第四十三話 情報を得よう
「このサンドワームだと……これくらいかな?」
「おお、案外いい値段付きましたね」
「皮が綺麗だからねぇ、ピアッシング出来る剣士でも居るのかな?」
「いやぁ……まともな剣士は誰も居ないかな、大半魔法使いなので」
「へぇ。ま、魔晶石と無くなってる皮の部分があればもうちょっと行くけどね」
それは色々使うので勘弁してもらおう。
サイズ的には中型だったらしくて、もっと大きいやつだと一気に金額が跳ね上がるから狙えるならやってみると良い、ということだった。
ちなみに宝石関連に関しては、ギルドから少し離れたところにある宝石商の大手が良いということだった。
ある程度力のある商会でないと、宝石の買い取りのお金を渋るらしい。
武器はギルドで引き取れるということなのでそうしてもらう。
若干安めにはなるが、どうせただで仕入れた物だから惜しくはない。
よさ気なものとか鍛冶で鋳潰すのに良いのは抜いているし。
「これほど大量の武器を……どうしたんです?」
「いやまぁ……盗賊団を潰したもので」
「へぇ!腕利き揃いってことか。そうだ、君はハイランドから来たって言っていたね?この国特有かも知れないが、人の形に見える樹があったら気をつけるんだ。近くに色々と金目の物が落ちていても無視すること。その樹の近くには草木に擬態するモルサエントってのがいる。蔦が襲ってきて養分を吸われた人間はそのまま一本の樹となり、延々と養分を吸われる」
「なにそれ怖いんだけど!?」
「また、元人の樹を切った物にも呪いが降りかかると言われている。体の一部が木のようになっていく物だ。この国の木こり達は注意深くそれらを見分けるようにしている。気配も何も感じない、意思を持った植物……これらを一括りにマンイーターと言っているが、油断すると危険だから皆にも伝えておくといい」
ホラーだ。
ひどい場合には一箇所に数体の樹があり、そういうところにはかなり強力な物が住み着いているため、見かけたらすみやかにその場所から離れてギルドに報告しなければならないという。
元人だった樹は直接切らずに、魔法によって燃やし尽くすのが正解らしい。
時折ギルドの方でも討伐しているそうだが、それでも近くに落ちている装備品なんかを目当てに近づいて被害に合う者は後を絶たないそうだ。
他にも植物系の人をも襲う様な魔物は多いらしく、あまり人が立ち入らないような森の中などは特に気をつけるようにと言われた。
もし見つけたら少し離れた所から範囲を指定して燃やしつくそう、そう決意したニールだった。
査定が終わって金額を受け取った時に丁度サイラス博士が来たので合流する。
「良い金額になったみたいですね」
「武器は二束三文のものもあったけど、ちょいちょい高額で売れるのもあったみたいでね。そっちは両替できた?」
「いえ、何でもミレスの硬貨は高額な硬貨程偽物が多いみたいで。重さだけで単純に見れないらしいんですよ」
「お金がそれってもう何も信用出来ないじゃないか……」
「全くです。そりゃ皆露天から盗ってく訳ですねぇ」
「盗られた方は泣き寝入り?」
「いえ、別な所から盗ったりしてる人居ました」
「どうしようもないねそれ!?」
おかげでサイラスも生き延びられたのでまぁそれはそれだ。
ただ、そんな生活をしてきた者がまともな生活なんて出来るわけがない。
なので、サイラスはこの後とある場所へと行くつもりで居た。
□□□□□□
「本来の金額の3分の2になりました」
「どうしようもないね本当に……」
「まあ、持っていてもどうしようもないクズ金持ってるよりは安くなろうと良いです。そもそも入手先が入手先ですから」
「あぁ、うん、まぁそうだね。盗賊のだったしね……」
「ま、端金ですし、ちょっとばかり情報仕入れておこうかと」
そしていろいろな人に聞きまわりながらたどり着いたのは……王都の雰囲気とは一変したテントと土でできた家が所狭しと立ち並ぶ……スラムだ。
「スラムじゃないですか?!」
「ええ、ミレスの奴等が隠れるならこういうところのほうが入り込みやすいでしょう。ちょっと行ってきます。ニールさんはそこで待っててもらってもいいですよ」
「一人にされる方が嫌なんだけど?!」
一歩その中に入ると、突き刺さるような視線を感じる。
それなのに、人の姿はその数よりもずっと少ない。
通りで何気なく座っている者、露天を出しているもの、それだけでなく建物の影で、部屋の中からじっくりと上から下まで観察される。
ここでは小綺麗な格好をしている2人は異物だった。
「……凄い視線を感じる……」
「ニールさん、気を抜いたらすぐに財布が消えますからね。まあ財布だけなら良いけどヘタしたら命も」
「何しにこんなとこ来たんですかぁ……!」
「だから、ミレスの残党とか居ないかなぁってね。で、ここの情報屋とかに会いたいんだけど……」
どんどん自分達を見る目が増えてきて気持ち悪くなってくる。
キョロキョロと周りを見ていたサイラス博士が、近くに居た物売りに話しかける。
「売れてる?」
「……何モンだ?この辺の奴等じゃねぇなら売る気はねぇ。帰んな」
「何、用事があるだけだよ。それが終わればさっさと帰るさ。……これいくらで売ってんの?」
「3枚だ。だが……」
「足りるよね?」
銀貨を3枚。購入するといったのはただのクズ宝石で銅貨でも買える程度だ。
「……何なんだよあんた」
「ちょっとした復讐だよ。安心してくれ、対象はコーブルクの人達じゃない。で、この辺で一番情報知ってる人って、いる?」
「訳ありか?」
「……俺の四肢をもぎ取ったやつを探している。騙すつもりなら構わんが、その時は命はないと思え」
突然雰囲気の変わったサイラス博士に、隣にいたニールのほうが怖がっていた。
物売りの方はといえば、真剣な目つきになっている。
「遊びじゃねぇんだな。分かった、……話を聞こうか」
「助かるよ。ここ最近でミレスから逃げてきた人、居る?」
「ミレスか……あいつらはここに来ても居場所はねぇ。理由は分かんだろ?ここを占拠した時、当然この場所も色々被害にあったんだ。ミレスの出だって分かった時点で死んでいる。今のところは一人だけだ」
「そいつ、太ってた?」
「いや、ここを攻めてきた兵士の一人で痩せてたな。コソコソと入ってきた所をとっつかまって身ぐるみ剥がれた後は壁に吊るされてたよ」
サイラスは普通に話をしているが、ニールはさっきから混乱しまくりだ。
突如豹変したサイラスもだが、この男もなんか普通に情報を話し始めている。物売りじゃなかったのか?と。
そして自分達を監視していた目線が一気に無くなった。
それが一層不気味で、何も声を出せずただ、隣で座っていることしか出来ない。
「なんだ、残念。王都に逃れてきてるみたいな事も無い?」
「無いだろうな。そもそも身分証がない。そういった奴等がここに集まるんだ、ここに来ないなら捕まって牢屋の中だな。……あんた……あそこに居たんだな?どうやって逃げた?」
「魔鎧兵を奪った。あの変な甲冑着た巨人ね。あれ強いね、追手とか大分始末できたよ」
「なるほど……普通じゃないのはそのせいか。あんたの目、死人の目だ。一度死んで、復讐を遂げるために復活したレヴナント」
「嫌だなぁ、レヴナントなんて目的遂げたら死んじゃうじゃないか。アヴェンジャーの方が良いなぁ、復讐を遂げたらそのままのんびり生きるつもりなんだから」
今でも普通に憎いし出会ったら即嬲り殺しにしようと思っているけど、その後虚しくなって死ぬとかそういうつもりは毛頭ない。
今までが酷かった分、埋め合わせを求めるつもりだから。
「そか、なら良い。あと、あのいけ好かない国をぶっ潰してくれてありがとよ、ハイランドの英雄」
「ありゃ」
「教えた情報で英雄に死なれちゃ夢見がワリィんだよ。ただまあ実際今のところ一人だけってのは確かだ。あそこが壊滅してからは全く侵入者が居ない。要するに今までもずっとちょっかい掛けてたのはミレスだったってわけだ……。一応気をつけておくが、太った奴が居たら教えてやるよ。あぁ、連絡先はいらん。何かしらの手段で必ず伝える」
「意外と好意的で嬉しいよ。商談成立ってことでこれを。盗賊がミレスの連中から巻き上げた金……を更に私達が巻き上げたものだ、料金の先払いってことで」
「うぉ……結構あるな……ま、分かった。ああ、帰りは安心してくれ。手出しはさせねぇよ」
収穫はなかったけど、思わぬツテが出来たようだ。
コーブルクが占領された時にここの住民たちも結構連れて行かれて矢面に立たされていたらしい。
それを開放してくれたのがハイランド。
そしてその国を壊滅させたのもハイランド。ということで結構好感度が高かったみたいだ。
コーブルク全体でミレスからの侵入者を監視しておく、ということだったので裏の目線から監視されるようになるだろう。
その料金の先払いという名目であの金の一部をおいてきた。
「……ふう……」
「だから外で待ってればよかったのに……」
「嫌ですよ。でもよくあの人が情報屋だって分かりましたね?」
「え?分かんないよ?ただなんか変なもの売ってるなぁって思ったから試してみただけ。ほら、あの場所であんなもの売れると思う?」
「……確かに」
生活に密着したものとかならともかく、何の役にも立たない宝石のなりそこないのようなものなんて誰も買わない。
それでも出しているなら意味があると思っただけだ。
それにしても最初からバレてるとは思わなかったのでちょっとびっくりしたのは確かだ。
あの時点から監視されていたとは。
あそこの連中からしてもミレスは敵であり、ハイランドは恩人ということで色々すんなりと事が運んだのは良かった。大体何かしらトラブルがあるかと思っていたので肩透かしを食らった気分だ。
なんにせよやることはやった。
換金も完了したし両替も終わったので後は戻るだけだ。
でもそのまま帰るのもつまらないので、少しだけ王都を散策することにした。
「ハイランドの王都より広い感じですね」
「コーブルクの王都はルーベル、ハイランドよりも大きいんだ。……それを一番小さいミレスが占拠したっていうんだからすごい話だよね」
「不完全とはいえ私の世界の知識ですから。魔力に頼らない物がこちらではあまり発達していないみたいですし、そういった意味では結構脅威だったでしょう。魔法は結界でなんとかなりますからね。実際扱ってみても分かる通り、とても複雑で面倒な手順を踏まないと作れないものが多い代わりに、それがもたらすものは大きいです」
「でもそれをほぼ自動化したからね、博士……」
「こっちとしては魔力を消費してずっと動き続ける物があるっていうほうがびっくりですけどね!究極の燃料ですよ、マナって……あれがあれば戦争もそこまで酷くはならなかったかもなぁ」
マナを消費してずっと回り続ける装置があったとすれば、それはもう永久機関と言ってもいいものなのだ。なにせマナ自体はなくならない。生物が死んだ時なんかに解放されていくものでもあるということなので常に循環しているようなものだ。
そして、使い終わったマナ……魔力の残渣もやがてはマナに還る。
後は魔力ジェネレーターにそれを繋げれば永久に動き続ける発電機から魔力を取り出して、自然界のマナからある程度出力を出せる魔力を作り出せる。マナからの供給だけでは追いつかないようなものでも、ジェネレーターに接続する発電装置が増えればその分だけ出力を上げられるわけだ。
マナだけでなく自然界の風力なんかも併用すればそれは更に増える。
もちろん、電力も取り出せるのでテンペストや博士が使いやすい形でのエネルギーとしても使える。
まあ、マナで動くからと言って永久機関から電力に直してまた魔力に直してとやるとあまり意味が無いので、基本的には風力発電等が使われることになるわけだが。
逆に電力を取り出したい時には結構有用なのだ。
と、魔法関連の店があったので入ってみる。
杖やカバンと言ったベーシックなものから、クラフト用の素材まで色々揃っているようだ。
「魔晶石もひと通り揃っていますね……ハイランドではこれ見たこと無いなぁ」
「闇ですか。これは作り出さないと出来ないものですからね。宵闇の森の結界もこれみたいなものです。多分」
「使い道は?」
「周囲の光を一定時間吸収する感じです。なので使われると突然目の前が真っ暗になりますから、目潰し代わりになりますね。結構焦りますよ?」
突然会話に入ってきた店員に少し驚く。
ドワーフの女性だ。少し体つきの良い少女と言ったら良いのだろうか、ちょっとリヴェリや人族の子供などとは体型が異なるので分かりやすい。
「ちなみに暗闇に支配されている間、その人を外から見ると鏡のドームに包まれてるように見えます。面白いですよね」
「ほう……鏡のように。それを使った何かは無いのですか?」
「んー……今のところは無いですね。鏡ならガラスとクロムで出来ますから」
「なるほど。これ一つ貰います。後何かおすすめとかありますかね?」
「魔道具とかはどうですか?」
そう言って案内された二階には所狭しと様々な物が置かれている。彼女の作品なんだそうだ。
その中でも数点のものを手にして戻ってくる。
「最近やっとできたばかりのものなんですけど、ちょっと自信作です!例えばこれ」
箱型の物で少しばかり持ち運ぶには苦労しそうな大きさだ。
大体横は70cm、奥行き50cm、高さは50cmというところか。上の部分が開くようになっていて、中には鍋みたいなものが入っている。
「これはですねぇ、幾つかの料理を材料を入れておくだけで作れちゃう魔道具です。材料は一応使わない部分は先に切り取っておく必要はありますが、それくらいです。後は中に入れてどれを作りたいかを指定すればいいです。中で勝手に材料を切り刻んで炒めたり煮込んだり自由自在です!」
「これ吹きこぼれません?構造的に」
「……な、それを見破るとは……」
「後、作ってる間は他の料理は出来ないね、微妙に使い勝手が良いのか悪いのかわからないけど、専用機にすれば売れそうな気がするよ。料理屋とかに」
「……なるほど」
ちょっと発展した多機能炊飯器みたいなものだ。が、これを使っている間、別な料理も同時にして欲しくても出来ない欠点がある。結局2台必要だったりして微妙だ。
逆に専用機にして料理屋に売り込めば、忙しいところでは仕込みの手間が省けて楽になるところも出るだろう。
「じゃ、じゃぁこっちは?万能アンカー!突き刺した後に根を張るんだ。正確にはこの先っぽの金属が根っこのように刺さった部分に食い込んでいく。一度根を張るとその周りごと壊れないかぎりは抜けないよ!」
「なんかすっごい実用的っぽいの出てきたね。ちなみに抜くときは?」
「あ、この出っ張りを押すと引っ込んで元の針のような形状に戻るよ」
「あ、戻るんだ」
「戻らなかったら使いものにならないじゃないですか!」
得手不得手があるんだろうか……。最初に出てきたもののせいでニールが若干胡散臭そうな目で見ているのも仕方ないだろう。
「まあでも……下手に何度も使うような用途には使いにくいのは確かですかね。どっちかといえば1回限りだったり、そのままずっと固定し続けたりという方が使いやすそうです」
「ええ。どうせ何度も同じ所に設置するならもうずっと設置しておけばいいじゃないって言う感じで作ったやつですから……」
「使い方次第では便利そうですね。これは10個ほど購入しましょう。その最後のやつはどんなやつ?」
「ありがとう!これは、2つのリングが対になっているんです。空間魔法を応用してこの2つのリングの間を無視して場所が繋がるんです。ちょっとそっちのやつを持っててくれますか?」
ニールが渡された方を持つと、店員が奥の方へと進んでいく。
「じゃぁ開きます。ほら、分かります?」
「へぇ……ホントだ。これは便利かも……大きいの無いの?人が入れれば色々便利になりそうだけど」
「マナの消費が激しくなっちゃうんですよ……。私もそれを期待して作ったんですが、実際に作れたのはこの大きさまで。受け渡しできるものの大きさも限られるし、あまり質量が大きなものだと途中でマナの限界が来て凄いことになります」
同じように距離が伸びれば伸びるほど必要なマナが多くなる為、そうそう簡単には行かないようだ。
離れた二点間を一気に移動できる可能性があっただけに残念でならない。
確かに、ゲートを開ける魔術師も、マギア・ワイバーンを移動させるときに大きなゲートを作ったが、10人程度の魔術師が必死で頑張っていた。更に魔晶石も使っていたということで、次に使えるのが充填完了した時という結構大変なものだったのだ。
人材が多い王都だから出来たことだった。
今はそれをしなくても良くなっているから相当楽になっているはずだ。
そして二点間を移動中にマナが切れると……片方が固定されている場合、固定された側にそのまま残る。
固定されていない場合、元の位置に落ちるなら良いほうで、転送側に残るようになった場合……突然距離を一瞬で移動してきたのと同じ状態となって、凄まじい勢いで吹っ飛んでいくらしい。
両側が固定されていた場合、一瞬で引っ張られた状態となるため固定具が破壊されるのは当然の事ながら、やっぱり転送側の方に残ったものは危険な弾丸となる。
回避するにはそうなった場合に備えて、真ん中のところで寸断されるようにしておくことということだ。引っ張ったらそこが抜けて分割されるようになっていればそういう事故は起きないという。
「……なにげに結構怖いじゃないかこれ」
「その状態を意図的に作り出せれば武器になりますね」
「そう思って試してみたけど、制御が難しいし、離れれば離れるほど恐ろしい勢いで飛んで行くわけだけどマナの使用量から考えるとちょっと……」
「うーん……惜しいなぁ。でも一個買っていくよ。ちょっと気になる。ただ事故を防ぐためにもとりあえずは封印しといたほうが良いんじゃないかなこれ」
「やっぱりかぁ。でも何に使うんです?」
「本来の用途のための研究用にね。あ、権利とか結構複雑なのかな?元の技術はあなたのものだし、私がもし成功したとしても自分だけの手柄にするつもりはないんだけども」
「研究者かぁ……夢だったなー」
夢だったが、発想が独特すぎて受け入れられなかったらしい。
使えそうで使いにくい、そんなものを作っているからまあ確かにそうかもしれないけど……他にも彼女の作ったものを見ると意外と使えそうなのが多い。
粘着力の弱目の接着剤とか、完全にセロハンテープとか付箋の足がかりになるものだ。
見方を変えると意外と使える可能性がある。
万能アンカーも、博士の頭の中にはゲームやアニメでよく使われるフック等が思い浮かんでいた。
発射装置で壁などに突き刺さって、主人公なんかがロープを巻き上げて一気に登って行くあれだ。
突き刺さった後、内部で根を張るなら……ある意味理想的な固定装置となる。
巻き上げるためのウインチは作れるだろうし、そこまで飛ばして確実に突き刺さるようにする為の工夫だけで実現出来そうなのだ。
これはやりたい。
「博士、この人意外と使えるんじゃない?」
「そうですね。夢だった位なら私のところで色々やってみません?あ、ハイランドに行くことになるのでちょっと面倒くさいかもしれないけど、給料も出すし……テンペストが」
「え、本当に?色々開発できちゃったり?え、いいの?あ、でもハイランドか……遠いな……」
「まあ、別にその辺は問題ないから。ボク達が帰るときに寄ってみるから、その時に返答を聞きたいな」
まだ暫くコーブルクの国内をうろうろするつもりだから時間はある。
しかしここでダメ押しとばかりにサイラスが口説き落としに行った。
「すっごく強い武器とか、興味あるでしょ?」
「う……あります……」
「2km先を狙い撃てる物とか」
「凄い!!」
「魔鎧兵が空を飛んだりとか」
「あ、なんか凄くそれ見たいです!」
「何より自分の作った物で、沢山の人が長距離を一瞬で移動できたりとか……」
「お、おぉ……最高です……」
「自分の発明品で敵をばったばったと倒していくとか」
「開発者冥利に尽きますね!!出来るんですか!?」
「出来る出来る。じゃぁそういうことで考えておいてよ。出来たら一緒に研究したいね」
サイラス博士の悪魔のささやきが完全に彼女を射止めた。
もう彼女の頭の中には、謎の光線を放つ武器等をもった魔鎧兵が敵を撃滅しながら突き進むシーンがぐるぐると回っている。
敵の陣地に突入した後に、沢山のドアのフレームみたいなものからさらに沢山の兵士たちが現れて、あっという間に敵の陣地を制圧してしまう……。
サイラス達が帰った後も、一人でニヤニヤしながらそんなシーンを思い浮かべては紙に設計図を書き起こしてみたりしているのだった。
もう、8割方行くことが決定している。
なんかキノコにされるとかいう怖い話があったような気がする。