第三十七話 脱走
良く分からない場所から抜けだして数日が経った。
俺が居なくなったことでかなり慌てているようで、連日兵士たちが血相変えてうろついている。
外に出てしまえばこっちのもの……と思ったのだが、やたら高い壁に全てが囲まれていて、上には見張りがいて身動きが取れなかった。
食い物はその辺の露天からこっそり盗って何とか飢えを凌いでいる。
落ち着いて観察してみると、やはりここは俺の知っている世界ではない。でなければ二足歩行する狼やら狐やらうさぎやらが居るわけがない。耳が長い奴も普通にエルフだ。その証拠に背が低くて髭の生えたドワーフも居る。
おとぎ話の世界にでも来てしまった気分だ。
……あまりにも暴力的な世界だが。
こっちに来て最初にやられたのが拷問。逃げようとしたら手足を落とされるとかどんな物語だ。
しかし、自分が今まで囚われていた部屋にいるあの女性が気になる。
大丈夫だろうか。
危険ではあるが場所は大体見当がついている。……夜になったら行ってみようか?
「いやいや、無理だろう……」
でも、それでも……ずっと世話をしてくれた恩がある。
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「あぁ……本当に来ちまった……馬鹿だよな俺絶対」
窓を破り侵入した。
この義手、やたら力が強いらしくて壁を昇るのも苦労しなかった。
そして、部屋に居たのは……。
「……俺の、せいか?」
死んでは居ない。死んでは居ないが……犯された跡があり、体中に痣と傷が出来ている。
綺麗だった顔も腫れ上がっていた。
俺が逃げたせいで?彼女がこんなことに……?
「すまない……。本当にすまない……俺が逃げたせいで……」
しかし何の反応もない。
自分に腹が立った。自分さえ良ければ良いと思ったのか?彼女のことを考えていなかったな?
しかしここに居たら殺される。
手足を削ぎ落とした奴等だ、普通にやりかねない。
「……絶対に殺してやるからな……。この国の奴等全員ぶち殺してやる」
意識のない彼女を抱え、静かに降りていく。
途中居眠りしかけていた兵士が居て肝が冷えたが、考えるより先に手が出た。
あっさりと頭蓋をかち割り、即死した兵士を見て今まで怯えていたのが馬鹿らしくなる。
兵士の服を奪い、武器を手に入れた事で見つけ次第全員を暗殺していく。
なんだ、こんな簡単だったのか。
それにしても警備の数が少ない気がする。なぜだ?
原因はすぐにわかった。演説してるのだ。偉いやつだろうが何か怒ってるようだな。
広間にびっちりと兵士が集まり、その話を聞いている。
ま、好都合だ。
兵士が居ないなら都合がいい。
横に立っているロボットみたいな奴……確か外でも動いていたな。あれ奪えないか?
外に出て彼女を建物の影に隠し、一人で目的のものを探す。
当然ロボットだ。
見回りで出ているらしくて決まったルートを歩いている。今までは逃げていたが今日は追跡する。
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割とあっさり見つかった。
自分が居た反対側だった。
そして、胸が開いて中から人が出てきたのを確認する。やはりロボットか。
スペックは分からないが、あれを奪えれば……。
開きっぱなしで駐機しているのが3体。
近くにいる兵士が見えなくなったところで歩いて近づいていく。
「……バレないもんだな」
服が兵士のものなので目立っていないようだ。
乗り込むと手足を入れる所があったのでそこに自分の手足を突っ込んでいくと……後頭部に突然衝撃が走ったようになり、気がついたら自分の視点が高くなっていた。
ハッチが開いたままだと思った次にはもう閉じている。
よくわからないが……大体自分が思ったように動くということで間違いないようだ。
敵は2人。こちらを向いていない。
あまり音を立てないようにゆっくりと動き、出口へ向かう。
「○○!!○○!!」
バレた。当然か、予定にない動きだったんだろう。こうなったらさっさと行こう。
……このロボット意外と凄い。まるで自分の身体のように動かせる。
全速力で走っても疲れない、これは便利だ。
彼女が寝ている所へ戻ると、数人のガラの悪い男たちがズボンを脱いでこっちを見上げていたので踏み殺した。
下衆どもが!
そのまままた全力で壁へ向かい、少し小さいが扉に向って体当たりをするとあっさりと開く。
しかしすぐにまた壁が目の前にあったので今度は昇ることにした。
ハッチを開いて彼女を中へ。
後ろから近づいてきている奴等に捕まらないようにしなければ。
手を壁に突っ込むようにしながら登っていく。
上につくと兵士がライフルを向けて撃ってくるが装甲を貫けないようだ。無視して外へと逃げる。
最後の壁をクリアして片腕を壁に突っ込みながら下に降りる。……外だ。外に出た。
俺は自由だ……!
まだ追っ手は諦めていない。
目の前に広がる森の中へ入っていき、必死に走り続けた。
暗い。何も見えない。
こんな時に赤外線装置があれば見えるのに!
「あ?頭が……なんだ?付いてるのか!よし、このまま逃げるぞ……。道があるな……」
見つけた道をたどり、あの場所から反対側へとひたすら走る。
途中で変な生き物が飛びかかってきたりしたが、意外とロボットは強かった。腰に挿してあった剣を抜き、力任せ振りぬくと両断することが出来る。
それでもこの怪物どもは沢山居た。
流石に捌ききれず逃げながら戦っていたが、やがて左腕をもがれた。
声にならない声が出る。激痛だった。本当に腕がもがれたようなそんな激痛。
吐きそうになるのを必死でこらえて走る。斬る、走る。
もう追っ手は来ない。
やがて、疲れ知らずだと思っていたロボットの動きが鈍くなっていく。
最後の怪物が倒されたあとついに燃料が切れたのか急速に力がなくなっていく……。
もっと遠くへ……もっと、もっと!!
もう少し先に出口が見えている。
そこから出ればきっと……。
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ハイランド王国ハーヴィン領、宵闇の森入り口バリケード。
「近づいてくるな……」
「ああ、何かが軋む音だ、魔物……ではないか?」
「分からない。ハンターもこの森には入っていないから誰も居ないはずだ」
金属同士がこすれ合い、捻れて悲鳴を上げているかのような音がずっと響いている。
それがだんだん大きくなってきていることから、何かが近づいてきていることは明らかだ。
不規則だが足音のようにも聞こえる。
「連絡は?」
「もう、やった。緊急ってことで屋敷の兵士が今こっちに向ってるそうだ」
「せめて侯爵様が居る時ならな……」
木が揺れる。
そして、道の奥から巨大な人の手が現れた。
それが地面を引っ掻くようにして、また音が響き、肩、首、胸部……鎧を着込んだ巨人のようだが違う。そしてそれの正体は知られている。
「これ、ミレスの魔鎧兵とか言う……」
「攻めてきたのか!?」
「いや……もしそうでもここまでボロボロじゃ何も出来ないだろ。……ありゃ?止まったか?」
「おい開くぞ!」
僅かに身を捩り、何とかハッチを開ける角度まで傾けたのが精一杯だったのだろう、胸部のハッチは地面に引っかかって中途半端に止まっている。
「……○○○……、○○……○○……」
「何?よく聞こえな……おい!様子が変だ!皆手を貸せ!!」
近くに行った者が叫ぶ。
中に半裸の女性の姿と、出血の激しい痩せた男の姿を発見した。
どちらもこのままでは危険だ。
「待ってろ、今出してやる!」
「ピクシーワード使えるやつ連れて来い!今すぐ!」
「ひでぇ血だ……よし、女の方は掴んだ!」
数人がかりで魔鎧兵をひっくり返してハッチをこじ開ける。
何とか女性の方を助け出し、すぐに回復魔法を掛けてやると、意識は戻っていないものの何とか間に合ったようだ。
もう一人の男性の方は右腕と左足が魔鎧兵の歪んだフレームに挟まれて動けない。
「ん?こいつ……四肢が全て義肢だぞ!?」
「めちゃくちゃ痛いって話だけどな……何があったんだ……」
「だがどうする?このままじゃ抜けんぜ?」
「斬るしか無いだろ……。気を失ってるよな?意識のないほうがいい」
「やっぱそうかよ……」
結合部の部分で挟まった部位を切断され、ようやく男は外に出る。
すぐに止血されて回復魔法を掛けられたが脈が弱い。急いで簡単な手当を受けて搬送されることになった。
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「ミレスの魔鎧兵が……?中の者は?」
『兵士の服を着ていたものの、両手両足全てが義肢の痩せきった男に、服が破られて半裸の女性……こちらはエルフのようですが。この2人が入っていたようです。機体は修復不可能なほどにボロボロで、恐らく宵闇の森の魔物に相当やられたのでしょう』
「脱走者、ということかな?」
『あるいはそう見せかけた囮か……。エイダ様なら判別できるかと思うのですが』
「なるほど、嘘をつけないか。分かった待ってろ」
『はっ?』
何を言って居るのか分からないといったアルベルトを無視して通信を切る。
誰かは知らないがミレスから来た貴重な人材だ。
こちらを引っ掻き回すつもりで来ているのであれば即座に切り捨てるが、そうでない場合は話を聞かなければならない。
すぐに行く必要があるだろう。
「テンペスト、マギア・ワイバーンを出してくれ。ハーヴィン領に戻る」
「分かりました。許可を取ってきます」
「後……あまり使いたくなかったんだが、あれ使うぞ人員輸送ポッド」
「何があったんですか?」
「ミレスの魔鎧兵が1機、宵闇の森を抜けてきた。だが搭乗者がどうにもおかしいようでな、兵士の服を着ているが兵士らしくない上に、女連れだ。どちらも衰弱しきっていて死にかけてる」
人員輸送ポッドはマギア・ワイバーン専用の装備で、以前取り付けていた偵察ポッドと同じくらいの大きさだが、コクピットと同じようになっており、中には5名+荷物を収納できる。
機体後部にぶら下がる形となるため、騒音対策が取られているし、流石に訓練していない人を載せるため急加速は出来ないが……それでもどの乗り物よりも早く到着できるということで用意していたものだった。
まさかすぐに使う時が来るとは思っていなかったが。
すぐに行き先、装備等を記入して滑走路へ出し、ポッドを取り付ける。
乗員はコクピットにコリー。ポッド内にテンペスト、サイモン、エイダ、ニール。
「……な、なんで外見えるんですか」
「いや、見えなきゃ見えないで怖いぞ?」
『すぐに離陸開始します。ベルトを確実に閉めて下さい』
エイダとニールはベルトをギュッと握りしめて固まっている。
とは言えサイモンもこの後に訪れる加速が苦手だ。
ぐらっと揺れてゆっくりとワイバーンが上昇する。
今回は兵装もいくつか追加してある。短距離ミサイルの残りは2本、そして今までのバルカン砲を改造した魔導バルカン砲。火薬を使っているのは何時もの通りなのだが砲身などが全て魔法金属に置き換えられており、弾の供給が二通りある。
片方は通常のバルカン用の薬莢付き、もう一つはテンペストが任意で選択できるストーンバレット用だ。
ストーンバレットをこの砲身を利用して撃ちだすという発想自体が無かったのだが、意外と使い勝手は良い。方向などを意識しなくても自分のほうで照準は出来るし、やろうと思えば弾薬室にある弾頭を好きな方向に出現させて今までどおりに撃つことだって出来る。
レーザーはそのままつけっぱなしで、基本的には発電機を通じて魔力を生成するのに使われている。
「高い高い高い!」
『ニールうるせぇぞ。さて、水平飛行に入って加速するぞ、ゆっくりとだから辛くはないはずだ』
外で魔導エンジンに点火した音が響くと同時に一気に加速していくマギア・ワイバーン。
ポッドに入ってる乗員は全員無言だ。
サイモンは良いとしてもエイダは若干苦しそうだし、ニールに至っては半分逝きかけている。
『まもなく超音速に入ります。一時的に揺れますがすぐに収まりますので安心して下さい』
ゴォンという感じの衝撃が発生した後、更に加速を続けていく。
足元を見れば遠くにゆっくりと山が流れていくのが見える。
そして数分後、あっという間のスーパークルーズは終了し、高度を下げていく。
その時もポッドの中では尻が浮くようなむず痒いような感覚に悶える3人が居た。
着陸すると座っていたテンペストが起きる。
「到着しました。……大丈夫ですか?」
「ああ、まあな。……コリーは良く平気だな」
「私、やっぱり空をとぶのはちょっと怖いです……」
「大丈夫もう地上に降りたから大丈夫、落ちない、もう大丈夫」
ニールが何やら失礼なことをぶつぶつとつぶやいていたが、とりあえず全員無事に到着だ。
久しぶりのサイモンの屋敷の敷地に着陸したワイバーンを、これまた久しぶりのガレージに格納して皆と合流したコリー。
慣れたものである。
「お待ちしておりました」
「久しぶりだなアルベルト。では案内してくれ」
「はい、……みなさまは休憩されなくても大丈夫ですか?顔色が優れませんが……」
「いえ、大丈夫です。すぐ落ち着くと思いますから」
「左様ですか。では、馬車を用意してありますので」
馬車に乗り込むと街の病院へと向かう。
ここにミレスからの逃亡者が居る……。自然と皆の顔に緊張が走った。
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病室には骨と皮……と表現してもいい様な四肢のない男と、未だ意識の戻っていない女が寝かされていた。
女性の方はエルフでレイプの痕跡があり、綺麗に身体を洗った後に検査を行い、殴られたことによる顔の腫れや幾つかの外傷以外には特に目立った怪我はなかった。
一方男性の方は、体中に拷問の後が見られ、手足も後から切り落とされたものと判明した。
義肢も自分に合っていないものを無理やり取り付けていたので一度全て取り払い、傷口を綺麗に切り落とした状態で魔法によって停滞させている。
拷問の痕はある程度治しているものの、素性がわからないため全てはまだ回復させていない。
「身元が分かりそうなものは何もなしか。見た感じ、脱走してきたものにしか見えないが……。エイダ様、お願いします」
「はい。『生死を司る精霊モルスよ、我が名はエイダ・ディロン。精霊よ、我が願い聞き届け給え。彼の者の魂と我を引き合わせ、彼の者の言葉を我に聞かせ給え』」
光が渦巻き、精霊の力によってエイダと彼の意識が繋がる。
意識を失っていても、魂レベルではまだ生きており、そこでは会話が可能だ。
ただし、全てをさらけ出している魂の状態では嘘を付くことはできない。
「……なんかこころなしか表情が和らいでいるように見えますね」
「そのようだな。なんというか、安心したといった顔だ。さっきまでの鬼気迫る顔ではないな」
「エイダ様は何を話しているんだろうな?」
「分からん。別段拒否されているようでもないし、問題無いだろう」
暫くして光が収まり、エイダが戻ってくる。
「安心して下さい。彼は敵ではありません。ミレスに捕らえられてずっと拷問を受け続けていたようです。そして……恐らくテンペストに関係のある人物です」
「私に?……見たことのない顔ですが……」
「サイラス・ライナー博士、という名前をご存じないですか?」
「……知っています。まさか彼が……。サイラス・ライナー。私達の世界で、有名な研究者です。彼はある時突然私達の敵国に拉致され、施設で働かされていました。彼は基本的に平和主義者でしたが、最終的に全てを破壊する物を作り上げてしまうまでに至ります。……それが、私達がここに来た原因と考えていますが……もう一人の飛ばされてきた人と言うのは彼だったのですね」
「え、じゃあこの人、向こうでもこっちでも囚われてたってこと?不運すぎる……」
「彼の記憶をエイダ様よりも乱暴に覗いて、作り上げたのがあの兵器ってことか。なるほど、それなら彼を今すぐに治療して薬を飲ませてやれ。大分弱っているから早めにな」
慌ただしく治療が施されると、暫くして呻き声を上げながら目を覚ました。
「[サイラス・ライナー博士、気が付きましたか?ここはもう安全です]」
「え、テンペスト何て言ってるの??」
「黙ってろニール」
「[その言葉!あぁ、やっとで言葉が通じる人が!ここはどこだ?今は何年なんだ?君は……彼らは何者なんだ?]」
「[落ち着いて下さい。信じられないかもしれませんが、ここは地球ではありません。似たような環境でありますが、全くの別物です。後ほど詳しいことを教えます。そして私はテンペスト、あなたと同じ場所から飛ばされたものです。……と言っても、基地ごとあなた方を吹き飛ばそうとしていた兵器、ですが。私は人ではありません。MAF-01、ワイバーン。それが私の身体の名前。そして私はそれに積まれていた戦闘支援AI、パーソナルネーム、テンペスト。私は彼らに回収されて、この身体を与えられました。安心して下さい、今はあなたを滅ぼすためではなく、助けるために居ます]」
「[はっ?え?戦闘機、なのか?きみが?ああ、もうなにがなんだかわからない!とりあえず俺は助かったんだな?そうだ!彼女は……一緒に居た彼女はどうなった!?]」
「[横で眠っています。先ずは休養を。今は義肢を全て取り外していますが、きちんと体格にあったものを用意しているそうです。また動けるようにはなりますが、先ずは先に身体を作って下さい。そのままでは死んでしまいます]」
「[あ、ああ……そうか……。なるほど……。では、とりあえず君たちに任せていいんだよな?もうあんなことにはならないんだよな?]」
「[拷問するならとっくにしています。ご安心を……たまに様子を見に来ます]」
そう言うとありがとうと一言こぼして眠りに落ちた。
とりあえず彼に関する情報を全員と共有する。とことん運が悪い人だとしか言えなかった。
そして横にいる彼女は、自分のことを世話してくれていた唯一の人だから助けだしてきた、と言っていた事も。
□□□□□□
「サイラス博士。調子はどうですか?」
「……大分良い。ここに来てこんなに安らぎを覚える時が来るとは思っていなかった。まさか本当にファンタジーの世界に来ていたなんて……。ああ、頭の中にぶち込んでくれた辞書、ありがとう。死ぬほど気持ち悪かったがこうして現地語をスラスラと話せる。どういう理屈だあれは」
「私が作り上げた本と、知識の塊をアディを通じてあなたの中に送り込みました。かなり古い時代に知識を共有するときに使っていたとされる方法でしたが、成功してよかった」
「もう、二度とゴメンだ……あの頭の中を引っ掻き回されるような感覚は嫌になるよ。でも……君は本当にAIか?ただの少女にしか見えないのだが。しかし確かに知識は私のよく知るものばかり……」
「私はここでは精霊と呼ばれています。ここに来て様々なことを学び、この身体を通して感情なども理解しています。今は……多分普通の人として殆ど変わらないと思います」
一週間ほど経ってから会いに来たサイラスは元気そうだった。
あれだけやせ細っていた身体は大分色艶が良くなり、表情にも元気が出てきているのが目に見えてわかる。
そろそろ義肢も完成するため、装着できるようになるというと、ちょっと嫌そうな顔をしていた。
まあ、物凄く痛みを伴うらしいので当然といえば当然だ。
しかも彼はそれを4箇所。
麻酔をかけると上手く接続できないのでどうしても痛みに耐える必要がある。
テンペストはそんな彼にたまにこうして話をしに来ていた。
この世界のこと、異変のこと、自分のこと。そして魔法に関して。
この世界で新しく戦闘機を作り上げたと言ったらとても驚いていた。
しかし彼の方から得た情報は少ない。言葉が通じず、ただ傷めつけられて、無理やり記憶を覗かれた。
ただそれだけだ。鮮明なのは最後に脱出してきた時の話。
本当に宵闇の森を単機で抜けてきたらしい。
そしてもう一人。女性の方は……意識が戻ったが記憶を失っていた。
サイラスが責任をもって彼女を世話する、と言っていたので任せようと思う。もしかしたら、記憶が戻るかもしれないから。
そして、彼の素性がわかったところで、ミレス侵攻が本格的に始まることとなった。
もはや助けるべき人は居ないと判断し、全面戦争を仕掛ける。単機であの宵闇の森を抜けられたことを考えれば、軍隊規模であれば確実にこちらに向かってくることは明らかだ。
時間はない。
ついに博士が脱走に成功しました。
ミレス始まって以来初めての脱走者です。




