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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第四十九話 レポノス

「美味しいですね」

「この海の夜景、思ってたよりもずっと良いな」

「ハイランドの王都よりも明るいんじゃないですかね」


 トレーラーの横で丘の上から見える海を見ながら酒を飲んでいる。

 ジュースにアルコールを混ぜたカクテルなど、美味しく沢山飲める物が多く種類も豊富だった。

 そして夜景はといえば、街全体が明るく照らされ、海もところどころに浮いた浮きが海の中を煌々と照らしていて青い海と白い海の底が見えてとても綺麗な風景だった。

 街の方も全体的に白い建物のおかげで、光が反射してとても明るい。

 この街には路地の暗がりという場所は存在しなかった。


 大分夜も遅い時間だがその明かりの下で歩いている人達は多い。

 少々気が開放的になるのか、砂浜のアチラコチラでは恋人たちの時間が展開されていたりする。

 水に入る時の服も下着を付けずに入っているようでピッタリと肌に貼り付いたそれからは、服の下がほぼ透けて見えるなど扇情的だ。

 完全に大人の夜の時間となっているのだろう。


 テンペストとサイラスは既に寝ている。

 酒を飲まない2人だがサイラスは意外と規則正しい生活を送っている。時間が来るともう大体寝てしまうのだ。テンペストは普通に体力の限界だ。そこはまだお子様なのだった。

 昼間、海でずっと遊んでいたから仕方ないだろう。


「2人はまだ飲んでいますか?」

「ん、そうだな。もうちょい飲んで……街に降りて夜食でも食ってくるつもりだ」

「あ、ボクも。夜は夜でちょっと変わったの売ってるらしいですよ」

「そうなんですか。でも私は今日はもう寝たいと思います、お付き合いいただきありがとうございます」

「いやこっちこそ。鍵は掛けておいてくれよ、ちょっと離れるし。サイラスがいるから問題ないとは思うがちょっかいかけてくる奴等が居ないとも限らねぇからな」


 女2人に男1人。そのうち全員がある種最強とも言える。

 サイラスとテンペストは異世界から来た強力な魔法使いで、テンペストは魔法使い殺しでもある。

 ジャミングを食らったら魔法使いの強化は全てキャンセルされてしまうから危険だろう。

 エイダもここまで目立った活躍はしていないが、優れた治癒魔法と未だ使われることのない強力な精霊魔法を扱える。

 後はこのトレーラーに魔法錠を掛けておけばトレーラー自体は破壊されることはまず無いだろう。


「……さて、いい感じに回ってきたな」

「行きますか?」

「おう、行くぞニール。ちゃんとリヴェリの可愛い子居る所は押さえといたぜ」

「流石コリー!正直ボク結構辛かった……」

「……まあ、だろうな。こっち来て行く隙がなかったから仕方ないが……。お前、好きな子目の前にしてそろそろ襲いかかりそうで怖かったからな」

「ボクそんなにやばそうでしたかね!?」


 そして2人は夜の街へと降りていく。

 昼間の健全な賑やかさから一変して、なんとも艶めかしい賑やかさへと変貌したその街は、

 露出の激しい女性たちや、酒で酔っ払った人達で溢れかえっている。


「お、ここだな。へぇいい雰囲気だな」

「いらっしゃい!お兄さんたちどんな子が好み?」


 そして案の定、ニールはリヴェリの中からテンペストによく似た子を指名していた。

 わかりやすい。

 というか後で大丈夫なんだろうか?


 □□□□□□


「おはようございます。……ニール早いですね」

「おはようテンペスト。いや、なんかこういうところでゆったり過ごすのって初めてだから寝てるの勿体無くて」

「なるほど。しかしまだ時間はありますから少しゆっくりしていてもいいと思います」

「テンペストはこれからコリーと組手?頑張ってね」

「今の時間なら人が居ないので、砂浜でやろうと思っています。足が取られるので良い訓練になりますので」


 シャツを肌蹴て起きてきたテンペストに対してクールな対応ができたニール。

 只今絶賛賢者モードだ。

 夜にこれ以上でない所まで搾り取られ、暫く力が入らずに立てなくなるほどだったのだ。

 おかげで朝の目覚めはすっきりしており、どす黒い何かは綺麗サッパリ消え去って頭のなかがとてもしゃきっとしている。


 テンペストは日課となっているコリーとの組手。

 組手というかほとんど実践訓練みたいなものだが。

 基本的に致命傷は寸止めするだけの過激な訓練だ。コリーもテンペストの為に結構本気で相手をしているので普通のゴロツキ程度なら相手に出来るだけの力を既に持っている。

 そこにサイラス博士も加わって色々と凄いことになっていた。


 博士は空手をやっている時に、色々な軍隊経験者や現役警官などから実践的な捕縛術や体術も教えてもらっている。

 例えば銃を突きつけられた時の対処法、そして効率よく取り押さえるための相手の意識を奪う方法など。特に博士の持っている技術は体格差のある相手をする場合などにもかなり役に立つ物が多く、テンペストとしては色々と勉強になっているのだ。


 テンペストも遠慮なしにジャミングを仕込んでくるので、似たような状況に陥った場合の対処法などもコリーは練習出来てなかなかいい訓練になっているらしい。


 ただし、外から見ている分にはもうそれは恐ろしいレベルの物だ。


 トレーラーの事もあり、馬車で来ている貴族が話しかけてくることもあった。

 買い取らせてほしいとか買い取るならどれくらいなのかとかそういう事だったり、護衛や私兵として雇いたいとかだったり。

 足元を見てくるような人は居なかったが、トレーラーの方は作るとしたらこれくらいと最低金額を喋ると黙りこんだ。

 実験機みたいなものなのでそもそも市販するようなレベルのシロモノではないのだ、これは。


 様々な装備品の試験を兼ねているため、魔導車の根幹部分以外はほぼ初めて作り出されたものが多い。

 新型サスペンション、大型タイヤ、気密確保用のパッキンなどの他にも様々な技術が惜しみなく投入された、まさに実験機の塊と言っていい。

 この旅を利用して使用感などを改善して量産に乗れば、それなりに安く提供できるが、これは貴重な鉱石なども惜しみなく使っている高級品なわけだ。

 加えて秘密にしておきたい装備なども諸々入っているため、値段は付けられないと言っていい。


 なので、提示したのは最低限。魔導車と中身空っぽのトレーラーのみという物だが、それでも相当な金額になってしまう。家を買ったほうが早いのだ。


 護衛などに関してはそもそも「他国の貴族に対して何を言ってるんだお前は」という事なのでその旨を教えてやればオシマイだ。

 でかでかとハイランド王国の紋章がついているのが見えないのだろうか。

 もしかしたら中に居るエイダやニールを護衛する者達とでも思われたか。


 そうしてすばらしい日々を続けて3日目。

 コーブルクの何処かの貴族だろう、魔導車がやってきた。やたらと金細工を付けて大きな旗を後部につけているが、正直普通のジープだ。コーブルクで一般向けに売りだしたのだろうか?

 形もまだ戦車だった頃の名残があり、厳ついものではあるが、とにかく縁取りされていたり金で作られた鷲の彫刻が鼻っ面にあったりと見ただけでやかましい。


 それを街の入口で見かけたコリーとニールはトレーラーへと戻った。

 どうせここに来るだろうと踏んでのことと、大体ああいう自己主張が激しい者達はトラブルメーカーなのだ。

 車内に残っているサイラス博士、テンペスト、そしてエイダ様だけでも相手は出来るだろうが、なにせ数が多い上に問題を起こそうものなら相手を殲滅できる戦力が2人もいる。

 相手に何かあったら面倒くさい。こんなに面白そうなもの見ないわけがない。


 □□□□□□


「早かったですね?」

「ああ、ちょっと楽し……面倒なことがありそうだったから戻ってきた」

「顔、にやけてますよコリーさん?」


 顔に出ていたらしい。

 相手が心配とか言うのは建前だ。二人共あの貴族が物凄いドヤ顔で偉そうに入ってきたので、あそこで自分達のトレーラーを見た時にどういう反応をするのかと楽しみにしているだけだった。


「お、来るぞニール」

「ホントだ。わざわざ屋根外して来たんだろうね。後ろでふんぞり返ってる時のあの貴族すっごく得意げだったし」

「このトレーラーは外側はそんな目立たないけど、中はすげぇからな。まぁ見せるつもり無いけど」


 今は後部が展開しているためトレーラーの後ろ半分位が左右に1m程突き出している。出窓のようになっているのでシールドが下りていない今はかなり目立つ。


 意気揚々と馬車を引き連れて入ってきた彼は、服装もかなり派手で目立っている。

 そして……ゆっくりと駐車場を見回して……トレーラーを見て固まった。


「あ、狼狽えてる。ボクああいう感じの人がこうやって格上見せつけられてビビるの見るの好きですね」

「奇遇だな、俺もだ」

「お二人共はしたないですよ?別に文句付けられたりしているわけじゃないんですし」

「いやいや、エイダ様そうでもないぜ。ああいったのは自分よりも上のがあるのが許せないもんなんだ。ハイランドの紋章に気づかないようだったら多分何かしらちょっかいかけてくるぞ」

「そういうものなのですか?」

「特に、ボク達みたいに見るからに貴族!って分からないと余計にだと思いますね」


 ついでに言えばこっちは下級貴族の扱いだ。

 辺境伯以上だと上級貴族となるので格上になるだろう。


 その彼は今、駐車場の隅っこに行ってこっちをちら見しながらやはり豪華なテントを張っていた。

 対してこちらにはテントはない。

 必要が無いので当たり前なのだが。

 外に折りたたみ式のテーブルと椅子のセットが置いてあるだけだ。

 それを見た彼らの得意げな顔がイラッとする。


 そこに何も知らないテンペストとサイラスが戻ってきた。

 軽く運動をした後に2人で海に入って遊んでいたのだ。ついでにテンペストはサイラスから泳ぎ方を教わっていたのだ。

 外側の小さな扉を開くと、シャワーの持ち手が現れて、そこで海の水を流していく。

 タオルを手に取り側面のドアを開ければ、ちらりと豪華なソファ等が見えるのだ。


 一転してあのトレーラーの内部がどういうものなのかを、外側の出窓とともに理解した彼はまた憎々しげな顔で睨んでいる。

 それを見ながらコリーとニールは笑い転げていた。


「……?どうかしたのですか?」

「いえ、なんというか……」

「ああすまんテンペストを笑ったんじゃないんだよ。奥にやたら派手な魔導車が停まってるんだがそれの持ち主がこっちに対抗心燃やしては撃沈しててな。得意げな顔になったかと思えば悔しそうにしたり色々面白くてな!」

「本当ですね、やたらと無駄な装飾が多い魔導車が停まっています。気づきませんでした」

「あっはっはっは!気づいてもらえてないじゃんか!あはははは!」

「何悪趣味なことしてるんですか……で、昼食は外で食べますか?日差しが強いからサイドオーニングを引き出しますか」

「……博士、なんだかんだで楽しそうだな?」


 サイドオーニングはキャンピングカーなどにはよく見かける装備品だ。

 ロール状の撥水性の布等を引き出して簡易の屋根を外にかける装備品だが、当然ながらこのトレーラーにも装備されている。

 今まで使うことはなかったのに使おうと言い出した辺り、恐らく色々見せつけたいところもあるのだろう。

 当然、人力ではなくスイッチひとつで自動展開である。


 バーベキューセットを持ち出し、炎を出さずに豪快に肉や魚を焼き上げていく。

 ニールとサイラスが中心となって色々準備しているが、流石に貴族であるコリーとテンペスト、神子のエイダに働かせる訳にはいかないという配慮だった。


 完全にテンペスト達のところだけが時代がおかしい。


「これくらい晴れている日が続く所であれば、ソーラーパネルなんかがあれば魔力作り放題ですね」

「なんですかそれ?」

「太陽の光をそのまま電力に変換していく装置ですね。変換効率は悪いんですが晴れてれば使えるのでそれなりに便利です」


 しかし流石に材料も工場もない現状ではそれを作り出すことは出来ない。諦めるしか無いだろう。

 その代わりに水力発電、風力発電は比較的楽に作れるため有用だ。


 ここで後ろで馬車を停めている人達に焼きたてをおすそ分けしておく。お酒もセットだ。

 彼らは近くの街の大商人だったらしく、最初にこのトレーラーを見てから購入したいと言い出してきた人だ。純粋に商売に使える!と思っての事だったが残念ながら資金が足りない。

 改めて後で魔導車を購入して馬車を改造した荷車を引っ張ることで対処することを教えてやると、色々と話しをしてくれたりと若干仲良くなっていたのだった。

 ついでに色々宝石などを見せてやったら欲しがったので売ってやったりもした。

 国を超えてハイランドまで来てくれそうな感じだったので紹介状を渡してある。いつかハイランドに商売に来た時に見せれば優遇されるだろう。

 品揃えなども結構良くて話を聞いていればかなり良心的な運営をしているようなので気に入ったということもある。


「これはこれは、コリー様!よろしいのですか?」

「あぁ、さっき獲ってきた魚と来る途中で仕留めた肉だ。貴族っぽくはないがこういう俗っぽいのがお気に入りなんでな。良ければ食べてくれ。肉自体は高級品になるやつだぜ?」

「これは……おお……オークとワイバーンですかな?なるほど……。……これもいいので?」

「あぁ少々多く取り過ぎたもんでな……。あんたらがこっちにも来てくれるっつーならそれもやるよ。……効きはいいぞ。昨日試したからな」

「それはそれは……私も一本使わせてもらいましょうかね……」


 オークの雄の生殖器だ。

 こっちもワイバーンと同じで強壮剤の効果がある。オークのほうがどちらかと言うと回数をこなせるということもあり、人気も高い。

 例の騒ぎの時にかなりの数手に入ったので別に確保してあったのだ。

 全て凍らせて保存してある。


「こんなにもらってただで帰したとあっては商人の名折れですな。では私達からはこれを……」

「なんだこれは……箱?」

「ただの箱ではないのですよ。開けてみれば分かります」

「何だ?中が見えんな……」


 見た目豪華ではあるが、ただの薄い箱に見える。大きさは縦1mに横60cm程度とやや大きめだ。

 しかし中を開くと浅いはずの箱なのに中が見えない。

 真っ黒な吸い込まれていきそうな闇が広がっているのだ。


「これはレポノスと呼ばれている、大商人にとっては必需品でありながらも持っている人は少ない貴重品です。ここ最近になって開発されて今はまだ一般には出回っておりません。特殊なワードを刻み空間魔法を用いずとも大量の物品をこの中に入れることが出来ます」

「……いいのか?こんなのもらっちまって」

「これからの付き合いを考えれば安いものです。このコーブルク王国、ルビィ商会とハイランド王国とで様々な品で交易をしたいですから……。その中にそのレポノスもありますので」

「ん、もしかしてこれ作ってるのって……ルビィ商会の中にあるな?」

「えぇ。その通りです。一応注意事項ですが……クロノスワードを発動してあるので中に生きたものを入れるのは止めておいた方が賢明です。完全に停滞しているわけではないのでずっと入れっぱなしにしておくと腐ってしまうのは仕方ないのですが、人などが入った場合にどういった影響が出るか……。それと箱が破壊されると中の物が取り出せなくなるか、そうでなければそのまわりに散らばります。どっちになるのかは正直分かりません。逆に利点ですがこの通り小さめで薄いのでその辺の隙間にでも入れて置けます。中に入る量は荷馬車30台分程は入りました。それ以上になると無理のようですがまぁ、普通の使い方なら十分かと思いますが……。魔法錠を掛けておけば盗まれても安心です」


 フルに入れている時に箱が壊れることがあったら恐ろしい。

 まあそこは壊れないところに入れておけばいいだろう。


「それにしても荷馬車で30台分か……かなりの節約になるんじゃないか?」

「そうなのです。ただ、私共の方では少々空間魔法使いがうるさくなりまして。今ちょっと揉めております。その点、ハイランドはそもそもが高山地帯で高低差が激しいというではないですか。そういうところでこそこのレポノスの有用性が出るかと思いまして!」

「む……そうだな。確かに荷物が重いと馬にも負担がかかる。これだと30台分を運べるか……口はこれ以上大きく出来ないのか?」

「今はまだそれ以上は。小さくは出来ますが同時に収納量も減ります」

「運べるものは限られるな。……一つ提案だが、これに楽に入れられるサイズにした箱も一緒に売り出したらどうだ?」

「箱ですか……何か意味が……?ん、あぁなるほど。これの中に入れられるもの、と限定してやれば良いわけですか?」


 箱を貸し出すか売るかして、これの中に入るものであれば料金一律幾らなどとする事が出来る。

 どうせ重さは関係ないので、気軽に荷物を頼むことが出来る様になるだろう。

 馬車も、これには入らない大きさの木箱を積んでいたりするならば、それの端っこにでも立てかけておけば事足りるので、そこまで大きなものも必要なくなる可能性がある。

 輸送量が減ったように見せてむしろ多くなり、一度に大量のものを運ぶことが出来るのだからその分安くなる。

 かなり使える商品だ。


「色々と考えられますな。これはいい考えを聞きました。持ち帰って検討してみたいと思います。貴方がたにこれをお渡しした甲斐があるというものです」

「まあ、他にも使っていて気がついたら提案しよう。こっちもいいものを貰ったからな、協力するぜ?」


 □□□□□□


「お隣から何貰ってきたんです?」

「なんかすっげぇの貰ったぞ。この箱の口から入るやつなら生きてる奴以外は荷馬車30台分位入るらしい」

「ボクの存在意義が!?」

「お前その程度の存在だったのかよ……」


 コリーが呆れている。本気で荷物持ちとして来ているつもりだったのだろうか。


「ニールは役に立っています。それにしても荷馬車30台分ですか、相当な量を入れられますね。ニールに預けていたものなどを全部こちらに移していいのでは?」

「だな。まぁここを出てからにしよう。ちなみに箱壊すと中身が溢れるか、若しくは全て消えるか……ってことだったから気をつけたほうがいいかもしれんな」

「まあ、壊れなければ問題ないんでしょ?トレーラーの中に入れておけば壊れることもないでしょうからいいのでは?」

「中に入っているのは完全ではないが時間の流れがかなり遅いそうだ。腐りにくいって言うから小さめのやつはさっさとこっちに入れたほうがいいかもな」


 だがこれで保冷庫の中身などもある程度すっきりさせることが出来たし、ニールの方に預けているものなども大半はこちらの方へと移した。

 取り出すときには出したいものを考えると出てくるようだ。かなり便利そうだった。


「後で解析してみましょうか……。素材なんかも気になりますが」

「売るのは向こうに任せて自分達の分だけ作るなら文句もないんじゃないかなぁ。正直博士なら良いの作りそうな気がするんだよね。この魔導車を入れる事が出来るとか、テンペストのワイバーンを格納できるとか」

「……ちょっと本気で考えてみます。物凄く便利そうなので」

「ところで、向こうから誰か来ます。使用人でしょうか」


 例の成金趣味的な貴族の方からだ。

 高そうな服をビシっと着込んだ執事風の男、……なんだか疲れた顔をしている。


「うわぁ……物凄く苦労してますって顔してる」

「なんとなく理由はわかりますけどね。……コリーさん任せました」

「失礼、さぞかしご高名な方と存じますが、私共この様な紋章を見るのは初めてでして……どなたの物でしょう?」

「知らなくても当然だろう。ハイランド王国のカストラ男爵の紋章だからな。まだ出来たばかりなものでね」

「ほう、カストラ男爵ですか……確かに聞いたことがありませんな。今どちらにいらっしゃいますかな?我が主人のレイモン伯爵が会いたいと」

「……私ですが?」


 テンペストが返答すると少しばかり驚いたようで、改めて礼をしている。

 まぁ見た目には貴族らしい格好を全くしていなかった上に子供だったので相当面食らったのだろう。

 いまテンペストは動きやすい普段着で、濡れた髪の毛を適当に拭いただけという姿だ。

 しかしそれでも隠し切れない作り物のような美しさは感じられる。


「で、要件は何ですか?見ての通り私達は休暇の最中なのですが」

「い、いえ、失礼は重々……では、失礼ながらおいでいただけませんか?」

「何か用事があるのであれば、そちらから来るべきでしょう。私達から特に用事はありません。そちらへ行く理由などありませんが?」


 話があるから来い、と言うのは流石に舐めすぎだろう。

 用事があるならそっちから来れば良いのだ。

 流石に少しイラッとしてるのを感じたのだろう、一旦切り上げて言葉を伝えに行くようだ。


「……あいつ、ちょっと可哀想になってきたな」

「そう、ですね……私もちょっと可哀想な気がしました。っと、私は中に居ますね」

「そうだな、エイダ様は一旦中へ。何かしでかす可能性もある。ニールも中に入っとけ、こういうのは苦手だろ?」

「あ、いいの?流石にこういうのは苦手だから任せるよコリー」


 その間にテンペストは少し着替えて鎧の上にローブを着る。

 コリーとサイラスは従者の振りということでそのままだ。というかそこまでひどい格好はしていない。

 向こうを見ていると真っ赤な顔して執事に怒っているようだが、やがて魔導車ごとこっちに来た。


「……歩けよ」


 コリー以外は言葉にしなかったが、完全に3人の意見は一致した。



便利箱GET!


っていうかいつの間にか日があいてましたすみません。

かき溜めあるくせにちょっと更新サボってました。

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