第二十二話 実力を見せよう
「着いた……」
「大丈夫?テンペスト」
「お尻が痛いです」
行きとは違ってやはり2日多くかかった帰り道。
途中で土砂降りになり足止めを食らってしまったことも大きかった。なにせ上の方で降った雨が坂を伝って流れてくるのだが、土砂降りなだけにその量も半端ないものとなっており、まるで川がそこに出現したかのようになっていた。
何とか休憩場所までたどり着いて一息ついたものの、結局そこから動けたのは暫く時間が立ってからだったのだ。それを考えれば結構早い方とも言えた。
それでも、長い時間ゴトゴトと揺られながら、大して良い椅子でもない物に座っていたテンペストは限界を迎えていたのだった。
お尻が痛くなってしまっても仕方がない。
それを聞いてニールの挙動がおかしくなってしまったのを察して、先に謝っておくことにした。
「ニール、すみません。またニールの性欲を刺激してしまったのですね」
「……ニール……お前マジで……テンペストはまだ子供だぞ?っつか80歳差だぞ?」
「そ、それくらいリヴェリでは普通です!仕方ないじゃないですか!あんな美人なんですよ!?」
「美人っつーか……いやまぁ、テンペストは確かに可愛いことは可愛いが……。成長したらすげぇ美人になることは間違いないな」
誰の目から見てもテンペストの金色の髪と目、そして整った顔はとても美しい物だ。しかしそれはリヴェリ以外から見ればプラスで幼さという要素が入り、めちゃくちゃ可愛い子という印象になる。
当然ながら結婚可能な年齢にはまだまだ届かないテンペストを見て、好きだと言い、あまつさえ欲情までしてしまうニールはコリーからしてみればヤバイ人としか思えないのだった。
「ですよね師匠!?」
「なっ……なんで僕に振るかなぁ?まぁ、確かにテンペストはリヴェリからすれば凄く美人なんだよね。それは認めるよ、でもニール……流石に盛り過ぎ。テンペストにそのうち嫌われるよ?」
「そんなっ!」
「よく分かりませんが……結局のところ私の発言の何が駄目だったのですか?」
「あ、それに関しては全面的にニールが悪いだけだから。テンペストは何も悪く無い。こいつが勝手に妄想して股間膨らませているだけだから。後で娼館に放り込んでおくから安心してくれ」
「そうですか。娼館というと男女の性行為を行う場所で、性欲を発散させる場と聞いています。ニール、辛いのであればもっと利用したほうがいいのではないですか?」
「違うんだ!ボクが好きなのはテンペストであって……あぁぁ」
違う、そうじゃないんだ、と言い訳を続けるニールに対し、どストレートな返しをして更に傷を抉るテンペスト。そしてついにハーヴィン領へと到着し、久しぶりの我が家へと到着したのだった。
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「テンピー!お帰り!!」
「ただいま戻りました、アディ。サイモンも」
「お帰り。旅装も似合ってきたね、随分と頑張ったみたいだ」
連絡を受けて待っていたようで、すでに2人が入り口まで迎えに来てくれていた。
馬車から降りてそのままエイダの胸に飛び込むテンペストと、それを微笑ましく見えているサイモン。それはあたかも本当の親子のように見えた。
「……本当に神子様だ……本当にアディって呼んでる……っていうか抱きついてる……」
「ニール、ニール!ハービン侯爵の前だぞシャンとしろ!」
ものすごく自然に抱きついていったテンペストに、あの時聞かされたことは本当のことだったのだと思い知らされた。
完全に1人だけ浮いている。
そしてコリーの一言で侯爵の前ということを思い出して背筋を伸ばした。
「大魔導師ロジャー様、テンペストの事は感謝していますよ」
「うん、神子様もハーヴィン候も今大変なときに押しかけるような事になってすまないね。そしてテンペストは凄く強くなったよ。今回は宵闇の森へと一緒に行くことになっている」
「……聞いてはいるが……本当に大丈夫なのか?」
「問題ないよ。テンペスト、ハーヴィン候とちょっと手合わせしてみて」
「分かりました。……サイモン、私があなた方と一緒に行けるかどうか……試してみてくれませんか?」
荷物をおいて、マントを取り下に着込んでいた鎧を露わにする。
以前とは違う佇まいにサイモンはテンペストの成長を感じ取った。
「頑張ってくださいね、テンピー!」
「はい、勝つまでは行かなくても……足手まといにはもうならない事を証明したいです」
「その鎧、ここに居た時よりもずっと馴染んでると感じるよ。そして明らかに魔力量が増えてる感じがする。さぁ、やろうか」
ロジャーが合図をするとともにテンペストがパワードアーマーによって一瞬で加速し、サイモンに肉薄する。流石に動きが変わりすぎていてびっくりしたものの、すぐに避けて反撃に出た。
振り下ろされる棒を受け流してまた距離を取る。
「ほう……。本当に腕をあげたね、正直びっくりだ」
「流石はサイモンです。やっぱり無理ですか……」
サイモンもハンターだ。素早い動きの魔物なども見慣れている。対応出来るのも当然だった。それでも、一気に懐まで入られたことによって自分も油断していたことに気づいた。
以前のテンペストとは別物、肉体強化を使いこなす魔法使いとして対峙する。
「では思いっきり打ち込んでくるといい『我が身は鋼の如く、力は竜の如く、全てを退ける鎧となれ』」
テンペストが使うものとは違い、自分の身体を強化して力を上げ、魔法により鎧のように身体に纏わり付く盾を展開したようなものだ。
打撃メインで来ても、魔法による攻撃が来ても対処できるようにとテンペストに考慮した策。もちろんそう簡単に攻撃させるつもりはない。
テンペストも強化をしているのは分かっている。それならば遠慮なく打ち込んでも問題無いだろう。
恐ろしい唸りを上げてテンペストの直ぐ側を棒が通過していく。
それに対して防戦一方となるテンペストにとどめを刺すべく、サイモンは突っ込んで最後の胴体へ対するなぎ払いを行おうとした。
体重と速度が乗り切り、自分へと到達するその瞬間テンペストは呟く。
『ジャミング、リブート』
「なっ……」
「終わりです」
ジャミングの直撃を受けて突然守りと力を失ったサイモンは、その突然の変化に耐えられない。
腕の振りが遅い。身体が重い。そして、腹にとてつもない衝撃を受けて逆に地面へと膝をついた。
「……勝者、テンペスト……でいいかな?ハーヴィン候」
「ぐ……文句は、無い。何だ今の……」
「サイモン様がテンピーに攻撃する直前、いきなりサイモン様がタイタンワードを解除したように見えましたが……」
エイダには何となく分かっていたらしい。
周りに悟られないように、自分の間合いのごく狭い範囲でのみジャミングを放ち、サイモンの勢いを殺した。確かに知らずに見ていれば突然サイモンが身体強化を解いたように見えただろう。
その無防備な状態でリブートによって復帰したテンペストの強化されたパンチを腹に受けたのだ、防御する暇もなく、腹に力を入れる事も出来ずにまともに受けたそれはサイモンにかなりのダメージを与えていた。
「強くなったでしょう、テンペストは。さっきのは彼女のオリジナルワードで……まあどういう効果かはそれを食らったハーヴィン候なら分かるよね?」
「恐らく、こちらの魔力に干渉して強制的に魔法を消すのだろうな。厄介な物を生み出したもんだなぁテンピー。ああぁぁ……いってぇぇ……」
「すみません、それで……どうでしょうか。私はサイモンと一緒に行けますか?」
「ああ、それに関しては合格だろう。ロジャー殿、ありがとう」
「うん。でもまだまだ修行中だからねぇ。もっともっと強くなれるよ彼女は」
合格の言葉を聞いてテンペストは喜んだ。
まだまだ全力を出したわけではないけど、それでも合格をもらえたのであれば2人の役に立てると言うこと。何よりも足手まといにはならないというお墨付きをもらったと言うこと。
守るということに関してはまだ足りないかもしれないけれど、それでも力になれるということがとても嬉しかった。
最初の頃は移動するだけで息が上がって全然駄目だった。
少しずつ訓練して動けるようにはなったけれど、それでも全くと言っていいほど役に立たなかった。何とかストーンバレットを扱えたおかげでまともに戦えるだけの力は得ていたけど、それでもすぐに魔力切れになってしまうため時間的にも限定されたことしか出来なかった。
だけど、サイモンが本気ではなかったとはいえ意表をついてでも一撃入れることが出来たということは、それだけでも相当進歩したと自分でも思う。
素の体力は今までとたいして変わりはないけれど、魔力量と新しく使えるようになった魔法の数々で皆と変わらない行動が出来るまでに成長した。
「テンピー?……なんで泣いているんだ?」
「いえ、嬉しいのですが……何故か涙が」
「ああ、そういうことか。大丈夫人間ってのは嬉しくても涙は出るんだ」
「そうなのですか、面白いですね」
サイモンに抱きついて喜びを噛みしめる。
向こうに言ってから数ヶ月。ずっと認めてもらうために頑張ってきた。ひたすらにサイモンやエイダに認めてもらうために、そして2人についていけるだけの実力をつけるために。
「……うぅ……羨ましい……」
「ニール……」
「コリーは何回か抱きつかれてるから分からないんだ!」
「お前マジで変態な」
「羨ましい……羨ましい……っ!」
ボクもああやって胸に顔を埋めて抱きついて欲しい!という願望をもはや隠していない。
完全な変態がそこに居た。
しかし外見からすればニールも子供にしか見えないため、リヴェリであることを知らなければただのお子様カップルとしか見えないため、人間のそれよりは気持ち悪くないのが特定の人からすれば羨ましい限りだろう。
「……あー、とりあえずここではあれだな。ゲストハウスへ案内しよう」
「感謝するよ、ハーヴィン候」
「弟子の2人……コリーとニール、だったかな?君たちの部屋も用意している。当日までくつろいでいてくれ」
「ご配慮ありがたく賜ります。大魔導師ロジャーの弟子、コリーといいます」
「え、あっ、同じく弟子のニールです。よろしくお願いします」
突然口調が変わったコリーに狼狽えすぎて自分の挨拶をしくじった。
もう心臓バクバクになっている。
しかしそんな程度で目くじらを立てるようなサイモンではない。そもそも貴族以外で一々ここまでかしこまった挨拶などすることはないのだから、その気持が現れていることのほうが大切だ。
侯爵自らが案内をしたゲストハウスは、本邸よりも少し離れた場所にあるものの、本邸にも劣らない程の大きさだった。これがいつでも使えるように綺麗に保たれているのだからその労力はどれほどのものなのかと思う。
「ここが泊まってもらう場所だが、各自の部屋は二階にある。名札をつけているのですぐに分かるはずだ。後の細かい場所などは使用人の彼らに聞いて欲しい。そして裏庭だが……見ての通り何もない。好きに訓練などをしてくれて構わない」
今回テンペストもこっちの方に泊まる。
宵闇の森に行くのはロジャー達とその他ハンター達だけで、今回はエイダとサイモンは行かない。
それであれば一緒にいく皆と居て、通常通りに過ごしてもらったほうがいいだろう。
とはいえ、夕食だけはテンペストはサイモン達と食べることとなった。
何よりコリー達が帰ってきたのだから今日くらいは一緒に居たほうがいいだろう、と提案してくれたからだったが、その言葉に反応してすぐに走って本邸まで行ってしまうテンペストを見て残された3人は苦笑する。
「やっぱり、寂しかったんですかね」
「そりゃそうだろう。親も記憶も何もかも失くしてしまって、すぐにこっちに送られてきたんだぞ。テンペストは天才だがまだ子供なんだ。甘えさせてやりたいさ」
ニールが気持ち悪かったんじゃないのか?と喉まで出かけた言葉は飲み込んだ。
「それにしても何でここに神子様が?」
「師匠、何か知ってるんじゃないのか?」
「……まあ不思議に思うよね。これ、他の人とかには絶対言わないようにね?」
どうせ最終的にはサイモンと一緒に付いて行くつもりだったのだ、その時に2人は巻き添えにしてやろうと思っている。であれば今公開しても大丈夫なところだけは教えておこうとロジャーは考えた。
「半年ほど前に、精霊からお告げがあったそうだ。『世界の理から外れたものが現れる』これの意味するところは知っているね?」
「はい。確か世界の理から外れた者が現れ、それに対応する異変が起きるとか。結局理から外れたものって言うのがどういうことなのかまでは知りませんが」
一般的に知られているのはこの程度。大した情報ではないけれど、どういう者が現れるのか等は聖堂関連者か、国の関係者、そしてそれに携わった者たちだけだ。
「まあそうだね。一般にはあまり公開されていないからねぇ。世界の理から外れた者っていうのは、突然現れる誰かを指しているんだ。どういうことかは分からないけれど、それまで見たことがなかった人が突然現れる……その後1~数年後に異変が起きるけど、この異変を探るためにドラゴンスレイヤーであるハーヴィン侯と神子のエイダ様が動くことになったんだ」
「ではこの宵闇の森の騒ぎは……」
「時期的には早過ぎる。でも、今回は早くなっている可能性も否定出来ないね。なにせ前例は殆ど無いんだから……。これが10や20……いや100を超えるようであればその傾向も分かるだろうけど、たった3回じゃね……」
過去の例が少なすぎて統計が全く取れないような状況なのだ。それに、異変と言っても全て違うし予測のしようが無い。
「でもそんなアバウトなお告げで誰がその理から外れた者かも分からなけりゃ、それに対応した異変だってわからない……探しようが無いんじゃないか?」
「まあね。でも、その突然出てきた人って結構目立つみたいだからね。不思議な噂とかそういうのを聞いたりしてると案外分かるはずだよ」
「そういえばこのハーヴィン領で凄い音を立てて飛ぶ、飛竜より強い翼竜が出たって噂がありました!異変の前兆なのかも……?」
「っつことはこの近くで異変が起きる可能性がある?なるほど、ハーヴィン侯はうってつけだな」
まあ、実際の所はテンペストなのだが。
しかしワイバーンの復活に合わせて2人には真相を教えたい。正直今からでもぶちまけたい衝動にかられているけどなんとか耐えている。
もしそれの正体がテンペストで、空を飛ぶという悲願を達成出来る唯一の存在だと知ったら……2人がどういう反応を示すのかとても気になる。しかも身体は人間だけど中身は精霊だと知ったら?さらにその精霊が実は人工的に作られたものだと知ったら?
しかも今、自分が手がけている魔導エンジンは、テンペストの新しい魔法であるブラストを見てあれを応用すれば凄まじいエネルギーが作り出せると気がついた。
以前に聞いたエンジンの仕組みというのが、それを魔法を使わずに実現するための苦慮の結果であることが分かったのだ。
それも言いふらしたいけどまだ我慢。
「まあそんなわけで彼らは今ここを拠点にして、色々と情報を集めているということだね。そこにこの騒ぎだからタイミングがいい気はするけど……ここの魔物が溢れるんじゃないかっていうのは結構前から言われていたことだし、多分異変ではないから彼らも動かないってことだよ」
動かなければならない人ではあるけど、失ってもいけない人なのでこういう時はハンター任せとなる。こればかりは仕方ない。
やがて夕方になり夕食の時間となった。
各部屋へと使用人が呼びかけにきて、全員が集まった所で食事が出される。
「コリー、ごめん、なんかいっぱいナイフとかあるんだけどどう使うの?」
「外側から出された順に使う。使い方は分かるだろ?」
「一応……でもこんな凄いの食べることなんて無いから……」
「とりあえず、俺の真似して食ってみな。おっと、オードブルが来たぞ」
生まれて初めての豪華な食事であるニールにとって、このテーブルマナーというものは全くの未知のものだった。
緊張している上に、何をどうして食べれば良いのか微塵もわからないため、コリーに聞いてみると当然といった感じで返される。この中で知らないのは自分だけであるということに恥ずかしさを覚えて顔が赤くなっていった。
「誰だって初めてはある、そんな気にするなって」
「でも……」
「もしかして使い方が分かりませんか?」
コリーとニールがこそこそと話をしていると、側に居た使用人の中でもちょっと年齢が高めの人が近づいてきてニールに話しかける。
バレたと思って泣きそうになっているニールに、彼は丁寧に説明をし始めた。
「え、えっと……」
「大丈夫です。こういうものは教えられなければ知りませんから、恥ではありません。こういった食事の場は初めてということですので僭越ながら私の方からお教えいたしましょう。まずは今出されたものは……」
ニールが教えられながら少しずつ食事を進めていく。
隣で一緒に食事の指導をしている彼は終始笑顔でその対応に当っていた。
「……はぁ……美味しかった……」
「だな。流石侯爵家、使ってるものがウチとは段違いだわ」
「そうですねー。マナーも教えてもらったし、次は多分大丈夫。一旦覚えてしまえばそんな難しくはないね」
「……まあ、まだそこまで難しい物は出てきてなかったからな」
大満足だったらしい。
実際出てきたのは高級食材ばかりで、コリーでもあまり食べることのないものばかりだった。ニールにとっては物凄いご馳走だったのだ。
一応本人もお金は持っているけど、そういった高級なお店はドレスコードがあったり、マナーに厳しかったりということもあってニールには敷居が高すぎた。普通に入ろうとして入り口でやんわりとお断りされたのはいい思い出だ。一刻も早く忘れたい。
食後にやたらと広い風呂に入り、広間でゆったりと各々の魔力の調節などの訓練をしているとテンペストが戻ってきた。
「ああ、お帰りテンペスト。沢山話はできたかな?」
「はい、とても有意義な時間を過ごせました。何より2人に実力を認めてもらえたのが嬉しいです」
「それは良かった。これで一緒に行けるね」
「ん?一緒にって……もしかしてハーヴィン候達と一緒に旅に……?」
「そう。テンペストは2人に付いて行くために頑張ってるんだよ。だから僕も実戦的で必要な物を最初に詰め込んでるんだ。ニール達みたいに時間があるわけじゃないからね」
物覚えが良いのはあるが、テンペストとロジャーの訓練はかなり段階を飛ばしていたりする。
最短で実力を付けさせるためにそうしているため、どうしても基礎的な魔力量などに関しては追いつかない部分が出てきてしまっていて、テンペストは知識ややれること自体は一人前と言って良いものの、実際に魔法として扱えるものは少ない方なのだ。
更に体力も筋力も低いため、タイタンワードによる強化は必須。
通常は同時に発動させるワードは2~3程度だが、基本動作だけでもテンペストは身体強化、傀儡、フォースドチャージ、マナ循環を常に使い続けている為、それにプラスして自分の魔法を放つ。その魔法自体も複数の要素を取り入れた複雑なものだったりするのだから、通常ならば高位の魔術師に匹敵するような事を続けているのだ。
普通の人間であれば耐えられないレベルだろうが、これが出来るからこそテンペストはここにいる。
教えられた魔力の操作方法も初級をすっ飛ばして中級や上級を取り入れている。
教えて一旦理解すれば次からは確実に使えるようになる上に、今自分が出来ることと出来ないことを確実に把握し、使い分け、なんなら応用をきかせて似たような結果を生み出すことまでする。
実際傀儡だって本来は自己強化した自分を思い通りに動かすためのワードだが、テンペストは自分を動かすのではなく鎧を動かした。その為、身体強化をしていなくても日常生活程度なら問題ない程だ。
更にマナを吸収して回復しつつ、マナを循環させて体内魔力の消費量を限りなく抑えている。
だからこそ、コリーやニールに比べて遥かに低い魔力量でも戦える。
その特性を活かすためにロジャーは色々と訓練内容を組み直していたのだ。
あと半年くらいは続けないと細かい所は上手く出来ないところがあるだろうけど、それでも2人と一緒に出かけて足手まといにならないレベルには達していた。
つまり……。
「まあ、そんなわけでテンペストはこの作戦が終わったら僕達と行かずにここに戻っていい。完全にではないものの、付いて行く分には全く問題がないほどにまで成長したんだ。エイダ様も精霊だけでなく魔法の使い手でもあるから色々と教えてもらえるだろうしね」
「えっ……テンペスト……もう行っちゃうんですか?」
一番最初に反応したのはニールだった。
好きな子がいなくなる事に危機感を覚えたのだ。
「いえ、まだ聞きたいことが沢山あります。まだまだロジャーには教えてもらわないとなりません」
「うん。向上心があって結構。じゃあ僕はサイモンに話をしてくるよ」
「話、ですか?」
「僕の教えが必要。でも彼らの旅にも同行しなければならない……ならもう決まってるじゃないか。僕達も一緒にいくよ。戦力になるよ?」
「マジか。いや別に俺は構わんが。ここでいきなり言うかね普通」
「良かったぁ!まだ一緒に居れるんだね!」
元々、一緒に行こうかとは思っていた。サイモンにはすでに話は通しているからすぐにでも許可は下りるはずだ。なにせ国の中でもトップクラスの魔法使いとその弟子がついてくるとあっては戦力の大幅な増強に繋がる。
「……ありがとうございます、ロジャー。あなたが付いて来てくれるのであれば心強いです」
「まだまだ成長できる生徒を放っておくってのは勿体ないからねぇ。それに、コリーはともかくニールはこういった旅を経験しておくのもいいだろうし」
「ボクも旅に……楽しみです!」
「まあ、それなら先ずは宵闇の森の魔物どもを蹴散らしてからだな!なんかやる気出てきたな」
「ボクもです。これ以上ないくらいまで焼きつくしてやります!」
こうして、ロジャー達一行は今日よりこのハーヴィン領を拠点として活動を開始する事になった。
このままサイモンのゲストハウスへと泊まり、情報を集め、テンペストのワイバーンを作り上げるための素材をついでに確保しながら。
テンペストはロジャーによって鍛冶魔法を叩きこまれていき、自在に物質を生み出す創造魔法を習得するべく訓練を重ねる。全ての物質に精通し、あらゆる道具を作り出す鍛冶魔法。
武装を作り上げるためには必須のその魔法は難易度は高く、集中力を必要とするため常人が扱えるようになるまでには鍛冶を覚えるのと同じくらいはかかるだろう。
現在基本的な鉄、銅などの簡単なものは出来るようになってきているので、今度はその応用となる。
スタートラインを超えたテンペストへの本格的な指導もまた、ここから始まった。
部屋の片付けが進まない。小説書いていたい。