第三十八話 ミレス侵攻
「……なんだか慌ただしいが、どうしたんだ?」
「あなたが囚われていた国……ミレス共和国と言うのは知っての通りですが、そこに攻め込みます。元々周辺諸国に嫌がらせのような攻撃を繰り返していましたが、ついに一線を越えたのです。それが二ヶ月ほど前。その時は攻め返して国を奪還しましたが、今度は本国を叩くことになったというわけです」
「戦争か……」
「そういうことです」
何かを考えていたが、すぐに決意したようにテンペストを見る。
「俺も参加を……」
「駄目です。その身体では次は持ちません」
「しかし!こんな身体にしたのは奴等だ!そうだ、あのロボット!あれがあれば……」
「あなたが乗ってきたものは……修理不可能です。すでに解体されています」
「そんな……」
義肢を装着したところで、まだ本体の方は痩せきっていて力が出ていないのは明白だ。そんなちぐはぐな状態で出撃しても危険だろう。
また、ワイバーンに乗せることも出来ない。身体が耐えられない。
しかし、彼にとって人任せにしたくないものであるのも事実だ。
「条件付きで、交渉してみましょうか?条件は出撃までの約2週間の間に、一定以上の筋力と魔法を扱えるようにすること。魔鎧兵は魔力を利用して動きます。ここに来た時のあなたはわからなかったかもしれませんが、ほぼ魔力が枯渇した状態でした。一歩間違えればそのまま死んでいた可能性もあります。なので先ずはそれに耐えられるだけの魔力を持ち、格闘戦を行えるようにすること。筋力に関しては脱出時に逃げるためです。良いですね?」
「問題ない。やってやる。……とりあえず、すごく気が進まないが義肢をつけてくれないか?」
四人の技術者がそれぞれの義肢を手に近寄ってくる。
サイラスにはそれが死刑宣告のようにも思える。
「あ、やっぱりまっ……ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁ!!!ああぁぁぁぁぁ!!!がっ、あっ……」
同時に全ての義肢を接続され、あまりの痛みに気を失った。
失禁もしているがこれを笑えるものは居ないだろう。事実、地獄の痛みそのものだから。
「あがっ、かふっ……うおぉぉぉぉぉ……あ…………は、はぁ……ふぅ……」
「……大丈夫ですか?」
「ああ、むちゃくちゃ痛かったが……ああ……でもやっぱり馴染むのが早い、身体に合わせているからということか?」
「二回目だからというのもあるでしょう。この世界の義肢は腕や足が寄生している様なものです。宿主の体の一部になるように、魔物由来の神経系が傷口の神経系に直接繋がります。痛みの大半はその神経系に直接響く物です。血管などもある程度繋がって中にある魔力筋の栄養となります。なのでしっかり食べないとあなたの場合は手足に栄養を持って行かれて栄養失調となり死にます」
「そんなヤバイものなのか、これ……。ああいや、復讐するためには体力も必要だ、不思議とこの世界の食べ物は食べると体力が回復していくのを感じられる。よし、時間が惜しい。トレーニングやらせてくれ」
まだふらついているのによくやると思う。
失禁していることに気がついて、シャワーを浴びに行っている間に話は通してやった。
予備の魔鎧兵に兵装をつけて出撃させられるようにする。
サイラスを連れて王都に引き返す。
マギア・ワイバーンを見てやたら感動していた。昔見たアニメの主人公機の様だ!と言っていたので、そういった系統にも結構詳しいのかもしれない。
ちなみに、ポッドの中では興奮してうるさかったらしい。他の者達はそれどころではなかったようだが……。
体力トレーニングはコリーが、魔法関連はニールが担当し、この12日間をひたすら鍛えるためだけにいじめ抜いた。
どんなに辛くても、どんなに吐いても絶対にめげずに10日間で規定をクリア。
拷問によって鍛え上げられた精神力は伊達ではないようだ。
最後の2日間は魔鎧兵相手に模擬戦をやり続けた。
脱出の時に使ったことがある事もあるのだろうが、意外とセンスがいい。聞いてみると空手の師範代でもあった。強いわけだ……。
ちなみに、魔鎧兵は色々ロジャー達がいじくり倒した結果、かなりスリムになった割に膂力が増えて器用になっている。鎧も更に頑丈になり、ちょっとやそっとじゃ貫けなくなっている。
だが大砲などが当たった場合、衝撃が中に伝わることで爆発した時と同じ効果が起こり圧死する可能性があるので避けることと厳命している。
最初は笑っていた魔鎧兵のパイロット達も、実際に豚を突っ込んで実験してやると、見るも無残な状態になっているのを見て青ざめていた。
サイラスに取っては当たり前の現象なので全く動じていなかったが。
そして、サイラスの乗る機体は完全な格闘戦仕様となり、殴ったりするときに手を保護する意味もありナックルガードが取り付けられ、剣ではなくメイスを武器とした。
強烈な打撃は、それだけで中に居る人に対してかなりの衝撃をもたらす。
それを見越した装備というわけだ。
「見事です、サイラス博士。あなたを戦場に連れて行く許可が降りました。……一緒に叩き潰しましょう」
「よし……!!ありがとう、テンペスト。これが終わったら俺も研究に参加させてくれないか?色々役に立つぞ?」
「喜んで。私には知識が足りませんから、あなたのような人が居てくれると助かります。……そろそろ明日からの作戦について話し合いがあります。行きましょう」
「了解」
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5日後、コーブルク、ルーベル、ハイランド3国が合流。
ハイランド軍は魔導車を利用して高速移動が可能だ。当然滑腔砲を取り付けた自走砲も4台連れて来ている。
壁を通り越して山なりに撃ち込めるのが利点だ。更に射程がかなり長いため、ミレスの大砲は届かない。
コーブルクも鹵獲した兵器を自分達なりに改造して使っている。
技術提供もある程度しているので完成度は高くなっているはずだ。
今度は宵闇の森を除く3方位から一気に攻めることになる。唯一ルーベルは元々の装備しか持っていないが……まあ、仕方ないだろう。頑張ってもらうしか無い。
翌日……ミレスの壁が見えるところへと近づいた。
降伏勧告に応じないのもいつものことだ。代わりにとばかりに長距離砲が撃ち込まれる。だが射程外だ。
「自走砲、用意!撃て!」
「続いてライフル砲、壁を破壊しろ!撃てぇ!」
「爆撃が来るぞ!気をつけろ!!」
『爆撃コースに入りました』
「了解。目標、南側城壁、投下。続いて目標、魔鎧兵、……投下。長距離砲を発見した」
『目標ロック。Bombs away.』
『敵施設破壊、敵魔鎧兵6機破壊確認。長距離砲、破壊確認』
「まだまだ爆弾は残ってるぜ、もう一度アプローチに入る」
マギア・ワイバーンが低空を飛んで行く。凄まじい音を立てて通り過ぎただけのように見えるが、次の瞬間目の前の壁が大きく爆破され崩れていく。
壁の中でも爆発が起きているのが確認できる。
その間にも自走砲は榴弾を打ち込み続け、歩兵はゆっくりとその範囲を縮めていく。
マギア・ワイバーンが戻ってくる。もう一度壁の向こう側で盛大な爆炎が見え、こちらまでその爆発の衝撃が伝わってくる。
『敵の施設は大体破壊した。撃ち漏らしは適当に頼むぞ。こちらも滞空しながらサポートを続けるがそうなるとあまり時間が持たない』
「十分だ。向こうからの攻撃は殆ど無くなっている。最初だけだ……随分と、あっけなかったな」
『魔鎧兵確認、掃射する』
空中で止まりながら機首を下に向けてガトリング砲が撃ち込まれていく。
反撃らしい反撃もできずにミレス軍は壊滅に追いやられていった。
壁は3方位が全て破壊され、兵士たちが雪崩れ込む。
『突入を確認。サイラスも居ますね』
「おお、魔鎧兵を倒してるな。大分数は減らしたと思ったがどっから出てくるのやら」
『地下への入り口があります、あれが恐らくダンジョンケイブでしょう。そこから出てきているようですが、下手に潰さないようにと言われています』
「反撃らしい反撃がないのはもしかして逃げたから、か?」
『分かりません。が……手応えがなさすぎるのも事実です。一度後方に下がって弾薬補給しましょう』
「分かった」
□□□□□□
城塞の扉を吹き飛ばし、サイラスが進入する。
内部に居た兵士達が必死でライフルを撃ち続けるが貫通に至らず全て弾かれている。
哀れな敵兵達を一瞥すると、手にしたメイスで立っていた足場ごと全てを消し飛ばした。
「……どこだ!あの偉そうな奴……あいつがトップだろ…………下か?」
「後ろについてきている、気をつけてくれよ」
「ああ。そっちこそ踏み潰されないところにいてくれよ。これから地下の方へ行く、こういう時逃げ道があるとすれば……地下だ」
上はすでに爆撃と榴弾の雨で原型を留めていない。
それにあいつらの趣味的にも上には重要なところを作っては居ないだろう。
そんな気がする。
案の定、地下へ向かう巨大な階段がある。
魔鎧兵を使って降りることも考慮した作りになっているということは、下の方に魔鎧兵が居ることはほぼ確定だろう。
下まで降りたところで……やはり囲まれた。
「……何だその機体は……改造したのか?随分と細くなったがそんなので耐えられるかな?」
「あぁ……その声……その面、見覚えがある。良くも人の体を好き勝手してくれたな!」
「あ?……まさか、博士か?ははははははは!戻ってきたのか博士!どうだ?このまま降伏してこちらに協力しないか?今なら……」
「お断りだ。全員、殺してやる……!」
「あなたの知識は本当に有用だったのですがね……殺せ」
20機程の魔鎧兵が一斉に襲いかかる。
しかし、ミレスのオリジナルよりもロジャーによって魔改造された魔鎧兵は単純な力だけでも上回る。
剣を振り下ろそうとした腕をつかめばあっさりとその動きを止めることが出来た。
「一人目だ!」
ベゴン!と重苦しい金属のひしゃげる音が響く。メイスがコクピットに直撃したのだ。
完全に凹んで中に居る人の様子は見ずとも分かる。
掴んでいた腕をそのまま握りつぶして剣を奪うと、一瞬ためらいを見せた者達を確実に胸を貫いて行動不能にしていく。
……視界に一人の男が目に入った。
それはあの太った男。さんざん自分を傷めつけた許しがたい存在。
目があったのが分かったのだろう、少し怯えた顔をしていたが……次の瞬間、赤い血だまりに変わった。転がっていた魔鎧兵の腕を投げつけたのだ。
「……あぁ、何も感じない……その程度のやつだったのか、その程度のやつに俺は……」
しかし周りにはまだ魔鎧兵が居る。
ならば上から歩兵たちが来る前に潰して置かなければなるまい。
カシャンとナックルガードが降りて向かってきた魔鎧兵の胸部に叩き込む。
その横の魔鎧兵にはそのまま剣を突き刺し、反対側にはメイスでなぎ払う。
怒りに任せて全てを破壊するその鬼気迫る動きは、上から追ってきていた味方ですら足がすくむものだった。
「……あれ、博士だったよな?」
「ああ……俺達の専属騎士よりつええんじゃねぇか?」
「正直このまま下に降りるの危険すぎないか?」
「ライフル隊、とりあえず奥で縮こまってる奴等狙え、多分博士は全員ミンチにするまで動き止まらないぞ!」
様子見をしていた魔鎧兵の胸に小さな穴が数か所開くと、そのまま機能停止していく。
ライフル隊の弾丸が命中したのだ。
あっという間に取り囲んでいた魔鎧兵を全て叩き潰し、博士の機体も止まったのを確認して後続の歩兵たちも下に降りていく。
「こいつらは恐らく足止めだ。本命はこの中のどれかを……だろうな」
「なるほど……逃げられましたか。しかし、博士。あなたは素晴らしい動きをした。このまま騎士としてそれに乗ってくれないかね?」
「……あー……。本業は研究なんだがなぁ。ま、無理に乗せてもらったのだから降りてしまっても良いんだが……」
「あの動きを見て降りろとは言えないですな。私の方から推薦状を出しておきましょう、研究を続けながら何かの時には……」
「ああ、それならいいかな。出来ればこの機体、専用機として貰い受けたい。無理なら何とか金を工面して買い取る。こいつを自分なりにいじってやりたいんだが」
「分かった。伝えておこう。……とりあえず……おい、探知を」
一人の魔法使いが前に出てきて探知魔法をかける。
ソナーのようにマナを揺らし、そのマナに触れた生き物を感知するのだが……。
「……やはり全ての通路に誰かしら配置されているようです。本命は分かりません」
「駄目か。仕方ない。ここは一旦上に上がろう」
「ならこの穴を爆撃してもらおう、ちょっと衝撃だけでも喰らわせてやる」
博士たちが脱出してきてからマギア・ワイバーンにより城塞が崩され、大きく開いた地下通路に向って大型の爆弾が投下された。
その衝撃は凄まじく、地上で避難していた味方の地面が一瞬膨れ上がったほどだ。
後で調査してみると、国中の地下に施設が作られており、外よりも地下のほうが広い位だということが分かった。
また、ダンジョンケイブの扉もこじ開けて内部を調査したが、すでにダンジョンケイブのコアは破壊されており、死んでただの洞窟と化している事が判明。
しかし、ダンジョンケイブ内で農業を行っていた痕跡があり、やはりこの中で食料を確保していたのだろうという結論に達した。
魔鎧兵の元となった魔物も判明し、全て持ち帰って研究対象とした。
地図上からミレス共和国という国は消え、特に旨味のない土地ということもあり、どの国も所有権を主張しなかった。ルーベルですら。
それもしかたのないことで、作物はほとんど生えず、唯一の水源も水かさが少ない上に、地下に迷路のように張り巡らされた通路のおかげでいつ崩壊するともわからない。
最後の爆撃によって特に脆くなっているかつて城塞があった場所は今はもう何も残っておらず、調査の結果も目新しい物はないという物だった。
□□□□□□
「本当に最後まで厄介な奴等だったな」
「資料一つ残さず消え失せましたからね。あの地下道、広すぎて調べるのも諦めたらしいですよ?」
「仕方ないだろう……ただ、今もこの地面の下の何処かに、ミレスの残党が残っていると思うと……なんとも気持ち悪いな」
サイモンが渋い顔をしている。
この言葉には全員が同意していた。
博士の証言によって、軍事関連のトップとみられる太った男は死亡。しかし、演説をしていたという偉そうな奴……恐らくミレスのトップは遺体なども見つかっておらず、例の地下道を通って逃げたと思われる。
その地下道が何処に通じているのかはわからないし、爆撃の爆風が入って吹き飛ばされているかもしれないけれど、生死不明と言うのはとても気持ちが悪いものだ。
一応、各国に怪しい者達が来た場合は警戒しろと伝えてあるが、出てくるかどうかもわからない。
「あ、でも……これで異変は解決したんじゃないでしょうか」
「それが……精霊から終わりの言葉を告げられていないのです。今までは異変が終わると『危機は去った』とかそういった言葉が聞かれるらしいのですが……」
「って事は……まだ異変は続いている?ミレスが原因じゃなかったっていうのか?」
「いや、今回逃げた奴等がその鍵を握っているという可能性もある。博士、何か心当たりは?」
「ええと……異変というのは、ここに来た誰かが止められるただ一つの事象というか、そういうものでしたよね?その、精霊使いという神官姿の男は居ませんでしたか?」
「いや、見つかったとは聞いていないな」
「であれば……もし、もしもですがその男がまだ生きていて、今も逃げているのであれば……私はとんでもないことをしてしまっているかもしれません」
それは逃亡する際に、記憶を抜かれるならとぶつけた知識の奔流。様々な言語でめちゃくちゃにしたと思っていたが、魂の状態ではそういったことは特に意味が無いらしく全て意味が通じるようになっているという話をエイダに聞いてからずっと引っかかっていたこと。
「……その神官に、私の知識を与えてしまった可能性があります。テンペストがエイダ様を介して私に言語を植えつけたように」
沈黙が流れる。
彼の知識の中でも特にヤバイもの。自分が死ぬ原因ともなったブラックホールのエネルギーを使った研究。
「それが実現すれば、星が消えます。この世界にはマナと呼ばれる不思議な力があって、自分の持っている確実な知識やイメージを元にしてそれを具現化する力があるっていいましたよね?つまり、私はその気になれば星を消し去ることが出来る力を持っている。その知識を……与えてしまった」
「それは……困る。だが、それほどまでに強力なものというのはどんなに明確なイメージを持っていても実現しないものだぞ?保有できる魔力量、そして自然界に存在するマナ。そのどれもが恐らく足りない」
「いえ、エネルギー自体は少量でいいんです。やることはとても簡単な物で、それほど強力なエネルギーを必要としません。一度、それが動き出すと周りの全てを崩壊させ、取り込みながら一瞬で巨大化していく……そんなものなんです。だから、恐らくきっかけはかなり小さなもの……」
「向こうの世界で、博士の研究で扱う物の中では簡単なエネルギーかもしれませんが、それは人がちょっとしたことで生み出せるものなのでしょうか?」
「あ、いえ。そこまでではないです。あぁそうか。こちら基準で考えても駄目ですね。失礼……でも、多分当たっているんじゃないでしょうか」
危険度が高い物が大抵異変と呼ばれている。
彼が持ち込んだもので危険なものはそれの他にも色々あるが、神官に直接ぶちこんだという知識はまさにそれだった。
となれば、この先神官が暴走して生み出してしまう可能性があるのではないだろうか。
一緒になって逃げている可能性が高いとなれば、それを前提に考えておく必要があるだろう。
「はぁ……振り出しに戻ったな。調査もやり直しだ」
「面目ない……」
「いや、博士が謝ることじゃない。そうしなければあの場所から逃げてこれなかったわけだし、それを思いついたのも凄いよ」
「はい。私達精霊使いは、直接魂との繋がりを作って会話をします。その時はイメージのやり取りになるんですが、相手のイメージが強力すぎた場合、術者である私がそれを一気に受け取り……最悪廃人になります。それくらい危険なことなんですよ」
「確かに、あの神官相当苦しそうだったし、途中からおかしくなっていたな。廃人にまでなっていれば解決していたかもしれないのか……」
「だから、博士のせいじゃないから心配しなくていい。そして……それを解決できる2人が今、ここに揃っているんだ。これこそが精霊の思し召しというものだ。サイラス博士にテンペスト。向こう側から来た2人……ここに揃っているのには何かしら意味があるはずだ。その神官が逃げて、どこかに潜伏するところまでが前兆と見れば、別におかしいことではない」
国が一つまるごと消えた前兆は流石に前例がないが。
今回は特にイレギュラーのテンペストがいる時点で色々おかしなことになっているのかもしれない。
「なんにせよ、私は敵が残っているというのであれば、最後まで戦いこれを撃破します。私はそのためにここに居るのです」
「テンペスト……。そうだな、うん、きっとそうだ。私も研究に協力して力になりましょう。これでも天才と呼ばれたこともあるんです、この世界のマナと魔法を解明して、役に立つ物を開発しましょう」
「……それにしても、博士よぉ……なんか突然人が変わったみたいなんだが?あんた確か自分のこと俺って言ってたし、もうちょい俺よりの言葉遣いだったろ?」
「それは……言わないで下さい。自分でもあれが本性なのかと思うとちょっと凹みますので……」
あの時、怒りに支配されていた時、多分コリーの言う通り本当に人が変わっていたんだと思う。
復讐のためだけに表面に出てきた破壊的な自分。
思い返してもきっちり覚えているだけに余計にむず痒い。自分はあんなんじゃないんだ、と思いたいがあの時の経験を思い返すとどうしてもああなる。
ただ、悪いことではないんだと思う。戦闘の時に今の様な自分ではきっと、あっという間にやられてしまいそうな気がするから。
「そういえば、ミレスの魔鎧兵にも赤外線カメラ付いてるんですね。なんでこっちでは無くなってるんです?」
「?最初から付いていません。恐らく私と同様、博士は自分でその機能を魔法で作り出したのでしょう」
「あれ?そうなんだ。なるほど……あ、出来るね、本当だ。他の機体でも使えるように何か考えるか……」
「あ、そうだ。機体で思い出したが博士が今回乗っていた機体、正式に博士の専用機になる。好きにいじるといい。出来ればいい具合のものが出来たら他の機体にも取り付けたりしたい、ということだったからそこのところも考えておいてくれないか」
「本当ですか!?えぇそれに関してはそれはもう。すでに兵装なんかは考えていますから」
あのゲームのやつを再現しよう、などとボソリとつぶやいたのをテンペストは聞き逃していない。
しかし、聞かなければよかったかもしれない……とも思った。
この男、ゲームの機体を再現しようとしているのだ。
「……博士、一応忠告しておきますが……実現可能なものでお願いします」
「も、もちろんだ。でもほら、魔法で色々出来そうだしね、魔道具っていったっけ?それで君の機体も動いているそうじゃないか。それを……ああ、空を飛ばすのも良いな」
「博士?」
「大丈夫、大丈夫だから!ちゃんと使えるものを作るよ」
流石にこのやり取りにサイモンやコリーも不安になってくるのだった。
ついにミレスの終わりの時が来ました。
いつの間にあれだけの地下空間を掘っていたのかと感心するばかりです。
そして博士はなかなかのチート物件。ある意味ではテンペスト以上の存在が誕生しました。