第三十九話 旅をしよう
博士がテンペストの街に引っ越してきた。
例のエルフの女性も一緒に。仕事中もなるべく一緒に居れるように自室で設計などを行い、自分が居れない時には人を雇って世話をしてもらう手はずとなっている。
そして……博士のおかげでテンペストのペネトレーター、そしてワイバーンの動力系、兵装、魔導エンジンまわりなど全てが手を加えられ、最適化された。
流石というかなんというか、博士は着任から1月程で魔法を理解し、それを魔道具として再現するということに成功していた。
本人曰く、「昔からファンタジーとかそういうゲームとかアニメとか大好きだったから!」ということだが、それを体系づけてきちんと説明できるかどうかというのはもう全くの別物だ。
恐ろしいことに本当にゲームにあったという物を完全再現してのけているのだから筋金入りである。
例えば……セイクリッドレイ。発動すると光り輝く羽が上空から降り注ぎ、その羽から黄金のレーザーが放たれる。
しかも本当に使い物になる。特にアンデッドは一瞬で消滅するほどの威力で、複数のターゲットを同時に狙うことが出来る範囲魔法でもある。
自分を中心とした範囲に攻撃するタイプで、とりあえず一人で突っ込んでいってぶっ放すだけで敵を一掃するというむちゃくちゃさだ。
魔力消費もある程度抑えられており、使い勝手すら良い。
どう考えても羽の演出なんかは要らないのだがそこは譲ろうとしなかった。
また、マギア・ワイバーンの改良はそれだけにとどまらず、爆音対策のために機首先端から全体を包み込むような空気の流れを強制的に発生させ、衝撃波を包み込むことで極力爆音を響かせずに超音速で飛ぶ事ができるようにまでした。
これによって、基本的にワイバーンの形状をあまり気にしなくても良くなってしまった。
今はそれらを利用して、制御系等をテンペストに頼らずとも操縦できる飛行機を作ろうとしている。
「なんつーか……反則だろ、この人」
「僕も予想外だよ……。天才ってこういう人のことを言うんだって理解したよ、ホント」
「師匠が認めるくらいだからなぁ……。テンペストといい、博士と言い……俺達のあまり知らない学問を知っている事で、こうも差がでるとは」
「今僕達研究者の方でも、彼の講義を聞いているよ。数学、物理学、力学、科学、化学……もう、なんというか本当に凄いんだよ。全てを数式で表しているんだ。自然現象なんかも含めて!例えば、僕がこうしてボールを投げたとする。これを計算するときに、弾道計算っていうのをテンペストに教えてもらったんだけど……テンペストは計算できてもその中身を全ては知らなかった。でも博士は違う。全部理解しているんだ。この大地の大きさの求め方も、それによって発生している重力の大きさ、その加速度……必要な式の導き方を知っている。これ、とてつもないことだよ?」
式を覚えて変数に数字を当てはめて計算するなら一応誰でも出来る。
でも、その時に使う定数の求め方なんかはわからない人が多いだろう。博士はそれを知っている。
だから当然、求めた。それによって弾道計算は更に精度が上がり、地球よりも僅かに重力が小さいことが分かっている。微々たる差ではあるけれど。
様々なものの仕組みも知っているから、マギア・ワイバーンに手を加えることが出来た。
……だが、植生などにはそれほど詳しいわけではないため、高山地帯にこれほどまでに樹木がある理由などはわかっていない。
「あぁ、ロジャーさん。いらしてましたか」
「今は何しているのかな?」
「魔力ジェネレーターですよ。フンボルトさんと共同で開発を進めてます」
「ワイバーンに積んでる、あれか?どういう仕組で動くんだ?見た感じ羽根とか無いようだが」
「それはこのジェネレーターが部品だからですよ、コリーさん。様々な方法で魔力を効率よく取り出すために、発電方法に依らず電極をこれにつなぐだけで魔力に変換するための物です。電力を魔力に殆どロス無しで変換するための装置、といえば分かりやすいでしょうか。……あ、ちょっと失礼」
ホースの付いたマスクのようなものを取り付けて、何度か深呼吸をして落ち着いている。
ハイランドに来て、どこか野性的だった時とは違って、理性が戻ってきた後ちょっと動いただけで気絶したりと高山独特の低酸素にやられていたのだった。
そこで身体が完全に慣れるまでと、酸素発生装置を作り上げてこうしてたまに吸っているというわけだ。
まあ、まだ身体は痩せたままで、肋が浮き出ているし腹も気持ち悪いほどにへこんだ状態だ、色々と仕方ないだろう。
それでも大分食事も食べられるようになって、まともな生活を送るだけなら出来るようになっている。
「難儀だな……。それにしても、博士は何者なんだ?物凄い知識じゃないか」
「あはは、私は……そうだね、正義の味方の役に立ちたかった一人の人間かな。実際には今の今まで悪の手先として利用されていた感じだけどね」
「でも、博士は別にやりたくてやっていたわけじゃないんだろ?」
「当然だ。誰が好き好んで全てを破壊するような物を作りたがると思っているんだ?どっちかというとそういうことを企んでいる奴等をぶっ飛ばすために働きたかったんだよ。ちょうど今みたいにね。だから君たちには感謝している。こうして人として扱ってくれることにもね」
「それは……ミレス何かとは一緒にしないで欲しいなぁ。この大陸じゃあの国だけだよ、あんなよくわからないことをするのは」
それにハイランドに関してはその立地上、険しい山々の上にあるが、だからといって他の国へ攻め入ってまで占領すると言った事はしない主義だ。
逆に侵入しようとしてくるものに対しては、苛烈な攻撃でそれを押し返す。
守りやすく、そして攻めにくい。そんな国土が気に入っているのだ。
「まぁ、そんな感じで人を守る、そんな人達をサポートする為にたくさん勉強して……様々な論文を書いたよ。今まで不可能だと言われてきた技術も、ブレイクスルーを果たして実現させた。テンペストのレールガンだって、小型化に成功したのは私の研究成果だよ。まさかレールごと歪めてライフリング刻んでるとは思わなかったし、人が持てるくらいの大きさにまで小型化しているのにはびっくりしたけどね……。その辺は流石にテンペストだなって思った」
「その技術を今、ここで発揮してるってわけだな。……あんたの魔鎧兵、普通のとはもう大分変わってるんだが、どうなってるんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!」
ぱぁっと笑顔になったサイラス博士。
今まで言いたくて言いたくてうずうずしていたんだろう。
サイラス専用機は骨格から全てを見直し、元の魔鎧兵の筋肉と、後付のクレイゴーレム由来の筋肉を融合させ、一つの巨人とも言える存在となっている。
ミレスで作っていた物よりも、大分スマートになり、見るからに人というシルエットになった。
それは某ロボットゲームを髣髴とさせるカスタマイズ性を備えており、重量制限とバランス制限に引っかからないかぎり装備を追加することが可能だ。
お気に入りは腕に装着されているパイルバンカーだそうで、魔力による電磁加速を利用して高速で杭が撃ち込まれる。
肩にはロケットランチャーや、大型の滑腔砲が取り付けられるようになっており、遠距離攻撃も可能という万能っぷりだ。
流石にテンペストもこれには呆れていたが、この世界の人達には概ね好評のようだった。
ある意味これで戦争が変わると言っても過言ではない。
明らかにオーバースペックだ。マギア・ワイバーンも人のことは言えない状態に魔改造されているわけだが……。
ミサイルや爆弾に関しては博士が来たおかげで一気に研究が進み、あっという間に実戦配備可能となったのだ。
まるでコンピューターの様にゴーレムを接続し、ある程度複雑な思考回路をもたせ、投げっぱなしでも自分で敵を見つけて自爆特攻するという完全自立ミサイルとなっている。
カメラの代わりに本当に目がくっついている感じになっているので正直気持ち悪いが、性能は文句のつけようがない。
近いうちに本気で魔鎧兵を短時間でも飛ばそうと考えているらしく、専用のスラスターと折りたたみ、着脱式の補助翼を開発しているそうだ。
マギア・ワイバーンの改良の時に使った空気の膜の技術を使えば意外と無理ではない為割りと暴走とも言い切れず、実現すれば活動範囲が広がるため任せている。
ただし、しわ寄せはテンペストに行く。
「資金の大半を博士が使っています。……使いすぎです。他の人たちのことも考えて下さい」
「申し訳ない……!」
「自費で研究するなら特に文句は無いのですが、自分の為の研究であればできるだけ自費で賄ってもらいます。成果を残しているので文句をつけようにも出来ないのが困ったところなのですが……。差し当たってはあの魔鎧兵、サーヴァントでしたか、アレを改造する費用だけでも自費でお願いします。それによってもたらされる技術革新についてはそれなりに費用を支払ってもいいですので」
「しかし私は研究以外で稼ぐ方法を知らないのですが」
「少々危険が伴いますが、ハンター登録されてはいかがでしょうか。私もハンターとして活動していますが、サイラス博士も私と同じように鎧をパワードアーマー化するなどして接近戦は対処できると思いますし、自分用の武器を作ってもいいでしょう。若しくは戦闘用途以外で使える魔道具等を開発して売り出すというのも良いと思います」
「あ、なるほど!ということは自分のメーカーを作って、製品を販売して、その資金を研究に回すというのも出来ますね。ハンター……は、気が向いたら考えてみます」
ライナー魔道具工房の誕生である。
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「テンペスト、領主として暫く経つがどうだ?」
「そうですね、やることは多いですし、自由が減りました。しかし……これはこれで面白いと思います。特に博士の働きっぷりが異常ですが。それに引きずられる形でここの研究者たちも力を伸ばしていっています。近いうちに大陸でもトップの研究都市になるのではないでしょうか」
サイモンが久しぶりに訪ねてきた。
研究で得た技術を使った商品などの開発にも力を入れて、それを売り出すことで多額の資金が入るようになってきた。
サイラス博士のライナー魔道具工房の道具も高いながらも好調な売れ行きのため、税収として絞りとっている。
「そして、テンペスト……すっかりバタバタして忘れていたんだが、君はもう11歳だ。誕生日をすでに過ぎていたみたいなんだよ」
「そうですか。……特に何も変わった感じはしないのですが」
「まあ、そんなものだよ。一応成人は15歳、でももう領主として立派にやっているテンペストは同等に見られているからね、結婚の申し込みなんかも色々激しくなるんじゃないかな?」
「あぁ、あの手紙はそういうものだったのですね。興味なかったので全て捨てていました」
「ちょっ……」
ひどい話である。
一応、養子としているのでその辺も面倒見たいと思っているのだが、本人は全て捨てているという。
結構有名所からのアプローチもあるのでもったいない話だ。
もちろん、今すぐに結婚!ということではなく、成人を待ってということになるが……ただ、このカストラ領目当てにしている者も少なくないのも事実だ。
そういう意味では相手にしないのも一つの手ではある。そもそも結婚できる年齢まではまだ時間がある。ゆっくりでもいいだろうが……この辺で色々な人達とコネを作っておくのも良いはずなのだ。
あれからお告げの方も特に何もなく、平和な日々がすぎている。
少しばかり息抜きをしても良い頃だろう。領地は代官を立てて回すことができるし、ハンターとしても動くことは殆どなくなった。暇な時に写本をしているのは相変わらずではあるが。
「まあ、エイダ様はたまにここに来ているそうだが、私も自分の領地があるからね。つきっきりとは行かない。だけど……また異変が起こる時はすぐに駆けつけよう。それまでは暫く自分のやりたいことをすると良い。人生は短いんだ、異変のためだけに生きているわけじゃない。この世界を楽しんで欲しい」
「楽しむ……ですか。美味しいものを食べられれば幸せですね」
「ああ、それでも良い。ヴァルトルの店もいいが、他にも旨いものは沢山有るぞ?それこそコーブルクやルーベルは漁港がある。海の魚とかも食えるぞ?」
どちらも同盟国となり、ハイランドはどちらの国に行くにしても優遇される。
今回の戦争の功労者なので当然といえば当然だし、力の差が明らかとなった為でもある。
流石に突然ワイバーンで乗り付けるという訳にはいかないが、検問などではあまり手間取られることはないだろう。
ハイランドにも海はあるが、断崖絶壁であるため近寄れない。
その為漁港というものは存在せず、また、高山という場所柄そこまで持っていくことも時間がかかりすぎて難しい。
その為、海の幸をまともに楽しむには、それぞれの国へと足を運ぶしか無いのだった。
「一応、ギルドはすべての国にある。通貨のレートが少し違うくらいで、後は殆ど同じだから向こうでハンターをしながらというのも手だな。いわゆる腕試しってやつだな。ワイバーンでの移動は流石に不味いが、魔導車は使える。テンペストの魔法錠なら誰も破れないだろうし、旅行してみるというのもいいと思うぞ」
「なるほど……。魔法に関しても色々と知見を広めることが出来るかもしれません」
それに、大陸の形はすでに把握しており、どこに何があるかは大体といったところだ。
ハイランドは地形が独特なため、南西から北東に掛けて長く連なる山の上にそれぞれの都市が存在するため、端から端までの移動は馬車などでは相当苦労する羽目になる。
以前の国とは違い。交通網は発達していないため、移動に時間が掛かるが魔導車ならば燃料を気にせずに踏破できるだろう。
そうと決まれば後は早かった。
快適な旅にするために新しい魔導車を設計し、サイラス博士を巻き込んで作り上げる。
結果……トレーラー型の魔導車が完成したのだった。
「出来た……!」
「まさか……家を動かすとは……。ねえテンペスト、これ、もうちょっと小さいのとか作って売っていい?これ絶対売れるよ。道を通れる程度の大きさに制限して、収容人数を減らせば……」
「ロジャーに任せます。これは私専用として開発したものですから、これ以上のものを作るなら国王陛下にプレゼントしたいですね」
「ああ、それはいいかもしれない。外側と中身を豪華にしたやつを作ってみるかな……。っていうか、こんなの作ってどうするの?」
「サイモンに少しは楽しめと言われたのです。それで、少しばかりこの国だけでなく、他の国へも足を伸ばして色々と学んでこようと思いました。折角魔導車を作ったので、私達の国にある大型のキャンピングカーを元にして住めるようにしたのです。……馬車での移動はもう、懲り懲りですので」
何日も掛けてゴツゴツした振動を尻に受け、プライバシーもクソもない生活はさしものテンペストであっても辛いものだった。
それとは打って変わってこちらは快適そのものだ。
分厚いタイヤに大きなサスペンション、車に関する知識のあった博士のおかげで大型バスのような乗り心地を実現した。
中も風呂、シャワー、トイレは完備。
ベッドは5台。キッチンもフルサイズでソファのついたダイニングスペースがついている。
車体後部は左右に展開され、広々としたスペースへ……。
この辺はサイラスの夢だったらしい。
更に、実際にキャンピングトレーラーで生活したことがあるサイラスのアドバイスによって、車体を完全に固定するための杭が取り付けられた。
意外と風で揺れるそうだ。
「うおぉ……でっけぇな!すげぇ……」
「コリー、運転をお願いしますね」
「はっ?」
「コリーも一緒に行くのですよ?サイラス博士も同行します」
「え、私も?」
「コリーは護衛兼運転手、サイラス博士は居るだけで役に立ちます。それに、他の国の様子を見せることで色々と勉強になるだろうということは私とサイラス博士も同じでしょう」
「ま、まあ……別に構わないけど……。実際、国が変わると魔法の体系も微妙に違っていると聞いていますし、色々と取り込めるものがあるかもしれませんね。……ちょっと、研究の引き継ぎと彼女の世話をお願いしてきます……。あぁ……折角記憶が戻ったのにもう離れなければならないのか……」
実はエルフの彼女は記憶を取り戻し、サイラスの家で暮らしている。
男性恐怖症になっておりサイラス以外の男性を受け付けない為、ロジャー達は会いに行くことすら出来なかったが。
どうやら世話をしていた時から好意を持っていたらしく、サイラスであれば裸でも全く問題ないようだ。ただ、まだ性行為となると襲われた時のことを思い出すため、結婚はしても暫くは子供は無理かもしれないとも言っていた。
かなり根が深いようだ。
そして……。
「あの、テンピーに呼ばれたんだけど……ってなんですかこれ?魔導車……ですか?」
「中で泊まれる特別仕様車だそうだよ。中を見てみなよ、凄いよこれ」
「こっから入るのですか?わ……え、これ、お部屋じゃないですか!動くんですかこれ……」
「もちろん。そしてアディも一緒に行くのです」
「え?」
ここまで全員何も聞かされていないという……。
元々テンペストは今までのメンバーと一緒に行くことを考えていたが、サイモンは領地が、ロジャーは研究諸々だけでなく王都からあまり離れられず……ということだった。
エイダは比較的自由が効く上に、精霊であるテンペストと共に行動するのは自然なことで、更に言えば何かしらの信託があった場合、一番先にテンペストに知らせられるというのが大きい。
コリーはいつもマギア・ワイバーンに乗るときのバディとしてセットとして考えられており、ニールと共にロジャーの弟子ということもあって比較的動かしやすい。
重要な場所に居ないというのが一番の理由だ。
サイラスはテンペストの言った通りで、ここに来てからすでに数々の発明を残しており、これらを自分達のものとするだけでもすでにいっぱいいっぱいとなっていること、そしてハイランド以外の文化などに触れ、新しい魔法体系を学ぶことで更に優れた技術を残せるのではないかという打算などもあり、ついていくことになった。
また、彼には更に護衛としての任務も付属する。魔鎧兵のサーヴァントの使用許可が出ているのだ。
「サーヴァントも連れてくのか?」
「許可は出ています。実戦を通じて色々と分かることもあるでしょうし、実地試験という形になっていますが、簡単にいえば私達の護衛です。一応、レールカノンはトレーラーの上にもついていますが、小回りの聞く魔鎧兵は、トレーラーがスタックした時にも役立つでしょう」
「……便利に使われそうだな、可哀想に。って事は歩いてついてくるのか?」
「流石に山道はそうしてもらうしか無いですが、下に降りれば平地ですから、トレーラーの後ろに更に連結して行きます。かなり長い乗り物になってしまいますが、基本直線移動ですから特に問題ないはずです」
「なるほどな……。俺とテンペストは最強の手段であるワイバーンがないからサーヴァントに色々頼むことになりそうだ」
そして……。
「え。皆行っちゃうの!?ボクは?ねぇボクは!?」
「ニール、特に何もなければ一緒に来ませんか?」
「やった!いいの?」
「ええ。ニールも色々と見て歩く機会は必要ですし、何よりも……空間魔法を使えます」
「あ、荷物持ちですねわかります」
それもあるが、ニールも実際の所経験不足が否めない。道中恐らく何度も戦闘になるだろうから、その時に色々と経験を積ませたいというのがロジャーの願いだった。
サイラスといればニールの魔法もより強力になっていく可能性があるし、空間魔法によってある程度は荷物のやり取りなども可能だ。
連絡係としても優秀だったりするのだ。
□□□□□□
「では、暫くの間留守にします。ロジャー、領地のことは任せました。何かあったら連絡を」
「行ってらっしゃいテンペスト。領地は僕がしっかり見ておくから。もちろん、サイラスの彼女もね」
「ロジャーさん、本当に頼みますね。たまにこちらから色々と物を送りますので、届けてもらえればと」
「サイラス博士、後のことは我々に任せて知識を深めてきて下さい!戻ってきた時には便利な街にしてみせますよ」
「頼みましたよ、フンベルトさん。あ、飛行機の方色々進めておいて下さい」
「エイダ様、お気をつけて。精霊の加護はいつでもあなたのそばにあります」
「ありがとう、ノーマン。私も各地の精霊と話をしてみることにするわ。ルーベルにはノームの大精霊が居るということですし」
「それと……」
「ノーマン、祈らないで普通に喋って下さい」
「やはり聞こえてらっしゃいますね、テンペスト様。祈りという形であなたに直接連絡を取れます。問題があれば真っ先にお伝えしましょう」
「……分かりました」
隙あらば祈りを捧げようとするノーマンを遮ったが、一方通行ながら意外な使い道が見つかったようだ。
緊急連絡位なら仕方ないだろう。
コリーは運転席に、ニールは後部のソファーに座ってニコニコしている。テンペストと共に旅ができるのが嬉しくて仕方ないのだ。
「ニール、……テンペストに迷惑をかけないようにしてね?」
「大丈夫です!役に立つ男だというところを見せてやります!」
「……それが心配なんだけどなぁ。ま、頑張ってよ。いつでも連絡は取れるわけだし、最悪の場合は……ニールにカストラ領のマギア・ワイバーン専用ガレージへの接続を許可します」
「分かりました。師匠」
「ニール、手を。あなたに僕の魔法錠の解除方法を教えます。僕の許可があって初めて解除できるので、本当に緊急事態にしか使えません」
「使わなくて済むことを祈りますよ……。……受け取りました」
「……コリー、テンペストの一番近くで守れるのはあなたです。しっかりと励んで下さいね」
「了解だ。博士と共にエイダ様含めて全員守り切るつもりだぜ」
魔導モーターの低い唸りと共にゆっくりとトレーラーが動き出す。
その後ろに砂漠用のデジタル迷彩柄に塗られたサイラスのサーヴァントが続く。
事前に荒野の様な場所が多めと聞いて塗ったらしい。
トレーラーもいつの間にかその色に塗られていて、なんというか砂漠で活躍する陸軍みたいな様相になっている。誰と戦うつもりなのか……。
そして案の定、大きすぎて狭いS字カーブを曲がるのに苦労しながら、時には後ろでサーヴァントに補助してもらいながらゆっくりと下って行くのだった。
誰がここまでやれといった……。
ちなみにステアリングトレーラーになっているので、トレーラー後方のタイヤも動きます。
普通のトレーラーよりは大分小回りがきくので安心w
16輪とかの巨大なものまでは行かないのでそこまで巨大ではないんだけど、それでも険しい山道を降りる大型車だったらあったほうが良い装備かなと。