第五十五話 風竜
「あっという間に着いちゃった……馬車だとかなりの時間掛かるのに」
「それでも5時間ほどかかりましたか。途中の馬車が流石に邪魔でしたね……」
「あれ嫌がらせですよね。避けるつもりもなかったみたいだし」
「避ける場所も無かったというのもあるでしょう。……それに牽いているのロバでした。遅くて当然です」
「うわぁ……」
「とりあえず村長の家は……あれかな?」
リンガラムという村に到着した。村と言ってもかなりの大きさの規模で農業を行っている所だ。
近くに大きな湖があり、そこから水を引くことで毎年かなりの収穫を得ている。
他にも畜産にも力を入れており、この村はハイランドの第三の食料庫とも呼ばれているらしい。
実際、食物の2~3割程度はここから出ている為、何かしらの被害を受けて収穫が減ると途端に値段が高騰してしまう。
依頼内容では家畜が襲われる事と、近くの湖で水を飲みに来る様になったので討伐して欲しいという事だったが、確かにそれほどの場所であれば飛竜を討伐しておいたほうが良いだろう。
今までは難しかったが、今回はテンペストとサイラスという2人の戦力がある。
「ギルドで依頼を引き受けて来ました。村長は……」
「ハンターの人ですか!お待ちしておりました、村長は奥です。こちらの部屋でお待ち下さい、今すぐに呼んでまいります!……村長!!村長ー!」
「慌ただしい人ですね」
「まあ、飛竜の討伐って普通はある程度の人材揃えてやることだから……。意外と早く来たんでびっくりしているんだと思いますよ」
「……たった4人しか来ていないのが分かったらどんな顔するんですかね。ちょっと心配になってきましたよ私」
村長を呼びに行ったのはまだ若い娘だった。
ちょっと可愛い感じの子で、元気そうなのは良いが受け答えを見ているとちょっとそそっかしそうだ。
少しして奥から出てきたのは体格のいい白髪のおじさんだ。
意外と若い。
「あなた方がハンターの代表の方ですか、ようこそおいで下さいました。飛竜の報酬としては下限ギリギリと言うところだったので来てもらえるかと心配しておりました。ああ、村長のリックと言います」
「サイラスです。こっちはニール。えーっと……意外とお若いですね」
「先代……親父ですが、少し前に急に逝っちまいまして。なんだかんだで私が村長ということになっています。今回資金があまり出せなかったのも、そのあたりのばたばたがあって、今年の収穫が落ちていることもあって……申し訳ない。ところで、今回の人数は何人でしょう?宿は用意出来ると思いますが」
葬式やって次の村長を誰にするかで揉めたらしい。
結局権力者達に振り回された村民たちの方は、こんな奴等に任せたくないと言い出して仕事を放棄……ストライキを起こした。
結局、仕事を放棄されると収入が減るため、慌てて権力者達は無難で人気のある前村長の息子を村長としたということだそうだ。
「なるほど……まあ、私達は特に報酬の金額で来たわけではないので。人数は4人。男3人に女1人です。それで……今丁度待たせているのですが、大きなものを置いておけるスペースはありますか?」
「4人……?そんな人数ではとてもじゃないが討伐は無理だ!」
「一応理由がありますので。とりあえず外に出てもらえますか?理解してもらえると思うので」
案の定頭を抱えて落ち込み始めた村長だった。
怒らないだけマシかもしれない。
とりあえず外に出てもらうと、目の前には高機動魔導車が停めてある。外には出ていなかった2人がまずそれを目にして固まった。
大きくてゴツい高機動魔導車だ、それを見ただけでも大分びっくりしてくれている。そして……村長宅の周りにはいつの間にか人だかりができていた。
魔導車が珍しい……というか見たことがないそうだ。
「なんだか注目されてますね。とりあえずこれが一つの理由、もう一つは空に居ます。結構大きいので一旦村の外に下ろしますよ?……テンペスト、村の外……門の前に着陸してくれるか?」
「誰に……」
『了解、……少し派手にした方が良いですか?』
「任せますよ、こちらの戦力を宣伝していくいい機会ですから」
ワイバーンの情報は機密から外れ、これからはハイランドの保有する戦力として周知していく。
もう領地の方で散々実験を重ねているため人の目には晒されまくっているし、戦果も既にあげているので今更といえば今更だが、こうした村や集落などになるとほとんど情報は回っていないのだ。
一応、軍所属ではなく領主、そしてハンター個人での保有戦力ということになるが、有事の際には当然ながら戦闘に参加することになる。
そして、この力があるということを知らしめることで飛竜は恐れるだけの存在ではなくなったことを教えられるのだ。
音速を超えた音が響き、住民たちが辺りをキョロキョロと見渡している。
雷か?などと言う声も聞こえるが数人が流石に空にある物体に気づいたようだ。
そしてそのまま飛竜が来たと騒ぎ出している。
少し遠ざかってからまたこちらへと向ってきて、門のところに急降下をして地面と激突するかと思ったところで機体の角度を一気に変えてVTOL用のエンジンを全開にして空中で静止し、ゆっくりと地面に降り立った。
流石にサイラスも墜落するかと気が気ではなかったが。
もう村人たちはパニック状態だ。その中で村長だけがそれをじっと見ている。
「と、言うわけで……あれが私達の切り札です。既に火竜を倒した実績もありますよ」
「あ、ああ……あれは……翼竜ではないのだな?あんなもの……見たことがない」
「でも、ハーヴィン領で火竜が倒された話は聞いたことないですか?近いですから噂くらいは届いているでしょう」
「まさかその時の!?なるほど!それならば心強い。頼みます、この村を救って下さい!」
「お任せを。とりあえず中で報酬などに関しての話をしましょう。向こうも後でこちらへ来ます」
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「おい、テンペスト派手にってどういう……」
『言葉通りです。操縦を代わります、コリーは座席で失神しないようにしていて下さい。アイハブコントロール』
「ちょっ……うおおぉぉ!?」
自分で加速するのではなくテンペストまかせになっているため、いつ負荷がかかるか分かりにくい。
それでもテンペストが音声でターンのタイミングなどを秒読みしてくれるだけマシだろうが。
『着陸します』
「着陸って……大分高度が……ってうおぉい!?」
突然前方が地面へと代わり、それが凄まじい勢いで接近してくる。
死ぬ、と実感せざるを得ない恐怖の光景だが、それでも必死で耐えている。
『降下中、機首上げまで2秒、1、今』
「フン!ぬ……ぐ……っ……。お、終わりか?」
機首を一瞬で上げて現在の最大値までそのパワーを解放した魔導エンジンの力任せな制動だ。恐らくコリーでなければ耐えられないだろう。
しかし、如何に獣人という恵まれた身体を持っているコリーであっても、さっきの急降下からの急制動はかなりの負担だ。
そうでなくとも突然の加速やロールなどでクタクタになっている所にとどめを刺された感じだ。
『着陸しました』
「……死ぬかと思った……」
『では、降りましょう。私の身体の方もお願いしますね』
「あぁ、先に戻っていてくれ」
コクピットが降りてコリーが出てくるが、少しよろけた。相当きつかったらしい。
コリーが降りるとコクピットはまた元の位置へと戻っていく。
それを門で見ている村民たちだが、コリーが近づいてくるとザザーっと人が割れて道が出来た。
相当恐ろしかったようだ。
魔導車の中に入り落ちないように固定されていたテンペストを抱き起こす。
「ありがとうございますコリー。流石にここまで固定されていると動けません」
「身体は問題ないか?」
「特には。少しだるさを感じる程度です、出ましょう」
□□□□□□
村長の家に入り、これからのことを話し合う。
報酬に関しては言われていた通りで十分だ。
「では、書類上では特に記載のなかった飛竜の素材等に関して一応お聞きいたします」
「村としては飛竜を追い払ってくれればそれで良い、という程度です。竜素材を持っていてもここには加工出来る者は居ないので……それに見ての通り、ハンターが来るような場所ではありませんから」
「素材は特にいらないということであれば、全てこちらで貰っても構わないと言うことでいいですか?」
「構いません。肉なら消費できますが、素材は売るにしても街まで行かなければならないとなれば、その道中が心配なのです」
まあ、そうか。
竜素材という高級品を持っている村民は襲ってくれと言っているようなものだ。
持っているだけで危険な物を抱え込みたくない、ということだろう。
村には自警団的なものはあっても、まともな装備を持っている人が少ないため襲われればひとたまりもない。
「わかりました。では竜素材はこちらで貰い受けることにします。では次に出現場所を」
「まず湖。そしてその近くにある崖です。切り立った崖の壁面に数匹巣食ったようで……」
「巣があるのか。俺達じゃなかったら相当苦戦するだろうな。崖の壁面であればロープ垂らして降りるしか無いがそれをやると食われる」
「ワイバーンで近づいて斉射で良いでしょう。何匹確認していますか?」
「最低2匹。ただ、見た目がほとんど同じで良く分からないのですよ、ハンターと違って見分け方がいまいち分かりません」
オスとメスの違いなら体色が違っていたり、飾りがあったりで分かり易いが、オス同士などの別個体を見分けるにはそれなりに特徴的な違いがない限りは難しい。
これはハンターでもなければなかなか身につかないので仕方ない。それよりも巣食っているということは気性も荒くなっているはずだ。
しかし、それよりも……。
「飛竜の卵手に入るかもな。大体一度に3個位産むはずだ。一個は魔物の研究してるところに、後は食品系のギルドか商人に売りつけると良いだろうな。出来れば手に入れたい」
「魔物の研究は初めて聞きましたが」
「王都でやっているぞ。たまにやたらと詳しく載っている情報があると思うが、それはそいつらの研究結果だったりする。飛竜に関してはなんとか飼い慣れせないかと躍起になっているようだから欲しがると思うぞ」
「まだやってるの……3年前に誰か食われてなかった?」
飼育係の人間が食われたらしい。結局その幼体は殺処分となったそうだ。
とりあえず高額で売れるというのであれば、売り払って資金にしておきたい。
こちらに竜をまるまるくれるというのであれば、別に報酬が少なくても十分すぎるリターンが来る。
今回の仕事はかなり美味しいものになりそうだ。
なにせ報酬を分け合う人数がたったの4人だ。
「とりあえず……行くか?」
「そうしましょう」
まずは湖だ。
サイラスとニールは下からこっそりと接近していく。流石にテンペスト達のワイバーンは音がするので気づかれそうだ。
逆に高高度を飛んで索敵することにした。
『……村人たちが近すぎます』
「だなぁ。少し吹かすか?上昇用のエンジンだけでも相当な熱風来るから流石に散ると思うが」
珍しいもの見たさで近づいている村人たちが邪魔で離陸できない。
離陸用エンジンを起動して風圧で退かすことにした。
吹かすと同時に土煙が舞い、同時に熱風が叩きつけられた村人たちは流石に距離を取り始めた。
それを見計らって一気に垂直上昇していく。
空に上ると険しい山々に囲まれているのがよく分かる。
湖を発見し、その近くに深い谷を見つけた。これが巣があるというところだろう。
ゆっくりと低速移動しながら谷間を赤外線映像で見ていく。
「見当たらないな。向こう岸の方じゃないならこっち側の崖だな」
『回り込みましょう』
「お、デカイのが居るな……火竜……いや、風竜か?」
風竜はその名前の通り、攻撃時には風を身に纏う飛竜だ。以前遭遇した嵐竜の格下と思っていい存在で、空を飛ぶ速度は意外と早い。
一番早いのが雷竜で、飛竜の多いこのハイランドでもかなり珍しい飛竜となる。ただし、基本的にはこの雷竜、そして上位種の轟竜に関しては手出しはしないようにと言われているほどの危険な飛竜だ。
なにせ周囲に雨のように雷が落ちるし、上位種となるとその雷が紫電ではなくまばゆいほどの白になる。轟音とともに周りに無数の白い稲妻の柱が一瞬で形成されるので、攻撃を受ければそのまま蒸発する事になるという。
そういう意味では火竜や風竜はおとなしいものだろう。
『風竜は一匹だけ……ということは片割れはどこでしょう?』
「博士の方かね?『博士、こっちに一匹発見した。確かに崖下に洞窟のようなところがあってそこに巣食っているようだ。だがもう一匹が見当たらん』」
『今湖に到着しましたが、飛竜は確認できませんね。腹いせに血の匂いばら撒いておきます』
水を飲みに来ていた魔物を殺してそこに血溜まりを作るつもりだろう。
匂いを嗅ぎつけた飛竜が来れば儲けものということか。
『しかしあそこに居られると卵を確保できません』
「ちょっかいかけて引きずり出すか。変なところで落とすとニールが回収出来ん」
『魔導車が来れる平地をマーク。表示されたエリアまで連れてきて撃墜して下さい』
「おお、助かる。分かりやすくていいな!」
『また谷は目の前の山肌から地中へと入るように繋がっています。気流が安定していない可能性もあるので注意して下さい』
スロットルを開けて加速していく。
3基の魔導エンジンが甲高い音を立てて機体を一気に音速まで押し上げる。
そのまま谷間に入り影響がない程度に挑発した。
「お、食いついたな。テンペスト、後ろの警戒を頼む」
『了解しました。現在距離600。加速中』
「そういやこれ後ろ向きに攻撃出来ねぇのか?」
『機速が機速だけに機銃は無理です。やるならば後ろの敵をロックしてミサイルを放つ位でしょう。やろうと思えばミサイルを追い越させてから加速させて撃破する方法もゴーレムミサイルなら可能です』
「素朴な疑問なんだが、そのゴーレムミサイルに敵の情報をセットするのって……」
『私です。ある程度の命令なら理解して動けるので、戦術に幅が出ました』
かつて地球でもジェット戦闘機で後方への攻撃も考えなかったわけではないが、結局カネがかかるか射程が短くなりすぎるということで実現していない。
しかし、ゴーレムミサイルはミサイルそれ自体が思考する。ある程度は意思を持った兵器なわけで、切り離されてから少しの間速度を落として飛翔しながら、敵が近づいた瞬間に加速して攻撃するという空中地雷のような使い方ができる。
「目的地上空だ。さぁやるぞ!」
『ブレス、来ます。回避して下さい』
「やべっ」
意外とブレスの範囲が広い。
風竜というから風のブレスかと思ったら、魔力を乗せた見えない刃物のようなものと言っても差し支えないブレスだった。
広範囲に広がるそれはまるで散弾だ。なんとか回避出来てはいたものの気づかなかったらダメージを貰っていただろう。
「ミサイルは……威力が高すぎるな、機銃で落とそう」
『目標をロック。ターゲットインサイト』
レティクルがガンモードに変化し、射程圏内に入った。
トリガーを引けば機内に重低音を響かせてガトリング砲が火を噴く。
移動しながらの射撃だったため、致命打にはならなかったものの被膜がやられていた。流石に飛竜だけあって空中での機動力ではこちらよりも自由度が高い。
ブレスの貯めが見えたので即座に離脱し、また攻撃体制へと移行する。
「くっそうろちょろと……」
『ストーンバレット、3バーストショット』
「え、これ同時に撃てるのかよ!?」
『砲を使用せずに通常のやり方で放てば問題ないです。レーザーは使えませんが魔力を使用するストーンバレットなら撃てます』
コリーの砲撃と、テンペストのストーンバレットの攻撃により、如何に攻撃をそらす事の出来る風の守りでもそれを補正した弾は避けるしか無く、防戦一方になった後はそのまま頭部を貫かれて絶命した。
一旦そのまま放置してサイラス達と合流する。
『博士、そっちはどうだ?こっちは一匹落とした』
『いやぁ……来ないですね。あ、でもワイバーンは4匹と魔狼6匹片付けましたよ』
どちらも村にとっては危険な魔物だ。妥当な判断だろう。飛竜はともかくワイバーンと魔狼の肉はおすそ分けしていこうと思う。
食料が増えること自体はありがたいだろう。
『では飛竜の回収をお願いします。ついてきて下さい』
『了解……って早い早い!ちょっと待ってください!?』
サイラスの応答の後ろの方でニールの悲鳴が聞こえた気がするが、とりあえず今は置いておく。
今回ニールはタレット操作で練習がてらに全ての獲物を倒していた。
大分扱いに慣れたらしい。
それにしてももう一匹の飛竜はどこへ行ったのか……などと行っていると目的地に着いた。
「……居たわ」
ニール達も気づいたようで岩陰に隠れるようにして機会を伺っていた。
風竜の方はといえば、先に死んだ片割れのそばでこちらを凝視している。
「ああ、これめっちゃくちゃ怒ってるな。鱗が逆だってるの見えるか?」
『確認しました。これが怒り状態ですか?』
「竜は大体こうなる。本気で切れたときにしかならないが、こうなると攻撃は苛烈を極めるって言うぞ。って……うおぉ!?」
『ブレスです。損傷は軽微、ブレスまでの貯めが短くなっています』
「やべぇ、連続でやってくるぞ!回避する」
全力で上昇したと同時に風竜の怒りのブレスが放たれる。
避けれたが地上の被害がものすごいことになっていた。
土はめくれ上がり、扇状に広範囲で深く抉れている。幸いサイラスたちの場所は外れていたものの、直撃した場合にはそれなりのダメージがあるだろう。
今はまだ魔導車を動かす訳にはいかない。
「今度はこっちの番だ……!」
『ターゲットインサイト』
「喰らえ!」
バルカンから放たれた砲弾が着弾して風竜の首筋で小さな爆発を起こしながら、風竜の硬い皮膚をえぐっていく。しかしそれを意に介していない様で常にこちらに目を向けている。
怯むことすら無いようだ。
そしてついに風の結界が展開される。
『さっきの攻撃でやっておきたかったですね』
「動く的での練習不足だな……当てられん。狙いが小さい頭だと特にな」
『胴体を破壊すると鱗の量が減ります。なるべく頭部を』
「そのせいで当てられねぇんだがな……」
軽く撃ち込んでみるが結界によって僅かに弾道がそれていく。
逆に風竜からのブレスは結界を無視してこちらへと飛んで来るのだ。かなり厄介な状況となった。……が。
『誤差修正。着弾予想位置を表示します』
「なんだこれ。めちゃくちゃ便利じゃねぇか!先にやってくれよ!」
『あまり動かず、風の流れが一定だから予測できますが、こちらが機動していたりするとブレます』
もう一度撃ち込めば狙い通りの場所へと着弾した。
肉をそがれていき、頭部周辺の皮膚はボロボロになり一部では骨が見え始めている。しかし、その眼はますます鋭くなっていき、またブレスの動作へと入っていった。
『ブレス……貯めが今までよりも長いです、警戒を』
「なんか知らんが速度上げるぞ」
直後に放たれたブレスは太さが一定の強力な竜巻が一直線に伸びたようなものだった。
普通に考えればありえないその凝縮された暴風は、逃げるワイバーンの機体を追いかけている。
「何だあれ!?こんな攻撃聞いたことねぇぞ!」
『奥の手かもしれません。しかしこのままではこちらも攻撃が出来ませんね』
「いや何、別に攻撃手段はこれだけじゃねぇからな。……上手く合わせてもらおう『博士、そこから狙ってくれ。暴風に阻まれるが誤差はさほど大きいわけじゃねぇ。こっちは逃げるので手一杯だ、頼むぞ』」
『了解。機銃なら積んでる武装は同じです。むしろこっちは弾が重いから風の影響も最小限でしょう。今こっちに背を向けているのでなんとか頭をこっちに向かせて下さい』
そう、今は単独行動ではない。
テンペストも暴風の中での機体制御で攻撃に回す余裕があまり無いようだが、今回は同じ武装を持つ仲間が下にいる。
『ニール、出番だぞ。やっちまえ』
『や、やってやる……ってうあぁぁぁ!?痛い痛い痛い!!』
「……何やってんだあいつは」
暴風のため巻き上げられた土や石が吹き荒れているのだ。簡単な盾しか付いていないタレットは下手に頭を出すとそれらが容赦なく当たる。相当痛いだろう。下手をすれば致命傷を受ける可能性もある。
しかし今はこちらも援護の余裕がない。
苦し紛れにテンペストがストーンバレットを放ってみるが、やはり安定せず数発が当たったものの実弾と違って効果は薄かった。
吸収されている感じだ。しかも攻撃していて分かったが、どう考えても硬すぎる。怒り状態の時には身体の防御力も大幅に上がるということだろうか?
「……何にせよ、ニールに頑張ってもらうか」
劣化版嵐竜との対決が始まりました。