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第百八十五話 様々な変化 ー最終話ー

 王様達の会議が終わり、テンペスト達もアトラスへと帰還する時が来た。

 しかも、仮のゲートを作って互いの交流をしやすくしてくれるという。

 とりあえずということでハイランド国内へ一つのゲートが開くことになる。


 見た目は普通のドアだ。

 しかしそのドアはどこにも接続されておらずぽつんと立っている。

 ドア枠とドアだけがそこにあり……見た目はどう考えても前衛芸術的な何かにしか見えないが……ドアを開けると、ここではない別な世界へとつながっていた。


「よし、接続できたね。これでアトラスのハイランド王国カストラ領へと繋がったよ。ここでよかったんだよね?」

「うむ。まずはそなた等と、我らの世界を繋げたテンペストがゲートの管理を任せる。……ここならば何があっても対応できるであろうしな。本格的にゲートを作る場所は浮遊都市となる、あの大きさの飛空艇を飛ばせるならば、浮遊都市を昔のように戻すことも可能となろう」

「ああそれは良いかもね。拡張してもいいならそれなりに作っていくけど。ボク達の国には王都の南、海に近いところの土地を用意するからそこに。平地が多いから開発しやすいはずだよ」

「では、また会おう、オルズテア王リリアン」

「またいい取引ができるのを楽しみにしているよ、ハイランド王。……じゃあ、ゲートを起動するね」


 完全に位置が固定され、通行が可能となる。

 今はオルズテアのアヴァロンにある一角に据え置かれたドアは、アヴァロン側から魔力の供給を受けてゲートを繋いでいる。

 これでもう、お互いの世界を行き来するための障害は無くなった。


 少しずつ、開発を進めて新しい国交が出来るのは時間の問題となるだろう。


 □□□□□□


 ハイランドに戻ると、周りはすでに雪景色となっていた。

 分厚く積もった雪が滑走路脇に積まれている。


「あー……こっち凄い寒い」

「冬ですから仕方ありません。向こうは暖かかったので余計にそう感じてしまいますが……。でも、国同士の話し合いの方もお互いにいい落とし所を見つけることが出来たようで良かったです」


 お互いの世界の魔物素材、食品、娯楽などなど色んな物を見ていった結果、共通しているようなものもあるけど、結構違うものが多くてそれなりに取引材料になり得た。

 知識などに関しても積極的に交流して行くことになり、技術も相互で入ってくる。


 人の出入りに関しては特別な通行証を発行して、どこの国へと出入りするのかを先に聞いて、そのとおりに行動していなければ分かるようにするなど、色々と決め事なども決まっていったらしい。

 通る人は審査を受けて、基本的に犯罪歴がないものに限られる。

 その内に緩和はされるだろうけど、最初の方は本当に厳しく審査されるから変な人が行くことは少ないだろう。


 その後も僕達はいつもの生活が戻った。

 王様やら大臣達はとても忙しそうだけど、僕達はたまに駆り出されて色々と意見を言ったりする位であまりやることはない。

 博士の方はアトラスとカエルレウスを行ったり来たりしてとても忙しくなってしまったわけだけど。

 代わりにロジャーが授業を担当したりとなんとか回している。


 一月が過ぎるまでには結構色々なことが進みだした。

 僕達はここからがある意味で本番だ。


 まずはマギア・ワイバーンの改修。

 人が乗れなくなってしまった機体を、また乗れるようにと改造していく。

 大分形が変わって第三エンジンが取り外された場所に、あの巨大な魔晶石が鎮座することになった。

 更に、コクピットの方も回収されて以前のように人が乗り込めるようにと変わる。

 ただし……以前とは違うことが一つある。

 前は入力装置を使って機体を操縦していたが、もうマギア・ワイバーンに限って言えばその方法では間に合わなくなってしまっているのだ。

 なので魔導騎士のように半分マギア・ワイバーンに接続した状態となり、直感的な操作と手を使った操作を同時に行うことになる。


 動きを制御するのは頭で、そして攻撃を行うのは手でという感じだ。

 そうすることで誤射を減らせるだろうという事でそうなった。ちょっと撃ち落とそうとか考えた瞬間に出ちゃ不味いからね。

 簡単に言えば自分の腕がセーフティ代わりということ。


 目標のロックなどは視覚を通じて複数登録可能となり、一度にランサーを発射することで全てを狙うことだって可能だ。


 そこにテンペストという優秀なサポートが入ることで十全の性能を引き出せる。


「もう少し掛かりそう?」

「おう、点検してみたらあちこちガタが来てるところがあったからな、そこの設計を見直しながらだ。しばらく時間は掛かるぜ。コリーにはシミュレーターで動かし方に慣れとけって言っといてくれ」

「分かったよ。親方達も頑張ってね。後は……セイカー2の方だけど」

「若いもんにやらせてる。最終チェックなんかは俺がやってるから心配しなくても良い。だが手作りだからな、まだ3機しか出来てねぇ。竜騎士の養成にも時間がかかってるって話じゃねぇか」

「まあね……前の人達が残ってれば良かったんだけどね。グエンたち含めて2人しか残ってないからね……」


 あの時の戦闘で散っていった竜騎士達。

 今はもうあのコンラッドすらも居ないのだ。

 新人を育てられるのは限られており、今はコリーがセイカーを2人乗りに改造したものに乗って教育中だ。

 基本的な飛行などが出来る人たちから、成績の良い順に取っていったんだけども……やっぱりプロペラ機とあの戦闘機では勝手が違いすぎる。

 素直で扱いやすい機体じゃない、とてもピーキーで反応が良すぎる気難しい機体なのだ。


 それでも、今まで乗員を苦しめてきたあのGが軽減されているのだ。

 アレがないだけでも有り難いと思って欲しい。

 まあ、おかげで速度を上げたために更に一瞬の操作が命取りになる危険性が出てしまったんだけど。


 セイカーもその辺の改修を受けることでセイカー2として生まれ変わる。

 出力は上がり、Gの軽減装置が取り付けられ、竜騎士が気絶した場合に一定高度まで下がると自動的に高度を維持するという安全装置まで組み込まれた。

 この辺はサポートしてくれるAIが居ないと言うことで、代わりになんとかしてくれる装置として取り付けられた。テンペストたちからすると何世代か前の話ということだけど、こうして役立っているから良いんじゃないだろうか。


 次に流通。

 最初のゲートが開通してから、まだ新しいものは建っていない。

 それぞれハイランド、ルーベル、コーブルクの3カ国へ仮のゲートが建っているだけだ。

 ちなみにこの3カ国間はオルズテアを通じて一気に行き来が可能となっている。

 時間、距離、地形、そう言った問題が一気に解決できるだろう。

 使ってみた感じものすごく便利だった。

 もちろん、事前に話を通しておかないと捕まるけど。


 今は……リリアン達の世界から来た人や、僕達の国から選出した人達が頑張って浮遊都市を改造中だ。

 1日にして面積が倍になっていたのには流石にびっくりしたけど……。

 あれは妖精の力を使って、近くの山などから土砂や岩石を持ち込み、一つの塊として認識させたとかなんとか。

 なので普通に農耕も可能だ。

 びっくりするのが水が使えることだった。

 これもナイアドと呼ばれている妖精の協力を得ているらしい。

 いつの間にかあの何もなかっただけの浮遊都市が、自然豊かな一つの島となっている。

 今は建築するために色々と整備しているところだけど、魔導騎士要らないんじゃないのって言うくらいに作業が早い。

 ただ、僕達が使っていたアスファルトをみてリリアンがとても興奮していた。

 やっぱり向こうで使っていたものだったらしく、かと言ってリリアンは作り方がわからなかったために諦めていたそうだ。

 当然、技術を持ち帰ってもうアヴァロンの一部で使われているそうだ。

 ……あっちの発展の仕方が本当に頭がオカシイんじゃないのっていうレベルでびっくりする。


 で……最初に出来た建物は……なんと娼館だった。

 リリアンらしいと言えばらしい。

 もちろん、こっちの娼婦たちからもそこで働くことになるわけだけど……競争率は物凄いことになった。

 コリーもその営業方針とかそういうのを色々と教わったらしいけど、色んなことが違いすぎていて驚いていたくらいだ。


 なにせ給料は破格、安全対策や病気対策まで万全。妊娠などもすることもなく安全に楽しむことが出来る。

 プライバシーはしっかりと守られる上に、いつ出ていっても良いし、働いている間から別な職につくためのスキルアップなども面倒を見てくれる。

 こっちの方は太刀打ちできない。

 恐らく、向こう式のやり方にどんどん切り替わっていくだろう。


 話がそれたけど、流通と言えば商人達だ。

 彼らはすでにもう動き始めていて、それぞれ勝手に契約などを取り付けているらしい。

 それ自体は特に問題はないわけだけど、なんというか目ざといと言うか金の匂いに敏感というか。

 もちろん、取引禁止されているものの一覧などは回っているため、それに該当するものはどんな形であれ取引厳禁だ。


 やったらリアルにクビが飛ぶだろう。

 技術の方で色々と変わってきそうなのは……魔導車と魔導騎士、そして新しく飛空艇の技術だ。

 僕達のほうで問題だったのは、山の多いこの土地で開発をするにしても山から山へと向かう方法だった。

 陸路では魔導車を使っても時間はかかり、空を行くにしても今あるのは輸送機ではない。

 そして定期便として使えるような、速度はそれなり、人や荷物を大量に積み込むことが出来る安全な空の便が必要だったのだ。


 これを向こうの世界で使われている飛空艇の技術で実現できた。

 高額な魔晶石が必要となるけど、それを使って出来る物はそれ以上に価値が出る。

 サイラスの街へと試験運行した機体が無事に往復出来た時には、きっと新しい街が更に遠くへと作られるきっかけになるだろう。


 ハイランドは立地の悪さを物ともせず、どんどん大きくなっていける。


 僕達学者も忙しい。

 向こうから来た魔物素材の鑑定やその使用用途、何に使えるか、何と組み合わせられるか、何と反応させるとどういうものが出来るか……色んな実験をやりまくっている。

 膨大な試験データを積み上げ、目の下にクマを作りながら。


 食物とかでも一度きちんと調べないと安全かどうかは分からない。

 細菌類なんかが混じっている場合、それらが僕達に対してどんな危険を持っているかも調べなければならないのだ。

 対応策のない病気などがあった場合、下手をしたらこっちの世界がやばいことになる。


 色んなことが、今どんどん変わっていこうとしている。

 邪竜討伐をきっかけに2つの世界が交わった。

 もしかしたら他にもまだ繋がる世界があるだろう。

 そうなった時、どういう技術が入ってくるのかは分からない。


 今からちょっと楽しみだったりする。


 □□□□□□


 春になり、飛竜達の繁殖期が近づいてくる。

 この季節はいつものことながら冬を越して飢えた飛竜達が目を血走らせて飛び回る時期だ。

 ここで食って、力を蓄えて、子供を生む。


「飛竜の群れ5匹、サヴァン村上空に接近中。スクランブル」


 王都の端でサイレンが鳴り響く。

 少し前に正式にセイカー2の竜騎士になった者達と、あの戦闘を生き残ったグエンの隊が4機編隊で離陸していった。


 ハンター達であっても手こずる大型の魔物、飛竜等空を飛ぶ魔物などに関してはこうしてハイランド軍に回されてくる。

 コリー達にしごきぬかれた竜騎士達も、今や一人前の竜騎士となり、大空を自在に飛んでいた。


「……スクランブルみたいだね。テンペストも出たいんじゃない?」

「確かに、以前はそれが仕事でしたから。今は他にもやることが出来ましたし……。私達が出るような時にはもっと酷い状況の時でしょう?」

「ま、出ないほうが平和ってことだね」


 テンペストとコリーはたまに出撃するけど、結構な脅威だったり時間がないときが多い。

 後は洋上での話だったり。

 海の魔物は未だに未知数だ。

 その大半が巨大で、物凄く強力な魔物となっている。

 潮の流れの結界が意味をなさなくなった今、遠洋に出かけて魚を獲りに行く漁師も増えてきたが、たまに彼らからのSOSが来る時があるのだ。

 海竜なんてやつを初めてみた時には流石にびっくりした。


 サイラスの船よりもでかいもんだから解体するのに相当手間取ったくらいだ。


 そして、テンペストとコリー、僕に関しては一つ特別な仕事も出来た。

 異世界と何かあった時の為の抑止力と、テンペストやサイラスの様にこの世界に何か理由があって飛んできた人たちの保護だ。

 ミレスはもう無いけど、いつまたサイラスのような被害者が出るかもわからない。


 考えてもみれば、異変を食い止めるために送り込まれる存在だ。

 今まで自分たちの知識だけではどうにもならなかったことを知っている者。彼らを保護することで得られる知識と技術はテンペストやサイラスを見ていれば分かること。

 短期間でどれだけの年代を飛ばせただろうか。

 そして今もまだその技術を伸ばしている。


 以前はミレスの地に落ちたものたちが囚われ、その力を悪用されかけた。

 それを防ぎ、異変を食い止めつつ彼らを保護し、自由を与える。

 テンペスト達の新しい仕事はそれだ。

 サイモンも引き続きテンペスト達の関係者として動いてくれるし、エイダも精霊の声を聞きそれを伝えてくれる。


「エイダ様より伝言を預かっております。『北の山が騒がしい』と」

「分かりました」


 ……こんな感じで。

 まだ新しい仲間は来ないようだけど、精霊たちは僕達が対処可能だったり、回避可能な自然現象なんかも伝えてくれるのだ。


「北の山が騒がしいって……噴火とか?」

「もしくは、火山活動による地震か、ですね。山岳地帯の北端は造山帯となっていて、未だに大地が動き続けている場所です。ハイランドで起きる地震は殆どがそこからのものですから」

「地震かぁ……僕苦手なんだよなぁ。んじゃ、お告げが来るくらいだから大きめのが来るのかな?いやだな……」

「好きな人は居ないかと。……今後一週間以内の大きな地震に備えるようにと、王都へ通達。私も飛んで地形の解析を行います」

「分かった。コリーの事呼んでおくね」


 地形を正確に測定できるテンペストは、こうして定期的にハイランド周辺の測定をしている。

 意外なことにそのデータは研究で役立っているようだ。

 誤差じゃないの?と思うくらいの僅かな変化。

 それを調べていくことによって、この大地がどう動いているかを知ることが出来るのだとか……。

 地震の起き方とかも、知ればなるほど!と思うけど、それまでは突然地面が揺れるという恐怖の現象だった。

 段々、そういうのも予測できるようになるんだろうか。


 さて、僕は……浮遊都市へと向かおう。


 □□□□□□


 浮遊都市もかなり整ってきた。

 もう新しいゲートが設置され、後少しで本格稼働することになる。

 僕達の大型トレーラーも通過できるほど大きなゲートだ。

 膨大な魔力はお互いの世界から供給される魔力で補い合う。


 その為の娼館はすでに稼働していて大盛況となっている。

 テンペストと結婚してからは僕はもう娼館通いはしなくなってしまったけど……かなり評判がいい様だ。

 使われれば使われるほど、魔力の元となる子種が沢山手に入るというわけで……それらが片っ端から魔力へと変換される。

 大型馬車や魔導車なんかが出入りする度に、かなりの魔力を消費するそうだけど、これのおかげで1日に30台程度なら普通に通行可能だという。

 本格稼働の時には更に魔力を補う手段とかを付けるそうだから、それが出来れば魔力をある程度貯めることも出来るかもということだった。


 警備として魔導騎兵が両脇に立ち、カエルレウス側の兵も武装して並んでいる。

 あそこに立っている魔導騎兵は、カエルレウス側……つまりアヴァロンの管轄だ。

 つや消しの黒と赤を使った威圧感のある機体に仕上がっていた。

 この辺もやっぱりお国柄が出るなぁ。

 股間の部分には大きな国旗と紋章が描かれた前掛けのような物が付いている。

 これ、実戦的にはあまり意味ないけどかっこいいな……。

 装飾として展示用に良いかもしれない。


 獣脚型……つまり博士のサーヴァントと同じタイプとなっていて、機動力の方を重視しているようだ。

 今、独自のものを開発中だとか。

 持っている武装は……博士も唸った巨大なライフルとナタの様な分厚い短剣だった。

 ライフルの方は当然のようにレールガン仕様となっているし、短剣の方はといえば赤い刃が特徴的な物だ。

 リリアンの持つ片刃剣と同じく魔力を通じることで白熱する物で、適当な金属程度ならばあっという間に蒸発させながら切ってしまう。

 下手に近接戦闘も出来なければ、遠距離から中距離も一撃必殺。


 絶対戦いたくない!


 そこに立ってるだけで半端なく怖い。悪いことなんてしたらアレが襲ってくると思ったらやろうとする人もいないんじゃないんだろうかと思えるくらいだ。


 ゲートの横を抜けて入っていくと、もう街が出来ている。

 人もそこに住んでいるし、お店も建っている。

 この浮遊都市へと来るためには輸送飛空艇に乗るか、自分で飛ぶかしか方法はないけど……それでも結構な人数がここを訪れるために来ているみたいだ。


 アラクネごと飛空艇を使って来た僕は、そのままアラクネに乗って街へ入るための入場口へと回される。


「おはようございます。ニール様ですね?紋章と入国証を確認させていただきます」

「はい、これ」

「……ニール・ドレイク様、確認が取れました。どうぞお入り下さい」

「ありがと」


 入国証はギルド証みたいなやつだけど、もっとセキュリティーがきついらしい。

 登録した人は魔力と指紋、顔を登録されてどれかが違っていれば別室行きとなる。

 この仕組みを作るためにお互いの世界の技術者が集まって、サイラス博士の元で照会システムを新しく開発したそうだ。

 国交が遅れているのはだいたいコレのせいだったりする。


 薄いカードにしか見えないけど、この中には僕の預けたお金や本名と身分、住所、種族など含めて個人情報の塊だ。

 買い物する時にはこのカードを使って、どこの国とでも買い物できるような仕組みになっている。

 ある意味共通通貨がこういった目に見えない物になっているのは不思議な感じだけど……ものすごく便利だった。

 その代わりカードが見つからないと物凄く焦る。


 中心部を過ぎて、ギアズを見つけた場所へと向かう。

 心臓部とも言えるその場所は……以前のような遺跡という雰囲気はもう全く無い。

 綺麗に整備され、中のシステムも全て最新のものが使われている。


「ギアズ、準備はどう?」

『おお、ニール殿。全て問題ない、またこの浮遊都市が復活する時をずっと待っていた……。ついに飛行が可能となる。抜かりはない』

「なら安心だね。……試験開始までまだ時間があるか」

『オルズテア王もそろそろこちらへ来るだろう。来るまで絶対に動かさないでくれと言われていたからな……』

「まあ、言いそうだね」


 今日、僕がここに来たのはこのためだ。

 浮遊都市を改良して、また以前のように……いや以前以上に高性能なものへと変えた。

 とてもゆっくりとした速度ではあるけれども、大空を飛び回ることが出来る。

 前と同じように指定したルートを巡回することも可能だ。


 基本的には僕達の大陸の外周をずっとグルグル回るコースを取る事になる。

 毎日景色が変わり、そこに行くまでの所要時間も変わるけど……この浮遊都市はもともとそういう場所だったのだ。

 リリアンもそれが気に入ったようで、綺麗に直して巡回させたいと言って張り切っていたし。


「やぁお待たせ。まだ動いてないよね?」

「陛下……また一人で?」

「ニールもじゃない。ボクは良いんだよ、自分の国を回る時は大抵一人でフラフラしてるから」


 王様がその辺ふらついてたらダメだろう。


「さあ!浮遊都市の巡回飛行試験だ!ギアズ、初めてよ」

『では試験飛行を開始する』


 照明が落ちて部屋が暗くなると、壁が全て外の景色を映し出す。

 その他にも、小さな画面で常に街の様子なんかも見れるようになっているけど。

 ギアズが操作すると軽い振動と共にゆっくりと浮遊都市が動き出した。

 今回は山岳地帯をぐるっとまわってくるだけだけど、そこには今テンペスト達も飛んでいることだろう。


「おおーじわじわ動いてるね」

『魔力の供給は安定、魔晶石も問題なし。自動航行システムも問題なし、順調だ……』

「速度が安定するのはどれ位?」

『後、10分ほどかと』

「やっぱり重いからね……リンドブルムよりでかいしこれ」


 ゆっくりと加速を続けて速度が安定したら、後は自動航行システム次第だ。設定が間違っていなければまたこの位置にピッタリと戻るだろう。


 そうしてしばらく歓談していると、アラームが鳴った。


『む?何かが近づいて……これは、早いぞ!』

「あっ。それ多分テンペストとコリーだ」

「ん、あそこに見えるね。マギア・ワイバーン改修したんだ?」

「コリーってばまた無茶なことを……。ええ、また人が乗れるように魔晶石の位置をずらして、色々とまた仕様が変わりました。もう前みたいな加速に耐えずに済むようになったのはそちらからの魔石のおかげです」

「便利でしょ、あれ。ボクの方もレビテーションの魔石を作り出すことが出来たから、スムーズな移動が可能になったしね。お互い様さ」


 無用な警戒をされないようにだろうけど、マギア・ワイバーンは浮遊都市の下に潜り込み、外部の監視用オクロの取り付けられた所に近づいて曲芸飛行していた。

 なんでアレでぶつからないのか分からない。

 コリーも腕を上げているってことなんだろうな。


『む……通信だ。こちら浮遊都市コントロール、ギアズだ』

『こちらマギア・ワイバーン、テンペスト。ギアズ、そちらにニールはいますか?』

『ああ、居るぞ。どうしたのだ?』

『アディからお告げがありました。今そちらの発着場へ停めるので来てください』


 僕は急いで発着場へ向かう。

 マギア・ワイバーンに取り付けられた乗員輸送用ポッドに乗り込み、すぐに飛び立った。


「……僕もってことは、もしかして来たの?」

『恐らくは』

『元ミレスの土地の辺りかもしれん、世界の理から外れた者ってのは、博士やテンペストが来た時の言葉だ。恐らくまた、誰かがそこにいる』

「あの辺は今、野盗が居る危険なところだよ、早く助けてやらないと」

『だから急ぐんだよ』


 あっという間に高度を上げ、速度を更に上げていく。

 轟音を響かせマギア・ワイバーンが飛ぶ。


『不自然な反応があります』

『これは……周りのやつはなんだ?』

『魔物と思われます。一つだけ確実に人の反応がありますが、弱々しいです』

「後どれ位!?魔物に襲われたらもう……!」

『安心しろ、もう着いた』

『ターゲットロック、全武装開放します』


 次々と乾いた大地に血の花が咲き、大穴が開く。

 ほぼ直角に近い形で急降下した機体を一気に引き上げ、全力で上昇の操作をさせながら機速を落として人影の近くへとゆっくりとマギア・ワイバーンをおろす。


「おーい!大丈夫!?」

「…………!……?」


 言葉がわからない。

 僕の後ろからコリーに背負われてテンペストも来た。


 女の子のようだ。こげ茶色の髪の毛に……三角の耳。獣人?

 見た目は何か作業着のようなものを着ているが、あちこち破れて血が滲んていた。

 すぐに身体を綺麗にするために清浄の魔法を掛けて汚れを落とし、傷を塞いでやる。


 テンペストが頭に手を載せて……例のきっつい言語学習をぶち込み、突然のショックに気絶してしまった。


「ちょっ……テンペストいきなりは酷いじゃないか……。って、あっ……」

「言葉が通じないことにはどうしようもありませんから。ニール、彼女のことはよろしくお願いします」

「そ、そうだな。テンペストで慣れてんだろ。頑張れ!」

「え。えええ?」


 この子の事は僕に任せて、2人はさっさと戻っていく。

 一旦カストラへ連れて行ってきちんとした検査をする為に戻るのは分かるけど……。


 股のところにじんわりとシミが広がっていくのを見ながら、ため息をつく。

 僕が、処理しろと。

 別にテンペストで慣れてるのは確かだけど。

 この子はテンペストじゃないわけで。

 僕は男なわけで。


 おぶって輸送ポッドに寝かせてやってズボンをおろす。

 ぐっだぐだに濡れたズボンと下着を脱がせて、水を出しつつタオルで綺麗にしてやっていると目が覚めたようだ。


「あ、目が覚めたんだね。ちょっとまって、今は……」

「頭が……、あなたは……?」


 起き上がり、タオルを手にして太ももを拭いている僕を見て、自分の姿を確認し……。


「い、いやあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「こ、これはちがっ……!!」


 パァン、という大きな破裂音がポッド内に響き渡ったのだった。


 そんな状況を監視しつつテンペストは笑う。

 以前とは違いこうして感情を持ち変化した自分、以前と同じように機械として空を飛ぶ自分。

 2つの状態を行き来しながらこれからもずっとニールと共に歩む。


 テンペストにはやりたいこと、そしてやらなければいけないことが増えた。

 この生活を守るためにこれからも力を尽くしていくだろう。

 AIであった頃には考えつくこともなかった人生の伴侶を得て、自分がこれからどのようにまた変化していくのかが楽しみだった。


 元AIの少女は、これからも人として生き続ける。

最終話です。

なんとか完結まで書き切りました。


ラストは最後までどうしようか迷ったけど、ニールにはいつも通りに犠牲になってもらいました。

頑張れニール。

こちらでは鉄の竜騎士の物語は終わりますが、裏の方ではもうちょっとだけ彼らの事が見れると思います。


表の方ではまた何か書きたいなと思っていますが……まずは放ったらかしになっていた指摘箇所の修正から初めたいと思います……。

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