第二十四話 装備をグレードアップしよう
つぶった目に明かりを感じ、意識が覚醒していくに従って周りから聞こえてくる音が大きくなる。
鼻孔をくすぐる焼いたパンの匂いと、スープの匂いが食欲を刺激する。
「……ん……朝……?」
まだ閉じたがる目をこすりベッドから起き上がるが、どうにも昨日沢山色々なものを食べて嬉しかった記憶の後が無かった。
体を見てみればきちんと着替えをしており、下着も取り替えてある。
ボサボサの頭を櫛で丁寧に梳いて、思いっきり伸びをした。
ぐぅぅとお腹がなる音が響き、一気に空腹感が襲ってくる。
着替えもせずにそのまま食堂へと降りていくと、すでにロジャー達が朝食を摂り始めるところだった。
「おはようテンペスト。待ちきれなくてそのカッコで来ちゃった?」
「おはようございます。……あの、昨日食べた後の記憶が無いのですが」
「ああ……お前、途中で糸が切れたかのように突然テーブルに突っ伏して寝ちまったんだよ。何かあったのかと思ってびっくりしたぞ?」
「まだ食べたかったのか、しっかりとナイフとフォークを握りしめたままでね。なんか妙に可愛くてねぇ。まあそのままにしておくわけにもいかないし、テンペストが寝ちゃった時点で僕達も帰ってきたんだよ」
初めての集団行動だったし、暗く見通しの効かない場所をほぼ全方位を見張って気を張っていたからだろう、魔力量などには問題なかったものの疲れていたようだ……とロジャーに言われる。
確かにかなり集中していたのは事実なので、それに身体が耐えられなかったということだろう。
「テンペストはタイタンワードで無理矢理動いているようなものだからねぇ。完全に意識がない状態だとそれも維持出来なくなっちゃうんだから気をつけるんだよ?」
「はい」
テンペストの魔力でマナ循環等は維持されているため、意識が途切れれば当然それらも解除されてしまう。
寝ている間は魔道具等を使っていないかぎりは基本無防備となる。
近くにロジャー達が居たために特に何も起きなかったものの……もし、1人でこの様な事になった場合身ぐるみを剥がされてしまうだけならまだ良くて、テンペストの様に顔がいい子の場合そのままいただかれてしまってもおかしくないのだ。
しかも困ったことにそれに関しての危機感がほぼ無いのが問題だった。
ちなみに服を脱がせて体を拭いたり着替えさせたりしたのは、屋敷の使用人だ。
ニールが立候補しようとしてコリーにぶん殴られていた。酒が入っているとはいえ酷いものだと思ったロジャーだった。
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「テンピー、任務ご苦労様。サイモン様が待っていますよ」
「はい、ただいまアディー。私も戦いで活躍出来たみたいです」
「聞きましたよ!とっても強くなったんですねテンピーは。サイモン様を負かした時もびっくりしたけど、この短期間でそこまで強くなっているなんて……凄いとしか言いようが無いですね」
「ロジャーのお陰です。体術はコリーから教わりました。皆、凄く丁寧に教えてくれます」
話をしながら広い廊下を歩く。
サイモンの書斎の前で止まり、ノックした後に扉を開けるとサイモンが立って待っていた。
「無事でよかった、テンピー。ロジャー殿から大体の事は聞いたけど大活躍だったそうだね」
「皆の助けがあったからこそでした。臨時で組んだとは言え、とてもいい連携をしていたと思います」
「それでも腐地竜を倒したというのは大きいんだよ、テンピー。アレは飛竜と違って地を這う竜だが、頑丈さと地魔法の激しい攻撃はとても恐ろしいものなんだ。腐地竜となっても触れたものを全て腐らせるブレスだけでなく、見える範囲の敵を地面から突き出す棘によって串刺しにしてしまうから下手に近寄れないしね。ということで3体も倒したテンペストにはかなり報酬に色が付いているそうだ」
ただし、素材は全く取れず完全に焼きつくしてしまったため腐地竜の魔晶石が1つだけだ。
他の魔晶石は砕け散って役に立たなくなっていた。
それでも割り当てられた820万ラピスという数字は決して安いものではない。
今回の平均は500万ラピスだったのでかなりもらった方であることは分かるだろう。
王国としても手痛い出費となったが、自国の軍を動かすこと無く少人数で脅威を排除した事と、テンペストによってもたらされた新しい投光装置が予想以上に効果的だったことからも、今回の作戦は悪くなかったのだ。
これが通常の地竜であれば一匹で1000万近い価値があったのだが、腐地竜は頑丈な皮膚と肉は溶け落ち、骨も生前よりも脆くなっている為利用価値がかなり下がる為、一匹当たり良くて100万程度になってしまう。
魔晶石はそこそこ使えることもあり高額で売れた為にこれくらいの金額にはなったという所だ。
「……これで武器が作れます!」
「ん?何か作ろうとしていたのか。言ってくれれば……」
「いえ、自力で何とかしたかったのです。ずっと、サイモンとアディーに頼りっぱなしでは良くありませんから。それに、普通に暮らす分であれば写本を書くことで主にお金を得ることが出来るようになりました。武器を作ったらまた暫くは貯めないとなりませんね」
武器の製造に使う素材の確保と、親方と呼ばれるゲルトへの依頼料で今ある金額の大半が消し飛ぶ。
それでも作りたかった物。
それはレールガンだった。単純な機構ながら流す電気の量に比例して威力の上がる武器。
弾丸が特殊なため少々金が嵩むものの、トリガーを引けばすぐに放てるという点では優秀だ。
初速も早いため弓などよりも直線で飛んで行く距離が長い。つまり遠くでも狙いやすい。
こちらの素材は向こうでは考えられないほど優秀で、自分の放つ魔法であれば自分が感電することはないし、高温に耐える素材が普通にある。
これによって軽く、高電圧高電流を流しても感電せず、安全に飛翔体を飛ばすことの出来る武器が出来上がるのだ。更にレールに接触する部分の温度も、それに耐える素材のおかげでバレル交換などが必要ない。
ただし、その高熱に耐える素材を使う弾丸も当然ながら少々高いため乱発は出来ない。
「武器といえば……ワイバーンの方は少し進展があったそうだ。外装は大体完成。言われた通りに風の流れを見て見たそうだが特に問題なさそうだと言っている。形状は少し変わったそうだが」
「飛べて私のセンサーと繋がるのならば問題はないです。こちらで微調整は出来るので」
「後、親方がこっちに向かっているそうだ。大体4日後位に到着する予定だな。その武器に関してということでロジャーが先に呼んでいたらしい」
ロジャーはこっちについて、サイモン達と行動を共にすると決めてからすぐにゲルトへ連絡を取り、一度こっちに来てもらうことにしていた。
その際、テンペストに鍛冶魔法を教えながらやって欲しいとも。
まだ鍛冶魔法は初歩の部分を脱しない為、高額な物を作らせることは出来ないが、専門外のロジャーが教えるよりも本職が教えたほうが良いだろうという判断もある。
「ではこちらで完成させることが出来るかもしれません。上手く行けば魔力を節約しながら戦うことが出来る様になるはずなので、成功させたい所です」
「期待しているよ。ああ、そうそう。ミレスから鹵獲したと言われる武器だ、これを見てどう思う?」
机の上に置かれたそれは、まさしく銃だった。
空薬莢もあり、そちらは魔晶石が発火装置として使われており、恐らく中身も魔晶石を使った火薬式と同じものだと推測出来た。
弾丸は恐らく鉄や銅等を整形したものの可能性が高いが、現物がないため分からない。
仕組みとしてはトリガーを引くことによって魔力を流し込むパスが繋がり、発火装置代わりの魔晶石を通じて中に詰められた魔晶石を反応させて弾丸を撃ちだす。
銃身はライフリングは無く恐らく命中率自体はそこまで高く無いだろう。ただし魔法という力が存在する世界においてそれが修正されていないとも限らないためやはり確実ではないだろう。
しかし。
「ワイバーンに積まれている物のほうが遥かに強力且つ連射が効きます。そして、今から作ろうとしているものも威力、射程共に確実に勝てるでしょう」
「……ということはやはりそちらの方では一般的な武器か。ワイバーンを見ていてもしかしたらとは思ったが。仕組みから見て大砲を小型化したようなものだとは想像付くがね」
「私達の方ではライフルと呼ばれるものです。私が作ろうとしているものもそれと似たようなものですが動作原理が全く異なるものです」
「なるほど。テンピーが作るなら良いのが出来るだろうな、1つどれだけの金額かかるかは考えたくもないが」
「今回のは2854万ラピスかかりました」
「……いや、まあ、貴族の中でも確かにやたらと高価な武器を作らせたがる奴はいるが……そのレベルだぞ?その金額は」
更にこれにゲルトに支払う工賃があるため最終的には3500万近く掛かる予定だ。
「材料が高かったので……。それに最終的には土地と家が欲しいのでまだまだお金がかかります」
「もうそれを考えているのか、末恐ろしい子だな。こちらとしてはまだ暫く家にいて欲しいくらいだけどね」
「もちろんです。サイモンは家族ですから。私が欲しいのはワイバーンの格納庫と、研究などを行える場所です。……ここが、私の家です」
「嬉しいことを言ってくれるね。ああ、そうともテンペストは俺の子だ!」
「ですが私には継承権がありませんので、きちんと正妻を取り跡継ぎを作ることをおすすめします」
ピタっと固まるサイモン。
折角良い事を言って喜んだ矢先に思いっきり地べたに落とされた気分だった。
確かにその通りなのだが、未だに独身……どうも言い寄ってくる女性たちには興味が持てなかったのが大きい。そもそも彼女らの目当ては金と名声だけで、自分を好きだと言ってくれる人は居ないと感じていた。
「……貴族の女共は好かん。どいつもこいつも……。少しはエイダ様のように接してくれる人ならば良いのだがな」
しかし相手は神子だ。役目を終えるまでは絶対に処女を貫かなければならない上に、やたらとそういったことには厳しいため、大抵は結婚まで時間が掛かるし相手もそれなりの者たちばかりだったりする。
「……ままならんな」
「……」
なにか気の利いた一言でも言おうかと頑張ったものの、結局何も言えなかった。
「ああ、それでだな。調査に関してだが……第一候補はさっきの武器からみてもテンピーと関連の深そうなミレスだ。しかし接近することが出来ない為観察が難しい。とりあえずは部隊を送り込んだがあまり多くの情報は期待出来ないだろう」
若干無理矢理話題を変更した感じはあるが、こっちが本題だ。
ミレスに関しては鹵獲された武器を入手出来たのは大きく、それがテンペストの世界と似たものである事は確認できた。となれば、やってきたテンペストに対応する異変はミレスで起きる可能性は非常に高いと言える。
しかし内部への侵入がほぼ不可能なため空からの観察が出来ないことには難しいだろう。
これに関してはワイバーンが何とかなりさえすれば偵察が可能だとテンペストが答えているので、結局のところワイバーンを作り直さないかぎりは高い城壁の内部で何が行われているのかは全くわからないのだった。
「もう一つは……直接は関係なさそうな気はするのだが、異変という点では今回の宵闇の森と同じような感じだが、ここから南にある高山で魔物が活性化しているらしい。飛竜が住む山のためそこから飛竜が飛んできたらまた前のような状況となる可能性は否定出来ない。しかし……今はテンペストのワイバーンに頼れないからなぁ」
「流石にまだあの火竜と戦うには攻撃力が不足しています。武器を作っても通じるかどうか……」
「まあ、火竜の鱗は取っておいているのがあるからそれを使って評価すると良い。あれが抜けなければダメージは与えられないからね」
現状、石以外の素材をストーンバレットにより発射する場合は、予め作った物を使うしか無い。
それを考えればガトリング砲の弾頭だけを取り出して打ち込むという手があるが、流石に残り弾数が心もとない状態ではそれは出来ない。
「まあ、確実に対抗できる手段がワイバーンの存在であるということから考えれば、異変の可能性はあるだろうという予想でしか無い。単体であればハンターや軍隊を使って討伐も可能だが、集団となると下手に手を出せない」
「結局ワイバーンが完成しないことには進まないということですか?」
「悔しいがそうなる。人員を出来るだけ失わずに、確実に勝てる物といったらあれくらいしか無いからな」
「……では、こちらもライフルを作りますか?」
幸いミレスの鹵獲品がある。これを元にして改良するだけでもある程度の威力を持った物を作ることが出来るだろう。
目指すのは対物ライフルと呼ばれるものを更に強力にしたもの。
ワイバーンに搭載されているガトリング砲並のものであっても、恐らく身体強化を使うことが出来る人たちならばある程度は扱えるのではないかと思う。
「ミレスよりも強力な対飛竜用の武器を作って備えるということだな?将来的にどちらに対しての脅威にも対応できるとなれば作らない理由はないな。ついでだ、ゲルトに作らせよう」
弾も比較的安く作ることが出来るはずだし、レールガンは高額になりすぎるのでこちらのミレス式ライフルを元に作ったほうが安上がりになるはずだ。
大砲自体は元から存在するが、カタパルトから派生した考え方のため、質量と大きさで大きな衝撃を与えるという使い方が一般的だ。
その為竜種の固い鱗を貫通することが出来ない。
大砲よりも小さな弾丸でも工夫次第で火竜の鱗を貫く強力な武器となるのはすでに実証済みで、大きな反動と小さいながらも複雑な弾丸を形成する方法さえなんとかなれば行けるはずだ。
徹甲榴弾を上手く作れれば、貫通させて急所にピンポイントで当てなくても、鱗を貫通した後に体内で爆発するようにしておけば大ダメージとなる。
「それであれば……テンペストの使っている弾丸を一発貰いたい。危険であるということだが何とかならないか?」
「問題ありません。同じものが量産できれば良いのですが、こちらのやり方だともっと簡単に同じ仕組みをもたせられる可能性が高いです」
「ならそれも取り寄せよう。さほど大きくないものであれば人よりは早く着くからね」
伝書鳩のように、大きめの鷲の様な鳥が空間拡張された柔らかい革袋を運ぶ。
丸めて小さくした物を括りつけて飛ばすのだが、この鳥がかなり早い。空という道とは無縁の場所を通るため王都とハーヴィン領であっても1日で往復できる。
もちろん他の空を飛ぶ魔物などに狙われる可能性もあるが、その速度と機敏な運動性能で逃げ切るスタイルだ。
人に比較的なつきやすく、頭もいいためこうしてよく利用されている。
ゲルトが来たら分解させて構造を覚えてもらうことになるだろう。
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「あ、戻ってきたのね」
「はい。異変に関してなどを少し話をしてきました。進んでいるようで進まないという印象です」
「事実そうなのですよね……。調べようにもなかなか調べられない事が多くて進まないのです。そこに来て宵闇の森の騒ぎがありましたし……あ、テンピーは魔術師ギルドでお金貰ってきた?」
「いえ、まだですが。金額だけは教えてもらいましたけど」
「もう受け取り開始しているみたいだから行ってくるといいです。もう1人でもこの街を歩けるくらいには強くなりましたし散歩がてら行ってきたら?」
「アディーは一緒に来てくれないのですか?」
「別件で用事があって……ごめんね?」
一度部屋に戻って装備を身に着けてから屋敷を出る。
この街の魔術師ギルドは初めて来るが、場所自体は分かりやすいから迷うことはない。
甲殻の鎧の上にローブを着込んだテンペストも、以前は少し着慣れていない感じがあったものの、今ではすっかりとその姿が板についてきている。
もう完全にハンターであり魔法使いとしてある程度の実力があると、その姿が示していた。
魔術師ギルドでも多少驚かれはしたものの、身分証を提示して経歴を見た係の者からは特に何か言われるわけでもなく処理が進みお金を受け取ることが出来た。
「ん?おお、お嬢ちゃんか。今日は一人かな?」
「はい。ここで買った装備にはとても助けられました」
「あれ以来来ないから心配していたんだよ。今日はどんな用事かな?」
「装備品のメンテナンスと、弓の強化をお願いしに来ました」
鎧は着込んでいるので一度奥で外してからカウンターに置く。
ナイフ、弓もある程度使い込まれた感じが出てきていた。
「……確か……6ヶ月ほど前に買っていったものだったはずだけど、随分と使い込まれた感じになっているね。弓はそうでもないけどこっちのナイフと特に鎧はかなりヘタっている所が出ているようだ。メンテナンスが必要なのはナイフは研ぎとグリップの調節……鎧は少し手を加えているようだからその辺少し綺麗に整えて、磨きとヘタった革を交換ってところかな」
研ぎと磨きは無料で、そして他は施工代を大分割り引いてくれた。
弓の強化はフレームを木製から金属製へと変え、パワードアーマー状態で扱えるレベルの物へと交換する。
流石に魔物相手に子供でも引ける程度の弓はすでに役に立たなくなっているのだ。
話をしながらその作業の様子を見学させてもらっていたが、やはり熟練の腕は相当なものだった。
傷がついたナイフはあっという間に自分が移りこむほどに磨きこまれ、少しガタつき始めていたグリップもしっかりと固定され、持ち手の部分を癖に合わせて調節してもらうと一度の調整でピタリと手に吸い付くようになった。後は少し整えてワックスでコーティングして終了だ。
パワードアーマーを使うようになってから一日中着用することも珍しくなくなった甲殻の鎧は、何度か森での狩りの訓練などで魔物からの攻撃を食らったりなどして欠けたりした部分も多い。
それでも高かっただけあってその防御力は相当なものだ。
「この鎧だけども、日常的に使ってるのかな?」
「はい、着用したままでいることも多いです」
「なら内張りを少し通気性のいいものに変えよう。かなり蒸れたはずだしね。そしてこの留め具は1人で着れるように工夫したもののようだからこのままで、新しくベルトを通してあげよう。もうベルトも幾つか切れかけているしね。そういえば、補強はどうする?」
「補強ですか?」
「ああ、弓と同じように鎧もそれぞれの部品をバラして組み直すことが出来る。お嬢ちゃんの鎧もそれは同じだからね。パーツ自体は揃っているんだ、好きなのを選んで取り付けることも出来るよ。例えば弓使いだと弓を持つ腕の方は防御重視で、反対側は動かしやすいように最低限と言った感じでカスタマイズも出来るね……鎧の使われかたからすると弓をメインという訳でもなさそうだけど」
訓練では基本コリーと組み手をしたり、剣を使った訓練をしている。
弓は狩りの時に使うくらいで基本獣相手にしか使えないために、確かに使い方としては格闘などの近接戦闘が多くなるのも無理は無いかもしれない。
「ではガントレットとグリーブ、ブレストプレートの部分の強化をお願いします。素材は重くならずあまり音がしないものが良いのですが」
「それであれば甲虫素材が一番良いかなやっぱり。補強と欠けた部分は交換でいいかな?」
「はい。……あとこれも欲しいのですが」
手にとったのは半頭と言われるものに似た西洋風の額当てだった。
今まで特に頭部を守る物をつけてこなかったものの、ヘルムをつけるにも少し大きく、蒸れることもあって開放感がありながら頭部を前方からの攻撃から守れる物を選んだ。
これも甲虫素材でとても軽く、装飾の施されたプレートが3枚重なったような形になっている。
「まるで隠密にでもなるようなチョイスだね。もしかしてそういうタイプのもののほうが良いのかな?静音性と防御力を両立させるような……」
「はい、出来ればその方が」
レールガンを完成させれば基本はスナイパーとなる。
目立たず、見つからないように極力音を立てずに動くには鎧のカチャカチャという音は邪魔だ。
そういう要望にも答えられるように、部品がぶつかる場所に柔らかい素材を当てることで音を消すようにしたものにもできるそうだ。
ついでなのでそれも入れてもらい、修繕を施され、部品の交換や磨き上げなどで新品同様の状態へと生まれ変わった甲殻の鎧が出来た。
控えめだったガントレットは少しゴツくなり、格闘戦でのガードなどに使えるようになった。
同じくグリーブも若干幅広になりふくらはぎの部分も動きを阻害しない程度の装甲が追加され、ブレストプレートは少しボリュームが増えて更に厳ついものへと変わった。
それは少女が身につけるものにしては少々厳ついものではあったが、額当てとセットで装備することによって小さな黒騎士のようにも見える勇ましい雰囲気があった。
テンペストの金髪と金の目がそれを更に引き立てて、人間離れした美しさがそこにある。
「自分で作っておいて何だけど、とても良く似合っているよ」
「ありがとうございます。あの、この左腕の部分についている部品は何ですか?」
「これを収納する場所だ。この仕込みナイフはサービスだよ、今回もお金を落としていってくれたからね。お嬢ちゃんのようなお客さんは大歓迎さ」
持ち手がT字になって指を引っ掛けて握りこむようにして使う両刃のナイフ。いわゆるプッシュダガーと呼ばれるタイプのものだ。
バネ式のストッパーが付いており、衝撃くらいでは落ちることはない。
ガントレットの腕の内側、手首との接続部分に隠れるように配置してあり、奥の手の武器となるだろう。
刃はやや長めなので突き刺す以外にも、横に振り切って切りつけるやり方も出来る。
パチンと音がしてしっかりとナイフが固定されたのを確認すると、指で引っ掛けて引き抜いてみる。
意外とスムーズに出し入れ出来るようで、もみ合っている時などにもすぐに使うことが出来そうだった。もちろん、これを使う場面など無い方が良い。
更に剣を使った訓練をしているということで、剣も選んでもらうことにした。
体格的にロングソードは扱いにくく、パワードアーマー状態では力は補助できるためある程度重さがあるものだと破壊力も増す。
ということで少々変わったシックルソードというものになった。
全長はおよそ45センチほど。剣身はS字を描き、肉厚で斧と剣を混ぜあわせたような形状となっており、切っ先の後ろ側には返しがついていてそこに相手の鎧を引っ掛けるなどする使い方も出来る。
やや扱いにくいものではあるものの、斧よりも軽く剣として扱えるだけでなく、斧のように叩ききるという事も可能なテクニカルな武器だろう。
剣身の形状から普通の鞘は入らないため、専用のギミックが施されたものがセットになっていた。
鎧を着込んでパワードアーマーと身体強化を付与してから腰につけたシックルソードの柄に手をかけて、鞘から抜き放ってそのまま切りつける動作をすると、重心が剣身側にあるため遠心力を使って大きな打撃力と共に叩ききるというまさしく斧の様な性質を感じる。
「なるほど、早いね。強化も上手いようだし少々扱いが難しいとはいえお嬢ちゃんならこいつを使いこなせるかもしれないね」
「片刃なので最悪両手を使うことが出来るのも良いです。重さも丁度いい感じですし、何よりこの剣身は美しいです」
「まあね。結構珍しいから買っていく人は多いんだ。ただ使いこなせる人はなかなかいないね」
少々散財してしまったものの、すでに購入しなければならない素材は手に入っており、ゲルトに支払う代金分は避けてあるため予算内でいい買い物が出来た。
次は魔法具屋に行ってみようかと色々と考えながら、テンペストはまた街に繰り出すのだった。
エイダは屋敷にいる時もあるけど、大半聖堂の方で色々とお仕事してます。
そして裏ではワイバーンの方も着々と進行中。
一体どうなっているのか……。