第四十二話 歓迎を受けてみた
「君たち、なんだか凄いので来たねぇ……」
「ああ、まぁ……な。ちょっと悪目立ちしてるな。この町で換金とか出来る所あるか?」
「いや、無いね。見ての通り小さな町なもんで。魔物の素材を売りたいとか、他国のお金をこっちの硬貨に変えたいなら王都に行くのが一番近いよ」
「まぁそうだよな。えーっと……コーブルクはこの硬貨だったな?」
「合ってる。全員で5人でいいのかな?個室はあいてないから2人部屋と3人部屋に分かれてもらうがいいか?」
「構わんよ。夕飯、美味いの期待してるぞ?」
「そう言われちゃ頑張らないとなぁ!せっかくの長旅だ、満足してもらわないと宿屋としての沽券に関わる」
小さめの宿だが雰囲気が良かったので決めた。
主人ものんびりした感じで人が良さそうだ。
ニールの収納場所が圧迫されているので、ワームを換金したいところだったが残念ながら出来ないようだったので諦める。
どうせお金自体は盗賊から強奪したものがあるのだ。
部屋割りは当然、エイダとテンペストが2人部屋だ。
そして鍵はテンペストが厳重に暗号化された魔法錠をかけている。サイラス博士でもそうそう破れまい。
「あぁ疲れた……骨が直接あたって流石にあのシートでも座っているのは辛いですね」
「……まぁ、博士の身体ヒデェもんな……」
「いやぁ、これでも良いほうなんですよ?ずっと座りっぱなしで椅子に縛り付けられていた時は、もう感覚もおかしくなってましたから。多分、尻の肉がおかしくなってるのは腐ってたせいでしょう」
ずっと同じ姿勢で居ると、身体と接触している部分が圧力などで潰れ、壊死が起きていく……褥瘡、床ずれなどと言われるものだ。
更に栄養を取れない状態が続いていたせいで余計になりやすくなっていたはずだ。
今はピクシーワードによって回復したおかげで傷としては残っていないが、そこの部分だけは少し凹んだようになっている。
「なので身体を作るためにも沢山食べて増やさなければなりませんね。流石にこの病人みたいなコケた顔も嫌になってきました」
そう言って義手で頬をすりあげる。
アスリート並みとまでは行かなくとも、空手をやってきた経験から体を鍛えては居たのだ。
本来ならこんなにやせ細っているのではなく、もっと筋肉のある引き締まった体をしていた。茶色の髪の毛も今はもう白髪が半々と言った感じでひどい状態になっている。
ありがたいことに白髪染めの染料と、それを定着させる魔法が存在していたので見た目は分からないが、伸びてくると白い部分が目立ってくる。
「簡単に身体を作れる魔法があれば良いのですが……」
「残念ながら身体を鍛えるには筋トレしか無いな。ただ力を底上げするだけなら身体強化が使えるが……」
魔法という便利な物があってもままならないものはあるのだ。
しかし、一度体型を作ってしまえばそれを維持する魔法は存在する。ほぼ呪いの域の物だが。
また、エルフ、ドワーフ、リヴェリはどんなに食べても体型は殆ど変わらない。逆に栄養不足に陥るとやはりやせ細るのは共通しているものの、大体元に戻ればまた同じ体型に戻るだけだ。
「ん……待てよ、こうして義手や義足が肉体の一部として機能するなら、他の部位でも出来るんじゃ……。内蔵はともかく腹筋と胸筋、背筋周りを……」
「いや、博士、それ死んじゃいますよ!?何より多分痛みで!」
「まぁ、そうですよねぇ。これつける時すごく痛かったですから。流石にもう二度とごめんです。あ、ニールさん、コリーさんまた魔法の講義、お願いしますね」
「魔法に関してはテンペストよりも覚えるの早いですよね、サイラス博士……」
小さい頃から慣れ親しんできたゲームなどの魔法、それを科学的にどうしていけば再現できるか、威力はどの程度になるのか、そういうことを考えながら過ごしてきたのだ。そこにたどり着くまでの道筋はすでに出来ている。
テンペストとはその辺りが違っているし、感覚的な事もすぐに理解するためオリジナルの魔法を創りだすのがとてもうまい。というか、元ネタがゲームやアニメ、創作の世界の物なので当然のように見た目も派手だったりする。
ただし、魔法錠に関してはどうあがいてもテンペストには勝てない。
ジャミングに関しても、魔力を散らすというのが上手く想像しきれずに失敗していた。
魔力を収束若しくは放出する形のものに適性が高いらしい。
そして博士の一番得意なものは……物質創造だった。それこそ、創造魔法の中でも特に難しいとされている物だ。テンペストの中途半端な知識とは違い、原子レベルで物質を覚えている博士だからこそ出来る技だ。
これによって複雑な化学式で表わされるような物質も生成できる。
地球にあるもの限定ではあるけど、おかげで研究が捗ると本人も喜んでいた。
「話の流れで出てきたから聞いてみたとはいえ……身体強化って結構難しいですね?」
「そもそも、身体強化の結果なのか、義肢の性能なのかよくわからないのがなぁ……」
「結構義肢って力強いんですよねぇ。初めて人をぶん殴った時に頭が潰れたの見てびっくりしましたよ?肩外れましたけど。まあ身体強化はそれを防ぐことが出来るってことですね。これは便利だ……」
「あぁ博士がどんどん人間離れしていく……。あ、ピクシーワード試してみませんか?医療知識もあるっていう話ですから、多分出来ますよ」
「回復魔法だね?あぁそうだね、使える人は多いほうが良い。それも教えてもらおう」
「ってか博士……今更だが保有魔力量多くないか?普通習い始めたばかりだともうぶっ倒れててもおかしくねぇんだが」
「確かに……」
「あぁ、それは……」
テンペストに教えてもらった技だ。常に自分にフォースドチャージ……つまり周囲のマナを強制的に取り込んでいる。少し休めばすぐに魔力が回復するので、保有魔力量が少ない博士でもかなりの魔法を扱えるのだ。
魔鎧兵を動かすためにも必須の技術だった。
「いや、それでも規模がおかしいですから……。テンペストのでも凄いと思っていたのに博士のそれはもっと凄い。なんか見た感じ一分かからない程度で回復してますよね?」
「テンペストさんのフォースドチャージを更に改良したリジェネレーション!回復魔法も組み込めば常に魔力と傷を癒し続ける事が可能になるのですよ!戦闘を楽にするには必須のバフ効果です」
「普通は出来ねぇよそんな器用なこと!大体なんだよバフ効果って!」
ゲームなどで魔法やスキル、若しくはアイテムなんかで得られる能力の上昇などのプラスの効果のことだ。逆はデバフ効果という。
「身体強化なんかも私の中ではそれに含まれます。攻撃力を上げたり、防御力を上げたり、素早さを上げたり、運を上げたり、ダメージカットとか反射もそうですね。あぁリフレクション、良いなぁ」
「ニール、俺この人に魔法教えるの怖いんだが」
「奇遇だね、ボクもだよ。なんというか、誰も倒せない人が生まれそうな気がするよ」
ダメージを与えても回復され、無尽蔵の魔力を持ち、与えられるダメージは減らされ若しくは跳ね返される。無理ゲーにも程がある。
ある意味で単体であればテンペスト以上のチートな人物である。
「まあ、出来るかどうかは別問題ですから」
「出来そうだから困るんだよ……」
「あっ」
「博士、どうしました?」
「いえ、私をこんな姿にして色々といたぶってくれた神官を捕まえられたら、殴りながら回復させて延々と殴れるなぁ、と」
「……本当にそういう拷問あるから笑えねぇ……」
どこの誰が作ったのか知らないが、拷問用の切っても刺しても抉っても痛みは感じるけど傷が全く残らない短剣とか。
そして、結論から言えば流石にそこまで万能にはなれなかった。
傷の回復などは出来るようになったが、病の方に関しては対症療法しか出来ないだろうという結論が出たようだ。
もちろん、切り落とされたものをくっつけるならともかく再生もできない。
マナのコストが大きすぎてリジェネレーションを使ったところで全く足りなかったらしい。
「まぁこんなもんでしょうかね。個人的には物質創造が出来るとわかっただけでもありがたいのですが」
「鍛冶師からしたら羨ましい存在だよ。ゲルトさんみたいに魔法鍛冶出来ればその場で剣を生成できるわけだから。伝説の中でも居たね一人。そうやって何度剣を折られても、その場で剣を創造して戦い続けた英雄」
「まあ私はとりあえずサーヴァントに乗って戦えるのならそれでいいですけど」
巨大なロボットを操り魔法を使う。そんな夢がすでにかなったのだからそれ以上は望まなくても問題ない。
外もすっかり暗くなり、夕食の時間となった。
一階の食堂へ行くとすでにテンペスト達2人は来ていたようだ。
「どうしたんです?コリーもニールも疲れた顔して」
「いや……博士に魔法の講義してたんだ。吸収早すぎてこっちが疲れる。っていうか色々反則だあの人」
「テンペストが開発した魔法を更に改良して自分にずっとかけてるらしいんですよ。魔力を常に取り込んでは使うという感じなんで、枯渇しないっていう……」
そして博士は博士でテンペストにそれを教えている。
あの2人がどんどん手のつけられない存在になろうとしている……そんな気がしてきたのだった。
事実テンペストとサイラス博士は相性がよく、魔法に関しては簡単な説明ですぐに理解しあう上に、きちんと効果が発揮されているのだ。
その内テンペストも物質創造が可能になるかもしれない。
ちなみに博士はマナを感じる訓練は、長期間の拷問を受けていた時にほぼ全裸で過ごしていたので、いつの間にか会得していたようだ。
本人は気持ちの悪い粘っこい空気だと思っていたらしいが。
それをマナと認識した途端に魔法を扱えるようになった。とんでもない人である。
「おまたせしました。最後にデザートもあるからね!」
「これは……グラタン……いやドリアか。私結構好きなんですよねこれ!」
「あつ、熱い……っ!あ、でも、おいしい」
海が面している国とはいえ、内陸側にあるためシーフードではないが、チキンドリアみたいな感じのものだ。
使われている肉は魔物だが、普通の鶏よりも柔らかく、カリカリに焼き上げられている物が入っていてとても美味しい。聞いてみれば周りの草原に結構いる飛べない鳥の様な魔物らしい。
大きさは3メートルほどとダチョウみたいな感じだがダチョウではない。ダチョウに首は二つ無い。
一緒に出された肉料理はその鳥の首の肉だ。程よく脂の入った美味しい部位だが一匹から少ししか取れない希少部位。でもこの双頭スプリントバードは2倍取れるというわけだ。
ちなみに一本首の普通のやつも居る。
一応、ハンターの中では初心者用に分類されてはいるが、意外と足は早いし鋭いくちばしと爪で攻撃してくるので油断できないそうだ。
スープはあっさり目の野菜スープ。
「あぁ、美味しかった。助けられてからというもの食事が美味しくて助かりますよ。私が居た所とあまり変わらない食事が取れるなんて最高だ」
「そういえば向こうではどんなのがあるんだ?」
「そりゃもう星の数ほど。でもそうですね、多分こっちでは殆ど無いものとかは幾つか後で作ってあげましょう。あ、生魚とか食べる文化あります?」
「ハイランドには無いな。そもそもあまり魚居ないからな……。他のところは分からない」
「コメはあるから酢……ってあるんでしょうかね、あれ、醤油とかどうなんだろう?なければ作ればいいですからまあ良いでしょ」
寿司を作るつもりのようだ。
まあ他にも色々ありそうなので大丈夫だろう。
「そもそも生で何かを食べるって……殆ど無いよな?多分」
「少なくとも私は聞いたことはありませんね。野菜とかならともかく、肉も魚も基本的に火を通さないと病気が怖いです」
「そこは衛生に気を使っていれば問題ないんですよ。まあ他の料理もありますしお菓子とかも……あ、デザート来ましたかね」
葡萄のような房の果物のようだが、殻がついている。
房になった木の実と言った感じのものだ。
「クェバですね。コーブルクでよく取れる果物です。私これ結構好きですよ。日持ちするし」
「えぇと……見たことがないからわからないんだけど、どうやって食べるのかな?」
「私も分かりません。アディ、教えて?」
「こう、プチッと取って、一番上の硬い殻を外して……中の果肉が出たらこう……。しゃぶるように食べるんです。甘酸っぱくて美味しいんですが真ん中の種はこういう風にして出して下さい。これ毒なんで」
「まあ死にはしないが、確実に2日位は腹痛で寝込むぞ。それさえ気をつければなんてことはない」
言われたように食べてみると、葡萄よりは柑橘類のゼリーと言った味わいだった。
不思議な感じだ。
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夜、広場のほうで叫び声が上がったので見に行くと、数人の若者が蹲っている。
どうやら魔法錠を解除して盗もうとしたらしい。
勝手に解錠しようとすると、電撃が流れ、同時に麻痺の効果が追加される凶悪なテンペスト仕様の物だ、さぞかし辛い思いをしただろう。
コリーとニールには覚えがある光景だ。
流石にあの時は麻痺は無かったし、死にかけるほどの電撃は流れなかったが。
右手の指が数本吹き飛んでいる事から相当な電撃を食らったようだ。
「テンペスト……どれだけ出力上げたのさ」
「電流は弱いですが、高電圧です。見ての通り死にはしません。耐性があると困るので麻痺も追加しておきましたが」
「周りの人達は、近くに居たせいで感電したのか……」
警備兵を呼んでいる間に張本人が気がついたみたいで、自分の手の状況を見て泣き叫んでいた。
「指3本で済んだのですから良かったじゃないですか」
「お前のせいかぁぁぁ!お前のせいで!俺の指が!!」
「いや自分のせいだろどう考えても」
警備兵に引きずられながらもずっと文句を言い続けていたが、魔法錠の解錠自体が重罪だ。
しかるべき機関からの任務や、掛けた本人がすでに死亡している場合、若しくは本人が解錠出来なくなってしまった場合を除き、基本的には他人の魔法錠を勝手に解除してはならない。
ロジャーのところでの訓練は、主に掛けた本人が死んでいる場合などの物を想定しているし、あれ自体は自分の魔法錠が解除されないようにするための訓練でもある。
いずれにせよ、テンペストの前では全てが無意味だが。
まあこんなハプニングがあったものの、流石にあれを見て盗もうと思えなかったようで誰も手出ししなかったようだ。
こじ開けようとした跡はあったけど、塗装が少し剥げた以外に被害はない。
壊れやすい水晶ガラス部分はすべて強化されているだけでなくシャッターというか、装甲が被さるようになっているためやはり破壊できないのだ。
翌朝無事に出発することが出来、これまた特に何事も無く王都まで到着した。
流石にコーブルク国内になっているので、すれ違う馬車も多かったが……トレーラーを見た瞬間皆横に逃げていくのがちょっとおもしろかった。
なにせ時速100kmに迫ろうかという速度で巨大なものが突っ込んでくるのだ、避けないほうがどうかしている。
この速度を維持できるのも途中から現れた石畳の舗装路のおかげだ。
幅は結構広くてトレーラーの横幅1.5倍ほど。王都の南門から入ったメインストリートはもっと広い。それでも目立つのは間違いないが。
流石に王都ではハイランドの英雄を知らない人は殆ど居ないようだった。
トレーラーを見て誰が乗っているのかは大体察しがついているらしく、手を振られたり、感謝の声が聞こえてきた。
「……目立つのは目立つが……これ、めちゃくちゃ恥ずかしいな……」
「私はその時まだ居なかったので分かりませんが、占領されていたのを開放してくれたんですからそりゃあこうなりますよねぇ。手を振り返せばいいじゃないですか」
「テンペスト、上に出て代わりに頼む」
テンペストが上に出ると余計に歓声が大きくなる。
実際にはコリーもテンペストも人前には一切出ていないのだが、どう考えてもハイランドの魔導車に大きく紋章を貼り付けているのだからそれなりの人が乗っていると思うだろう。
そこでまた可愛い女の子が出てきて手を振っているのだから、その家族の子供か何かかと思っているのだ。
実際は本人である。
しかももう一人は運転席に座って控えめに手を振り返している。
一応、中にはもう一人VIPが居ることは居るのだが……。そういう人が来るなら普通は護衛の兵士がずらずらと並んでいるが、今回は少人数ながらも過剰戦力という良く分からない集団だ。
見た目ではわからないだろう。
そんな奇妙な一団をいまいちよく分からないままに見送る人達。
それにとりあえずやっとけと言われて適当に手を振り返しているテンペスト。
この光景は奥の方にある高級街へと行くまで続いたのだった。
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「悪いんだが、サイラス博士とニールで魔物の素材とか換金してきてくれないか?俺とテンペストは暫く外に出ないほうが良い気がする」
「凄い歓迎でしたからね!テンピーなんて皆に可愛い可愛い言われてましたよ?」
「……そう、なんでしょうか?よく分からないですが。ただ、私とコリーが出ると面倒なことになりそうな感じはします。動くのも明日からのほうが良いでしょう、鎧ではなくてローブを着ることにします」
筋力と体力の大幅な減少が心配だが、コリーがいるので問題はないだろう。
むしろ2人で外に出すニール達の方が心配ではあるのだが……。
「いや……ボクはともかく、テンペストよりも質の悪い人がいるので問題ない気がします」
「なんか私凄い酷いいわれようですね?」
魔法に関しての手数が圧倒的に多いのだ、サイラス博士は。
ワンアクションで発動するのが火、水、土、雷、風、光と多彩、そして身体強化と義肢の力で接近戦も強い。魔力切れは殆ど無くて、ナイフで刺された程度なら数秒で治っていく。リジェネレーションに治癒魔法を本当に組み込んだのだこの人は。
そもそも生身が胴体位なものなので、生半可な剣では腕で受け止められる。
「……考えてみれば凄いですよね。瀕死だったのに、回復した後はすごい勢いで強くなっていきましたから」
「テンペストさんのも面白いですけどね。ジャミングとか。あれ、もし使えたとしてどうなるんだろうって思って掛けてもらったら義肢動かなくなって焦りましたよ。義肢持ちの天敵です」
魔力を散らす方法が使えなかったと分かった後、もし使えたら義肢はどうなるのかふと気になってやってみたら見事に機能不全に陥った。
結果として、義肢に頼っているサイラス博士はそもそも不適だったことが後でわかった。
「私としては魔力の心配なく常に行使できる博士が少し羨ましいくらいですが」
「なんで博士が出来てテンペストが出来ないのか……不思議ですね」
リジェネレーションだ。治癒魔法も苦手なテンペストだが、この辺が関係しているのかもしれないという話だ。
そんなわけでニールとサイラス博士の2人だけでも特に問題無いと判断されたのだ。
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「ようこそ、ハンターギルドへ。ハンターズカードの提出をお願いします」
「え?なんですかそれ?」
「ギルドに加入すると必ず渡されるはずですが……」
「あ、ボク達コーブルクで取ってないんですよ。これで良いですか?」
「ハイランドの方でしたか……あ、記載がありますね、大丈夫です。ではご用件は?」
まさか仕組みがちょっとだけ違っているとは思わなかった。
こっちでは身分証と認定証は全て別のカードになっているらしい。一つにまとめていないので持ち歩くのは面倒だけど、その代わりに無くした時のダメージは小さい。
どちらを取るかという問題なのだろう。
「素材の買い取りをお願いしたいんですが。あと……通貨の両替もここで?」
「出来ますよ。素材は向こうの6番受付でお願いします。大きい物の場合は倉庫で直接出していただきます、通貨の両替は1番受付です」
ニールと博士で手分けすることにした。
「この硬貨を交換したいんだけど良いかな?」
「はい、えぇと…………これ、ミレスのですね……」
「盗賊を壊滅させた時に回収したんだけど、使い道ないしねぇ」
「あー……。すみません、含有量とかを調べるのでちょっと時間を頂ければと。ミレスの硬貨は色々と混じっているので一枚一枚確かめなければならないので」
「なるほど、粗悪品か……仕方ない、待っているよ」
「ではこの番号札を。終わったら呼びますのでまたここまで来て下さい」
サイラス博士はミレスの硬貨をコーブルクの硬貨へと変えるつもりだったのだが、かなり信用度が低いらしい。例えば金貨で、同量の金と釣り合うと思っても中身が実は別物という手の混んだ偽物を作ってくるので油断ならないらしい。
この場合、魔法鍛冶師に依頼して成分を分離、そこから値段を割り出していくことになるそうだ。
「無くなってからも皆に迷惑をかけるとは……困った国だ」
ただ待っているのも暇なので、掲示板に張り出されている依頼を見てみる。
登録はしているものの、ハンターとしては何もしていない。
「ハイランドではあまり見ない魔物の名前が多いですね……魔物図鑑でも買っていきますかね。テンペストさんみたいに丸暗記できれば楽なのでしょうが」
魔物の名前がわからないのでどんなやつなのかも見当がつかない。
依頼を受けるつもりではないため気にすることはないのだが、知識を仕入れておくというのもまた勉強だ。
「おっさん、ずーっと居るけど邪魔だぞ。……ってかそんなガリガリで大丈夫なのか?」
「ああ、これは失礼。最近までちょっとばかり色々あったもんで」
「そ、そうか。そんなんじゃすぐ魔物にやられっちまうぞ?もうちょい体鍛えてきてから出直してきたらどうだ?まあ、難易度低いのをやるって手もあるけどよ……」
「いえいえ、魔法主体なので問題ありませんよ。とりあえず財布返してもらえますかね?スッたのは分かってますよ?まぁ開けたくても開けれないでしょうが」
「な、何のことだよ!?」
邪魔だ、というタイミングでどついた時にスられたようだ。
油断も隙もない。自分の財布だと言いはるので開けさせたら魔法錠のセキュリティーに引っかかって昏倒した。
受付に話したら手癖の悪い人で有名だったようだ。警備にお持ち帰りされたので後は知らない。
まだ両替までは暫く掛かるとの事だったので、ニールの方に顔を出そうと思う。
ジャミングを受けた瞬間、サイラス博士の義肢は魔力が抜けて動かなくなりました。
このことから恐らくテンペストは生身で魔鎧兵と接近戦が出来ます。やりませんが。
魔物図鑑はスリに気を取られてそのまま買い忘れました。