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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第二章 ミレス騒乱編
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第三十二話 偵察任務

「コリー、緊張しているのですか?」

「ん?ああ……まあな。戦闘はないとはいえ、初の実戦任務だ。責任も重大……緊張くらいはするさ」

「大丈夫、私が全てサポートします。コリーは教えた通りのコースを保つことに集中してください。あなたがコースを飛行中、私が偵察用ポッドを操作して情報を収集します」


 ワイバーンに搭載してあった偵察用機器は全て偵察用のポッドとして一箇所にまとめてある。

 任務によってポッドを変えることで様々な状況に対応出来、更に余分な重量を切り詰めることが出来るのだ。


 低高度、高高度用のパノラマカメラ。赤外線偵察装置に合成開口レーダーなどが詰められている。

 それらから送られてくる情報を全てコンピュータ処理を掛けて画像として処理していくと一つの大きな合成画像が出来上がるというわけだ。


 高高度を飛ぶため本来なら与圧服などが必要だったりするのだが、これに関してはコクピットが完全密閉型で気圧も温度も保ったままでいられるため、通常の装備だけで乗り込める。

 ちなみに竜騎士らしくコリーは鎧着用だ。もちろん角の無い革製の軽鎧で身体強化をサポートする為にパワードアーマー化されているため以前よりは負荷がかかってる状態でも動きやすくなっている。


「コリー、そろそろ時間だ。準備してくれ」

「はっ、ハーヴィン候。必ず情報を持ち帰ります」

「……いつも通りでいいぞ?もっとこう……砕けてただろうが。まあいい、作戦は事前に伝えた通り。全速力でコーブルクまで向かい偵察と撮影を行い戻ってくる。もし、飛竜に出会ったら今回は出来るだけ戦闘を行わずにその足を活かして逃げ切ること」

「問題ないですよ、戦闘はまだまだ苦手なんで……というか武装が一個しか無いからなぁ」

「時間はちょっとかかってるみたいだがロジャーとゲルトが新しい武器を作ってる。ガトリング砲とやらと同じように使える魔導兵器だとさ。ミサイルに爆弾の辺りは大体出来ているそうだぞ」


 ミサイルは目標は文字通り眼で確認し、それを追いかけるようにした一種のゴーレムだ。

 爆弾も狙った場所を指定することでそこへある程度移動するようにも出来るとか。

 自爆特攻型のゴーレムと言った感じで、意外と使い勝手は良くなりそうだ。ただし長距離ミサイルとなると目視範囲外からの攻撃になるため複雑な思考をしなければならず、ゴーレムでは使いものにならない為まだまだ研究中だ。


 平行して第二のマギア・ワイバーンを作ろうという動きも出ている。

 ノウハウはある程度溜まっているので作るだけなら簡単だ。

 問題は制御だが……その内いいものを作れるようになるだろう。


 コリーがマギア・ワイバーンの周りを自分でチェックして周り、流速計のピンを抜く。


『自己診断の結果、機体に異常なし。偵察用ポッドとの接続良好。いつでもいけます』

「よっし!じゃぁちょっくら覗き見してくるか!」

『魔導エンジンスタート、VTOL上昇モード』


 機体中央のエンジンが唸りゆっくりと上昇していくマギア・ワイバーン。

 ここからはコリーの出番だ。


「行くぞ。水平飛行へ移行、……これくらいか?」

『問題ありません、ではスロットルを全開にして高度2万まで上昇してください』

「了解だ!」


 途中から突然加速してどんどん空高く上がっていく2人を見ながら、地上ではすっかりワイバーン専用技術者となっている者たちが手を振り続ける。

 テンペスト達は彼らの夢その物でもあるのだ。


 □□□□□□


『間もなくコーブルク王国上空に到着。モニタに情報を表示します』

「快晴だな。雲もねぇから光学カメラが使えるな」

『その通りです。後は撮影のためのコースにそって飛ぶだけです。その間は機体の維持と警戒をお願いします』

「了解だ。ははっ、こっからだとコーブルクの城郭都市がよく分かる……それどころか大陸の形まではっきりだ。正確な地図書けそうだな」

『平行して地形を記録しています。ハイランド周辺からここまでの間の地形は記録が終わりましたので場所がわかればすぐに飛んでいけます』

「それを紙に書いて出せりゃなぁ。……っと、高度19000mを保って……コースに入った」

『記録を開始します』


 眼下に広がる青い海、茶色と緑が混じった陸地。その所々に壁で囲われた都市が見える。

 と言っても遥か遠くだからかなり小さい。

 マギア・ワイバーンの偵察ポッドでは広範囲の地形を詳細に記録してそれらをつなぎ合わせる作業が行われている。更にコーブルクの王都を高倍率レンズで撮っていく。


『これほど静かな偵察というのはなかなか味わえませんね』

「そうなのか?」

『私が居た世界では、高高度を飛んでいてもすぐに発見されてミサイルを発射されるか……追撃の戦闘機が上がってくるかです。こんなゆっくりと飛ぶこと自体が出来ません』

「……警告音だらけになりそうだな」

『実際そうなります。……撮影終了、次のポイントを指示します』

「あいよ」


 対空ミサイルもスクランブル発進も無い。

 酷い時には対空レーザーで撃ち落とされることを考えれば、今回のミッションはテンペストにとって眼をつぶっていても出来るレベルだ。


 そして、以前とは違って会話をするようになった。

 いざというときにもっとこうしておけばと悔やむ事のないように。それに、今なら無駄な会話でもたった一人で無言で任務をこなすということが人にとっては苦痛であることも理解できる。


 そして現在処理中のデータを見る。

 コーブルクの王都周辺は見晴らしがいい平地だった。近づこうと思えば絶対に見つかる様になっている。そしてかなりの大きさの都市なので囲むことは不可能に近い。

 飲水に使えそうな水場を内包しており、ここ単独でも暫くは持ちこたえられそうなのが分かる。

 その中心、コーブルク城の周辺は周りに家などの建物が殆ど無い代わりに、今は別なものが大量に置かれていた。


 超望遠レンズで細かく撮影されたデータを見れば、それが戦車を模したものであることは明白だった。

 履帯の代わりに車輪を取り付け、大きな大砲を乗せたシンプルな作りだが、装甲は厚く弓矢では歯が立たないだろう。


 明らかに此方側の技術を模倣しようとした物だ。

 ただし、無理やりなんとかしようとしている事もあるのだろう、正直な所お粗末この上ない。

 あれでは移動しながらの砲撃は不可能と思われる。

 戦車と言うよりは移動砲台といったほうが良いだろう。それでも自走できるというのは相当な脅威だろう。

 それ単体で動かせるのだから設置して撃って即座に場所を変えて撃つといったことが可能だ。


 もう一つ、砲身が他のものよりも遥かに長いものなども存在していた。

 長距離砲の可能性があるが、どれだけ遠くへ飛ばせるかは分からない。


 差し当たっての脅威は巨大な人型の兵器、鎧の巨人への対処であることは明白だ。

 後はこれらのデータを提出してやれば、詳細な作戦を立てることが出来るだろう。

 ついでに地表の3Dスキャンによって、大まかではあるが大きさなどを測定できる。それを地形に落とし込んで簡単な3Dモデルを作り出せば、更に細かく詰めていくことが出来るだろう。


「よし、これでコーブルクの方は終了だ。テンペスト、次の指示をくれ」

『HUDに表示します。次はミレス上空へ向かいます。全速で向かいましょう』

「分かった。この空を全力でかっ飛ばすってのは気分がイイな!」


 コリーはすっかり超音速での飛行が気に入ったようだ。


「……。世界が丸いってのは本当なんだな。テンペストに教えてもらっても信じられなかったが、実際ここに居ると分かる。すげぇ綺麗だ」

『ここよりも更に上に行くと、空気は薄れワイバーンの飛行は出来なくなります。そして見て分かる通りここはその境界線の様なもの、ここからさらに行った先には、空気も重力も無い漆黒の空間、私達が宇宙と呼んでいる場所が広がっています』

「宇宙か。へぇ……まさか昼間の空の上がずっと夜だとは思わなかったがな。あれがずっと続いてるっていうのか」

『あまり詳しいことはデータが無いため分かりませんが。……そろそろミレス上空へ到着します』

「お、もうか。ホントはえぇな……下を馬車で行くときは遠回りしてゆっくり何週間か掛けて行くってのに」

『空に障害物は存在しませんから……。警告、方位174に飛行物体。距離300km、高度約8000m』

「障害物無いんじゃないのかよ!えーっと今向かってるのがこっちだから174はむこうか。さっぱり見えねぇな」


 巨大な飛行物体のようだ。

 レーダーにははっきりと映し出されているが、これはどう見ても島と言っても差し支えないレベルの大きさで、相対速度からみて静止している。

 前方の警戒を強めて撮影コースへと侵入していく。距離もあるし向こうが動かないのであれば問題ない。撮影した後に近寄って確認しておこう。


 そして予定通りミレス上空もきっちりと写真を押さえることに成功する。

 なんとミレスの城壁は3重構造となっており、簡単な迷路のようになっている。

 普段は城壁に開けられた扉で直通で入れるが、それが完全に埋められると何処へ向っても地獄が待っているという構造だ。

 よくぞこんなめんどくさい作りにしたものだと思う。


 内部はだいたい予想していた通り、農村部などが広く、食料生産等を再優先で行っている。

 中央付近には建造物が密集しており、こちらも壁で軽く囲われておりそこに都市が形成されていた。

 そこから東側に軍事施設が集中しているようで、熱源反応が出ている。

 これによると地下にもかなりの空間があり、そこで何かしら活動をしていると思われた。


 地下への入り口も確認したが、こちらはしっかりとした鉄の扉が取り付けられているようで、撮影時にはそこから戦車もどきが出入りしているところだった。

 大量の鎧の巨人が跪いた状態で並べてある場所が近くにあり、その中の数機が胸部から腹部にかけてのハッチを開放しているのが観察できた。これによって有人での操作をしている可能性が高まり、そうだとすれば胸部若しくは腹部からその中心部に向けて貫通させることが出来れば、搭乗者の死亡により戦闘継続不可能となるはずだ。


「それにしてもこの距離でよくそんな鮮明に見えるもんだな」

『こうした上空からの偵察というのは非常に大事ですから。敵の戦力などが見ての通り丸見えになるので。基本的には衛星といって宇宙空間に漂わせている偵察機器を利用するのですが、戦闘機や偵察機を使った物はこうして好きな所をいつでも見れるのが強みですね』

「まあ、確かにその通りだな。こうして見ていると痛感する……敵からしたらたまったもんじゃねぇ。とりあえずこんなもんか?」

『はい。記録も終了しました。後は報告を持ち帰れば終了ですが……』

「アレだろ?さっき見つけた空を飛んでるなにか。俺も気になる。恐らく話に聞いている浮遊島だと思うんだが」

『大きさから考えて人工物や生物とは考えられません。かと言って私の常識ではそもそもそれほど巨大なものが空に浮いている事自体が不自然なのですが……』


 どうせ燃料というものが不要となって、ほぼ制限がなくなった状態なのだから足を伸ばしてそこを観察しておきたい。

 そこに行けばワイバーンを更に強化できるかもと言われていたが、大体はすでに完成しているから問題が無いわけだが、新しい機体を作るときに役に立つ発見があるかもしれない。

 浮いているのだからそれに関する魔晶石があるかもとは言われているのだから、もしそれが実現すれば……大量の人を運搬するための機体を作るのも楽になるだろう。


 今回は上陸することはしないが、カメラに収めて詳細な記録だけは取っておきたい。

 もし他の生物がいるなどする場合は色々と考えなくてはならないこともあるだろうし。


「よしっと、んじゃあまぁ浮遊島に行ってみるか。それ音速突破ぁ!」


 暴力的な加速を物ともせずコリーはスロットルを全開にして最大速度まで持っていく。


 外は凍えるような寒さでも、ここまでの速度が出ていると機体表面の温度は数百度にも達する。

 通常はそこまで熱せられれば金属は強度が失われたり、膨張するなどして色々な不具合を起こすはずだが、さすがは魔法金属系といったところで何の変化も認められない。

 エンチャントが施されているのもあるが、こうして平然と飛べるのは火竜の素材と魔晶石にも一因があるのだという。

 おかげでこんな速度で飛ばすことが出来るのだから感謝しか無い。


 あっという間に浮遊島まで到達すると、特に何処の国にも属していない土地の上のようだ。

 防空圏やらの概念がないので特に気にすることもないが、それでも他国の領域を侵していないならそれに越したことはない。


「でかいな……。周りを飛んでいるのは何だ?」

『映像を出します。翼竜のようですね』

「お仲間か。ああそうだ、ワイバーンの肉ってすげぇ美味いんだ、ここに来れば狩り放題だな」

『……惜しいですね……』

「お前意外と食い意地張ってるよな」

『美味しいものを沢山食べたいという欲求はしかたのない事です。とりあえず詳細な撮影を開始します。この島の周辺を一周してください。コースは表示しておきます』

「おう。翼竜こっち来たらどうする?」

『とりあえず放っておきます。落としても回収できないのなら勿体ないですから』


 島は……浮いている以外は普通の島のように見える。

 かなり大きめの島で、山と平原、そして山から流れる川と湖がある。しかし樹があるのはどういうことなのだろうか?

 一般的には高度が上がるにつれて温度が低くなっていく。暑い地域では高い高度、寒い地域では低い高度で森林限界を迎え、高い木が生育出来なくなるのだが……一番高くても4000mほどで限界が来るはずなのだ。

 そういえばハイランドも高山の割には樹木が生い茂っている。やはりマナなどが関わってくるのだろう。


 流れる川はやがて島の縁へと向かい地上に向って落ちていくが、途中でただの霧と化す。

 それは幻想的な光景だった。

 一周回ってみたので今度は下側の観察を行う。

 しかしマギア・ワイバーンの偵察ポッドは機体下部だ。当然地面を移すために下向きに取り付けられている。

 どうするか?

 当然、反転して腹を上にして撮影だ。


「なんとも言えねぇなこの感覚……」

『短時間で終わります。我慢して下さい』

「ああ大丈夫だよ。ずーっと逆立ちしてる感じで変な気がするってだけだ。それにしても裏っ側は何もねぇな」

『しかし中央付近に熱源反応があります。中に何かがあるのかもしれません』

「ま、アレに上陸するなら装備を整えてからだな。外の気温、寒いんだろ?」

『加えて8000mの上空ですから空気も薄いため、通常ならば低酸素状態となり命を落とす……はずなのですが翼竜があれだけ居るとよく分かりませんね』


 8000mという高さは地球で言えばデスゾーンと呼ばれ、人間が生存不可能なほどに酸素濃度が低くなる場所だ。

 高山で暮らす人達は高山で暮らせるように高所に順応しているのだが、この高さになるとそれすら出来ず、酸素ボンベなしでは活動できない。

 当然温度も低く本来なら雪と氷の世界なのだが……。

 この世界の自然の形態が分からない。


 考えていてもわからないので、その辺はおいおい調べることとして撮影が終了したので、また高度を上げてハイランドへと帰投した。


 □□□□□□


「お帰りコリー。どうだった?」

「上々だ。今テンペストが処理して見せてくれるそうだ。用意してた水晶版出しておいてくれ」

「その様子だと成功したみたいだね。分かった、とりあえず準備するからその間少しだけ休むと良いよ。疲れてるんでしょ?」

「ああ……乗ってるだけでも魔物と思いっきり戦った時くらいの疲れが来る……とんでもねぇ乗り物だぞあれ」

「獣人族のコリーだから耐えられてる気がするよ。ボクだったら最高速度になったら何も出来ないだろうし」

「あれは……そうだな、テンペストが作ってくれた軽鎧が無ければ俺も動かせるか怪しいところだ。あ、そうだ師匠、今回の偵察で面白い土産が出来たぞ」


 当然浮遊島のことだ。

 ついでに詳細な写真を撮ってきているのでテンペストが処理してくれているだろう。


「それより第二のマギア・ワイバーンの開発ってのはどうなってんだ?」

「制御関連で躓いてる。複雑な機構を動かす事が出来るテンペストってほんと凄いよ……。真似しようにもやろうとすると巨大な装置が必要になるし、それを小型化するにしたって一度は作ってみないと動作がわからないからね。今はとりあえず元のワイバーンの機体をもう一度組み直してきちんと精査するつもり」

「……まあ頑張ってくれ。そっちの方は全然分かんねぇ」

「学者連中とか総動員で計算頑張ってるよ。あの小さなスペースの中に見たこともない位小さな部品がたくさん詰まってて、それらが電気を通じて信号を出して操作している……っていうんだからどういう技術なんだか。魔力のない世界でも頑張ればいろんなことが出来るもんなんだね。学者肌のエルフたちなんかはこれは面白い研究対象が出来たと喜んでるよ」


 フンベルト含めて技師や学者達は必死で空を飛ぶための技術を習得しようとしている。

 マギア・ワイバーンに関しては相当お金をかけているので、今度は構造や素材などを見なおして廉価版を作れないかと試しているところだ。

 しかし、形は出来てもそれを制御し切ることが出来ない。

 そもそも元から無理やり空を飛んでいるようなレベルに不安定な機体なのだから仕方ないわけだが。

 この辺は後々テンペストからアドバイスを貰ってゆっくりと進化していく方針に決まることになる。


 コリーはといえば、初めての長時間の飛行任務から戻ってヘトヘトになっている。

 戦闘機動が無いとはいえ、飛ばすだけでも一苦労なのだ。

 そしてコリーが出来ることといえば未だに「飛ぶこと」だけで、離陸も着陸も全てテンペストが行なっている状態のため、その内に訓練内容に入ってくることだろう。


 数時間後、ゆっくりと休んだ後についに映像が公開される時が来た。

 ワイバーンの存在は一部の人しか知らないため、別室に水晶板で作ったモニタを用意してそこに画像を映し出す。

 テンペストも身体に戻って参加する。


 □□□□□□


 テンペスト達は初めて会うが、軍事関連のお偉いさん達が一つの部屋に集まっているこの雰囲気はなんとも言えないものがある。

 皆、優秀な軍人たちで剣技や魔法に秀でているか、策略などを主とする者達ばかり。

 それがモニタの横に並んでいるテンペストたちを舐めるように見ているのだ。無言の圧力が「この場違いな奴等は何者だ?」と聞いてきている気がする。


 ロジャーは流石に名も顔も売れている為、挨拶に来る者も多かった。

 サイモンはドラゴンスレイヤーとして有名なため、人だかりができている。


「……テンペスト、なんかこう……俺ら場違いだよな」

「大丈夫ですコリー、私達が2人で力を合わせればこの場にいる誰よりも強いです」

「あぁ、そういう考え方も出来るか。なるほどな……気が楽になったぜ」


 前に立っているのはテンペストとコリー、サイモン、ロジャーの4名。

 他は部屋の後ろのほうで立っている。

 ニールが緊張しているコリーを見てにやにやしているのを見つけて、コリーが後で殴ってやろうとかつぶやくのが聞こえていた。


 そして、一つだけ皆よりも豪華な椅子へと向かう一人の男が来た時、ざわついていた室内が静まり返る。

 当然、国王陛下とその従者、大臣達だ。


「諸君、ミレスがコーブルクの王都を制圧してすでに1月が経っている。この間何度もコーブルクの軍が王都奪還を目指して侵攻したものの全て失敗に終わっているのは知っていよう。そして、それを足がかりとして他の国へ攻め込もうとしている」

「我々も向こうに間諜を送り情報を集めているが、逆らえば処刑、出入り口は封鎖されて逃げることは出来ず、逃げようとしても処刑。王族は捕らえられて亡くなったものも居るらしいが何処かへ幽閉されているようだ。軍事施設と化した一部は立ち入りが出来ず近寄ることは出来ない。無理に突破しようとすればすぐさま鎧の巨人や大砲によって殲滅される」

「元々あそこは軍事大国だったのだが、それが全て支配されており、兵士たちは家族などを人質に取られて恭順させられている。そして奪還のために攻めてきた味方同士で戦わせた上に、常に彼らの背には弓矢が狙いを定めている。寝返った瞬間に殺せるように」

「つまり……奴等が支配域を広げれば広げるほど、戦力を増していく。早いうちに手を打たねばなるまい。次の標的はルーベルだろう。今のルーベルにコーブルク軍の力を手に入れたミレスに対抗する手段はない。そしてそれが達成されれば次はここ、ハイランドだ。すでにミレスの壁の中では用意が進んでいる可能性もある。そうなる前にまずミレスに支配されたコーブルクを解放する必要があろう」


 ミレスはまだ完全には掌握しきれていない。まだまだ目をかいくぐって反乱を起こそうと機械を伺っているコーブルク軍が居るうちになんとかしなければならない。

 完全に掌握され、抵抗する力がなくなれば戦争奴隷として味方であるはずの国を攻めていくことになる。打開するなら今だ。


「しかし……ミレスには例の未知の兵器があるというではないか。ただ突っ込んでも犬死するだけだ」


 情報は色々と聞こえてくる。当然、新兵器に関することはハイランドの軍全体が知っている。

 わざわざその前に身を晒す真似をしたいものなどは居ないだろう。


「その通り。こちらで現在確認されているのは鎧の巨人、鉄の弾を飛ばす小砲、そして馬の要らない馬車、それに大砲を乗せた物。全てが脅威であり、今のミレスの強さそのものと言って良い。大砲もこちら側の物よりも性能がよくより遠くに、より強くなっている。しかし、それらに対抗するための手段がこちらにはある」


 そしてテンペストが紹介された。

 予言のことから順を追って……ワイバーンのことにはあまり触れない程度に。


「では……その、子供が我々の希望であると……?ミレスを止める為に現れた存在であると?」

「そう考えている」

「ならば、新しい武器でも開発したと?そういう話は全く聞いておらぬぞ!」

「試験は終わっておる。実戦へ投入するつもりだが少々訓練が必要でな、教官として人に教えられるまでに時間がかかったのだ。先ずはこれを見るが良い」

「これは……ミレスの小砲?」

「似ているが中身は全くの別物だ。テンペストはミレスの新兵器は「あまりにもお粗末」と言っているが、これを使ってみればその意味が分かるだろう。他にもあるがまだ実用化には時間がかかる。だが……これを見ればその有用性は一目瞭然だ」


 水晶板にテンペスト達が撮影してきた写真が映し出される。

 広範囲にわたって詳細な地形を読み取ることが出来るそれは、今まで誰も眼にしたことのない情報だ。

 そしてその一箇所へとズームしていくと見えてくるのは城郭都市を形成するコーブルクの王都。

 更にズームして誰も近づくことが出来なかった軍事施設の詳細な情報が表示される。


「……これは!どういうことだ、空を……飛んだというのか!」

「馬鹿な、空は飛竜の領域だ!今までだって何度失敗しているか……」

「しかしこれはどう考えても……!」


 全く予想もしていなかったその情報。どう考えても空を飛ばねば絶対に見ることのできない景色。

 その方法を誰もが知りたがった。そして……圧倒的だと思われたミレスの技術をあっさりと超えてみせたテンペストという一人の少女へと、その視線が注がれたのだった。



高高度を飛ぶのは発見されないためもあるけど、飛竜対策でもあります。

ちんたら下をとんでると一々飛竜との戦闘が発生してしまうので面倒な事この上ないことになるでしょうw


まあ、レーザー装備しているので撃ち落とせないことはないのだけど。

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