第五十二話 モルサエント
「……結構広範囲にハンター達が広がっているようですね」
「何匹居るかは分からん。とりあえず見つけるだけ見つけようぜ。……見えるか?」
「流石にもうちょっと近づかないと……。植物とかに変な熱があるものを探せば良いんですよね、えーっと……、有りました。本当に草と見分けがつきませんが一箇所だけ反応があります」
赤外線映像を切って肉眼にすると全くわからないが、木の下にある草に紛れて白く温度が高く表示される物がある。
近づいていみるとその下から更に別な場所へと1本の線がつながっていて……。
「恐らく本体を発見しました。コリーさん、向こうの大きな木の根元にある苔むした岩が有りますがわかりますか?」
「あぁ、まぁ分かるが……あれがそうなのか?」
「モルサエントかどうかは知りません。ただ擬態タイプの魔物であることは確かかと。そこから数箇所に向って触手がわからないように伸ばされていることからあれが本体だろうと思われます」
「ほー……やっぱり便利だなその眼。真面目に練習しないとならんな。じゃぁとっとと仕留めよう」
そう言うと指定した場所に向かって一直線に向っていく。
明らかに自分に向かってくる敵を見て魔物が一瞬たじろいだのを感じた。
その焦りを見たのかコリーが獰猛な笑みを浮かべて斬りつけた。明らかに岩にしか見えなかったそれがぱっくりと傷口を広げ、そこから毒々しい緑と白の体液を流して苦しんでいた。
四方に広げていた触手も一気に本体の方へと戻りコリーへ攻撃をしようとするが……それよりも早く命が尽きたらしい。
「……大当たりだな。こりゃぁ良い、よーし博士次はどこだ?」
「えーっと、あの木に巻き付いている蔦ですね。本体が見えないので適当に攻撃して後を追いましょう」
「あれか。本当に本物の蔦にしか見えないな……」
詠唱をして雷の光弾を放つ。
気絶する程度の弱いものだがやはり反応して木から慌てて離れていき本体の方へと戻っていく。
今度は地中に潜ったようだ。
「あーでもここの真下に確かにいます。薄っすらと熱源が見えているので……ここは私がやりましょう『グランドシェイカー。土塊は水の如く、土中の敵を引き裂け』」
詠唱が終わると同時に地面が一部突然陥没し、まるでミキサーでかき混ぜられているかのように激しく周りだした。しばらくするとあの体液が染み込み本当に泥のようになり、完全に中ですり潰されて死んだようだ。
「……これも結構ヒデェ魔法だよな」
「これがあれば地雷撤去とか楽なんだろうなぁ……いやぁ魔法って本当に便利ですね!」
「この発想力、本当に羨ましいな。風とか雷とかでなんか良いの無いのか?」
「んー……風ですか。風、というよりも空気その物や気体と言ったくくりで見ることが出来ればかなり有用になりますかね。前にも言った通り、全ての物質にはその元となる極小の物質の元みたいなのがあります。この空気だけでも何種類もの気体が集まって出来ており、私がこうして息が出来ているということはつまるところ皆酸素を消費して呼吸を行っています」
「む……授業でやっていたやつだな?酸素、窒素……えーっと……二酸化炭素……アルゴン…………忘れた」
前にやった科学の授業が役に立っているようだ。
一応、サイラスと行動を共にする者達や研究者達は全員がこの授業を受けることになっている。
ロジャーはともかくコリーとニールはついていけずに苦戦しているのだ。
「十分でしょう。まぁこの世界では更にマナという私にとっては未知の物質が含まれている可能性があるわけですが。まぁそんなわけで呼吸には酸素が必要。ハイランドに住む方々がこの平地などに住む人たちに比べて身体能力が高いのは、この酸素を消費する量が少なくても同じくらいの運動量をこなすことが出来るからです。……では……酸素が消えたら?」
「酸素は体を動かすのに必要というのだから、無くなると……息が出来ない?いや他の気体は残っているから吸えるのか??」
「まあ、ほぼ正解ですね。確かに気体は残っているので息は出来ます。しかし酸素を交換するという呼吸は出来ません。つまり、息苦しさを感じ数分で窒息するでしょう。『酸素減少、対象コリー頭部』」
「ちょっ……博士やめっ……はっ、あぁ?息吸ってるのに、苦しい……止めろ、マジで!」
数秒ほどでは有るものの低酸素状態を経験する。流石に無酸素だと即座に気絶してそのまま死ぬのでやれない。
ただそれでもその怖さは良く分かっただろう。
「こ、殺す気か!?」
「大丈夫、この辺の人達が突然ハイランドへ行ったときの位の苦しみですよ。私とかね……いやぁ高山病はホントきつかった……。ちなみに全部酸素無くすとその空気吸ったら短時間で意識を失います。そのまま呼吸が続けば死にますから、広範囲でこれが出来ると……目に見えない結界が出来上がりますよ」
「まさかこんな短時間で苦しむとは思わなかったぞ……しかし、結界か。息止めて入れば意味ないんじゃないか?」
「無いですね。ですが交戦状態で相手が息を切らして走ってきている時にこの状態になると息を止めておくなんて芸当出来ませんからね」
「おっかねぇな本当に!!ああくそ、次だ次。ミミックぶった切ってやる……!」
八つ当たりにも程があるが、実際低酸素状況でも平気で動ける筈のコリーがここまで苦しんだのは初めてのことだ。
サイラスはまだ気づいていないかもしれないが完璧な暗殺に使えるのだ。
誰から見ても突然苦しみだして死んだ様にしか見えず、魔力の干渉はその本人にではなくて周りの空間に対して。見聞しても魔力の残渣も毒も見当たらず……と言うものだ。
これが部屋単位で発動すれば?
会食に招いて置いてその場の全員を殺すことも出来る。
よっぽどのことがない限りは本人はそんなことをするつもりがないのが救いだろう。
「次は…………。これは……!」
「人の形をした樹……モルサエントか!装備品が落ちているな。よく見えんが新しいような気がする討伐に向ったハンターか?」
「……かもしれません。そしてコリーさん、その樹ですが……生きています……」
「マジか……戻せないんだよな?」
「切りつけると血を吹き出したようになるそうです。そして呪いとなりその者も一部が樹となるそうですが。焼くしか無いらしいですね」
「そうか。これが有るということは近くにいるはずだ。博士、頼んだ」
了解、と呟いて目を凝らす。
この樹となった者は足の下に根を張り、そこから養分を吸い上げているようだ。
樹となり生かされ続け、その養分を本体に吸われるというのであれば……。
ぼんやりと地面の下を這うラインを発見した。
途中分岐しているので行ってみると同じように樹と成り果てた人がある。ハズレだ。
広範囲に広がっているようで実は結構遠回りさせているだけのようで、実際樹にされた人同士は意外と近い位置で纏まっていた。
「博士、周りにも気をつけるんだ。触手に襲われると言うぞ」
「ええ、一応反応を見てはいますが……全く見つかりません。しかし近いはずですよ?コリーさん!発見しました!触手が今見えた!」
「どこだ!?」
「右前方!」
コリーがそちらを見ると同時に地を這うようにして、木の枝が伸びてきた。
見た目硬そうなのに蛇のように真っ直ぐにコリーへ向っている。
即座に飛び退いて風爪を代わりに当ててやると、あっさりと切れて慌てて引っ込んでいく。
それを追って行くと1本の大きな樹があり……3人ほどがその枝に絡め取られてぶら下がっている所だった。
まだ生きている。
「くそっハンターか!?今助ける!」
「助けてくれ!触手は1本だけじゃないぞ!」
「本体はこの樹だ!俺達より先にこいつを倒してくれ!この辺のモルサエントのボスみたいなやつらしい!」
「分かった!待っていろ!」
コリーが飛び出し、触手から逃れながら魔法によって攻撃をしていく。
走りながらなので簡単なものしか唱えられない。しかもこの大きなモルサエントはボスらしく簡単には倒されてくれないようだ。
「コリーさん、援護します!『踊れ、炎の蛇よ。我等の敵を焼き尽くせ』」
詠唱とともに地面からポッポッと火が灯り、それが勢いを増して一匹の大蛇の姿となった。
周りの草を焼き焦がしながらまるで生きているかのようにコリーに襲いかかる触手へ絡みついて焼き切っている。
ついでに尾を伸ばして吊るされている3人のハンターを解放していた。
最後にモルサエントの大樹へと巻き付いてその炎の勢いを強めていく。モルサエントも必死だったのだろう、次々と触手を伸ばしては炎の蛇を剥がそうとするが、そのまま焼き払われていくばかりだ。
「いい感じだ博士!『雷鳴轟かせ走れ神速の雷よ。驟雨の如く敵を打て』」
テンペストが初めて見たコリーの魔法だ。
モルサエントの頭上に青白い光球が浮かび上がり、一瞬の後にモルサエントへ何本もの雷が降り注ぐ。
高圧高電流が体内を駆け巡ることとなったモルサエントだが、必死に抵抗しながらも枝はどんどんはじけ飛び、幹も耐えきれなくなったところから大きな音を立てて破裂している。
やがて、木の燃える匂いとともに炎が立ち上り、ひときわ大きな音を立てて半分に裂けてモルサエントは動かなくなった。
近くにあった人の形をした樹もそのまま地面に吸収されるように消えていく。
「……助かった……ありがとう!もう駄目かと」
「礼は良い。間に合ってよかったが……他にもこんなのが居るのか?他のハンターや兵士たちは?」
「モルサエントや魔樹を何とかしているはずだ。ここまでの大物が居るなんて知らなかった、通りでやたらとモルサエントだけでなく魔樹が生えているわけだ……」
「魔樹?」
魔樹とは、魔物化した樹木のことだ。その場から動かないものがほとんどだが、切っても切っても生えてきたり、突然鋭いトゲを飛ばしてきたり、石のように固くなったり……と様々だ。
危険なのは枯れた樹のように見えるが、近くを通りかかると鋭い枝で突き刺してその血をすする物や、石のような硬くて重い実を遠くから投げつけてくる物だ。後者の実に関しては上手く集められれば質の良い薬にもなるそうだが。
これら魔樹はモルサエントが活性化したりするとよく見られるようになるが、今日の位に色々な魔樹とミミックが発見されることは少なかったようだ。
お陰で広範囲を索敵することになったため人手が足りなくなっていたという。
「そんな時にこの大きなモルサエントを発見したは良いんだが……」
「普通のモルサエントと同じように考えてたのが間違いだったんだ。明らかにこいつは上位個体だった。あのまま捕まって色々吸われていたら……アレの仲間入りをするところだったよ、本当に有難う」
縛られていた足には何かが突き刺さったような跡があり、恐らくそこから血を吸われていたのだろう。
暫くするとそれがどんどん身体に広がっていったかもしれないとのことだ。
捕まってすぐに助けられたので相当運がいい。
「どうします?コリーさん?」
「……まぁ、さっさと出たいしな……。仕方ねぇ、助けたハンターと共に連絡をしながらなんとかするしかねぇんじゃねぇか?」
「それならば、討伐終了した場合の待ち合わせ場所がある。まずそこに行こう」
門の前に戻るとかなりの人数が戻っていたようだった。
さっきまでは居なかったのでこちらが戻ってくる間に来た者達だろう。
「5人だけか?」
「いや、3人だ。こっちの2人は後から合流してくれただけだ……俺達も助けられなかったら死んでいたかもしれない」
「一体何があった?こっちはモルサエントを倒していたら突然周りの魔樹やモルサエントが枯れ初めて行ったんだが……」
「俺達が当たり引いちまったんだよ。恐らく親玉だったんだろう、大きな樹だった。その周りにもミミックが居たりしていつの間にか仲間が消えていった」
「一緒に来ていた見習いは見つけたんだ、見つけたんだが……手遅れだった。既に吸い尽くされて養分と成り果てていたよ。ハンターズカードだ」
「で、俺らもミミックに気を取られてる間に捕まって、少ししたら彼らが来てくれたんだ。本当に運が良かった」
他の場所は枯れていったらしい。ということはあの大きな奴を倒したことでそれによって活性化していたものが一気に枯れたということなんだろうか。
良く分からない。
一応10人一組で行動していたらしいが、3人しか残っていないということは7人も犠牲者が出ていたということだ。他の場所ではあまり被害がないことから考えても異常な損耗率だ。
「……俺達が出てきて良かったな……」
「あんなのがいるのは想定外だったんだ。亡くなった者達は残念だったがお陰でこうして帰ってこれたし、感謝してる」
「ではこれで全員揃ったか?一般兵は点呼を、ハンターは各々の被害状況を報告!」
報奨金が出るらしいが、自分達で倒したものの魔晶石などは持ってていいそうだ。
回収されて再分配になるかと思っていたが、そもそもそれどころじゃなかったようなのでとりあえず従っておく。
お金に関しては特にいらないので自分たちの分を被害のあったハンターたちに分けてもらって、代わりに魔晶石をもらって帰ることにした。
そもそもこれは目的ではないのだ。目的はこの王都を離れて自分達の領地に一度戻ること。そしてもう一度出て今度はルーベルへと足を運ぶのだから。さっさと出てクラーラを休ませてやりたいと思う。
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帰りには特に何かがあるわけでもなく、無事ハイランドへ到着する。
身分的な意味でもかなりガチガチに緊張していたクラーラだったが、この帰りの旅を通じてかなり仲良くなれたと思う。というか、自分の常識が崩れていったとクラーラが言っていたが多分そっちの方が先だったのだろう。
「……結構、涼しいんですね」
「この辺はまだそんなでもないです。ハイランドはずっと上にあるので……いま正面に見えている山の天辺ですよ」
「話には聞いていましたが……こんなに高い山が沢山……!」
ずっと上の方までジグザグに通っている道が薄っすらと見える。
あれを今から登っていくのだ。
ニールがこの辺の解説をしているわけだが、一つ気をつけなければならないことをサイラスは思い出した。
「あ、そうだ。これから行くところは見ての通り高い山の上です。よって、空気が薄くなりますのでずっとこの平地で暮らしていた人が行くと高確率で高山病にかかります。コリーさん、彼女はまだあの空気の薄さに慣れていません。一気に上がってしまうと危険ですので時間を掛けて途中で休みつつ上がって下さい」
「ん?別にいいが……なんでだ?」
「慣れてる私達は良いんです。……というか私もいつの間にか一気に連れて行かれて相当苦労したので。普通の人はあれだけ高いところに一気に上がると酸欠を起こしてしまいます。なのでクラーラさん、頭が痛くなったり、吐き気がしたり……何かがあったら必ず知らせて下さい。下手をすると死にます」
「死ぬんですか!?」
「重症だった場合です。が、馬車で時間をかけてゆっくり登るのと違って、これだと一気に登ってしまうため様子を見たいのです」
低酸素状態になるとすぐに症状が出てくるのでそうなった場合、一旦トレーラーを停めてキャンプし、身体を回復させながら少しばかり散歩させてやる。
脳浮腫なんかが起きた場合、ピクシーワードの回復だけで済むかどうかが分からないのが怖いのだ。
……が、人族と違ってドワーフならではなのか、特に症状も出ず平気な顔をしていたので肩透かしを食らった感じとなった。
それでも時間がかかるのと、コリーへの負担が大きすぎるためかなりゆっくりと上っていく。
「大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫ですテンペスト様!」
「様……」
「まぁ、慣れなきゃならないんでしょうね、私もテンペストさんも。ハイランドでも私達がおかしいだけみたいですし」
「私はこの和やかな雰囲気が気に入っているのですけどね。王都などでは言葉一つ取っても、特に王族や上級貴族などと話をするときなどは気を使います。公的な場となればそれなりのマナーや振る舞いも要求されます」
「……そう言えばボクだけこの中では平民なんだった。忘れてた……今はクラーラも居るけど」
ずっとミレスへの対応や異変に追われていたけど、本来ならば領主としてなどで社交の場に出なければならないことも多くなるはずだ。
しかしサイラスもテンペストもそんなものは知らない。
いつかは色々と問題が出てきてもおかしくないのだから今のうちに教えてもらわなければならないだろう。
「ま、堅苦しいのは後にしようや……そういうのも嫌で俺ハンターとか魔術師として登録したのに結局男爵なんて貰っちまったし。とりあえずテンペストのカストラ領にいる内は好き勝手出来るしな。ニールが俺に跪くとか考えただけで笑えてくる」
「あの時門でやったときもにやけてやばかったもん、……ボクもなんとか手柄を立てて爵位がほしいなぁ」
山の中腹で休憩を取り、そのまま一泊する。
クラーラも特に問題なさそうだ。色々と持ち込んだ工具を広げては何かを組み立てたりしている。
なにか手を動かしていないと暇なんだろう。
「あー……しんどい」
「おつかれさん、コリー。よく運転できるねこれ」
「……死ぬ気でやればなんとかなる。っていうか間違えたらマジで死ぬ。俺はまだ死にたくねぇ」
「……ボクも」
「いやぁ、コリーさんは筋が良いですよ。この大きなトレーラーをきちんと全てを把握して動かしているんですからね。……そもそも普通ステアリングトレーラーの後部操作なんて1人でしませんからねぇ」
「おい?!俺が必死こいてやってたあれ本当は1人でやるもんじゃねぇのか!?」
「出来るんだから良いじゃないですか。一応私山道ではサーヴァントでついて歩いてますし、確認はしっかりやってますから」
「いやちょっと待てコラ」
普通は後ろをついて歩いてその人が無線操作するのが当たり前だが、その機能を全て運転席に集約しているため運転手1人でそれが可能となっている。
降りる時に死ぬ思いで頑張ったおかげで、既に手足のように操るトレーラーさばきはもう神業と言っていい。
両手を器用に動かしながら同時に二つのハンドルの操作をするのだ。
時には車体をはみ出させながらのカーブだったり、ぶつけないようにゆっくりと動いたり……サイラスが後ろから見ていてくれるとはいえ、タイヤが浮いた状態になってもまだ大丈夫などと言われて生きた心地がしなかったのはコリーだって同じなのだ。
重心が道に残ってるから落ちません、とか言われたって怖いものは怖い。
それをひたすらに信じて動かして、降りきった時に到達したその技術は相当なものだ。
恐らく人族では無理だ。
「しかし、ここまで大きいものを作る気はもう無いですが……正直道幅は欲しいですね。管轄はどこなんです?」
「あ?あー……基本的に道を作るのは国だ。で、自分達の領地内の道はその領主の管轄だな。この山道は誰の領地というわけじゃなくて国の領地だ。だから王城の方で決定されて事業が割り振られていく。予算とかも色々あるから正直すぐに通るとは思えんし……通せたとしても遅いぞ?」
色々な管轄の人達を巡り巡ってやっとで王様の許可を得て動き出すため、物凄く時間がかかるらしい。
なので相当緊急だったり、特別な理由がなければすぐに動くことはない。
「王様に売りつけて、移動するためには道路拡張が必要ですと言うとか」
「ニール……お前なぁ……」
「そもそも王族はそうそう国外まで出ませんよニール。私が知る限り、国王陛下の移動はこの数年で国内の移動のみだったはずです。……大半私が居た大聖堂ですし」
「サイラス、トレーラーを小型化して居住用ではなくコンテナにするのはどうでしょう」
「別にトレーラーじゃなくて普通のトラックとかでも良いからね。ただ、まだまだ高額だからもう少し工夫したい。作業用の機械を先に作るのが良いのでは?」
「大量生産ですね。では研究室に戻ったら部品などの見直し、低コスト化を進めて貴族用と商人用の魔導車を設計して下さい」
「既に幾つか考えてありますよ。魔法が使えるので内部構造を簡略化出来ますから、かなり作るのも楽です。問題は魔術式での式を書く時に幅を取りすぎることですか」
魔導ミサイルを作ったときもそうだったが、魔術式というか、紋章はそれ自体が式になっている。詠唱と同じ効果を持ち、そこに魔力を流すだけで使えるようになるため魔道具では必須の物だ。
その代わり……小さく書くのも限界はあるし、その式が煩雑になればなるほど大きく複雑化していくため省スペース化が難しくなる。
ミサイルでは「指示された目標を見つける」「その目標を追いかける」「ぶつかる」という簡単な指示を書くだけだったので楽に出来たが……。
「場違いのように私お二人が何を言っているのか理解できないですけど、魔法陣、小さくする方法なら多分知ってます……よ?」
思考の渦に入りかけていたサイラスの耳がクラーラの声を拾い、得物を見るような目でクラーラへ振り向く。
「ひぃっ!?」
「サイラス、お前それほんと怖いから止めろ。初めて見るやつすげぇビビるから」
「あ、すみません。クラーラさん、それは本当ですか?どのようにして複雑な式を簡略化するのです?大きさの問題をどういう風にクリアしていたのです?」
「ち、近いです!?あの、えーっと、よく使う式を書き込んだ物を並べて、必要な時にそこへ魔力が行くように組むとか……」
「あ、それはやってます。他にはありますか?」
「だから近いですぅ!!落ち着いてくださいよぉ……」
新しい知識を得ようと必死なのは分かるが、少々興奮しすぎだと思う。正直女性を襲っているようにしか見えない。
コリーやニールに引き離されてようやく落ち着いた。
「で、ですね……先程の他には重ねるという方法があります。問題が起きた時に分かりにくくなるんですけど、工夫次第ではかなり小さなスペースに収められますよ!この万能調理器具でも使っているのです!」
「あれか。確かここに買ってたのが……」
「あぁっ!せめて私の居ないところで分解してくださいよぉ!!鬼ですか!!」
手慣れた手つきでどんどん自分の作品が分解されていくのを見て悲鳴を上げるクラーラだったが、サイラス博士は止まらない。そして中に固定されたプレートの塊を発見してそれを取り出して真剣に解析し始めるのだった。
ちなみにクラーラはこの時騒いだせいで呼吸困難に陥ってテンペストによって酸素吸入をされる羽目になったという。
イラスト作業進めてたらこっちが遅れ……うーむ