこい、ニール。先に行って待ってようぜ博士」


 と、戸口を見てみると宿の娘が少々困った顔をしているのに気がついた。

 匂いを嗅ぐ限りでは準備ができているのは確かだと思うが、何か足りなくなったのだろうか?


「……どうかしたのか?」

「え、あ、はい……あの、ちょっとお噂を聞いたことがあるのですが……その、皆様は貴族の方々だと聞いております……。うちの宿みたいな所に泊めた挙句、食事も農村のものなのですが……失礼に当たらないのだろうかと」

「あー……ああ、ま、気にするな。俺達は特にだが変わり者だ。爵位を持って領地経営しているのは隣の部屋のテンペストだし、俺も同じ男爵の地位を持っているがハンターとしてここに居る。そんないちいち小物くせぇ事言いたくないね。……いやまぁ立場ってのがあるのは分かっているんだが、ここはすまんが知らなかったことにしてくれ」


 元から堅苦しい貴族というしがらみに縛られた生活が嫌だったのに、何の因果か戻ってきてしまった。

 下級貴族ではあるが、かなり自由な行動をさせてもらっているのだが、本来はきちんとした手順を踏んだりなどが必要となる。

 が、そもそもこういう農村部でそんなもてなしなんかが出来るわけもなく、そこまで求めるのは酷というものだ。

 それにハイランドは案外貴族と平民の距離が近い。

 貴族がふんぞり返って圧政を行ったりすれば、その話はあっという間に王都まで届く。

 そうなればそれなりの罰が下り、最悪領地もろとも全て取り上げられる事となる。


 高地という限られた土地で、あまり多くない国民を疲弊させるわけには行かない事からそういう流れになっているという。

 そういう事から奴隷という制度も基本的に行っておらず、犯罪人が落ちる先でも死罪の次位に重い罰となる。ドワーフの沢山いる坑道で使い潰される勢いでしごかれ、働かされるのだ。下手に逆らおうものなら背が低くとも膂力は圧倒的なドワーフにボコボコにされて終わる。


 性根が完全に腐ってなければ、高確率で真人間となって戻ってくるという話だ。


 そういう事もあってハンターとして来ている場合は身分を問わない。

 ……と言っても最低限のマナーを守る事は当然だが。


 下に降りてみると全員分の食事が並べられている。

 豪華、というわけではないがそれなりに量もあるようだ。流石に農村ということで野菜が豊富なメニューとなっていた。

 牧畜もやっているので肉もある。


「これは……とても美味しそうですね」

「あ、テンペスト来たか。さ、食おうぜ」

「はい。……いい匂いです。パンの香ばしい匂いだけでもお腹が空きます」

「テンペスト食べるの好きだもんね」

「美味しいものを食べる喜びというのを知ってしまったので。開発や魔法の開拓はサイラス博士がやってくれるようになったので私は自分の好きなことをやれるようになりそうです」


 魔法に関してはテンペストよりも知識のあるサイラスが組み上げて、それをテンペストに教えていく為自分で考える必要がなくなった。

 その代わりその魔法の原理や再現される現象などをまとめて本に仕上げるつもりだ。

 いずれ、時が来たら開放されることになるだろう。

 しかし今はまだ大半が下手に出したら色々と一気に偏りそうな物ばかりなので置いておく。


「とりあえず空間魔法がまともに使えるようになりたいものです。ニールの物が高位になれば召喚を覚えられるということですが」

「あれだと人も移動できるからね。ただ、専用の部屋を用意してそこと繋げる感じだから、移動に使うなら転移魔法のほうが良いかな。……まあ、召喚よりも難しいんだけど。便利らしいよ?」

「つったって……転移できるやつなんて大抵は王城で召し抱えられてる宮廷魔術師レベルだろ。どの道行ったことのない場所には飛べないって事だから微妙に使い勝手悪いらしいけどな。何よりも魔力をバカ食いするから一度転移すると魔力の補給に苦労するらしいしな。……この辺はテンペストとサイラスならクリアできそうだな……」


 召喚は呼び出すための空間を確保して、そのエリアを呼び出す。

 転移は任意の場所から一度行った場所……と言っても確実に覚えている場所であれば飛べる。

 違いとしてはどこでも出来るかどうか、そして前もって魔法陣などを設定して置かなければならないかどうかといった所だ。


 また、大きく違うのは召喚は自分のいるところへと呼び出すのに対して、転移は自分達が別な場所へと移動するために使える。


「せめて高機動魔導車程度が呼び出せれば相当戦略に幅が出るのですが」

「最終的にはワイバーンを……ですね。他の場所に行った時にでも好きに呼び出して使えるようになれば相当なアドバンテージになります。テンペストは魔力量が少ないのが難点ですか」

「……早く成長したいところです。年齢が上がると魔力量も上がるそうですので。保有魔力を上げるには成長途中の今しかないとも聞きます」

「一応、あの実も食べてるんだけどね。そろそろ在庫切れるよ?」

「問題ありません。明日はハーヴィン領へと向かうのでそこで仕入れます。ロジャーも幾つか確保しているはずですし。あれも美味しく食べられるようになってからは評価が反転しましたね」


 マナの実を食べているので少しずつではあるが保有魔力量は増えている。ぐんと一気に上るわけではないのでジリジリとではあるが、最初期の頃からすればかなりのものだ。

 ストーンバレットであれば30秒ほど撃ち続けられる。これは戦闘機に搭載されている物よりも長く撃てる事から考えれば相当な脅威となるだろう。今のところ使う機会はなかなかないが。


 とれたての瑞々しいサラダに手を付ける。葉物野菜はシャキシャキと歯ごたえがよく、青臭さが殆ど無い。ドレッシングも人参をすりつぶして味を整えたものらしく、ほんのり甘くて美味しい。


「スープ、これなに使ってるんだろ?凄く美味しい」

「んー恐らく鶏ガラ使ってるかな?後は香辛料で味を調える感じか、中華みたいな感じでこれはこれで美味しいですね」

「ちゅうか……?まあいいや、美味しくてこれお肉によく合う感じ。うん、気に入った」


 一緒に出てきた果実のジュースは口の中がさっぱりとするグレープフルーツのような味の物だった。

 全体的に脂っぽい感じの物が多かったものの、サラダとその飲み物のお陰で食後はさっぱりとしている。


「ふう、量が多かったのもあって満足だなこれは。おい、なかなか美味いじゃないか。全然謙遜する必要ないぞ?やっぱり野菜は採れたてが一番だな」

「お褒めに預かり光栄です!」

「あぁそうだ。湯は持ってきてもらわなければならないか?」

「あ、はい。有料になりますが……。ランプも必要ですか?」

「両方頼む。料金はこれだ」


 銀貨だ。銅貨程度のものには多すぎるが、この村にお金を落としていく意味もある。

 サービスもなかなか良いしコリーは結構気に入っていた。田舎でこういう寛げる場所というのは少ないし、手入れも行き届いている。


 多すぎる!と慌ててお釣りを持ってこようとした彼女に押し付けて部屋へと戻った。

 空いているので1人1部屋が割り当てられているが、大体男たちはコリーの部屋に集まって居たりする。


 隣の賑やかな声を聞きながらテンペストは今回の風竜に関しての情報をまとめていった。

 飛竜が本気で怒ると体中の鱗が逆立つ。

 全身が一回り大きくなったように見え、更に周囲のマナを取り込みより強力なブレスを使う。


「これが風竜のみの特徴なのか、そうでないのかで攻略方法が少し変わりそうですね……」


 全ての飛竜……もしくは竜種にこの様な能力があるとすれば、今の武装だけでは何れ手が出なくなる相手が出てきそうだ。

 特に地竜だが。以前戦ったのは脆くなったアンデッドの地竜だからまだ力が弱かった自分でも倒すことが出来た。でも、それが完全体の地竜だったら。しかもこのように能力を向上させて身体の強度を著しく上げることが出来るとしたら。


 しかし、その一方で風竜の魔晶石には望みがある。

 魔力の吸収だ。火竜では得られていないはずだが、それを使っている風竜ならもしかしたらその能力が得られるものかもしれない。

 魔晶石を削って装置を作り出せば、もしかしたら周囲のマナを強制的に取り込む装置が出来るのではないか?今までのように電気を変換するというロスの多いことをしなくても良くなるのではないだろうか。


 つまり、ほぼ無制限に魔力を扱える。サイラスのように短時間で魔力を回復させられる。そういう可能性が出てきた。

 大きいものを付けられるワイバーンなら、恐らく何もしなくてもずっと飛んでいられるようになるだろう。

 風の属性を持つ魔晶石は、ワイバーンを強化するのにはうってつけのはずだ。


 そんな色々なことを考えつつ、書き込んでいたらノックが聞こえた。


「テンペスト様。お湯とランタンをお持ちしました」

「今開けます」


 宿の娘だ。

 一応、洗浄とライトは魔法でも出来るのだが、こうした所にはお金を落としていく意味も込めて無駄でも購入した方がいいとコリーは言っていた。

 多めのお金を支払ったのも、その後のサービスに影響する時があるから気をつけると良いとも。


 値段通りの金額で物を頼むよりも、少し多めに持たせてやるとよく働いてくれるのだそうだ。

 確かに、部屋の方も細かいところまでしっかりと掃除されていたり、ベッドもシワひとつ無く綺麗な状態となっている。

 まだまだ勉強不足な所があるようだ。


 服を脱いで裸になり、持ってきてもらったタオルと湯で体を洗っていく。

 持ってきてもらった以上、使わないと勿体無いと思った。

 そしてふと自分の体を見下ろす。


 あの時からずっと、この身体で過ごしてきた。一年が過ぎてそろそろまた半年が経とうとしている。

 この身体になってから特に代わり映えのしない感じだが、機械の体だったときに比べて自由度が高く様々な感情というものを覚え、自由に動かせるこの身体が好きになった。

 何よりもこうして体を洗っている時や眠る時、そして美味しいものを食べるときなどはとても幸せな気分になれる。


 幸せ、と言うものがなんなのかわからないままだが、何故かそう感じる。

 暫く皆と旅をしていてもそれは感じられた。

 トレーラーでくつろぎながら馬鹿みたいな話をしたり、みんなと一緒に眠ったり。


 ニールが自分に対して好意を持っていると聞いたときも、どこか身体の奥底で少し喜んでいたような気がした。それが何かはまだ分からないけど、まだまだ知らないことがあるということは勉強できるということだろう。

 それに、その喜びとは少し違うけど、明日はサイモンに会えると思った時にもやっぱり嬉しさが出た。

 今までは自分には存在しなかった父という存在。

 本当のそれではないものの、僅かな期間ながらも色々なことを教えてくれたり、協力をしてくれたことには変わらない。


「サイモンは元気でしょうか。魔導車を見せてあげたら喜んでくれそうですね」


 精々驚かせてあげよう。

 それに異変に関しての情報も欲しい。旅の合間にはサイラスがちょくちょく情報を集めていたようだが特に変わったところは無かったそうだ。

 アディからも特に何も言われていないし、きっとまだ何も起きていないのだろう。


 ギュッと体を拭き終えたタオルを絞って寝間着に着替える。

 少々硬めのベッドだが悪くない。そのまま目を閉じて眠りに落ちた。

ニールが頑張りました。

生身むき出しのままで暴風に身を晒し、風竜の顔が自分を向きかけたその瞬間彼の恐怖が限界を超えましたが、意識を保って頑張りました。

ジョバったのはその時だったり。


そしてテンペストがニールからの想いに対して少しうれしく思っているのが判明しました。

ワンチャンあるぞニール。

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