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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第一章 精霊テンペスト編
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第二十一話 初めての湯あたり

ついでなので今日二回目の更新。

 王都を出て3日。

 ゆっくりと歩みを進める4人はひたすら山道を行く。その途中の広い草原地帯が今日の宿泊地となる。

 前に王都に来た時にも通った道だけど、前の位は疲れがない。

 毎朝コリーに稽古をつけてもらっているのも良いのだと思う。


 甲虫の鎧を利用したパワードアーマーも地の出力が上がり、手首などの関節部分の魔力も補強していったために全力で岩を殴りつけても怪我はしなくなった。

 つまりは甲虫の鎧が壊れないかぎり、テンペストは高速機動と獣人に匹敵する力を手に入れることとなる。

 脱げば結局ただの10歳の子供と同じ程度の筋力しか無いが……。


 更にパンチを放ってもまだ今は体重が軽いためにどうしても弱い。膂力自体はあるけど打撃はある程度の体重がやはり必須だ。甲虫の鎧も子供のテンペストが無強化で着れる程度の重さしか無いことを考えれば、体重の乗った攻撃と言うのは出来ないのだ。

 その為今は重力魔法を勉強中だ。出来るようになったらこの馬車に掛けて維持する事もやるつもりだけど、こちらもなかなかうまく行かないでいる。

 自分の頭の中では質量が増大する=重力も強くなるという図式が成り立ってしまっているため、それを消すのに苦労しているところだった。


「これが上手く行けば打撃でも相手を圧倒できる筈なのですが……」

「まぁ気長にね。そのうち剣術とかも覚えたらハンターとしても一流になれそうだねぇ。テンペストはすでにパーティーさえ組めればハンターとしてもやっていける位に成長しているのは保証するよ。ただ、魔法使いは基本的に接近戦が弱いからね……懐に入られるとなかなか魔法を使うことも出来ずに押されてしまうんだ」

「そういう時はどうすれば良いのでしょう?」

「僕を含めてある程度の力を持っている魔法使いは、そういう時のために1つは必ず無詠唱で出せる魔法を持ってるんだ。僕だと大体5個位。後はそうでなくても1ワードだけで発動できる……テンペストで言えばイグニッションなんかがそうだね」

「なるほど……。無詠唱ですかそちらも鍛えておきたいと思います」

「お、着いたかな」


 ガクンと身体が横に押されながら馬車が止まる。

 目的地に着いたようだ。


 外は薄っすらと赤く染まりつつあり、さわさわと風が草を撫で付ける様が海を思わせた。

 そういえば久しく空を飛んでいないなぁと思う。

 こちらに来てから結構経つけど、まだまだワイバーンは修理中だ。

 武装関連はいつでも使えるようにとクロノスワードによって封印されているため、使えなくなるということは無いと思うけど……もう補充が効かないものに関しては、同じような物を魔法にで置き換えていかなければならないのだ。

 その為にも、もっともっと魔力の動かし方を研究し、無から有を作り出す位の制御が出来るようになれば……。


「よし、テントは張ったぞ。テンペスト、自分が使うものは自分で建てておくといい。練習になるし、昨日やり方は教えたから大丈夫だろう?」

「問題ありません」


 慣れない手つきで小さなテントを張る。これは3人と違って一人だけ女の子であるテンペストに考慮したものだ。

 水浴びとトイレ用のテントである。音だけはどうしようもないが、女の子であるテンペストの為にとニールが考えてくれたものだった。もちろん他の皆は水浴び以外では外で今まで通りにするだけだ。


 1日目にして早速身体を拭こうと上半身裸になっていたら、それを見たテンペストも旅の間はそのようにするのが普通なのかと思って脱ぎ始めたために取られた対策だった。流石に全員で慌てて止めたのだ。


 それにこうすると完全に裸になって自分で水を出して身体を洗えることに気づいてからは、全員が使うようになっていた。ロジャーとテンペストは更に自分で空間指定を行い擬似的に湯船を作り出していたのだが。

 ニールとコリーはまだまだ応用力が足りないようだ。


「設置完了しました」

「よし、じゃぁ……補助無しでブラストって言うのやってみて」

「はい、では私の後ろへと下がって下さい。あと出来れば耳をふさぐ事を推奨します」

「お、新技か!」


 コリーはどうせテンペストだしという位の勢いで馴染んできているようだ。どんな魔法が出るのか楽しみで仕方ないといった表情をしている。


 放つのは爆炎魔法の改造版、炎を燃やすために使うのではなく凝縮された空気を加熱するのに使う。

 燃料などは用意できないとはいえ、似たような状況は再現出来るのだ。


『その力は太陽の如く』


「あれ?ボクの呪文……」


 ニールが呟く。その言葉通り、ニールが出したものよりも遥かに小さな光がテンペストの前に出現する。


『……気体は液体と化しその力を開放せよ。範囲、前方180度』


 しかし後半に紡がれる呪文はオリジナルのもの。液体化した空気を集めてその凶悪なまでの温度に晒し、爆発のためのエネルギーを貯める。


『ブラスト』


 最後のキーワードと共に目の前の草むらが押し潰されるように倒れていく。それはずっと遠くまで……。しかし自分達側の方には殆ど衝撃を感じず、代わりに激しい音だけが届いていた。

 それでも範囲指定を行っているおかげで鼓膜が破れるようなことはない。


「おおー……すっげぇな……。でもこれ爆炎魔法って聞いてたんだが?」

「爆発は圧力を急激に開放することで起きる現象です。特に今回のように衝撃波を伴うものは気体の膨張速度が音速を突破するものです。必ずしも炎が出るとは限らないですね。今回は一箇所に気体を集めて圧縮し体積を小さくした後にそれを熱して解放したものです」

「すげぇとは思うが……見た目で分かりにくいな……」

「草原ですからね。地表にはあまり影響ないようにしているので何か建物があったり、人が居たりすれば分かりやすかったかもしれません。先程も言った通り音速を超えた空気の壁が広がっていくのが爆発です。今回放ったものであれば人間であれば身体が弾けて即死するレベルです」

「マジかよ。地味な割にエゲツねぇな」

「ちなみに……ボクが見た限りあの広がりはかなり遠くまで行ったみたいだけど……効果がある範囲ってどれくらいなのかな?」


 自分の広域魔法よりも強力かもしれない魔法を見てニールが質問する。

 見た限りでは草原を一瞬で駆け抜けていった波はかなり遠くまで届いている。自分の広域魔法でもその範囲をカバーできるかは分からない。


「今のだと100m程くらいが効果範囲、それ以上だと一撃で破壊は出来ないと思います。ただし……スケルトンが密集しているのであれば、吹き飛ばされた骨片、鎧や武器の破片などが同じように吹き飛びますので、破片効果が期待出来ます」

「……そう、か。制限してそれなら……杖を使ったらどうなることやら。やっぱりテンペストは凄いなぁ」

「延焼が期待できるニールの魔法も相当だと思いますが。勝手に参考にさせてもらったあの魔法も限定的ではありますが攻撃以外にも色々と用途がありそうです。温度もニールの位は上げられません、まだまだですね」

「いやー……工夫でそこまでの破壊力出せるテンペストはやっぱり凄いよ!」

「そうだね。最後にこれを全力で放って離脱しよう。それまでのテンペストの役割は索敵。気配を感じる人達が殆どだろうけど、暗闇を見通せるわけじゃない。コリー達みたいに少ない光でも見通せるって人もいるけど万能ではないからね」


 実験もうまくいき、宵闇の森での対策を練りながら夕食を取る。

 とはいえ大体の方向性は決まっているし、同じことを言ってお終いになるけど。


「そういえば、レイスやリッチの対策というのはどういうものになるのでしょうか?浄化としか書かれていないということはそれ以外にはやはり対処の仕様がないということですか?」

「んー……一応、アンデッドっていうのは命の摂理に逆らった存在っていうのは理解しているよね?」

「一応は」


 ロジャーが言うには、死んで朽ち果てた者達には死霊となって彷徨い、黒い感情のみに支配されていくものがあるという。そういったものが骨や朽ちた身体に宿り、スケルトンやゾンビとなる。これは自然発生的に起きるものなので、対策としてはそもそも死体を残さないことが手っ取り早い。

 また、恨みを抱いて殺されたもの等の執着心の強い物は特にその傾向が強く、想いが強い分強力になるという。


 その最たるものがレヴナントだ。何かしらの想いを遂げることが出来ずに死に戻った者達。

 身体はとっくに死んでいるもののゾンビ達とは違って明確な意志がそこに存在する。それは生前のその人自身のものであり、目的を果たして達成を感じるとその場で魂ごと消えていくという。

 家族への想いで言葉を伝えようとしたレヴナントも居るが、大半は復讐を目的としている。しかし、その復讐心だけが残り、最後に残った理性も消えたレヴナントはアヴェンジャーと呼ばれている。憎悪に染まり、破壊衝動と殺人衝動によって生き続ける危険なものだ。

 生きているものを見れば殺しつくし、その魂を喰らって強くなっていく。


 それの魔法使い版と呼ばれるのがリッチ。こちらは魔法を極めようと自らの肉体を捨てた者たちが成り果てる事が多い。肉体を捨てても極めたいと思うその覚悟はものすごいものの、肉体を捨てると理性なども置いていくことになるのだ。十分に対策をとってもいつかはきっと理性を失ってただの魔物と化す。

 死霊使いなんかがこれになると、近くにある魂を引き寄せそれを死体に埋め込み強制的にスケルトンなどのアンデッドを作り出していく。

 殺し、その死体と魂を操り自分のものとする。

 戦って殺せば殺すだけ手数が増えていく。


 こういった者達は結局のところ憎悪そのものであり、それを浄化魔法によって恨みや憎しみ等を消していくという。しかしこの浄化というのがいまいちテンペストにはわからないのだ。


「テンペストの場合は浄化って言ってもちょっと違うからね。やってる結果は同じみたいだけど。でまぁ、対処法としてはスケルトンやゾンビ、そしてレヴナントなんかは基本的に殴るだけでもいけるんだ。ただ、それは根本的な解決にはならなくて、結局のところ魂を浄化して精霊の元へと還す事が必要になる。人は死ぬと精霊の元へと行き、マナとなって還っていくというのが一般的な認識だよ」

「そこが分かりませんね。結局レイスやゴーストなどに関しては浄化魔法がなければ太刀打ち出来ないということになるのですか?」

「うん。彼らの身体は魔力によって作られているんだ。だから物理攻撃は一切効かない。浄化以外でなら魔法を使ってその身体をそぎ落としていく……という感じかなぁ……スケルトンやゾンビを燃やし尽くすって言ってるのはその肉体をそぎ落として魂を霧散させるということで……あ。あああっ!!」


 突然ロジャーが何かに気がついたようだ。


「魔力だよ! マナだよ! それだ、もしかしたらテンペスト、君は実体を持たないゴースト系の天敵になるかもね」

「……ジャミングですか?」

「そう、それだよ! つまりマナを散らしてしまうその技は魔力のみの身体にとっては毒どころの問題じゃないはずだ。魔力を使って身体を作り上げている、してこちらに干渉してくるというのであれば魔法と同じだよ。となればテンペストのジャミングだと一瞬で消える! ……はず」

「なるほど、可能性はありますね。リッチとやらも実体を持たない以上は同じように対処出来るとすれば勝負はあっという間につくかもしれません」


 身体を保てなくなったアンデッド系の魔物はその怨念の塊とも言える魂が霧散して消滅するそうだ。

 なので取るべき手段は2つ。アンデッドの身体を完全に消滅させる、若しくは中身の魂を選択的に消滅させる。

 燃やし尽くす方法は身体を消滅させる方法、浄化は魂のみを消し去る方法だ。肉体のあるゾンビやスケルトン等は前者が、肉体のないゴースト系は後者の方法で消し去るのが一番効率的だ。


「もうテンペスト1人で対処出来るんじゃね?」

「いえ、私の魔力はまだまだニールやコリーと比べても全然足りません。練度も高いわけではないので手持ちの技術でカバーしている状態です。当然ながらニールの魔法に対する対抗策なども取れません。……魔力が尽きれば私は無力です」

「あ、いや……悪いそういう意味で言ったんじゃないんだが」

「コリー! テンペストを泣かせちゃダメだ! テンペスト、だからボク達が居るんです。師匠もコリーもボクもテンペストを護るために居るんです。だからこれからゆっくり強くなっていこうよ」


 テンペストの頬を涙が伝う。

 確かに自分はある程度ロジャーにも認められる程の力を持っている。……けれど……それは持っている魔力が尽きるまでの間だけ。上手く使っていかなければあっという間に枯渇してしまうし、そうなるとパワードアーマーの維持も、自己強化も出来なくなってしまう。

 後に残るのは少しは鍛えているとはいえ、たかが知れている女の子の肉体のみ。

 逃げきれるだけの足も体力も力もなく、ただ殺されるのを待つだけの貧弱な身体。それが何とも「悔し」かった。


 そう思った時思わず涙が出てきた。

 もう二度と仲間を死なせたくないのに、こうして皆に守られなければ戦いに赴くことすら出来ない無力な自分が情けなくて。

 ニールですら強化なしの状態では自分よりも力は強いし、持久力もある。

 コリーに至っては強化してすら敵わない。

 ロジャーは……未だ力を見たことがないからわからないけれど、教えれるくらいなのだから使えていてもおかしくない。そして……何となくマナの吸収具合から見ても、このメンバーで一番魔力の保有量が多いのが分かる。

 魔法による持久戦ではこの場に居いる誰もがロジャーには敵わない。


「な、泣くなよテンペスト!すまん!謝るから!」

「あ、いえ……コリーの言葉で泣いたわけではないです。自分で言葉にしてみて、すこしばかり思い上がっていた部分が見えて……それを取り除いた自分が弱いことを再確認したんです。私は弱い。だから限定された時にしか力を使えないかもしれないけど、その時には全力を尽くします。なので、私のことを守ってくれますか?」

「そりゃもう、テンペストは師匠よりも優先だ!」

「師匠が瀕死でもテンペストを取りますから!」

「君ら酷くない!?」


 この時の感情が悔しいという事なんだと気づき、また一歩人間の事が知れた。

 今のところ上手くやっているつもりではあるけれど、やっぱり普通の人間としてはちょっと変なところがあるらしいのは分かっている。

 でも、知れば知るほど面白い。

 感情というのは今まで全く感じたことのない不必要な何かだった。AIで居た頃は喜びも怒りも哀しみも無く、ただひたすらに冷徹に冷静に弾きだした答えのみを追い求めていた。

 可哀想だから助けてやろう等という無駄な行為などは無く、脅威と判定すればそれがなんであれ破壊してきた。

 でもこの体になってからは……時にパイロットだったコンラッドが苦悩していた意味が理解できるようになった。

 なぜ罪のない人達がいるところを攻撃しなければならないのか?助けることは出来ないのか?

 味方を見捨てるのか!見殺しにしろというのか!

 そう言っていたことを思い出す。今なら……感情のある今なら難しいかもしれない。


 警告をしていたにも関わらずそこに残ることを選択した人は敵とみなせるか?

 正直邪魔でしか無いけど、こうして感情や心を持ってしまうとそれがものすごい葛藤になっていく。

 もう助かる見込みのない味方、それを助けに行こうとすれば救助隊も全滅の危機がある状態。もしコリー達が危機に陥っていたとしたら、自分が死ぬかも知れなくても助けに行くことを選択すると思う。


 正直な所今でも少し邪魔に感じる時もあるけど、あの時コンラッドが何でそう言っていたかを知れたのはとても良いことだったと思う。


「でも、いつか絶対に皆を守れるくらいに強くなりたいです」

「だったら協力するぜ。あぁ、ニールはすでに守られてばかりだったな」

「忘れて……下さい……!」

「ホント、仲いいよね君ら3人共。でもいがみ合っているような仲じゃなくてよかったよ。じゃぁ魔法の授業はもうちょい難しくして良いね? 新しく入ってきた子にもう追いつかれそうになってるんだからコリーとニールは危機感持ったほうが良いよ」

「うっそ!?」

「マジで?」

「本当だよ。テンペストが言った通り、魔力の保有量は少ないし、練度がまだ足りないから凄く無駄なロスがある。だから余計に魔力を無駄に食ってるんだけど、それが改善されていく速さは凄いよ? だからこっちもどんどん教えちゃうわけなんだよ。そしてまたそれをすぐに覚えていく」


 新しく覚えたのは鍛冶魔法。今のところ鉄の加工までは何とか出来ている。

 細かいことは無理だし合金は作れないから弾丸のケースと弾頭を作ることもまだ無理だ。それでも……ストーンバレットの代わりにそれを飛ばすことで威力を上げることは可能になった。

 お金がかかるので使いたくはないけど。


 そしてもう一つはピクシーワードである治癒魔法。

 切り傷程度なら何とか直せるところまでは来た。最初は刺し傷ですらすぐには直せなかったのだ。

 仕組みは分かっていても、流れる魔力の制御がものすごく難しくてコツを掴むのに時間がかかっている感じだ。


 年単位で覚えなければならないことを数ヶ月で吸収していくのだから、知識や技術に自分の身体が追いついていないのが現状だった。

 その為今はとりあえず魔力量を増やす訓練を行っているのだ。

 後はとにかく練習あるのみだよ、と言われているので簡単なものであれば室内でも何度も繰り返し行なっているし、身体強化とパワードアーマー、そしてマナ循環、フォースドチャージに関しては常に使っている状態にしている。

 おかげでこれらに関して言えば日常生活を行う程度であれば全く魔力を消費せずに暮らせるところまでになっていた。


 ただし、身体強化とパワードアーマーは解除した後に自分の身体ですら重く感じるため、必ず寝る前には解除して筋力のない状態の感覚を忘れないようにしていたりする。

 最初パワードアーマーを使って動きまわった後、気を良くしてギリギリまでそのままで暮らしたあと、効果を切った瞬間に軽いはずの甲殻の鎧が鉄の塊でも着込んでいるかのように重くなっていたのにかなり焦ったことがあったのだ。


 色々と話しをしながら食事は終了して各自自主練習の時間と、交代で体を洗う時間だ。

 テンペストが入っている間はロジャーが見張りについている。ゆっくりとお風呂に入ると思わず気持ちよさからため息がでた。

 まだまだハーヴィン領までは時間がかかる。疲れは癒せるときに癒やしていかなければならない。


 四角いお湯が空中に浮いているような状態なので、首だけだして寝るような格好も出来る。

 ちょうどいい所に箱をおいて服をたたんでおくと丁度いい枕になるのだ。

 身体をお湯に突っ込んで浮かべるような格好で力を抜くと、空に浮いているかのような格好で居られるし、手足を完全に弛緩させていれるので疲れがどんどん取れていく気がする。


「やはり風呂はこれに限ります……」


 しかしテンペストはこの旅の3日目ということもあって、足から尻、腰、肩と色々な所が痛くて疲れていた。それでお湯をマナ循環で管理しつつゆったりと寝ているわけで……。

 いつの間にか本当に眠ってしまった。


「……テンペスト、遅いなぁ……。おーいテンペスト?」


 返事が返ってこない。自分が気づかない内にテントに戻ったのかな?とも思ったが、寝たりしていたわけじゃない。おかしい。


「テンペスト? まさか……。テンペスト、返事がないなら入るよ!」


 やはり返事はない。

 そして中にはいって原因が分かる。眠っているけど、顔が赤くて熱がある。これはまずい状態だ。


「テンペスト! ああもう、その状態で寝たらのぼせるに決まってるじゃないか……。仕方ない、テント……は2人がいるか。いやでも今はちょっとそんなこと気にしてる場合じゃない」


 湯の中から引きずり出し、ゆだっているテンペストを大きめのタオルに包んでテントの中へ連れて行く。突然裸にタオルでくるまれただけのテンペストを抱いて戻ってきたロジャーに2人は驚いたものの、のぼせて動けなくなっている事を聞いてすぐに対応を開始した。

 流石にこういう時にはきちんと動けるみたいだ。


「テンペスト! おい、大丈夫か?」

「そこにシーツを敷いて、寝かせるから……あ、後タオルを使って枕作って。体温と頭の温度が上がりすぎてるんだ、まだ服は着せられない」

「師匠、降ろしていいです。とりあえず全身をくるまないで掛けただけにしておいてあげたほうがいいですね」


 降ろしてタオルをかけ直してやるときに思いっきり裸を見てしまい、ニールは前かがみになるものの何とか頑張って落ち着ける。今はそんなことをやってる暇はない。

 濡らしたタオルを頭にあげて冷やしてやる。

 吐いたら危険なので横向きにして、ロジャーが体の水分を丁寧に拭いてやっていた。


 コリーは濡れたタオルを乾かしてはロジャーに渡し、足元と頭の周りの温度を下げて冷やし始めた。

 暫くしてテンペストは意識を戻す。


「テンペスト、僕が見える?」

「……あれ?私はお風呂に入って……」

「うん、いつまでたっても出てこなかったから見てみたら意識を失ってたんだ。気づかなかったら危険だったよ……。今度から気をつけてね?」

「そう、だったんですか……すみません。気持よくてそのまま寝てしまったみたいで……」

「あっぶねぇなぁ……」

「でも良かった、テンペストが倒れたままだったらどうしようって思ってたんですよ?」

「ニール、心配かけてごめんなさい」

「いや、こういう時は助け合わなきゃね? ……あっ」


 謝ろうと頭の方に居たニール達に向かって座り直すために起き上がった。

 当然ニールの目の前には体重を前にして膝をついたテンペストのおしりが……。


「見っ……えぎゃぁぁぁっ!!」

「見んなニール!」

「テンペスト! タオル! タオル付けて!! ニールには刺激強すぎ!」

「あ、ごめんな、さ……い?」

「テンペストぉぉ!?」


 真っ白なお尻とその間のものを直に見てしまったと思った瞬間、コリーによって目潰しを食らって床を転げまわるニール。

 テンペストはといえば突然起き上がったせいで一気に立ちくらみを起こして目の前が暗くなった。そのままテンペストはまた中途半端な姿勢のままで意識を失い、コリーに向かって倒れていく。


「うぉっ!?」

「コリー、ゆっくりと横にしてこっちに戻して。……全く、いきなり無理に動こうとしたら意識も失うさ。このタオルももう濡れてるね、乾かして掛けてやってよ」

「えっ、ああ。これでいいか?驚かされるな……。そして患者が一人増えたか」

「……こっちの免疫だけはなぁ。僕にもどうしたらいいものか。テンペストなら好きなだけ見せてくれるだろうけど流石に女の子にそんなことさせたくないし」

「娼館では楽しんでるらしいんだけどな、これでも。どんだけテンペストのこと好きなんだこいつ」

「まあこの様子だと襲ったりも出来そうにないしね。とりあえず僕は外を見張っているから、コリーはそのまま頭を冷やし過ぎない程度に冷やしてやっててよ」

「おう、任された」


 この日、テンペストはお風呂で寝てはならないということを学習した。

 後、のぼせるとものすごく気持ち悪いしふらふらするし、音が遠くなって目の前が暗くなっていくということも学習した。


 漸く回復した時にはすでに朝になっており、全員に頭を下げて謝り倒したという。


ストックが尽きましたw

書かねば……。

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