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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第二章 ミレス騒乱編
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第二十七話 ミレス

「またミレスからの攻撃がありましたな」

「今回はこちらにも被害が出ております、数の上ではこちらが有利……囲んでしまえば手も足も出まい」

「あの城壁から外に出ずにずっと生きながらえてきたのだぞ?籠城はお手のものだろう。やはりここは大砲隊で壁を崩すのが良いかと。我々の新型大砲の威力を見せつける時だろう」

「あの火砲も相当近づかなければ鎧すら撃ち抜けん。弓兵の剛弓の方がよっぽど強かろう」

「ならば我々重装部隊が盾になろう。もう奴らの好きにはさせん、ここで討ち取り二度と手出し出来ぬ様に管理すべきだ」


 ルーベル王国へのミレス共和国からの攻撃が多くなり、じわじわと被害が出始めていた。

 すでに国境を超えて入って来ては何度か挑発して帰っていく事を繰り返していたが、ついに数十名の死者まで出すことになり、兵士たちからは様子見を行なっているだけの国に対しての不満も増えてきている。


 確かに、高い城壁に囲まれ近くに行ったものは尽く戻ってこない不気味な国家。

 しかしこうして散発的に攻撃をしている分には特に強力な武器もなく、みすぼらしい格好をした兵士たちが現れてはすぐに帰っていく事から命令一つあればすぐにでも尽くを殺してくれると兵たちの士気は高い。


 そして……その思いはついに現実となる。

 ルーベル王国、並びに被害を受けていたコーブルク王国で同時にミレス共和国への宣戦布告を行なった。それと降伏を伝えに行った伝令の死をもって、降伏する気はなく応じるものと判断し、ついに戦争が起きたのだった。


 ハイランドも兵を一部出兵させ、間に合わないために物資の補給として参加させることとなった。


 □□□□□□


「戦争ですか?」

「まあ、当然といえば当然だし、今まで手出しをしなかったほうが不思議なくらいだがね。流石に被害が出たのはまずかった。今までは物資が燃えたり、怪我人が数人出る程度の小競り合いだったから良かったけど死人が出たからね」

「私たちはどうなりますか?」

「私達は何も心配しなくてもいいよテンピー。ハイランドは前にも教えた通り宵闇の森を突っ切った上で険しい山を登らなければ辿りつけない。そこまでの危険を犯す国家は居ないよ。前回アンデッドを殲滅した場所だって入り口から少ししか入ってないからね。広大なあの森の中で道を見失わずに向かってくるだけでも一苦労なのに、四方から襲ってくる魔物がいる。それにハイランドは補給部隊だから物資を届けるだけなんだ、むしろ情報を持ち帰れるからこっちは助かるかな」


 ハーヴィン領からも数名部隊へ送り出している。

 基本的に後方支援をしながら情報を得るために送り込んだようなもので、通信用の魔道具も渡してあった。


「高級品を持たせたんだから頑張って欲しいところだね。このままミレスが壊滅したらそれはそれで異変がどうなるのか気になるところだけど」

「話を聞く限り脅威度は低いと思われます。鹵獲した武器などもこちらで試した限りでは軽装歩兵の鎧は抜けてもそれ以上となると無理です。こちらで作った物であれば話は別ですが」

「私達もそういう考え方だよ。まあ、とりあえずは様子見だ。このまま壊滅するなら良し、だ」


 1週間後にミレスへ向けてルーベル、コーブルクの二国は進撃する。

 それから少し遅れてハイランドの部隊が到着するためもしかしたら終わっている可能性だってあった。


 とりあえずは何もすることはない、ということで通常通りに研究と訓練を続ける事になり、テンペストはロジャー達の元へと向かった。


 □□□□□□


「戦争かー。まぁこっちにゃあまり関係ないか」

「まあ、そうだね。だからこっちはこっちで魔法の訓練だよ!ほらニール、コリー、テンペストを見習いなよ」

「おーうやってんな!なんだもうそっちが先にやってるのか」


 ゲルトが筋トレを終えて戻ってきた時にはロジャーの指導での練習を行っていた。

 戻ったら鍛冶魔法の続きをやろうとしていたのだが、先を越されてしまったらしい。仕方ないので手持ちの物でテンペストのワイバーンに搭載されている弾丸を再現すべく集中し始める。


 ロジャーが何とか解析しながら作り出した無煙火薬を発射薬に、弾頭は徹甲榴弾とするために中にはグラビタイトと呼ばれる平方センチ辺り50g程の重金属が使われ、これはアダマンタイトやオリハルコンなどよりもずっと重い。地中深くで見つかり、これにぶつかるとオリハルコンのツルハシでもないと壊れる上に、持って行くにも重くて大変なためにドワーフからはかなり嫌われている金属だ。

 初速をあげるために発射薬に更に魔晶石のパウダーを混ぜて居るため、反動は大きくなるものの威力は大きく上がることになる。

 更に、グラビタイトの塊が貫通したと同時に内部に仕込まれた魔晶石が反応してその周りを吹き飛ばし、内部の損傷を広げる。


 これが完成してワイバーンに搭載できればかなりの戦力となることは間違いない。

 ゲルトは出来立てのそれをいそいそと銃身に見立てた筒に入れ、しっかりと固定して魔晶石を直接反応させた。


 パァン!と物凄い破裂音が響いて発射された弾頭は見事に竜の鱗と肉を模した的へと命中し、目論見通りに鱗を貫通して肉を吹き飛ばした。……が、薬莢が残るはずの銃身が消えていた。


「おっさん!あっぶねぇからもっと向こうでやってくれ!!」

「なんか破片こっちまで飛んできたんですけど!?」

「お、おう!わりぃわりぃ!」

「親方……反動でかすぎるんじゃない?しかも強力にしようとして火薬と魔晶石詰め込んだでしょ?銃身吹き飛ばしたら意味ないじゃないか」

「すまん、やり過ぎた。が……弾頭は成功したぜ。テンペストに幾つか作っといてやるか」


 重くて固くて大して使いものにならないと思われていたグラビタイトだが、思わぬ所でまさかの用途が見つかった。

 安く、大量に見つかるこの素材は加工も難しいため何にもならず、基本的に錘として使われる以外の用途はほぼ無かったのだ。その為弾丸の値段をかなり抑えることが出来る。


「そうだ、嬢ちゃんのペネトレーター用にも作ってやるか」

「いえ、それには及びません。弾丸が重すぎて加速は良いのですが私が支えきれない反動が起きてしまいます」

「まあ……単純に今の3倍近い重さになるからな……」


 ペネトレーターはテンペストのレールガンの名称となった。

 全てを貫通し、火竜の鱗ですらそれを止めることが出来ず、オリハルコン製の厚さ10センチにもなる板ですら数ミリ残してやっと食い止めたそれを見て、全てを突き通した槍の異名をつけたのだった。

 無強化で純粋な物理攻撃のみでそこまでの威力を出したものは今のところ無い。

 今ですら反動がきつくて伏せ撃ちでなければまともに撃てないペネトレーターで、初速を維持したままで弾を重くすることはテンペストに要らぬ負担を掛けてしまうことになる。


 反動を考えずに撃ち出せるストーンバレットであればまだ扱えるだろうが、その場合は弾頭のみあればいい。ただし重くなった分やはり魔力消費も激しくなることが予想されるため、単発で使うに留めた方がいいかもしれない。


「っていうか親方さん何作ってんだよ?そんなん誰も使えねぇだろ?」

「ああ。人が使うもんじゃねぇからな。こいつはワイバーンに乗っけるやつだ」

「ワイバーン……?翼竜ですか?」

「あ。……やべ」


 うっかり口を滑らせたゲルトにジト目でロジャーが抗議するもののもう遅い。


「……やべ……ってなんか面白そうなことしてるのか?」

「あ、いやそういう訳じゃなく……」

「いやいや、そういう事ですよね?ゲルトさん?」

「あぁもう……まあいずれはバラす予定だったんですけどね。王都に行って、ワイバーンを見せてどやぁ!ってやりたかったのになぁ。固定武装だとか適当に言っときゃ良かったのになぁ」

「その手があったか……」


 どの道、一緒に付いて行くといった時から、2人を巻き込むことを決めた時からいつかはバラすつもりだったから特に問題はないけれど、タイミングとしてはもうちょっと先のほうが良かったな……と思わずにはいられなかった。


「テンペストは……ちょっと特殊なんだ。前にコリーが言っていたハーヴィン領で火竜を倒した翼竜、それはテンペストだよ」

「はっ?え?あのやたら早くて強いとかいう翼竜……って、え、マジで居たのかよ」

「正確にはあれは生物ではないよ。空を飛ぶ乗り物だ。そしてテンペストはそれを操る者。……で、僕やゲルトはその空飛ぶ乗り物を作りなおしている最中ってわけだね。ゲルトが今やっているのはそれに乗っける武装を作ってるんだ。もちろん、それ自体がテンペストの弾にもなる」

「空飛ぶ乗り物ですか!?それ、どんなやつなんですか!」

「見てのお楽しみだね。ただ、僕達の空の歴史が塗り替えられるのは確実だよ。もう飛竜に屈することは無くなるんだ。そのための力を僕達は手に入れることになる」


 音の速度を超え、火竜の硬い鱗を貫通し、あっという間に撃墜する脅威の機械。

 それを魔法の技術を使って再現し、その動きを研究している。


「今まで黙っていてすみません」

「いや別にテンペストは悪く無いだろ。話し聞いたらもうなんか後戻りできそうにない感じだしな……飛竜を倒せて空を自由に飛べるのか……テンペストやっぱお前すげぇな」

「是非とも体験してみたいです!早いってどれくらいなんですか!?」

「まだこちらの方で作っているものがどれだけの性能を発揮するかは私も教えていただいていません。元の物であれば大体秒間1000メートルを超える速度が出ますが」

「……想像できないくらい早いんだけど……。え、1キロを1秒で?」

「実際、僕も飛んでいる所を見たけど凄まじかったよ。とんでもない速度で飛んでいるかと思ったら空中で静止するし、そのまま攻撃もできる。テンペストの知識はそこから来たものが多いんだってさ、それのおかげで新しい魔法も扱える。僕達が理解出来なかった事を知ってるんだよ。だから僕達では扱えない物もある……でもそれもいつかは学習してものにしてみせるさ」


 それを聞いてニールが目を輝かせていた。

 新しい知識は勉強好きなニールにとっては美味しいごちそうに等しい。それが自分も覚えられるなら知りたい。新しい事を知りたい。


「テンペスト!もし良かったら……ボク達にも色々教えてくれないかな?良かったら、だけど……。一緒についていくなら役に立ちたいし、師匠やボクならボク達の理論に置き換えられるかもしれない」

「ニール、それ俺が馬鹿って言いたいのか?」

「ち、ちがうよコリー!っていうか雷扱える時点で馬鹿なわけないじゃないか!」


 そもそもコリーは大雑把なだけでバカではない。

 それなりに貴族としての教養を叩きこまれているし、当然勉強に関しても普通の人達よりは良い教育を受けてきたのだから当然ではある。


 そして数日後……。戦争が始まったことをきっかけに、国中が厳戒態勢へと移行した。


 ゆったりとしては居るけど、一応戦時中に相当する状態なわけで……ハイランドも厳戒態勢に入っている。特に物流関連は厳しく検閲されており、武器などはともかくとして危険な薬品などに関しては色々と規制されている。

 魔晶石も規制され始めてしまったため、こちらでも武器作りは一旦中止せざるを得ない。

 ワイバーンのことは国でも一部の人達しか知らない事だから、兵士たちはもちろん聞いていない。自分達を守るためのものではあるが説明できなければ怪しまれても仕方ないのだ。


 このままハーヴィン領でテンペストはロジャー達に対して科学を……ただし自分で知っている範囲のみだが、それを教えて更に武装を強化できるか検討することにしたのだった。


「……彼が居ればもっと様々な知識などを教えられたかもしれないのですが」


 パイロットであったコンラッドを思い出す。

 自分の無駄な知識の大半はコンラッドかの言葉から自分で調べていった結果だ。色々な話をしてくれたコンラッドが今は懐かしい。

 任務に集中しろだの、無駄な話はするなだのと諌めずに、好きなように話をさせてやれば面白かったのかもしれない。

 実際、テンペストと話をしている時のコンラッドはリラックスしていてとても楽しげだったのだ。

 ……友達が居なかったんだろうか?と少々失礼なことを勘ぐってしまった。


「テンペスト、さっきの光に関してだけど……見えない光って結局何なの?見えないならそれは光って言えないんじゃないの?」

「ニールの言う見える光と言うのは可視光の事で……」


 脇道に逸れた思考を戻してニール達の授業に集中する。

 今は皆の魔法の強化をしていくのがいいだろう。


 □□□□□□


「隊長!城壁に近づけません!」

「大砲隊は何をしてるんだ!」

「向こうの方が射程が長い!こっちのはここからじゃ壁に到達する前に落ちるんだよ!」

「くそ……ミレスのやつこんなもん隠してたのか……!」


 ルーベル、コーブルクの連合軍は壁を崩そうと大砲を前に出して攻撃をしようとしたところ、ミレスの城壁の上に設置された大砲によってその足を止められていた。

 高低差もあるだろうがその威力と射程は自分達の倍近くあり、おかげで先行していた大砲隊の半分が消し飛び、攻城兵器も使い物にならなくなっていた。


 一度後退して今は魔法弓兵隊が長距離射撃を行い、じわじわと城壁の上に取り付いている砲兵を排除しようとしている所だ。


「いいぞ、正面が空いた!突撃するぞ!」


 砲兵を排除し、砲撃が止んだと同時に兵隊と砲を前面に出して壁へとダメージを与えていく。

 弾が、魔法が一気に壁へと突き刺さり爆発し、分厚く高い城壁が崩れていく。

 すでに上からの砲撃は散発的になり、3方から同時に壁を崩され、ついに大穴が空いた。


「城壁が崩れたぞ!撃て撃て!」

「援護と同時に突入だ!行くぞ!」


 崩れた壁の破片を爆破系の魔法で吹き飛ばしながら騎兵が侵入するが、そこにあったのはまたしても壁。

 外側の壁と同じくらいの規模のものがそのまま内側に存在していた。


「くそっ!何なんだこれは!」

「敵!上から攻撃が来ます!」

「弓兵が居るぞ!風魔法を展開しろ!」

「弓兵に混じって別なのも居るぞ!あれは……小砲か!あれは鎧を抜けない!気にせず……」


 ヘルムに小さな火花が散った瞬間、その言葉の途中で息絶えた。

 馬の上で力が無くなり、やがて落馬していくそれを見て周りの者達は悟る。

 あれは決して侮っていいものではなかったと。


「なっ……この風の中でも当てられるのか!?」


 騎兵たちの上には暴風が吹き荒れており、矢はある程度狙いを外されているが、小砲と呼ばれたライフルから発射された弾丸は安々とその風を突破し、直下の兵に突き刺さっていく。

 それも以前は弾かれていただけの鎧を貫通して。


「くそ!話が違うぞ!」


 更に回り込んで奥へと進む彼らを待ち受けていたのは……。


「ゴーレムか!?」

「不味い、止まれ!」

「馬鹿野郎!止まったら上から狙い撃ちだ!」


 そこには5メートルほどの巨大な鎧を着込んだゴーレムのような物が居た。

 ゴーレムとは単純に命令に従い、それを繰り返すだけの無生物で、やろうと思えば確かにこの様に土塊人形であっても鎧を付けさせて防御力を増すということは可能だろう。

 ただし、それ自体に大した意味は無い。行動が単純なので敵の手に渡るだけだ。


 当然騎兵達も魔法と弓で動きを封じながら、操るための魔晶石のある心臓部分へと剣を滑らせようとする。が……。

 普通ならば防御をする脳がないゴーレムはそのまま貫かれる。

 しかし目の前に居るそれは違った。

 突き立てられようとした剣を握りつぶし、反対の拳がその兵の頭を弾けさせる。

 乗っていた馬を軽々と持ち上げて今度は騎兵たちへと投げつけた。


 それによって直撃を受けた者達は落馬し、馬たちも傷つきパニックに陥り始める。

 上からは矢と弾丸が降り注ぎ、足が止まった彼らは完全に的となった。

 前方では見知らぬゴーレムがまるで知性があるかのように振る舞い、自分達の攻撃が殆ど通じず一方的に蹂躙され、攻撃をしようにも狭い通路内では行動が制限されて身動きがとれない。

 結果として前から少しずつ潰されていき、上からの攻撃で被害が拡大していく。逃げようと後ろへ向かった者たちもやがては小砲の餌食となり次々と倒れていった。


 それを知らない他の者達も後に続きどんどん被害だけが拡大していく。

 気づいた時にはすでに後ろからも兵が来ており引くことも進むことも出来ずにただただ殺されていくだけとなった。


 後方がそれに気づいて一旦引き上げた時には連れて来ていた兵の1割は損耗し、二度と戻ってくることはなかった。


 壁さえ崩れれば簡単に攻略できると思っていた後方は、その惨状に認識を改めざるを得なかった。

 しかし、奥で起きた何かは全く分からず、持ち帰れた情報は小砲の威力は今までの比ではなく、鎧であっても貫通し暴風が盾にならないということと、内部にはもう一つ壁が存在しており、恐らくは同じようにぐるりと張り巡らされているため現状では侵入は難しいということだけだった。


 城門も壁に埋められ、進入することが出来ず唯一の方法は空からの侵入だろうが、同じことを考えた鳥人種が偵察に出てそのまま撃ち落とされている。

 結局壁を崩さないかぎりはどうしようもない。

 しかし、こちら側にはまだまだ物資も人も多くいる上に、ミレスは外に出ることが出来ないとなれば補給が出来ないミレスはこのまま飢えていくはずだが……しかしどういうわけかここまで生きながらえてきているという歴史が確かにあるため怪しい。


「もう一度砲撃を。後ろの壁も崩せ!」


 扉があった場所にも砲撃と破城槌を打ち込み突破を図る。

 そして空いた穴から出てきたのは……何体もの鎧を着たゴーレムらしきもの。

 大盾を持ち、巨大な剣や槍を手に現れてくる。


 大砲と魔法が飛び交い、ゴーレムもどきへと殺到するが……大盾によって全てが弾かれ、魔法もまたあまり効果が無いようだった。

 それどころか盾を構えたままでゴーレムでは考えられない速さで走ってきて歩兵を踏み潰し、手にした剣は一薙ぎで数十の命を奪う。


 圧倒的な力の差、それに対抗するだけの装備がない。

 背後に回って取り囲もうとしても、近寄れば剣や槍の餌食となり離れれば攻撃が届かない。

 結局、ルーベルとコーブルク両国の軍は撤退を余儀なくされミレスから距離を取ることになる。

 その後何度か斥候を放ってみるものの、尽く返り討ちにあい戻ってきたものも最初に得た情報以上のことは分からなかった。


 数の上で大きく勝るはずの自分たちを数えるほどのゴーレムもどきと、ミレスの新兵器により最初の接触は完全に敗北した。


 □□□□□□


「敵が引いたぞ。今のうちに壁を直せ」


 連合軍を退けたミレス軍は、崩壊した壁を土魔法によって直していく。

 苦労して開けた大穴も、1日で修復され連合軍の大砲に対応するべく更に強化を施された。


 開け放った城門から外で作業をしていたゴーレムもどきが壁内へと入ってくる。

 整然と並ぶとその胸から腹にかけてが開き、中から独特な鎧のようなものを付けた兵士が出てきた。


 魔鎧兵まがいへいと呼ばれるそれは、ゴーレムとは違い、人工的に作られた騎士型の乗り物だった。中に乗り込み、その独特の形状をした鎧のようなものを通じて魔力を流し、それによって各部位をまるで自分の身体のように動かすことが出来る。

 魔鎧そのものに自身をリンクするので、身体が大きくなっただけで自分とほぼ変わらぬ動き方が出来るため、驚異的な反応速度滑らかな動きを実現しているのだ。


「第一魔鎧兵団、任務完了しました!」

「ご苦労。第二へ引き継ぎ交代しろ。……初の実戦はどうだった?」

「はっ!訓練通りです!そして向こうの武器はこちらの盾も鎧も通せませんでした。情報通りです。ただ、頭が回る奴が居たようで土を泥に変えられました。重量がある分そうしたものには弱いのは承知しておりましたが、やはり警戒が必要です」

「今、短時間なら補助できるようにと開発部が新しい装備を開発中だ。それにしても……奴らの慌てぶりは痛快だったな、こちらが小国だからと侮って居たようだが我々にダンジョンケイブが存在することは知らなかっただろう」


 魔鎧の技術はダンジョンケイブで発見された物が最初だった。通常のゴーレムとは違ってやたらと動きのいい物をなんとか仕留めて剥いでみたら、コアの部分に魔物が収まっていたのだ。それを分析して人間が使えるようにしたのが魔鎧だ。

 ミスリルによって表面加工された鎧は通常の武器では傷はつかず、大砲であっても鉄球を使っている限りは衝撃が来るだけ。

 魔法も魔力への親和性の高いミスリルが威力を減じてしまうため、あまり効果はなかった。

 これを作り上げた時、歴史が変わると感じた。

 今まで思うように攻めるどころか、生活もままならない様な状況からダンジョンケイブを発見してからというもの全てが自分たちの為に回っていると感じる。


「どうかね?博士。これから我々はこの力をもって攻めこむことにするよ。あなたの知識はとても役に立った。今新しく作っているものも含め、さらなる知識を我等に教えてもらうよ」

「……」

「聞こえんか。まぁいい。そこで見ているといい、手始めに時代遅れのコーブルクとルーベルの軍を壊滅させて国を手に入れようではないか」

「……」


 博士と呼ばれた者は、四肢をもがれて椅子に鎖で縛り付けられた一人の男だった。

 その目にはすでに光はなく、よだれを流し、息をしているだけの廃人だ。

 何度も何度も拷問を受け続け、やがて逃げられぬようにと手足を切り落とされ、その知識を引き出させられた者。

 ミレスはまた失敗を繰り返す。しかし違ったのはこの状態でも活かしておくことが出来るようになったこと。魔鎧の技術を使い、無理矢理延命させて精霊使いがその頭の中をかき回して知識を得ていく。

 嘘を付くことができない魂を好き勝手にされながら、博士と呼ばれるその男の持っている技術の全てまでは行かなくとも概要を聞いたりその効果を知ることは出来る。

 後はその技術や物質がこちらでの何にあたるのかを突き止めて再現するだけだ。

 再現が難しいようなら代用品を使えばいい。


 指揮官らしき制服姿に勲章を貼り付けた様な男が見回せば、そこには魔鎧どころかそれ以外にも近代的な大砲を積んだ戦車の様なモノや、先の戦闘では使われなかった更に強力であろう巨大な大砲、果てはミサイルのようなモノが並べられており、それらは今すぐにでも使えるようにと準備されている。


 博士の名はサイラス。テンペストがこちらへと飛ばされる原因となった兵器の開発者であり、爆心地に居た彼は無能な指導者は煽るだけ煽ってさっさと地下へ逃げたのに気付かず、いつの間にか起爆装置が作動していたのに気づいた時に慌てて止めようとしたものの爆発に巻き込まれてここへ飛んできた。


 出現地点はテンペストが出てきた場所からさほど遠いところではなく、それはミレスの近くであり、ワイバーンの爆音を調べに出てきたミレスの兵によって捕らえられ、彼が「渡航者」であることが判明した途端に監禁され、現在に至る。


「先ずは……コーブルクを落とす。あの城郭都市があっさり落とされたと知れば……ククク……なぁ、博士?」



コンラッドが死んでいたのはだいたいこいつのせい


さて、出したいなぁと思ってたロボット系も出してみたわけですがどうですかね。

魔法に耐性があり、またそれ自体も強固な金属であるミスリルには、兵士たちの通常の剣や少し良いくらいの武器では歯が立ちません。

ハンターでも上位の者なら高額な強武器を持っているのですが、数打ち品はどうしようもないですねぇ。

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