第三十三話 お披露目
手足をもがれ、言葉もわからないままに殴られ続け、こうしてただ椅子に縛り付けられ生かされているだけの生活。
ここに来てどれくらいの時間が経ったのかも分からない。
話が通じないとわかると今度は何やら神官の様な者の前に連れて行かれ、頭の中をぐちゃぐちゃにかき回されるような酷い体験を何度もした。
その後、外に連れ出された時に見たものは……ライフル、戦車などの出来損ないのようなもの。
あの気持ち悪いのは俺の頭の中を覗いたものかと思うとゾッとした。
逆らおうにもそもそも手足がない。
しかし俺の知らないものもあった。人型の巨大ロボットだ。
あんなもの、戦車や戦闘機に狙われたらあっという間に終わるだろうということで、夢物語にしかならなかった存在があった。
それがきちんと二足歩行で歩くどころか走り、戦闘を行っている。
技術力が高いのか低いのか分からないが、どうやら俺達で言えば魔法と表現する何か別な力を持っているようだと分かった。
そうでなければ手をかざして火の玉を出したりしないだろう?
大分前になるが近くで戦闘の音が聞こえた。大勢の人の声、大砲の音、そういったものが聞こえてきた。この時に攻めてきた奴等がこの国の奴等を根絶やしにしてくれればと思ったのだが、そうは行かなかったようだ。
もう終わらせて欲しい。
無理やり生かされ、時折頭を覗かれ、ただただ何も出来ずに過ごす日々。頭がおかしくなりそうだった。
こいつらを全員殺せるなら……俺は死んでもいい。死にたい。
「○○○○○○○○?」
「何言ってるのか分かんねぇよ……」
こいつは俺の世話をしているメイド?だ。見ての通り手足が無いためまともな生活が出来ない俺を、ただ世話をするためだけに居る。
下の世話から何から全てだ。屈辱以外の何物でもない。
……が、どうもそこらの軍人らしき奴等とは違うようで、こいつも無理やり働かされているような印象を受ける。
最初は当たり散らしていたが、言葉も通じないし虚しくなってやめた。
逆に礼を言う様にしてみたら、言葉は通じなくとも意味がわかったのかニッコリと笑ったのだった。
人間にしては耳が長く……物語の中のエルフの様な奴だと思った。
何より美人だ。まあ、悪くない。
そんなある日、いつもの様にぼーっとしていると遠雷のような音がかすかに聞こえてきたのだ。
外の奴等は不思議そうな顔をして空を見ていた。
だが俺は知っている。この音を出す存在を。
暫くしてまた大きな音が聞こえたが、ぱったりと聞こえなくなった。
あれは……戦闘機なんかが音速を突破している際に聞こえるものだ。飛行機雲らしきものは確認できなかったが、皆にも聞こえていたのなら聞き間違いではないだろう。
この良く分からない世界に、俺と同じ技術を持っている者がいるかも知れない。
ならば……あの時そうするつもりだったように、全てを破壊して欲しい。あの時は糞野郎のせいでミサイルを基地内で暴発させられたが、今ここにはそんなものはない。
思う存分爆弾でも銃弾でも降らせて全てを終わらせて欲しい。
「はっ……そんなわけもないか……あぁ……早くこのふざけた奴等を皆殺しにしてくれ、俺を殺してくれ、頼む……」
俺は……人に利用されるのはもう嫌なんだ!
平和に暮らしていたのに、突然拉致されてミサイルを作らされ、いよいよやばくなってきたと思えばそれを目の前で暴発させられ、気がつけばまた拉致されてこんな生活だ。
俺のせいで人が死ぬのはもう沢山なんだ……だから早く、殺してくれ。
「○○○○……」
「だから……何を言ってるのか分かんねぇよ…………」
いつの間にか涙を流していたようだ。
それに気づいたのかこいつは子供をあやすように俺を抱きしめ、頭を撫でる。
……俺が死んでも、こいつだけは生き残って欲しい。
そう願いながらまた眠りについた。
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「テンペスト・ドレイク……いや、精霊テンペスト。これはあなたの力……ということですか?」
「私は自分を精霊とは思っていません、通常の人族と同じように一人の人間、テンペスト・ドレイクとして扱って頂きたいと思います。そして、それを撮影したのは確かに私とコリーです」
「しかし、どうやって!空を飛んでも飛竜が居る。ここからミレスまで飛んだとしても、その間に飛竜の住処があるのだぞ」
「高高度を飛び、速度を上げれば問題はありません。その技術に関してはおいおい説明があるでしょうが、私からは今はまだ言うことはありません。……これらの画像の説明に移っても?」
「あ、ああ……」
これだけの強面たちからの視線に耐えるだけでも足が震えそうなコリーに対し、涼しげな顔をして「そんなことはどうでもいいから説明させろ」と言えるテンペスト。
10歳の子供に大人が押されているのだ。横で見ていたコリーは少し面白くなってしまった。
「さて、こちらの画像はコーブルク上空から撮影した物です。中央に王都の城郭都市が確認できます。これを見る限り城郭都市の外には特に何かをしているようには見えません」
今度は同じ画面上で一部がカラーではなく白黒の物に変わった。
赤外線画像だ。
「こちらは熱を探知したものと重ねたものですが、見ての通り一部が白くなっており、高温であることが分かります」
何の説明もなしに突然言われて、分かります、と言われた所で誰も分かっていないがそんなことはお構い無しだ。
そういうものだと流してもらう他無い。
「熱源のある場所を見ると……鉄の巨人と呼ばれているものとともに、戦車もどきなども置かれているのが分かります。そして……」
少し写真がずれて鉄の巨人に人が乗り込もうとしている所が映しだされる。
「この鉄の巨人には人が乗っていると思われます。ゴーレムではなく、中で人が操ることであの機動性を確保しているのでしょう」
「ま、まて、一度に色々なことが……色々聞きたいことはあるが、あの鉄の巨人は人が操っているというのか?」
「その可能性が高いです。であれば、そこを貫くことができれば行動不能に陥ります」
「そんなこと出来なかったから困っているのではないか!」
「そこでこのライフルです。この鎧の素材はミスリルなどを使ったものだと聞いておりますが、その程度であればこのライフルで貫通できます」
「なんだと……」
「信じられん!そんな、そんなものあるわけが……」
「黙れ、事実だ。余もこの目で確かに見ておる。火竜の鱗や様々な金属板を軽々と貫通しているものをな。地竜の鱗も貫通したものもある位だ。その破壊力に文句はあるまい?」
「は、いえ……申し訳ありません……」
「まさか……小耳に挟んだハーヴィン領を襲った火竜をあっという間に屠ったというのは!」
「私です」
与太話だと思っていた事が本当だったと知る。
国王の前で嘘をつく等ということは出来ない。であればこれは本当のことなのだろう。
しかし見た目はただの少女である。
そんな武器を扱えるようには見えなかった。
「テンペストは精霊だと言ったろう。元々宿っていた物があるのだ。それを我が国が回収し、テンペストの指導の元で新しく作りなおしたのだ。それこそがこの詳細な図を撮ってきた物だ。それは空を飛び、火竜の鱗をやすやすと貫き、他の空を飛ぶものの何よりも早く、正確無比な攻撃を行える。しかし、動かすためには今のところテンペストが介在しないとまともに動かせない。よって、今のところまだ一つしか存在しないのだ。竜の如きその姿と速さ、そして力。我々は飛竜に打ち勝つ力を手に入れたのだ!その名はマギア・ワイバーン。そしてそれに乗り込み操縦するのは鉄の竜騎士、コリー。……今日はその勇姿をしかと見届けよ」
国王もなんだかテンションが高い。
途中から妙に芝居がかったしゃべり方をしていたが、それによってだんだんに周りの気配も興奮してきているのを感じたのでわざとやっているのだろう。
ただ、ここで公開するのは聞いていなかった。演出のためにわざわざ別室でこの映像を出させたのか?
隣のコリーを見てみても「え、ここでワイバーンみせんの?」と混乱していた。どうやら彼も聞かされていなかったらしい。
そして後ろの壁が下がっていき、ガレージに繋がった。
こちらに機首を向けて佇んでいるマギア・ワイバーン。
正面から見ると本当にまるで竜を目の前にしているかのような威圧感を感じる。意外とあの無駄だと思っていた装飾がここで効いているのを実感した。
その凶悪な見た目に、軍人たちも圧倒されている。
感嘆の声すら上げることが出来ず、席から半分腰を上げた状態で止まっている。
「な、なんなのだ、これは……これを人が作り上げたというのか……?」
「なんという威圧感……震えが止まらぬ……」
テンペストは肉体に居るままでワイバーンを操作し、軽く姿勢制御用のカナードや、ラダーと言ったものをぱたぱたと動かしてみせると、突然動き出したワイバーンに軽い悲鳴が響いた。
「……テンペスト、あんま脅かしてやるなよ」
「面白そうだったので。つい」
「まあ、俺は認める。面白かった」
国王はそんな皆を見てニヤニヤしていた。
この人、こっちを巻き込んで驚かせようとしていたらしい。
しかしおかげでこちらに対して否定的な声を上げるものは居なくなった。ある意味やりやすくていい。
そのまま画像の説明などをして、兵器に関しては今後の展望を話していく。
希望者のうち、腕がいいものを集めてライフル隊を作り、更にその中から特に腕の良い者を狙撃隊として訓練していく方針だ。
また、大砲に関しても滑腔砲、ライフル砲を用意し、それらそれぞれに合わせた弾薬なども投入していく。
ミレスが他の国を襲うまではまだ時間がある。ある程度支配を安定させてからでなければ無理だ。
これは人数の差もあるためどうしようもない。強大な力を持っているが人数で負けている現状、しっかりと周りの者達を縛り付けなければ後ろから刺されることになる。
1月を目安に先ずはライフル隊を作り上げて訓練し、実戦で役に立つレベルまで引き上げる。
主に例の鎧の巨人対策と、大砲を操作しようとしているものを遠くから撃ち殺すために。
中遠距離の攻撃手段が新しく増えるが、その範囲が大幅に変わるのだ。
次に、大砲も平行して一新していき、その使い方などを叩き込む。
基本は同じだが扱いが異なる滑腔砲とライフル砲を使いこなし、それによってミレスの大砲が届かない場所から攻撃できるようにする。
これはハイランドが侵攻を受けた時にも役に立つ。
幸いライフルと大砲に関しては材料さえあれば量産が可能だ。
鍛冶師はゲルトによってその技術を叩きこまれて作り出していくだろうし、弾薬に必要な炸薬等はロジャーが錬金術士にその技術を教える。
すでに計画は動いており、取り急ぎサイモンの部下達がライフルの使い方を指導するなどして教官役の鍛えているし、大砲なども幾つかは試作を終えて完成している。
後は扱う側の人間を訓練するだけなのだ。
「すでにそこまで事が進んでいるのか……!」
「しかし、それでは魔法隊の出番が無くなるではないか!」
「魔法隊は魔法隊にしかできないことをして下さい。ライフル隊はあくまでも制圧ではなく牽制です。怯んでいるうちに射程内に入り込んで広域魔法を使うなどしてもらいます」
数も少なければ連射できるものはまだ歩兵用の装備としては作っていない。
サーモバリック爆弾等の広範囲を吹き飛ばすことが出来る兵器はあることはあるが、この世界で作るには設備などが足りていない。
これらに関してはこれから研究が進んでいくはずで、今作れるものを作って投入しなければ意味が無いのだ。
もちろん滑腔砲などで榴弾を放てばある程度の範囲を攻撃できるが、やはり一点を狙っての攻撃が基本なので広範囲となると魔法に頼るほうが早い。
この説明で何とか納得はしてもらったものの、剣等はまだいいとしても弓矢の方は相当に警戒しているようだった。無理もない。
しかしこの世界の弓矢はテンペストが居た世界とは違って、身体強化によって物凄い強化がなされたものが多くある。更に矢にエンチャントされたものは様々な特殊効果を発動することも出来るし、ライフルと違って音があまりしないため発射位置の特定が難しくなるという効果もある。
ということで、ライフル隊として50名ほど募集をかけた。
志願者はテストをクリアした後に訓練に入ることになるだろう。
「……それで、新しい武器等が開発されたのはいいが、そのマギア・ワイバーンは作戦に参加しないのか?」
「コーブルクの王都奪還作戦には監視と脅威の排除で参加します。ただし、基本的に兵装が強力すぎるため王都を破壊する可能性が高く、また、ミレスへの攻撃までは極力姿を晒したくありません。国王陛下からの言葉にもあったように、私と同じ所から来た誰かが向こうにいる可能性があるかぎり、対策をとられる可能性も否定できませんので」
「脅威の排除とは?」
「大型兵器のピンポイント破壊です。動き回られると厄介な鉄の巨人等の破壊を優先します。その後、上空から監視を続けて敵の動きを逐次地上へと報告します。これによって背後に回られる事は無くなるでしょう」
戦車や鉄の巨人は持ち込みのミサイルを使う。
爆風による被害はそこまで広くないので、できればまとまっている時にある程度仕留めたい。
当日、戦闘が始まると同時に撃ち込んで混乱を誘う。
表で騒ぎを引き起こしている間に、裏側から回った部隊が城内に突入して解放する流れだ。
出来るだけ大きな混乱を引き起こせれば最高だろう。
その最初の一撃が終わったら即離脱して高度を上げ、後はそこから監視しながら地上部隊へと情報を送り、こちらの被害を極力無くすことに尽力を尽くす。
「コーブルク軍の者達は嫌々従っている者ばかりだ。少しでも付け入る隙が出来ればすぐさま裏切り、逆にミレスの兵を攻撃するだろう。……後は恩を着せてコーブルクと色々取引ができるようになるしな」
自分達が勝てなかった敵を蹴散らし窮地を救うとなれば、それなりの見返りを求めることが出来るのだ。コーブルクとも友好な関係を結べれば、通り抜けるときなどに関税などを優遇してもらえたりなど色々と楽になる。
その辺は国王たちの仕事だ。
色々とやることなどを擦りあわせて作戦会議は進む。
予想外のサプライズがあったものの、おかげで勝機を見いだせた彼らは本番であるミレス侵攻へ向けての予行演習と考えて各々の連携を見直すことにした。
ライフル隊のデモンストレーションとして、サイモンの部下によるライフルを使った攻撃演習を行い、その有用性を強調すると、あっという間に規定数を超える人が集まった。
しかし頭を使う上に、技術を要する狙撃等をするためにはある程度人を選ばねばならない。
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「……今日も特に動きはないか?」
『そのようです。案外まとめるのに苦労しているようですね』
「そりゃあ、コーブルクってこの近くだとかなり強い国だったんだぞ。あっさり落とされたのが信じられねぇくらいだ。当然兵士だって優秀だ。表向き従っているように見せて、出来る限り歩みを遅らせるために色々工作しているんだろうさ」
例えば、噂を流して上層部の対立を煽ってみたり。与えられた仕事を出来るだけ遅らせたり。ワザと使えない人材と見せかけるのだ。全員ではすぐにバレるので決められた人数でそれを行い、足を引っ張るようにする。若しくは足を引っ張るようなミスを誘発させる。
『変化あり、火事のようです』
「おお……煙が上がってるな。あの場所を見せてくれ」
拡大して火事が起きている場所をモニタに表示する。
逃げ惑う人々、水の魔法で火を消そうとする者。
その場所に向って大勢の兵士が向かっていく。恐らくミレスの兵士だろう。
「あ。これ反乱だわ。火事で引き寄せて、来た奴等を仕留めるつもりか……テンペスト、その煙の出ている建物の裏をよく見てみろ。動きが怪しい奴等が集まってるぞ」
『そのようですね。なるほど、鎧の巨人はこうした細かいことに出てくることはないですか』
「人だけを狙っていくつもりだろうな。おお、不意打ち食らってやられていくな……成功だ。……が……」
『増援ですか、反応が早すぎますね』
「色んな所に連絡員が潜んでいるんだろう。不味いな」
『……ストーンバレットを放ちます。距離はありますが問題ありません』
真下に向けてストーンバレットが放たれる。
数秒経って増援の兵士たちの地面が破裂した。土煙が晴れた時、そこに残っているのはバラバラになった死体だけだ。
「……ほんっとエゲツねぇ攻撃力だよ……」
『こちらからの攻撃ということには気づかないでしょう。反乱を起こした人達も撤退しています、成功したと見ていいでしょう』
「俺達が助けに行くまで持ってくれよ……」
『向こうはまだ諦めていないから反乱を企てたのでしょう。向こうに土煙が上がっています』
別な街から王都へ向かう軍勢のようだ。
重装備なのかゆっくりとした歩みだが確実に王都へ向かっている。
ハイランドの兵たちが到着するまで後一週間。もし、合流できればこちらのやり方を見てくれる証人となる。
恩の押し売りだ。
すでに反乱を起こした者達は一般人に紛れて消え、死亡したミレスの兵士を様子見に来た者が発見して鎧の巨人まで出張ってくる事になった。
こうなると下手に近寄れない。
今日の偵察を終えてテンペスト達は帰投する。
収穫はまああったと見ていいだろう。
コーブルクはまだ死んでいない。それが分かっただけでも良しとしよう。
帰る途中で移動中のハイランド兵を発見した。
それに向って低速で上空を飛び去ると、気づいた者達が手を振っている。
翼を振って答えて帰った。
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「ほんとに空飛んでら……」
「すっげぇな。あんなのがあるなんて最近まで誰も知らされてなかったっつーんだからなぁ」
「本当に翼竜みたいな感じだったな!いいなぁ……」
「乗りたいなら辞めとけ、ハーヴィン候が言っていたそうだがあれの加速は人には耐えられねぇってよ。獣人族でもないと無理つってたな」
「まあなんにせよ、あれが敵だったらと思うと恐ろしいな。今のは偵察の帰りか?全く、俺達が何日も掛けて道を歩くのにあっちは1日どころか数時間程度で往復まで出来るっていうんだからな」
先ほど上空をパスした兵士たちだ。
さっきのテンペストのサービスに気を良くしているのだろう、口々にマギア・ワイバーンに関することが語られている。
そこに否定的な言葉はなく、純粋に自分達の側で良かったと思っている。
教育期間が終わり、初の実戦として投入されるライフル隊も混じっており、士気は高い。
あのマギア・ワイバーンが後ろに居てくれるのだから心強い。
テンペスト側も自分が視認さえ出来ていれば長距離でも魔法による狙撃は可能である事から、実弾兵器と平行してサポートするために使う事を決定している。
魔法であるがゆえにどの方向に向かっても撃つことが出来るのも利点だ。
流石に魔力をバカ食いするのは相変わらずなので、短時間の利用に限るとは言え城壁の上にいる砲兵等を一掃する位しか出来ないが。
大砲も用意されているのだが、山道を大砲を曳きながら移動するというのは危険極まりない為、有効射程距離まで到達した時にワイバーンを出し入れするときのようにゲートを通って設置する事になる。
新型大砲はテストの結果有効射程で2kmを超え、相手の有効射程外から確実に狙えるため、後方に設置して歩兵や騎兵が到着するまで撃ち続ける事になるだろう。一点集中で城壁を崩し、そこから侵入していく。
「まさかコーブルクに攻める日が来るとはなぁ」
「場所はコーブルクだが敵はミレスだ。思う存分叩きのめしてやろう、コーブルクの軍はなるべく傷つけたくないが……」
「向こうにも話は通ってる。コーブルクの残りの戦力と合流して一緒に解決するのが条件らしいがな」
「そりゃぁ、勝手に他の国が介入して自分達の問題を解決なんてのは避けたいだろ。それでも、為す術なくやられていた事を考えて断腸の思いで決断したんだろう」
事実、国のトップを失い、自国民が数多く囚われている王都では大規模に攻撃を仕掛けることも出来ず、逆に敵はそれを盾にしながら好き放題にやれる。
被害を最小限に止め、確実にミレスを仕留める秘策があると持ちかけてもなかなか、首を縦に振らなかったのはやはり自分達が軍事大国であることへのプライドからだっただろう。
しかし、最終的に飲まざるを得ない所まで弱っていた。
いきなり出てきたハイランドに助けてやると言われるのだ、屈辱だっただろう。
助けた後に色々と問題は起きるだろうが、そこは国王たちの腕にかかっているのだ。
あくまでも自分達は助っ人であるという立場を崩さずに対応する。
しかし、力の差を見せつけておく事で反論できないようにするのだ。
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「将軍、本国からの指示です」
「……内容は?」
「ルーベル、ハイランドへの侵攻時期までにこの王都を完全に掌握しろとのことです」
「もとよりそのつもりだ。で、反乱を起こした者達は捕まったか?」
「いえ……一般人に紛れて逃げたようで、それらしい者達は誰も。いかが致しましょうか」
「ふん、ならばそこら一帯の奴等を全員捕らえよ。反乱の共謀罪で処刑する。それを餌にして釣ればいいだろう。期間内に出てこなければ、関係のないこいつらを処刑する。助けたければ出てこいとな」
「はっ。それと……見張りに立てていたものからの報告です。コーブルク軍による大規模攻勢の動きありと」
「無駄なことを……大砲の餌食になるがいい。長距離砲の出番が来たようだな。射程内に来たら一発打ち込んでやれ」
『渡航者』によってもたらされた新しい技術はミレスの兵力を引き上げた。
しかし『渡航者』は言葉がわからず、それを覗き見る神官もイメージでしか伝えられないため完全な再現ではない事は知っている。完全再現できれば……もっともっと強くなれる。
現実にこうして最強と名高いコーブルクを手に入れた。そして今も妨害を続ける奴等を退けている。
戦いはすでに数ではなくなった。少ない兵力で、最大限の効果を発揮する兵器こそが今後重要な役割を担う。皮肉なことにそれをよく知っているのがミレスだった。
治ったと思った風邪が台風のせいでぶり返しました。
喉は痛いし、風邪薬のせいで一日中眠くてホントきっついです。
さて、ついにお披露目の時が来ました。
テンペストも意外とおちゃめな面を見せたりと楽しそうです。




