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第百八十話 戦闘記録 

お待たせしました、更新再開です。

ちょっと遅くなってしまいました……。

 夕食を終え、少年王リリアンの導きによってとある部屋へと移動した。


「……ここは……?」

「リンドブルムの操縦室兼総指揮所だよ。テンペストの映像は全方位を記録しているんでしょ?それならここだと皆で見ることが出来るんだよ。こんな風にね」


 そう言って席に座っている一人に合図すると……窓が全て閉じられ、部屋が暗くなり……天井から床までが全てモニタとなる。

 そこに映し出されているのはこのリンドブルムの外の情報全てだ。

 飛行中であるため周りは海と空しか見えていないが、雲の動きからして相当な速さで動いている。


「なるほど、私のデータをこれに流せばいいわけですね?」

「そういうこと。映像を取り出して移すって事は今出来ないだろうから、これを握って直接送り込んでくれればいいよ。テンペストなら簡単に表示できるでしょ?」

「分かりました。……では、記録映像を再生します」


 □□□□□□


 ……最後の異空間の扉を越え、テンペストはこのリリアン達の居る世界へと到達した。

 飛び出した先は島。

 海に浮かぶあまり大きくはないその島の中心に、とてつもなく深い縦穴が存在している。

 先程、テンペストが飛び出してきた場所だ。


 すぐに周囲の状況を確認すると……アシュメダイを示すマーカーの他に、何故か物凄く見知ったマーカーが表示されていることに気づいた。


「ここで、私はアシュメダイが居る事と共に、以前来たことのある世界であることを確信しました」

「ああそうか、僕達が抜けてきたあの森の中の場所だね」

「ええ。あの風穴から通じていた場所が、まさかこんなにも遠回りをしてつながっているとは私も予測していませんでしたが……。お陰で確実に帰ることが出来るということは分かったわけです」


 しかし、テンペストは帰ることはなかった。

 この世界には人が住んでいるのを確認している。それも、自分たちと同じような技術を持った人達が居るのだ。

 彼らが滅ぼされてしまう事は見過ごせなかったし、こうしてテンペストが元の世界と繋がれる事にアシュメダイが気づけばそこからまた侵攻が始まってもおかしくない。

 あの邪竜はここで滅ぼさねばならないのだ。


 消費されて無くなっていた弾薬を、自分の倉庫から補充する。

 今まで接続できなかったその倉庫にアクセスできた時、とてもほっとしたことを覚えている。

 そして弾薬が無くなったらば、自分がまだ無事であることを伝えることにもなる。

 レールガンポッドもまだ在庫があったので呼び出して融合した。


「え、待って、融合って」

「力が解放された際に機体の魔力筋を使って腕を作り出すことが出来るようになりました。不定形の肉体を得た様なものと考えて構いません。装甲に関しても同じ素材を取り込むことが出来れば、それを修復に当てることが可能だったので、それを溶接代わりに使ったと言うまでです」

「なにそれ強い」


 ニールが考えることを放棄した。

 しかしやれるのだから仕方ない、とりあえずこの件は終了として先を進める。


 周囲には破損した船などの残骸が残されており、何かしらの戦いの跡が見て取れる。

 すでに大分時間が経っているようだ。

 拡大して見てみれば、鋭い何かで一刀両断されたかのような切り口がある。

 明らかにあの黒いブレスの痕だ。レーザーではこの様な切り口には成り得ない。


「彼らは……ボクの国の兵達だったんだ。アスモデウス……君たちで言うアシュメダイが現れた際、一番近くにいたのが彼らだったんだけど、結果は見ての通りだよ。ボク達にはあの黒いブレスに対抗する術は無い。全ての防御を無効化して……原子レベルで崩壊をもたらす最悪の力だよ」

「アシュメダイの呼称を邪竜に統一しましょう。短いですし、分かりやすいです。……先ほどリリアンが話をした通り、後で分かることですがあの黒いブレスは物質そのものを消失させると言うよりは分解する物です。どのような装甲であっても対抗する事はできず、それはミスリルやオリハルコンでも同じことです」


 乗っていた人員は少ないとは言え、それでもかなりの損失が出ているのは見ただけでも分かる。

 邪竜によって対抗することも出来ずに散っていった人たち。

 その映像も残っていて、見せてもらったけども……。

 皆で協力して突破した時よりも多くの魔物たちの一団が、突然湧き出てきて……次々と黒いブレスを放って碌な反撃すら出来ずに次々と沈められていた。


「これはテンペストが来る前の話だよ。この後、邪竜はオルズテアのあるミール大陸の最北端……高山と雪に閉ざされた場所へと向かったんだ」


 リリアンがそう言って話を補足してくれる。

 邪竜は最北端の地へと到達した後に神竜と呼ばれている、人類が誕生する以前から生息している龍を見つけて寝返らせようとしたという。


「それって……操ろうとしたって言う事?」

「そのようだね。というよりも、洗脳しなければ邪竜に味方する神竜なんて居ないんだ。この世界から追放されるようなことをしでかしたんだから当然だね。でも、これは半分は成功して半分は失敗した。本来味方にしたかったのは……邪竜がここにほんの少し前に、ボク達が討滅したアスピドケロンと呼ばれる魔物だったんだよ。確かに、あれが洗脳されて計算高く動いていたとしたら……正直ボク達だけで勝てたかは結構怪しい位だからね」


 アスピドケロンと呼ばれるそれは、文字通り山ほどもある巨大な亀の魔物で、重力を操り、射程距離と被害範囲が物凄いブレスを吐くという手のつけられないような魔物だったらしい。

 国の一部が汚染されて今復興作業中と言っているほどだ。


 しかしその魔物はその場所には居らず、代わりに神竜である地殻龍が眠っている隙に洗脳した。

 こちらはこちらで強大な力を持ち、一度地上に現れてその力を振るえば地上は瓦礫の山が出来上がるだろうと言われていたそうだ。


 そして、もう一匹の神竜……焦龍。

 彼が犠牲となった。


 画面が切り替わり、テンペストが周囲の生命反応を感知している画面が映し出される。

 機体の下に見えているのは破壊の痕。

 大量の命が次々と消えていく。

 光点でしか見えていないけど……これは戦闘だ。

 それを見て目を細めながらリリアンが言う。


「……ボク達は戦力を集めて進軍したんだ。もちろん、このリンドブルムとかも含めてね。今消えているのは……向こうの方だよ。ボク達だって馬鹿じゃない。あの映像を解析して、しっかりと対策は立てていったからね」


 眼下に広がる破壊の痕跡は、そこにあった国が以前アスピドケロンによって汚染された場所で、そこに居た人達が攻撃を受けたらしい。

 軍隊はすでに壊滅状態……と言うよりは、アスピドケロンの攻撃や国内の反乱等によって国としての体を保てなくなっているその国は為す術無く蹂躙されていったという。


 この国の復興を担当していたのがリリアン率いるオルズテア王国というわけだった。

 当然、死んでいったのは一般人達。それも避難していた弱い人たちが犠牲になった。

 守るための人たちもなく、反撃の武器すら持たないままに一方的に。


 これ以上の被害を出さないためにもオルズテアは各国に通達。

 すぐに戦力を集めて対策を考えることにしたのだ。


「遠距離からの長距離砲撃、高高度からの質量攻撃、魔法による長距離攻撃……更に転移によってその場に直接爆弾を送り込む等、様々な手法で敵の数を減らすことに成功したようです」

「正直、このまま押し切れるかなって期待してたんだけどね。向こうもこちらに焦龍を差し向けていたらしいんだ」


 画面が切り替わる。


 レーダーには突然、テンペストに向かって突っ込んでくる光点が表示され、テンペストがそれに対して警告を発していた。

 光点が赤に変わり、敵として認識されたそれは……ものすごい速度で近づいてきている。


 その方角に向かってズームした視界に、赤黒い飛竜のシルエットが見え、その詳細が明らかになっていくのには大して時間はかからなかった。


『ーーーーーー!!!!』


 まだかなり離れているというのに、テンペストを認識し、怒りの咆哮を上げたその飛竜はテンペストに大してブレスを放つ。


『緊急回避。攻撃を確認、迎撃に移ります』


 淡々とテンペストがアナウンスする。

 一瞬黄金の光が視界を覆い、通常ではあり得ないような機動で飛竜に相対するテンペスト。

 もう一度吐き出されたブレスもすでに発射準備段階で攻撃範囲を予想され、あっさりと交わし……。


『25mm、発射』


 その声と共に正面から突っ込んでくる飛竜に対し、ガトリング砲の斉射が突き刺さる。


「今、テンペストと戦っているのが炎を司る神竜、焦龍だったんだ。すでに敵の手に落ちて洗脳されてしまった彼はボクに対して向かっている最中だったみたい。だけど、その行く先にテンペストが居た。というよりも途中でテンペストに気がついて脅威だと判断したのかな?」

「今となってはわかりませんが」


 ニールが今までに見たこともないような威力の弾丸。

 とてつもない速度で撃ち出されたそれは、神竜と呼ばれた強力な飛竜の鱗に弾かれこそしたが……徐々にその鱗を剥ぎ取っていき、空中に破片が飛び散っていくのが見えた。

 即座に射線から逃れようと身体を捻った焦龍だったが、逆にその行為が自分の命を縮める結果となる。

 腹をテンペストに見せてしまったのだ。


 鱗の薄い腹を見せたそのすきをテンペストが見逃すわけもない。

 更に砲弾を撃ち込み肉を削ぎ、ぼろぼろになって身を捩る焦龍。


『レールガン射出用意……発射』


 そんな予想外の強力な攻撃によって為す術無く逃げようとするも、テンペストから放たれた瞬速の攻撃は首元に突き刺さり……その衝撃によって首を落とされ、彼は命を落とすこととなった。


「……リリアン達の友人であるということがわかっていれば、あそこまではしなかったのですが」

「いや、良いんだ。火力だけ見れば焦龍は一番強いからね。そのまま味方に対してあの力が振るわれた場合、ボク達だけじゃ太刀打ちできないから。あのブレスを避けるとか流石に無理」

「まあ、テンペストだからね……黒いブレスも避けてたし」

「ああ、確かにそうだったね。あれは……なんというか本当に凄かったよ。ボクも流石にレーザーみたいな即着の攻撃だけは見切ったり出来ないからさ。とても助かった」


 なんとなく、ニールの中にもやもやとした感情が芽生える。

 テンペストとリリアン、二人しか知らない事が有るのが凄く妬ましい。

 二人だけが知っていて、ニールは知らないという事がもどかしい。


 リリアンはインキュバスという魔物であって、それでいて人と一緒に暮らすことを選んだ。

 それも元々はテンペストと同じ所の出身なのだ。

 でもその世界をニールは知らない。


 その後も二人の解説を聞きながら、記録映像を見ていく。

 途中でこのリンドブルムという飛空艇に着陸し、リリアンに出会ったときの映像もあった。

 リリアンが画面に出る度に、取られてしまうんじゃないかなんていう思いが湧き上がる。


 インキュバス。女性を惑わし、淫魔の種を植え付ける魔物。

 テンペストが知らず知らずにその手の内に……とか……。


「……ニール、だっけ?」

「え?は、はい。そうですけど」


 そんな事を考えていたら、リリアンがニールに話しかけてきた。


「すっごく嫉妬されてるけど……ボクは寝取りは趣味じゃないから安心して。大体テンペストの身体を持ってきたのは君でしょ?」

「え?な、なんで!?」

「……途中から声が漏れてたよ。まあ、分かるけどね。テンペストって本当に美少女だし、それでいて一途だもん」


 ……バレてた。

 というか、声出ていたのか!?

 ということはつまりテンペストにも……。


「大丈夫です、ニール。私の身体はあなたのものですので。いくらリリアンの頼みであっても、そこは譲りません」

「う、うん。ごめん、テンペスト」

「ボクは確かにインキュバスなんだけどさ、この身体を認識する前は人間だったんだ。っていうかボクのこの意識自体が本物なのかどうか凄く怪しいけど……色んな人の人生をボクは知っている。その中でも特に大きな割合を占めていたのが三角翔太っていう男の子の意識。だからボクの人格もその子の物がベースになってるみたいなんだよね。だからまあ、実質人間?って言う感じなの」


 転生に近い、と言っていたはずだ。

 だからこそ魔物でありながら、人としての感情を持っている。

 そしてその性格はとても優しく……穏やかだ。

 少なくともここまでリリアンの事を見ていてニールはそう思った。


「まあそんな感じだからはっきり言ってインキュバスとしては半人前でね……色々あったんだよ。まあそんな感じでボクは今は自分の娼館も持ってるし、可愛いお嫁さんも居るからね。人のを奪ってとかしなくても問題ないし、こういうのは相手の気持ちが一番大事だよ。こんなに好かれてるんだから大事にしなきゃダメだよ?」

「うん。もちろん大事にするよ!テンペストはボクのだ」


 誰にも渡すもんか。


 ……とか思ってたらヴァルトルがものすごく優しい顔をしてこちらを見ていた。

 居るのを……忘れてた……。


 そんなハプニングがあったものの、僕達がここに来るまでにどういうことがあったのかは把握できた。

 そしていよいよ邪竜との対決が始まる。


「邪竜との戦いはボク達の方が先だったんだ。その最中にテンペストがリンドブルムに突然現れて何か言っていたんだけど……その時に聞こえたのがボクの知っている言葉だったんだよね。だからこの機体に乗ってるのはあの時ルシオの村に来たっていう子だろうってわかった。結果的にボクが出ていって正解だったね」

「お陰で意思疎通が早かった上に、この世界の言語データを手に入れることが出来ました。世界共通の言語であるということだったので、どこに行っても通じます」

「え、他の国でも関係なく?僕達の居たところは大陸が変わると言葉が違ってて結構苦労したんだけど……」

「テンペストとかボクが居た地球は、大陸どころか国境越えたら言葉が変わるとかザラだったよ。こっち来てから楽で仕方ないよホント。言葉覚えるのは結構苦労したけど……」


 それはそれで大変な世界だ。


 映像はリリアン側からのものからだ。

 リリアンはリンドブルムから総指揮を取っていた。

 他にも飛空艇は何機かあって、それらで多数の兵士を一気に敵地に送り込むという戦法を取り、迅速に展開していく。


 邪竜側はいくら知能があっても所詮は魔物だ。

 そして……このリリアン達の世界に居る獣人や魔人と言った種族は想像を超えて強い。

 人族は武器を。獣人や魔人、そしてドワーフなどは己の力を。エルフや妖精族は魔法を。

 突然現れて、多方向に侵攻していくリリアン達の軍。


 強さも凄かったが、数も相当なものだった。


 空にはテンペストのワイバーンのような機体がいくつも飛び交い、更に大きな機体は強力な砲撃を上空から放つ。

 魔導戦車も多数あった。

 どれをとってもハイランドの規模を大きく超えている。


 その攻撃が全て敵に向かい、瞬く間に殲滅していった。


 だけど。


 突然青いような、黒いような球体が出現してまばゆい光を放った後……。

 そこには球体の形通りに綺麗にえぐられた大地が残っていた。


「これが、私達が破壊しようとしていた爆弾の威力です。邪竜はその範囲を限定し、惑星自体にあまり影響しないようにしながら爆破させました」

「そんな……じゃあ……あそこに居た人たちは……」

「……うん。皆、死んじゃったんだ。この攻撃はこの後3回ほどあって、部隊を展開するのは危険と判断して全員を撤退させた。でも戻ってこれたのは最初の3分の1だけだったんだ。ボクの優秀な部下も巻き込まれて死んでしまったんだ。黒いブレスを吐く奴らだけを警戒していたボクのミスだ」

「もう少し早く私が到着していれば、ここまでの被害を出さなくても済んだかもしれないのですが……」

「それは仕方ないよ。責めるつもりはないし、そんなことをしても意味がない」


 大勢の戦士たちが一瞬で消えた。

 本来の規模はこの世界がまるごと消えてしまうほどというその爆弾の威力と、それを作り出して攻撃に使った邪竜に今更ながら恐怖する。

 限定的、と言っていたけれども……邪竜が本気で部隊を壊滅させようとしたらもっと大きな範囲に出来たはずだ。


「恐らく、自分が制御できる限界だったと考えられます。極めて短時間ではありますが放出されるエネルギーは極大。それを結界を使って範囲に制限をかけるとなると相当な負荷が掛かるでしょう」

「へえ……でも……かなりの広範囲だよね……これじゃ近づけない」

「うん。このせいで大々的に部隊を展開して行くことは不可能になったんだ」


 部隊を送り込むために飛空艇を使えば、飛空艇ごと消滅する危険がある。

 そして、大々的に人を送り込むことが出来ないとなれば、遠距離からの砲撃で牽制する以外に方法はなかった。


 一応、それでもある程度の効果はあったようで、進軍されることもなく、邪竜はその場にくぎ付けにすることには成功した。


 そこで取られた対策としては、目立たないようにこっそりと近づき撃破すること。

 もう一つは、小回りの効く少数精鋭で事に当たって撃破すること。

 上空からの砲撃に関しても、強力な砲撃が可能な飛空艇はあの攻撃を食らった場合の損失が大きすぎる。

 中に一国の王が居るのだから下手なことは出来ない。

 なにせあの爆発を引き起こす物はあの時点で何かと言うのは分かっていなかったのだ。

 魔法なのか、爆弾なのか、その攻撃方法は何なのか、自爆なのか……。

 空中での迎撃に利用されたら、予兆を見逃した場合確実に消滅する。

 それだけは避けなければならなかった。


 そうやって攻めあぐねている間に数日が経ち、ミール大陸にある各国の避難はだいたい終わった。

 なるべく沿岸側の方へと避難する様にと通達を出したわけだが、これは中央部分が一番被害が大きくなりそうだと判断したからだ。


「戦線が膠着してしばらくして、ボクの乗っていたこの船……リンドブルムに向かって高速で接近してくる何かを捉えた。速さも、魔力量も異様な何か。正直回り込まれてたかと思ったんだけどね。で、すぐに多くの機体から高速でこちらに接近する『ガルーダらしき機影』に関しての報告が入ってきたんだ」


 ガルーダらしき機影。それはつまり飛竜などの生物ではないということだ。

 しかもガルーダの追跡を完全に振り切る程の速度を出せる。

 そして……その少し後に、ついにリンドブルムにその機体が舞い降りたのだった。


「正直凄く驚いたけど、それ以上に嬉しかったんだよ。マギア・ワイバーンのその姿はこの世界の人達が考えつくようなものじゃない。ボク達からすれば、その形はゲームの世界から抜け出てきた物だったからね。空想でしかあり得ないような機能を持った機体、造形。興奮しないほうがおかしいよ」

「……ゲームの世界……って?」


 ゲームと言われても、ニール達の知っているゲームはボードゲームや、身体を使ったものくらいだ。

 その世界から抜け出してきたような……と言われてもちょっとピンとこない。

 どちらかと言えば仮想の国を元にしたものではなく、現実のシミュレーションなどのほうがしっくり来るゲームだが……。どうもそれとは違うようだ。


「あ、ごめん。わからないよね……ええっと、テンペストの居た時代でもテレビゲームとかあった?」

「はい。パイロットのコンラッドがよく好んで居ました。RPGなどは分かりませんが、シミュレーションならば戦闘シミュレーターを使えます」

「今できるんだ?じゃあ少しでいいやちょっと再現してみてもらえるかな。コントローラーは……無いから魔力操作で、第三者視点で機体を色々と変えてとか」


 テンペストがリリアンに色々と設定を教えてもらいながら、そのゲームとやらを画面に出す。

 そこには見たこともない景色が広がっていて、マギア・ワイバーンになる前の姿のテンペストが居た。


「ニール、私の手を握ってください」

「え?うん……こう?」

「はい。それでは、そのまま画面を見ながら機体を好きなように動かしてもらえますか?どう動かしたいかを考えるだけで構いません。なれてきたら標的を配置するので、攻撃して撃破してください」

「えーっと……」


(上昇!)と念じて見れば自分の思った通りの動き方で上昇を開始していく。

 ……が、なんか警告みたいなのがでて突然落ち始めた。


「エンジンストール。再始動して加速してください」

「えっえっ……ど、どうやって……あああ動かせない!?」


 みるみるうちに地面が迫って……。墜落し、大爆発を引き起こした。

 でも、何度かやって操作に慣れてくると凄く面白い。敵を落とせるようになったときなんかちょっと興奮した。

 ……この感じをコリーはいつも体験してるんだな。ちょっとうらやましい。


「……ま、それくらいでいいでしょ。こんな感じで敵を落として点数化して、そのスコアを稼ぐ……とか、それにプラスして報酬を得て別な機体をアンロックして……みたいな感じで次々と新しいミッションへと進んでいく。これ以外にもいろいろなゲームがあるんだけどね、現実ではありえないようなものだって、ゲームならば再現できるんだ。マギア・ワイバーンはまさにそれだよ!」


 もうちょっとこのゲーム、やっていたかったけどよく考えたらそういうことをしている時じゃなかった。

 とりあえずなんとなくわかった。

 リリアンやテンペストの世界では、こうやって一般人がいろんなことを画面上で楽しめる娯楽があるのだ。その画面の中の世界ではどのようなことだって可能。ゲームを作り出す人の発送次第でどんなことでも。

 マギア・ワイバーンは魔法のあるこの世界でしか実現は難しいものだったという。

 テンペスト達の世界で、実現不可能なことを、僕達の世界では可能としていた。

 想像の域を出なかったものが実現したら……確かにそう感じるだろう。


「まあ、そういう事でボクが直接テンペストの所まで行ったんだ。テンペストが以前残していった紙を見せながらね」

「たどたどしい物ではありましたが、英語で話しかけられたので同郷のものと判断しました。意思疎通をするためにリリアンの知っている言語を選択し、私はこちらの世界の言語を学び……リリアンは私達の世界の言語を頭に入れたのです」

「死ぬほど頭痛くて騙されたかと思ったよあれ……。でもまあ、おかげで邪竜は共通の敵であってボク達の間には特に戦う理由なんて無かったというのが分かり合えた」


 そこでリリアンはテンペストの話を聞き、邪竜に対する対策などを進めていったという。

 謎の兵器の正体を知って確実に、二度と使えないようにしなければいつかまた、同じような考えをした奴が使うかもしれないと考えた。

 そして邪竜に関しても追放してもこうしてまたいつか戻ってくる可能性があるのならば、これ以上不幸の種を増やす前にここで倒すということになり、2つの世界の力を合わせて討伐する事に決定した。


「ボク達が作り出した大型輸送機フレズベルク、そして小型高速戦闘機ガルーダ。これらをテンペストに見てもらって速度の向上を図ったんだ。そして対抗するための……邪竜を完全に消滅させるためのプランを立てた」

「リリアンはとても良く頑張っていたと思います。専門の知識があるわけでもなく、ここまで機構を再現できていたと言うのは賞賛に値します。私が手を加えたのは推進装置の効率化と、速度上昇に於ける断熱圧縮への対策です。幸いこちらでも私達とあまり変わらないどころか、もっと効率のいい素材を持っていたためそれを使うことにしました」


 更に言えば僕たちの世界では無かった、乗り物に乗っているときのGへの対策と言うものまで行われていた。

 それを使って巨大な飛空艇を浮かせたり、船に乗っていても常に一定方向へ重力を発生させて船酔いというものを無くしたりとかなり画期的な物だ。

 何よりも……テンペストの超加速に一般人でも耐えることが出来るということが一番大きい。


 つまり、セイカーに使うことで生身の人族であってもテンペスト並の速度域で戦闘行動が可能となるのだ。

 ただし、速度が早くなるので操作が難しくなるのは今まで通りだ。

 一瞬の操作ミスが命取りとなることには変わりない。


 また、ニール達が発見した浮遊都市のように一つの街を浮かせることが出来るということは、このリンドブルムを見ていても分かる。

 ただ問題なのはその魔石は貴重であると言うこと。

 重力操作による揺れや加減速の軽減目的程度であれば提供できるということだった。


「そんなわけでボク達が選択したのは……少数精鋭による一点突破。そしてテンペストの攻撃によって邪竜を消し去る……そういう方法だった。ボクを含めてたったの10人程度だけで行ったよ」


 リリアン、炎竜王ハーティア、獣王アスラ、鬼人サマイクル、ブラム。

 この5人が一番危険な任務を請け負う。

 突出して戦闘能力が高いため、彼らが一気に邪竜の近くまで入り込んで行き、邪竜を見つけて攻撃する。


 そしてルシオ、妖精王ティア、神竜エア、バルドル。

 彼らは少し離れた場所から魔法や狙撃などでリリアン達前衛の方へ攻撃が集中しないようにし、さらに危険が迫れば優先的にそれを排除する役目を負う。


 最後の一人、テンペスト。

 テンペストは全員に対して戦場の情報を送り、攻撃予測などをしてサポートすると同時に、広域を索敵しながら脅威を削っていくのが役目だ。

 そして……リリアンの合図とともに邪竜へと向かい、一度限りの攻撃を実行する。


「……一度限りの攻撃って……どういう事?」

「邪竜を確実に滅ぼすため、黒いブレスの効果を利用することにしたのです。この世から確実に消去するために……私の全魔力を使い、すれ違うと同時に結界内に邪竜を捕らえるのです」

「え、それ……」

「全速力で突入するため、結界を張ることと攻撃が展開し切る前にそのまま私だけが脱出できる、という手はずです。最終的に成功しました」

「あ、そ、そうだよね、成功してるからテンペストがこうして居るんだよね……」


 黒いブレスの再現。原子レベルで触れた箇所を分解し、消滅させる力。

 対消滅や原子崩壊などとは違う、魔力による現象。

 これをそのまま再現することは出来ないが……似たような事は科学的に出来る。

 超高温で物質をプラズマ化させる事で存在を消去するのだ。


 まさにチリひとつ残さない処理方法だった。



ここから最後まで一気に頑張りたいと思います。

その後は修正作業だ……。

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