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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第五十一話 足止め

 新しいオールトン伯爵は少々変わり者ではあったが、よく領民のことを考えているようだ。

 他にも領地を持っており、そこには自前の鉱山すら持っている。

 金は腐るほどあるからこういう時にでも使わないと勿体無い!などと言って、ここの復興を全部自分で引き受けてしまったくらいだ。

 着任早々、自分と僅かな使用人とともに訪れて、元領主の館を換金出来そうなものを残して粉砕。これには流石に元領主に反感を持っていた人達も唖然としていたという。

 修理して使うくらいはするかと思ったら、突然崩れ去ってしまったのだ。

 その素材を利用して小さい工房風の建物を庭に作り上げ、そこに持ってきたものなどを一式詰め込んだと思ったら、年季の入った作業着を着て今度は全ての壁をチェックして歩く。


 翌日到着した魔導車からは大量の金属や道具などと共に職人集団が出てきた。

 彼も魔導車の有用性を知り購入していたのだそうだ。こっちは例の成金豚とは違ってきちんとまともな改造を施されていた。

 フレームなどが全て強化され、ちょっとやそっとでは壊れることはないだろう。

 一度分解して組み立てなおしたということだから、恐らく自分で作るつもりだ。というかよく元に戻せたものだと思う。


 そしてその職人集団とともに、あっという間に壁が取り壊されていき、地面が大きく掘られ、整形されていく。

 そしてそこには土魔法によって均一に固められたしっかりとした土台が作られ、道以外にはこれまた頑丈な岩で出来た馬防柵にスパイク部分を固い金属でコーティングした物が設置されていき、大体4日ほどですべての作業が完了したらしい。

 馬防柵は道の部分は可動式で敵が来た場合速やかに閉めて内部に籠もれるようになっている。

 更に、壁自体も二重構造になり、外側の部分にはスリットが幾つか開けられ、そこから柵で引っかかっている敵に対して攻撃も可能だ。

 既に外側だけでも要塞化してあるのだ。


「今は道路と上下水道の整備中だ。川からの水を引いているが一度一箇所に集めて等分配するようにしてある」

「壁は前より低いですね?」

「工期の短縮と、儂らのところで作った大砲を付けるからな。あまり高くてもやりにくい。それに登りたくとも一番上が突き出た形になっているから簡単には登れん様になっている。魔物相手であれば十分だ。後、魔鎧兵も数体揃えたいと思っている。……大分暴れたそうじゃないか?見せてもらっても構わぬか?」

「良いですよ」


 サーヴァントを立ち上げて見せると興奮していた。

 今まで見てきたどの魔鎧兵よりも美しく、機能的で買うなら絶対こっちのほうが欲しいと言っていたが売るつもりはない。がっかりはしていたものの、サイラス博士に改良するときのコツなんかを色々教えてもらってとても喜んでいた。

 ここの護衛の他、鉱山での労働力としても使うつもりだろう。

 多分彼なら面白いものを作りそうだ。


「なるほどなぁ……単機でという話だったがこれなら納得だ。腕に色々仕込んでいるようだしな?」

「目ざといですねぇ……。まぁそういう武器の仕込み方もあるということですよ」

「まあ儂も職人上がりだからな!自分で工夫してみるのも勉強ということだな!翼竜を見られなかったのは残念だが……このトレーラー?とか言う特殊魔導車はなかなか見事だ。こっちでも自分なりに作ってみるか」

「構いませんよ。自分達の技術をつぎ込んで作るのであれば問題ありません」

「その余裕の顔、驚かせてみたいものだな」


 かなり自信がある様で資金力もあるためここで聞いたことを生かして色々作るつもりなんだろう。

 まあ、以前の領主と違ってかなり仕事が出来るタイプのようだから安心できそうだ。

 領地経営自体も他のもう一つの方でもきちんと出来ているらしいし、かなり効率的な街を作っているそうだから期待できる。


「それと……前の領主は既に王都に送られた。死なないまでも貴族としての責任を果たしていなかったことで色々と罪が重なっていくだろうということだ。生きているうちに償いきれるか分からんな」

「……まあ、それはなぁ……。領民大分怒ってたしな。とりあえずは賠償金の支払いだろうが……」

「既にここ以外に隠してあった財産は没収されている。当然預けていた金もな。ついでに甘い汁を吸っていた者も何人か。その金額のいくらかがこっちに回ってくるからそれを使って復興だ。とりあえず住居は仮のものを使ってもらうことにして、中枢になるものから作りたい。経路なんかをある程度整備しているから良い街になるはずだ。幸い北側がほぼ無傷で残っているから、そっちの方で暫くは暮らしてもらう感じになる。もちろん、作業で働きに来ているものは管理して給料を渡しているぞ?ま、何もないが……とりあえずゆっくりしていくと良い。商人も戻ってきてるが皆金を失っているから出来ればわずかばかりでも落としていってくれると有りがたい」

「ああ、そのつもりだ。2日ほど滞在するがついでに食料集めのために少し割高でハンターギルドに依頼を出す。料理屋なんかはやってるのか?」

「北側の店なら今までどおりに開いている。この礼は何れ必ず、カストラ男爵宛に」


 なんとも頼もしい領主になったものだと思う。


 このオールトン伯爵領では、広大な森林があるということで幾つか砦などを建設して監視範囲なども広げるようで、今までの領主がサボっていたことを色々と尻拭いする形だが、本人は全く気にしていないようだ。

 むしろ一からいい領地を作っていけると息巻いている。

 長命種だからこそという気もするが、100年計画とか普通に出来るからそんなものかもしれない。


 食事などをこの街の店でしてお金を落として行き、更に肉だけでなく果物系等を発注していたものが色々と集まったのでそれを持って街を後にする。


 □□□□□□


「居るかな?」

「ごめんよー店じまい……って本当に来たんだ!」

「すみませんねもう店閉める時に」

「いえ!全然!……で、本当に連れてってくれるんですか?」


 使えるんじゃないか?ということで声をかけていたドワーフの女性だ。

 色々と頭を働かせるのは得意だが、家事なんかの方になると知識が足りなかったりして微妙なようだ。それでも、色々と便利そうなものを作っているのを考えれば相当有用だろうと思う。

 今のうちに引き抜いておきたい。


「あなたさえ良ければですが……」

「行きます行きます!でもちょっと色々用意することがあるので明日以降でも良いです?ここを引き払ったり、出国の手続きしたり籍抜いたり……」

「構いませんよ。あなたの準備が整うまでは王都に滞在します。あ、お名前聞いても?」

「あっ、そういえば……クラーラです。自称発明家……ですね」


 研究者というか、色々と開発することに携わりたかったが腕がついていかず断念。しかし思わぬところで救いの手が来たのだからもう手に取るしか無いだろう。

 優秀な人材の居る所で、自分の暖めていた案を作れれば……資金が無かったり技術がなくて出来なかったことが出来ればもしかしたら認められるかも?

 そんな感じでダメ元に近い感じでサイラスに付いて行くことにした。


 ただ王都だけでなく国を出て行く事になるのだからきちんとした手続きは踏まなければならない。

 ちょっとばかり時間がかかりそうだが、待っててくれるというのだから信じるしか無いだろう。

 これが詐欺で引き払った後に誰も迎えにこないとなったら泣くしか無いが。

 きちんと自分達の居る宿の名前と代表者の名前を教えてくれているので、大丈夫……だと思いたい。


「……よし、商品は……どうしよう……?」

「あぁそれに関しては後ほど。手続きだけ先に済ませて下さい。荷物の運びこみはクラーラさんが準備終わったら一気にやります。一緒に来ていたリヴェリいたでしょ?空間魔法もちなんで」

「あぁ!それは助かります!数は多いけど見ての通り小さい店なので嵩自体は無いはずです。これからよろしくお願いしますね!」

「ええ、あぁそうだ、私はサイラス・ライナー。研究者だよ。向こうに行ったら面白いものが見れる事を約束しよう。物質創造、魔法鍛冶、魔道具技師なんかもいるから様々なものが作れると思っていい。今までやりたくても出来なかったことなんかをやってみるといい」

「あれ?あなたが代表者じゃないの?」

「どちらかと言うと雇われている方だね。雇い主はそこに書いている通りテンペスト・ドレイク。会うとびっくりするかもね、では私はその宿へ戻っているし、誰かは必ず残るようにしておくからいつでも来るといい」

「はい!ありがとうございます!」


 そして新しい場所へ行くのを楽しみにしながら、用意を始める。

 もともと自分のものというものは少ない。あるのは父から受け継いだ道具達だけ。

 住み慣れた場所を離れるのは少し寂しいけど、やっぱり自分は自分のやりたいことをしたい。

 よくよく考えて見れば具体的なこととか殆ど聞いてないけど……もう成るように成れ、だ。

 ヤバイところだったらさっさと逃げよう。


 □□□□□□


 クラーラと合流して、その日は宿に迎え入れた。

 自己紹介を終えて夕食をともにした後、テンペスト達のいる部屋に集まって話をしていた。これで男女3人ずつで6人となるが……ベッドが一人分足りない。トレーラーにはスペースはあるが人数分しかベッドを取り付けていなかったのだ。

 どうしようかと思ったら、クラーラがゴソゴソと鞄を漁って重そうな物を取り出した。


「ベッドならこれがあります!10組作ってあるので全員分ありますよ!っていうか、テントにベッド使うんです?随分大きいテントを張るんですね」

「いやテントじゃないよ。もっと別な奴……だけどこれは……う、重い……」


 簡易ベッドの様な何かみたいだとは思ったのだが、重い。そして大きい。

 折りたたみ式の普通のベッドみたいな感じだ。


「やっぱり、そうですよねぇ重いですよねぇ……。調子に乗って作ったはいいけどドワーフくらいしか使えなくなっちゃって。旅をするときにも快適な眠りをって思って作り始めたんですけどね。こう見えて結構フカフカで気持ちいいんですよこのベッド。……持ち運べれば……ですけど……」

「サイラス、トレーラに組み込めばベッドを出しっぱなしにしなくても済むかもしれない。普段はしまって置けるから小さめのものでも寝ることが出来る人数を増やせるかもしれない」

「あの、カストラ男爵……様?そのトレーラーって何ですか?テントじゃないんですよね?」

「簡単にいえば……移動式の家だよ。正に。明日出発する時に見せられるから楽しみにしているといいよ」

「家が動くんですか!?サイラスさん!今、見たいです……!!」


 お楽しみは後に取っておこう。

 そう言うと相当がっかりしていたようだが……とりあえずベッドの問題はなんとかなりそうだ。

 折りたたみベッドを使って寝てもらうことにする。


「明日、王都を出発します。……それとクラーラさん、私のことはテンペストと。領地では対応してもらうことになりますがこちらでは基本それで通しています」

「えーっと……いいのかなぁ……だって、貴族なんですよね?」

「テンペストは身分が必要なときにしか使わないんだよ。それに私達は半分遊びで来ているのだからそっちの方が気が楽でいい。ほら、貴族っぽくないでしょ?私達以外は誰も居ないんだ」

「えっ、別なところで控えてるのだとばかり思ってました!というか、ここにそのまま通されるのも変だと思ってましたけど……ハイランドの人達はみんなこんな感じなんです?」

「ボク達だけじゃないかなぁ……」


 そもそも階級というシステムは理解しているが、貴族と言うものはいまいち良く分からないところがあるのだテンペストにとっては。

 どの道必要である場所では遠慮なく使うし、きちんとした名乗りを上げるときにも使う。

 ただ今回のように完全にオフの状態で行動しているときには一般人として過ごすつもりだった。

 トレーラーがある時点で目立っているのだが……。


「でも何でこんな少人数で……護衛とかはいらないんですか?」

「護衛ねぇ……。まあ途中でなんかあったら分かるよ」

「何かあったら駄目じゃないですか!?」

「普通はね、そうだよね……」


 魔鎧兵が1機いる時点で大抵の場合は過剰戦力だ。それにプラスして近接戦闘が可能でやたらと強力な魔法を扱える男爵2人に、広域魔法を扱うニール、精霊魔法を扱うエイダ。護衛が必要とは思えないレベルだったりする。

 トレーラーに引きこもっていればとりあえず安心というのも大きい。

 そうでなければ重要人物をそのまま行かせるわけもない。

 が、そうした事情を知るわけもないクラーラは意味がわからないと言った風で首を傾げていた。


 □□□□□□


 翌日、停めてあるトレーラーへ向かうと、その姿を見たクラーラが止まった。


「何ですかね、あれ。凄く大きなものが置いてありますけど……」

「何って……あれがボク達が乗ってきたトレーラーだよ?」

「はぇ!?えっ!?あれに乗るの?今から??」

「そういう事、とりあえずもう乗っちゃってよ」


 ニールに背中を押されて恐る恐る入っていくクラーラだったが、中にはいった瞬間にまた固まった。


「何ですかこれ!!超豪華じゃないですか!!家じゃないですか!!」

「だからそう言ってるじゃない……。これはトレーラーって便宜的に呼んでいるけど、魔導車に牽引式の家を取り付けたようなものだよ。中は見ての通り、凄いでしょ?テンペストとサイラス博士が作ったんだよこれ」

「こんなものを作れるだなんて……なんか凄いところに行くことになってしまったような気がしてならないんですけど……」

「安心して。その通りだから」

「私必要ですかね?!なんか、もう発想から完全に別物なんですけどっ!」


 色々な魔道具やらを見ては何に使うのかとか、どういう仕組で動いているのかとかそういうことを色々と聞いていた。

 動き出したら動き出したで子供のように窓に顔を押し付けて外を見ている。


「おおぉぉぉぉ……動いてる……動いてるよ……馬が居ないのに……!あれ?そう言えばすごく静かだね?」

「防音にはこだわりましたので。後、サスペンションも特製のものを使っているからこういう舗装された道を走る分にはこんな感じですね。悪路では流石に衝撃を吸収しきれないので揺れますが」

「テンピー、あれは揺れのうちに入らないと思うの私。こう……お尻が突き上げられるようにガツンガツン来るのが揺れだと思うの。どっちかというと船に乗っているときの動きに似ているかも?」


 重量があるので揺れるときも少しゆっくりとした感じになるのだ。

 なので細かい揺れ自体はそもそも殆ど感じない。

 大きな揺れは感じるがそうなると確かに波に揺られる船に似ているのかもしれない。


 そして王都から出ようと門に向っているわけだが……。


「……ん、何だありゃ。門のところに人集り出来てやがるな」

「確認しました。門が閉まっていて門番と商人らしき人達が揉めているようです」


 望遠鏡で確認したテンペストがコリーに報告する。

 厄介ごとの気配がものすごくする。何でここに来てまた巻き込まれるのか……不幸はもしかしたら同行しているサイラス博士が引き寄せているのではないかと勘ぐりたくなるレベルだ。


「……何を考えているのかは分かりますけどね……。流石にここまで来ると本当に自分が厄介事を引き寄せてるんじゃないかって思いますよ?本当に」

「せめて厄介事を引き寄せる体質は四肢と一緒に置いてきて欲しいところです」

「この際本当にそれが出来ていたら良かったけどねぇ。私は穏やかに暮らしたいだけなんですがねぇ?なんでこうなるのでしょうね?」


 かなり突っ込んだ言葉ではあるが、テンペストもサイラスがこの程度で怒ったり、気にする人物ではないのを知っているからこその冗談だ。

 どちらかと言えば自分の体を全部こういった別物に置き換えられたら早いのに……などと言う程度には順応しているし、実際にそう思っているところがある。

 その場合、テンペストの近くでジャミングを受けた瞬間死ぬ可能性が高くなるわけだが。

 なくなった腕や足に未練がないわけではないが、見方を変えればこの義肢によって驚異的な力を使えることになり……それはつまり、サイラスが子供の頃夢見ていた漫画のヒーローなんかがサイボーグに改造されて人並み外れた力を手にして悪と戦うそれと重なるのだ。


 切り落としたやつは許さないが、それはそれである。


 そうこうしているうちに貴族用の門へと着いた。向こう側だけが揉めているのかと思ったがこっちも門が閉じている。

 何かあったのだろうか。


「なぜ門が閉まっている?襲撃でもあったのか?」

「大変申し訳ございません、モルサエントが確認されました。更にミミックタイプの魔物が居るようでしてハンターが襲われております。安全のため門を閉めて対応中なのです」

「馬車だと襲われた時が危険だな。こいつなら問題ないのだが駄目か?」

「……上級貴族様もお待ち頂いております。どうかご容赦を」


 下級貴族であるテンペスト達が上級貴族を差し置いて出たとなれば文句が酷いだろう。

 色々と怒らせると厄介な人達なので、ここで足止めを食らってる時点で相当お冠のはずだ。刺激しないほうがいいだろう。


「……仕方ないか……。で、駆除の方は?」


 苦々しい顔になったということは芳しくないか。どれだけ時間が経っているかわからないが恐らくずっと文句を言われ続けていてきついだろう。

 その辺は門番達には同情するしか無い。

 馬車を預けて貴族用の控室などで待ってもらいたいという事だったが、幸いこのトレーラーにはその機能があるわけで。


「俺達はこれの中で待っている。構わないか?」

「構いません。ではこちらへ移動をお願いします」


 誘導されていくと豪華な馬車が並ぶ場所へと通される。

 何台か魔導車があるが流石にテンペストのトレーラーのようなものは一台もない。


 やはり浮いている。

 しかしあの成金貴族っぽいアレのような悪趣味な感じの魔導車は無かった。

 上級貴族が居る方を見ても品がある物しか無い。やっぱりあれは異質だったようだ、恐らく貴族界でも笑われるタイプの物だっただろう。

 異質なのは自分達もなのだが。


 そして半日が経つ。


「……まだ終わんねぇのか?」

「もう昼も過ぎたのですがね……なんだか先程から慌ただしいですが」

「ちょっと聞いてくるか。博士とニール借りていくぞ」

「どうぞ。こちらは私だけでもなんとかなります」


 少し着替えて貴族っぽい服装となったコリーと、それの従者であるサイラスとニールが出て来る。

 なんとなく新鮮な感じがするが、最初から貴族の家の息子であるコリーはやっぱり似合っていた。

 いつものめんどくさそうな表情で、適当な話し方をするコリーではない。

 コリー・ナイトレイ男爵。ナイトレイ家の十男。男爵の地位を貰い現在自分の家からは独立してちゃんと男爵しているのだ。

 その様子にずっとに居たはずのニールのほうが驚いている。


「……コリー凄く……なんだろ、かっこいいというか……」

「なんかニールがそういうのとか違和感あるな。一応俺は貴族の息子だぞ?」

「うん、今それを実感してる」


 クラーラはもうどうにでもなれと言った具合だ。

 ベッドを展開してその上で固まっている。


 テンペストが出ていくと見た目だけで色々絡まれそうなのでとりあえずコリーが動くことにしたわけだが……ともかくここを出ないことには何も始まらない。

 状況を聞いてみるのがいいだろう。

 コリーはサイラスとニールを連れて門へと向った。


 □□□□□□


「は、その……駆逐に時間がかかっておりまして……」

「もう大分経ちますよ?帰るだけならまだしも、時間が勝負の商人やら上位貴族の方々は相当お怒りなのでは?」

「……そろそろ、引き止めるのも限界かと……」


 サイラスの言葉にげっそりとした門番が答える。

 さっさと終わらせられるかと思って待っていたのに、流石にここまで時間がかかるとそりゃあ怒るだろう。実際テンペスト達もここまで掛かるとは思っていなかったのだ。

 なのでもう適当に介入しようとしている。さっさと帰りたいのだ。


「そこで我々からの提案なのですが。敵はモルサエントの他ミミックと呼ばれる擬態生物であると聞いています。詳しい情報を教えてもらえるのならば我々が道を切り開くのも吝かではありません」


 ついでに言えばどんな魔物なのか確かめておきたいというのもある。話だけ聞いてみれば恐ろしいが、このトレーラーには無力だろう。サイラスの操るサーヴァントもそうだ。


「しかし、他国の方を頼るわけにも……」

「ええ、それは承知しております。……なので我々のことは今はハンターとして考えて頂きたい。ハンターの資格を持っていてこの様な危機の時にのんびりと待っているのも都合が悪い。分が悪いのであれば他国のハンターだろうとギルドが繋がっているのだから義務はあるでしょう?」

「確かに、そうなのですが」

「……大体兵はどうしたのです?魔鎧兵一機出れば済むのでは……?」

「軍の正規兵が出るのは本格的に危険が増した時です。それは戦争や危険度の高い魔物が現れた場合なのです。この辺でよく見られるモルサエント等はその対象ではありません。それまでは平民の一般兵が出ます」

「しかし……そんなに難しくないのであればなぜ手こずっているので?」

「見つけられないのです。動かずにいれば探知魔法でもわからない程に周囲に溶け込んでしまいます。また、攻撃を受けて反撃をしてもすぐに擬態されて見失います……一度本体を捕らえてしまえばそれほど強くないのが厄介なのです」


 かと言って燃やし尽くしたところで本体が土の下だったりすると意味がない。

 実際、かなりの確率で火を放った後には地下に潜ってやり過ごす事が確認されているのだ。


「……なるほど。つまりは発見さえ出来れば問題ないわけですね?いつもはどのようにして捕らえているのです?」

「何かしらの攻撃を加えて、動いて逃げた先に本体があります。なので石を投げてみたり斬りつけてみたりです。ほぼ植物のようですがやはり生物なので攻撃されると動きますから……。水の中に居る透明なスライム等は素足で触るとそこだけ僅かに温かいので分かりますし、そうでなければ上から砂や土をかければ浮かび上がりますが、植物や土自体に擬態されているのでそういった手も使えないのです。素手で触ったりするなどというのはスライムであっても以ての外ですが」

「ん?熱を持ってるのですか。なら恐らく見分けられるでしょう」


 熱があるなら赤外線カメラが有効だろう。

 それであればサイラスとテンペストが有効だ。二人共ピット……つまり赤外線を見る目を使える。


「……なるほど、サイラスの眼が使えるな。ハンター、コリー。そしてハンター、サイラスとして協力しよう。ニール、そういう事だ。戻ってカストラ男爵を護衛しろ」

「畏まりました」


 ニールが従者として行動する。そして……コリーとサイラスは一度武装してから門の外へと出る。


「2人だけで良いので?」

「ああ。テンペストが出るまでもないだろ。今回は博士も生身だが……基本索敵だ。攻撃は俺と他のハンターたちに任せてくれていいぞ。……博士の魔法も悪目立ちするからな」

「地味なのもありますけどね?まあ今回は索敵に集中しますが……あまりに熱が微弱だと分かりにくいかもしれません」

「なんとなくでも見つけられりゃ良い。さぁて、行くぞ博士」

「了解『フリアーシステム、起動。視えざる敵を映し出せ』『リジェネレーション』『強化外骨格、起動。鎧よ、一体となりて我が意のままに動け』『パワーアシスト』……準備出来ましたよ」

「……テンペストと言い、なんというか詠唱が独特すぎるぜ……なんでそんな短く出来るのやら」



サイラス「やはり全身義体化すればトラブルも……」

ニール「いや、本当に死にますよ?」

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