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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第二章 ミレス騒乱編
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第三十四話 王都奪還

 コーブルク軍の生き残りとハイランドが合流した。

 翌朝早くから作戦は決行。恐らく雨の中での作戦となるだろう。視界が悪くとも雨は自分たちの味方となる。


「ハイランドの諸君、よく来てくれた。正直他国の手を借りるというのは避けたかったのだが……3日ほど前に早まった者達が奇襲を仕掛けようとして失敗。こちらの動きもばれている可能性がある」


 コーブルク福将軍であるフォルクハルト・アーべライン侯爵がハイランド軍を迎え入れる。

 相当苦戦しているようで兵たちも疲弊しているようだ。

 急ぎ回復魔法の使える者達で怪我などを治していく。


「最初の打撃で魔法隊が壊滅状態になったのが不味かったのだ。回復のための者達も数が足りずこの有様。すまない。それにしてもそちらの軍はそれだけか?もっと来ると思っていたのだが?」

「ハイランド王国軍特別混成部隊隊長クライヴ・スペンサーだ。混成部隊だからといってただの寄せ集めと思ってもらっては困るがね。なにせハイランドからここまでは少々遠くてな、大人数での移動では間に合わぬゆえ……一個大隊での出撃となったが、何、問題ない」


 クライヴは見た目も厳つい狼型の獣人だ。集まった者達の中で接近戦と持続力にかけては獣人達に敵う者は少ない。

 ドワーフも強いのだが、いかんせんその体型のため足が遅い。今回はドワーフ達は裏手に回っての突入部隊の中に組み込まれている。

 全員合わせて約1000人規模の小さめの集団ではあるが、全てが精鋭だ。


「まず、ミレスの兵器だが……これに立ち向かうにあたって大人数では少々分が悪い。これは実際に戦ったコーブルクの者達なら分かるだろう。大砲によって蹴散らされ、鎧の巨人で蹂躙される。その恐怖は伝染して足が止まる。その先は……死だ」

「耳が痛い。まさにその通りだ。音が聞こえると萎縮して動けなくなる者達が多くいる。敵を前にして逃げ出す者達も少なくなかった。で、それにどう立ち向かう?」

「こちらには向こうよりも高性能な兵器がある。向こうの大砲の射程はどれくらいだ?」

「大体800mまでは当ててくる。それ以上は飛ばすだけならというところだ……」

「こちらは有効射程が2kmを超える」

「本当か!?」

「特殊な火薬と砲弾を使うことで達成できたのだ。これ以上は機密だ、すまんな。ということで、簡単にいえば向こうの射程外から一方的に砲弾を降らせることが出来るぞ。そしてもう一つ……」


 呼ばれてライフル隊の一人が前に出る。

 コーブルク軍にとって忌々しい武器を手にした者だが、その性能は別物だ。


「この通りだ。大砲と同じように改良を加えて威力と射程をともに上げている。今まで自分達しか持っていなかった武器を、逆に向けられる気分を味あわせてやろうということだ」

「そんな、この短期間で……どうやって……。いや、なるほど。だからこそ少人数で来たというわけだな。……悔しいが、ミレスなんぞに下るよりは遥かにマシだ。ハイランドの戦士は誇り高き者達であると聞く」

「これで勝ったからとコーブルクを傘下に治める気はない。我等は高山に住まうもの、余計な欲を出せば滅びることをよく知っている。その上で良好な関係を築く為にも、ここで我々の力をコーブルクに貸す」


 ハイランドの者達は他の国の者達よりも身体能力が高い。

 これは高山という特殊な場所に住んでいる者達特有の物で、常に普通に生活するだけでも心肺機能などが鍛えられており、少ない酸素で効率よく動ける。

 つまり……地上に降りてくれば他の者達よりも疲れにくく、素早い動きが可能だ。

 それに長年飛竜と戦い続けているという実績もある。


「我々は飛竜をも倒す事のできる力を手にした。それだけではないぞ、敵の情報も知っている」


 広げられた地図はテンペストの撮影したものを必要な物だけを抜き出して描いた地図だ。

 城郭都市内部の様子が事細かに描かれており、どこが手薄か、どこが重要な場所なのか、どこに何が配置されているか……全てが記録されていた。

 流石にこの情報にはフォルクハルトも血の気が引いたのだった。これが知れれば攻略する事を容易にしてしまう可能性のある重要な情報を、他国が握っている。


「こ、これをどうやって!!」

「それは教えられん。が、味方に対して使うつもりはない、どの道一度あの都市は敗れたのだ。次はもっと別なやり方に作り変える必要があるだろう。しかし今はその弱点を突かせてもらう」


 コーブルクの都市はとてつもなく広い。

 先ずはこれ自体が弱点となり得る。ミレスの軍は数が少なく全てに手を回すことが出来ない。無理やり協力させているコーブルク軍を動員してもそうそう全てを見渡すことは不可能に近いのだ。

 複数箇所を同時に攻められるとそれだけでも危うい。

 それでも何とか守れているのは性能の良い兵器があったおかげだが……その兵器の利もハイランドが合流した時点で消える。


 また、少し前から降り始めた雨は地面をぬかるみに変え、鎧の巨人は十全な機能を発揮できない。

 視界も悪く、明日の朝には霧が立ち込めるはずだから余計に接近に気づかれる可能性は低くなる。

 心配事といえば、テンペストの方だが……電磁波を利用したレーダーの前に霧は何の障害にもならない。

 しかもある程度低い所を飛んでも分厚い雲に隠れて見えないのだ。

 最初の一撃は恐らく混乱のうちに終わるだろう。


「そして正面の大通りを通り抜けて中心へ向かう」

「なぜわざわざ正面から?」

「通りが一番大きいのがここだ。閉められた城門を吹き飛ばしても一番被害が軽くて済むだろう。それに向こうだって正面からわざわざ来るとは思っていまい。恐らく裏から回ると予想してそちらに人員を割いている。そこに正面から敵が現れたとなれば、慌てて正面の方へ向かわざるを得まい」

「そして本命がやはり後ろから進入するということか……。大砲、鎧の巨人に関してはどうする?特に鎧の巨人は接近戦となるとこちらの攻撃は通らない上にリーチが長くまともにやりあって勝てる相手ではない」

「大砲と鎧の巨人は先にある程度潰す。これは別働隊の仕事だし、それに関する情報は出せない。が、確実にそれらを潰してくれると信じている。それに……あの鎧の巨人の中には人が居る。その鎧をライフルで貫き中に居るものを殺せば動かなくなるだろう」

「あれは人が操っているというのか!馬鹿な……そんなもの見たことがない」

「同感だ。我々も見たことはない。が、胸と腹の鎧が剥がれてそこから人が乗り降りしているらしき所を見ているのでな、間違いはなかろう」


 途中長距離砲の話が出たが、3日前の暴走の時に撃ち込まれたのが恐らくそれだろうということだった。

 距離はおよそ3km程まで近づいた所突然砲撃を食らったらしい。

 そもそも砲撃だったのかも良く分からないうちに、突然先頭集団が消滅したため慌てて引き返したとか。


「確かに巨大で長砲身の砲は確認している。が、それの欠点は大きさだ。一度場所を決めたら次を撃つまでに時間が掛かるし、砲が重すぎて狙いを変えるのもままならんはずだ。一発撃ったら終わりだと思ったほうがいい」


 的確に敵の弱点等とそれに対する対策などを述べられて行く。

 ここまでくればもう信用するしか無い。


「……いずれにせよ、我々ハイランドが手助けするのは城内に入るまで。そこから先は自分たちの手で取り戻すがいい」

「感謝する。必ずや王を救い出し、敵将を討ち取ってみせよう」

「懐に入ってしまえばライフルは数で押せる。鎧の巨人は城内には入れんし、大砲を撃ちこむつもりであればそれを潰す。……では、後方からの侵入経路だ。後方と言っても警備が厚い場所をわざわざ通り抜けるつもりはない。ここ、北門と東門の中間付近は見通しが悪く警備も薄い。ここは崖崩れのようなものでもあったのか?」

「そこは……大分前になるが、突然陥没したのだ。大穴が開いていて、落ちたらまず助からん。調査した結果王都の真下に巨大な空洞があって、そこの薄い部分が崩れたからと分かったのだが、壁のある所から更に少し中の方まで危険域が食い込んでいる。その為周りは立入禁止にしていて警備も最小限しか置いていないのだ。残念ながらダンジョンケイブではなかったがかなり広い洞窟だ。長年時間をかけて出来たものだろう」


 近いうちに土魔法によって補強予定だったのだが、と言っていたがむしろ今はそれが都合がいい。

 人が乗る程度なら特に問題はないということなので、少人数で進入する分には危険はないだろう。

 見張りは弓兵によって無音で倒してもらう。


「……では、こちらから侵入して先に城内へと入る者達をコーブルク側からも出して頂きたい。出来れば精鋭がいい。少人数で回りこむため危険が大きいからな」

「であれば姿消しを使える者を同行させる。敵に気づかれる可能性を減らせるだろう」

「ああ、それは助かる。それと出来れば城内に詳しい者を。国王が幽閉されているのであれば、何処に居る可能性が高いか知っているものは?」

「それなら私が。城内は賊が侵入した時のために罠なども張っております。それらを迂回しつつ目的の場所へと案内できます」

「よし、任せた。後で簡単な見取り図でいい、説明してくれ。侵入組は国王たちを救出した後速やかに脱出、そのまま正面組が城内に突入してミレスの兵を一掃する。結構は明日の早朝4時、薄暗いうちに始める。始まりの合図は城門が吹き飛ばされてからだ。わかり易かろう?」


 当然、テンペストによるミサイル攻撃だ。事前にターゲット位置は入力済みで射程に入り次第ロックオンして放つ。

 盛大な開幕の合図となるだろう。


 □□□□□□


 作戦当日、ミレスの兵たちは壁の上に設置した大砲の横で哨戒任務についていた。

 薄っすらと夜が明け、しとしとと降り続ける雨が体温を奪っていく。夜中から濃くなっていく霧も朝になれば晴れるだろう。


「……雷か?」

「ああ、聞こえるな。遠くの方で鳴っているのか……こっちに来なければいいが。土砂降りの中立哨はゴメンだぞ」

「全くだ。それにこの霧ではな。見辛いにも程がある。戦奴共は働いているか?」

「問題なさそうだ。まあ後ろに俺達が居るからな、それに裏切れば家族が死ぬ。それにしても兵士の動きを国民に監視させるなど、全く恐ろしいことを考える物だ」


 逃げ道を塞いだ上で、コーブルクの兵士が反乱を企てているのを見た場合速やかに報告することを課した。報告すれば褒美が与えられ、報告せずに反乱が起きた場合、周辺の罪なき人達も同罪とみなされ処刑される。

 近くで兵士が何かをしていれば、そこにいる自分達も死ぬ可能性があるとなれば、命を守るために兵士を差し出す者達が増えるのも道理だった。

 すでに二度ほど同じことが起きて、報告が無かったということで数十名が女子供の区別なく公開処刑されている。

 これによって王都の国民たちは完全に心を折られているのだ。


「それにしても見通しがきかんな……」

「大規模攻勢の可能性があるらしいからな。今日みたいな日は敵からしても……」

「ん?おい、どうし……」


 前方から何か見えた気がした。

 そして次の瞬間には自分の足元が爆発したのだ。

 轟音とともに城門は壁ごと吹き飛ばされ、それを成した物はバラバラになりながら瓦礫と一緒に中央通に落ちて石畳を破壊する。

 その爆炎はこの濃霧の中でも光が見え、音は王都中に響き渡った。


 誰もが予想しなかった事態にすぐには動けず、その様子を見ていたが……また数秒後には何かがとてつもない速度で飛来し、戦車や魔鎧兵を破壊していく。


「なぜだ!なぜ敵があれを持っている!?」


 それを近くで見ていた者が叫ぶ。

 苦労の末開発し実用化したロケット兵器。細長い大きな槍の様な姿で、後方から炎を吹き出しながら恐ろしい勢いで飛んで来る兵器。

 それが何本か飛来したと思ったら駐機していた魔鎧兵を吹き飛ばし、近くにあった戦車も大半が破壊され、更に火薬を置いていたところも誘爆により大惨事が発生していた。


「敵襲!!敵襲だ!!」

「正面の南門が吹き飛んだ!壁が崩れたぞ!敵が入ってくるぞ急げ!!魔鎧兵を出せ!!」

「魔鎧兵が破壊された!!」

「弾薬庫が吹き飛んだぞ!早く火を消せ!」


 慌ただしく兵士たちが動き出し、南門と破壊された兵器の場所に人員が集中する。

 直後に頭上を見えないが何かが恐ろしい速さで通り過ぎていき、何かに張り倒されたような衝撃を喰らい、鼓膜が破けたのか音も聞こえず、めまいで立てなくなる。


 無事だった者達が負傷した兵を引きずって助けているが、この混乱に乗じて裏切りも発生し、元コーブルク軍が息を吹き返す。


 正面からはハイランドとコーブルクの軍が勢い良く雪崩れ込んできて止めることが出来ない。

 こうして、まだ薄暗い内からの完全な奇襲は成功した。


 □□□□□□


 霧に紛れてコーブルクとハイランドの軍がギリギリの所まで近づく。

 これ以上近づくと姿を晒すことになるので下手に動けない。

 予め用意していた偽装網で隊を隠して息を潜めてその時を待っていた。


「……そろそろ時間だ。来るぞ。全員耳をふさいで伏せて口を開けろ。目も瞑っておけ」


 シュパァァ!という凄まじい騒音とともに飛来した何かは、定刻通り正面の城門を吹き飛ばしただけでなく、周りの城壁まで崩していた。


「総員突撃!!弓兵は壁の上にいる兵を殺せ!」


 その破壊力を目の当たりにした者達の士気は否応にも上がっていく。

 大声を出しながら走り、王都へと近づく。

 当然王都からも砲撃をしようとするが、後方からの砲弾がそれを許さない。

 壁の上は崩されてすでにぼろぼろだ。配置していた人員も、砲台も全て瓦礫とともに下へと落下し、為す術なく敵の侵入を許してしまう。


 侵入した後はライフル隊はそれぞれが見晴らしのいい場所へと散り、見張りや起動している魔鎧兵を見つけ次第攻撃し始め、それに合わせて兵士たちは駆けて行く。


「立ち止まるな!俺達の背中は彼らが守る!」


 立ちはだかろうとした魔鎧兵が出てきた瞬間、胸や腹の辺りを撃ちぬかれて即座に機能停止した。


「想像以上だ!頼れるぞ!行けェェェ!!王都を奪還しろぉぉ!!」


 フォルクハルト福将軍が吠える。

 その声に押されるようにコーブルク軍の士気が上がり、立ちふさがろうとするミレスの兵達を一刀の元に切り伏せていく。

 その歩みは止まらず、ただ一直線に城へと向かう。

 当然城にはライフル兵が居る。勢いづいた敵を止めようと射程に入るのを手をこまねいて待っているが……。


「一人」


 頭を撃ち抜かれ首のない死体と化した。


「二人」


 壁に隠れた瞬間、その壁ごと撃ちぬかれて上半身が消え失せる。


 対物ライフルによって撃ちぬかれた人間はかすっただけでも致命傷だ。

 身体強化によって極限まで銃のブレを抑え、持って生まれたスナイパーとしての気質を持つエルフのライフル兵たちは、遠く離れた王城に居る敵兵を捉えていた。


「三人」


 指揮官らしき派手な鎧を着た男が爆ぜる。


 短時間で3人を撃ち殺し、場所を移動していく。

 他のエルフたちも敵兵を遠距離から的確に撃ちぬいているようだ。


 別な場所に陣取り、北東方面へとライフルを構えると、そこには今まさに侵入している最中の味方が見えた。

 その手前に侵入に気づいた敵兵を発見し、即座に撃ち殺す。


「……凄まじいなこれは。気に入った」


 その手応えに満足しながら弾を込め、次の標的を探る。


 □□□□□□


「なんだ今の音は?」

「味方の攻撃だ。見ろ、煙が上がっている。どうやら成功のようだな。こちらも侵入を開始するぞ」


 少数の救出隊は姿が見えなくなる魔法を掛け、手はず通りに塀を超えて侵入を果たす。

 途中、うっかり見つかってしまったようだったが見つけた兵が突然はじけ飛んだ。


「……ライフル隊か。頼もしい。ここからは時間が勝負だ。行くぞ!」


 彼らもまた、城内へと侵入すべく明るくなっていく景色の影から影へと移動していく。

 暫くして霧が晴れた時、その被害の状況を見てミレスだけではなく味方であるコーブルクも呻いたという。


 □□□□□□


『鎧の巨人3体、突入組の前面を塞ぐように移動中。ライフル隊は姿が見え次第排除を』

『了解した。一本道だから分かりやすい』

『1体仕留めた。移動する』


 テンペストが上空から逐一地上部隊に情報を送る。

 それによって敵の位置を上から見える範囲でカバーすることが出来、敵は出会い頭に死んでいくことになる。

 鎧の巨人も大半が壊れて使い物にならなくなっているらしく、殆ど放置されており、戦車は動いた瞬間魔法を食らって丸焼けになっていた。


「お、救出班が城内への侵入に成功したそうだ。暫く通信が出来なくなる」

『了解です。地上は大分静かになりました』

「そりゃな……これだけ一方的にやられてりゃぁ……。それに思った通り元コーブルク軍人が反撃に出たな。おかげで後ろから刺されててんやわんやだ。やっぱり兵器を先に潰せたのが大きいな」

『これが空を制した者の戦いです。空をとられるというのがどれだけ怖いことか理解できるでしょう』

「全くだ。下からは手出しができず、上からはやりたい放題。そりゃぁそっちでこういう戦闘機ってのがバカスカ作られるわけだ。飛竜の奴等も同じような気分だったんだろうな、ムカつくぜ」

『霧も晴れてきました。制圧もほぼ完了していますし、このまま帰投します』

「あいよ。こちらワイバーン、見る限り敵は殆ど居ない。後は地上に任せて帰投する」

『了解した!後はこちらに任せるがいい、先に帰ってパーティの準備でもしていてくれ』


 テンペスト達が帰投して数時間後、王都で指揮をとっていたミレスの将軍を捕らえ、残党も全て取り押さえられるか死亡した。

 国王は衰弱しているものの命に別状はなく、現在療養中。

 国王の一族、公爵家等は拷問を受けていたようだ。

 他にも女性が多数つかまっており、全員陵辱されていたらしい。

 それら全てを救出し、逆にとらえたミレス兵を牢に入れて情報を聞き出すことになる。


 都市の被害は南門が大破し、城壁の一部が崩れている以外は目立った被害はなく、逆に傷の少ないミレスの兵器を多数鹵獲することに成功した。

 中でもミレスでは魔鎧兵と言われている鎧の巨人は、ライフルによって撃ちぬかれた物は完動品で動かすことが出来た。

 壊れた数体を研究用に回し、壊れていない物は簡単な修復作業を行った後、城壁の修理などに活躍することになる。


 ミレスの兵器の大半はコーブルクのこれからに必要ということで置いていき、戦車と魔鎧兵数体を代わりにもらって帰ることにしたハイランドは、帰り道はかなり楽が出来たと喜んでいた。

 戦車の砲塔を外して上に兵を乗せて帰ったので当然である。


 コーブルクはコーブルクで、今までの守り方はすでに古くなりつつあり、このままでは同じことになるということで都市の設計を練り直すことになり、露呈した弱点等を全て埋めるために学者や参謀たちが頭を悩ませる羽目になったという。

 また、占領されていた時期に積極的にミレスに協力していた貴族たちを処罰し、追放するなどの問題も残っており暫くは忙しい日々となることだろう。


 そして、テンペスト、コリーの二人はこの功績を讃え勲章を授与され、更に男爵の地位を得た。

 ロジャー達もマギア・ワイバーンを作り上げた功績から勲章をもらい、これからも研究に勤しんで欲しいということで専用の研究所と部門が新しく設けられることとなり、多額の研究費用が割り当てられた。


 回復したコーブルクの国王と、ハイランド国王との間でも軍事的な協力関係と、関税の優遇、通行税の緩和、街道の整備等と様々な面でハイランド側に有利な条件で手を結ぶことになる。

 もちろんコーブルクへの見返りも大きく、ミレスの技術は殆どコーブルク側に渡しているし、それらの強化案などもついでに渡している。

 絶妙に大事な所をぼかしてあるので、そのまま作ってもハイランド並の物はまだ作れないだろうが、それでも研究を進めるうちに出来る程度には情報を渡しているので頑張ってもらいたいところだ。


 一方肩身が狭くなったのはルーベルだった。

 コーブルクを煽ってミレスに攻撃を仕掛けて、壊滅状態になった挙句、コーブルクが危機に陥った時には何もせずに黙ってみているだけ。ルーベルの同盟国であるハイランドが遠い所からわざわざ駆けつけて来て助けてくれたとなれば、それも仕方ないだろう。

 ルーベルからはハイランドに対して自分達を通さずにコーブルクを助けるなんてと苦情を言ったらしいが知ったことではない。

 大体隣の国だし自分が誘っておいて責任取らない方も悪い。

 結局同盟国ではあるものの、立場はハイランドが圧倒的に上になり、最新の技術を手に入れる機会も失った。ルーベル王国ひとり負けである。


 コーブルクからも色々と文句が行っているらしく、近いうちに経済的に苦しくなるかもしれない。


 □□□□□□


 ハイランド王国ではロジャー達がミレスの戦車をばらして色々調べていた。


「これが戦車ね。なるほど中身は単純だ。でも出力不足で坂を登るのに苦労するってのは致命的だよね。魔鎧兵があったから良かったものの」


 実は持ち帰る時トルクが足りずハイランドの坂を登れなかった。また車輪も馬車と同じ構造にしてあるため滑って石畳の上では危険すぎたのだった。

 この辺はワイバーンを作った時の技術のおかげで滑らない素材のタイヤを使うことが出来る。

 問題は足りないトルクをどうするかだったが、これは歯車を使った機構で同じ回転数でもトルクを変えられるようにすることで回避。

 結果として一から設計して先ずは兵員輸送用の自動車が作られることになったのだった。


「これが出来上がれば移動が楽になるね。後は魔鎧兵か」

「師匠、これどうするんです?誰でも使えるのはいいけどこれ、この辺には居ない魔物の素材とか使っているみたいですよ」

「まさにそこが問題なんだよねぇ。後見た目が気に入らない。ちょっとかっこいいの期待してたのに太ったおっさんみたいじゃない」

「……まあ、それはボクも思いますけど」

「ってことでもうちょっとかっこ良く改造しちゃおう。鎧の下はほぼ魔物みたいな感じだけど、クレイゴーレムの魔力筋と、ムタティオニスの神経網を利用して強化できるんじゃないかな?ワイバーンでは出来ているんだし」


 ムタティオニスは例の他の生き物を支配して操る不定形の魔物である。

 動かすための命令系統をそっくりそのままコピーしつつ、新しい魔鎧兵を作ろうというのが狙いだ。

 新しい研究所と人員、そして豊富な資金を得てワイバーンを作り上げたチームは貪欲に新しい知識を吸収していた。それこそ寝る間も惜しむほどに。



テンペストの持ち込みのミサイルの残りが僅かになりました。

最初の城壁への一撃は対地ミサイルの一撃です。

残りは対空ミサイルを地上のターゲットに向けて発射という流れ。


ちなみにパーティーは皆が帰ってくる前に本当に準備して盛大に祝いましたとさ。

ミレスの技術は流出し、それぞれの国で研究がなされて、その発展形であるハイランドの兵器を参考に色々と作られることになるでしょう。

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