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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第四十七話 オーク掃討

 若干青い顔をしながらも、今までとは違いやる気を見せるニール。

 幼い子供やリヴェリらしき死体も確認したことで怒りが勝っているようだ。


 そして、ここまで女の死体は老婆以外は一つもない。

 これがどういうことかは、オークという魔物を知っていれば容易に想像がつく。

 女性にとってワイバーンより危険な魔物の一つがこのオークだ。雄と雌の割合が極端で、雌が少ない。その為他種族の雌を狙って犯し、自分の子を孕ませる。

 他の雄に関しては邪魔なだけなので叩き潰すか食うかのどちらかとなる。


 ここまで見てきたのは食い散らかされたような物と、何度も何度も叩き潰された後のある見るも無残なものばかり。そこに老いも若きも無い。幼い子供ですら……。


「……許せない。こんな……」

「ニール。少し落ち着け、怒りは目の前を狭めるぞ。そのまま戦えば死ぬこともある。きちんと周りを見ろ。お前と俺が突破されれば後ろはエイダ様とテンペストだ。あの2人にオークを近づけさせちゃなんねぇ」

「う……ん。ふぅ……落ち着いた。ありがとうコリー。冷静に怒ることにするよ……」

『お二人共、用意は?』

「博士か、問題ない。案の定殆ど壁が壊れてるようだ、家もな。テンペストは街近くの高い樹に登って監視している。エイダ様はトレーラーの中、……オークの攻撃でもトレーラー大丈夫だよな?」

『ええ、問題無いでしょう。タイヤだけは心配ですが、窓にはシールドを下ろしましたし、装甲自体は結構頑丈に作ってあります。一日中殴られてても大丈夫ですよ』

『こちらテンペスト。位置につきました。全員確認できます、そのまま真っすぐ行くとオークの集団が居ます中心は……女性のようです。出来れば救助を』

「博士、突っ込むぞ。俺達を乗せてってくれ、後は適当に屋根の上にでも乗っけてくれりゃ良い」


 2人を手に乗せてサーヴァントが走りだす。

 ゆっくりに見えるが大きいからそう見えるだけで、実際の速度は相当なものだ。

 街に突入した後、頑丈そうな建物の上に二人を降ろし、そのまま目の前にいるオークの集団へ接近し……やや姿勢を低くした状態でメイスを一閃した。

 恐ろしい唸り声をあげて通り過ぎた巨大なメイスは、そこに群がっていたオークの上半身を綺麗に消し飛ばす。

 裸に剥かれて血だらけで意識を失っている女性を手に乗せてニール達の事を置いたところへと移動させると、近くの地面が爆ぜた。

 見ればオークが居たようで頭から左肩にかけてがはじけ飛んだオークの死体がゆっくりと倒れていく。


『……でかい割には気配を消すのが上手い……。ニールさん、コリーさん、私がこの場を引っ掻き回して一箇所にオークを引き連れてきます。そのまま魔法を撃ちこんで撃破を』

「了解だぁ!」

「ボクも。骨すら残らないように燃やし尽くしてやります!」


 さて……。

 サイラスはこちらへ向かってくるオークの集団の気配を感じた。おびき出すには丁度いい餌だろう。そしてここは丁度街の入口付近の噴水広場。今は真っ赤な噴水が吹き上がっているが、開けた場所であることは変わりない。

 20匹位は居るだろうか、何も隠さずにぶらんぶらんと揺らしながらこっちへ走ってくる。

 中には腕を齧りながらの奴も。


『……精々仲間をこっちに連れて来てくださいね、っと』


 ゴォンと激しい音が響き渡り、キャニスター弾がオークの集団へと襲いかかる。

 ひと纏まりになっていたことと、サーヴァントの背がオークよりも大きかったことでまんべんなくオーク共の皮膚を突き破り、遠慮なしに引き裂いていった。

 キャニスター弾は残り5、榴弾は6。この戦闘では十分だろう。


 生き残りも苦しそうに喚いているが、助けを呼ぶような声のようだ。

 砲声を響かせてまわりのオークをおびき出そうとしたのだが、これは手間が省けたようだ。

 喚いているオークを手にして掲げ、そこらを少し走り回ると何処に居たのか大量のオーク共が現れる。


『大漁大漁!さぁお二人共頼みますよ!』

「視えてるぜ博士、焼きつくしてやる。テンペスト、誰か生きている奴が一緒に連れてこられていたらそいつだけは撃ち殺してくれ、巻き添えで死なせたくねぇ」

『了解。コリー、一匹発見……排除しました。後続に踏まれたりはしていないようですがぐったりしています』

「無理も無いよ、あいつら底なしだって言うし。女なら子供でも大人でも関係ないんだ。……来たね」


『灼熱の炎よ、荒れ狂う風よ、燃え盛る竜巻となりて蹂躙せよ』

『その力は太陽の如く。焦熱の星よ、広場に巣食うオークの群れを灰燼と化せ』


 サーヴァントが広場を抜けて後ろを振り返った時、そこに顕現したのは巨大な火災旋風と呼ばれる炎の竜巻と、その中心部で煌々と白く輝く全てを燃やし尽くす超高温の塊。

 光が一層強くなって広場を包み込んだ後、そこには何も残っていなかった。

 あるのは噴水だった何かと、焼けただれて今でもまだ赤く熱を持ったままの石畳。

 所々にオークだったかもしれない何かがくすぶっているがもう炭化していて分からないほどだ。


『……凄いですねこれは。お二人共、今ので大半は消滅したでしょう、オークの気配を感じて見つけて下さい。建物に隠れているならもろとも吹き飛ばします』

「博士、オークと一緒に人の気配もある。もろともはやめといたほうが良い。俺とニールが突入したら屋根を引き剥がしてくれ」


 とある大きな建物の中に2人が入って行くとすぐに電撃の光が見えた。

 サイラスも屋根に手をかけて中を覗いてみると、一箇所に女達が集められているのが見える。後ろの壁を壊して両手に乗せて気絶している人のところへと運び出し、同じ要領で別な場所も解放していった。


「……後は……気配があるのはあそこだなぁ……」

「領主の館ですよね、あそこだけ異質な豪華さですが。あれみただけでも一斉蜂起される理由はわかりますね。放置でいいんじゃないですかねこれ」

「助けられたら助けて褒美せびろうぜ!」

『先にトレーラーを中に入れてしまいましょう。もうこっちにいれても問題ないのですよね?』

「あ、そうだな。あの人達も何とかしなきゃならねぇしなぁ……」


 トレーラーを動かして街の中へ入れる。

 付近のオークはすでに壊滅しているが、更に奥の方となると未だ居るかもしれない。それなりに広い街なので全てを見つけきることは出来ないが、とりあえず安全圏は確保できたと見ていいだろう。

 屋根の上に載せていた女性たちを全員下に下ろして、トレーラーの近くの建物へと避難させる。非常事態だ、家主も許してくれるだろう。入り口はトレーラーで塞いで出入り口になりそうな窓なども全て塞いだ。


「皆さん、もう大丈夫です。私達はハイランドの者ですが、たまたまここがオークに襲われているという情報を聞きつけてやって来ました。出入り口は全て塞いだのでオークは入ってこれません」

「あ、ありがとうございます!!私達もうダメかと……!」

「とりあえず……お風呂を用意しましょう、食べ物も。着るものはとりあえずその辺の家から拝借してきますので。怪我をされている方は居ますか?治療しますのでこちらへ」


 エイダが天使の笑顔で全員を迎える。

 家の中はエイダが土魔法で全て固めたのでとりあえずは安全だ。

 外はテンペストが見張りについている。

 裸同然の彼女たちの服は近くの家のタンスなどから適当に持ってきて置いた。

「まだ」だった者達はいいが、すでに餌食となった人達は相当ひどい。ずっと震えていて泣き続けていた。それでも身体を洗ってやると少しは落ち着いてきたようで、差し出された粥を少しずつ食べている。

 小さな女の子なんかは血を流しすぎていて危険な状態だった。一応、元通りにはなっているが、記憶はなくならない。これからを思うと可哀想だがどうしようもない。


「外のオークは片付けました。この街の状況が分かる方は居ますか?」

「あれだけいたのに……ですか?」

「生き残りがまだ少し居たので片付けておきました。この付近にはもう何も居ません」


 色々となだめすかしながら話を聞いてみると、初日で街の兵士はほぼ全滅、突然襲いかかってきたオークの群れは300を超えていたという話で、倒したのは恐らく半数程度だろう。まだこの街に潜伏しているのは確定だ。

 既に対抗した男たちや自警団は壊滅。初日に逃げ出せた者達もかなりの数がやられている。


 ただ、話によると他の場所からもオークが入ってきたという話もあり、もしかしたらもっと多いのかもしれない。

 女性たちに関しては見ての通りで、残っている人もまだどこかに居るはずだという。

 彼女らをどうするかに関しては一旦置いておいて、まずはこの状況をコリー達へと伝えた。


『やっぱりまだまだ居るのか。他の所もきちんと調べないとならんな』

『領主は後回しにして他を開放します?』

『あそこは領主の館というのであれば、少しは護衛とかハンター辺りが残っていてもおかしくないでしょう、他の場所にもハンターが居る可能性がありますし。屋敷を開放して皆をあそこに避難させましょう。ついでにハンターを解放して戦力を増やしたら良いのでは?』

「とりあえずここは私が護衛についています、人手は多いほうが良いでしょう」


 ニールとしては気は進まないが、サイラスの言うことも最もだ。

 兵やハンターが居る可能性があるならさっさとそこから引きずり出して働かせたい。


 領主の館の庭に入って行くとやはり叩き潰されひき肉となった者達の死体がそこらに転がっている。

 ありがたいことに扉は大きく屈めばサーヴァントも中に入ることが出来た。


『狭いかと思ったら無駄に広いですね……いかにも成金趣味といった感じの置物はともかく』

「なんでそういう奴って皆同じような物買うんだろうな。品がねぇ」

「コリーも貴族だったもんね……って今は男爵か」

「俺は実用的なのが好みなんだよ!装飾華美なのは好きじゃねぇ。……おー来たぞ。クセェ臭いが近づいてくる」

『赤外線モニタにも見えてますよこの大きさなら全部オークですね。耳をふさいでいて下さい』


 サーヴァントがかがんで左腕を前に突き出すのを見て何をするのかを察する。

 壁をぶち破ってオークが来た方向に向かって榴弾を選択して発射。そこそこの大きさのものなので危害半径は10m程度。この狭い空間だと衝撃でも相当なものとなるだろう。


『へぇ……廊下も天井が高い。ドアを破れば普通にサーヴァントで侵入していけるのは楽でいいですねぇ』

「その辺の壺とかは緊急事態だ。壊れても仕方ねぇさ、人命救助が先決だ壊せ壊せ」


 コリーが楽しそうだ。

 そして目を閉じて気配を探る。


「……上と地下だな。上は兵士も居るだろ、どうでもいいからまずは地下。どうせ無力な人達はそこにいる」

「罪人とかだったら……」

「武装蜂起した人達が捕らえられてるならむしろこっちの味方でもあるだろ」

「あ、そうか」

『私はこのエリアを確保しておきます。気をつけてくださいね』


 サイラスと別れてニールとコリーで地下へ向かう。

 隠し扉が開いていたので分かりやすかったが、閉じていたら厄介だった。

 下に行くと列を成すようにオークがひしめいている。ここはコリーが適任だろう。


『神速の雷よ、我が前に立ちふさがる者を穿て』


 雷が固まったかのような槍が出現し、次の瞬間には突き刺さっている。

 感電しているのかまわりのオークにまで被害は及んでいるようだ。

 ある程度倒れたところで下に降りると檻の中で固まっている人達が多く居た。

 無駄に頑丈な檻のようでまだ一個も破られていない。

 ここに逃げ込んだのか、それとも閉じ込められていたのかは知らないが好都合だ。


「巻き添え食らいたくなければ檻から離れろ!」


 そしてまた雷の槍が一直線に並んだオークを突き刺していく。

 ガクガクと痙攣しながら倒れていくオークを踏み台にして奥へ進み、地下牢に居たオークは全て殺し尽くした。

 ニールがぼやきながらも死体を回収して綺麗にすると、高熱によって鉄格子を焼き切り、全員を外に出す。

 話を聞いてみるとやっぱり蜂起した人達だったらしい。若しくはこの屋敷内で異を唱えた人達。まともな人だと判断する。


「襲われているという話を聞いて助けに来た。……がちょっと人数が足りん、手伝えるものはいるか?」

「救出感謝する!俺達で良ければ手を貸そう、領主もムカつくがオークはそれ以上だ」

「これで戦える奴は全員か?他に心当たりはないか?」

「街の北東方面にハンターギルドがある。あそこがこの中では一番頑丈な建物だし、ハンター達が多いから誰か残ってるかもしれない。非常時はあの付近が避難所になっているんだ」

「おお、なら街の人達もいるかも知れねぇな。とりあえず戦えない奴等は一旦こっちで保護する、誘導するから来てくれ」

「協力してくれる人はボクと来てください。まず装備を整えましょう」


 ニールの持っている物の中には盗賊たちから奪っておいた武器もまだ豊富にあるのだ。

 売り払ったのはその一部、しかも有用だと判断されたものが残っているからかなりいいものが揃っている。


「これだけの武器をどこで……!」

「あ、盗賊団壊滅させた時に根こそぎ貰ってきたんです。一応後で返してくださいね?」

「分かった。これがあれば戦える!」

「前に俺が持ってたやつよりいい剣だぞこれ!」


 上に上がってきた彼らを待ち受けていたのは、オークの死体とその中心に佇むサーヴァントの姿だった。

 返り血を浴びて足元とメイスが真っ赤になっているその姿は異様だろう。


 味方だと説明すると安心してくれたが、毎度毎度魔鎧兵は相当な恐怖感を与えるようだ。コーブルクでも王都以外ではそんなに有名でもないのだろう。

 それがオークの死体の真ん中で立っているのだから何も知らなければ恐ろしいと思うのも無理は無い。

 なにせオークの死体はほとんどが上半身が消えて、大きな盾を持ったオークなどはひしゃげた盾ごと潰されている。


『ああ、来ましたか……って、結構居ましたね』

「博士、一旦近くの頑丈な建物に彼らを隠して戻ってくる。協力してくれる人達には武器を渡しておいた、俺達が帰ってくるまで護衛を頼む」

『いいよ。私はここから動けないからね』


 ニールとコリーが非戦闘員を館近くの頑丈そうな建物に押し込めて土壁で囲った。オークも暫くは来れないだろう。


『左の入り口からオークの集団、8匹来ます』

「反対側からも来るぞ!」

「でかいのが混じってる!でかいのは頼んだ!」

『お任せを……』

「ソーサラーだ!」


 よくよく見れば確かにオークにも色々居るようだ。

 でかいの……は魔鎧兵とたいして変わらない巨大なオークで、他のオークと違って筋肉質。木を切り倒して削っただけというなんとも適当な棍棒を持っている。

 ソーサラーと言われたオークは確かに他のものとは違って魔法を扱っているようだ。

 ちょっとだけ飾りが派手になっているからわかりやすい。


『……ま、特にやることは変わりないですが』


 バンディットオークと言うらしい大きなオークは見た目通りのパワータイプ。まともに打ち合うと危険そうだ。

 棍棒を振りかぶったのでそのタイミングでメイスを振り上げてがら空きの脇を殴りつける。

 なかなか頑丈なやつだ、骨が折れた程度ですんでいる。流石にこれには怒ったようでめちゃくちゃに振り回し始めたのを冷静に回避して、右手のナックルガードを降ろして下から顎に向って打ち上げる。

 綺麗にアッパーカットが決まりその巨体が僅かに浮き上がるが……。

 次の瞬間、シャコン!という何かがスライドする音が聞こえてバンディットオークの頭から杭が飛び出した。

 ビクンと大きく一度だけ痙攣した後、小便を垂らしながら絶命する。


「す……げぇ……一撃だぜ」

「見とれてる場合か!来るぞ!」


 足元ではサーヴァントの邪魔にならないようにしながら裏切り者となった兵たちが奮闘している。

 ハンター達も混じっているようで貸し出した武器を巧みに使ってあっという間にオークを切り伏せていた。


「戻ったぞ……ってうおぉ……なんだこれ」

「バンディットオーク……こんなのまで居たんだ……」

『2人は彼らとともに上へ。戦えない者達を助けてやって下さい』

「まて、領主も助けるつもりか?」

『そうですが』

「あいつらは領民を人とも思っていない奴等だ!助ける必要はない!」

『助ければ報奨金とか搾り取れそうだと思ったのですがね。……ついでにほら、その辺の壺とか高いみたいじゃないですか。戦闘中に壊れちゃったりしたのは仕方ないでしょう?』


 つまり……鬱憤ばらしに金目の物を奪いながら、破壊し、更に領主を助けて金をせしめる。

 色々無くなっていたり壊れているのは全てオークのせいということだ。

 その後、領主の館は全ての部屋の戸が吹き飛ばされ、中はオークの血と戦いの激しさを物語る焦げ跡や破壊されたテーブルや調度品等が残り、戸棚は落ちて中身は一緒に燃え尽きてしまったようだ。

 誠に残念な話だが、命には代えられない。


 その激しい戦いはついに領主の立てこもっている4階まで来た。

 やはりかなり頑丈な部屋に篭っているようで、人だかりならぬオーク集りが出来ている。

 その集団に向ってニールの焦熱魔法が放たれてオークは蒸発し、ついでに壁も消えた。

 毎度のことながら恐ろしい出力だ。


 中に突入すると、でっぷりと太った領主が一番奥で縮こまり、扉を守るようにハンターや兵士が並んでいる。さらに領主の近くには薄着の女性たちも沢山居た。

 なんというか……もう本当にダメな人だと見ただけで分かる。


「街がオークに襲われているという話を聞いて助けに来た。館に居たオークは全て排除、囚われていた者達を解放して集めてある」

「お、おお!そうか!助けが来たのか!よくやった!儂はオールトン伯爵領の領主ラッセル・ノーマンだ、この褒美は出す、儂らもここから出して欲しい!」

「俺らはハイランドの者だ。この対価は高く付くぞ?まだ開放していないところもあるからな、兵は借りて行く。よし、領主と戦えない者達を囲んで移動だ、一旦この館を離れる」


 エントランスではやはりまた襲撃があったようで、死体の数が増えていた。

 来るまでに全てを破壊しつくされた自分の屋敷の様子と、エントランスで倒れる大量のオークにその中心で返り血を浴びて立っているサーヴァントを見て領主は半分発狂して気を失った。


「……うるさいよりは良いか」

「そうですね。では皆さん教えたところへ行って彼女らを保護してそのまま建物の護衛をお願いします。他の人達は他の場所を解放して回ります」

「ニール、とりあえずこいつらも回収できるか?」

「大きいのはもうスペースがありませんよ……置いときましょう。氷漬けにしておきます」


 流れでて匂いが酷い血を地道に魔法で浄化して行き、フロアごと凍らせて全部そのままにしておくことにした。ニールの収納だって限界はある。ただでさえ奪った物で結構詰まっているから早い所テンペストに空間魔法を覚えて欲しい所だった。


 一日掛けてなんとか全てのオークを排除し、残った人員で壁を補修させてとりあえずはなんとかなったと見ていいだろう。

 街は見るも無残な姿になってはいたが、確かにギルドの建物は丈夫だったようで、修練場に大量の人を詰め込んで襲撃から皆を守り切っていたようだ。

 魔術師ギルドのほうでも大人数が保護され、教会や聖堂などでも生き残りは見つかった。


 ハンターやギルドの方ではコリー達を知っている者達が多く居たようで、素性は完全にバレた。

 ミレスの脅威だけでなくこうしてオークからも救ってくれたことで相当に感謝はされたが、表情はやはり暗い。かなりの数の住人たちが死亡し、女性たちは心に癒えない傷を負った。

 これからの復興は彼ら次第だが、まずは……。


「そうか、お主達はあの鉄の竜騎士の一団だったのか!助かったぞ、感謝する!」

「ああ、……だがこの報酬は高くつくと言っただろう?」

「ぐ……がめついやつめ……いや、いい、そう睨むな!幾らだ!?いくら欲しい!?女か?」

「いいや、責任だ。領主であるあんたにはこの街を守るための責任がある。見た感じそれを放棄して自分だけ引きこもってたな?それにだ。話は聞いたぞ、この街の壁は老朽化していて危険だと何度も訴えたがお前は無視して私腹を肥やした。それどころか税金を上げて更に金を絞りとったそうだな?」


 それなりに頑丈だった壁も、修復の許可が降りず、自分達で直そうにも広大すぎて手がつけられなかったそうだ。しかも外部に設置されているはずだった罠も無駄だと言ってメンテナンスを怠り全く機能していない。

 それらを直すと言って税金を上げて、それでも改善する気配がなかった為一斉に武装蜂起されたようだ。


「そっ、それは……何をするにもカネがかかるのは知っているだろう!その為に……」

「結果、こうして魔物の襲撃を受けきれず壁は崩壊、有力な者程先にこの街に見切りを付けていなくなっていてまともな反抗も出来ないままに蹂躙された。お前はその責任を取る必要があるんだよ」

「そんなこと!他国の人間であるお前たちに何の関係が!」

「無いね。無いが……ここに居る領民はどうかな?」


 当然、ここに居る領民たちには関係のあることだ。貴族たちがほぼいなくなっているこの街で、移動できずに留まるしか無かった彼らはオークに蹂躙された。

 守るべきものたちを守らず、それどころか真っ先に館に逃げ込んで引きこもっていた領主。

 この街の惨状を見れば理由は明白だろう。


 当面の食料として、領主の館にあるオークの死体を提供する。

 自分達の知り合いを食ったかもしれない奴等の肉を食うことには抵抗もあるようだが、めぼしい食べ物は全てオークに食われて無くなっているため、仕方がない。

 ハンター達も周辺の森で狩りをしてなんとか食料を確保することにして、王都へ事の顛末を連絡し、救助と支援物資が来るのを待つことになった。


「領主は?」

「領民たちに引きずられて自分の地下牢に放り込まれたようだな」

「始末しなくても良かったのですか?」

「テンペストたまにすげぇドライだよな……。ま、下手に俺達が手を出してもよくねぇ。俺達がやったのは領主と領民の救出とオークの排除だ。ギルドは後で報酬金を別に出すってことだったし、俺達が帰りに王都に寄った時にコーブルク本部に行けばもらえるそうだ」

「当然といえば当然ですが、領主のラッセル・ノーマン……オールトン伯爵は爵位を剥奪し、別な方がこのオールトン伯爵領を受け継ぐそうです……でも、ちょっと可哀想な気がしますね……」

「あー、この状態の伯爵領を引き継ぐとか、何の罰ゲームだよって感じだな」

「復興も領主の大事な仕事ですよ。一応、無事な建物などもありますし、ぐるっと見てきた感じでは見た目は酷くなさそうです。確かに壊れては居ますが、基本的にはすぐに直せる程度であると判断しました。……完全に潰れてるところの方はもうどうしようもないですが、どうせ住人の数も減っているのでここらで一旦振り分け直して計画的な街を作ると良いと思います」


 商人たちが戻ってくれば、少しは活気が戻るだろう。

 職人たちも生き残りと、王都へ避難していた者達が戻ってくればある程度はなんとかなりそうだという。貴族たちもあの領主が失脚したことでまた戻ってくる人も居るようだ。

 領主に愛想が尽きていなくなったところでオークの襲撃だったので、居なくなっていた人達を悪くいう人達も居ない。


 ただ、こちらは完全にタダ働きをしたようなものだろう。恐らくギルドからの報酬も割りに合ってないと思うが、それでも助けられた人が多く居たのは良かったと思う。

あ、もちろんオークのあれは強壮剤です。

白子は子供が生まれないと悩むご婦人方が食べると子を授かると言われております。


ヒャッハァー竿刈りだぁ!

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