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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第一章 精霊テンペスト編
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第四話 魔法って?

「行きます」

「全力で来なさい!」


 手を握り両腕を折り曲げ、ボクシングのようなポーズを取る。

 なかなか様になっているのは一度見ればそれを正確に再現出来るテンペストの能力のせいだろう。

 腰にひねりを加えて体重の乗ったパンチを放つ。


 ペチぃ!という軽い音が聞こえてサイモンの手に止められたが。


「なぜ……」

「そりゃぁ、やり方は完璧だったとは言え、テンペストはまだ子供ですよ?筋力も無ければ体重だって知れたものでしょう。勿論、以前のように筋力に関してはテンペストは自壊するほどの力を解放できます。が、それをした場合はどうなるかはご存知でしょう?」

「どのみち殴る事に関して言えば体重の軽さによって、あまり意味は無いでしょう。どちらかと言うと絞め技等の方が適します。もうやりたいとは思いませんが」

「理解はしているようだね。でも、これを乗り越える方法もある」

「魔法、ですね?」


 その返答に頷きで返す。

 魔力を使って時間を制御する方法があるように、肉体を補強する物もある。

 タイタンワードと言い、力を司る精霊タイタンの力を宿すとされる。クロノスワードもそうだが、精霊名が付いているのは分類がし易いためで、精霊の力を借りて術を行使するものではない。それは精霊使いにのみ出来る特殊技能で、一般人が出来るわけではないのだ。

 このタイタンワードは任意の相手、もしくは自分自身に対して望む力を与えるワードである。

 当然、より強力な力を欲するのであれば、それに見合うだけの魔力と自身の力が必要になる為際限なく出来るわけではない。


 接近戦を主に行う剣士、闘士、もしくは盾となる重戦士などは必須のワードとなる。

 日常生活でも重いものを持ち上げたりする時に一時的に使うなど、案外便利に使われているもので、自分を強化するという意味でも真っ先に覚える魔法だ。


「タイタンワードですね。どのようにしたら使えるようになるのでしょうか?」

「まずは空気と同じようにこの世界に普遍的に存在するマナを感じ取らなければ、魔法を扱うことは出来ない。私達のようにある程度自在に魔法を操れる者がいる一方で、全く扱うことの出来ない者も居る。必ず習得できるというわけではない事を頭に入れておいて欲しい」

「了解しました。その時はまた別な方法でなんとかしましょう」

「さらっとそれを言えるのは、流石に魔法のない世界から来たというだけのことはある……か。では今日からエイダ様と共に森へ入り、マナの流れを感じ取る訓練をしていただきます。それが出来るようになったら引き続き、自分の体内にマナを取り込み魔力として使う感覚を覚えてもらいます」


 ハーヴィン侯爵の私有地に、マナの濃い森が含まれている。

 定期的に見回りがなされ、魔物などが生息していない安全な森だ。当然この訓練中は警備は厳重になされ、関係者以外は立ち入りを禁じられる。

 そもそも敷地内にある時点で他の者が入り込む事は出来ないわけだが。


 よほどの緊急事態がない限りは修練場所へは二人以外は近づくこともない。

 食料は予め中に建てられた小屋へと運ばれ、一月は補給無しで持つだろう。

 小屋がある場所は近くに小さめの湖もあり、身体を洗い流すことも出来る。

 この訓練中、ある程度最低限必要な生きるための知識も得ることが出来るため、初めての訓練には丁度いい。


 □□□□□□


 馬車で屋敷の裏へ向かう。


「……広い敷地ですねぇ」

「家は特別ですからね。あの森をわざわざ敷地内に入れるようにここを開発したそうですから」

「開拓地……ですか」

「そういう事ですよ、エイダ様。まあ何代も前の話ですがね。その時から長い年月を経て、ここまで領地は広がりましたが、私達の家の者が魔法を習得するための森はいつもあそこです。小屋が建てられている場所は特にマナが濃い場所です。なかなかあそこまでマナの濃い場所は見つからない。あれくらい安全でマナが濃いということは、それだけ習得も楽ということだからね」

「では、マナが濃い場所は通常安全ではない、ということですか?」

「なかなか鋭いね、テンペスト」


 マナが濃いということは、そのマナを求めて魔物が集まるということでもある。

 人間よりもマナを感知する能力に長け、魔法を本能的に扱えるだけでなく、その体をマナで強化している魔物にとってマナの濃い場所と言うのは非常に居心地の良い場所であり、繁殖に適した場所だ。

 その為、多くの魔物が集まる危険地帯と化しているという事が少なくない。

 酷い時には竜の巣となっている。迂闊に足を踏み入れれば当然ながらあっという間に襲われ骨の一本も残さず食いつくされる事だろう。

 そんな場所を個人で所有しているということはなかなかあるものではない。


 そして、森へ到着する。

 森の入口でサイモン達とは別れ、エイダとテンペストは二人だけで森の奥へ進む。

 後ろを振り返れば、少しだけ小高い丘の上にサイモンの屋敷があるように見える。1キロはない程度の短い距離ではあるけれど、これがテンペストにとって肉体を手に入れた後初めての外出だった。


 森は木々は鬱蒼と茂っているのかと思っていたが、適度に明るく、澄んだ空気が心地よい。

 暫く小道を進んでいくと少し開けた場所へ出た。


「ふう、着きましたね。なるほど……確かにこの森は全体的にマナが濃いですが、この場所は特に濃いですね。湖や木にも精霊の気配を感じます」

「……私には何も感じないですが」

「マナを感じることなら大抵の人は出来るようになります。が、精霊を感じることは精霊使いになったものにしか出来ません。……でもテンペストは精霊ですからもしかしたら存在を感じることが出来る様になるかもしれませんね!」

「ですから、私はAIであって精霊では…………」

「どうしましたか?」


 ふと思ったのだ。

 自分はAIとして自己成長する人工知能として生まれてきた。

 しかし……半ば強制的にではあるものの、今はこうして人間の体を手に入れ、人間として生命活動を行っている。学習方法も「直感」という新しい意思決定方法が出来るようになっている。

 果たして今の自分は人工知能と言っていいのだろうか?


「いえ、自分とは何かを少し考えていました。前にもお話した通り私は人工的に作られた、本来ならばこうして肉体を持つことのない存在です。しかし、現在私はこうして肉体を手に入れ、人間と全く同じ様に思考し、食事を取り生命活動を行っている……これはすでにAIの域を超えているのではないかと」

「私にはよくわからないですが……。貴方は生きています。確かに、精霊の器としてその身体を得ましたが……完全に馴染んでおりますし、すでにその身体は貴方の身体その物です。ですから今の貴方は一人の人間と言えるでしょう」


 それにこの身体は生きている。であれば死も訪れるだろう。

 ではきっと、私は一つの生命体として、一人の人間として生きている。

 考えてもみなかったことが、この世界にきてから立て続けに起きている……面白い。


 ワイバーンの身体では出来なかった事を、この身体で学ぼう。


「まぁ、今はそれを気にしないでマナを感じ取る練習をしましょう。テンペストは覚えるのが早いからきっとすぐに出来るようになるでしょう」


 小屋へ入り、荷物を下ろす。

 食料を確認してエイダと二人で周りの安全を確認する。


「……本当に危険な生き物なんかは殆ど居ないのね。それでは始めるわよ。まずはそこの湖で身体を清めます。付いて来て」


 二人で服を脱ぎ、身体を水で洗い清める。

 エイダは持ってきた精霊使いのローブへ着替え、鞄の中から様々な薬を取り出してゆく。


「エイダ、先ほどから色々と鞄から出していますが、どう計算してもその容量を収納出来るだけの大きさはないようですが」

「あ、これ?鞄の中の空間を拡張しているの。見た目以上に沢山の荷物が入るからとっても便利なの」

「しかし……どうやって……。あぁ、魔法ですね?私もそれを使うことは可能ですか?」

「多分ね。ただこの魔法はすごく扱いが難しいから、使える人は限られてくるのだけど……テンペストはきっと覚えられるでしょう。さて、用意が出来ました。……これから貴方はそのまま裸で過ごしてもらいます。肌で空気の流れを感じ、自然と触れることで同じようにマナを感じられるように……でもそのままでは難しいの。だからこの薬を使うんです」


 鞄から出した小瓶を混ぜ、それをクリーム状に練り上げていく。

 その際に魔力を流し込みながら。これを肌に直接擦り込むことで肌の感覚を鈍くし、逆にマナに対しては敏感にしていく。

 肌で空気の流れを感じにくくなるため、それを感じるために集中することになる。するとマナの存在を僅かながらに感じることが出来る様になっていく。一度その感覚をつかめば、自然のそれとマナの感覚の違いを覚えることが出来る。


「裸になるのはそれでですか」

「ええ、恥ずかしいかもしれないけど……ちょっと我慢してくださいね」

「いえ、特に恥ずかしいという事は感じません。むしろ何が恥ずかしいのですか?」

「へっ!?えっ、だって、裸ですよ?その、胸も……あ、あそこも全部見えて……」

「別に問題ないのでは……。ただの性器ですよ?」


 感情を知ったものの、羞恥心と言うものは全く無いようだ。そもそもテンペストはそういう意味ではずっと裸だったわけで、なぜ服を着るかというものに関しては外部の刺激などから身を守るためとしか思っていない。

 テンペストからすれば服は「装備品」である。

 他の人間からすれば装備品となるのは服を着た前提で、その他に追加で身につけるものという感覚だろうけれど。

 排泄という行為がよく分からず漏らしていた時も、エイダやエマが拭いてくれたりしていた事もあって特に抵抗を感じていない。


「テンペスト、普通の人は裸でいることを恥ずかしいと思うんです。女性でも男性でも。特にテンペストは女の子なんですからもう少し恥じらいというものを持つべきです」

「……そうですか……?エイダがそう言うなら、分かりました」


 不服そうな表情のテンペストを見て、また教えなければならないことが増えたとエイダは頭が痛くなりそうだった。

 しかし、人として生きるためには必要なこと。……周りの男性の目から守るためにも。いろいろな意味で。


 気を取り直して薬をテンペストの身体へ刷り込んでいく。

 説明された通り、ゆっくりと塗られたところから感覚が鈍くなっていく。

 ある程度塗ったところで、その薬を手渡された。


「後は……自分の手で」

「気にしなくてもいいのですが……」

「頼むから、少しは気にして下さい……!」


 顔を真赤にしながらエイダが言う。

 塗っていない所は、そういうことである。

 恥じらいのないテンペストの堂々とした態度に、逆に自分の方が恥ずかしくなっていく。


 なんとか準備を終えて訓練を開始した。

 まずは目を閉じて空気の流れを感じ取る練習から始める。


「……何も感じません。この薬は本当によく効いているようです」

「一度つければ一日はその効果が続くの。触った感触も殆ど無いから慣れるまではちょっと大変かもしれないですけど。今、そよ風が吹いています。集中して感じて下さい」

「分かりました」


 意識を集中していく。

 感覚を研ぎ澄ます。人間が皮膚で何かを感じるということは、皮膚に張り巡らされた神経というセンサーが状況を感知しているということ。

 ならば……。


 テンペストは人間の体を機械と仮定してその制御をコントロールすることにした。

 センサーの感度が弱いなら出力を上げればいい。

 常人では出来ないそんな荒業を、事も無げにテンペストは成し遂げる。

 すると、肌に感じる地面の感覚、そして風の流れを感じられるようになった。

 全ての感覚を引き上げたため、触覚だけでなく、視覚や聴覚なども人間の限界を超えて処理されていく。


「あっ」

「もう感じられるようになったんですか?!」

「はい。現在は通常時よりも寧ろ鋭敏な感覚を持っているくらいです。そして……空気の流れとは別に何か体中にまとわりつく感覚があります」

「まさか、もうマナの存在を感知できるように……。はぁ……こんなにあっさりと成功させる人なんて今まで見たことがありませんよ!でも、おめでとう。テンペストは魔法を使う第一歩をクリアしました」


 一度マナの感覚を覚えたあと、ゆっくりと鋭敏化した感覚を元に戻していく。

 すると、また肌に感じるすべての感覚が消え失せたというのに、まとわりつくマナの気配だけは残っていた。


 これがこの訓練の意味なのだと理解する。

 確かに一度感覚を掴めばマナを感じたままでいられる。

 薬のせいもあるだろうが、それでもごく薄い水の中に居るような不思議な感覚がつきまとう。だからといって水のように抵抗があるわけでもなく……。その為、妙な浮遊感を感じながらの生活が始まることとなった。


 今日はあっさりとマナを捉えてしまったのでその訓練自体は終わり。2日ほどその状態に慣れてもらう為、常にマナの存在を意識しながら日常生活を行うと説明される。


「流石に森のなかは暗くなるのが早いわね。あ、切ったお肉はこっちに頂戴、流石テンペスト……切り方も正確ですね」

「これが料理ですか。この身体になってから出来るようになったことが増えて面白いです。是非今度はきちんとした料理を作ってみたいものです」

「今日は切っただけだけど、教えただけでそこまで完ぺきに出来るんですから、お店で出される様な料理もすぐに作れるようになるでしょうね。まあ、身体の感覚が今は鈍いんだから無理はしないようにね?自分の指を切っても気づかないから」

「……痛いのは嫌です」


 誰だって痛いことや苦しいことは嫌いです、と返しながらもエイダは精霊も痛みを感じるのだろうかと考える。苦しみを訴える精霊は居ても、痛みを訴える精霊は今まで見たことがない。

 テンペストも依代を今の器、人間の肉体に変えてから初めて痛みというものを理解したと言っていたし、やはり精霊と人間では色々なところが違うのだろうなと考える。


 正確に切り分けられた材料を使った料理が完成し、二人でそれを食べながら魔法とはどういうものかをテンペストに説明する。


「じゃあ、食べながらだけど魔法というものがどういうものかを教えます。まずマナだけど……感じている通り、濃い薄いはあるけれど基本的にどこにでもある空気と同じように目に見えない力の流れのこと。魔力を感じる目を持つ者は、このマナを視覚的に見ることが出来るって言われてるの。私には出来ないけど……」


 大抵はそういう目を持つものは魔物で、人間にはそういうものは無い。だからこうして訓練してなんとかマナを認識するようになり、それによって魔力を行使することが出来る。


「今のテンペストなら感じられると思うけれど、なんとなく体中に纏わり付くような感じがしているはずです」

「ええ、確かに。抵抗のない水の中に居るような奇妙な感触を感じます」

「生物はそのマナを身体から吸収して、体内に貯めこむ性質があるの。だけど日常生活をしていても体力と同じように無意識に消費しているんです。そしてその量は訓練などによって増やしていくことが出来るの。特に子供のうちからだと可能性は一気に広がります。大人になってからだと……ちょっとしか増えないという人も多いの」


 学者の間では子供の時のほうが様々な面で柔軟性があるため、成長の巾が広いのだろうという事になっている。

 ただ、例外もあるので個人の上限が元々あると主張するものや、訓練次第で増やしていけるが、適性がないものはすぐに限界が訪れるのだと主張するものも居る。

 全部当たっていて全部間違っているという可能性もあるけれど……。


「その、体内に貯めこまれたマナの事を魔力と呼んでいるの。そして、その魔力を消費して何らかの現象を操作するのが魔法。体力を消費して走るのと似たようなものだと思っていいですね。時間とともにまた魔力が溜まっていくのも同じように考えられます」

「魔力は時間とともに回復出来るのですね。しかし、魔力の容量が増えると言いましたが……もし限界まで同じ様に使いきったとして、回復するまでにかかる時間は容量が多い者程長くなるのでは?」

「ええ、その通りです。しかし、何もせずに休憩している時……特に睡眠を取っている時は回復量が上がるのです。また、食事によってもある程度回復します。マナの多く含まれるものを食べることでその分のマナを即座に回復する事も出来ますね。それを利用したマナを凝縮した丸薬なども売られていますよ。大抵の場合は寝て起きれば大体回復しますが、魔力量が多い人だと……最高で3日程かかったという記録があります。逆に言えばその程度で完全に回復出来るということですね」


 また、さらっと流したがマナの多く含まれるものというのは、ここのようなマナの濃い場所で育つある種の果物や、魔獣や魔物といった肉体その物に魔力を多く含ませている者の肉などが該当する。

 その中でも特に豊富なのは竜種の肉で、テンペストが撃墜した火竜の肉も当然マナが多く含まれる。

 こういった食べることでマナを回復できる様な素材というものは、採集時に危険が伴うものであるため基本的に高額である。


「テンペストが倒した火竜が居ましたけど、あれの肉もそうです。魔力を回復出来る食べ物はとても高いのですが、その中でも飛竜等の竜種の肉はものすごく高くて、まず一般には出回ることはありません。……サイモン様が喜んでおりましたよ、高く売れたおかげで壊れた家とかの修理費はもちろん、諸々の経費考えても大幅な黒字になったと」

「それは何よりです」

「テンペストの取り分はきちんと取ってあるそうだから安心していいと思いますよ。そういう所はきちんとする人なので。……色々一足飛びでお金持ちですよ、テンペスト。あ、お金の方も後で色々教えておかないと駄目でしたね。まぁとりあえず魔法のほうを先にやりましょう。どうせここではお金使えませんから」


 テンペスト、こちらの世界に来た初日に素寒貧からミリオネアとなっていた。

 火竜を倒すこと自体難しいだけでなく、その素材にあまり傷が付いていなかったのが幸いしたお陰だ。

 最後の大きな火竜だけは蜂の巣になっていた挙句に頭部も半分以上が吹き飛んでいたため、皮の方は大分減ってしまったがそれでも相当な金額となる。

 それを自分たちの分を取り分けておいて、全て売ったお金で修繕と見舞金、弔い金、特別手当など様々な金額を差っ引いて、とりあえず生活費にもなるしと言うことでテンペストの分を引いて、残ったものを街の運営に当てていた。案外強かな男だった。


「それでクロノスワードとタイタンワードを教えましたね。時魔法と強化魔法です。それ以外にも当然魔法はあります。初日からテンペストが怪我をするたびにサイモン様がかけていた治癒魔法ですが、ピクシーワードと呼ばれています。クロノス、タイタン、ピクシーなどは特殊な魔法で、習得には適性が必要な物があったりします。自分を強化するだけのタイタンワードであればそこまで難しくはないのですが」


 知識が必要だったり、ある程度の筋力が必要だったりという具合だ。

 ピクシーワードは医療知識が少し必要だ。さほど難しくはないがこのように医者でもないものが使うためには高価な本を買うか、知っている人物に従事して教わるかでもしないと難しい。

 当然サイモンは前者だ。金があるので。


 そして妖精の名が使われない自然魔法、生活魔法そしてオリジナルワードと呼ばれるその人が作り出した創造魔法がある。

 自然魔法は自然現象などを元にしたもので、火球を飛ばす、地面を軟化させるなど。

 生活魔法は攻撃力としては使えないが、日常生活などで便利に使えるものだ。臭い消しや整理、空気の循環などなど色々なところで使われている。


 最後の創造魔法は特殊で、自然魔法などには含まれない複合的な要素を持った魔法や、完全にオリジナルの物で、それこそ名前の通りに「創造」する、鍛冶、建築などの特殊なものだったり、他人を操る、魅了するなどちょっとばかり危ないものも含まれる。


「その創造魔法と言うのは、鍛冶や建築などに使われるものも含まれると言っていましたが……どういったものを作れるのですか?鍛冶というからには剣など……ですか?」

「ええ、金属等を自由に変形させて剣を創りだす……ドワーフなどが得意な魔法です。それを更に鍛えて製品にしているそうですよ」

「どのようなものでも作れるのですか?」

「彼らが言うには、ただ形を作るだけならそれで良いそうですが、きちんとした物を作るにはどの金属をどれだけの割合で混ぜて、どれくらいの温度で鍛えあげるか、どのような大きさにするか等を確実に想像できるかが問題なのだそうです。それさえ出来れば、どんなに複雑なものでも創りあげることが出来ると。勿論、元になる金属や素材などは必要なのですが」

「なるほど、面白そうな魔法ですね」

「ええ、戦いの中でこれを使える人はなかなか居ないのですが、過去にはものすごい人が居まして……その場で剣を創りだして、折れたらまた創りだし、数多の魔物を屠ったという記録があります。一体どのような頭をしていたのでしょうね。まあ、魔法というのは結局のところその人の想像力と創造力、そして知識量にかかっています。火を作り出すにはどうすればいいと思いますか?」

「可燃物を酸素中で酸化させる事で燃焼が起きます。または酸化剤などを使えば空気がなくとも燃焼を起こすことが出来ます」

「さんそ……?さんか?」


 自分で振った質問に対して自分の想像を遥かに超えた高度な返答が返ってきて、逆に混乱してしまうエイダ。エイダの頭のなかでは精々火というのは木や脂等を燃やす事で得られるということ位の知識しか無い。間違っては居ないが単純にその原理までを知っているかどうかの違いだった。

 ただし、空気がなくても燃えるとはどういうことかは完全に理解の範疇にない。

 水の中で燃焼するという物があることを知らない。


 そういう意味ではテンペストは知識の宝庫でもある。伊達にコンラッドが無駄なことを教えたりはしていないのだ。とりわけ自分の兵装等に関する知識などは詳しく調べてある。

 関連項目まで調べて行ったらそうなっただけではあるが、記憶するという意味ではひっくるめて保存しておけばいいだけなのでテンペストにとっては楽なことだった。

 必要なときに辞書を引く感覚で知識を引き出せるだろう。ただし本体であるワイバーンに接続している時に限るが。


「ま、まぁ分かっていればいいです。なので起こしたい現象を、身体の中にある魔力を利用して再現させるんです。皆さんは大体詠唱を行っていますが、これは自分の中でその現象をきちんと想像できるようにあえて声に出しているもので、同じ現象を起こすにしても人それぞれです。結果的にその現象にたどり着ければ構いません。とまぁこんなところでしょうか。明日からは少しマナを感じる為に塗る薬を減らしていきます。2~3日位掛けて何も塗らずにマナが感じられるようになれば完璧です。その次からは体内に宿る魔力を感じるために頑張ってもらいますよ」

「分かりました。まだ知りたいことは多いですが、ゆっくりとにします。……もう、とても眠くて…………」


 ご飯を食べ終わり、長々と講義を受け、まだ体力の無いテンペストの身体は限界を迎えていた。


「あらら……。寝ちゃいましたか。……でもこうしてると本当にただの子供なんですよね。話をするとびっくりしますけど。ベッドへ運んでいってあげましょう」


 過去最高に物覚えのいい精霊の教え子。

 時々鋭い指摘を飛ばしてくる時もあるけれど、こういう所はまだまだ子供のそれだ。

 裸のままなので風邪を引かないようにベッドへと寝かせて、少し早いが今日の授業は終了することにした。


次回ついにテンペストが魔法を!


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