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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第一章 精霊テンペスト編
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第十八話 コリーの過去

 宵闇の森。

 マナが濃く、中に入ると常に暗い森。その暗さは明かりがなければ先が見通せないほどであり、昼であっても何故か木よりも下には光が届かない。


 この森はずっと昔は普通の森であったという記録があり、ある時を境に突然闇に飲まれてしまった。

 外から見れば普通の森だが、その木の密集具合は上から見ても異常であり、木の隙間から地面が見えるような所が全く無い。

 そういう場所ゆえ元々薄暗い森ではあったので黄昏の森などと呼ばれていたのだ。


 そして……突然その森は呪われた。

 闇が支配するようになり、森の中には魔物が集まるようになっていった。その頃から段々にマナが濃くなり、更に魔物の数が増える。

 元々危険だった森は人が立ち入れない魔境と化し、幾度と無く送り込まれた調査隊は尽く戻っては来ない。


 明かりをつければそれに群がる魔物たち。

 そうでなくとも闇の中で見通す目を持つそれらに対抗する術はなく、一度は焼き払おうという案も出て実際に実行されたが……放った炎は闇へ消え、失敗した。


 そんな森へと立ち入ったハンター達ももちろん多く居り、何とか戻ってきている人達もいる。

 彼らが持ち帰った森の魔物たちは影とも言えるほどに黒く、目の無い魔物たち。そして数多くのアンデッド。

 ただ、そんな中で燐光を放つ者がいるという。


 リッチ。アンデッドを束ねるモノ。魔法使いの中でも特に精霊使いに近いが真逆の死霊使いが自らをアンデッドに変えて狂気に支配された存在。

 それが確認されたのは例の魔物があふれた時の事だった。

 これによって、追われるか何かをして黄昏の森で自らをアンデッドとして生きながらえていた死霊使いが、いつしか人間性を完全に失い、生きとし生けるものを憎むただの魔物として動き始めてしまった為に、森その物を結界としてその中に居る魔物や、侵入してくる者達を尽く喰らい尽くしていたのだという仮説が立った。


 今、その宵闇の森がざわついている。

 時折恐ろしげな唸り声が聞こえてきては、森の入口を警備している兵達を不安にさせていた。


「……また聞こえたな」

「魔物同士で殺し合いしているって話だしな……でもこっちに来ないってことはやっぱりこの森自体が結界っていうのは本当なのかもな」


 そうそう魔物は森から出てこないとはいえ、今は夜だ。

 レイスやゴーストと言ったアンデッドがのさばる事もあるとはいえ不気味であることは変わりない。

 見張りに立つ兵は時折聞こえる声に警戒しながら、焚き火の前で話し続ける。

 黙っているとなにか怖いのだ。


「だな。こっちから入っていかない限り襲われることはないからまだいいが……。この森のせいでどれだけ遠回りをさせられているやら」


 隣国であるミレスなどという引きこもり国家はともかく、その付近の国々とは貿易などをしているのだ。この森を突っ切っていければかなり短縮できるのを、わざわざ森を迂回して行っているためにたどり着くまでに半月かかる。


「まあお陰でミレスからのちょっかいも、向こうであふれた魔物もあまりこっちに来なかったっていう話だから……いいのかもしれないけどな」

「ただ、不気味だな。特に最近はやたらと声が聞こえていて余計に気味が悪い」

「異変の話もある、もしかしたら……」

「待て、森から音がする」


 ガサガサという葉の揺れる音が近づいてくる。

 すぐさま鐘が鳴らされて兵士たちが集まり、警戒が高まっていく。これまで森の中から出てくる魔物は殆ど居ないが、それでも出てこないわけではない。

 そしてこの森の魔物は総じて強い。


「総員、構え!明かりをつけよ!」


 光石に光が灯り、徐々に強くなっていく。

 宵闇の森の入り口に生える木の表面が明るく照らされるが、その奥には光が届かない。

 そして出てきたのは……。


「アンデッドだ!スケルトン1匹……いや2……おい……」


 闇の中から骨だけの戦士、スケルトンがゆっくりと出てくる。

 その目に赤く光を灯らせ、カタカタという音を立てて嗤う。それがぞろぞろと出てきたのだ。


「魔法隊前へ、燃やし尽くせ!」


 口々に火魔法のワードを唱える声が聞こえて、次々にスケルトンの集団へと降り注ぐ。

 炎の槍が、炎の球が、炎の渦がスケルトンを燃やしていく。

 元々脆い骨で出来上がったスケルトンは熱に耐え切れずに崩れ落ちていき、やがて動く物は居なくなった。


「撃ち方止め!」


 光石の光に照らされて灰となったスケルトンを照らす。


「なんだ、ただのスケルトンか……」

「まあ、下手に強いのが迷い出てこないだけマシだな。こいつらの武器と防具を回収しておけ。身元が分かるかもしれん」


 しかしなぜ、スケルトンがこんなに出てきたのか。

 この森では確かにかなりの人数が命を落としている。調査隊だって100人を超える者たちが奥へと進んで戻ってこなかったこともあるのだ。そういった者たちが死んで骨になった後に濃いマナに誘われたゴーストが取り憑いて動くこともあれば、死霊使いのような者が無理矢理使役することもある。


「嫌な感じだな」


 静まり返った森を見る。

 そこには光の届かない真っ暗な道が続いていた。


 □□□□□□


「よし、終わったぞ」

「ありがとうございますコリー」


 ロジャーによってヒントを得たテンペストは、早速自分に対してタイタンワードである傀儡を自分に掛けてみるも上手く行かなかった。

 魔力を纏うというイメージが上手く行かなかったようだったので、試しにそれを購入していた軽鎧に付与、更にマナ循環を重ねがけして着ている間常に発動するようにしてみたのだ。


『パワードアーマー、アクティブ。出力40%、マナ循環モード』


「……どうだ?上手く行ったか?」

「成功したようです。マナの循環も上手く行っているようで、動かしても特に魔力の消費は増えません」


 鎧に付加したことで直感的に動かすことが出来、鎧を動かそうとすると、すっと鎧が動きをサポートするように動く。

 その場で歩いてみると、ほとんど力を入れなくても歩きまわることが出来る上、ジャンプしようとするといつもよりも大幅に届く高さが変わった。


「コリー、今日はこの状態で打ち合いをお願いします」

「おう。まあいつもよりも楽をしているんだから頑張れよ?」

「承知しました。……行きます」


 テンペストが踏み込む。その動作をサポートするべく鎧は動き、踏み込みの威力を4割増しで地面に伝える。軽く突き出して打ち合おうとしたのに、予想外の反応速度とその速さに動揺した瞬間を狙われてコリーに棒で頭を叩かれてしまった。


「本当に成功したっぽいな。だけどちょっと振り回されてる感じだし、練習が必要だな。よし、今日からずっとそれ付けて生活してみたらどうだ?」

「そうですね。では、慣れるまで少しお付き合い願います」

「よし、いいぞ。そこで伸びてる馬鹿よりは根性あるな!」


 最初の準備運動でヘバッているニールを横目で見ながらコリーが言う。

 しかしそれに反論する程の元気などニールにはない。流石にここに関して言えばテンペストのほうが始めたばかりのニールよりは慣れていたようだ。

 基礎体力は上でも、それを遥かに超える運動量をさせられては大した違いはないのだ。

 更に言えばニールは自己強化が苦手で、筋力や体力の底上げが難しい。


 反対にコリーは自己強化は得意なため、元々筋力も体力も上なのに更にその上をいく。

 このメンバーの中では一番戦闘向きの人物だ。

 それでも戦闘職とまともにやりあったら距離を取らないと勝てる気がしないというのだから、どれだけ強い人たちが多いのかと若干不安になってくるテンペストだった。


 結局、動きにはある程度慣れた上に、少ない力でいつもよりも力強い行動が出来たが、実力の差でコリーには全く敵うこと無く一方的に頭を叩かれまくって終了した。


「はぁ……コリーには敵いませんね……」

「そりゃぁ……地力が元々無いんだから、それに力を上乗せしたとしても微々たるものだろう?ああ、一応警告しておくがな、その魔法は自分の身体を強化しているわけではないからな。調子に乗っておもいっきり相手をぶん殴ったら自分の腕が折れる事もあるぞ。結局、中身も強化しないと危険だ」

「ロジャーはそんなことを言っていませんでしたが……」

「自分で気づかせたりしたかったんだろうけどなぁ。ただ、テンペストは使いこなすのが早過ぎる。このまま行けば更に強化を進めて元の倍以上の力を発揮することも可能になるかもしれない。だけど……そうなった時に痛い思いするのは嫌だろ?」

「そうですね、痛いのは……嫌です」


 転んで頭を打っても嫌なのに、骨を折るなんてもっと嫌だ。

 すぐに治してもらえるだろうけど、骨折は相当痛いと聞いたから出来ればやりたくない。


 動けないニールを放っといて2人は部屋へと入る。

 ロジャーが朝食の準備をしているのが見えた。


「だがテンペストは理解も早いからな。教えておけば対策を取るし……俺から言わせればテンペストは今ぐらいの強化でも問題ないと思っている。つまり……人並み以上に動けるようになれれば、それ以上に力を必要としないでも問題ないはずだ」

「でも、それでは皆についていけないのでは?」

「付いて行くだけならそのリビングアーマーもどきを使って楽すればいい。そしてテンペストは魔法使いだ。今はずっと封印中だが杖を持っているだろう?あれを使えばストーンバレットだけでもほぼなんとかなるんだよ」

「しかしあの時は逃げるだけで精一杯でした」


 レッサーオーガに襲われた時、必死で逃げてその間は全く詠唱が出来なかった。

 集中することが出来なかった。そうなるといくら強力な攻撃魔法を持っていても反撃できない。


「まあ体力だけはこれからもつけていったほうがいい。だがテンペストは天才だ。俺が考えつかないような何かを考えられるだろう?例えば力がいらない攻撃方法とかな。鍛えまくった剣は自重だけで魔物に突き刺せるらしいぞ。魔法使いならそれらしい武器なんてのも作れるんだよ。まあ……攻撃から支援から創造から何でも出来るなんて奴はまず居ないが、多分、テンペストには出来る」

「まぁ、確かに力をそれほど必要としない武器は今作ろうとしていますが」

「おお!流石俺!まずはちゃっちゃとそれ作っちまえ。そしたら問題ない」


 しかし材料が足りない。お金はあるがまだまだ沢山必要なのだからもう少し節約したい。

 なにせ魔術師ギルドに売り払ったあれ以外は外に出せないようなものばかりで売れない……となれば、あれほど高額の収入は今後ないと思っていいだろう。


「あぁ……まだ目標あるのか。すげぇな。まぁ確かにギルドに売る情報は高く売れるだろうが、秘密にしなきゃならんしな。んで必要なのはプレートワームときたか。あれもなかなか値が張るんだよな……」


 ワームにも幾つか種類があり、テンペストが欲しがっているのはその中でも表皮が固く、その下に強靭な筋肉が隠されているプレートワームと呼ばれるものだった。

 矢を弾き剣を通さず、魔法も大抵の生物には有効な雷が効かない。蒸し焼きにするか凍らせるかが基本の魔物だが、何でも噛み砕くその口はそれだけで脅威であり、意外と早い。

 ちなみに、岩山などに住むことが多いプレートワームは内部の岩を食いながら進んでいくため、自然と後には洞窟が出来上がる。

 その為ケイブメイカーなどとも呼ばれていた。


「俺とはめっちゃくちゃ相性悪いんだよなぁ。ニールも……あいつのは威力が高すぎて危険だ。洞窟内部で放つような魔法じゃねぇ」


 しかし……とにやりと笑ってコリーが言った言葉はテンペストにとっては願ってもない物かもしれない。


「アレは洞窟とセットだ。あいつを倒すということは住んでいた洞窟を探る優先権が手に入る。もし、倒した後にその洞窟が鉱石だらけだったら?それこそ一攫千金ってやつだな。これ、多分魔物の図鑑とかにも載ってないからテンペストは知らなかっただろ?」

「今はじめて聞きました」


 討伐数が少ない上に、そもそもが見つけにくいのだ。ある程度の情報は出しても美味しい所を公開する奴は居ないということ。

 狙って狩ろうとしている者達にとっては常識の情報でも、それが外に漏れていくことはまず無い。


「昔組んでたドワーフのおっさんが言っていたんだ。死んじまったが……俺の鉱山を手に入れるんだ!とか言ってたっけな」

「コリーはハンターをしていたの?」

「言ってなかったっけか?一応、こんなんでも俺は貴族の出でな、と言っても10番目だから家のことにはまず関与できねぇし、する気もなかった。だからハンターとして活動していたんだよ。いずれ家を出なければならないのは確定していたからな。子供多すぎるのも問題だぜ?」


 そして、好きにハンターとしてパーティーを組んで長い間魔物を狩っていた。

 知識も戦闘もその時に身につけたものだ。パーティーに居た魔法使いから魔法を教わりながら自分なりの戦い方を見出していく。

 しかし、それも最後の日がやってくる。いつものように依頼をこなそうと目的地に向けて森の中を移動中、2人の人族が馬で駆けて来たのだ。

 何かに追われているように後ろを見ながら必死で。そして気づいた。あの2人は大量の魔物を引き連れて逃げてきたことを。魔物の群れのターゲットはこちらに切り替わったことを。


 群れに襲われた時にはその群れが人の居る方へと向かわぬように、自分達を犠牲にしてでも別な方向へと誘導しなければならない。

 それがハンターとしての努めだ。その2人もその為に街とは逆の方向へと向かおうと必死で馬を駆っていた。時折森の中を走りかなりの数を撒きながら。

 しかし、コリー達と遭遇してしまった。人が居ない方へと来たつもりだったが、その周辺を探索するために来ていたコリー達は運悪くその場に居た。

 逃げろ、と叫んで通り過ぎていくハンターの2人。しかし馬車を反転させる暇などあるわけもなく……。


 ハンター2人も合流して追いかけてきた魔物たちを捌くことにした。

 すでに逃げられるような状況ではなくなっており、どのみちその場で留まるほかなかった。

 そして彼らは善戦した。仲間が倒れていくのを見ながらも必死で魔物を食い止めた。


 すまないと謝りながらも必死で戦った2人のハンターはもうすでに喰われている。


 自分に魔法を教えてくれた魔法使いは、最後の力を振り絞って自身の得意とする雷の魔法を使い、魔物たちの数を減らしていくが、やがて力尽きて動けなくなった。

 その彼をかばいながら戦ったドワーフの戦士もまた生きながらに喰われて死んだ。


 絶望の中でコリーは同じパーティーのもう一人の剣士と共に最後まで戦う。

 そして、漸く自分でも扱えるようになった雷の魔法を最後に放つことにした。もう、限界だった。

 最期に死ぬなら巻き込んでやろうと自分の持てる全ての魔力をそれに注ぎこみ、今よりもずっと長い詠唱を呟きながら目の前の敵を叩き切り続けた。

 すでに剣は切れ味を失い、刃は欠けて何度斬りつけても浅い傷しか付けられない。


 そして、詠唱が完成し、その場に巨大な光球が出現する。

 次の瞬間目の前が真っ白になるほどの光と、耳が壊れそうなほどの音と、それらが発する衝撃が辺りを支配した。その効果を確認すること無くコリーは気を失い……次に目を開けた時には一緒に戦っていた剣士が自分を引きずっているところだった。


 最後のあの攻撃によって魔物は壊滅。生きていたものも動けない状態でいたのでそのうち死ぬだろうと。死ぬ気で放った大博打は成功したのだと聞かされた。


 その後、何とか街へとたどり着いた2人は直ちに傷の手当を受けて、治り次第何があったのかをハンターギルドへと報告。亡くなった仲間たちの身分証は全て剣士が回収していたためそれを返納。

 それを受けてギルドは確認のため人を出し、その場に残された魔物と仲間たちの遺体を回収し2人はその場所から一番近い街を守ったとして金と名誉を手にする。

 当然、そんなものを貰っても2人の心の傷が癒える訳もなく、それぞれが強くなるためにと別れることとなる。

 それを知った実家がコリーをロジャーへと推薦したのだった。


「そんなことが……」

「まぁ、今でももっとあの時強ければ皆も生き残れたのかなって思うときはあるな。ニールみたいに広域魔法を使えていたら最初の段階で全部燃やしつくせていたかも知れねぇってな。だから次があっても大丈夫なようにここで鍛えてるわけだ。雷以外にも風と氷を扱えるようになったし、強くなっている実感はある。テンペストが強くなりたいって言うなら力を貸すぞ」

「それは心強いですね。そしてこれからもアドバイスをお願いします。私も強くなりたい」

「おう。ただまぁ、プレートワームはまだやめとけ。流石に無理だし、ストーンバレットも恐らく効かないだろうからな。もっと力をつけてからだ。ま、目標は遠ざかるが素材を買うのが一番近道だぞ」

「そういうことであれば、仕方ありません。経験者の言葉はよく聞くべきですから。でもハンターとして魔物を狩れるようにはなりたいですから、プレートワームまでは行かなくともある程度は戦えるように……。そのための訓練を、お願いします」


 これまでのような体力づくりではなく、実戦的な動きが出来るように。

 ワイバーンの身体を取り戻すまでは、この身体でやっていかなければならないし、常に動くならこの体のほうが便利なのだ。

 それであればワイバーンに頼らずとも自分でできることを増やしたい。


「あ、先に言っておくけどハンターとしても活躍したいなら僕の課題をクリアしてからね。新しいことを覚えて生み出しているけど、魔力量も少なければそれの制御もまだまだだ。コリーみたいに実戦で鍛えあげるなんてことも出来るわけじゃない。暫くは従ってもらうよ?」


 いい匂いを漂わせる料理を手にロジャーが現れる。

 毎度のことながらロジャーの作る料理は凄く美味しそうだ。交代制で料理を作るがまだレパートリーの少ないテンペストはレシピを色々調べるなどして頑張っていた。


「テンペストも頑張りたい気持ちは分かるんだけどね、今ある力をどれだけ引き出したとしても、ハンターになるのはちょーっと早いかな?確かに子供でも出来る採集なら大丈夫かもしれないけど、それじゃテンペストは納得出来ないでしょ?先ずは杖無しでも強化を持続させられるようにしないとね。今のままだと見た感じ半日が限度でしょ、全力で行動すればもっと短い。だから全力で行動して1日その強化を持たせられれば課題を1つクリアしたことにしてあげる。……まぁそういうことでそうなるためにもこれを食べよう!」

「うぐ……」


 ずいっと目の前に出された悪魔の実……もといマナの実。

 これを食べるごとに確かに魔力が身体にどんどん浸透しているのを感じるし、その分だけ魔力の保有量も増えているのを実感する。

 でも。それでも。

 これを食べなければならないということが一番の苦行であるとテンペストは思っている。

 毎日毎日おいしいご飯の前にこの死ぬほどまずい実を食べて、舌が麻痺したような状況の中食事をする。

 美味しいはずの食事は、この悪魔の実によってレベルを数段落とされてしまうのだ。

 食べ盛りのテンペストからしてみれば、楽しみである食事を台無しにするものであり、食への冒涜そのものだった。


 しかし実際に効果はあるために反論は出来ず、まずいそれを涙を流しながら必死で飲み下すのだった。


 □□□□□□


「……困りました……」


 軽鎧と言えど鎧であることには変わりなく、重要な胸はもちろん、腹、背中、股間、足などを関節の動きを妨げない程度に防御している。

 その為簡単に装備が外れないようにガッチリと固定され、革紐の部分は切られないように甲虫のプレートで覆われていた。

 当然一人で装着できるものではなく、慣れていないテンペストにとってそれを着脱するのは無理で、今まではコリーに着せてもらっていたのだが……。


 先ほどからコリーの姿が見えず、途方に暮れていた。

 一応、ロジャーにも許可をとって日常生活を含めてこの鎧を着たまま、パワードアーマー状態を維持して練習することにしているため、食事の時にも脱いでいない。

 服とおなじ感覚で動かせる自由度の高い鎧だったため、特に気にもしていなかったのだが、今まさかの危機に陥っていた。


「と、トイレに行きたいのですが……っ……」


 食べるものを食べて思いっきりかいた汗で出た水分を補給するために沢山お水も飲んだ。

 となれば当然尿意だって襲ってくる。

 しかし……固く結ばれた革紐はテンペストの力では解けず、そうでなくとも腰の後ろのほうで結ばれているそれを見ることも出来ない。

 しかも股間部分は厚手の皮のパンツになっているのだが、その部分が外れないと一緒に外れてくれない仕組みになっていた。


「あれ?テンペスト何してるの?」

「ニール!いいところに来ました!!すみません、この鎧の腰の革紐を解いてもらえますか?」

「あ、ああ。いいよ。うわ……なにこれ固っ!?」

「コリーが縛ってくれたのですが……」

「ちょっと待ってね、これ本当に全然動かないんだけど……っ!どんだけ馬鹿力なんだコリーは!」

「あの、本当に早く……して下さい……」


 限界が近い。

 いつもの感覚で直前まで気にしないで我慢していたのが裏目に出てしまった。


「も、もう少しで引き抜けそう……!」

「あ、だめ……。あっ」

「あっ……」


 ニールの健闘むなしく時間切れとなった。ついでにニールが上に引っ張りあげたのが完全にトドメとなった。

 止まらないそれは独特の臭気を放ちながら股を濡らして、皮のパンツの中を通り抜けて足へと降り、足元の隙間から床へと……。


「その……ごめん、テンペスト……」

「いえ……。また、やってしまいました……。すみません続けてもらっていいですか?着替えたいので」

「あ、うん」


 それから暫くして何とか解放されたテンペストはふらふらと自室へと戻っていく。

 床に広がった大量のそれを見ながらニールは顔を赤らめながら、綺麗に拭き浄化する。

 テンペストの部屋の前まで続く足跡もあますところなく。


 掃除が終わって暫くの間、ニールはぼーっとそのことだけを考えていたという。


また漏らしてしまったテンペスト。頑張れ。

そしてどんどんおかしくなっていくニール。

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