第四十六話 救助へ
たった一日ではあるものの、魔鎧兵、そして戦車などの新型兵器などに関してある程度レクチャーをしていった。
これを活かせるか、自分たちのやり方にこだわって別な道を行くかは彼ら次第となる。
それに今はまだ見せるつもりはないが、サーヴァントには火器もある。
ロケットランチャー、滑腔砲、そしてレールカノンだ。
近接戦闘しか頭に無い内は、本気のサーヴァントに彼らは絶対に勝てないのだ。
それに気づくかどうかは、戦車の有用性とその戦車砲というものを魔鎧兵に持たせるという発想ができるかどうかだろう。
ライフルがあるのだからもうすでに気づいていても良いのだが、まだのようだ。
今のところこれ以上コーブルク軍を強化するメリットはない。
同盟しているとはいえ利益がないとなれば裏切るのが常なのだから警戒はしなければならないだろう。
「ハイランドからは教わることが多いようだ……。ミレスを倒した後、また我々は調子に乗っていたのかもしれない。ミレスの技術を得てそのまま運用し、その欠点を理解しないままで使っていた。魔導車にしろそこにある物を我々は思いつかなかった。魔鎧兵を牽いて運搬するということすら」
「技術とは戦争の発展とともに急成長するものです。より壊れない装備を作ろうと、色々なパターンを試して新しい合金を生み出し、それが今では一般家庭でも使われるなどのように。新しい技術を得たら、まずは自分達で一度否定するのです。これは有用ではない、と。そしてそれに反証するのです。そこに欠点や長点が見えてきます、欠点は改善し長点は伸ばす……装甲が弱ければ強くするかそもそも当たらない工夫をすればいい。そして時には割り切る必要だって出てくるでしょう」
例えば視界。
装甲車などがそうだが、乗員を守るためには極力窓は無い方がいい。
その為には小さなスリットから覗きこむようにして外を見る必要が出てくる。ただこの世界にはオクロと呼ばれるカメラと似たようなシステムが存在するのでその欠点を打ち消すことが出来るのは、マギア・ワイバーンで実証済みだ。
例えば装甲。
厚くすれば当然防御力は上がる。しかし……その重さゆえに今度は移動に支障が出る。
軽くすれば装甲が薄くなり防御力が下がる。ではどうするか……、想定される攻撃をまず分析する。そしてそれに対応した物を必要な箇所につけていく。攻撃が当たりにくいところは装甲を薄く、その代わりに当たっても最悪な事態にはならない程度の防御力だけを持たせておくなど。
魔法防御に特化させると物理攻撃に弱くなる。
サーヴァントは基本的に魔法防御をほぼ捨てている。
エンチャントによる簡単な対策だけはしているものの、基本的にはあまり考えていない。
完全に考えていないわけではなく、そういったものが想定される場合には対応した装備に換装するという発想だ。
戦場に合わせてその装甲の種類を交換できることがサーヴァントの強みなのだ。
こうして色々試行錯誤することで、より良い物が作れるようになって技術力が上がっていく。
逆に魔法隊などはコーブルクが最強と呼ばれていただけあり、勉強になるものが多い。
大軍の足止めとして使われる地面を軟化させる泥沼は、ミレスの魔鎧兵を苦しめる事は出来たのだが予想以上に早い進軍速度に間に合わなかったこと、そして予想外の大砲の飛距離によって魔法隊が壊滅したことで意味を成さなくなったことが痛かった。
魔法隊が無事であれば侵略を許すこともなかったかもしれない、という見方もあるが今までの大砲と同じ性能であれば恐らく可能だっただろう。予想外の大砲の技術は残念なことに魔法隊の射程を超えており、やはりこれも無理だろう。
これからは魔法隊も敵の射程をかいくぐって接近していくという特殊部隊の扱いが必要になるはずだ。
それに関してはすでに対策を取ろうと試行錯誤をしているようだ。
現在の魔法隊は通常のローブ姿ではなく、動きやすくそれなりに防御を考えた黒い軽鎧姿だった。
目立たないことを念頭に置き、魔法隊は相手に出来るだけ近づいて射程に捕らえたところで広域魔法を放つ、魔法を設置して罠をかける、撹乱する……など少人数で大人数を相手にかき回すという使い方になったようだ。
派手さは無くなったものの、万能とも言えるその多彩な攻撃方法はやはり脅威なのだ。
今では遠距離攻撃の為の魔法を編み出している最中なのだという。
流石に連携がうまく取れており、結構エグかったのが足止めの泥沼からの土属性のスパイクだった。
足止めを食らった後にそのまま土が固まり、突き出た金属や岩の棘が突き刺さる。
生身の歩兵などは大ダメージどころかそれだけで行動不能に陥る。
トマホークミサイルのように相手の正面から来た後に上に上がり、上から降り注ぐ形になるファイアランスとの組み合わせも相当凶悪だった。
上に気を取られている隙に足元が掬われ、気づいた時には上と下から串刺しだ。
こちらからはテンペストのブラストを披露し、特に閉鎖環境においてのその有用さと脅威度を見せつけるのだった。
「これだけの爆発……いや、爆発の炎がない、爆風だけか?どういうものなのだ?」
「爆発というものは、圧力が急激に解放された結果破壊的な影響をおよぼすものです。膨張速度が音速を超える場合は爆轟と呼ばれ衝撃波が発生します。この爆轟を人工的に生み出し、更に結界と同じように範囲を指定することでその中でのみ効果を発生させるようにしたものがブラストとなります。高圧で圧縮した気体を超高温で加熱して圧力を限界まで引き上げた後に解放されたそれは、範囲を指定したことによってさらなる破壊をもたらしていくことになるのです。数百mの範囲でこれを放つことが出来、壊れやすいものや人等がその範囲内に入っている場合、それらが破壊された時の破片が衝撃波によって押し出されてそれ自体が弾丸となり破壊が広がっていくため……」
「テンペスト、相手の理解を超えたようだ」
「まだ説明は終わっていないのですが……」
途中から何を言っているのかついていけずに固まっている。魔法使いである彼は今までイメージなどを主に使って攻撃をしていたため、こうして知識としての反応を知らない。
そもそも用語がこちらの方では定義されていないので理解が難しかったのだろう。
まず衝撃波というものがどうして出来るのかを知らないのだから。
ちなみに、彼らの言う爆発とは可燃物を霧状に撒き散らして点火するという、いわば燃料気化爆弾に近い考え方だ。しかしそれに使われる燃料がそこまで燃焼が早いものではないため爆轟を伴わず爆燃にとどまる。
爆燃は音速に達しないものなので被害は軽微となり、範囲外に居ればとりあえず熱以外でのダメージはない。見た目は派手なのだがそれほど強力ではないのだ。
その為広範囲をカバーするには数名の魔法使いにより展開される。
テンペストが行なったものは1人でその範囲を遥かに超える広範囲に被害をもたらす。
上下角の制限も設けることで、効果範囲に存在するものは衝撃波をもろに受けてその圧力により四散していくことになるのだ。
この衝撃波は更に指定範囲内の壁で反射を繰り返していくため普通に放つよりも効果が大きいのも特徴だったりする。
これで魔法を扱う上で大事なものはイメージも必要だが、物理などの学問も無ければ最大破壊力までは届かないということが理解できただろう。
……問題はその学問を教えられる者がいるかどうかということだが、そこまでは面倒を見ることはない。
やり方だけは教えるが、そこにたどり着く方法は自分達で見つけて欲しい。
ただ、秘術と言われているものの中に最大火力を叩き出す物は一応存在する。
メテオストライクだ。名前の通り隕石を降らせるというもので、見た目もその効果範囲も大きい。
……が、当然これもイメージと見た人の表現のみでの再現になるため、実際のよりも大分威力はおとなしい。
テンペストやサイラスが再現することになれば、まず落ちてくる時点でとてつもない速さで崩壊しないためにそれなりに頑丈なものを落とすだろう。
そしてそれがレールガンなどよりも遥かに早い速度と、大きな質量を伴って落下する。
効果を限定的にしようとしても相当な広範囲に岩が降り注ぎ、衝突地点は蒸発。その周りの物も全てが衝撃波によって吹き飛び、瓦礫などの被害は更にその外側に及ぶ。
その他色々なことが起きるために恐らく国が消滅しただけでなく、その効果も長期間残ることになるだろう。
流石にこんな手段は普通は取れない。
大きな質量と、その速度と言うのは大きければ大きいほどに脅威なのだ。
どちらかと言えば再現するとなれば、軌道上からロケット噴射で質量の重いものを目標地点まで誘導しながら落とす方法、神の杖と呼ばれた宇宙兵器だろう。この世界に宇宙条約等という無粋なものはない、存分に落とすことが可能だ。地球では懸念されていた断熱圧縮による融解も、この世界には超高温に耐え切れるだけの素材と、エンチャントによる能力の引き上げという物があるため実現自体は不可能ではないだろう。
少々不親切ではあるものの、これくらいでも相当な進歩が可能なのだからいいのだ。
こちらの公開する情報が多い割に向こうの情報が少ないというのも困る。
とりあえずコーブルク側から得た知識で有用だったのは戦術の捉え方と、マナと言うものへの解釈というところだろうか。
一つの物質として捉えており、空気と同じように普遍的に存在し、更に鉱石の中にも存在する。
物体の中に取り込まれたマナは、その物体と同化することで変異して、魔法的な効果を持つ別な物体へと変わるということだ。
もしかしたらマナというものも突き詰めていけば一つの小さな物に分けられるのかもしれない。
戦術の方も他の国の考え方とも共通する部分があるのは確かだろう。ハイランドはその立地から、戦術もこことは全く違う物になっている。
高山という特殊な立地は、高低差が激しく見通しがきかない。そして最初から高いところにいるハイランドの軍は下にいる者達を攻撃し、長く広がった相手の軍を挟撃するのが基本だ。
こうした広い大地で戦う事自体が殆ど無いために、平地の者達の戦い方を知れるのは大きい。
対策なども取りやすくなるのだ。
一応、サイラスも知識としては知っているものもあるが範囲外だ。魔法を組み合わせた戦術なども存在していないのだから知りようもない。
しかし発展した戦闘を行えるテンペストたちの戦術というものは、全てに対処できる様になっているのでこれで平地での戦略の建て方が楽になる。
もちろん向こうも全ての手の内を明かしているわけではないだろうから、そこは大体想像しながら懸念されるものを潰していくだけだ。
「意外と収穫はあったというところでしょうか」
「どちらかと言うと向こうのほうが学ぶ所が多かったように感じるけど……」
「敵の戦術の一端が見えただけでもかなり有用ですよ。私達の世界ではすでにこういった物は前時代的なもので廃れていますから。それに魔法もありませんし。考え方としては空や高速移動が出来ないくらいで私達のやり方に似ているところも多いという感じですか」
「短時間で拠点を作られてしまうというのも問題です。これは私達でも実現が難しかったものですから」
ある程度強固な壁と建物を短時間で建てるというのは、流石に魔法でもなければ無理な話だ。
移動して潜伏先に拠点を構えられると補給などが容易になってしまうために、なるべく拠点を作らせないようにしなければならない。
まあここはワイバーンの出番となるだろう。地対空ミサイルや高射砲がない時点で無力なのだ。
魔法も高高度を飛ばれると手も足も出ない。
「それにしてもこのトレーラーは相当興味津々だったみたいですね。私も初めて見た時にはびっくりしましたから……」
「アディは凄くいい反応をしてくれました。作った甲斐があるというものです」
「さて次の運転は私ですかね。行きましょう」
次に目指すのは海のある港町だ。
王都から北へ暫く行った先にあるので途中何箇所か街を経由していくことになる。
トレーラーであっても数日かかるだろう。かなり広大な国土である事がわかる。まあ、常に森の中を動くようなものというのもあるが。
海に近づくにつれて草原になり、また少し木が増えていって岩肌の見えるなだらかな海岸線が現れる。
この岩肌の部分には洞窟が生成されており、神秘的な光景が見れることでも有名らしい。
ぜひとも見に行きたい。
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翌日、短かった王都滞在だったが早速トレーラーに乗り込んで出発する。
意外と換金したことでそれなりの金額になったので楽ができそうだ。
帰りに忘れずに寄らなければならない所が一箇所あるが。まずは一旦王都を出て北側の方へと向かう。
北門をでてすぐにもう深い森となっている。
見通しがきかないため、ある程度の距離の木を伐採して見通しを良くしてあるがかなり広大な面積だ。かなりの時間がかかっただろう。
もちろん、森の中に入ってみれば強固な柵が設置されており、そう簡単には突破されないようになっている。
「あの柵には魔道具も設置されていますね、恐らく敵が来た場合に反応する何かだと思いますけど」
「こういうのはニール結構詳しいよな?」
「罠とか、そういうのは結構色々調べたことがあるんで。幻覚を利用したものは面白いですよ」
落とし穴に設置して、そこに普通の地面があるように見せかける。
これはとある蜘蛛の魔物の習性を利用したもので、普段は地面の下に居てもともとあった地面を見せる。得物が近づき気付かずに通り過ぎた場合は後ろから襲い、落ちてきた場合はそのまま捕獲する。
それを真似して出来たものだが、シンプルな割に効果が高くてよく使われるのだ。
気配感知を使われるとすぐにバレるため、その幻覚の床や壁の裏側には人ではなく仕掛け式の罠を仕掛けておく、落下式の物であればスパイクを生やしておくなど。
「幻覚……そういうのもあるのですか」
「博士は運転に集中していてくれよ頼むから。あんた考え始めるとそのまま戻って来なくなる時あるからな」
「流石にそこまで酷くはないと思いますが。でも幻覚を見せるというのは何も穴だけではないのですよね?」
「ええ、別にやろうと思えばどこにでも出来るそうですが。それによって大勢の人を隠したりするのには向かないそうです」
大軍を幻覚の裏に隠せたらと考えたらしいが、広範囲をカバーすることが出来ず、大量に魔道具が必要になることが分かってやめたそうだ。
「ではこのトレーラーは?魔鎧兵は?闇の魔晶石の使い方の方でも色々考えましたが、周りの景色にあわせて色を変えられる物を考えています。もしかしたら使えるかもしれません」
「幻覚の物は動くと解除されます。というか動くとその景色ごと動くので違和感が凄いですから、確実に攻撃されますね」
「ふむ、ではやはり魔晶石を使って光の反射を制御するのが一番早そうですね……」
「光学迷彩……ですか?」
「多分、幻覚では動くことが出来ないようなのでそこまでは出来ないでしょう。なのでドットパターンで変更できるようにして、このデジタル迷彩を作り出す程度で考えていますよ。うん、見えてきました」
ついに塗装をしなくて良くなりそうだ。
まあその為には一旦ハイランドへ帰らなければならないわけだが。
その後も高低差の殆ど無い深い森の中を進む。
何度か大きな紋章を掲げた商隊の様な人達も居たが、かなりハンターの護衛らしき者たちや、自分達でもともと雇っているのだろう、同じ装備の戦士たちにがっちり囲まれて居るのが多かった。
すれ違ったり、逆に追い越したりしながら先を進む。
大体は相当びっくりした顔をしていたがまあ、それはそうだろう。
馬車でゆったり旅をしていたら突然大型トレーラーが姿を現せば誰でも怖い。
「……一度休憩しましょう。あそこに水辺があります、此処から先少しの間はこの大きな湖らしき場所をぐるりと回るように道が通ってるようですね。幾つか休んでいる馬車も見えますし、ちょっと私も疲れました」
「お疲れ様、サイラス。少し寝ると良いです。問題がなさそうなら外で食事にしますか?」
「あ、ボクそれ賛成!トレーラーの中も快適だけど、今日は外も凄く気持ちよさそうだよ。木陰にテーブル出して休もうよ」
「あーいいかもしれねぇな。これだけ人が居るなら襲ってくる賊も居ないだろ」
「森の中は精霊達も多くいますし、耳を傾けるのも良いかもしれませんね」
すでに時間は昼。
水辺で休みながら食事をとっている人達も多い。
この湖で服を洗って干している人達もいる。
テーブルと椅子を出して、車内で料理を始める。
幾つか魚を購入してきているので、悪くなる前に消費するつもりだ。一応、保冷庫は取り付けてあるもののそれでも腐りやすいことには変わりない。
「んー……気持ち良い風ですねぇ……ハイランドに比べると暑いくらいだけど」
「ほれニール、お前の分な」
「ありがとコリー。……ほんとコリー料理上手いよね」
「ああ、色々とテンペストにも教えてもらっているしな。そっちのスープはテンペストが作ったやつだ。パンもな。このパン変わってるけどすげぇ美味いぞ。パンの中に料理を突っ込むってのは初めて見た」
「サイラスが欲しがっていたのでどういうものかを聞いて作りました。味はこちら側に合わせたものを作りましたがなかなか好評でした」
コロッケパンを作った。
芋とキャベツはあるが、ソースが無かったためマヨネーズを自作して調理した。
炭水化物の塊と言われるがまさにその通りで、その代わりに腹持ちがいい。
外からはただのパンだが、かじると中には大きなコロッケが一個まるまる入っているのだ。
「あ、これ美味しい。これいいよ!」
「中にグラタンを入れるものもありますよ。私はこういう片手で食べられる物が結構好きですね。研究で何か書きながらとかでも食べられるので」
「そっちの世界にゃいろんな料理があるんだな……。でもフライが被ったか」
「いえ、このお魚のフライも凄く美味しいです。骨も処理してるんですね……食べやすいです」
人数が少ないのでまあなんとかやれないこともない。
海の赤身魚をフライにすると白身とは違った美味しさがある。
「ちょっと面倒だったがサイラスに言われてやってみた。確かに一々気にならなくていいな」
「じゃあ夕食は私が作りましょうか。食べ終わったら私キッチン借りて仕込みをしますね」
「寝なくても良いのですか?」
「ああ、こっから先はコリーさんに変わってもらいました。私の筋肉が元に戻るまではと。ちょっとカロリー多めで色々食べていますが、ここまで減ってしまうと今度はなかなか太らなくて……」
「サイラスさん、今の発言は全女性を敵に回します」
なかなか太らないというサイラスの言葉に敏感にエイダが反応する。
「いや……拷問受けて死ぬ直前まで何も出来ずに骨と皮まで痩せてからっていう前提あるからな?」
「すみません、前言撤回します……」
が、コリーの反論を食らってあっさりと撤回した。
いつも元気な博士の事を見ているので、そういった前提があることを忘れていたらしい。
まあアグレッシブに動きまくる博士を見ていると忘れてしまうのも仕方ないだろう。
筋肉をつけるために太る、女性からすれば太りたいのに太れないというのは贅沢な悩みに聞こえるが、流石にサイラス博士の体を見てそれを言えるものは居ないだろう。
食べ終わってゆっくりと休んでいると、近くに居た商隊の商人風の男が話しかけてきた。
珍しかったのだろう。
「王都の方から来たようだが……」
「ああ、これから北の方に行って漁港のある街まで行くつもりだ。いいところだなここは」
「やっぱり知らないのか。……そもそも商人ではなさそうだが……あの紋章はハイランドの国旗か?ということはハイランドから来たのか?」
「そうだが……何かあったのか?」
ここから次の街まで後200km程。大した道のりではないがその街で今ちょっとした問題が起きているそうだ。
何やら色々と私腹を肥やしていた領主に耐えかねて、領民が一斉蜂起。そこまではまあ良かったのだが、今度は血の匂いに釣られたのかオークの集団が現れたそうだ。
向こう側からくる馬車は基本的に商人のものだが、積み荷の中には避難する領民たちも多くいるらしい。
言われてみれば馬車の数に比べてやたらと人の気配が多い。
当然対応できない商人たちは真っ先に逃げ出しているというわけだ。
途中何度もすれ違うと思ったらそういうことだったのか。
「マジか……」
「他の国から来て危険を冒す必要もない、大分遠回りになるが迂回していくのが良いと思う」
「うーん……ただまぁ、オークなんだろ?」
「大軍だぞ。襲われてからもう2日は経ってる、反乱のせいで兵もバラバラの状態だったんだ……もう恐らく壊滅しているだろう」
オークにとってそれ以外の生物は食い物であり、雌は子を増やすための道具にすぎない。
一斉蜂起が7日前、そしてオークの襲撃が2日前。ここに来るまでに相当数が逃げきれずに襲われても居るらしい。
「あれ?そういえばちょっと前にすげぇ護衛引き連れた奴等を見たんだが?」
「……恐らく、離反した貴族とその護衛たちでしょう。蜂起が始まってからすぐに街を出ているので今の惨状を知らないのだと思います」
「そうか……。まあ分かった。次の街は卵料理が美味いって聞いてたんだがなぁ……まあ仕方ない。食料なんかは足りてるのか?」
「予定外の人数で逃げてる、もう殆ど無いな」
流石にそんなことを聞いてしまっては黙って行くのも申し訳ないところだ。
盗賊から奪っておいた食料を渡してやることにした。
どうせ自分たちの分はさっきの王都である程度買ってきているし、最悪自分達で狩る事も出来る。
「助かる!この礼をしたいのだが……」
「あーいや、それ自体奪ったもんだ。気にするな。盗賊のだから遠慮しなくていいぜ」
「そうでしたか。ではありがたく……ここに居る皆にも分けてやろうと思います」
「そうしてくれ。足りるくらいはあるはずだ」
また少し休んでから出発すると手を振ってくれる人達がいた。
あの商人はきちんと話を通してくれているようだ。なかなかいい人だった。
「オークですか。肉は豚肉に似て美味しいそうですが」
「女性陣はあまり出ないほうが良さそうですけどね」
「私は簡単な魔術でサポートします。敵の注意を惹くだけの簡単なものですけど……」
「助かります。とりあえずエイダ様とテンペストはこのトレーラーから離れないように、ボクとコリーが魔法で、サイラス博士は魔鎧兵で蹴散らしましょう。街の少し手前で下ろすからテンペストはペネトレーターで援護して欲しいかな?」
「了解です。通信装置は各自持って下さい、こちらからも指示を出します」
サイラス博士はサーヴァント用の弾薬と装備を見直す。
基本的にはサーヴァントのメイスとキャニスター弾、若しくは榴弾を使用する。
大剣も一応持ってきてはいるが、微妙に使い勝手が悪い。
肩に付ける大型装備は持ってきていないので結局はこれになる。
プラスして、ナックルとパイルバンカーだ。
オークは一匹が大体2~3m程の大きめの魔物なので、魔鎧兵のメイスも当てやすい。
ただし力は強いので武器持ちの攻撃に関してはなるべく避けたほうが良いだろう。万が一装甲が薄いところに当たればそれなりにダメージになる。
2時間と少し位進んでいくと、段々とオークと人の死体がアチラコチラで見られるようになってきた。
「ひどい……」
「原型とどめてねぇな。流石オーク胸糞悪いやり方しやがる」
行く手には黒い煙が幾筋か上がっている。
生き残りが居るかは分からないが、このまま行くしか無いだろう。博士もすでにサーヴァントで待機中だ。街は近い。
おなじみオークさんです。今回も存分に散ってもらいます。