第二十九話 新しい機体
王様がテンペストが精霊であるということに触れた部分の文章がまるっと消えてました。
新しくその部分を追加しております。
「テンペスト……ごめん僕が悪かった。っていうかこれを1日で書ききったのもすごいけどさ!」
テンペストが速記で書きまくったのは弾道計算用の数式だ。
それぞれの記号の意味などを記して出したのだが、ちょっとした本になっているのだった。
なにせ入れなければならない変数が多い。
初速から弾の重さ、抵抗等を考慮したものだけであれば楽なものだが、これに風の影響やら様々なものを入力してようやく導き出せるのだ。
ついでに言えばこの世界の星の大きさや重力などが正確にわからない以上、完全なモデルは作れない。
そしてそれをやれと言っているのだこの本は。
「まさかここまでとは思わなかったよ……」
「ニール、これ分かるか?」
「……見たくないです。頭がおかしくなりそうだ」
「長距離狙撃というものはこれらを計算してある程度導き出さないと近くにも当たりません。これをやっても最終的に問われるのは狙撃手の長年の勘です」
「それでも制御出来ないばらつきなんかがあるから正確ではない……と。はぁ……大きな魔道具になりそうだなぁ……」
「出来れば風の流れを正確に自動で計算できれば最高ですが」
「僕を殺す気!?」
そしてばらつきを減らすためにゲルトへも注文が行き、流石に泣きが入った。
一つ一つ魔法を使ってとは言え手作りの弾丸を正確に全くブレがなく作れと言われても無理があるだろう。
しかも要求しているのは目視できないレベルの物だ。そんなことを言われたことなんて無いゲルトが逃げるのも当然だった。
しかし、正確に全く同じ動作を繰り返す魔道具を作り出す事で解決を図ろうとしているので、とりあえずは大量生産の目処は立った。
「まあ、ここまで複雑な計算が必要なのはテンペストが言う通り長距離を狙う時位なもんだから、通常の狙撃用のものはもっと簡略化していいだろうけどね。それくらいなら何とか作ってみるよ」
「さぁて、それじゃあ後の全員はこっちだ。射撃訓練始めるぞー」
ちなみに全員まだスコープをつけていないため、目視での狙撃だ。
スコープに関してはこれもゲルトの領分となるが、レンズだけは専用の人が居るそうなのでそちらを頼ることになる。
よって現在の所はまだ実現は出来ていない。
こうして小雨の降る中、岩に向かって数発のテスト射撃を行うのだった。
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王都へつくと、兵士たちが慌ただしく動いているのが目についた。やはり戦争が起きてミレスが勝利したことで相当混乱しているらしい。
宵闇の森を超えて襲ってくるのではないかという話もチラホラと聞こえてきた位だ。
しかし鎧の巨人の話を聞いていると荒唐無稽とも言えないだろう。
「本格的に動き始めているようだな」
「同盟国やられちゃってるんでこっちに飛び火しないともかぎらないからねぇ」
「私はどうすればいいのでしょう?」
「エイダ様も今回はこのまま王城へお願いします。もう話は通っているはずですから」
「正直今日はもう休みたいけどね……。あまり寝てないし、ここ来るまでずっと雨だったし」
ロジャーの寝不足は弾道計算用の魔道具の開発のためだ。
揺れる馬車の上、熱中するとずっとやり続けるロジャーだったが流石に場所が悪すぎた。
途中完全に馬車酔いして真っ青な顔をしている。
護衛達も相当疲弊しているし、やはり雨はかなり体力を奪っていくようだ。
「僕達も一緒にですか?」
「当然。もう関わったんだから覚悟決めてね?」
「……胃が痛い……」
庶民なニールには辛い場所だ。なにせ周りが全員格上、貴族しか居ないのだから当然と言える。
やがて馬車は王城の中へと入っていく。
護衛の兵士たちは一旦ここで別れる事になる。実際の所早く休みたいだろう。
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「待っていたぞ。まあこのハイランドの天気だ、仕方あるまい」
「恐縮にございます、陛下」
皆が跪き、少し遅れてニールが真似をする。
頑張れ。
そもそもニールは謁見自体したことがない。作法も何も分かったものではない状態でここに連れてこられていればこうなるのも無理は無いだろう。
とはいえそれを一々咎めるような王ではない。
ミレスなら危なかったかもしれないが。
そのまま戦争の話になり、情報のすり合わせを行う。
結局大した違いはなかったものの、こちらが王都へと進んでいた時間で進展があったようだ。
「コーブルクが落ちた」
「なっ……!?」
「悪い冗談にしか思えんだろう?事実だ。現在難民の受け入れを進めている所だ」
コーブルクは大きな城塞都市を王都とし、強大な軍事国家として有名な所だ。
ミレスはあの鎧の巨人と大砲を載せた馬のない馬車、ライフル隊と遠距離からの攻撃によって魔法使い達もまともに抗うことが出来ずそのまま王都を乗っ取られたらしい。
ミレス側も無傷とは行かなかったものの、少数で数の利を押し返してあっという間に王都へと侵入を果たした。
そこからは鎧の巨人による虐殺だったそうだ。
「何よりその他にもこちらの知らない武器があったということだ。何かが飛んできたと思ったらそれが爆発して壊滅的な被害を被ったという報告があった」
「それは……どのようなものだったのでしょう?」
「分からん。それが使われたのは一度。遥か後方からそれらが飛来し、陣形をとっていた兵に直撃、いくつかは城壁内へと入りかなりの施設がやられたというが。実際に見たものが言うには巨大な火を噴く槍と言っておった」
「……テンペスト」
「ミサイル、若しくはロケット弾に準ずるものかと」
槍の形状で火を吹き、着弾と同時に爆発するというのであればそれらくらいしか無いだろう。
誘導されているならミサイルだが、無誘導ならロケット弾だ。恐らく後者だろうと考える。
ミサイルの方は高度な技術が必要だ。
しかし通常効果範囲はそこまで広くはないはずだが、そこは恐らく魔晶石を使うなどして効果範囲を拡大しているのかもしれない。
「似たものは私の装備にもあります。まさかそのような物まで所有しているとは……」
「……そなたの知るものである可能性が高いか」
「はい。状況からロケット弾であると推定します。細長く先端が尖った形状の筒の内部に火薬と推進剤を詰め込んで発射するもので、爆弾を遠くへと飛ばすのと同じようなことをある程度精度と飛距離を持って行うことが出来る兵器です」
「爆弾を……カタパルトとは違うのだな?」
「遥かに早く、長距離を狙えます。想定外でした、剣と弓だけでは蹂躙される可能性は高くなります」
実際すでに一つ陥落している。
中枢に食い込まれ、コーブルク王は現在幽閉されているということだ。
「対抗策はあるか?」
「先に見つけて潰すのが一番早いでしょう」
ワイバーンを使わないのであれば、魔法の射程内に近づき直接攻撃を加える、もしくは簡易の壁を作るなどして防御するのが手っ取り早い。
恐らく接触と同時に爆発するので危険範囲内に突っ込まれる前に爆発させてしまえば大した脅威にはならないのだ。
柵を張り巡らせるだけでも大分違うだろう。
「出来るか?」
「訓練次第ですが……」
「陛下、対抗できる武器を現在作っております。ミレスで使っていたものに似ていますが恐らく威力、射程、命中率で大きく上回るでしょう」
「本当か?今持ってきているか?」
「ここに来るときに預けてあります。練兵場で今すぐにお見せすることが可能ですが」
「よし、今すぐに空けさせる。見せてみよ」
側に居た者が走っていく。
それを横目で見ながら王様がポツリと呟いた。
「顕れるのは今までは人間のみ、精霊ではない……となれば予言の物は精霊テンペストではない可能性もあるか?」
「陛下、それはどういう……」
「ん?あぁ、今ふと思ったのだ。異変とは顕れる者が食い止められる何かである。そして現れたのは今のところ人間である可能性が高い。恐らく保護できなかった者達は皆人間だろう。精霊ではないはずだ。……まぁ、たった数回の事で決めつけるわけにも行かないが……どうにもミレスの技術が引っかかる。まるで、テンペストと同じような所から発想を得ているとしか思えん」
「それは……確かに。ということはミレスにも誰かが?」
「ミレスにも、というかまたしても予言のものはミレスの手に落ちたというか。そして代わりにこちらには精霊であるテンペストが来た。魔力体よりも高位の存在である精霊がだ。本来なら人間一人が来る予定だった……と考えると……」
「……私はイレギュラー……?」
「かも知れない、ということだ。ただ何となくだが、可能性は高いような気がしてならない。頭の片隅にでも入れておいてくれと言った程度か」
そう言って頭を掻いていたが、あながち間違っていないのではないかとも思えた。
もしかしたら、本来だったらコンラッドがその立場の者に選ばれ、テンペストとともにこの地に降り立つ予定だったが、別な存在が割り込んだがためにコンラッドが死んでいたとなれば?
敵だったのか味方だったのかは分からないが、あの爆発に巻き込まれた人数で言えば敵の方が多いはずだ。
確証は無い。でも状況からみてその可能性はある。
すっきりしない感じを抱えたまま、練兵場へと移動することにした。
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「あの、師匠?精霊ってどういうことなんです?」
「テンペストのことだよ。詳しいことはワイバーンを見た時に教える」
「もう隠し事してないだろうな?なんか先が見えねぇんだが」
「してないよ。っていうか、色々あってね……テンペストは一人の女の子として暮らしてもらっているっていう状態なんだ。詳しいことはエイダ様から伝えてもらおう」
「分かりました。ではワイバーンの所へ着いたらお教えしましょう。ニール様、コリー様、これから見ることは時期が来るまでは他言無用にてお願い致しますね?」
王様が思いっきりテンペストの正体を喋ってしまったため、またサプライズが失敗してしまったが……それでも二人の顔を見ていると色々と混乱しているようで面白かった。
本人であるテンペスト自体は特に気負ったところもなく何時も通りなのだが。
衛兵に預けたライフルとペネトレーターを返してもらい、練兵場へ行くと幾つかの鎧を着た木偶が置かれている。
練兵場は広く、直線で200m程は取れそうだ。十分な距離だろう。
というか、テンペスト以外はこれ以上の距離で当てられない。
そこへ甲冑を着込んだ王様がやってきた。
初めて見る甲冑姿はとても凛々しくて、まさに王様と言った具合だったがよく見てみれば結構使い込まれた鎧であることが見て取れる。
お飾りというわけではないようだ。
「それがそうか?」
「はい、精霊テンペストの世界ではライフルと呼ばれているタイプの武器だそうです。これはその中でも強力な物だということで、高価な甲冑でも貫通させることが可能です。これに関してはゲルトから作り方を教えて行けば量産は可能でしょう」
「魔物狩りにも使えるか。では早速見せてみるが良い」
「はい。では我々の後ろへ。また大きな音がしますので耳を塞いでいたほうが良いかもしれません」
合図とともにサイモンの部下が一人出てきて一度国王に向かって礼をしてから甲冑に向き直る。
しんと静まり返った練兵場に、突如響き渡る破裂音。ほぼ同時に鎧が胸の辺りで折れて吹き飛び、練兵場の反対側の壁に白煙が上がった。
「……なんと……。あの時に見たものと同じようなものではないか」
「はい。これでも威力は低いらしいですが……こうして歩兵に持たせて携行できます。有効射程は2000m程ということでしたが……当てるには相当な技術と計算が必要とのことで今のところ現実的ではないようです」
スコープが出来上がるまでは特に無理だろう。
テンペストでさえも目標が見えない為狙うには計算のみで何とかするしか無い。
「また、こちらは精霊テンペスト専用の武器となっていますが……威力、射程ともにライフルとは比べ物になりません。……飛竜の鱗はありますか?地竜でも構いませんが」
「地竜だと?飛竜よりも遥かに固い鱗を持っているのだぞ。あまり大きなものではないが地竜のものがある。それを的にしてみるが良い」
出された物は小さいとはいえ縦横1m程で鱗として考えた場合は十分大きい。
しかしそれが練兵場の端っこに置かれているとなると肉眼では砂粒のように見える。
「……行けるか?」
「見えていれば可能です」
サイモンからペネトレーターを受け取り、折りたたんでいた銃身を広げ固定する。
用意してもらった土のうに銃身を固定して狙いを定めると引き金を絞った。
しっかりと固定されていたはずの地竜の鱗は砕け散り、練兵場の壁を破壊して大穴を開けていた。
幸い貫通はしていなかったため外に被害は出ていなかったが、これが徹甲弾だったらと考えると恐ろしい。
「見事!まさか地竜の鱗ですら砕くとは!これは量産できないのか?」
「ライフルの方は可能です。が、ペネトレーターは扱いが難しく恐ろしく高価なのです。制作費もそうですが弾の値段もライフル用のものと比べると高額になります」
「むぅ……ではとりあえずライフルに関しては早めに数を作れ。遠距離から狙えるというのであれば今からでも訓練を開始させたい。後は……」
「ワイバーンですね?」
「そうだ。ミレスが異変であると言ってももう我は驚かん。明らかに異質だ。それをすぐに調査し、出来ればコーブルクを取り戻したい。今の装備だとコーブルクの守りを突破するには装備が弱いが、我々ハイランドの民は空からの攻撃がどれだけ恐ろしいかを他の国のどこよりも良く知っておる」
長年飛竜の脅威に晒され続けてきたこのハイランドは、ある程度の対空装備を持っている。
それでも尚太刀打ち出来なかった飛竜を難なく撃墜してみせたワイバーンだ、脅威度は明らかにワイバーンのほうが上である。
「平地の奴等はあまり知らないだろう。飛竜と戦うということがどういうことか。バリスタや大砲も竜撃砲ですらまともに当てられず、地上に引きずり落としてようやく勝利することが出来る絶望感をな。……そのためにもワイバーンが必要だ。やってくれるか?」
「はい。今度こそ私は守り抜くと決めました。そのためならば協力を惜しみません」
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練兵場を出て、ニールとコリーに本当のことを教えると驚きこそしたもののむしろ納得したという感じだった。
あまりにも人間離れしたその能力は、どう考えても身体に合わない物で年齢的に考えてもおかしいことだらけ。それであればむしろ精霊が降りた肉体と言われたほうが納得できるというものだ。
そして暫く歩いてたどり着いた先は、地下に設置されたガレージだった。
布を被せられて、中央に大きなものが鎮座している。
「……これが、ワイバーン……ですか?確かに大きい……」
「形と出力のテストだけは終えている。制御は嬢ちゃんがするって事でいいんだよな?」
「ええ、あまりにもバランスが悪い場合などは修正してもらいますが」
「分かった。……それで、大事なものはどのように入れておけばいい?」
指示するとすぐさま作業員達が慌ただしく動き出す。
被せられた布が剥ぎ取られ、そこに現れたのは……まさしく飛竜を模したと言っても過言ではない新しいワイバーンの機体。幾つか穴が空いておりそこはテンペストのニューロコンピュータが収まった後にセンサー類が取り付けられる場所となる。
形こそワイバーンを元にしているため似ているが、誰がどう見てもその凶悪さは今のほうが上だ。
黒いボディーに幾筋かの赤いラインが走る場所は火竜の鱗を使った装甲板が取り付けられている場所だ。
そして、今までは考えられなかった数々の装飾品。しかしこれも近寄ってみれば一応きちんと溝を埋めてあり空力に作用しない様になっているという。
地上から3~4m程上にあるコクピットへの梯子は無く、コクピットの一部がゆっくりと下へ下がってくる。
シートも見るからに高級品と言った感じの本革張りで、どう見ても戦闘機よりは高級車のシートにしか見えない。
折りたたまれた翼が降りてきて完全な形を取ると、ニールとコリーは大歓喜だった。
確かに格好はいい。格好はいいが……本当に大丈夫なのだろうか、とテンペストが不安になるのも無理はなかった。
指定の場所へとテンペストのアビオニクスが取り付けられていく。
配線はとある箱状のモノへと収められて格納されるが、これが今回の一番の肝となる部品だ。
一部の魔物に、生き物に取り付いてその行動を奪うという寄生型の種がいる。
それは取り付いた後に脳へと侵入し、本来の脳の代わりに自分の意志で体を動かせるようにする為、神経系等を上書きしていく。
ゴーレムですらも操れるその魔物の特性を利用して、超が付くほどの高級品だが義手なども開発されているのだが、その技術をそのまま流用した。
本来であれば定着させるために、傷口を綺麗に切り落としてからその魔物の身体をくっつける作業があるのだが、生体部品のないワイバーンではそれが電子機器などの配線と繋がるのだ。
それはまさしく神経となり、この生命のない機体に2日ほど掛けてゆっくりと浸透していき、内部を這いまわって繋がっていく。
この際、テンペストが乗り移っている場合はある程度誘導できるはずだ。
義手などの時もそうだが、宿主の記憶通りに動くために自らを最適化しながら馴染んでいく性質がここで生きてくる。
「……すげぇ……これ、空飛ぶんだよな……」
「かっこいい……!黒いのは元の金属とかの色そのままかぁ、このままでいいな。おっきいなぁ!」
「お、おいニール、あんま触るなよ!壊れても知らねぇぞ!?」
「そんな簡単に壊れるようじゃ空なんて飛べないよ!おお!この空洞は何だろ?えーっと……なんかすごい術式がみっちりと書き込まれてる……」
元のワイバーンを知らない2人だが、この新しいワイバーンの出来が気に入っているようだ。
機首は飛竜の頭を機械的にした感じの造形となっており、コクピット周りを中心に全体的に埋め込まれている水晶レンズや、センサー類が次々と取り付けられていくさまを見て乗りたい乗りたいと騒いでいた。
「……まあ、気持ちはわかるけどね」
「しかし、要らない突起が多いように感じますが……特に機首の顔についている牙を模した所など、無いほうがいいのですが……」
「空気抵抗、だっけ?確かに実験した時下手に大きいと抵抗が大きくなってぶれたりするね。でもあれは干渉しないようになってるよ。それにやっぱり見た目で威厳とか出したかったみたいでね、装飾とかに関しても言われていたけど、きちんと言われたことはクリアするようにって魔法技術者達が頑張っていたよ」
なぜ、そんな無駄な所を頑張ったのか……と言いたかったが、大丈夫だとロジャーが言っているのだから本当に問題ないのだろう。多分。
それは飛ばしてみれば分かることだ。
「全ての装備がついたようですね。エイダ、すみませんが私の身体を頼みます」
「ええ、言ってらっしゃい、テンピー。私の部屋で寝かせて置きますから、ご飯時には戻ってきてくださいね?」
空腹もそうだが、一番の問題は排泄だろう。
まあ、だからこそ信頼しているエイダの元へと自分の身体を置いていくわけだが。
「ん?テンペストどうしたんだ?寝ちまったか?」
「いえ、今向こうに行っています」
「向こうって……ワイバーンか!おーいテンペスト聞こえるか?」
「多分聞こえては居ますがまだ動けないでしょう。私たちに出来ることはもう無いですし、私はテンペストのこの身体を部屋に運びますが……どうしますか?」
「ん……うーん……俺達はもう少しここで見ていたい。先に戻っていてくれて構いませんよ、エイダ様」
サイモンとエイダは退出し、ロジャー、コリー、ニール、ゲルトは残って作業を見守ることにした。
機体の方には今のところ手を加える所は無いが、他にもやることはある。
「……さて!テンペストが頑張っている間、僕達は僕達が出来ることをしようか」
「本当にあの中にテンペストが……?」
「居るよ。だからこそ精霊使いのエイダ様が居たんだ。テンペストはこのワイバーンそのモノなのさ。戦闘のために作られた存在と言っているけど」
「戦闘機でしたっけ?元のワイバーンも見てみたいですね。というか、テンペストの居た所はこんなのが沢山飛んでいたのか……」
「飛竜とかは居なかったみたいだけどね。魔法も。ワイバーンも同じ戦闘機同士が戦ったり敵の基地を破壊するための兵器なんだってさ」
「こええ所だな……。んで、俺達がやる作業ってなんだ?」
「ワイバーンに搭載されている武器の再現だよ。えーっと……これか。これがテンペストのストーンバレットの元になった物だよ。ストーンバレットよりも凶悪だよこれ。テンペストは魔力不足であまり使わないけど、こっちは連射が効く。弾は代わりのものが作れるようになったからもう換装できるかな?」
そこには複数の筒がついたガトリング砲があった。
初めて見るそれに興味はあるが、あのストーンバレットよりも強力と言われると何となく近寄りがたい。
「そっちの細長いのは?」
「王様にテンペストが話ししていたけど、これがミサイル」
「ロケなんちゃらとは違うのか?」
「ロケット弾は形は似てるけど誘導できないって言ってたね。ミサイルの方は狙ったら追いかけてくるってわけ」
「なにそれ怖い」
ワイバーンよりも早い速度で迫ってくるミサイルを見てしまうことを考えると恐ろしい事この上ないだろうが、見てしまった場合次に訪れるのは死だろう。
「相手に向かって飛んで行くか…………ゴーレムの技術使えねぇかな?」
「いいね。後はゴーレムの頭でも操作できるようにしなきゃならないか……」
「こっちの大きいのは?」
「無誘導の大型爆弾だってさ。ちょっとした街ならこれ一個で大半消し飛ぶってさ」
「んなおっかねぇもん無造作に置いとくなよ!」
「テンペストに教えてもらって安全装置取り付けてるから大丈夫だよ」
それらの会話をワイバーンの中で聞きながらテンペストは作業を続けている。
コクピットのすぐ目の前にある機首の中に入ったレーダーはすぐに接続できた。探査はしていないがソフトがそのまま使える様に調整済みだ。
今は赤外線カメラを備えた赤外線探知機器の設定に入っている。
と、主翼に伸びている神経網からの反応が返ってきた。
これで両翼も繋がった。光学機器にも繋がり、ここでようやく外の様子が見えるようになる。
カメラを回してみれば奥のほうでロジャー達がミサイル等をみて話し合っているのが見えた。
コクピット内部のオクロという水晶レンズを使った装置でほぼ360度の視界を確保した部分へもアクセスし、画像分析を行なってつなぎ目を滑らかにしていく。
魔力によって使えるようにと設計されたそれらの魔導機器と呼べるそれらは、機械と融合して一つの架け橋となっていった。
こうして、1つずつ繋がっていくセンサーや神経網を一括で管理しながらも、他の場所でも気流の流れなどを正常に均す為の自動制御を組み込んでいき、ワイバーンは生まれ変わっていく。
そしてコアとなる大きな魔晶石へと神経網が繋がると、今まで仮でくっつけていた物は切り離されて完全に独立した制御へと切り替わる。
ぽつぽつとコクピット内部の水晶モニタに情報が描き出され、周りの景色が映し出されていく。
「あぁ、繋がりだしたね」
「すげぇ……」
「動いてる!動いてるよ!……あれ何やってるの?」
「動作の確認でしょ。見た感じ後ろの方はまだ繋がってないのかな。動きがないし……」
「そういやあれって何で動いてるんだ?」
「火竜の魔晶石だよ。テンペストがここに来て仕留めた奴のね。わざわざこれのために買い戻したんだ」
ワイバーンの再起動まであと少し。
後で章とか作ったほうがいいかもしれない。
ようやく登場しました、新しいワイバーンです。
より凶悪な面構えになり、性能も上がりましたがまだまだ中身は空っぽ。
ニールとコリーは大興奮です。