第四十八話 マイヤービーチ
オールトン伯爵領で王都からの人達が来るまでは、ハンターや兵士だったもの達と協力して食料確保とけが人の治療などに当たった。
人口約70000人程の街だったが、今は40000名ほどが残る程度となっていた。お金に余裕がある人は反乱の際にもうこの街を出ていったが、大半が残っているのは当然この地に残ることを選択した者や領主の関連、そしてそこまで生活に余裕のないものたちだ。そして今回亡くなったのも大半が平民で、領地内に居る貴族とその周辺部は敷地内に篭って反撃をしていたりだ。貴族たちの方でも平民を盾にするものも居ることはいたが、反領主組の者達は基本的に率先して周辺の平民達も囲い込んで戦えるもの達を指揮しながら女性達をオークの手から救っていたのだった。
お陰で大分救われたと思っていいだろう。
比較的被害の少なかった奥の地域の人達はバリケードを築いて、魔法使い達が壁を更に作り、外からの侵入を防ぎつつ残ったハンターが弓や魔法でオークを仕留めていた。ただ、急すぎたことで食料が足りずこのままでは危険だと思っていた時にテンペスト達が到着したようだ。
街中からかき集めてもまともな食料が殆どなくなっており、更に遺体が腐敗して危険ということでまずは街の掃除から始めることとなる。
それは街の人達に任せてテンペスト達は外の森と川で獲物を取り、食糧支援を行なっていた。
川の対岸に網を張り、上流側でコリーが雷撃を放つ。
水中へと拡散していく電撃は、その川に住んでいる魚や生き物を根こそぎショック死させて、浮かんできたそれらは水に流されてそのまま網へと入っていく。
乱獲の危険性が高すぎるために禁止されていたりするが、この危機的状況でそんなことを言ってはいられまい。食わなければ死ぬのだ。
オーク肉と、それら川魚やカニ、貝など食べられそうなものを一気に持って行って焼け焦げた広場へと置いてまた狩りに出かける。
オールトン伯爵領の外をうろついていた生き残りのオークや、大物のシールドボアなども見つけられたためかなり肉に関しては手に入ることになった。
ちなみに以前ならテンペストに取っても相当な脅威だったシールドボアは、サイラスのサーヴァントの前にあっけなく散っていった。
自慢のシールドを破壊されて、その太く頑丈な首と頭はメイスによって半壊していた。
もう一匹の方もペネトレーターの一撃が真正面から入り、やはり頭部を破壊されて死亡。
この2匹はかなり大きかったので肉の量もものすごかった。
パンなどはどうしようもないが、これは支援物資に期待するしか無いだろう。
水に関しては魔法でいくらでも出せるし、川が近いのでそこから大量に汲める。
こうして3日掛けて王都から魔導車による食糧支援が。更に5日程経ってから王都からの応援が届き、すみやかに瓦礫の撤去や食料の支援等が始まったのを見届けてさっさと次の街へと移動するのだった。
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「……もうトラブルはゴメンだぞ」
「でも、良かったですよ。助けられた人達があんなに沢山居ました。もしかしたら精霊の思し召しなのかもしれません」
「なら精霊にそういうのを避けるように言ってくれないか?」
「精霊は気まぐれなのです。こっちの言うこととか殆ど聞いてくれません……話し相手になると喜ぶんですけど、頼みごとって聞いてくれるのは相当上位の精霊位ですね」
冗談交じりのコリーの言葉に真面目にエイダが返答する。
頼みごとを聞くというのは精霊魔法を行使する時の事も含まれる。その時に精霊の名を言うがそれが高位の精霊の名前だ。
なのでよく聞いてみれば精霊魔法を使っている時の詠唱は「お願い」になっているのが分かる。
逆にマナを使った魔法は自分の意志で魔力を変化させて行使するものなので「命令」になっていることが多い。
「それより、この道ぼっこぼこじゃないですか。少し揺れますよ」
「何でこんな荒れてるんだ?」
「さあ……今まですっごく移動しやすい道だったのにね。王都から離れたらこんなもんなのかな?」
「石畳がありませんから整備されていないだけでは?」
「まあ、多分そうだろうな。博士、ちょっと横に避けて道外れてみてくれ、どうせ平原だし草生えてるところのほうが意外と通りやすいかもしれん」
「あ、本当だ。馬車なら辛いけど魔導車なら関係ないですからね。うん、こっちを通りましょう」
しかし、広い草原のど真ん中で土砂降りに遭ってしまった。
見通しも効かないしワイパーもほとんど用をなさない。雷まで鳴り始めた。
今日はここで立ち往生ということになる。
「雲行きが怪しいなとは思ってたんだけどね……」
「まあなぁ。かと言って先に進まないってのも無いからな。あまり長くならなきゃ良いが」
「まぁまぁ、皆さんずっと動き続けていましたから今日はゆっくりと休みましょう?」
そう言ってエイダが自分で淹れた紅茶を振る舞う。
考えてみれば確かに王都を出てから働きっぱなしだった。関係のないことに首を突っ込んだせいだとはいえ、あれを見過ごして行くわけにもいかなかったからそれは良いのだが……若干疲れが出てきているのは確かだ。
「そうするか。ん、これ王都で買ってきたやつか?」
「ええ、香りが良くて人気の商品ということで買ってきたものです。確かに良い香りですね」
「落ち着きますねぇ……時間的にはまだ……夕方になる前ってところかな?」
「全てのドアと魔鎧兵をロックしてきました。トレーラーも杭を打ち込んで置いたので問題無いでしょう」
「あぁ、悪いなテンペスト」
「いえ、私の車ですから。ただ、サーヴァントが心配です。あれは防水にはなっていますが、完全防水ではありませんから」
「ああ、そこはあまり気にしなくていいよ。コクピットだけは確実に防水にしてあるし、それ以外は生体パーツみたいなものだから……強いて言えば鎧を着た兵士が入水したようなもので済むから」
ただしリンクした時に微妙に気持ち悪い感じにはなるだろう。
ばちばちと屋根を叩く雨音と、近くで落ちているんじゃないかと思うほどの雷の轟音が鳴り響く中、暇になった皆はベッドで寝たり、本を読んだりしてまったりと過ごしていた。
だんだんに強くなっていく雨足に雷の音。
ちょっと外を見てみれば、一面の草原だったのがまるで大きな湖のように水たまりが出来ていた。
「……雨が降って、土がえぐれてそこを馬車が通って……あぁそういうことか……」
「雨降りやすいところなんだね多分。それにこの雷じゃぁちょっと外で作業とか難しいだろうし」
「この中で作業するのは魔法があっても嫌ですね。隠れる場所もなく平原で雷……自分に落ちそうですし、近くに落ちただけでこれじゃあ感電する」
「雨が上がっても動くの怖いな。足取られて動けなくなりそうだ」
ぬかるみに足を取られて動けなくなるというのはよくあることだ。
特にこの魔導車は余計にその可能性がある。
そしてぬかるみは魔鎧兵の天敵だ。重量に対して足の面積は小さめなので沈むのだ。
「……ぬかるみ対策に足がクローラーになってるのを作りますかねぇ」
「かなり感覚が変わるのでは?」
「普通の機械なら良いんですがねぇ。あ、魔鎧兵用の移動台車を……」
「今のように何かに引っ張ってもらったほうが早いし経済的かと」
「やはり飛ぶしか……」
どうしても飛ばしたいらしい。
しかし長時間飛べないのであれば翼は邪魔なだけだ。
そもそも軽量化から始めなければならないだろう。
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夜が明けてもまだ降り続く雨に足止めされている。
重量軽減の魔法を掛けてあまり沈まないように対策して、更にその下の土を固めておいたがそれだけでもう下着までびしょ濡れになるレベルだった。
「……テンピー酷い状態になってるわね……」
「コリーとニールもです。とりあえずタオルを……このままでは車内が汚れてしまうのでここで脱ぎます」
そう言って下着姿になり、汚れた服を洗濯ものの中に投げ入れた。
次にコリー達が中に入ってくる。同じように下着姿となり、タオルで身体を包んでテンペストが出てくるまで風呂待機となった。
しばらくしてバスローブ姿のテンペストが風呂場から出てくると先にニールが風呂にはいる。
「……これは長くなりそうですね」
「あぁ全くだ。外はすごいぞエイダ様。まるで湖だ……タイヤもそろそろ半分まで水に浸かる所だった」
「そんなにですか?……ちなみに、このまま水位が上がるとどうなるんですか?」
「一応、問題はないです。防水仕様にしてあるのでたとえ海の中に突っ込んでも浮かべるし水も入ってきません。ですが、浮いてしまうと移動できなくなります」
バスローブからちらちらと伸びる足元が見えそうで見えない。
これをニールに見せていたら興奮してうるさかっただろう、先に風呂に入らせて良かった。
正直な所テンペストの後の残り湯とこっちとで相当迷ったのだが、こっちのほうが恐らくダメージが大きかっただろう事は想像がつく。
「テンペスト、とりあえずニールが上がってくる前に薄着だけでも着ておけ。また気持ち悪くなるぞ」
「あぁ、なるほど。発情してしまうのですね……別に私は気にしていないのですが」
「テンピー……本当にそろそろ恥じらいを持たないと襲われるわよ?」
「俺には返り討ちにあって転がる男の死体しか思い浮かばねぇが。ただまぁ無防備すぎるのは確かだ。テンペストはただでさえ美人だからな、奴隷商人あたりが放って置かねぇぞ」
「それは……困ります」
「テンペストは一応、魔法を使えるとはいえ身体強化も何もかもが年齢相応といったところです。鎧がなければ無力に等しいわけですからそういう意味でも気をつけたほうが良いんじゃないですかね?まぁ全方位にブラストを放てば立っていられる人は居なくなりそうですが」
とりあえず忠告通り薄着になるとソファに腰掛ける。
さっきまではバスローブの中は裸だったからそれだけでも大分良いだろう。
「それで、なぜニールは私を見ると発情してしまうのですか?」
「ニールやロジャーはリヴェリっていう子供のままの姿でずっと成長が止まる種族だ。だから今のテンペストは丁度いい結婚適齢期のお嬢さんに見えているってことだな。んでついでにニールはテンペストにベタ惚れだ」
「好意……というものですか。今のところ私にはまだ理解しかねる感情ですが」
「まぁ、テンペストはそういう歳じゃねぇからな。その内分かるようになると思うぜ?逆にニールはまぁそういう年頃ってやつだ。俺とか博士は子供は範囲外だから別に裸見ようが何の気も起きねぇがな。ニールにとっては自分の好みどストライクの子の裸見てしまったらそりゃもう盛るわけ。そういうことだな」
「年齢の問題だけではないところもありますが、概ねコリーの言う通りですね。気にされても居ないというのはある意味ニールが可哀想でもあるのですが……というかテンピー?こういう話を男性に聞くのやめなさい?」
「いや、エイダ様も分かってるでしょう?中身は子供ではなくて精霊であることで、そもそもの恥じらいが無いんだぜ?これくらいの歳ならもう俺らの前で肌晒すの嫌がるくらいのはずだからな。教えられるうちに教えてやらんと、どっかでトラブルになってからじゃ遅いぞ。行為自体にも無頓着だからされるがままにってことだってありうるんだ。子供好きってのはいるからな……」
「う……確かに……。ありそうです……分かりました。私の方からもよーーーく言っておきます」
正直、そうして欲しい。
幾らテンペスト相手とはいえ、こういうことを教えるのは男は相当厳しい。
この辺は後はエイダに任せることにしてやっとで風呂から上がったニールと交替でコリーが入る。
「はー……暖かかったー……」
「コリー若干震えてましたよ?」
「あ、それはちょっと悪い事したなぁ。でもホント、寒かったから凄く気持ちよかったんだ」
「寒さだけだったんですかねぇ……」
「ん?博士何かいいました?」
聞いていないならそれでいい。
こいつの場合お湯飲んでないかのほうが心配な気がしてきたところだ。
その時、近くに雷が落ちた。
物凄い音と光が辺りを支配し、その激しさを物語る。
「うわぁ……外凄い。さっきより水出てるんじゃないのこれ」
「あー酷いですね。もうちょっとした海みたいな感じですねこれじゃぁ」
「あんなに広い草原が……一面茶色の水に浸かってます……こんなの見るの初めてですね」
「ハイランドじゃ溜まる前に全部流れていきますからね普通。これ雨上がっても暫く動けないんじゃない?」
「食料は……大丈夫。保冷庫の方もしっかり稼働しているし、これが動いてる間は腐りません」
「これ、ボク達じゃなければ死にませんかね」
まわりは水、進むも戻るも出来ず、馬車は水に浸かり雨と雷に耐え続ける……。無理だ。
もう昼になる時間だというのに全く明るくない。
分厚い雲に覆われているだけだ。
「もう、進んだほうが早くないですかね?」
「下の状況がわからないのが怖いんですよ。結構凹凸が激しいので、恐らく変な所踏んだら横転します。そうなるとちょっとなかなか戻せないでしょうし……。サーヴァントも横向いた状態じゃ乗り込めません」
「水入っちゃうもんね」
結局、3日間ずっと休みなく降り続け……4日目に入ったところでやっとで止んだ。その後水が引けていくまで約2日。一週間もここで足止めを食らったことになる。
工事が進むわけがないな、ということを確認したところで出発だ。
もう道なんてほとんど分からない。全てが茶色い水だけだ。それでも太陽の位置などを利用して方角を割り出し目的地の方へ向けて進んでいく。
「おお……やっと乾いた地面が……!……でもまたすぐ森か」
「ここらで一旦休憩してから行きましょう。……トレーラーを洗ってやりたいです」
「あーそうですね、私もサーヴァントを洗いたい。っていうかサーヴァントで上の方洗いましょう」
「任せます。私は下の泥を落とします」
テンペストは車が汚い状態になっているのが許せなかった。
それも車体の大半がこびりついた泥で覆われているのだ。その汚さは半端ない。牽引しているサーヴァントも背面や腰回りは完全に水に浸かっていたし、それ以上にタイヤからの泥はねで酷いことになっていた。
それを2人で高圧水流を使って綺麗にしていく。
「おーすげぇ……あんだけ汚かったのが一気に綺麗になってくな」
「流石ですね。んー……外は良いですね。室内も凄く豪華なので全然苦になりませんでしたが、やっぱり外は格別です!」
「まあそうだなぁ。普通だったらもうイライラして喧嘩起きててもおかしくないくらいだったんだが、喧嘩起きるどころかむしろずっとダラダラしてたな。まあ何もやることなかったから仕方ねぇが」
「魔法の練習とか、いつもの組手も出来なかったからね。次の街までどれくらい?」
「えーっと……地図見るからちょっと待て。確か馬車でこっから2~3日って所だから大体100kmちょっとってところか。ならここからならもうちょっとだな。今日中に着けるぞ。残りは5~60kmって所だ」
「普通なら1日か2日くらいで進む距離ですよねぇ……あぁ、魔導車ホント便利だぁ!その程度なら2時間もあれば大体着けるよね」
「だな。いやもうホント魔導車以外で移動したくなくなるなこれ」
「私はもうこのベッド付きのじゃなきゃ嫌です」
洗車やってない3人は外で椅子を出して休んでいた。
やはり魔導車での移動は特別に早いということを再確認する。
大体馬車での移動は一日で40~50km程度。こうした森の中であればもう少し移動速度は落ちるし、ハイランドのような山の中だと高低差が激しすぎて一日で10km進めないことなどよくあることだった。
魔導車は平地で特に障害物などがなければ常に時速90~100近くで走り続けられるので、一日に相当な距離を踏破できる。
もちろん、森のなかになると時速40km出せれば早い方などになるので一概には言えないが、直線が多ければ多いほど早い。
この程度ならこの後の休憩は無しで次の街へと行ける。
「次はマイヤー侯爵領か。大きい街っぽいな……そして……ついに海だ」
「やっと海なのですね!」
「予定が大幅にずれちゃったからね。泳ぐぞー!」
しかし残念ながら水着回はない。
水着がない。
……ので基本的に動きやすい服装で遊ぶくらいなものだ。
「洗い終わりました。もう既に乾いてきているのでこのまま出発しましょう」
「あれ、良いの?疲れてない?」
「いえ特には。むしろやりきった充実感のほうがあります。やはり綺麗にしておきたいですので」
「まあ、その気持は分かる。道もこっから舗装始まってるし目的地もすぐだ。休むのはマイヤー領に入ってからでいいだろう」
その2時間後、テンペスト達はマイヤー領へと到着する。
「……この時期にあそこ渡ってきたのか?」
「知らなかったんだよ、あんな水貯まるとか聞いてねぇよ」
「魔導車か……実際見るのは初めてなんだがこんなでかいのか」
「いや、それが特別でかいだけだ。普通のは後ろで牽引してるのくらいの大きさだな。まあこれがあったから無事だったようなもんだが」
「あっちは魔鎧兵ね……戦争しにでも行くつもりか?」
「いや、そういうつもりじゃないんだがな、結果的に存分に活躍してるよ……不本意ながら」
「ようこそマイヤー領へ。入ってすぐのところに目立つ看板の建物があるが、そこで色々と街の事を聞くといい。景色がいいところとか旨い店、酒を出してる店や夜の店も全部網羅してるから」
壁の内側へと入るとそこには白い壁の綺麗な街が現れる。
石畳もおしゃれな配置をしてあるし、屋根の瓦も綺麗だ。見て分かる通りに美しい景色とその細やかなサービスで有名な所らしく、港には沢山の船が並んでいる。
ちょっと前までの陰鬱な雷雨とはうってかわってこちらはカラッと晴れた青い空に白い街のコントラストが眩しい。
そしてトレーラーを置く場所がなかった。
仕方ないのでとりあえず案内をしてくれるという店の目の前に横付けして話を聞く。
「ず、随分と大きな乗り物ですね……?」
「まあな。あれ、置きたいんだが何処に置けばいい?そうだな……大体一週間ほど滞在するつもりなんだが」
「それでしたら、海の見える丘の所はどうですか?何台も馬車を停めておく為のスペースが有りますが、今はあまり人が来ていないので空いていますよ。貴族向けのサービスなので有料ですが、その代わりに丘から直接海岸へ降りられますし、警備の者も常駐しているので安心です」
「それでいい。後は……旨い店、酒を出す店に…………おすすめの夜の店を」
「では、こちらの案内をお持ち下さい。えーっと……少々高いですが貴族向けのお店のほうが良いですか?」
「ああ、そうだな。静かな方がいい」
「ではこれが美味しい料理を提供する店、こっちがお酒のお店の案内です。内容を見てどこにするか決めると良いかと思います。そして、この街の地図がこちらです。夜のですけど、好みとかありますか?獣人、リヴェリ、エルフに人族、揃ってますよ」
「獣人とリヴェリでお勧めの所頼む」
今日の夜はお楽しみ決定である。
そしてここでは宿は取らないことにした。というのも、停める場所に今ほとんど人が居ないということでそこでテントを張る許可が出ているそうで、そのままトレーラーで寝泊まりすることにしたのだ。
昼間は遊んで、食べて、夜は飲んでという具合だ。
しかも目の前は綺麗な海が見える場所とあって期待が膨らむ。
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「綺麗……」
「本当ですね……。波間に浮かぶ小さなヨットがまた良いです」
「波も穏やかだな。夜はここで海を見ながら酒飲むのも良いなぁ」
到着した場所は、丘の一角を広く平らに均して石畳を敷き詰めた場所だ。
かなり広く、繁盛期にはここが貴族の馬車で埋まるらしい。今のところテンペスト達以外には4台の馬車がかなり感覚を開けて停めてあり、その横には豪華なテントが張ってある。
その中に入っていってトレーラーを停めると、馬車やテントの中から様子を窺う視線を感じた。
が、無視である。一々構ってられない。
トレーラーから降りて、更に下へ。階段を降り切るとそこは白い砂浜の海岸だった。
崖下のところには小さなお店が軒を連ねている。
貰ってきた案内状でどんなものが売っているかを確認していき、それぞれが好きなモノを食べるということになった。
砂浜には何脚かのテーブルセットがパラソル付きで置いてあるので好きなところで買ってきてそこで皆で食べようというのだ。
テンペストは美味しそうな香ばしい匂いに釣られてその中の1件に行く。
そこではイカやタコ等がぶつ切りにされて焼かれ、それらが野菜とともに鉄板の上で炒められていく。
そんな作業の様子をじっと見ていると、店主が話しかけてきた。
「嬢ちゃん、食べるかい?」
「ええ、とても美味しそうな匂いです」
「だろ?この辺で取れたやつばかり使ったやつだ。で、ここからコメを入れて卵を……」
塩コショウなどで味付けを整えて、幾つかのスパイスを混ぜつつ綺麗な焼色が付くまで炒めて、少しわざと焦がしながらなんとも言えないいい香りもつけていく。
それらを一箇所に集めてココナッツの様な大きな植物のからを使った皿に入れて完成だ。
「お待たせ。マイヤービーチ名物のシーコス焼きだ。出来立てだから美味しいぞ」
「ありがとう。そっちの串焼きも3本くらいもらえますか?」
皆のところへと戻るとそれぞれ好きなモノを買ってきている。
「お、テンペストのはコメの料理か」
「コリーはパンで挟んでいるのですね。そちらも美味しそうです」
「その割に安いな。なもんで4種類全部買ってきた」
「私のも美味しそうですよテンピー」
それぞれが一斉に自分の料理を食べ、それぞれが高評価をつけた。
ハズレは居なかったらしい。
「魚なのに肉の味がする……不思議だけど普通に美味しい」
「いいところですねここ!景色は良いし食べ物美味しいし!」
「夜は酒を飲みに行かないか?それか酒買ってくるが」
「私は遠慮しておきます」
「あ、私も。お酒ダメなんですよ」
テンペストは当然として博士は酒が苦手らしい。思考力が鈍るのが怖いそうだ。そうでなくても飲み会で飲まされて記憶を失ってからと言うもの、相当警戒してる。
結局エイダ、コリー、ニールの3人で飲むことにした。
ねむい




