第四十五話 魔鎧兵
「……もう、読んでいるというよりもただ捲っているだけにしか見えませんね」
「あの一瞬でそのページを記憶して居るらしいです。そしてその記憶をマギア・ワイバーンへと送って……とやっているみたいですけど」
「流石精霊というべきでしょうか。私には真似できませんね……」
「でも最近テンペストは魔法の知識はあるけどそれを実行するのが難しいみたいです。何でですかね?ワイバーンの武装に似たものならすぐに作って扱えるのに、サイラス博士みたいにボク達の使う魔法みたいなものは苦手なようで……」
これはどうしようもない。兵器という分類のものの仕組みなどは知っているものの、そこまで深い知識があるわけではないテンペストはまだ武装等を再現するにとどまっている。
なんとか簡単な物はある程度出来るようになっているため日常生活には困らないが、手数は少ないと言っていい。
逆にサイラス博士は、様々な武器などに精通しているのもあるが、感覚的な部分もゲームやアニメ、SFなどそういった創作物などで慣れ親しんでいるため、意外と簡単に使いこなせる。
なので現在のところ、こうして知識を入れるだけ入れて、サイラス博士に渡して完成した魔法を内容とともにテンペストに理解しやすく「翻訳」してもらう形をとっている。
今はピクシーワードの中級に該当する医療魔術とサイラス博士が呼んでいる物を練習中だ。
筋肉、骨、内蔵の位置等を覚えることで体内で起きた破壊などに対して治療を施す物だが、元々そういったシミュレートをするように出来ていないのでなかなか難儀しているのが現状である。
とは言え、ニューロコンピュータである本体は進化を続けるコンピュータでもある。
何度も反復練習などをすることで、AIと共に成長する。
こうして知識を詰め込んでいく事自体は別に無駄にならないのだ。
「大体終わりました。こちらの国は植物関連と鉱物関連の魔法が多いようです。成長促進や結晶生成など役に立ちそうなものが多くありますね。地面からスパイクを放つ魔法でもこちらではそれが鉱石を元にしているようです。結晶生成に関してはサイラス博士に教えると物質生成に組み込めるかもしれません」
「魔晶石の生成とかが含まれているのかな?確かに有用だね、ハイランドではあまり聞かない魔法だ」
「ただ博士が理解できるかどうかは分かりません。彼も魔法は感覚的に使っていると言っている通り、大半の魔法の発動の原理をよく分かっていないのです。そういう物であると確固たるイメージが固まっているから扱えますが、生成するとなるとそれが「何で作り出されているのか」を明らかにしないと出来ないのです。こっちの世界の人は感覚で生み出すので必要ないようですが、彼の生成は少しその生成に関するプロセスが異なっているのです」
「正直、今でも1000年たっても出るかわからないレベルの天才だと思うけどね」
「え、えっもう見終わっちゃったんですか??私まだ物語半分くらいしか……」
「エイダ様、それ全5巻ですよ……まだ1巻ですよね」
「……丁度、面白くなってきたところなのですが……」
流石に可哀想だったのでテンペストが全巻記憶して後で書き出すことにした。
勝手に売らなければセーフだ。そもそも複製を作る技術が無いのでそれを取り締まる法自体が無い。
ちなみにエイダが見ていた本は海を渡って島を見つけた男の冒険記だった。
今は海の向こうにも大陸は存在することが知られているものの、間に広がる魔物の海域のために交易は行われていない。一年に数回、来訪者が来るかどうかといったところだ。
大体来た船はボロボロになっているわけだが。
その男はコーブルクで初めて大海を旅した人物とされている。
海の向こうには何もないという説を信じず、未だ誰も見たことのない場所を求めて準備を始めるものの、誰も信じてくれない上に詐欺のたぐいと思われて出資をしてくれなかった、それがとある貴族のパトロンを得てなんとか実現へと向かうも、数度の嵐によって戻って来ざるを得ず……しかし諦めなかった男は最後の一隻となっても旅に出た。……というところで時間が来てしまったというわけだ。
展開はまだまだ先があるということは、そこにどんな物語があるのか気になって仕方ないだろう。
テンペストとしても他の大陸などは気になっているので、そのうちに許可が取れれば行くこともあるかもしれない。
だが今ではない。
宿に戻る途中、美味しそうなお菓子屋が目に入り、テンペストが引き寄せられていった。
「……こういうのを見ると普通の女の子なんだけどなぁ」
「そうですね。可愛らしいじゃないですか」
「ボク的には本当に最高の女性なんですけどね。リヴェリだったらどんなに良かったか……!」
「リヴェリなら……うん、確かにそうかもしれませんね。テンピーは人族でも相当可愛い上に美人って言う感じですから」
しかし色恋沙汰はまだまだ遠そうである。
知識として仕入れているものの、それを持って感情はまだ動かないのだった。
今はどちらかと言うと食欲だ。美味しいものを求めてショーケースを覗き込んでいる。
その姿はどう見ても普通の女の子だ。
中身は全くの別物ではあるが……。
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「……博士がグレードアップしています」
「流石テンペストさん気がつくのが早い」
「いや、誰でもすぐ分かりますよ、どう考えても黒いのが追加されてるし!」
「俺と博士は鍛冶関連を見ようと思ってな。で、博士が義肢用の防具を見つけて買ってきたんだ。俺も幾つか買ったがなかなかいい店だったぞ。で、こういうのもあった」
布で大部分が作られた軽鎧を見せる。
見た目は少し筋肉が増量して見える程度でしか無いものの、非常に防御力は高い。
「布、ですか……。防刃仕様の様ですね、これだと軽くていいでしょう。ワイバーンに乗り込む時などに使うと動きやすそうです」
「実際凄く動きやすい。いいぞこれ。まあ普通のも買ってきたけどな。まさか重ねて着れるとは思わなかったが、常に付けて歩くのもいいかもしれない」
防弾チョッキみたいな使い方が出来るので、それなりに有用だ。
万が一通常の鎧が破損しても、内部まで突き通すには骨が折れる事だろう。
「私達の方では結晶生成という、魔晶石を生み出す物を発見しました。サイラス博士の役に立てばいいのですが」
「魔晶石……って事は構造とか少しは分かるかな?まずマナっていうのがどんなものなのか分からないとどうにも先に進めないし……やっぱり顕微鏡作らないと駄目か?でもいいやつは作りも複雑すぎて流石に私も細かい所知らないんだよな……一から設計を……」
思考の渦に取り込まれた博士を放っておき、お土産のお菓子を渡していく。
それぞれがそれなりに見たいものを見れた。そして、コーブルクという国を気に入った。明日はそのコーブルクが誇る軍を視察する。
明日は少々忙しくなりそうな気がする。
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「お待ちしておりました、竜騎士殿。神子エイダ様もようこそおいでくださいました」
「ここらで最強の軍っていうのを見せて貰いに来た。なかなかいい雰囲気だな」
出迎えの兵が門を開く。
中には大勢の兵がずらりと並び、音楽隊が音楽を奏でていた。
そんなに目立つ出迎えなどしなくても良かったのだが……とコリーは思ったが、折角歓迎の意を示してくれているのだからそこに一々突っかかるのもおかしいだろうと思い直した。
「残念ながら、貴方がたやミレスの技術によって今までの立場は根底から覆されましたが……」
「まぁ……な。でもこっちにもミレスの技術は渡っているはずだし、実際自分達のものにしているだろう?そっちも見せてもらえるか?アドバイスできることがあるかもしれん」
「はっ。魔鎧兵や戦車はこちらです。コーブルクの技術者達がミレスの物をベースにして新たに自分達でその上をいく装備を作り出しました。これがそうです」
「ほう……」
魔鎧兵や戦車がずらりと並んでいる。やはり砲台を外して多目的な魔導車も作っているようだ。
それらの有用性にはきちんと気づいているのだろう。
「んー……基本的な形はあまり変わらないか。もっと大胆に形を変えてもいいのだけど……あれだと腕と足が干渉するんだよねぇ」
元々の魔鎧兵は足と手の横の位置がだいたい同じなので、腕を下げると太ももに該当する部分に接触する。武器を持っている時にこれでは邪魔で仕方がないだろう。
サーヴァントは肩の部分を少し横に広げることでそれを回避している。
その代わりに腕の後部への可動限界範囲が広がったが問題ない。
更に、やはり鎧を想像するのだろう、装甲は人間用の鎧を大きくしたような作りとなっている。
見た感じミレスと大差ない装甲厚となっているだろう。あれ以上重くすると今度は魔鎧兵が動けなくなるのだ。
サーヴァントを始めハイランドの魔鎧兵はその辺を筋力を上げる事によって回避すると同時に、薄い部分と厚い部分の装甲にすることで重さも調節しているのだ。
重心も下に来るように設計されている。
「ハイランドでも魔鎧兵を取り入れてミレス侵攻においては活躍されていた様子。こちらとしてもあの時よりも少し性能は上がりました。……一戦どうでしょうか?後ろにあるあれは魔鎧兵でしょう」
「博士?」
「ああ、私ならいいよ。今から用意するから。性能の差をお見せしよう」
「流石はハイランドの戦士、我々だってそう弱くはありませんよ?魔鎧兵に乗っている期間はほぼ同じでしょう」
ある程度自信を持っているようだ。あの場でサーヴァントになる前の魔鎧兵の動きしか見ていないのであれば、今の博士が更に発展させたサーヴァントを見ると全くの別物であると理解するだろう。
内側からサーヴァントがロックを解除して上にかけていた布を取り払うのが見える。
牽引車両から起き上がるようにして立ち上がる。
その姿はまさしく人型。ミレスやコーブルクのゴリラにも似た体型とは大分違っている。
更に鎧のデザインを取り入れたコーブルク側に対して、博士は追加装甲形式を選択している。見た目も直線的なパーツが多くシャープな印象を受ける。
身長も若干ではあるが高めだ。
「なんというか……細いですな。あれで大丈夫なので?鎧も隙間が多いようだが」
「問題ない。訓練用の武器なんかはそっちのを使わせてくれ、じゃないと確実に死ぬ」
「はっはっは、そうですな。流石に今亡くなられると困ります」
『こっちは準備出来ているよ、……あの武器を使えば良いのかな?ちなみに勝敗はどうやって決める?』
ルールの確認だ。
搭乗員を殺傷しないのは当然のことだが、与えられた武器を使うこと、そして登場者に致命的な損害を加える攻撃は寸止め、身動きが取れなくなった時点で負けが決定する。
機体が動けなくなるなどの致命的な損害が確定する攻撃を受けても負ける。
『なるほど了解。……色々封印されるなぁ。まあ良い最初の相手は誰かな?』
『では、私が。魔鎧兵隊3番機ブルーノ・ロッシ。……英雄のお手並みを拝見させていただく』
『英雄だなんてそんな。サイラス・ライナーだ。そしてこいつは愛機のサーヴァント、……見た目で侮らないほうが良いよ?』
空砲が鳴り響き、始まりの合図となる。
ブルーノの機体が薙刀のような形をした練習用武器を構えて突撃してくる。
対してサーヴァントは……リーチの短いナイフを模した物だ。明らかに分が悪い。
しかし……薙刀の遠距離からの突きを難なく躱し、一気に加速して相手の懐へ入る。
当然ブルーノも回避された瞬間に距離を取ろうとするが、速度差がありすぎた。
柄を横に構えてナイフの攻撃を警戒するが、来たのはナイフを持つ方とは逆の手が顎の部分へ、そして足を払われて体制を崩しそのまま地面に落とされてしまう。
一瞬で4メートルほどの高さから落とされたのと同じようなダメージを負い、肺から空気が全部漏れたかのような状態となり……次に目を開けた時には自分のいるコクピットにピタリと逆手に持ったナイフがつきつけられている所だった。
実戦だったら……?あのナイフが間違いなく自分のいる所まで刺し貫かれている。
……死亡判定だった。
たったの5秒。それで全てが終わった。
「勝者、サイラス・ライナー」
『さぁ、次は誰かな?』
その時、コーブルクの魔鎧兵パイロットはサーヴァントの中で意地悪くニッコリと笑うサイラス博士を幻視した。
『次は俺だ。ナイフ使いなら丁度いいだろう?6番機、カスト・ダヴィア、参る』
『なるほど、良いだろう』
また始まりの合図とともに……どちらも動かなかった。
サーヴァントはナイフを逆手に構え、普通に立っているだけだが。相手はそれを警戒してなかなか動き出せない。
『動かないのですか?』
ならば動かしてやろう。ナイフをコクピットに当てるように投げる。
カストは流石にいきなり武器を投げ捨てるとは思わなかったのだろう、とっさに避けてしまった。
その瞬間を狙ってサイラスは一気に接近する。
もちろんカストだってすぐに体制を整えて迎え撃つ。まっすぐ突っ込んでくる博士に向って、躱しにくい突きを放ち……そのまま腕を抑えながら後ろへ回りこまれてしまう。
膝の関節を蹴られて強制的に地面にふせさせられて詰みだ。
『なぜだ!?』
『簡単な体術ですよ。後、魔鎧兵は人と違って関節の動きなどに違いがあります。それを考慮しないと』
人の関節というのは意外と動かせる。
しかし、可動範囲というものはあるのだ。背中が痒くても手が届かないことなどよくあることだろう。
魔鎧兵はその構造上、後ろ側に手が回らない。
サーヴァントは関節部分の装甲の形状を考え、更に魔力筋も人のそれを真似て取り付けてある。
可動範囲はやはり狭い事は狭いが、ミレス型よりは大幅に広くなっているのだ。
なので、今回は後ろ側の方へと腕を固定された時点でカストに勝ち目はない。
サーヴァントの武装であれば背中から直接パイルバンカーを撃ちこむことだって出来るのだ。
次々と前に出てくる兵士たちを、体術を使っていなし、そして魔鎧兵の弱点を的確に突いていく。
これには流石にコーブルクの兵士たちも感心せざるを得なかった。
なにせ何も持っていない相手に剣や槍などの武器のリーチですら全く役に立っていないのだ。
下手に攻撃をすれば一瞬で踏み込まれて、そのまま背中から地面にたたきつけられる。
ひどい場合はそのまま気絶するものも居た。
『まさか、全員やられるとはな……。魔鎧兵隊隊長、1番機セシル・カーマインだ』
『隊長さんですか。流石に20人も連続でやると疲れますねぇ精神的に。いい緊張感です』
『全く、あれだけやっておいて感想はそれか。とんだバケモノだな……。では始めようか』
流石に隊長になっているだけあって他のものとは少し違っていた。
使用武器は短剣タイプを2本。ナイフ1本のサイラスは攻めにくい。片方をいなしている間にもう片方の攻撃が来るだろう。
初めて避けることに専念するサーヴァントにコーブルク側から歓声が上がる。
「……しかしよく避ける……何なのだあの動きは」
「彼自らが改造し、調整を繰り返した機体です。骨格と筋肉の配置なども全て変更して出来上がったのがサーヴァント、今避けているのも機会を伺っているだけでしょう」
「組み直したというのか……この短期間で!」
ロジャー、サイラス、フンベルトというワイバーンの改造に従事した2人と天才1人。
マギア・ワイバーンを作り上げた時に得た技術をたっぷりと使っているのだ、そうそう簡単には完成するものではない。
そこにサイラス博士の頭脳が入ることによって最適化され、実際の動きを知るサイラス博士の経験からも様々な工夫をこらしていったのだ。
『くっ……ちょこまかと……!』
『いや、あなたは強いですよ。ミレスの兵なんて目ではない位だ。実際その攻撃はどれも下手に受けるわけにはいかないのですからね』
しかし……左腕を振りかぶってスピードをのせた一撃を与えようとするセシル、その脇の下の装甲を取り付けられない場所にナイフが差し込まれる。
「1番機、左腕大破判定!」
『くそっ!?』
『これで1本ずつ、互角ですね』
武器を失ったサーヴァントだが、それでもセシルには余裕が無い。
左腕を使えないのが痛い。
そもそも本来ならその痛みで恐らく動きが止まっていただろう。それを考えればあの場で死んでいたとしてもおかしくはないのだ。
攻めの姿勢から一転して慎重になったセシルの1番機。
そして、今までとは逆になったのはサイラスも同じだった。
攻め手となってセシルを追い詰めていく。足払いを仕掛けてそれを躱されれば、すぐに突きを放って体制を崩していく。
最後は残った右腕をサーヴァントによって抑えられ、サーヴァントの右腕が握り拳の状態でコクピットに軽く当てられた。
『今のをまともに喰らえば中に居るあなたが死にます。死亡判定ですよ』
『ふざけるな!そんなはずは……!』
『では体験しますか?』
ゴォンという金属同士がぶつかり合う音が響き、腹部ハッチが凹む。
中に居るセシルはギリギリ潰されない程度の位置だ。魔鎧兵の目線で見ている本人は気づきにくいが、この部分は一番死守しなければならない場所だ。本来なら一番装甲を厚くしなければならないが、普通の鎧と同じような作りのままで考えているうちは無理だろう。
当然、サーヴァントはコクピット周りにはふんだんにオリハルコンが使われており、更に追加装甲にもオリハルコンプレートが仕込まれている。追加装甲との間には隙間も空いており、音や衝撃の対処もされている。
つまり、そういう対策の取られていないコーブルク製魔鎧兵では音も問題になるのだ。
耳をふさぎたくなるような音が自分の正面で鳴り響き、閉鎖空間にその衝撃は伝わる。
鼓膜が無事だと良いが。
流石に審判から死亡判定が出されて試合終了となった。
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「なぜ、あなたはあそこまで魔鎧兵を動かせるのだ?」
「魔鎧兵と言っても、動かすのは自分です。そして……自分が巨人となった感覚で戦うのですから、今までの自分の動き方とは少し違ってくるのも当然でしょう」
「そうだが……」
魔鎧兵とリンクすると、身長5m程の巨人となる。バランス感覚などは全て自分次第。
ただし皮膚感覚などは大幅に減り、しかし攻撃されれば痛覚はその攻撃箇所が破壊されたことを伝えてくる。
自分の思い通りに動けるのは確かだが、手足の配置等が微妙に異なりバランス感覚も当然変わってくる。
しかし人型を取る以上、人の編み出した剣術、槍術などは使用可能だ。ただしその大きさゆえの振りの遅さ等を考慮しなければうまく動けない。
サイラスが剣等を選択しないのはそこだ。そして、メイスは元々振りの遅い武器でありあまり違和感を感じさせずに使える上に、相手を切り裂くのではなく叩き潰すという打撃武器であると言うことで、魔鎧兵に対しては最適な武器となる。
「あの見たこともない身体捌きはなんだ?」
「いやあれはただの捕縛術とか、ちょっとした近接格闘術ですよ。実戦で使うことはありませんでしたがなかなか使えますよ。特にこの魔鎧兵戦ではそれを実感します」
剣を振るう腕を止めたのも、サーヴァントの膂力だけではなくて、振り始めのその瞬間が一番力が入らない事を利用したものだ。突きも何処に来るかだけが分かっていれば、ちょっと腕で弾くだけで軌道が変わって相手の姿勢が崩れることもある。
「皆さんの動きは基本的に人である自分達のバランスのままで動かそうとした結果失敗しているんです。後は魔鎧兵には足の指に該当する部分が無いため足の踏ん張りが効きにくいです。あ、サーヴァントにはきちんと追加してますよ。体の構造自体もバランスよく動けるように設計しなおしていますからね。例えば……」
サイラス博士がサーヴァントに乗り込んで、準備運動などでやる伸脚……片足を外側に開いて膝を曲げ、反対側の足を太ももとふくらはぎを伸ばすようにする運動見せる。
サーヴァントでも人と全く同じとまでは行かないものの、ちょっとだけ身体の硬い人程度の動きができる。
『この姿勢、自分達の機体でやってみてください。出来ないですから』
いやそんなもの簡単だろう……?と数名が乗り込んで同じように動かしてみるが……。
バランスを取りながら足を曲げれば途中で限界が来て、足の方を優先させるとそのまま後ろにひっくり返る。
『じゃぁそのまま、背中の方へと手を回してみてください。そして、私の機体の腕の角度と自分達のものの角度を比べてみると良いでしょう』
「むぅ……向こうのほうが関節の可動範囲が広いのか……」
『剣を使っている人達も、私に簡単に倒された人達は両手剣の人達であることに気づいていますか?そもそも魔鎧兵の関節可動域は人よりも狭いんですが、胸が前に少し出ているために剣を両手で持つという動作をすると動かし方が限定されます。普段通りには行かないでしょう?なので基本的には片手で運用できる武器が望ましい』
騎士として両手剣を愛用してきたものの落胆っぷりが半端ない。
そもそも両手剣のように長く細長い武器は、魔法金属を使ってもある程度のしなりが出てくる。
それを防ぐために両側から更に分厚いガードがついて居るため無駄に重い。魔鎧兵の力なら振り回すことは確かに可能なのだが、振りが遅くなってしまうのは確かだ。
「我々の苦労は何だったのだ?」
「まあ、全くの無駄というわけじゃないですよ。動かしにくい物を動かした事で得られたバランス感覚なんかは役に立ちます。ただ、今までの常識などは捨て去る必要がありますね。特にこの鎧とか。これのせいで余計に可動域が狭くなり、更に不必要に重くなっているんです。打撃を喰らえばダイレクトに内側にそのダメージが伝わるのも欠点ですね」
「あの見たこともない鎧はそれを考慮しているというのか?あんな隙間だらけでは攻撃が通るのではないのか?」
「実際、私のその弱点を突けた人居ました?」
「……」
「そういうことですよ。守るのは最低限。後は攻撃されないことが前提の運用が必要です。そして特に自分が入っている場所は装甲が一番強力でなければならない。貴方がたのは魔鎧兵からすればペラペラの鉄板に守られているだけに過ぎません。対歩兵なら良いでしょうが、私達のライフルで狙われれば即死します。……隊長さんは一応その恐怖を味わったはずですが」
大音響と共に衝撃があり、次の瞬間には鼻先に自分の居た空間が押し潰されるかのように鎧があった。
これ以上押し込まれていれば……自分はあの中で何も出来ずに潰されるだけだったのだ。
魔鎧兵とリンクをもう一度つなげた時に気づいたが、胸部装甲はそのままなので、破損状況が見えていなかったことも恐ろしかった。
「それに、隙間に見えているのでしょうがあの部分にだってきちんと装甲があります。無防備というわけではありませんよ。それに……これが通用するのは同じ魔鎧兵のみ、ということも大体理解できているでしょう?」
この日、魔鎧兵の存在意義やそれを動かすパイロット……機兵達の意識が変わることとなった。
簡単な魔鎧兵の動かし方講座!
ちなみにアクチュエーターやらマニピュレータなんかは無いため、起動しても音がしません。
聞こえるのは足音と装甲がぶつかる音など位なので、ロボットアニメのガションガションって感じの足音なんかはしません。
構造的に近いのはエヴァって事になるのかな?
なのでグルングルン腕や手首を回したりという動作も出来ません。