第二十三話 闇の中へ
「これより宵闇の森のアンデッド掃討作戦を開始する。ここにいるのは人数こそ少ないが選りすぐりのハンターと魔法使い達だ。そうそう負けることはないと信じているぞ」
「事前に話をした通り、この新しい投光装置を持って行ってくれ。もしかしたらあの不可解な闇も少しは晴れるかもしれん。以前のものと違って前方に光を集中させた物だ、間違っても覗き込むなよ。暫く目が見えなくなる……暗闇の中で更に目が見えないとなれば致命的だ」
「索敵は獣人のハンターと気配感知の出来る魔法使いにより行う。経験があるものもいるだろうが、中は見通しがきかない上にアンデッドは気配が薄い。十分に気をつけるように」
「我々ハンターの仕事は接近してきたアンデッド共を魔法使い達に近寄らせないことだ。彼らに無駄な力を使わせずに温存し、ある程度集まった所で全方位に向けて広域魔法を放つ。また、この森にいるのはアンデッドだけではない。警戒を怠るな」
最後の確認が行われ、宵闇の森の前にある壁の扉が開かれる。
アンデッドが湧き出すようになってから作り出されたもので、かなり分厚いものとなっていた。
ロジャー達魔法使いは中心に、そしてそれを取り囲むようにハンター達が配置されている。
道幅はある程度は広いのだが、長年ほったらかしにされているため草などが茂っており進みにくいが、それでも新しく樹などが生えないように処理されているためまだ平坦な道を進めるだけ有りがたかった。
「……ここからが結界の内部だ。投光装置の用意を」
それとともにテンペストの作り上げた光に関する魔道書の知識によって生み出された新型の投光機が光を発する。
熱は出ていないものの直視するのが危険なほどに眩しく、その光は王都の中心から壁までを照らすことが出来るほどだった。
ゆっくりと先頭の集団が闇に飲まれていく。
目を凝らしているのに、前を進む人がどんどん暗くなっていき見えなくなるのだ。
それはまるで闇という物質がそこに存在しているかのような現象。
「不思議な光景です」
「ホントだよね。さぁ僕達の番だ」
結界を抜けると真っ暗闇だった。しかし……新型の投光機が役に立ったようで、光が照らされている方向に関してはかなりの距離を照らし出している。
「おお、これなら見やすいぞ!」
「今までの倍以上見通しが効くな!」
「その代わり向こうもこっちを見つけやすくなっているからな、気をつけろよ……」
数名から聞こえてきた言葉は効果があることを示している。
ある程度の光度があればこの闇の結界の中でも効果はあるようだ。しかし……実際に使える距離からすればたったの20メートルほどまでしか照らせていない。
光が数メートル先から急速に暗くなっているのが見た目ではっきりと分かる。
「……テンペスト、視える?」
「了解しました。『ピット』同期します」
テンペストの視界に今見えている視界と重なるように、モノクロの赤外線映像が浮かび上がる。
それによれば可視光のみがカットされていっているようで、赤外線に関しては問題なく視えている。
時間的には昼近くということもあってか、森の中は太陽の赤外線によってある程度明るい。
これならば普通の森とほぼ変わりはない。
エコーロケーションは今回出番はなさそうだ。
「問題なく視えます。前方に関しては特に敵は見えません。この闇の結界は可視光のみを減衰させるようです」
「ってことは……テンペストの言う赤外線と言うのは視える?」
「はい。この森が結界を張られる前と同じ程度以上に視えています。……敵を発見、右前方にスケルトン4、ゾンビ2。距離は約50メートル」
木が邪魔で明るかろうが見通しが効かないのは同じだった。
発見が遅れたというテンペストだったが、ここにいる誰もがその存在を感知していない。
この報告を受けてロジャーが前方のハンターに伝えると、光が届く少し前でやっとで気配を感じ取れたようだ。
「今回は優秀な魔法使いがいるようだ。俺達は戦いに集中できるってもんだな!さあ、戦闘開始だ。敵は6匹、照らせ!」
先頭を行く隊長が指示した方向へ光が向けられると、ぼんやりと蠢く人骨が見えた。
続いて腐った死体であるゾンビ。見るに耐えない姿をしている。
「今のところ周囲にいるのはこいつらだけだ、2人行け、ぶちのめしてこい」
「おう!」
「宵闇の森でこんな楽ができるとはな!」
あっという間に敵の目の前へと移動していったハンター2人が、棘のついた巨大な棍棒を振り回して死体を破壊していく。
頭を吹き飛ばしても胴体のみで襲ってくるこいつらを倒すには、完膚なきまでに叩きのめし、焼却して存在を消すのがいい。そしてそれだけならばハンター単体でも出来るのだ。
さくっとスケルトンを粉々にし、ゾンビを肉塊に変えた2人は火を放って一気に燃やし尽くす。
「新型の投光装置といい、優秀な索敵が出来る魔法使いといい……今回は楽でいい」
「……だってよ、テンペスト。その闇が視える魔法マジで知りてぇ……」
「現在の所、特に敵は見当たりません。……コリーは嗅覚に優れています」
「まあな。ちなみに耳もいいんだぜ?……まあ近くを歩いている音でかなり消されるんだけどな……。テンペスト、ちょっと自信がないが後方になにか居ねぇか?さっきから足音が多い気がする」
後ろを見ると確かに他の獣人達もキョロキョロとしているが、いまいち正確ではないのか困惑しているようだ。後ろは風下となっており嗅覚もあまり意味が無い。
しかし……闇を見通す眼は誤魔化せなかった。
「敵襲。後方より敵集団接近中。スケルトンですが動物形も混じっています。少しずつ広がりこちらを囲い込むつもりのようです。距離は光の届かない場所を保っているようなので約25メートル」
「全員止まれ!敵襲だ!聞いたな?先ずは俺達のケツをつけてくる奴らをぶち殺せ!」
「あいつらもう死んでんぞ」
「あ?あー……ならぶち壊して灰にしろ!」
他の皆には見えていないだろうが、テンペストの情報を元に指示を出した隊長は少し恥ずかしげだ。
どこの誰かからのツッコミにより一気に締まらない空気が出来上がってしまったのだ。
犯人はコリーだが。
集団は20以上で、横に回り込んでいる奴に関しては狼型のゾンビらしく、殆ど音を立てずにこちらに狙いを定めながら追従していた。
歩みを止めるとそのままアンデッド集団はテンペストたちを取り囲むように移動し……一斉に襲いかかってきた。
「投光装置を固定しろ!さあここで作戦開始だ!とにかく敵を引きつけろ!」
こちらに存在がバレたことが分かったのだろうか、光の範囲内に入ると突然走りだしてこちらへ向かってきた。
それを見て耐性が低いニールは悲鳴を上げるものの何とか気絶だけは免れたようだ。
しかし、テンペストの赤外線映像は見逃してくれなかった。股間に僅かに広がった白い光を。
一応まだちょっとだけなのでセーフである。
そんなことを考えている間にも次々とアンデッド達が集まっては攻撃を仕掛けては周りのハンター達にあっさりと打ち砕かれていっていた。
「敵、更に増援が接近中。全方位からです」
「……今テンペストが見てるの、あまり見たいとは思わなくなってきたなぁ」
「テンペスト……視えてるんだよね?よく平気だね……」
「ただの骨と死体です。更に増援。大きなスケルトンが見えます、特徴は犬型で四肢は太く頭頂から2本の角が生えています」
「ハウリング・ウルフだね。仲間を呼ばれるな……」
ロジャーがハウリング・ウルフのスケルトンが混じっていることを報告すると、それと同時にハウリング・ウルフの遠吠えが聞こえた。
この声によって近くにいる仲間を引き寄せ、敵がここにいることを知らせる。
それを利用しているのは同種だけではなく、他の魔物もその声を聞いて集まってくる。
普段ならばこれは絶対に避けなければならないが、今回に限っては魔物を一網打尽にするチャンスでもある。
「魔物どもが来るぞ!気合を入れろ!魔法使いは十分引きつけてから一気に焼き払え!樹を焼く心配はないぞ!」
魔法使いの皆へのマナの流れが早くなる。魔力を少しずつ練りあげて最高の威力を出そうとしているのだ。
そして宵闇の森の樹はなぜか延焼していかない。草は燃えるが樹は結界によって守られているのか、延焼してくれず見晴らしが良くなることはないのは過去の作戦で実証済みだ。
なので気兼ねなく焼き払うことが出来るのだ。何故か切りつけたりするのはダメージが通るので恐らく火からのみ守っているのかもしれない。
「敵増援さらに増加。アンデッド以外の大きな魔物も接近中。完全に囲まれました」
「分かった。……魔法使いはハンターの後ろへ!魔物どもを焼き払うよ!……コリー、奥の方にいる魔物を足止めして」
「出番だな。『雷鳴轟かせ走れ神速の雷よ。驟雨の如く敵を打て。我らを守るは雷帝の盾、その雷は触れるもの全てを滅ぼすだろう』」
頭上に青白い光球が浮かび上がる。
以前見た鎧に対して放った攻撃と同じようなものだが規模が違った。そして、そこから雷が自分達に向かって落ちたかと思うと、全員を囲むように青白い電撃が巨大なタワーシールドを形成し、それ以上の魔物の侵入を拒む。
スケルトンといえどもこの盾に近づいた瞬間に骨がはじけ飛び、前進すれば行動不能に陥るのは目に見えていた。
更にその盾の外側に向かって、まるでテスラコイルを起動している時のように……しかしその電撃の束は激しく辺りの空気を震わせるほどの轟音を立てて魔物たちの身体を破壊し、電撃に撫でられた者は尽くその行動を封じられた。
時間にして数秒程度の短い効果ではあるがその威力は絶大で、とても神秘的な光景とは裏腹に凶悪な破壊をもたらした。
「おお……確かにいつもよりも集中力が増す感じだな。この腕輪欲しいな……」
「生身の魔物の動きは封じたぞ!焼き払え!骨の欠片も残すな!」
号令とともに魔法使い達の広域火炎魔法が展開される。
『我が願いは灼熱の浄化。炎よ、踊れ。地を焼き生けとし生きるもの全てを灰燼と帰せ。見渡すかぎりの炎の祝福を我は欲す』
ニールの詠唱が完了する。すでにあたり一面が炎の海となり、すさまじい熱気がこちらにも届いているが、ニールの魔法は更にその上を行った。
炎帝の杖によって増幅されたニールの広域火炎魔法は普段よりも広く、そして遥かに高温の炎を上げていた。その炎をついでとばかりにコリーが風で煽り被害を拡大させる。
あちこちで魔物が焼け焦げる臭いと、悲鳴が響き渡り、その凄まじい範囲の炎の海は闇を退けてその場所を明るく照らしあげていた。
「……これがニールの本気の魔法……」
「凄いでしょ?ニールは僕のところに来る前に魔物の軍勢をこれで退けてるんだ。当時に比べたら威力も範囲も上がってるけど……だからこそ恐れられた。結構肩身狭い思いしてたみたいだけどね、僕のところに来てからは大分落ち着いてきたんだよ。テンペストが来てからは更に他人を気にかけるようになったみたい」
強すぎる力を持っていたが故に、小さな集落で暮らしていた同族達から恐れられ、対等に接してくれる人が居なくなった。本気を出せばその集落ごと焼き払うことが出来るというのを証明してしまったために、どこか伺いを立てるような扱いを受けて、ニールは傷ついた。
それをたまたま知ったロジャーが引き取り、保護を兼ねて訓練しているのだった。
「ボクは……師匠のところに来て初めて居場所を見つけたんです。この力を見ても怖がる人が居なかったんですよ。むしろ凄いって褒めてくれて……論文を本にまとめてギルドに提出したらちょっとしたお金持ちにまでなっちゃいましたし。師匠が居なかったらきっと孤独だったと思います。テンペストもコリーも怖がるどころか普通に接してくれたし、……ボクの居場所はここにあるんです」
轟々と音を立てて全てを焼きつくす勢いでハンター達を中心とした炎の結界が出来上がっている。
その炎にまかれて殆どの魔物は詠唱の通り灰となった。
炎が消えて辺りは未だに陽炎が立ち上るほどに高温を保っている。そこに温度を下げるために水の魔法と氷の魔法を打ち込みようやく歩けるようになった。
「敵集団は全滅。敵の姿は確認できず」
「よし!かなりの数をやったはずだ、これで暫くは……」
「なんだ?この声」
一人の獣人のハンターがかすかに聞こえた怨嗟の声を聞いた。
その声はゆっくりとこちらへ近づいてくるが姿が見えない。
「テンペスト?」
「目視範囲には居ません。『エコーロケーション』起動、同期を開始します。声の方向を特定しました」
「声は向こうだ!」
「ん?あれは……まさかリッチか!」
ピットにも反応せず、エコーロケーションでも声の発せられる位置しか特定出来なかったが、肉眼ではぼんやりと青白く光る襤褸を纏った骸骨が宙を浮きこちらへ向かってきているのが見えた。
投光機がそちらに向けられるが、向こう側の景色が透けて見えて非常に見づらい。
『我が領域を侵すのは貴様等か』
「ハッ、ここを闇に変えたのはお前かリッチ。誰だか知らんがそういうことなら消えてもらうぞ」
『ならば死ね。そして我が配下となり闇の中で永遠の時を刻み続けるがいい』
ぽっ、ぽっと周りに半透明の何かがふわふわと浮かび始め、それが徐々に人型を取っていく。
「ゴーストだね。今度は物理も魔法も効きにくい魔力体を出してきたってことか」
『それだけではつまらないのだろう?』
表情のないはずの骸骨が嗤った気がした。
『我は死者を操る者。この地で死に絶えた魔物達は全て我が下僕となる』
「「オオオオオオオォォォォォォォォ!!」」
地響きにも近い大音量の咆哮が空気を震わせる。
如何に屈強なハンターであっても、如何に優秀な魔法使いであっても、その声は絶対に聞きたくないものだった。
「敵捕捉。3体の巨大な蜥蜴……地竜のアンデッドと思われます。リッチの背後から接近中」
「不味い……」
「テンペスト!そいつは肉付きか?」
「はい。腐り落ちては居ますが」
「腐地竜3体!腐敗のブレスに警戒しろ!魔法使い組は周りのゴーストとリッチに向かって攻撃開始!」
腐竜とは朽ちた竜の死体が蘇ったものだ。生前の動きを模倣し、痛みを感じないため非常に危険なものとなる。ブレスはどのタイプの竜であっても腐敗のブレスへと変わり、それを受けたものは生きながらにして腐っていく。
更に地竜であれば地属性の魔法も行使してくるため地上では無類の強敵となる。
「テンペスト……ごめん、温存出来そうにないね。悪いけどあの腐竜にブラストを。……これも一緒にね」
ゴロゴロと大量に袋から出てきたのは爆発の力がつめ込まれた魔晶石だった。
つまりはこれをブラストの前に腐竜に埋め込み、ブラストと共に吹き飛ばして爆破しようということだ。まだ、向こうの射程には入っていない今がチャンス。
「テンペストが出るぞ、全員彼女を守れ」
『子供が切り札だと?落ちる所まで落ちたか?娘、こいつらと居なければ長生き出来たものを……亡者どもよ、喰らい尽くせ!』
ゾンビやスケルトンに混じってゴーストが希薄な身体で攻撃をすり抜けて来る。
『ストーンバレット、フルオート』
手元においた魔晶石を大きさの差異にかかわらず発射する。数発がリッチの身体を突き抜けて後ろに居た腐地竜へと突き刺さり、内部で砕け散って行く。
3体に対してほぼタイムラグもなく命中した魔晶石はロジャーによって起爆を待つ。
少し焦ったような動きを見せるリッチだったが自分には全く被害がないのを確かめて嗤う。
その暗い眼窩は勝利を確信し、腐地竜にブレスの指示を出すべく右手を上げている。
『その力は太陽の如く』
しかし続けて詠唱が始まると何かを感じ取ったのかその手が止まる。
光球が生まれてその周りに次々と空気が引き寄せられていき、凄まじいエネルギーが蓄えられていく。
『気体は液化し、その力を開放せよ。範囲前方100度。上下角30度。ブラスト!』
『何だ、これは!?グゥオォォッ』
暴風が吹き荒れ、詠唱の終了とともにそれが一瞬だけやんだかと思うと、次の瞬間には前方にあった物が轟音とともに消し飛んだ。
詠唱終了に合わせロジャーも起爆し、ブラストの圧縮され範囲を限定されたことに寄って逃げ場を失ったその空気の壁は爆破によりもろくなった腐地竜の身体を一瞬で破壊し粉々に吹き飛ばす。
延焼によっては燃えることのなかった樹も根本から折れ曲がり、一定の範囲内で吹き飛び倒れ、近くに居た他の魔物たちを巻き込んで潰している。スケルトンは粉砕されゾンビもちぎれ飛びその破片が更に他のアンデッドを破壊していく連鎖が生まれた。
爆発によって希薄になった場所へやはりものすごい勢いで吹き込む暴風で、無事だったものもまた破壊されていき、終わった後にテンペストの前方で残っていたのは存在が更に希薄になったリッチのみだった。
『な……何だその魔法は!』
「残念。お前が誰かは知らねぇがこっちも日々進歩してんだよ!」
うろたえるリッチにコリーが吠える。
これを勝機と見た他の魔法使い達も最後の力を振り絞ってまた広域魔法攻撃を開始し、吹き飛んだ肉や骨を灰に変えていく。
しかし……ゴーストやリッチのように実態のないものたちにはあまり効果がなく、じわじわと削りとってはいるもののまだ向こうが優勢だ。
「全員そのままでよく聞いて。これから一瞬だけ魔法が使えなくなる。自己強化も含めてね。消えたらすぐにかけ直す用意をしておいて」
「テンペスト、アレをやるぞ」
「はい『ジャミング、範囲半径100』」
増魔の杖によって増幅されたジャミングはいつもの倍以上の範囲をカバーする。
更に魔槽の魔力を使うことで今のところテンペストは自分の魔力を一切使わず行動出来ていた。
効果範囲内で突然放っていた魔法が全て消え失せ、身体強化の効果もキャンセルされる。唯一魔道具である投光装置の光だけは明るく照らし続けているものの、全員が突然魔力が乱れて混乱していた。
これを知っているロジャー、コリー、ニール、そしてテンペストのみがすぐに次の行動に移る。
『リブート』
ピットなどを含む自分にかけていた物を一気に回復させると、ついに魔槽からの供給が途絶える。残りは増魔の杖に残された魔力と自分の魔力のみ。
『こ、んな……馬鹿な……事が……』
「悪いね、ウチの子は優秀なんだ。そして消えるがいい『彼の者の魂を浄化しマナへと還さん』」
最後の叫びを上げる間もなくアンデッドにとっての特効魔法である浄化魔法がリッチを消し去った。
スケルトンやゾンビたちも操っていたリッチが消えたことで、ただの躯と化しその場に崩れていく。
それらを再び操られないように焼却していると、ロジャーがテンペストに黒い輝きを放つ水晶のようなものを手渡した。
「これは……?」
「リッチが落とした魔晶石だよ。……耳を近づけると生者を呪う怨嗟の声が聞こえる」
「気持ち悪いです」
「まあね。まあお守り代わりになるから持っておくといいよ」
リッチの魔晶石、一度だけ死から逃れられる……とか、今際の際に一度だけその者の願いを叶える……などと言われているがその効果を実感したものは居ない。
ただ、死んだと思ったが生きていたという時、代わりにこの魔晶石が壊れていたりするためそう言われるようになったのではないかと言われている。
とある実験では生き返らなかったとの記録もあり、その真偽は不明だが、生き残ったものは死の淵にあっても生き残ることを強く願ったからだという声もあり、一種のお守りとして高値で取引されている。
今回の宵闇の森で遭遇したこのリッチはそれなりの強さを誇る相手ではあったので、大きく見ている分には美しい物で、売れば大体500万以下にはならないと思われる。
「……あれ?そういえば明るくない?」
「おお、本当だ。いつの間に……」
テンペストのジャミングの影響だろうか、周囲が丸く切り取られたかのように彼らを中心として暗闇の結界が消えていた。
「もしかして結界も壊せる……とか?」
しかし、消えていた結界はまた少しずつ穴をふさぐように戻ってきており、一時的に範囲内を散らしただけであるようだった。
そしてリッチを倒しても消えないということは、他に別な結界を張った魔物がいるか、そうでなければ何かを依代にして結界を維持しているかと言うこと。
現時点ではまだこの広大な森の結界を破るまでには至らない。
「ああ、駄目か。もしかしたらって思ったんだけどねぇ。でもテンペストのジャミングで結界も一時的とはいえ消すことが出来たしこれは色々と役に立ちそうだね」
その後、さっきのあの魔法は何だったのかと聞かれまくったが、これは魔力を暴走させる使い捨ての魔道具でさっきの一個分しか無いと適当なことをいって煙に巻いているうちに、本当に周りが真っ暗になってしまったためさっさと入り口に戻ることとなった。
途中散発的に魔物が襲ってきたりはしたものの、統制がとれた動きとは言いがたく、特にテンペストの出番も無いまま森を抜ける。
「アンデッドの討伐は完了した!そして統率していたとみられるリッチ、更に腐地竜3体もだ。これでこれまで通りに中へ入っても問題無いだろう」
隊長のハンターの言葉に入り口で待っていたハンター達やハーヴィン領の人達が歓声を上げる。
同行していた人の中にはハンター達の活躍を観察する為の人も居たようで、それによって魔法使い達もハンターもそれぞれがどれだけ活躍できていたかを正確に知ることが出来る。
これは報酬の分け方に文句が出ないようにするための措置でこうなっているそうだ。報酬の受け取りはハンターはハンターギルドに、魔法使い達は魔術師ギルドで受け取れる。
今回テンペスト達は魔術師ギルド側で出ているのでそちらで報酬を受け取ることになるだろう。
「お前さん達も当然この後の打ち上げに来るよな?」
「ああ、良いけど……この子はまだお酒駄目だからね?」
「安心しろってドワーフのハンター共ならともかく子供には飲ませねぇよ。むしろ美味いもんもいっぱい出るぞ。どうだ?」
「行きます」
「……まあそういうことで」
その日、たっぷりと美味しいお肉や果物を食べ、冷えたジュースを飲み干しテンペストは満足するのだった。
現在不定期更新中。
連日の暑さにやられてます。クーラー無いと生きていけない!!
そしてそろそろ詠唱纏めないと本気で誰がどんな詠唱していたかわからなくなりそう……