第四十四話 武器・防具屋視察
「戻ったよ。私達の身分なんかはもうこの街の裏の顔役とかにはバレてるね」
「なんだ、博士もしかしてスラムに行ってきたのか?」
「ええ。ミレスの残党なんかが来ていないかを聞きに。収穫はありませんでしたが、占拠して虐げられていたのは彼らも同じだったみたいなので非常に協力的でしたよ。ミレス出身者と分かれば殺すって言ってたくらい」
「それでは博士はよく大丈夫でしたね?」
「そもそも私はミレスに出現したようなものですが、ミレスの出身ではないですし……手足を見せたら色々察してくれたんだと思いますよ?それに魔鎧兵で脱出してやったって言ったら楽しそうな顔してましたね」
表面上は冷静な顔をしていたが、どこか嬉しそうな感じだったのだ。
全てが管理されたあの場所で、それを破って出てくる人間がまさか四肢を切断された一人の男だなどと誰が思うだろうか。
そもそも手足がない状態からどうやって出てきたのか、どうやって魔鎧兵を奪ったのか……色々聞きたいことはあったのだ。
「あ、これお金です。コーブルク硬貨に変換してもらったんですがミレス硬貨は額面通りに期待しないほうが良いみたいですね」
「混ぜものか。なんというか妙にそういうの好きだよなあそこ」
「私達が居たところなんかでも、下水から食用油を作り出してみたりと訳の分からない事をする国ありましたからね」
「……え、色々無駄じゃないのそれ」
「そもそも毒でした。あそこの国民性は理解出来ません。どうにもそういう辺りの国とやたらかぶるんですよねミレスって」
「どんな世界にもあんな国があるのか……嫌すぎる」
こっちでは完膚なきまでに消滅したからまあ、良いのだが。
「それで、これからどうしましょうか?私は図書館などに行ってみたいのですが」
「あ、ボクも行きたい」
「私も行ってみたいです。他の国の物語とかを読んでみたいですし」
「……まあ、エイダ様は変装を。ヴァネッサだったっけか?じゃぁ、俺とサイラス博士は……どうする?」
「そうですね、図書館なら帰ってきたテンペストさんに書き出してもらえばそれで済みますし……こちらは折角鉱物の街と言われているのだから鍛冶関連を回ってみましょう。私が生成できるものが増えるかもしれません。どうです?」
「んー……そうだな、こっちの方で優秀な鍛冶屋とか紹介してもらうか。博士の装備も整えておきたいしな。ありあわせを適当に使ってる状態じゃないかそれ」
「あぁ、テンペストさんのパワーアシスト系の機能を組み込んだ物を作ろうとしてそのままだったんですよね、元になる鎧があったほうが良いか。どうにも自分で鎧を作り出すというのは苦手だ」
「サーヴァントの外装は作れるのにな……」
「あれは特別です」
鎧と言うものは身体に合わせて作っていかなければならない。そうでなければ合うものを調節して購入する物だ。
自分で作り出すにはそれなりに経験がいる。
だが、サーヴァントの外装となれば話は別だ。
寸法をとってそれに合わせて着せていくインナーフレーム。そのインナーフレームにはめ込む形で追加していくのがアウターフレームという形をとっているため、それぞれに合わせてフレームを切り出して取り付けていくという感じだ。
自分が合成して生成した金属を、魔法鍛冶に図面ごと渡して作らせる。何も問題ない。
工業的な生産方法だが、自分の鎧も似たようなものにしたいと思っている。が、そうなると今度は生身の部分が問題になってくるという面倒臭さ。
最初から生物として考えなくて済むなら楽でいいのにとすら思っているのだこの男は。
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その日の夕食は、ハイランドでは食べられない魚料理を中心にした。
魚料理と言っても、魚の魔物だったりして普通のものではないのだが。
「やはり刺し身は無いですか……ううむ……」
「何で博士そんなに生に拘るんです……焼いたり煮たりしたほうが良いじゃないですか」
「いやいや、なかなか良いものだよ?新鮮でなければ出来ないし日持ちなんてしないけど、生で食べられるということはその国の技術レベルが高いということでもあるんだ。私の居た世界にはそういうところがあってね、魚だけでなく色んな物を生で食べていたよ。馬、豚、魚、卵……」
「考えられませんね、なんですそのゲテモノ食いの国……」
意外と日本好きだったのだろうか。意外と詳しい。
テンペストは食事に関しては殆ど知識がないため、特に気にせずこの世界の料理にも対応している。
博士の言葉でも、細菌などの心配さえなければ特に生食というものは問題無いだろうという程度で考えているが……。ニールはそうは行かないようだ。
そんなものを食べたらお腹を壊すに決まっている!と主張する。
「ですから、衛生状態の問題なのですよ。飼育段階から菌や寄生虫と言ったものが付かないように飼育し、徹底的に管理するんです。だからこそ生でも美味しく食べられるのですよ。まあ最初はやっぱり抵抗ありましたが、今では好きなくらいですね」
「努力の方向を大幅に間違えているとしか思えないですね。食べることにそこまでやるんですか」
「大体国自体が何されてもあんまり文句言わないのに、食い物関連で問題が起きると物凄く怒る国だったからまぁ、食にかける情熱というかそういうのは凄いと思いますよ?」
「狂ってるよ……」
もう自分で生産施設を作ろうか……などと言っているのを見てニールはドン引きしている。
しかし、刺し身が無かったとしても、目の前に並んでいるのは美味しそうなものばかりだ。
色的にこれはどうなんだろう?と思ってしまいそうな黄色と青の殻をした大きなエビ……ロブスター……?これはシンプルに焼き上げて、身の部分の殻をはぎチーズを乗っけて居る。
味は見た目に反して濃厚で物凄く美味しいものだった。ついでに魔力も回復していることから多分魔物だ。
「おお、これは美味い」
「これは明日も食べたいです!」
「テンピーってば……ほら、口につけちゃって……」
「こっちの魚も美味いぞ。いい具合にソテーしてあってこの若干焦げた感じの香ばしさがたまらん」
「ボクはこの貝料理が気に入りました。バターとよく合います……!」
普段は肉以外なら川魚くらいしか食べていないため、新鮮な感じがする。
皆でいろんな物を分けあって食べてみたりと楽しい夕食となった。
地味にバイキング形式なので好きなモノを好きなだけ取ってこれるのが良かった。
そんなわけで次に出かけるときには港まで足を伸ばしてみよう!ということになるのだった。
明日は1日この王都で休憩。その次の日はコーブルク軍の見学を取り付けたので行ってみる。一応、軍事的な提携ということで技術提供などもしているため元々これはするつもりで来ている。
許可が降りたので早速という感じでねじ込んだ。
元々の最強軍隊ということで楽しみである。
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今日は1日自由行動、ということでテンペスト、エイダ、ニールは図書館へ。コリー、サイラスは鍛冶関連の店へとなった。
「さて、じゃぁ行くか博士」
「ええ。魔法金属の組成などが分かるヒントがあれば良いのですがねぇ。マナは目に見えるのでしょうか……」
「一応、集中すればモヤみたいなのが……」
「いや、そういうのではなくてですね……。以前にもお話したように、物質というものは全て極めて小さな……眼に見えないほどの物が沢山集まって出来ています。これが並び方や電子を配列を変えて様々な立体構造を取ったりするわけですがその結果がこれら土や石や金属、果ては空気等を構成するものの元となっているわけです」
「その小さなものを見るってのがよく分からんな……。鉄みたいな固いものとか、見れるのかよ?真っ黒になって見えなくなりそうな気がするぞ」
「ちゃんと出来るように工夫するんですよ、そこは。例えば、炭とここでいうアダマンタイト、どっちも全く同じもので出来ていますが、知っていました?」
「はっ!?嘘だろ、あの真っ黒な奴が綺麗な宝石と同じ?ありえねぇだろ!」
カーボンが六方晶を形作り、その薄いシートが積み重なったものが黒鉛などの形態。
そして立方晶の立体構造を持つものが俗にいうダイヤモンド構造となる。当然ダイヤモンド、この世界ではアダマントがそれに該当する。
「本当ですよ。黒鉛を高温高圧で合成することによって人工的にアダマントを作り出すことも可能です」
「宝石を……人工的に……?」
「ええ、と言うか私も今この場で作り出せますけどね、ほら」
「うぉおおおい!?こんなでかいアダマント、幾らになると思ってんだよ!?」
「知りませんが、まあ結構高いでしょうね。この力は私が物質の組成を完璧に知っているからこそ出来る物です。なので魔法金属の素性がわからないと、魔法金属を直接生み出せません。ミスリルやらをこの手で生みだしたかったのですが……まだまだ先は長いかもしれませんね」
そう言って握りつぶすようにしてアダマントを消す。
コリーの悲鳴が聞こえたがまぁ今は無視しておこう。
自分で生み出したもので、完全に固定させなければこうしてまた元の魔力へと還元することが出来るのもいいところだ。間違ったら消してやり直しが出来る。
高級宿を出るときに王都について色々と話を聞いた結果、王都の北側の方に鍛冶屋や工房関連などが集中しているということだったのでそっちの方に行ってみることにした。
馬車に揺られながら30分ほど。案外距離がある。
煙が立ち上る無骨な建物が増え、あちこちで金属を鍛える音や、木材を切る音なんかが聞こえてくる。
「あぁ……この雰囲気良いですね、ファンタジーはこうでなくては!」
「そのファンタジーってのは何なんだ?たまに言ってるが」
「空想とか幻想とかを表す言葉です」
「紛れも無く現実だぞ、ここは。それを言ったら俺達からすりゃ博士たちの居た世界のほうがそのファンタジーってやつだな」
「発達した科学は魔法と見分けがつかないとはよく言ったものですが、実際こうしてみると科学では再現不可能なこともやってのけますから現実とは面白いものです」
「目に見えない物を見たり、馬鹿みたいに遠くのものを見たり……そっちの方が凄いと思うけどな」
自分達のところにないものはいいものに見えるものだ。
この工場街で腕の良いと言われている店に行ってみる。
流石に腕がいいと言われているだけあって儲かっているのだろう、大きな建物と売り場があり、中ではハンター達が色々と物色している。
「なるほど、すごい量ですね」
「武器も防具もどっちも作ってるんだな、だが俺の趣味じゃねぇなぁ……」
「ふむ、装飾などは確かに美しいですが実用面ではもったいない感じがしますね」
「それなんだよなぁ……」
「ほう……お前さん達はこういうのじゃないのが好みか?」
ちょっとばかり低い位置から野太い声が聞こえる。
そこに居たのは薄汚れた前掛けをして、腰に道具袋をつけた……どう見てもこの店の鍛冶師です。
悪口を言っていたわけではないけど、作った人達の前で堂々と作品にケチをつけたようなものだ、やはり少し申し訳なく感じてしまう。……のはサイラスだけだった。
「まあな、俺はもうちょっとシンプルなのが好みだ。少々荒いもんでね、傷がついたらもったいないって思うようなものを使いたくないのさ」
「シンプルなものはそれはそれで美しいものだがな。まあ装飾過多なのが多いのはそういうのが売れるからだ。玄人向けのはこっちだな、ついて来い」
店の奥の方へと連れて行かれ、そこから更に階段を登り上の階へと出ると……。
そこにあったものは一階にあったものとはうってかわって装飾という無駄が省かれて、無骨というのがぴったりな物がずらりと並んでいた。
「おお、これはなかなか……」
「こっちのは装飾が邪魔になる奴や、あんたみたいなキラキラしたのが好きじゃない奴向けのものだ。名を売りたい奴は大体下のものを買っていくが、実力者になるにつれてこっち側になっていく。まあ当然だな」
光を反射する綺麗な物は見ていてやはり素晴らしいものではあるのだけども、同時に目立つということは敵にも発見されやすいということだ。
隠れているのに武器の反射で見つかるなどというのは、命の危険があるときには出来るだけ避けたいものだ。防具も当然同じで、キンキラの鏡面仕上げの防具は綺麗ではあるがはっきり言って味方からすれば邪魔なだけだ。
逆に目立つのが仕事と言っても良い軍隊に関しては、こういう綺羅びやかな物のほうがあっている。なぜかといえば、ずらりと並んだ兵士たちが迫ってくるのを考えてみるといいだろう。自分達の数は力であるのと同義だ。統率の取れた兵士たちがゆっくりと迫ってくる。
まあ、テンペストたちを前にした場合、その方法は愚策となる。
無駄に人死が出るだけで何の意味もなさない。
なので恐らく軍隊の戦い方、そしてその防具などのあり方なども変わっていくだろう。
テンペストたちの方で隠蔽のための迷彩パターンや偽装網などが発達していることから考えても可能性は高い。
兵器の性能が上がるにつれて、その兵器に対する脅威度が上がっていき、優先的に兵器を破壊しなければならなくなり……結局のところ兵器で兵器を壊されないように見つけにくくしていくことになり……。
最終的には敵に気づかれずに接近しなければならないという、遠距離武器独特の運用方法になっていく。
現在の所、サイラス博士のサーヴァントは沙漠迷彩なのでこの王都周辺の緑の多い土地では逆に目立ってしまう。
後で塗り直すことになるだろう。
国土の80%が緑に包まれているコーブルクでは、街から街へと繋がる道ですら見通しが悪く盗賊が多いというのだから、極力目立たないようにするためにも持ってきているトレーラーやサーヴァントは森林迷彩へと塗り直すのが望ましい。
襲ってきたら襲ってきたで返り討ちにするだけだが。
博士はいつの間にかデジタル迷彩用のステンシルを用意していて、同じ位置に綺麗に重なるように色を置くことが出来るようにしていた。
塗料の色も色々とある世界で助かったと言っている。似たような色を探すのにそんなに苦労しないのだ。ベースとなる素材は少し違うが、主流なのは水でも油でも溶けずに、特定の魔法溶剤と言われている物を使って落とすことが出来る塗料だ。
水で薄めようとしても弾かれてしまう。アルコールなどでも同じだ。
が、乾いた後に物理的に削れば当然削れてしまうわけで。
その塗料を剥がすのに、サンドブラスターが欲しいと言っていたわけだ。すでにサンドワームを倒して魔晶石が手に入っているので作るだけである。
「……ふむ、周りの景色に合わせてある程度色を変えられる素材……考えておこう」
「あんたは錬金術士かね?」
「ああまぁそんな所です。しかし……ここにある武器は良いですね。私もうまく扱えれば良いのですが」
「術師は普通あまり前に出ないだろう?」
「あー……この人は特別だ。色々と……な。こう見えて肉弾戦は強いぞ?」
「ほう……ん?なるほど義手か。両手とはまた苦労してきたようだな」
「あ、こっちもですね」
「全部か!?なかなかお目にかかれんな、ここまでの人は。何があったかは知らないが想像を絶する痛みを経験したのは分かる。人によっては痛みで死ぬ奴が居るくらいって聞いているからな」
「流石に私も気を失ってましたね。暫く震えが止まりませんでした」
「肉弾戦なら……この辺か。おお、義肢用の防具もあるぞ見ていくか?」
もちろん見るに決まっている。
義肢は感覚などはあるが、痛みなどはある程度制御できる。というのも、基本金属製なので加工するときに一々痛みを感じていたらやってられないからだ。
それを利用して、直接義肢に防具を固定してしまおう、というのがこの義肢用防具だ。
脱着方法はサーヴァントのインナー、アウターフレームの仕組みと似ている。
取り付け用の金具を直付けし、それに磁石のようにくっつくのだ。もちろんロックがかかるので魔力が切れても落ちないようになっている。要所要所に取り付けることで、効果的に防具をつけることが出来るというわけだ。
「なかなか便利そうですね。ああこれなんかは仕込み系ですか」
「シーフ系なんかが好んで使うな。攻撃された時には盾にもなるし、不意をつく武器にもなる」
「あぁ……アタッチメントがたくさんあって目移りしてしまいますねこれは……」
ガントレットだけでも、軽装甲、重装甲、魔法防御用装甲などがあるし、仕込み系などになるとナイフが入っているタイプ、これはテンペストが使っているようなものだ。
逆にそれ自体から刃が出てくるタイプはガントレットと同程度の長さの刃が仕込んである。
それを出せば短剣を装備しているのと同じようなものだ。
逆に小さな矢を放つものもある。一発しか放て無いが不意打ちには便利だろう。
魔晶石を埋め込んで、特定の魔法をワンアクションで放てるようにしたものもあるが……正直自分でできるのであまり必要ない。
他にも小物入れがついているものなどもあったりして、結構面白いのだ。
グリーブなども同じで、ふくらはぎ部分に物を収納できるタイプのものは、主にナイフのような小さな武器を入れることを想定していた。
「指輪型のはなんですかこれ。物騒な形してますけど」
「これは魔力を通じることでガッチリとくっつくようになっている。魔力を解除すればばらばらになる。つまりだな、これを4本指に固定しておくだろ?そうすると魔力を通じた時にくっついて……それ自体がナックルに早変わりというわけだ」
「なるほどー……この義手に合う物を使ってみたい。後、装具の取り付けとこのガントレット、こっちのグリーブを貰いたい。色は指定できるのかな?」
「ああ、地金が銀色のは色んな色に出来るが、黒いのは黒一択だな」
「丁度いい、黒で統一して欲しい」
「分かった、少し時間もらうぞ。で、指輪は……この辺りだな、付けてみてくれ」
棘が生えていたり、シンプルに凸凹がついたものだったり、平べったい板のようになるものだったり……様々なものがある中で、サイラスは最もシンプルなごつい指輪みたいなものを選択した。
握ってから位置を調節し、その位置に常に固定されるように指輪を調整する。握った状態で魔力を通じてきちんと固定されれば成功となる。
右手分を注文して、全てを黒で統一してもらうことにした。
その間に装着用の留め具をつけるため、サイラス博士は別室へと移動する。
「獣人のあんちゃんはどんなのが好みなんだ?」
「長柄以外なら大体なんでも使えるぞ。基本は魔術師なんだがな」
「さっきの人もだが、2人とも変わっとるな。選び方も慣れている……かなり強いだろ?」
「いやー……流石に本職には敵わないと思うけどな?強化なしでなんとか互角ってとこじゃないか?」
「十分だろう。防具は?」
「まあ欲しいのはどっちかっつーと防具かな。これも大分使い込んでヘタっててな」
「なるほど、荒いといったのも頷けるな。確かにこれほど傷がつくような戦い方をしていれば装飾は邪魔だろう。かなりの修羅場とみるが?」
「いや、毎日やってる訓練だよ。真剣勝負でな。日に日に相手が上達してきてそろそろ俺も辛い……」
「訓練でここまで……実践的にも程があるだろう」
「変則的な動きをしてくるからたまに捉えられん時があってな。その時によく良いのもらっちまうんだわ。そのたんびに防具が削られていく。あぁでもあいつは魔法使えばこの鎧も粉々に吹っ飛ぶけどな」
テンペストとは暇があればきちんと訓練を毎朝やっている。
どちらも練習用の木剣をやめて自分の得物を手に本気で勝負をしている。危険なときには寸止めになるものの、本気でかかってくるテンペストと、テンペストが手にするシックルソードの組み合わせはなかなかに防御が難しい。
防御しても返しの部分で引っ掛けられて、防御を崩されてそのまま突きを食らうのだ。
「……ならもうちょい頑丈なやつを使え……」
「あ、だが出来れば薄いのが良い。少々高くなっても構わん、軽くて薄い軽鎧タイプでこれよりも防御に優れたのはあるか?」
「簡単に難しい注文をする客だな。まあ、ある。新しく試している素材で、布なんだがミスリルまでは刃を通さない、更に燃えにくい、破れないと言ったものを使ったもんだ。それに皮を使って更に矢なんかを弾けるようにして、要所要所を守るようにしてある。皮の部分には薄いがアダマンタイトが仕込んであるから頑丈だ」
「へえ……薄いな。鎧って言うより服みたいだ」
「ああ、服の下に着こむのを想定して作っているものだ。まあ服の上に付けても問題はない」
「これはこれで買おう。上に付けるタイプのも見せてくれよ」
似たような構造だが、所々に強化が施された皮とアダマンタイトプレートを使った物が出てきた。
立ったり座ったりと言った動作がしやすいように作ってあるため、股間周りと尻の部分は殆どガードされていないが問題ない。
さっきの切れない素材で作られたハーフパンツみたいなものを下に着込んでいれば防げるだろう。
打撃は防げないから、切れなかったとしても単純に固くて細いものでぶん殴られた衝撃だけは来るから気をつけろと言われたが。
あくまでも切れないだけだ。突きには弱い為矢などは刺さる。
形を作るのにどうしているのかと思えば普通に鋏で切るらしい。本当に剣などで切れにくいというだけの布だ。それでも、出血がなければ生きる確率は上がるのだ。
それにワイバーンのコクピットに乗り込むときにも使いやすそうだ。
支給されたものは少々動きにくかった。
色々店員と話をしながら鎧を合わせていると、サイラス博士が出てきた。
すでに新しい装甲が追加された義肢になっている。
明るい銀色の義肢に、黒の装甲。ガントレット部分は剣が仕込まれたものにして、ふくらはぎ部分のものは例のものを入れられるように作られたのを選択する。
脛のところには小さな投げナイフが左右合わせて4本隠しておける。……ただ投げナイフの扱いはまだ練習していないために緊急手段用として考えていた。
「ああ、コリーさんも終わったんですね」
「今調節してるので最後だ。ちょっとまってくれ」
「いやぁ、いい買い物を出来ました」
「こっちは良い客が来てくれたと思ってるよ。あまり装飾系買われると金が足りなくなっちまう」
「金ならいくらか作れますけど」
「オリジナルワード持ちか?物質創造だよな?あー、インゴット作れるか?料金は払う」
5kg分出して見ると喜んでくれた。最近金が取れなくなってきたらしくて値段が上がっているそうだ。
値上げ後の値段ではなく、普段の値段で買い取ってもらうことにした。
キロ当たり300万ラピス。1500万ラピスでお買い上げ。防具代を支払っても大量に余る金額だ。
「1kg分でも有りがたかったんだが、まさかここまでとはね。助かったよ!」
「そんなもんで足りるのか?」
「装飾に使う部分なんて薄っぺらいんだ、それこそヤスリで削ればすぐに消える。そんなもんなんだよ内側まで全部金で作ってたら馬鹿みたいに高くなりやがるぞ?見たろ、これ一個で300万ラピスの価値がある。今だと360から400くらいまで上がってるかもしれん。だから使ってるのは一つの武器で多めに使っても数十g程度ってところだ」
お互い良い買い物が出来たということだろう。安く仕入れられたのでその分を今の相場にあわせて値段を高めにすれば良い儲けになる。どうなったところで店はいい方向に転がるのだ。
こっちはこっちで無から有を作り出すわけで、それが高額で売れたということはまるまる自分達の儲けだ。代わりに魔力がごっそりと減っているので少々ふらついて居たものの、少し後には博士のリジェネレーションによって強制的にマナから魔力を回復されていく。
博士1人いればずっと食うのには困らないだろう。
そしてここで痛感するのは、博士自身も相当なトラブルを引き寄せかねない人物であるということ。
魔力は勝手に回復するから、高額で売れるものをひたすら作らせていればそれだけでもう金持ち決定なのだ。コリーの気苦労は絶えないようだ……。
金の値段はリアルの奴を参考にしています。
一度に使う金の量は少ないので、高額商品の金の量であっても少ないし……そもそも金でできた何かなんて金細工とかにしか使えませんからね。
金の剣とか作ってもすぐに曲がる潰れるで役に立ちそうな気がしないw
飾っておく分にはきれいでいいかもしれないけど。