第二十話 反響定位
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「サイモン様」
「……またか?最近多いな……」
「はい。宵闇の森からアンデッドが湧きました。すでに全て倒し、こちら側の被害もなしということですが数が増えておりますな。今回は100に届くかと言うところだったようです」
宵闇の森への入り口、かつては森の中へと入る道があった場所。
そこを封鎖して監視を強めている最中だが、すでに今月で5回の襲撃があった。
先月は1回だけ、その前は無し。どう考えても異常だ。
「異常事態には違いない。精霊が下したお告げはやはりこれのことか。アルベルト、ワイバーンの方はどうなっている?」
「あちらは……難航しておるようです。武装に関しては全く進んでおりませんが、とりあえずは飛ばすことを考えるということで、形をそのまま似せたものにし、動力を乗せて動くかどうか……を試したいと言っておりますな」
「……つまり全く役に立たんな。流石にまだ時期が早いからテンペストに絡んだ異変ではないと思いたいが……」
ただ、テンペストの話を聞いていてミレスはかなり怪しくなってきている。
テンペストの世界で全てを巻き込んで自爆した国、そしてこの世界のミレス……どうも行動などが似ているのだ。
ただ、今のところ分かっている武器などは「脅威になるとは思えない」とテンペストが断言している。それであれば実際そうなのだろう。
「ミレスとハイランドの間にあるのがその宵闇の森というのが気になりますな。関係がなければそれで良いのですが、どのみちアンデッドが溢れてくるというのであれば対処をしなければなりますまい」
「今の所、湧いてきたアンデッドはスケルトンにゾンビ。全て人型だが装備に統一性がない。中で死んだ者たちがあのような形で出てきているのだとは思うが……その原因が分からない」
「宵闇の森の結界が弱くなっている……中で強力な魔物が出現したため逃げてきた……若しくはそう命じられたか。ぱっと思いつくものではこんなところでしょうか?」
「正直、結界の方を疑っている。あれが闇に飲まれたのは森を一種の異界のようにする結界が張られてしまったためと言われている。おかげでこっちに出てくる魔物は殆ど居ない。たまにはぐれがどうしてか抜けてくるくらいだったが……もし、結界が何らかの原因で弱まっているとすれば、無くなった瞬間あの森から周りに向かって魔物があふれる可能性がある」
今あの森の中はどうなっているのか誰にも実態は分かっていない。
分かるのは魔物が増えているらしいということだけ。
最近中に入って帰ってきたハンターが言うには、入ってすぐのところでもかなりの気配を感じたという。その後すぐに戻ってきたのでそこまで危険を冒したわけではないが、一匹に時間かけていたりするとあっという間に囲まれて死ぬかもしれないそうだ。
やはり兵を中に入れて調査させるということは出来ない。
生者を憎悪し襲うアンデッドは一体一体は強くなくても集団で来られると厄介だ。特にスケルトンは武器を持っている場合が多く、酷い時には弓持ちの時もある。
さらに危険なのは魔物のアンデッドで、これらは魔法も使ってくる時がある上、骨自体が強いため簡単に倒せない。倒しても旨味は無いし戦うだけ無駄なのだ。
その戻ってきたハンターの報告によって、アンデッドの巣窟と成り果てている現状ではハンターの立ち入りも禁止しが方が良いだろうということになり入場規制も始まった。
同時に問題に対処するためにサイモンは王都の魔術師ギルドなどに協力を依頼する。
「大魔導師ロジャー様はどういたしますか?」
「んー……テンペストの強化を頼んでいるところだが仕方あるまい。許可されたハンターと魔法使いだけで突入して、アンデッドを集めた後に一気に燃やしつくそう。数だけでも減らして置きたい。……テンペストからピットとか言う熱を見る魔法でも教えておいてもらえばよかったな。その前に向こうに送ってしまったから仕方ないが」
アンデッドに対して効き目があるかは分からないが、ある程度闇の中の状況が分かるとあればもしかしたらあの空間の中でも見えるかもしれない。
今のところ探索などは出来ないため、一撃離脱での戦法を取るしか無いが……中で敵の動きが見えるのであれば大分違ってくるはずなのだ。王都の方では今新しい光源を作っている最中と言っているため、それがもし有効であれば大分攻略が楽になるかもしれない。
かなり遠くに光を飛ばせるということなので楽しみだ。
「ではまたそのように書状を転送しておいてくれ」
「畏まりました」
部屋を後にするアルベルトを見送り、ロジャーに協力を依頼したことで、久しぶりにテンペストにも会えるだろうかと少し期待するサイモンだった。
どこまで成長しているかが楽しみなのだ。身体の方ではなく魔法技術的な意味で。
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「……ん?手紙か。あ、これハーヴィン候からだ」
ロジャーが目を覚ますと、書簡箱に手紙が転送されてきていた。
書簡箱とは、手紙など小さく軽いものをそれぞれの家に転送するための魔道具だ。
空間魔法の一つで許可を与えた者同士の間で、簡単に書簡のやり取りが出来るようになっている。
大きさや重さは制限されており、危険なものなどはやり取りできないように設定はされているが、やりようによっては可能になっているのはどうしようもないところだろう。
サイモンとやり取りの契約をしたのはテンペストを引き取る前で、向こうにいる優秀な魔法使いなどの斡旋を出来るようにと各街の領主などとは大体契約済みなのだった。
内容は宵闇の森の異変に関してで、森の中でアンデッドが多数発生していて外に漏れ出しているため、対策が出来るまではハンターの立ち入りも禁止した事、そしてその対策のためにロジャーにも手を貸して欲しいという旨の事が書かれていた。
「そんなに魔物が出てくるなんて、これまでなかっただろうに……。中は闇で見えないけど殆どがスケルトンでアンデッドの巣窟になってるのか。これは確かに殲滅出来たらしたほうがいいね」
自分を含めて広域魔法を使える者達は何人か居る。それぞれが対軍勢の力を持つ彼らはこうした数で押すタイプの魔物とは非常に相性がいい。
相手がアンデッドであれば知性が低い分尚更である。
「あぁ、ニールとコリーも連れて行きますか。テンペストは……お留守番は可哀想だし連れて行こう!彼女には索敵と投光をしてもらいたいしね、僕達と行くなら問題無いでしょう。サイモンも久しぶりに会いたいだろうし……」
テンペストももうかなり強くなっている。
本人はあまり気づいていないようだけど、様々な属性の魔法を使い、それらをアレンジしていく能力というのは他にはない特徴だ。
特に光を操るという魔法に関しては今まで以上の使い道があった事で驚いている位だ。
あの魔道書には書かれていない使い方。
光を束ねて一方向にのみ照射する……魔法による発動の為にエネルギーロスは全く無く、赤外線のみを放つ超高温のレーザー。
「光が見えぬ光など、考えたこともなかったね。面白い。あれで浄化が上手ければアンデッドに対しては特効だろうに。どういう理屈で浄化しているのかがわからない」
浄化魔法と称してテンペストが使っているのは分解と分離。本来の浄化ではないのだった。
そのためアンデッドに対して使った所で効果は望めないだろう、とロジャーは見ている。
まさか同じような効果なのに中身が全く違う魔法まで存在するとも思っていなかった。
テンペストを見ていて自分も頭打ちになっていたと思っていたが、それが次々と崩れ去っていくのがよく分かった。今までどれだけ物事の表面しか見れていなかったか。
大魔導師だなどと仰々しい名を貰っておいてこの程度だったのかと。
「でもテンペストは僕のことを成長させてくれた。そしてその力は僕も使わせてもらうよテンペスト。まだまだ僕も強くなりたいからね。あぁ、一緒に調査に出かけるのが楽しみだよ!」
ロジャーの頭の中ではすでにサイモン達と共に出かける事を考えていた。
テンペストが現れたことによる異変、そのテンペストを護る為に自分も付いていこうと……。
その為にはまずこの前座をクリアしてやらなければならないだろう。
そしてロジャーはクローゼットを開け放ち、そこにかけられている様々なローブや杖を眺めていく。
「うーん……浄化に特化したのと威力強化に特化した奴にしようか。あ、そうだ。皆の分も用意してあげようか。完全な実戦だしね……ふふふふ……実戦……実戦かぁ……何年ぶりだろうねぇ」
危険なにやけ方をしながらアイテムや装備をいくつか選んで旅の準備を整えていくのだった。
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ロジャーから唐突に告げられた言葉に全員が驚く。
これからハーヴィン領へ行き、そこから宵闇の森へと向かうと言われたのだ。
「これからって……今ですか!?」
「出発は明日にしてあげるよ。用意とかあるでしょ?ああ、全員行くからねー。僕居なくなったらサボりそうだし、ついでに宵闇の森で実戦訓練だね」
「にしたって……宵闇の森でか?ちょっときつくねぇか?」
「そこは大丈夫。僕達以外にも魔法使いに声がかかってるよ、魔術師ギルド経由でね。君たちは僕の指名だ。ハンターも行くしそもそも僕がついているんだから大丈夫大丈夫」
「しかし……私は皆さんの位強くはないのですが……?」
「それこそ大きな勘違いだね、テンペスト。君は体力と魔力の量が少ないだけでかなりの強さがあるんだよ。工夫が出来る、僕達の知らない知識を持っている、そしてそれを魔法に応用できる。君が来てからというもの僕の常識はどんどん崩れているんだよ?自覚ないだろうけどね」
その言葉にはニールもコリーも同意していた。
事実、今のテンペストは魔力量が少ないためにあまり使えないが、使用可能ではある魔法が数多くある。その中には広域魔法も含まれているのだから弱いわけがない。
それに、体力をと力を補うために魔力を使って、パワードアーマーを動かせるようにまでなっているのだからそっちの方面も問題ない。
「……で、僕達があの森で有利になるための方法、なにか無いかな?」
「新しい知識、ですか?」
「そうだね。すぐにでも旅立ちたいけど、あの場所は暗闇に支配された空間だ。危険がないとはいえないよね。光も何故か殆ど届かない。光源から数メートル程のところまでしか光が届かないんだよ。だからあの中で明るさを確保したいなら、数メートルおきに光源を設置しなければならない」
当然そんなことは出来るわけもなく、光を嫌う魔物たちは優先的にそれを潰す。
これはピットでも効果があるかは分からない。赤外線を放ってそれが通ってくれればピットが役に立つ。視覚的に見えるのだし、表面の熱を感知してそれを可視化するものであるから暗さは関係ないかもしれない。
ただ、それが出来なかった場合は……もう一つ方法がある。
「暗闇の中でも景色を全てとまでは行きませんが、表面に熱があるものであればある程度判別できる物は使えます。可視光のみをカットする空間であるのであればもしかしたら通用するかもしれません。ただし敵がアンデッドということなのであまり意味は無いかもしれないです」
「それはそれですでに凄いけどね……」
「そして、暗闇の中で物体を感知する方法はもう一つあります。音です」
つまり、反響定位というものだ。
音を出してその音が跳ね返ってきた音の反響を受信して周囲の位置関係を把握する。
当然これを可視化すればかなり雑ではあるだろうが大体の物の位置くらいは分かるようになるだろう。
これを全て魔力とマナを使ってやることで精度は格段に上がるはずだ。
空気ではなくマナを使った反響定位。これであれば多分どんな暗闇であろうとも、マナが無いということがなければ確実に感知できる。
「マナを使ってその反響を感じる……うーん……難しそうだね。テンペストは出来るのかな?」
「いえ、今思いついただけですので……ちょっと試してみます」
周りのマナを感じるために少し薄着になる。
……裸にはなっていないし肌はあまり出ていないから大丈夫……だけどニールはおもいっきり顔を背けていた。
体の表面に触れるマナを感じたら今度はそれを空気のように震わせて周りに向かって放つイメージを作り……それらがものにあたって跳ね返る様子を観測する。
はっきりと思い浮かべるのは超音波の振動と、それを受け取る器官。超音波センサーのそれ。
『マナを伝いマナが触れる物全てを私の目に……エコーロケーション』
チリチリとした感覚を頭に感じ、目をつぶるとぼんやりと、しかし少しづつはっきりと周りにあるものが見えてくる。色はないし、跳ね返る方向によっては戻ってこないところもあり情報は抜けているところも多いが、それなりに分かるようだった。
目をつぶったままでタオルを目に巻いて目隠しをした状態でうろうろと歩いてみる。
「……視えてるの?」
「ええ……かなり荒削りではありますが実用は可能だと思います。ただし、人に関しては体格差が大きくなければ個人まではなかなか特定出来ないかと……」
しかし更にそれにピットを重ねる。
すると、温度を殆ど持たず黒くしか見えていなかった空間にはエコーロケーションで得た情報がそれを補間し、そして温度を見ることで体温を持たない相手を判別出来るようになる。
「出来ました」
「いや……はえぇよ。思いついてやったばっかりだろ」
「テンペストの強さっていうのは、つまりはそういうところなんですよ。異常なまでに記憶力がよく、異常なまでに応用力が高く……そしてなぜか知っているボク達の知らない知識。正直、不思議だったんですよね……あぁ、テンペストの記憶が抜け落ちていなければ……」
「まあ、その辺はとりあえず置いておくにしても、うん、ニールの言う通りだよ。テンペストは次々に魔法を開発しているんだ。僕達の知らない魔法を。……でだ、周りを観察する手段を得たわけだからこれで確実にテンペストを連れていくことも出来るね」
そして……と言いながらロジャーは杖、腕輪、虹色に光る水晶のような物をそれぞれ一個づつ取り出す。
「宵闇の森は当然だけど結構危険な所だ。だから君たち皆が力を発揮出来るものを用意してきたよ」
ニールには杖を。黒光りしながらも捻れた杖はニールの背丈ほどもある物だ。人間の大人だったら腰のあたりまでの普通サイズだろうがリヴェリには結構大きめのものとなる。杖の先には赤く光る六角柱の宝石が杖に埋もれるような形で入っていた。
「ニールの杖は炎帝の杖。持って分かると思うけど、火魔法を増幅する力が有るよ。後は発動するときに周りのマナを吸って少しばかりではあるけど魔力の消費を抑えてくれる。まあ、魔力量は多いからニールにとっては丁度いいと思うよ」
「ありがとう、ございます……え、これ、凄く高いんじゃ……」
「あ、うん。壊さないでね。後で返してもらうから」
「あ、はい」
もらえないようだ。
もらえたと思ったニールがちょっと恥ずかしそうな顔をしている。
次にコリーには腕輪を渡す。
「この腕輪は知恵の腕輪。装備する人の知能を上げる……と言われているけど、要するに集中力を上げる感じだね。それを付けて魔力を通じると、周りの状況とかが凄く分かりやすくなるんだ。そして、魔法の詠唱やイメージなどもいつもよりもはっきりとなるから威力も上がる。頭が良くなったような感じになるからその名前になってしまったんだろうけど、僕から言わせれば名付けた奴は頭悪いと思う」
「むしろ知能を上げる効果とか言われたら少し凹んでたぞ?」
「別に頭は悪く無いだろうコリーも。ただコリーの雷の魔法は同士討ちを防ぐために集中力が必要だからね」
「それは……確かに。まあありがたく借りておくよ。傷つけずに返すから安心してくれ」
そして最後にテンペストに虹色に光る水晶のような物を渡す。
「これは……?」
「虹魔晶石で作られた魔槽。テンペストの魔力不足を補うためのものだね、僕の魔力がすでに入ってるから大分使えるはずだよ」
「まそう……。私の魔力も補充できるのですか?」
「流しこむイメージで魔力を移動させる感じ。逆に中に溜まってるのを使うときには身につけておけば優先的にそっちから魔力が流れていくよ。君の増魔の杖と合わせればかなり強力だろうね」
大体テンペストの今の魔力保有量の5倍近くが魔槽に篭っている。
30mmストーンバレットなら大体30秒は連射可能な量だから、無慈悲な弾丸の雨をぶち込むことが可能となる。が、当然ながらレンタルだ。戻ってきたら返さなければならない。
「ってことで僕から君たちへ渡すものは渡したよ。絶対死んじゃダメだからね?さぁ明日は昼から出発だよ、食料、着替え、その他諸々用意しておいたほうが良いと思うよ?一応全員で食べるものとかはこっちでも確保しておくけどね。向こうに着くのは5日は最低でもかかるからね。登りだから7日くらいかかるかな?」
4人だけの旅となるけど、前と違って護衛は居ない。
これも修行のうちね、と言っていたけど……実際の所コリーとニール、テンペストとロジャーに分かれておけばほぼ脅威は無いようなものだ。
前のように盗賊に囲まれようとも、コリーなら肉弾戦も可能だし、ニールは人が多ければ多いほどその才能を発揮する。ロジャーに関しては元から次元が違う上に、今はテンペストの技術も取り入れて更に強くなっているし、テンペストはアーマーを使ってコリーと渡り合える程度には強くなっているし、やたらと強いストーンバレットやら暗闇であっても問題ない目を持っている。
襲おうとしたら逆に返り討ちに合うのが関の山だろう。
そして魔術師ギルドにも連絡は行っているので今急ぎで対応している最中だろう。
それなりに強力な魔法を使える者たちが集められているはずだ。ハンターギルドも同じようなもので数名のハンターが集められる。
恐らく早くても2日後から3日後の出発となるため、その間はロジャー達はハーヴィン領へと先に入って休んでおくつもりだ。
「まあ、向こうについたらハーヴィン侯爵の屋敷に行くから、それなりの服も持ってきてね」
「皆は屋敷に泊まるんですか?」
「いや……流石に侯爵家だぞ?挨拶に行くだけだろ……ウチの方とも特に交流もないし」
「そうですよ、師匠だけだったらわかりますけど……ボク達は一般人ですよ?」
一応コリーは伯爵家の出ではあるけど、この修業が終わったらそのままハンターとして動き始めるつもりなので完全に家を捨てる気でいる。そもそもコリーに取って礼儀作法は堅苦しくて性に合わないのだ。
ニールは本当に一般人だから仕方ない。
「ああ、いや。泊まることになると思うよ。テンペストの家だし」
「えっ?」
「はっ?」
「私はテンペスト・ドレイク。サイモン・ドレイク・ハーヴィン侯爵の養子です」
「ちょ……ボクだけ本当に一般人なの!?」
ついでに言えばある意味で一番立場が上なのは実は精霊であるテンペストなのだが。
そして侯爵の子と聞いてハートが砕ける幻聴を聞いたニールは、その場で崩れ落ちた。
身分的にくっつくことはまずあり得ないと悟ってしまったのだ。哀れニール。
しかしなぜ崩れ落ちたのかはテンペストには分からない。とりあえず侯爵家に泊まるということでびっくりしているんだろう程度にしか思われていなかった。
「もう書簡も送ってるし、明日出ることも伝えてるからそれなりに用意してるだろうね。コリーとニールは粗相のないように気をつけるんだよ?相手はドラゴンスレイヤーだからね」
「竜殺しのサイモン……。話には聞いていたがまさか会えるとは!」
「それと神子のエイダ様も居るからね」
「超VIPじゃないですか!!」
「そうなの?」
「テンペストもしかして今まで普通に話してたんですか?」
「アディって呼んでる」
「めっちゃ仲良しじゃないですか!!」
「落ち着けニール」
「そんなんで驚いていたらこれから先行きていけないよ?ニール……」
エイダの名前が出てきてニールが叫ぶ。無理もない。侯爵に続いて今度は王様に意見できる立場の神子まで出てきたのだから、小市民のニールには耐えられないプレッシャーだろう。
しかもそんな神子をアディと愛称で呼んでいるとか言われたら、今までテンペストに対してやってきた恥ずかしい行動が全て打首レベルの行為だったのではないかと思えてくる。
例えば素っ裸で抱きつこうとしてたとか。
護衛とかいたら間違いなくボコボコにされた後、引きずられて折檻を受けるのは間違いない。それも死ぬレベルで。
そしてテンペスト以外ではただ一人全てを知っているロジャーは、この時点で臨界突破しそうなニールを見て溜息をつく。
この時点でこれなら、テンペストが精霊であると明かしたらどうなることか。そしてあのワイバーンを見せたらぶっ倒れたまま死ぬんじゃないのかと思えてくる。
コリーは……すぐに対応しそう。
「ぼっ……ボク……向こうに行ったら突き出されて死ぬとかそういうの無いですよね!?」
「そんなことはしないし、させません。もう二度と仲間は死なせません」
「テンペスト……まさか、お前も」
「ああ、テンペストはハーヴィン領で火竜に襲われたんだ。両親はその時に亡くなっている。記憶は消え姿も大分変わったそうだけどね」
ポロッと出した言葉をコリーに拾われてしまい、それをいい感じにロジャーが蓋をする。これ以上は思い出させてやるなと。……いうのは建前で、バディであるパイロットを失ったテンペストの構図はまだ秘密なのだ。とりあえずそういう事にしておいたから次から気をつけてよ?という目線を感じる。
ともかく、明日は出発になる。
色々と装備を整えていくのを忘れないようにしなければならない。
「こういう時は、何を用意したら良いのですか?」
「自分で追加で食べたいものとか買っておくとか、消耗品……つまり矢、予備の弦、投げナイフ、毒なんかを揃えておくかな?まあ、テンペストに必要なのは矢と予備の弦といったところかなぁ……でも困ったことにスケルトンとかゾンビって全然矢が効かないんだよね」
「スケルトンやゾンビ……浄化が効くということでしたが他にはどのような対処法がありますか?」
「燃やし尽くす、バラバラに切り刻むとかかな?スケルトンとか中途半端に壊した所で無理矢理にでも動いてくるからね。だから動きが取れなくなるくらいにバラバラにするんだ。まあ普通は燃やし尽くす方かな」
「吹き飛ばせば良いのであれば、爆破しましょう」
魔法でも爆炎魔法があり爆発を引き起こすものは存在している。
爆発で一番怖いのは破片などではなく衝撃波による圧縮空気で、人体などはそれに吹き飛ばされてバラバラにちぎれ飛んでいく。破壊された物体がその空気と一緒に移動して今度は破片による効果もプラスされていくわけだ。
そして今のテンペストは爆炎魔法の知識とサーモバリック爆弾の知識がある。
「でも爆炎魔法だとこっちまで破片喰らわない?」
「爆発に指向性をもたせるんです。自分達の側には爆風が届かなければ、破片も当然飛んできません。光の魔法を研究した時に大抵の魔法は指向性をもたせることが出来るのは分かっていますし、ニールが見せてくれた魔法のように、意図的にその効果を限定された空間のみに与えることも出来ます」
毛色は違うがクレイモアという爆弾がある。板状の爆薬の表面に小さな散弾が並べられており、意図的にその散弾側のケースを吹き飛びやすくしておくと……裏側には何も効果は無く、表側には被害をもたらすといった具合だ。
似たようなことを魔法で強制的に行える。
「流石テンペスト。僕の方が勉強している気がするよ」
「いいえ、ロジャーが教えてくれなければ魔法を扱うことすら難しかったでしょう。それに私がやろうとしているものは火、風、創造の3つを同時展開します。放つときには少しの間無防備になると思われますので……」
「ん、大丈夫。ちゃんと守るし最後の最後で思いっきり吹き飛ばしてやろうか」
ついに宵闇の森へテンペストが行くことに