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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第二章 ミレス騒乱編
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第三十話 飛竜の如く

 テンペストが作業に入って数時間後、エイダの泊まる部屋に寝かされた身体へと戻ってきたテンペストは、久しぶりに戻ったワイバーンの機体の感触が心地良いと感じていた。

 向こうにいる間は感情というものが抜け落ちたような感覚があったが、肉体へ戻ってきた時にあの場で感じていたものは何だったのか理解する。

 安らぎや歓喜といった感情だった。


 形はすっかり変わってしまったけれど、あれはやっぱりテンペストの身体なのだ。

 それがこちらの技術を得て更に肉体に近いレベルでの制御も可能になるようで、話は聞いていたものの試験動作の時の動作の機敏さと滑らかさは以前とは比べ物にならない。

 とりあえず自動制御するようにとプログラムを残してきたが、恐らく対応しきれないだろう。そこは実際に動かしてみてからになりそうだ。


 部屋を見回してみたところ、エイダは居ないようだった。

 とりあえずトイレに入って最悪の事態は回避しておく。きちんと学習しているのだ。


「……お腹が空きましたね……」


 エイダは何処に行っているのだろうか?

 こちらの身体に戻った瞬間、物凄い空腹感に襲われている。

 部屋を出ようか迷っていると、エイダが戻ってきた。


「あら、テンピー戻ってたのね。ちょうど良かった、はいこれ一緒に食べましょ?」

「ありがとうアディ!とてもお腹が空いていました」

「相変わらず食べることには貪欲よね……。でもあと3時間位で夕飯になるから軽くね」


 軽食ということでサンドイッチと、デザートにシュークリームを買ってきてくれていた。

 これに生搾りジュースだ。結構お腹は膨れる。


「どう?順調?」

「はい、思った以上に早く進んでいます。問題がなければ明日にでも動作試験などが出来ると思います」


 そして一つの疑問をぶつけてみる。


「アディ、マナ、若しくは魔力を生み出す装置というものはありますか?」

「……あるわ」


 ある、という返答だったがエイダの顔は厳しい。

 眉間にしわを寄せて凄く嫌だとばかりの顔をしている。


「他の方法は分からないけど、一つあるの。それは精霊を無理矢理装置に入れて使役する事で周りのマナを吸収させて魔力を取り出すというもの。私達精霊使いの中では禁忌とされているし、そんなことを思いつくことなんて無かった」

「閉じ込めることが出来るのですか?」

「ちょっと特殊な魔道具にね。一種の封印みたいなものよ……開発したのはミレス。あの国は精霊ですらただの道具としか見ていないの。だからお願い、テンピーは絶対にあそこに捕まっちゃ駄目よ?」

「そのつもりはありません。精霊がどのようなものか、自分でもよく分かりませんし、他の精霊というものを見たこともないので何ともいえませんが……自分が閉じ込められて道具にされるだけと言うのは癪に障ります」


 特に肉体を得ている今、余計にそう思う。

 どういう原理かは知らないが、自分がワイバーンを操るときと同じように無機物でも自分の意識がある状態で……延々と魔力を生み出すためだけに使われる。想像するだけでも怒りが湧いてくる。


 しかし聞きたいのはそのようなものではなく……。


「まあ、聞きたかったのはそういうものではなく、例えば……魔力によって火を、電気を生み出せるのはその通りですよね?」

「ええ、そうね」

「私が言いたかったのはその逆があるのか、ということです。つまり電気、雷等を利用して魔力に変換できないかと……」

「ちょっと良くわからないけど……例えば火竜に対して炎の魔法をぶつけると回復されるとかそういうのはありますよ?」

「回復ですか?それは身体に受けたダメージを、ということでしょうか?」


 属性による吸収作用だ。

 魔物によっては同属性の魔法を吸収して自らの傷を癒やしたり、魔力として取り込むものが居る。

 そういう意味では確かにテンペストが求めていたものである。


「ということは、火竜の魔晶石には炎を吸わせることが出来る……?」

「直接魔力を注いだほうが早いからやったことは無いですが……どれくらい回復するかは分かりませんが、出来なくはないはずです」

「雷を使う魔物は居ますか?」

「この付近だとフルメンバグっていう光虫を大きくした奴と……それに混じって出てくるヴォルトっていう霧状の発光体の様なものね」


 フルメンバグは握り拳程の大きさから、大きなものでは20センチ程もある虫だ。

 甲虫で黒い身体に薄い青の模様が入っており、時折スパークを出しながら飛んでいるのが見られる。

 薄ぼんやりと発光して見えるので光虫の仲間に見えるが全くの別物だ。

 獲物は自分より大きな鹿などを仕留める肉食で、名前の通り近づいていって突然電撃を食らわせて意識を奪ってから仲間を呼んで喰らい尽くす。

 ただこちらはあまり魔晶石が生成されるほど強力なわけではないため、意味は無いだろう。


 ヴォルトは雷を纏った霧の様な存在で、アンデッドに近い。

 これの同種で水属性のミストというものも居るが、どちらも不定形のため物理攻撃は全く意味を成さない魔力体だ。

 普通の人なら苦戦するものだがこちらはテンペストにとってはかなり相性が良い。

 倒すと稀に握りこぶし大の魔晶石となり、落ちてくる。

 ある程度の大きさのヴォルトでなければこうして魔晶石を得ることは出来ないが。


「……なるほど、大きめの雷属性の魔晶石は売っていますか?」

「うーん……売ってると思うけど……とりあえず小さいので試してからにしたら?」

「それもそうですね。今はここから出るわけにも行きませんから、明日にでもロジャーに都合してもらうことにします」


 もし、上手く行けばエアボーン・レーザーの電源供給用に使われている発電機を使って魔力に変換できるかもしれない。

 今ですら電気信号を魔力に変換して機体のコントロールをしようとしているのだから、恐らく可能なのではないかと思う。

 発電機は風力発電になっているので、飛んでいる間はずっと発電し続けることが出来る。つまり……その供給量が多ければ魔力消費を殆どしないで飛び続けることが可能だ。

 もちろん、空中での静止などを行っている間は発電できない為、飛んでいられるのは一定の速度で飛び続ける場合に限るだろう。


「また行くの?」

「はい、今度はガレージに直接行って確かめたいと思います。夕食の時にはまた戻りますね」

「分かった。じゃぁ気をつけてね」


 一旦コクピットに座ってどう見えるかを確かめておきたかった。

 大雑把なところまでは神経網が繋がるのは早いみたいだったが、細かい所までとなるとやはりそれなりに時間が掛かる。

 それであれば、一旦作業は放置しておいても良さそうだし、あの機体のままだと会話が出来ない。

 今なら一応現地語での表示をすることは出来るが、話すにしてもテキストでの会話をするにしても中に入ってもらわなければ見えないし聞こえないのだ。


 とりあえずは機体の方はチェック以外にやることはないので、外側から見える部分を肉眼で確かめていくことにした。

 ガレージに行くとロジャー達3人はまだあーだこーだと頭をつき合わせて話をしていたが、テンペストが入ってくるのを見て手を振っていた。


「もう機体の方は良いのかい?」

「まだまだやることは多いですが、神経網が安定するまではこのままです。それよりも外側から色々と見ておきたかったので」

「なるほどね。こっちはこれらの兵器を解析していたんだけど……魔法無しでここまで作れるなんて本当にすごいね。これ一つも高いんでしょ?」

「ええ。ペネトレーターよりは安いという程度でしょうか。それは短距離空対空ミサイルなので射程は約30キロ程度です」

「……それで短距離なのか……しかも高いと来た。当たったら二度と使えないものにそんなに金かけられるってのは凄いな……」

「敵の侵攻による損害に比べれば軽微なものです」


 二度と戻らない命よりもお金で身を守るという感じだ。

 コストはかかるがそれを支えることが出来るからこそ取れる戦法でもある。


 そしてロジャーにも魔晶石で魔力の生成が可能かどうかを聞いてみたが、研究している人が居た。

 それどころかこの場に居るということで呼んでもらうことにした。


「どうも、魔道具技師のフンベルトと言います。このワイバーンの主要な機構の解析と置換を担当しています」

「中に詰まってる動かすための起動式とか、そういうのは殆どがフンベルトのチームでやってるんだ。親方達が作った物にそれを刻みこんで動かす……そういったことをやってるね。僕と一緒にワイバーンの動作なんかを術式に落としこむことをずっとやってたんだ」

「次から次へと知らない物が出てきましたが、合わせていくと全てが必要なものであることがよくわかります。ここまで複雑な物は見たことがありませんよ」


 フンベルトは緑色の長髪を後ろで縛ったエルフだ。見た目は青年だがやはりと言うか300歳を超えているそうだ。

 人族以外は殆ど見た目通りの年齢とは限らないので良く分からないのが困ったところだ。


 が、運良くというか、必然的にか研究を行っていたフンベルトが居てくれたのは嬉しい。

 早速聞いてみると、出来ないことはない、という回答だった。


「魔晶石に……例えばワイバーンにも使われている火竜の魔晶石であれば、火属性の現象を吸収して魔力に変換する作用があります。ただし等価ではなく大体2割ほどはロスしている様です。それと土と水に関してはその機能は無いみたいです。どうも攻撃とみなされることが重要らしいのですがよく分かりません。風に関しては強風吹き荒れる場所に置いておけば魔力が取れるのではと考えたのですが……受ける面積もあるのでしょう、微々たるものでしたね」

「雷は試さなかったのですか?」

「試しましたよ。ですが魔力を使って雷を落とす以外だと運任せです。雷を人工的に作り出せるのであれば話は別なのでしょうが……」

「であれば、攻撃と取れるほどに激しい高圧電流を与えれば……」

「理論上は魔力に変換されるでしょう」


 僅かにロスがあるとはいえ、魔力への変換が可能と分かったのは大きい。

 ただ流すのではなく、スパークさせなければならないかもしれないものの、決して不可能ではないだろう。


「雷とは、多大なエネルギーを持った電気そのものです。そして、そこに置いてある装置は電気を生み出すための装置です」

「……もしかして、人工的に雷を作れるということか!?」

「雷というか、雷の素というかそういうものです。細かいことは以前ロジャーに説明しているので聞いてください。今、雷の魔晶石を持っていませんか?」

「ああ、持っている。小さいがこれでいいかな?」


 魔道具の中に幾つか必要な物があったらしく、その部品用で持っていたようだ。

 手のひらに乗る程度の小さめのものだが、実験するだけなら十分だろう。

 ロジャーに風を起こしてもらって、発電機の回転部分に直接ぶち当てるようにしてもらってテストすることにした。

 見た目はあまり大きくはないが、超音速巡航をしながら使うものなのでギアは重く発電量も大きい。

 それでも雷の一撃に比べたら全く足りないが……それに今必死で頑張っているがロジャーの風もそこまで強いものではなかった。

 しかしちょっとしたスパークを起こす程度なら問題はない。


「準備は問題ありません、ここに向かってお願いします」


 適当に作った装置だが、とりあえずそれに電極を取り付けてわざとショートさせる。

 物凄い閃光と衝撃だったが成功したようだ。


「目が……」

「あ、でも成功です!あの一瞬だけでも結構魔力に変換されています!風の力を雷に変えることが出来るなんて……!」

「ということは発電機を作れば魔力を作り出せる……?」

「そういうことになります!そしてそれが出来るのであれば……設置型で一度設置したら放置しても構わないというような物も作れるということです。今まで人が手作業で魔力を充填していた作業が自動化出来るんです!素晴らしい……!」


 今まではあまり意味をなさなかった研究がここに完成した瞬間だった。

 そしてそれは当然ワイバーンへも組み込まれることになる。


「えーっと……この火竜の魔晶石の内包魔力はこのワイバーンで使う魔力だと……全力で使って20分ってところかな。ただ飛んでるだけなら1時間程度は飛べるはずだけど。これにさっきの技術で魔力を得ることが出来れば……少しは飛行可能な時間を伸ばせるかもしれないね。どんどん魔力の使用を減らせるようになってきているよ!凄いよテンペスト!」


 ロジャーもその意味に気がついたようだ。

 これは様々な発電施設を作るきっかけになりそうだ。

 このハイランドはただでさえ高山なので、強風がいつも吹いているところなんて珍しくもない。

 そういう所に風力発電装置を作り、電気を生み出しては魔力に変換すれば……。


 そもそも風の魔晶石を使えばそれだけでもこのワイバーンは魔力を補充しながら飛べるかもしれない。

 そのことを伝えてみると、テスト用のものを作ってみるとの事だったので頼むことにした。


「毎回驚かされるけど……本当にテンペストが教えてくれる知識と言うのは凄いよ。今回のなんて上手く行けば魔道具界隈に革命が起きる。今まで大きな魔晶石に貯めていたり、魔槽を使っていたことの一部がその場で魔力を生み出して使うことが出来る。更にマナ循環の記述を追加すれば持ちが違う。ワイバーンが完成した暁にはこれらの技術がハイランドで解禁されて……テンペストは大金持ちだね!」

「資金が増えることは嬉しいですが……皆の協力があってこそです。私一人の力ではありません」


 自分の意図したことをすぐに汲みとって、提案をしてくれるロジャー。完成した術式を使って魔道具を作るフンベルト、そして道具自体を作るゲルト。

 そしてそれらの下で働いている人たち。

 それに元々は自分の知識ではなく、他の人の発明や発想が元になっているのだ。自分がしていることは知っている知識を話しただけ。


「……でも、テンペストがそういうことを知っているって事は……もしかしたらミレスに居るかもしれないって言う人も知っているんだよね?」

「まだ居ると決まったわけじゃねぇけど……居ると思ったほうが良いんだろうな。確か、大砲を積んだ馬のない馬車っていうのがあったと思うんだが……馬のない馬車って何だ?そしてその答えをテンペストは知っているんじゃないか?」

「馬のない馬車……大砲を積んでいるということは戦車に近いものかも知れません。自力で走行が可能で大砲を積んでいるとなれば自走砲か戦車位でしょう」

「ミレスのってテンペストが作ったの比べて、性能が追いついてない気がするけど?」

「ああ、確かにニールの言うとおりだな。知っているなら何でそれを作らないのか分からん」

「それに関してはあそこは前科がある。多分、無理やり聞き出したりしてるんじゃないかな?テンペストのように協力的というわけじゃなくてさ。そしてそれを理解するだけの頭がない」


 以前ミレスの手に落ちた物は拷問の末、生きた屍の状態にされた挙句、精霊使いによって情報を搾り取られていたという記録がある。

 結果、死亡したが……テンペストのように協力していたわけではない上に「こういうものがある」としか言わなかったりした場合、簡単な仕組みなど位は吐いたかもしれないが、詳しいことに関しては知らなかったりしてそれを無理やり持ってる技術で作り出したとすれば、テンペストの物よりも劣っている説明はつく。

 実際、エイダを通して話をした時等は殆ど意味が通じていなかった。

 知識がなければ理解できないものを、上っ面の言葉だけで分かるわけがない。


「ミレスの性格上、多分廃人だろうな……可哀想に。出来ればそいつも救出してやりたいが」

「でもこれで向こうがこっちを上回る可能性は消えた……かな?」

「恐らくな。異変ってのもそういうもんかも知れねぇな……でも油断は出来ねぇか。威力で劣っているとはいえ向こうにはテンペストも知らない鎧の巨人もあるしな」

「どちらにせよ憶測の域を出ません。最悪の場合に備えることは必要でしょう。お二人はこの兵装の解析をお願いします」

「任せて!絶対再現してみせるから!」


 色々と考えてしまいそうなことは多いが、一旦は自分の事に集中することにした。

 先ずはワイバーンの完成が先だ。


 機首付近へと近づき、シートを降ろしてコクピットへと入った。

 内部はテンペストの体格もあるが広く、操縦桿等はよく見ると金箔を貼るなどして無駄に豪華になっていた。

 なぜそこにこだわるのか……と呆れながらも、機能的には問題なさそうだったので放っておくことにする。高くなったのはこういう装飾のせいもあるのではないだろうか。


 完全に閉じると外の音が全く聞こえない。まるで高級車に乗っているかのような感覚に陥るが、動作した時はどうなるかまだわからない。


 モニタをONにすると周囲が自分を中心に全方位見れるようにモニタに景色が映る。

 そこに赤外線カメラなどから得た情報をレイヤーのように重ねて表示させると、案の定ずれていたので処理をして重なるようにした。

 こうすることでモニタに直接赤外線カメラからの映像を映し出すことが出来、夜間であっても自分が見たい所を目視できる様になる。構造上、カメラは下についているので上半分はどうしても無理だが。


 更にHUDなどもモニタに直接表示できるように設定し、目線によってロックオンを可能にするオフボアサイトも再現してみる。

 任意でロックできるようにしているので、とりあえずロジャーをロックしてみるときちんと動作し始めた。ちゃんとロジャーが動くとマーカーがそれに重なるようにして動く。


 ほぼ真後ろに位置する敵でも、視認できればとりあえずロックオンは可能になる為、対応する兵装があれば自機の後ろであっても攻撃することが可能になるだろう。


 シートに座ったまま今度はワイバーンの方へと移動すると、シートに座っているパイロットの生体情報を感じ取れる。

 今は目を閉じているため、眠っていると判断されてコクピット内には警告音が鳴っている。

 機能を一旦切って全体の調整へと移ると、おおまかな所はだいたい浸透したらしい。


 やっとでウェポンベイの部分や、垂直離着陸用のエンジンが積んである場所を開けるようになったので、降りて確認してみることにした。


「……ここまできちんと作りこんでくれているのですね」


 しかもこの世界では不必要な部品を大幅に削って居るため、総部品点数は元の半分以下にまで減っているという。

 よく見てみれば確かにネジなどのパーツは存在せず、全てが滑らかに溶接されているかのようだ。


 エンジンはジェットエンジンと違ってファンなどが存在せず、見た目はただの空洞だ。

 某メーカーの扇風機のように。

 内部は独特な形状をしており、きちんと空気を圧縮して加熱出来るようにしてあった。

 燃焼の代わりにニールがやっていた高温を生み出す焦熱の星とやらの簡易版を生み出すようになっているという。

 そこを通った空気は一気に加熱され、増した体積によって爆発的に噴出していく。

 仕組みとしてはジェットエンジンそのままだが、可動部品が無いためメンテナンスも楽だ。

 鳥などを吸い込んでエンジンがストップするということすら無いだろう。

 吸い込まれればそのまま流されてこんがりと一瞬で焼かれた後に、吹き飛ばされて散り散りになるのが関の山だ。


 センサー類も半数が接続を確認。その中で要らない物を切り捨てていく。

 燃料系、油圧系に関する物はほぼ必要なくなった。全ては魔力によって動き、動かすのは人工筋肉とも言えるものだ。

 これで呼吸や食事などをすれば生物と言えたかもしれない。

 なにせこの機体の装甲板の下には人工筋肉が存在するのだから。

 筋肉と言っても普通の肉ではなく、これも魔物素材の一種だったりする。

 クレイゴーレムという粘土系のゴーレムの身体その物だ。粘土のように見えるがそれ自体が筋肉のように動かすことが出来る。

 魔晶石を介してやることでそれぞれに細かく命令を出して動かすことが可能なのだ。


 つまりゴーレム自体も頭をすげ替えればある程度の動きをすることが出来るはずなのだが……。

 実際、例の魔物に寄生されたゴーレムは、普通のゴーレムと違ってちょっとした学習能力があり、動きもまた緩慢なものではなくなる。


 クレイゴーレムは特にそれが顕著な種なので、義手の人工筋肉にも使われている。


「魔導エンジンへの接続を確認。魔導エンジンを起動します、注意してください」


 周りに警告してから、火竜の魔晶石と各部に散らばる魔槽から魔力が流れ、3つの魔導エンジンが起動する。

 ただ現時点ではただ少し風を起こすだけだ。

 ちょっとばかり風力過剰な扇風機程度と言った具合の所で調節する。


 後ろでバサバサという音とともに、資料が!と叫んでいる技師たちの声が聞こえていたがあえて聞かなかったことにした。ちょっとだけ謝りながら。


「おおお……これは涼しい!」

「あー……良いなこれ。工房に1基欲しい。……作るか」

「作ってもいいけど風だけにしたほうが身のためだよ」

「誰がこれそのまま作るつったよ!工房吹き飛ぶわ!」


 コリーとゲルト達も機体後部に集まって風を受けて居た。

 しかし、スラスタの動作確認のために起こした風だ、魔導エンジン後部のノズルでジェット噴流の向きを変える為の制御装置だ。

 これによって固定翼機でも高い運動性能を発揮することが可能となり、これがなければ垂直離着陸は出来ない。

 生き物のようにぐねぐねとなめらかに動くノズルを見て、ゲルト達技師は驚きの声を上げていた。


「こんな動きをするのか!テストじゃそこ動かせなかったから分からなかったが……」

「まるで生き物だ……」

「こうして推力の向きを変えるのか……聞くと見るのとでは大違いだ」


 ジェットエンジンのような甲高い音もなく、ただ風を起こしているだけ。

 それでもこの推力偏向ノズルの効果は十分分かる。高温には楽に耐えるのは何度かテストをして居ることから明らかで、その結果のデータを見て驚いたのは推力を機体の総重量で割った推力重量比と呼ばれるものだ。

 空気抵抗を考えなければ、この比が1を超えていれば主翼無しで垂直に上昇することが出来るということになり、ワイバーンは当然垂直離着陸が出来る様に推力重量比は2に近い値を叩き出している。


 しかし現在は……推力重量比は2を飛ばして3に近い。

 この新しいワイバーンを2つ括りつけてもまだ垂直離着陸が出来る計算なのだ。

 科学にとって、理不尽なまでの魔法の力はあっさりと最新の技術の粋を集めた結晶であるジェットエンジンをあっさりと抜き去ったのだ。あの単純な作りで。

 開発者がここに居たら己のしてきたことを一瞬でひっくり返されて泣くだろう。


 まあ、中央の垂直離着陸用のエンジンだけならそこまでは行かないが、燃料と武装を満載にしても滑走すれば短距離で離陸することは出来る。

 そして推力が大きいということは速度もそれなりに出せる。

 素材により熱の壁は突破出来るらしいが……。


 想像を遥かに超えたスペックを秘めた新しいワイバーンに、だんだん興味が出てくるテンペストだった。


オフボアサイト:大抵の場合はヘルメットなどと連動したHMD(最近良く聞くヘッドマウントディスプレイみたいなもの)を使うなどして、本来ならば機体前方にいる敵機しかロックオンできないものを、真横にいてもロックできるようにしてるもの。


コメントでもらったオーラ・ワイバーン以上のかっこいい名前が思いつかない!!

もうこのままオーラ・ワイバーンを正式名称として使わせてもらおうかな……。

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