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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第五十話 テンペスト、嫌悪を知る 

 栗毛の綺麗に整えられた髪の毛、同じく茶色の目、整えられた髭に数々の装飾品。

 この糞暑い中でも汗をダラダラ流しながら長袖の蒸し暑そうではあるが豪華な服を着ている。

 一応、温度を下げる魔法は掛けてあるのだろうが。無駄だ。

 そもそも先に痩せたほうが良いだろう。ズボンの上に贅肉がでっぷりと乗っている。


 そんな男がまだ少し赤い顔でこちらを睨みながら、変な装飾の施された魔導車に乗ってきている。

 後部座席のベンチシートは豪華なソファに改造されて、そこに乗っているのだが若干狭そうだ。

 ソファがでかすぎてスペースを圧迫しているのだ。かなりもったいない。


 音もなく横付けされた趣味の悪いジープだが、さらに観音開きのドアを開け、そこから階段を出してレッドカーペットを敷き始めた。

 この近距離で広い場所にやるように転がしたもので、勢い良く転がってきたカーペットがテーブルセットに接触しそうになり、それをサイラス博士が足で踏んで止めると更に睨んでくる。

 さっきの執事らしき人物はこっちと主人の顔を見ながらオロオロしていた。可哀想な人である。


 控えめだが花びらを使用人が散らし、その中を降りてくるレイモン伯爵。

 何の演出なのか分かったものではない。王様でもこんな事しないのではないだろうか。

 しかも誰も見ていないようなところでこれだ。

 多分頭がどっかおかしい。


 それを正面に見据えてジュースを飲んでいるテンペスト。こっちはこっちで緊張感の欠片もない。

 迎える気も無いから簡易の椅子のままだ。


「……呼んでも来ないとはどうい」

「要件は何でしょうか?レイモン伯爵」


 うるさい小言が出てきそうだったのでぶった切ってさっさと本題に入る。

 椅子は出ない。


「客が来たのに椅子もだ」

「要件は?」

「こ、この、小娘が……!!」


 後ろを向いて怒鳴りつけて椅子を持ってこさせている。

 それにどっかりと座るともうイライラも隠さずに不機嫌そうにしていた。

 当然飲み物も出ない。そもそも呼んでもいないし完全に来てほしくない客だった。


「カストラ男爵と言ったか。どうせどこぞの成り上がりが親なのだろう?貴様のような小娘がそのような身分不相応な物を持つと苦労するぞ。悪いことは言わないから我にその魔導車を寄越すが良い」

「……成り上がりは否定しませんが功績は私が残した物、国王陛下に認められ男爵位を拝領し領地を得たものです。身分不相応な物……とは何でしょう?」

「その後ろにある大きな魔導車に決まっているだろう。魔導車なのだろう?……全くもって嘆かわしい、この様な貧乏貴族の手に渡ったがためにこの様な見窄らしい姿のままとは」


 確かに沙漠デジタル迷彩柄は少しシンプルなため見窄らしいといえばそうなのかもしれないが……。この模様自体にはきちんと意味がある。

 それにトレーラー自体も色々と計算されて作られたものなので、形状自体にも意味はあるのだ。機能美というものである。

 それがわからないらしい。


「この魔導車、ハウストレーラーと言いますがこちらは居住だけでなく戦闘を行うことも考慮して作られたものです。そちらの様に装飾過多にしたところで目立つ上に重くなるだけで意味がありません。加えてこれは実験機であり、機密事項の塊です。これに手を出すということはハイランド王国全てを敵に回すということになりますがよろしいので?」

「は、ハッタリだろう。そんなに取られたくないのか。これと交換でどうだ?」

「……私達はそのような悪趣味なものを欲しいとは思いませんので。実用性は皆無に等しく、無駄に後部を重くしておきながらサスペンションの調節もなされていない。上り坂ではさぞ苦労されていることでしょう」


 レイモン伯爵の足元から頭までを見ながら言う。「お前無駄に重すぎるだろう?」と直接言ってもいいが面倒くさい。あのソファだけでもかなりの重量があるようで、後輪が沈み込んでサスペンションはずっと縮んだままだ。ちょっとした段差ですぐに限界まで縮んでしまってゴツゴツとした衝撃が来ることだろう。

 もともと柔らか目に作っているようなので完全に乗り心地重視なのだ。それにあの重量を掛けたらそれはそうなって当たり前だ。


「なら金か?1千万ルブルスか?5千万か?」

「桁が2つほど足りません」

「ふざけるな!!」

「実験機だと言ったでしょう?車だけでなく、その中身や装備品に至るまで全てが試作品などで占められています。更に素材なども高額なものが多く使われており、市販の時には様々なバランスが考えられて手の届く所まで落ちてやっとそれくらいでしょうか」


 ちなみに彼のは市販品を改造したものなので全てで2千万ルブルスといった所だ。ルブルスはコーブルクでの貨幣単位だが、ハイランドのラピスと同等だ。

 質も高く、信用がある硬貨なのだ。


 実際掛けたお金と、サイラスが生み出した高価な金属類等を考えると50億でも足りない可能性がある。実際の所、これは王族用にしか売れないと思っているし、売るつもりも殆ど無い。

 王族用であれば装飾などもある程度こだわったものを作り、色々な所を移動できるように少し幅と長さを妥協するだろう。ついでに武装も外れるし、内部の設備も色々と変わってくる。

 それだけでも大分安く出来るはずだ。

 そして、それを購入する財力を持っている。


 特に今はコーブルクを助けた時のお金、そしてルーベルが手伝わずに被害を拡大したということでの保証金などで色々と潤っているので。


「私を誰だと思っている!実力で奪っても良いのだぞ?その時は貴様も妾として貰って行ってやろう」

「……レイモン伯爵、確認です。貴公は我々ハイランド王国軍の実験機を不当に奪う、つまりハイランド王国に対して敵対する、と宣言したということでよろしいか。その場合、コーブルク国王、ならびにハイランド国王への報告をし、貴公の立場を改め、なお武力を行使するというのであれば……サイラス!」

「イエスマム」


 コリーが留め具を外してサイラスがサーヴァントを起動する。

 そのままコリーはニールに連絡して主砲であるレールカノンを伯爵へ向けるように指示した。

 ゆっくりとサーヴァントが立ち上がり、トレーラーの屋根に取り付けられていたサーヴァント専用の剣を取り出す。


「……もし、敵対するとここで宣言すれば鉄の竜騎士コリー・ナイトレイと魔導騎士サイラス・ライナーが受けて立つ」


 レールカノンのアームが伸びて俯角を取り趣味の悪い魔導車へと向けられ、サーヴァントがテンペストの横で右膝を立て、剣を立てて跪く。


「同じくハイランド王国竜騎士、カストラ男爵、テンペスト・ドレイク。全力を持って御相手しましょう」


 コーブルクでも、流石に彼らの名前までは知らなくとも、知られていることもある。

 ハイランドには恐ろしい翼竜を駆る竜騎士と、無類の強さを誇る魔鎧兵がいるという話だ。

 半ば戦場でよくある類の誇張された話だと思われているところもあるが全て事実であり、その実力はワイバーンが無くとも目の前に居る彼らを跡形もなく消し去ることは可能だ。


「最も、貴公が敵対する場合国際問題にもなるでしょう」


 流石に怒りが頂点に達したことで、剣に手をかけていたレイモン伯爵だが……彼らの装備を全く理解していなかったことにここでようやく気がついた。

 戦闘を行う事も考慮している、ということは当然武装もある。

 見た目は四角柱に何やらゴテゴテとした物が根元付近についており、その後ろには操作をする為の座席がある程度の防御をされてくっついてる。

 大きさや形は全く異なるがこれはまるで大砲の様だと気がついたのだ。それが自分に狙いを定めている。


 そして、カストラ男爵と呼ばれた少女の脇に居る獣人の男。鉄の竜騎士と名乗ったのだ。

 竜騎士といえばあの話が真っ先に思い浮かぶ。

 それを裏付けるかのように、コーブルクでも見たことのない魔鎧兵が跪く。

 敵対状態で、だ。宣言した瞬間、奪おうとした瞬間、ここにある物ごと自分を斬り捨てるつもりだと理解する。


 最後に少女もいつの間にか鞘を手にして留め具を外していた。

 向こうは既に戦闘態勢が整い、いつでもこちらを仕留める準備がある。

 更に……コーブルクを救い、そしてミレスを滅ぼした英雄達であることが本当であれば……生き延びられたとしてコーブルクではもう居場所はなくなるだろう。

 それだけなら良い。国家反逆罪で捕らえられてやはり死ぬだろう。


 今手にした剣が僅かにでも動き、刃が出た瞬間死ぬ。


「返答を」


 恐ろしい。自分でも今までにないくらいに心臓が動いているのを感じる。

 正面から来る殺気とプレッシャー。

 今まで自分にこうして楯突くものなどおらず、甘やかされてきたが……踏み込んではならない領域というものがある事を知り、そして自分の行動次第で即、死に繋がるという経験をしている。

 目の前に居る小さな子供、彼女にすら自分が勝つ未来が見えない。

 まわりが暗くなり、声が遠のいていく。胸が苦しい。息が……出来ない。


「く、カッ……」


 ダラダラと大量の汗を流し、剣に手をかけた状態で固まったまま……苦しそうな顔になっていく。

 有り余った肉がブルブルと震え、自慢のレッドカーペットに大きな染みが出来上がりひっくり返るようにして気を失ったようだ。


「……返答を聞いていないのですが……」

「まあ、あまり脅かしすぎたか?まさか気絶するとは思わなかったんだが」

『あ、足逆か。しまったな……まあ良いですかね』

「サイラス、それは問題ありません。……使用人、今すぐこの男を連れて行きなさい。一応、この場は引いたということにしておきますが、正式な返答を求めます。よろしいですね?」

「は、はっ!大変申し訳ございませんでした!」


 レッドカーペットに巻き込まれるようにして回収されていった。

 小物に対していじめ過ぎたかもしれないが、良い薬になるだろう。

 暫くざわついていた向こう側だったが、無視して楽しむことにした。サーヴァントとレールカノンはそのままにして皆でまた外に出て食事を続ける。


「あー……もうこれ食えないね……」

「良いよそれくらい、オークの肉なんてそれこそ腐るほどあるだろうが」

「確かに」

「また着替えてきます、待たされてお腹が空きました」


 油はねと匂いがつくのを嫌ってテンペストがまた着替えに行った。

 レイモン伯爵のせいで肉は焦げてしまったし、一緒にあげていた魚も酷い状態だ。


「それにしても……テンピーも人が悪いですね。あんな大事にしなくても決闘ということにして受けたら直接打ちのめせましたよ?」

「……その考えはありませんでした。決闘ですか」

「え、おまっ……分かっててやってたんじゃねぇのかよ」

「いえ。特には。ただ別な国の貴族同士が闘うとなった場合、色々と面倒なことになりそうだったのでそれを示した上で、こちらの戦力を見せました。向こうが力づくで奪うと言っていたのでそれに全力で対処するためにということと、引いてくれれば何事も無く終わるだろう思ったので」

「えーっと、もしかして向こうも同じような戦力持って挑んできていると思ってたり……?」

「ええ、そうですが……?違うのですか?」


 テンペストの中では自分達に対して攻撃を仕掛けてくると宣言するような奴等なので、自分達と同等かそれ以上の戦力を持って宣言しているものと思っていたらしい。

 いろいろズレている。

 実際エイダの言う通り、ここは決闘という形で受けるという手もあったのだが、そういう解決方法はテンペストにはなかった。教えられても居なかったので普通に知らなかったりする。


 ちなみにサイラス博士も儀礼としてこういうことは知っているものの、そこまで詳しいというわけでもなく……。

 とりあえず跪いていれば絵になるかと思って適当にやった結果、立てる足を間違っていただけだ。

 ちなみに右足を立てている場合、即座に剣を抜くことが出来るということで相手にはかなり失礼と見なされるが、この場合はむしろ「あなたとは敵対しました」という意思表示として取られていた。


 ニールはといえば、レイモン伯爵がひっくり返った辺りからもう声を出さずに笑っていた。

 真っ赤な顔をしてプルプルと頬肉を揺らしながらキレていた太った男が、ピタッとその姿勢から動けなくなり、こちらの名乗りを上げた後は真っ青になって別な意味で震えていたのだ。

 それが突然ものすごい勢いで失禁した挙句そのままひっくり返ったわけだからもう面白すぎた。

 一応、奥の馬車の方も見てはいたものの、こっちでどんなやり取りが行われているのか分からず、こっちがサーヴァントを出した辺りからこの世の終わりみたいな顔になっていて、誰も武装したりすらしていなかったのでほっといていたのだった。

 意外とニールは周りを見ていたのだ。


 その様子を隣で見ていたルビィ商会の若頭とコリーの目があったのだろう、格好だけの乾杯をしていた。商人の方もこうしている所を見ると問題児だったのだろう。

 向こうでてんやわんやしているのをみてニヤニヤしていた。


 コリーとは相当気が合うようだ。


 □□□□□□


 サーヴァントを牽引車に乗せて夜になった。

 夜とは言え明るいこの街は、昼とは全く違った顔を見せるのだが、もう一つ変わったことがあった。


 レイモン伯爵だ。

 正式な返答を求める、と言っていたが本人がひっくり返ったままなのでほったらかしになっていたのだが、夜になり執事とともに今度はふらふらしながらも歩いてきた。

 心なしか顔もげっそりしたような感じがするが……げっそりというか、頬肉が垂れ下がったというか……。


 何か喋る前に突然地面に頭を擦り付けて謝ってきた。

 土下座スタイルなのだが、太っているせいで丸い何かが蠢いているようにしか見えない。

 どんな格好をさせても様にならないらしい。


 お許しを!と連呼して煩かったが、終いには靴を舐めますから!とか言いながらテンペストの足に擦り寄ってきて思いっきり蹴られていた。

 屈辱的な行為ではあるのだろうが、どちらかと言うと気持ち悪いだけだし、綺麗に磨き上げたお気に入りの靴が唾液で汚されるなど以ての外なのだ。

 鼻血を流しながら許しを請うその姿は、もう昼の傲慢な彼とは違っていた。


 そんなことをしていると横に居た執事がお詫びの品をと言って箱を持ってきたのだが、一応本物の宝石ではあるものの見事に趣味の悪い物がみっちりと詰まっていた。正直いらない。

 突っ返して公式の文書できちんとした手続きを踏めと言って追い返したら、またぽかーんとした顔をしていた。


「心の底からの謝罪じゃなかったしな。見れば大体分かるというのに馬鹿だね……」

「今までは何かあった時にはああやって許してもらってたんですかね?見苦しいというかなんというか……」

「あれでこちらの怒りをおさめてもらおうだなんて何を考えているんだか。むしろ余計にイラッとしますね」

「気持ち悪いです。ひたすらに気持ち悪いです。人の靴を舐めるなどと巫山戯ているのですか?たとえお気に入りでないものであってもお断りです」

「私も同感です、テンピー。あれは気持ち悪いです。女性の敵です」


 ここに来てテンペストは嫌悪感というものを学習した。

 理屈ではない。身体が、頭が拒否するのだ。アレを遠ざけろと。

 ちなみにニールの態度に関しては特に嫌悪感を感じていない。まだチャンスは有る。


 そして伯爵の方だが、公式にきちんとした手続きを踏んでの謝罪は、色んな所に記録が残る。

 そこに至るまでの経緯なども詳細に。

 つまり今まではなぁなぁで済ませていた事が、ずっと残り続ける。

 そしてそれは身辺調査などを行った際に公開されるものでもあり……常にこの汚名がついてまわる。

 内容もかなり過激なものであり、本来ならば極刑待った無しの状態だった所をテンペストの温情によって見逃してもらった形となり、コーブルク王国全体としては見過ごせない物となるのだ。


 テンペストが何かしなくとも、謝罪を出した時点で王国側から何かしらの沙汰があるのが決定した。……が、テンペスト達がそれを知るのはもうちょっと先のことだ。


 扉を閉められてもなお、外をウロウロしていたりずっと土下座スタイルをして見たりしていたが……すぐに膝が痛くてやめているなど本気でやっていないのは明らかで同情できない。

 邪魔だったので奥で控えていた者達のところへ行き、さっさと回収して消えろとサイラスが脅した所、暴れるレイモン伯爵を縛り付け這々の体で逃げていった。


 次の日、扉を叩く音がしてドアを開けると、ルビィ商会の若頭が居た。


「いやぁ昨日は面白いものを見せてもらいました。これはここに居た者達皆からの礼です」

「おお!上等なやつだなこれ」

「昨日のあの伯爵は先代は良かったのですがね、今は見ての通りでして。内外問わず評判は最悪です。女性には色目を使い、人の妻であっても金で買おうとしたり、昨日のように人のものを欲しがったりとまぁ迷惑なやつでして」

「あれで懲りればいいがね。まああれ以上踏み込まずに謝罪をしようとしたのは正解だったが。抜いた時点でここ穴ぼこだらけになってたのは間違いないからな」


 レールカノン、サーヴァントの剣と榴弾、コリーの雷にテンペストのブラスト。一斉にそんなものが放たれた場合駐車場だけでなくこの綺麗な景観にまで被害が及んでいただろう。

 あの場ではそれを躊躇なくやろうとするくらいには苛ついていたのは事実だった。


「そうならずに済んで良かった。あの兵装や魔鎧兵を見ればそれが誇張でもなんでもないことは分かります……。それにあれの後ろには一応大物が居りますが、それもあってこちらの貴族はなかなか手出しができませんでした。しかしあれだけ大事にしてしまったのですからもう逃げられません。もし何かあった場合には私達全員が証人となりましょう。恐らく完全に見捨てられる形となるでしょうから報復などは無いでしょう」

「なんか、死ぬのが早いか遅いかという感じだな」

「事実そうです。公式に謝罪した場合、それを管理する王国側も目にしますから恐らく大問題になります。この場は許されたとはいえ、王国側からの責任追及はあるでしょう……そうなるといくつかの重罪が重なって確実に死刑。死刑にならなかったとしても、公文書で残りますから評価は最低どころかマイナスまで落ちるでしょう、お金を貸すところも無くなります。まあ……働けるとは思えませんので野垂れ死にでしょうな」

「マジか」


 王国が本当に動くという所まであると聞いてテンペストが何気なく言った言葉が相当恐ろしいものであったことを知る。

 当の本人は普通に会いたくなかったのと、上っ面だけでなく誰もが公平に内容を見て理解できるようにして、言った言わないの不毛な争いをなくそうとした結果だったわけだが。

 テンペストも言った言わないにかかわらず、極刑になる可能性があることまでは知らない。まあ、知る必要もないだろう。


「まあそんなわけで色々と苦労を掛けさせられたものですが、こうしてかたを付けていただいてしまった訳ですから、こうしてお礼という形で」

「そうか……分かった。では受け取っておこう、よろしく言っておいてくれ」


 □□□□□□


 その後特に何かあるわけでもなく無事にゆったりとした時間を過ごした。

 最後に離れる時に色々と買い込んで来た道を戻る。


「あそこはまた来たいですねぇ」

「同感だな。ハイランドにはない所だからな……なんとかハイランドに接してる海もあんな感じにならんもんかね?」

「調査した人達の報告では、あのへんは全て断崖絶壁で下に降りる手段がロープで行くしか無いということです。下まで行けば一応砂浜みたいなところはあるということですが狭い上に海が荒れているためそもそも泳げないという話です」

「駄目か……」


 こればかりは立地上の制限なので仕方ない。

 そして今回はあの雨の酷い所の手前で休んで一日で渡り切る様にした。

 また足止めを食らって苦労するのはゴメンだ。


 特に足止めを食らわなければあの被害を受けた街までもさほど時間はかからない。

 途中何度か魔物の襲撃はあったものの特に問題なく返り討ちにして素材もしくは食料となった。


 そして、オークの襲撃を受けたオールトン伯爵領につくと、既に壁は本格的な修理が行われたのだろう、真新しい綺麗で厚さも増したものへと変化していた。

 門番がこちらに気づき、手を振っている。

 助けた兵士の中の1人なのだろう。


「まさか、貴方がたがあの竜騎士だったとは……改めてお礼を言わせて下さい」

「いえ、気になさらず。こちらが勝手にやったことなので、本来はコーブルクの方々の仕事を奪ったようなものですから」

「どの道間に合うことはなかったでしょう。彼らが急いで駆けつけたとしても、我々は壊滅した後だったでしょうから。貴方がたは私達の恩人です。人が居なくなった家などを取り壊して今区画なども整理していますから、そこに停められるといいでしょう」

「了解しました」


 テンペストが助手席に居たのでそのまま応対した。

 特に中身をチェックされることもなく完全に迎え入れられた感じだ。

 いつの間にか居なくなっていたため、来たら礼をしたいということで皆待っていたらしい。

 入って行くと作業していた兵士やハンターの皆が集まってきた。

 口々にあの時に礼を言ってくれたわけだが、本当にこっちとしては無理やり介入してしまった感じがあるのでどうなのだろうと思っている。


 ただ、家内を助けてくれてありがとうだとか言われると、やっぱりこちらとしても嬉しい。

 もちろん中にはもう少し早く来てくれればというものもいたが、周りから諌められていた。

 あれでも話を聞いて急いできたので無理な話ではあるし、そもそも来る予定になかったはずの自分達が突然現れて解決していった訳だから、文句をいうならやはり何もしなかった元領主に言わなければならないだろう。そもそもきちんとした対策を言われていたように取っていればこんな事にはならなかったのだから。


 新しい領主もきちんと働く人らしく、自分達の住む場所を仮設した後は自らの魔法で修復等を手伝っているらしい。

 というかドワーフなんだそうだ。自分で動かなきゃ気がすまないんだろう。要塞の街になりそうな気がしてきた。


「おお!戻ってきておったのだな!新しくここの領主となったランベルト・ヴァルツァーだ!本来は儂らがやらなければならぬ事をやらせてしまって申し訳ない。来たばかりなのと復興中ゆえまともなもてなしも出来ぬが少し寄って行ってくれまいか?」

「ハイランド王国カストラ男爵領主、テンペスト・ドレイクです。このような時にもてなしを要求するほど落ちぶれてはいません。あの壁はオールトン伯爵が?」

「うむ。なにせちまちまと修復しておったのでな……あれではあっという間に崩れてしまう。壁は美しく機能的に、強度も均一にしなければ意味をなさん!あれではオークにまた壊されるのが目に見えておったからな。全部作り直した。その間持ち主の居なくなった家を壊し、色々と街自体を最初から見直すつもりで指示していたのだが……人族は作業が遅い……」

「基本体力と力、魔法の適性が一番低いからな人族は」


 しかし頭の良さでは短命ながらもエルフに次ぐ物がある。

 一旦領主の寝泊まりしているところへとトレーラーを移して、話を聞くことにした。


靴を舐めますから!と言われた時にテンペストは初めて、ぞわ、とした何とも言えない感覚を覚えました。不快でとにかく気持ちが悪いとしか表現できなかったわけですが、あれはあれでテンペストの学習に役立ったようです。


ちなみにニールは周りからは結構色々言われていますが、テンペスト本人からの評価は下がってません。むしろ最初にあったときから比べると相当上がってます。

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