第五十四話 久しぶりの空
「おかえりなさいませ」
「後ほど報告を聞きます。それと彼女はクラーラ、新しく研究所へと配属になりますので手続きを」
「畏まりました」
ようやく到着したカストラ領。
先の嵐竜の影響も少なく壁が削れたくらいだったそうだ。滑走路も特に問題はなかったということでいつでも飛べる。
「おかえり皆。随分早かったね?」
「只今ロジャー。コーブルクからスカウトしてきたので先にこちらに連れてきました。手続きは屋敷の者にやらせているので彼女の部屋などを案内してやって下さい」
「なるほど。はじめましてクラーラ。僕はロジャーだ。彼らが居ない間は僕がここの責任者として働いているよ」
「は、はじめまして!クラーラです。魔道具とか作ったりとかしてます!」
研究所へ行くとロジャー達が出迎えてくれる。
この雰囲気も久しぶりだ。色々と武装が転がっているが恐らくサイラスのサーヴァント用の何かだろう。サーヴァント用の装甲もかなり作っていたようだ。色々と用途に分けてコンテナに入れられていた。
「あ、テンペスト、ワイバーンの方の強化も出来ているよ。そろそろ飛竜の魔晶石大きいのがほしいね。流石に嵐竜はきついけど、そろそろ武装などは揃ってきているから飛竜相手にしても問題ないよ。丁度ハーヴィン領から近いところで飛竜の討伐依頼が出てるよ。行くならハンターギルドに言って来ると良い」
「なるほど、そうしましょう。ですが撃墜した後に回収が出来ません」
「って言うと思って魔導車用意してるよ。こっちは高速機動タイプで小さいけどガトリング砲乗っけてるから結構使えると思うよ」
そう言って見せてもらった魔導車は6輪のSUVっぽい見た目のジープ型装甲車だった。
当然設計はサイラスだ。搭乗員数は3人+6人となっている。
上部に25mmガトリング砲が取り付けられたタレットが付いているため、ちょっとした敵ならこれでほとんど粉砕できるだろう。
トレーラーに比べれば大型の馬車に近い為、移動は楽にできるだろう。これも試作品だ。
データを取って上手く行けばそのまま量産化出来るはずだという。
データを取るということでトレーラーと評価表を渡したが、トレーラーを見てロジャーの表情が凍った。まあ、ムリもないと思う。
「なんか凄いことになってるね?」
「昨日の嵐竜の被害です。見た目は酷いですが特にダメージ自体はありません。そしてこれが改善点と評価です。それと……コーブルクで面白いものを手に入れました。このレポノスと呼ばれている箱ですが、馬車30台分ほどの無生物が入れられるということです」
「なにそれ。コーブルクではこんなの売ってるの?やっぱり交流少ないとこういうところで置いて行かれるなぁ……テンペストとサイラスを確保できたのは物凄く大きいけど。それにしても馬車30台はすごいね?」
「サイラスも少し解析してます、これが解析した分の物ですがまだ根幹部分が理解できないと言っていました」
なぜ良くわからない空間の中にそれだけのものを詰め込めるのか、そして中に入っているものを確認することも任意で取り出すことも可能となっている事から色々考えたものの、結局帰ってくるまでには思いつかなかったらしい。
恐らく物理は完全に捨てていると思われる。
魔法技術分野ではロジャー達の方が慣れているのでそこは任せるつもりだそうだ。
「うわぁ……サーヴァントも結構見た目酷いね……」
「ええ、見た目だけでなく関節部にも色々と支障が出ていますよ。全く、あの嵐は酷すぎる。この装備では無理があるみたいですね。それで、他の装甲とかも出来てるのかな?」
「頼まれていた分は半分くらい出来てるよ。出来上がってるやつから試して欲しい。……その前にサーヴァントもトレーラーも整備し直しだね。とりあえず博士にはこっちのおもちゃで遊んでもらうよ」
「おお!もう出来ていたんですね。これはいい」
「それ使ってテンペストと飛竜を狩りに行ってもらいたい。場所はハーヴィン領近くの村だ。テンペストにも話はしたから連れていける人を見繕ってね。ただしそれには寝泊まりするには窮屈すぎるから宿を取ったほうがいいよ」
高機動魔導車は少しばかり居住性が悪い。とは言っても元の世界の物に比べたら市販車並の装備が整っているため、他の国でも普及している魔導車等に比べれば遥かにいい。
その為当然のごとく値段も跳ね上がっているが、最初に高級車を作って段階的に廉価版を投入していくための物だからとりあえずフル装備で使えるかどうかを試す。
タレットの搭載、空調装備、外部装甲などは当然として、高級レザーを使用した座り心地のいいシートや強力な追加のライトなども色々追加されているため廉価版ではそれらが削られていくだろう。
結局行くのはワイバーンにコリー。テンペストは高機動魔導車で眠り、運転はサイラスが行いニールが補助をする。
そしてワイバーンのガレージへと移動する。
「クラーラ、その高機動魔導車で驚いてちゃ次はもっと凄いよ。さぁ、これが私達が保有する最高戦力である、マギア・ワイバーンだ」
「な、何ですかこれは!!」
シールドが上がり、ワイバーンがその姿を現す。
形自体は変わっていないものの、兵装が追加されていた。
機首前面に取り付けられたフェーズドアレイレーザーはそのままだが、その下に更にオクロを改造した光学機器が取り付けられた。状況に応じてIRモードに変更出来るレーザー兵器用の照準装置だ。
通常のレーザーと違い、フェーズドアレイレーザーは機首の向きを変えずに背面以外の好きな方向にレーザーを照射できる様に出来ているため、こうした自由度の高い照準装置が別途欲しかったのだ。
更にガレージ脇には魔導ゴーレムミサイルが各種並んでいる。
一際大きな物は超長距離用のミサイルだ。これは地上との連携を考えて作られており、先行した地上兵が目標を指示して打ち込むためのものだ。大型のミサイルランチャーを占有するため、追加ポッドが装着出来なくなる。
とりあえずはこれでほぼ完成と言っていい。後は投下型の爆弾などを色々開発すればいい。
そしてワイバーンの横に小さめの機体が一つ増えていた。凄まじくぼろぼろになっているが……。
「あの機体は?」
「……僕達の方で作ってみたんだ。このワイバーンの設計と博士から教えてもらったもの諸々を組み合わせてみたんだ……けどねぇ……。全く同じ形を作れと言われたら出来るけど、オリジナルを作ろうとすると物凄く難しいのね。バランス取れ無くてあえなく墜落したよ」
「何ですかこれは!ねぇ!」
「クラーラ興奮しすぎ。落ち着いて?ね?説明はしてあげるから」
「え、だって、え、なんかかっこいいんですけど!?」
興奮したクラーラを整備士に押し付けて置く。
後ろで興奮しまくった声が響いているがとりあえず報告が先なのだ。
「とりあえず、この機体を作っても今の状態では飛べないと言うのは理解出来たでしょう?」
「うん、博士の言う通りだったよ。バランスとかを手動で取ろうとしても、わずかに動かした瞬間に制御不能だからね……。補助装置が必要と言った理由が良く分かったよ」
「こればかりはワイバーンでしか出来ない事ですからね。おとなしく前に私が教えたものから始めたほうがいいでしょう。こちらの世界でも初期の動力飛行機ですが、その分遅く耐久力は無いですが仕組みを学ぶという点においてはこれ以上にない物のはずです。動きを理解するには自分達で操縦してみるしか無いでしょう」
「そうするよ。まぁ皆結構やる気だし、皆帰ってくるまでに結構作るものは作れたからね。ただ量産するにはちょっと難しいかも。他の工房に作らせるにしても技術流出が怖いし」
「それに関してはオートメーション化を進める方向でテンペストと進めてるよ。魔力を使ってゴーレムの技術で上手く出来れば一定の動きを延々と繰り返す物が出来るはずだ」
「その装置が出来ればある程度の加工を任せて量産が可能になるはずです。設備を大型化していかなければなりませんがそれは私がお金を出しますので問題ありません」
元々研究都市として開発する予定だから特に問題はない。
この領地の一番大事な物は研究開発、そして重工業となっていくのだ。
既にかなりの金額をつぎ込んでいるが、今のところは基礎研究などを飛ばして開発になったりしているのでトータルで見れば大してお金を使っては居ない。でも、これからは新しいものを研究していくという事になればどんどん使う金額は増えていくだろう。
今のところ販売できるものをほとんど作っていないので資金的に厳しい所だ。
だが高機動魔導車を元にした物や、トレーラーを元にしたものが出来上がれば資金も入ってくるだろうと思う。
「ミサイルの試験発射をしたいのですが」
「可能だよ。向こうにある山の頂上にターゲットを設置してあるから……やる?」
「ええ、お願いします。コリーを呼んできてもらっていいですか?」
□□□□□□
「……なんかすげぇ久しぶりだなこの中。妙に落ち着く」
『今回は開発したゴーレムミサイルの試験です。ターゲットを表示しました、目標をロックして放てば勝手に当たるはずです』
「おっかねぇ武器だな……。だが便利だ。よし、行くぞ。上昇モードへ」
『了解。メインエンジン始動、垂直上昇モードへ移行します』
計12本のミサイルを懸架出来る様にパイロンとランチャーが取り付けられている。
それら全てにミサイルを取り付けて出撃してみるが、特にバランスなどに問題はなさそうだ。
上昇していったワイバーンは急加速して目標へと向かっていく。
地上でそれを見ていたクラーラが完全に言葉を失っていた。これから自分が携わる物をその目に焼き付ける。
「……すごい、話には聞いていたけど……これが王都を取り戻した翼竜だったんだ!」
「そういう事。これからあれに付ける兵装とか色々考えたり、他にも役立つ知識とかがあったらどんどん出してもらうよ」
「願ってもないことです!!あんな凄いのいじれるんですか!」
「いや実際いじるのは整備士だよ……特殊すぎて最初から関わってた人じゃなきゃあれは扱いきれないんだ」
「えー……まぁ良いです。素敵な職場に来れたのが嬉しいので!……あんなに早く空を飛べるなんて……はぁ、凄い。カッコイイ……」
調子を見るため少し負荷をかけるような機動をしていくワイバーン。
そして、一直線にターゲットのある場所へと高速で突っ込んでいったと思ったら、1本の白い筋が更に早い速度で飛んでいき、狙い通りターゲットを吹き飛ばした。
その威力は凄まじく、大砲なんかでは出せない様な爆発が起きた。
「……テンペスト、俺の記憶が正しければテンペストの持ち込みのミサイルよりもヤバイんだが?」
『そのようです。気をつけないと巻き込みますねこれは』
「まあ強い分には良いんだが……まあ良い。次はレーザーだ」
『フェイズドアレイレーザー起動。操作は左手側の小さなレバーで行います。照準用の映像を見ながら調節してみて下さい』
「あいよ。っと……これ結構操作難しいな……。あ、いやそうでもないか」
『照射時間は一度に付き10秒程。飛んでいないと再チャージが出来ないので注意して下さい』
「動きながらやらなきゃならんのか……きっついな……でも動かせる範囲が広いのはいい」
スロットル操作をテンペストに任せて吹き飛んだ山頂の一部をターゲットに設定し、レーザーを照射する。
『照射開始。残り9、8、7、6、5、4、3……照射終了しました。再チャージ中』
「おお。これも結構使えるな。真横は無理か」
『照射可能範囲は下方向ならびに左右に120度。上方向は機首に干渉するため30度までに制限されます』
「了解だ。……久しぶりだし思いっきり飛ぶか?」
『では街から離れて下さい。衝撃波で建物や人への被害が出ます』
「全速力で敵の大軍に突っ込むだけで壊滅的な被害を出せるよなぁ」
『可能と思われます』
3基の魔導エンジンの出力を上げて街から遠ざかる。
予定にない行動のため地上では少々混乱していたが、後で怒られるのはコリーだ。
それに久しぶりに自分の本来の身体へと戻ってこれたのだからもう少し堪能していたい。
「おおおお!この加速!この締め付け!やっぱこれだな!!」
『マッハ4を突破、……獣人は凄いですね』
「ん?何がだ?」
『この速度になってもGに負けて意識を失わず、機体を制御できています。人族であれば旋回した時点で恐らくブラックアウトに陥りますよ』
「まあ、ドワーフの次に身体が頑丈だからな。お、海だぞ」
『魔力量に問題はありません。好きなように飛んで下さい。危険と判断した場合はコリーよりも機体を優先して操作します』
「あ、あぁ。まあ気をつける。一番怖いのは下降してるときだしな……流石にこの速度で宙返りやらかそうとは思わんぞ」
獣人ゆえの強靭さで、通常戦闘時の速度でも難なく乗りこなすコリーは、自分の足の筋肉のみで血液を上半身に送り込む。
相当な対G性能を持っていると言える。
そうでもなければこのワイバーンをまともに飛ばせないだろう。
暫くして帰ってきてから戦果報告をし、色々とデータを渡した後、案の定コリーはロジャーから怒られていた。
止めなかったのも悪いということでテンペストも怒られたわけだが、二人共自業自得である。
羽目を外しすぎたのが悪いのだ。
□□□□□□
「おはようございます、朝食の準備が整っております」
「ん……ありがとう。昨日も言った通り今日は出かけます」
「はい、用意は出来ております。それと……こちらを。領主の決済がないと進まない書類ですので目を通して置いて下さい」
「朝食を取ったらすぐに取り掛かります。結構溜まっていますね……」
「この領地は発展している最中ですので、色々と開発をすすめるにあたってどうしても……代理だけでは判断つきかねる物が多かったのです」
「問題ありません。これからも同じように頼みます」
朝食後、急いで書類に目を通していく。
案の定資金繰りに関するものばかりだ。後はたまに面会希望が紛れているが、そもそも居ないのだから会い様がない。
幾つか計上に疑問があるものが残ったのでそれをもう一度見直しということで渡してしまえばオシマイだ。
処理能力は高いのでこういうことくらいならばあっという間に終わってしまう。
ここでも何気に速記ペンが役立っている。
そろそろペン先が潰れかけてきているので図書館に行って新調してもらいたい所だ。
前回やり忘れていたのが悔やまれる。
インクも色が消えて魔力を通じることでもとに戻る物があるそうなので、そちらも購入してみたい。
「……ふう。では私は飛竜の討伐に出かけます。帰還は明日の予定です。その後暫くはここに居ますが、トレーラーとサーヴァントの修理が終わり次第今度はルーベルへ向かいます」
「わかりました。使用人一同しっかりと留守を預かりますのでご安心を」
「優秀な人材が揃っていて何よりです。あぁ、『煌』に道中の食事を作ってもらっておいて下さい。5人分で」
出発してから途中で休憩しながら食べたい。
あそこの料理はとても美味しいのでよく贔屓して居る訳だが、彼は屋敷の中では働きたがらず外で料理を作って皆に提供するのが楽しいらしい。
束縛する気もないのでたまにこうして弁当を作ってもらったり、直接店に行って食べたりと言った具合だ。
ハンターギルドへ寄って、依頼を受注する。
報酬は少なめではあるものの、村からの依頼だからそこまで期待はできないのは知っている。
どちらかと言えば報酬はついでで飛竜の素材と魔晶石が欲しい。
ニールが来るのである程度素材は確保するのが楽だ。
飛竜を狩った証拠……首なんかを持ってくればクリアということで、村の方でも居なくなってくれればそれでいいというスタンスのようだった。
素材がほしいのでこういうのは素直に有りがたい。
集合場所の研究所へ行くと既に高機動魔導車とワイバーンの用意が整っていた。
「こうして並べるとやっぱりワイバーンでかいよな」
「トレーラーとであればある程度……というところでしょうが、流石に全長25mもあれば私達の世界でも大型の方です」
大型の兵器を運ぶためのキャリアを兼ねているため大型化したマルチロール機が元になっているのだから、当然のごとくマギア・ワイバーンも大型だ。
高機動魔導車の横にあるとその大きさがよく分かる。
今回は高機動魔導車の速度に合わせて哨戒しながら飛ぶ。いつものように速度を出せるわけではないため少し操作が難しくなるだろうが、ヘリのようにその場に留まっての攻撃などの練習にもなるだろう。
テンペストにとっても少々負荷のかかる状態になっているが、まああまり問題ではない。
問題があるとすれば発電できないのでレーザーが暫く使えないという点だ。
「サイラス博士、クラーラはどうですか?」
「研究所で色んなの見て興奮しているようだ。まあ最初のうちだけだろうからとりあえず適当に相手するように言ってある。あ、ワイバーンにはアンカーを取り付けておいたよ。そっちに入ればテンペストなら分かるはずだ」
「随分と実装が早いですね?」
「あの嵐とか考えたら、早急にワイバーンを固定する装備が欲しかったんだ。まあ、カバーがほぼ必要ないのがこの世界でのマギア・ワイバーンの強みだね。ジェットエンジンの複雑な構造が無くなってるから吸気口に物が詰まることがまず無い。バードストライク食らっても後ろに焦げた鳥が排出されるだけだ」
「なるほど。最悪は私が高機動魔導車の中から単独で操作しますが」
「……そういえば、向こうに移ってだったらこの身体から離れていれるけど、身体に意識を残したままだと範囲が限定されるんでしたっけ?」
今までも何度かやっていたが、テンペストが今の肉体に残りながらワイバーンを操る場合、半径4キロ程度が最大半径の様だ。
以前はもっと狭かったが、魔力の扱いと魔力量が増えたことで増加したらしい。
それでもあっという間に通り過ぎる程度のスピードが出るので、ヘリモードでの運用が望ましいだろう。
「まあ、スピード出さなければ問題ないですね。むしろそれくらいまでは操作できるわけですか」
「超えると強制的にワイバーンへ引っ張られます。理屈は分かりませんが、まあ落ちないだけ良いかと。今日は高機動魔導車に乗りっぱなしになりますが大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。そのためのシートだからね。ある意味私が乗っても疲れないようにと作らせたやつだから……。まあこれでも大分肉は付いてきたのですがね、まだまだ道のりは遠そうですね」
まだまだ健康体とは言いにくい体型だ。とは言え、痩せていても筋トレはしているのでそれなりに筋肉の隆起は見えている。
一度脂肪をつければ大分違うだろうが、そこにたどり着くまでが遠いようだ。
ただ、最初の頃に比べれば大分顔色もいいし、げっそりとした不健康な感じも消えている。
そんな博士が運転するためにシートは特別製となっているわけだ。
柔らかく包み込まれるような座り心地は、作った職人たちも真似して居るほどだ。
もちろん、自費で自分の分のみとして広げないように注意している。何れ時期が来たら宣伝用にどんどん広めてもらうつもりではあるが。
「遅れてごめん!空間収納は空っぽにしておいたし、また少し広げたから結構入れられるよ」
「ああ、それは助かります。ニール、今回は荷物もですがタレットの操作なども頼む時がありますのでサイラス博士から聞いておいて下さい。武装としてはワイバーンの機銃と同じものを搭載しているので十分でしょう」
「え、あれそんな怖いやつなの……いやまぁレールカノンも相当だけどさ……」
「対人では恐らく一番狙われると思うから気をつけるように」
「えぇ……。あ、でもテンペストの身体もこっちで預かるんだよね?」
「はい。ある程度落ちないように固定しておいて下さい。後は数時間ごとに身体の向きを変えてほしいです。同じ姿勢で寝ていると起きる時に辛い時があるので」
その話を聞いてサイラスが遠い目になった。
「あぁ、思い出すなぁ硬い木の長テーブルみたいなのに磔にされて拷問受けたときのこと……うん、お陰で尻やら背中が酷いことになった」
「……こわい……」
「それをやらかしたやつをぶっ飛ばしに行くんだろ博士は。今のうちにさっさと肉つけてくれよ。思いっきり鍛えてやるから」
「あ、楽しみですね。コリーさんとの訓練楽しいので」
「あれが楽しいの?!」
ニールは半強制的に参加させられてヘロヘロになったりしているのだ。それに付いていくだけでなく、楽しんでいるというのだから驚きだった。
意外と接近戦が強かったりする博士だが、それでも体力だけは人並み程度なので、前線で戦闘するにはもう少し体力も欲しい。
「さて、じゃぁ俺は向こうに」
「ええ、上空からの索敵を頼りにしてますよ?」
「索敵で見つけた瞬間敵が蒸発しそうなんだけどそれは……」
「まあ、ガトリングだけで十分すぎるくらいの戦力だからな。向こうに着いたらついでにハーヴィン領に寄っていこう。テンペストも久しぶりに会いたいだろ?」
「そうですね。また何か情報を掴んでいるかもしれません」
高機動魔導車が動き出す。
踏み込めば踏み込むだけ速度が上がり、変速ギアのお陰で坂道も楽だ。
王都を回り込んで移動するために坂道を降っていく。
「想像以上のパワーですねぇ。これは気持ちいい」
「ひぃぃぃ!?博士!テンペストも乗ってるんだからもうちょっと丁寧に!!」
「衝撃も吸収されてるし、別にそんな揺れてないでしょう?」
「速度!!速度早すぎ!!ああぁぁぁぁっ!馬車が!?」
「向こうはそんなに早く動いてないんだからそこまで騒がなくても……まだ100キロ出てませんよ」
80キロ程度で狭い道を爆走している。
後部に4輪、前部にステアリング2輪の構成をしている高機動魔導車だが、その御蔭かとても安定しているしサスペンションの方もかなり洗練されてきている。
「博士張り切ってんな」
『私の身体が載ってるので安全運転をお願いしたいところですが、まああの程度なら問題ないでしょう。出国となればあの狭い山道を移動しなければなりませんからどのみち速度は制限されます』
「まあ確かにな。これ、俺ら下から見えるのかね?」
『見えますが、気をつけていないと見つけられないでしょう。ある程度離れていないと地図の作成が出来ません』
「まぁ確かにな。テンペストが描いた地図はものすごく正確だから助かる。空白部分を埋めるように飛びつつ下を監視していればいいか?」
『そういう事です。出来れば小さな集落などの名前も教えてもらえれば助かります』
「任せとけ。……にしても本当に早いな……」
どうせ今日中に到着するくらいの距離だ。村に近づいたら上空を旋回しつつ、博士たちから許可が出たらワイバーンを下ろすことにしている。
本格的な飛竜狩りが始まる。
領地に帰ってきて久しぶりにマギア・ワイバーンで空を飛べました。
しかし羽目をはずしてロジャーにコリーと仲良く怒られるテンペスト。