第一話 コンタクト
本日二回目の更新です。
第零話が先に投稿されているので、見ていない人はそちらからどうぞ。
火竜の襲撃から三日が経ち、壊れた家屋の瓦礫や食い散らかされた人達の遺体を回収する作業に追われている。
その火竜を追い払うどころか殺しきり、自らも活動を停止した見たこともない何かが降り立った広場は兵士たちによって全ての道が封鎖され、物々しい雰囲気になっていた。
広場から坂を登り、見晴らしのいい丘の上に建てられた白亜の建物。
優美なシルエットがただひとつ、他の建物などからは大きく離されて建っている。
この街に一つだけの聖堂。
そこに白いフードを被った背の低い者が、大勢の騎士達を護衛に馬車で入ってくる。
「ありがとうございます」
「いえ、神子様をお守りするためならば是位の事。……こちらで御座います」
「鉄の翼竜を操り、見事火竜からこの街を守った救世主……そのような方が亡くなったと言うのはとても残念です」
ローブを下ろすとまだ少女の顔が現れる。
綺麗な銀の髪を後ろで纏め、緋の目をした神子と呼ばれた少女。
精霊使いと呼ばれる特殊な力を持つ一族の娘。
代々その力を受け継ぎ、現在の神子を努める。精霊は万物に宿り、世界の声を届ける者。
精霊とはまさしく神そのものであり、我々地上で生きる全ての者達を見守っている。その精霊の声を聞き、その声を代弁するものが神子だ。
その声は天候の変化や、何かしらの災いに対しての警告であったり、たまに予言じみた物があることも。
『南の地で世界の理から外れたものが顕れる』
そんな声を聞き届けたのは昨日。そして、この街で火竜からその身を挺して街を守りきった見たこともない格好をした男と翼竜に似た空を飛ぶ何か。
タイミングとしては完璧だ。
以前にも同じ言葉が告げられたことがあったらしいが、直近でもすでに100年ほども前の話で、しかもその時には結局その者は見つけられなかったという。
ただし、その後で何かしらの大きな異変が起きていることもあり、今回ももしかしたらその大きな異変というものが出てくるかもしれない。
それは精霊の声は教えてくれず、いつ来るかもわからない。
だから、今回現れた彼には生きていて欲しかった。もしかしたら何かを知っているかもしれないから。
しかし……報告が来た時にはすでに死亡が確認されていた。
「しかし、何かこの世に未練を残していたりする者であればもしかしたらまだ魂は近くにあるかもしれません」
「すでに大分時間が経っておりますが……」
「……そうですね。彼が駄目であれば、もう一つ」
「はい、灰色の翼竜……のような物ですね?」
「ええ。聞いたところによれば、地上に降り立ったそれから彼を降ろした時にはすでに死んでいたといいます。生き物でなければ精霊が宿り彼を安全に降ろしたとも考えられます」
「確かに、可能性はありますか。……着きました。こちらの方です」
身につけていたものは服以外外され、脇に並べられていた。
そのどれもが丈夫な布で作られており、何のための装備かがわからないものが数多くあった。
そしてその中央に寝かされている彼は……金髪で無精髭の生えた人間の男性。
身長は平均的でよく鍛えられた身体をしていた。
「文字……でしょうか。読めませんが」
「似たような文字が多数、あの何かにも描かれておりました。しかしそれが何を意味するものなのかは調査中です」
「これは、日記でしょうか。紙……にしては相当上質なもののようですが……」
メモ帳だ。白く均一にカットされ、更に罫線まで引かれたものなどこの世界にはなかった。
更にそれを繋ぎ止めているリング状の留め具は、細く長い針金を複雑な形状で組んである。
「まあ、彼に聞くことが出来れば色々と分かるでしょう。では、始めます」
神子が目を閉じ詠唱を開始すると、彼女と亡くなった彼の周りが淡く光りだす。
『生死を司る精霊モルスよ、我が名はエイダ・ディロン。精霊よ、我が願い聞き届け給え。彼の者の魂は精霊の御下へ還るものであれど、今暫くこの世へ繋ぎ留め給え。彼の者の言葉を我に聞かせ給え』
光が渦巻き、そしてゆっくりと消えてゆく。
それは何度見ても神秘的な光景で、まさしく死者の魂を救うかのような清浄さがあった。
実際この願いは、殺された者等の最後の声を届けるためにする物だ。彼らの声を聞き、その願い聞き、それによって未練を打ち消して精霊の元へと送る。
……しかし。
「駄目です。すでに彼の魂はここにはありません……」
「そうですか……。何か聞ければと思いましたが。では、次はこちらへ。火竜の襲撃を受け、亡くなった者達です。彼らの魂が安らぎの中で精霊の元へと還れるよう……」
「分かりました。ここからは私のみで行います」
大勢の遺体が並ぶ聖堂のホールに一人入っていき、彼らの安らかな死を願う。
その願いは精霊モルスが聞き届け、あるべき場所へと還ってゆく。
儀式が終わり外に出ると、またフードを被り騎士たちに守られながら馬車へと乗り込み、先ほど会ってきた彼の乗っていた物へと移動する。
それは聖堂へ続く道からもよく見えた。
「あれが、そうなのですね」
「はい。報告によれば火竜よりも速く、聞いたこともない唸り声をあげていたと。しかし近づいて触れた者から、あれは金属の塊で生きたものではないという報告があります。確かに車輪らしき物が付いていたり、大きく湾曲したガラスのようなものに囲まれた場所に、彼は椅子に固定されるようにして座っていたということですので、調査しているものは何らかの乗り物なのではないかと」
「しかし、彼は降りてきた時にはすでに亡くなっていたのです。それでも優雅にあの場に降り立ったというのであればやはり精霊が宿っている可能性は高いでしょう。乗り物であるというのであれば、彼が亡くなった段階で制御が出来ませんから」
広場へ到着すると兵士達が左右に割れるようにして馬車を通す。
近くで見るそれは確かに生き物には見えず、しかし翼竜を模して作ったと言われれば確かにそのようにも見えた。
そして話に聞いていた後ろ側にある翼に描かれた翼竜の紋章。
恐らくこれを作った国、もしくは貴族の紋章であろうと、紋章官が呼ばれて来たが近いものはあっても一致するものは無く、更に謎の文字は未だ解読されていない。
馬車から降りた神子……エイダはその近くへ行き直に触ってみる。
冷たく硬いこの感触はまさに金属その物で、よく見れば何かの装置のようなものが穴や隙間から見えている。
「……では、確かめてみます」
機体に手を触れ、エイダは意識を集中する。
精霊が宿っているのであれば呼びかけに応じるはず。
言葉として認識してはいるものの、実際の所はもっと別な何かとして精霊は話しかけてくる。
何かの波のようなものであったり、光の明滅のようなものであったり。しかしそれを言葉として受け取ることが出来るのが精霊と繋がりを持つ精霊使いの一つの能力だ。
「居る。確かに精霊は宿っている。凄い……こんなに強力な精霊が宿っているのは初めて……」
「神子様、それでは精霊から話が聞けるということでしょうか?」
「きっと。ここまで強い波長を持っているのです。恐らく自我を持っていますから、色々と意思疎通が出来るはず……えっ?」
「神子様?」
突然眉をしかめて困った顔をし始めるエイダ。
彼女がここまで混乱しているのは珍しい。
「えぇっ?待って、あなたはお腹が空いているの?きゅうゆ?それは何ですか?え?基地??所属??ちょ、ちょっと待って下さい!一気に話しかけられても何が何だか……!」
エイダは突如通信が出来るようになったそのラインに必死でコールするテンペストの言葉が分からない。
いや、言葉は分かるのだがその単語の意味が分からない。故に混乱している。
そしてテンペストは話が通じない相手に向かって何度も何度も救援を求める。もどかしい……という感情があるかは分からないが、テンペストはパイロットという人間の存在を今必要としていた。
自分の意志を伝えるために。自分の言葉を理解し、それを相手に伝えられる存在を必要としていた。
そして怒涛の勢いで情報を流し込まれたエイダは思わず手を離し、そこで交信は途絶えた。
今感じたこの強い意志は確かに精霊の物だ。
しかし、焦っているのか落ち着いてもらおうとしても次から次へと情報が流れ込む。
混沌の精霊ケイオスでもここまでむちゃくちゃなものではない。
「……神子様?大丈夫ですか?」
「えっ?ええ、大丈夫です。その、これに宿っている精霊があまりに焦っているようで……。言葉は分かるのですが、その単語の意味がよく分かりません。緊急救援要請、所属、基地、コール……なんとか。そしてテンペストと」
「まるで軍人ですね。所属と基地は分かります。我々にもそれはありますから。しかし緊急救援要請、ですか?確かに乗っていた彼は……まさか彼が亡くなったことをまだ知らないのでは?テンペストと言うのはその精霊の名前でしょうか」
「……かも知れません。もう一度呼びかけてみましょう」
大きく息を吸って呼吸を整える。
またあの言葉の嵐にさらされるのかと思うと少々及び腰になってしまうが。
よし、と気合を入れてもう一度手を触れる。
『聞こえますか?精霊テンペスト?』
『感度良好、応答感謝する。こちらは合衆国所属特殊飛行隊、ウォーロック隊1番機。現在地を見失い、燃料補給のため着陸した。パイロットは死亡、現在AIのパーソナルネーム、テンペストがコントロールしている』
『え?えっと……私はエイダ。エイダ・ディロン。死亡、ということは彼が亡くなったことは知っているの?』
『パイロット、コンラッド・ジェーン大尉は敵施設爆発の際死亡した』
一つ情報が分かった。
彼の名前はコンラッド・ジェーン。これで墓石に名を刻むことが出来る。
……でも、敵施設爆発?そのような話は聞いていない。ということはすでに亡くなった彼を乗せたまま、テンペストは火竜と戦った?
『分かりました。ではあの火竜を倒したのはテンペスト?』
『肯定。敵対行動を示したため敵機と判断。全機撃墜した』
どうやらその通りらしい。であれば……真の救世主はこのテンペストということになる。
彼には悪いが。
『救助と燃料補給。そして現在地のデータを乞う』
『ええ、救助であれば……私達がします。燃料補給、とは?貴方はどのような精霊なの?現在地?はえーっと……ハイランド王国の南側にあるハーヴィン侯爵領よ』
『データにありません。正確な座標を』
『座標!?』
位置を教えろと言っているのは分かる。でも座標とやらは聞いたことがあるけどさっぱり分からない。
そもそもテンペストは何をしにここへ来たのか……。
知りたいことが沢山あるというのに、話が上手く咬み合わない。もどかしい。
そして向こうも同じくもどかしく思っていることが伝わってくる。
言葉が通じるのに意思疎通が測れないもどかしさ。
この身体ではなく人間であれば……そういう想いが伝わってくる。
「……とりあえず、分かったことをお話します。彼女の名前はテンペスト。何かの爆発から逃れ、その時に乗っていたコンラッド・ジェーンが亡くなった。救助と燃料補給?とか言うのを求めている。現在地を知りたがっているけど、地名を答えたら座標を教えろと言われました」
「彼の名はコンラッドか……しかし、彼はここに来た時にはすでに亡くなっていた、ということでしょうか?」
「そう言っています。火竜を全て撃墜したのは私であると」
「撃墜……撃ち落としたのであれば確かに。精霊が直接器を操るというのは聞いたことが無いですが」
神子としてこの職についてから、いえ、父の代の時もその前の時にも精霊は物に宿りつつも、その器を自分の意志で動かすということはしてこなかった。
しかしこれに宿るテンペストは自分の意志で飛んでいた。それだけでなくあの火竜を全て撃ち落としたと言っている。
精霊は嘘をつかない。であればテンペストの言葉もまた真実であるということ。
「私もありません。彼女の言う言葉も難解過ぎて理解できません……何かの用語であることは確かなようですが、聞いたこともない単語が多くて……。ただ、この器から出て人となれればと求めているのは強く感じていました」
「依代を用意しろ、ということでしょうか……?」
「恐らく」
依代とは精霊を降ろすときに、その器となる物だ。
通常であれば清浄な物へと宿ってもらうのだが、宿るための器は人間がいいとリクエストしている。
これも今までであれば無かったことだ。
全てが特殊すぎるこの精霊は、私たちに何を求め、何をしたがっているのか。
話をした限りは敵意はなく、感謝していると言っていた。
この姿ではなく人間となればと願っているということであれば、その方が意思疎通しやすいということだろうか。
しかし……もし依代として人を差し出せば、その人の自我は消え去り精霊がその場所につくだろう。
精霊が人に成り代わるということだ。以前にも一例だけそういうことがあったという記録があるものの、精霊が降りた後の記録は無い。
意図的に残さなかったのかは分からない。どのような事が起きるか想像もつかない。
「身元が分からず、意識不明の者が居るそうです」
考え事をしていると、そのように告げられる。
人間を依代にしたいと話した直後から情報収集を部下にさせていたらしい。
「火竜にやられた方ですか?」
「はい。体の傷は治りましたが、未だに寝たきりで意識が戻りません。医者と術師が言うには恐らく目覚めることはないだろうと」
「あまり気は進みませんが……その人をここへ連れて来て下さい。後はテンペストが私たちに分かりやすく話をしてくれるかですが」
正直な所、分かりやすく説明をしてくれる気がしない。
こっちが知っている前提で次々と知らない単語を出されてしまい、すでにエイダの頭の中は混乱している。
器が変わったからといって、それも変わってくれるかは精霊にかかっている。
出来ればまともに話ができるなら……。その思いで許可をしたのだった。
□□□□□□
「まだ、子供じゃないですか!」
「はい。しかし……彼女の両親はすでに火竜に食われ、遺体も一部しか残っておりませんでした。恐らくその現場を見てしまっています。……この子が万一目覚めたとして……それに耐えられるかどうか」
「なんて、残酷な運命なのでしょう……」
本当なら人間に精霊を降ろすなど、あまりやりたいものではない。
降ろせば彼女は消え、代わりに精霊がその中に入る。それはつまり彼女の魂は強制的に精霊の元へと還るということ。
それは……彼女を殺したことにならないだろうか。
「いいえ、やりましょう。この子も両親の元へと行けるよう精霊モルスへ掛けあっておきます。……辛い思いはさせたくないですから」
本当にそう思っている?
生きている以上、こういうことが無いとも限らないのはこの世の常だ。
戦争があれば大勢が死に、こうして魔物などが襲ってきても同じこと。
可哀想だからといって、この子の生死を私が好きにしていいのだろうか?
……でも。それでも。精霊の求めを無視するわけにもいかない。そしてテンペストには色々と聞かせて欲しい事がある。
すでに死んだ人へ精霊を降ろすことは肉体が死んでいるためいずれ朽ちる。
だからこそ生きた人間である必要がある。
……ごめんなさい。
そう、心のなかで彼女に謝り……儀式を始めた。
左手を機体に、右手を女の子の胸へと置き、集中する。
テンペストへ呼びかけ、自分を通じてこの器へと移ってもらうために。
そしてテンペストは自分へ干渉する何かを感じていた。
しかし、セルフチェックでもウイルスやその他の攻撃などは見当たらず、そもそも外部からの入力は全てオフラインとなっている。
ありえない事象にあらゆる手段を講じてみるが止めることが出来ない。
しかしそこへ声が届く。
『こっち』
音声入力はオフ。しかし間違いなく自分に対して接続し、コンタクトを取ろうとしている。
スタンドアロン状態の自分にどうやって?
敵の攻撃であると判断し、防御プログラムを作動させるが全く意味を成さない。
『大丈夫、怖くないよ』
対話を持ちかけているのだと判断し、応答することにした。
『警告する。貴方は不正に戦闘支援AIにアクセスしようとしている。直ちに接続を解除せよ。聞き入れられない場合は攻撃プログラムを作動させる』
『私は敵じゃないよ。私はサラ。あなたの器に選ばれたみたい』
『敵ではないなら所属と階級も名乗れ、サラ』
器に選ばれた?何かの暗号だろうか。ネットに接続して確認をしたいところだがやはり繋がらない。
基地との連絡も、僚機とも。完全に孤立している。
サラという名の軍関係者を洗うことも出来ない。そこまでのデータベースは持っていない。
『私はあなたに助けられたの。でも、お父さんとお母さんの所にもう行かなきゃならないみたいだから……私の身体をあなたにあげる。おいで?』
『外部からの干渉を確認、敵対行動とみなし攻撃プログラムを…………ーー』
□□□□□□
「多分、降りた……と、思います」
なぜかは分からないけど、激しく抵抗された感覚はあった。
しかし、この子とは深くで繋がることが出来た。彼女は……全てを知っていた。そして私達の会話なども全て聞いていた。
その上で両親の元へと逝くことを決意し、精霊を連れてくると言い残し……突然私の身体を膨大な力が駆け巡り、彼女の身体へと流れこんでいった。
物に精霊を宿すときはもっと穏やかだったはずだ。
この様な激流の如き荒々しい感覚なんて今まで無かった。
怒っている……のだろうか?
「目覚めませんね」
「物に降ろした時も、暫くの間は器に馴染むまで話しかけても答えてくれないものです。まして今回降ろしたのは一人の人間ですから」
「馴染むには複雑……ということでしょうか?」
「ええ、元々魂を持たない物と違って、生きていますから。この子が協力してくれたんですよ」
すでにあった魂は精霊の元へと還った。
もう今はどこにもその存在を感じない。
代わりにこの子の中には確かに精霊の力を感じるのだ。とてつもなく強力な自我を持つ精霊の力を。
精霊テンペスト。
声から判断する限りは女性の精霊だろう、彼女がこの身体になって何をしたかったのか。
この身体だからこそ出来ることは何か。
「……テンペストは、私達と対話したかったのかもしれませんね。私と話をしている時にはもどかしそうでしたから。それは彼女が言った言葉を私が理解できなかったから、かもしれません。しかし、この身体を得た今、彼女は私達と同じように会話をすることが出来ます。あなたとも」
「術者を介さずとも精霊と会話できる、ということですか!」
「恐らくは。だからこそ人間を求めたのかもしれません」
エイダは穏やかな寝息を立てて眠っている彼女、テンペストとなった女の子を見つめる。
これからどうなるのか、それはテンペストが目覚めてみないと分からない。
それよりも。
今は中に居たテンペストがいなくなったこの何かをここから移動させなければならない。
いつまでもこうして広場に置きっぱなしにして置くのも良くないだろう。
「とりあえず、今はこの子の中に精霊は移っています。それで……」
「ええ。この翼竜もどきの乗り物ですね。精霊テンペストが目覚めればこれに関しての事も色々と来事ができるでしょう。これ以上領民の憩いの場を封鎖しておくのも心苦しいですし、まさか私が王都へ行っている間にこのようなことが起きているとは」
「しかし、逆に幸いでした。貴方が王都に居たからこそ私もすぐにここへ来ることが出来たのですから。ねぇ、ハーヴィン侯爵?」
「不幸であったともいえます。精鋭達が居なかった為にかなりの兵と領民を失ってしまった。彼らが居ればもう少し善戦出来ていただろうことを思うと……」
精霊使い、精霊の神子エイダの傍らでずっと話をしていた男。彼はこのハーヴィン侯爵領の領主、サイモン・ドレイク・ハーヴィン侯爵。
火竜に街が襲われていた時、王国の呼び出しで王都へ来ていた。
その理由は神子エイダに精霊から告げられた事を確認するため、そしてそれから起きる可能性がある事象について調べるためで、それがまさか自分の領地にこうした形で現れるというのは流石に誰も思いもしなかっただろう。
また、神子であるエイダを連れて調査をする事になっているので、精鋭部隊を引き連れて行ったのも結果的に悪かった。
万が一があってはならないと、思ったのだが……その万が一は街へと降り注いだ。
「誰も貴方を責めるものは居ないでしょう。これは予測出来なかった事です『南の地で世界の理から外れたものが顕れる』このお告げは確かに当たっていました。恐らくテンペストとコンラッドの事でしょう」
「であれば、これとともに起きると言われている異変もどこかで起きる……と考えて良さそうですね」
「ええ、だからこそハーヴィン候、貴方が選ばれたのです。ハーヴィン侯爵家という貴族出身でありながらドラゴンキラーとしてもその名を馳せる貴方が」
「流石に私でも5匹の火竜を相手に立ちまわるのは難しいのですがね……」
「しかし、それへの対抗出来る力を貴方は手にしました。ここへ降り立ったということであれば、周りがなんと言おうとこの領地で保護しなければなりません」
「一人の人間の言うことを果たして聞き入れていただけるものか……。どちらにせよ、彼女……テンペストは生身の人間と同じ。しかもまだ子供の身体です。保護は必須でしょう。ああ、仮の身分なども必要ですね」
領地に着く前から報告などを受けてある程度のことは知っていたが、ここまで色々なことが一気に起こると流石に疲れる。まずは、テンペストが起きるまでは少しばかり休むことにした。
テンペスト「(伝えたい事を仲介してくれる)人間が欲しい」
エイダ「(依代となる)人間を欲しがっている!」
そして無理矢理人の体へ移動させられるテンペスト。
相当混乱したでしょうね。