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第百七十九話 帰還報告

 ハイランド王国、カストラ領地下滑走路にて。

 テンペストの格納庫の在庫チェックを担当していた者がそれを発見した。


「……ランスを含めた弾薬が消えた?」

「はっ!昨日のチェック時には確かにあったのですが、先程チェックした時に消えているのが分かりました」

「格納庫内の弾薬庫の鍵は?」

「厳重に掛けられたままであったのは確認しております」

「分かった。今後は3時間おきに確認をしておいて。ボクの方から報告しておくよ」


 退出する部下の見送り、ロジャーは考える。


 許可なく弾薬を盗み出す事は重罪だ。

 そしてあの格納庫を管理しているのは数人しか居ない。

 鍵は複製できるものではなく、魔法錠と物理錠が掛けられた物だ。


 担当者達を全員呼び出し、話を聞いていくが特に怪しいところはなく……。

 そもそも庫内の監視装置で内部は監視しているし、直近の動きを見ても怪しいところはない。

 盗み出されたということはちょっと考えにくいのだ。


 となれば考えられるのはテンペスト本人からのアクセス。

 行方不明でニールが落ち込んでいる時に下手な情報は流せない。

 ちゃんとした調査をしたほうが良いだろう。

 確認の間隔を短くして置いたのは間違いじゃないはずだ。


 そして……ニールが出発した後にも何度も弾薬は減った。

 ランスは全種残ったままだったが、焼夷徹甲榴弾が減る。

 それこそ何かと交戦でもしていない限りありえないレベルだ。


 が。

 更に大量消費したその日を最後に、ぴたりと弾薬の減少はなくなったのだった。

 それがテンペストが活動していないだけなのか、それとももう存在していないという証なのかは分からなかった。


 ただ、きっと何処かでテンペストは足掻いている……と、ロジャーは信じていた。


 □□□□□□


 ニール達が出発して数日がたった。もうすでに最初の目標である場所へは到達しているはずだ。

 そこで何をしているかは分からないけど、テンペストを探す旅をしているには違いない。


 ……そう、思っていた。


 その思考を吹き飛ばすかのように、突然研究所にサイレンが鳴り響く。

 侵入者警報だ。それも危険な部類の。

 サイラス不在の現在、ロジャーが研究所を守らねばならない。

 慌ただしく警備兵達が外に向かって走ってゆく。

 アナウンスではカストラのテンペストの屋敷と研究所の間にある試験コースに居るという。


 その場所が見通せる部屋へと向かい、ロジャーが目にしたものは……。


「……あれは……マギア・ワイバーン……?でも雰囲気がまるで違う」


 館内放送が突然止まり、ノイズが走る。

 何かが干渉しているのだ。


『接続完了。こちらはマギア・ワイバーン、並びに竜騎士テンペスト・ドレイク。武器を降ろし、警戒の解除を。異世界の地より帰還しました。……繰り返します』


 ここ最近、ずっと聞いていなかった声だ。

 間違いなくテンペストの声だった。

 そしてマギア・ワイバーンであると、そしてテンペストであると名乗った。

 生きていたのだ。


「……本当にテンペストなんだね?それであれば地下滑走路へ移動して欲しい」

『ロジャーですか?了解しました。とりあえず出現地点に周りの被害がない所を選んだだけで他意はありません。では1番格納庫で』

「ああ、それでいい。……今からそっちに行くよ」


 上昇を始めるマギア・ワイバーン。

 その姿は以前と比べると、多少有機的な印象を受ける。

 センサー部分が無いなど、壊れたと思われる箇所もあり、点検と修理をするにもやはり格納庫の方で整備させてほしかった。


 そして……テンペスト帰還の知らせは数時間でハイランドに知れ渡ったのだった。


 □□□□□□


『全員来たのですか?』

「おいおい……いきなりそれはねぇだろテンペスト」

「そうですよ。こちらがどれだけ心配していたか知っていますか?」

『一人で来たのか?ニールはどうした?』

『ニールとも合流しました。現在異世界の地で待ってもらっています。そのことなどについて報告などをしたいと思います』


 ロジャー、コリー、サイラス、ギアズ。近くに居たものたちは全員が駆けつけた。

 エイダとサイモンはこちらに向かっている最中だという。

 整備を担当している者たちも全員集まって整列している。


「それよりもさ、なんか言うこと有るでしょう?テンペスト」

『そうでしたね。……只今帰還しました。ご心配をおかけして申し訳ありません』

「おかえり、テンペスト。皆、帰ってくるのを待っていたよ。さて、報告となればここだと落ち着かないね。これに移ってくれる?」

『……移りました。動作確認……問題なし。これはコンラッドと同じ様なものですか』


 テンペストが移動できるのはマギア・ワイバーンの他はホワイトフェザーがあったが……あれは今埋もれたままだ。

 しかしどちらもサイズが大きすぎるため、建物の捜索などには向かない。

 その為にと作ったのがギアズやコンラッドの身体を作った時の事を参考にした人型のボディーだ。

 テンペストのサイズに合わせて子供の大きさに作ったために、バランスなどが難しく、今のところ外装は正式なものではないが……。


『なかなか動きやすいと思います。では行きましょう』

「……なんというか、お前本当に何も変わってねぇな。安心したわ」

『どういう意味ですか?コリー。私は随分と変わったと思いますが……そのあたりの説明もしますが』

「椅子に座ってゆっくりと聞こうじゃないか。色々とな」


 いつも通りに軽口を言ってくれるコリー。

 態度を変えずに接してくれているのがとても嬉しいく感じる。


 応接室へと通され、エイダとサイモンも合流して再開を喜んだ後、説明に移るのだった。


『まずは……私もニールも無事です。ニールは私の身体をずっと世話してくれていたようでした。とても苦労をかけてしまったと思います。皆にも、心配をかけていた事をお詫びします。……そして、コンラッドは死亡しました』


 やっぱり、という顔で皆が見ている。

 まあ、この辺は映像を残して置いたのが役立ったということだろう。

 直前までのやり取りは全て記録を残したのだから。


『空間が閉じた後、黒い飛竜アシュメダイは自分の私怨によって故郷の仲間たちを従えよう……出来ないならば滅ぼそうと考えていました。その為にあの爆弾は利用され、私はそれを餌におびき出されたものだったということです。アシュメダイは自分の作り出した魔物の記憶などは全て自分が持っているということだったので、爆弾を壊してもまた作れるということです。その為、阻止することを決めました』

「阻止する……ったって、あれ自体相当強力な飛竜だったはずだぞ?倒したのか?」

『結論から言えば、細胞も魂の一片も残らず消滅しました。倒すまでに関しては記録を取ってありますが、ここで一つ、私は正式に精霊となったことをお伝えしておきます』

「ちょっと待て。テンペスト、いきなりどういう事だ?精霊になった?エイダ様が言うとおり、精霊だったと言うだけではないのか……?」

『ある意味、最初から私は精霊だったのでしょう。しかし……私は自分でそれを否定して、皆も人として接してくれました。人工知能であった私は人間として生活し……力をつけていきましたが、それは人の領域を出るものでは無かった、ということですよ。サイモン』


 何が何だか分からないと言った表情の皆を見回し、やはりまずは精霊化……幻想種への変貌から説明しなければならないと判断したテンペストは、一から説明していくのだった。


「……それで……ワイバーンの姿とかも色々変わったってことか……。あの金色の光はなに?」

『マギア・ワイバーンは現在有人で飛ぶことは出来なくなっています。あれはそのものが一つの生命体となって、魔物の一種としてその姿となっているのです。コリーが乗るためにはまた少し改造をしなければなりませんね』

「あー……俺が乗ってた所は今どうなってるんだ?」

『魔導筋と魔導神経が張り巡らされ、魔晶石が生まれました。それがコクピットに詰まっています。元々あったシートやニューロコンピュータ等は全て吸収され、修復などに使用されました』

「なんというかもう……色々とデタラメだな。とんでもないやつの父親になってしまったものだ……」


 サイモンが何処か遠い顔をしている。

 実際元々精霊だと言われていたテンペストを養子にしていた時点で、ある程度は覚悟していたわけだが……それでも、自らの依代を作り変え行動できる精霊など聞いたことなど無いのだ。

 更に魔道具として造られたその機体を自身の身体として変化させるなど、どう考えても普通ではない。


 更にテンペストは自身が精霊であると認め、その存在意義を確定させた瞬間に自分の本来の力を引き出したらしい。

 その力は圧倒的で……しかしその力を制御する理性を持ち合わせている。


「精霊ってよりも、大精霊だな。力も、理性もある。あー……それにしても俺はどうすりゃいいんだ?マギア・ワイバーンに乗れなくなったら……」

『それに関しては以前のように人が乗れるようにするつもりです。……外装の交換などを任せたいのですが?』

「ん?いや、さっきお前自分で形を変えられるとか……」

『可能ですが……親方さん達に作ってもらったほうが確実です。魔晶石の位置は簡単に変えることが出来ますので、その空間を設計してもらえればいいと思います』

「なるほど」


 ただし、今までのような機械的な入力ではなく、コリーとマギア・ワイバーンが魔力的に繋がって操作することになるだろう。

 スロットルも、スティックも、ディスプレイも無くなり……魔導騎兵に乗っている時と同じような状態となる。

 直感的な動作ができるようになる反面、魔導騎兵とは違って動きが異なるために少々慣れが必要だろう。


 それを聞いた整備の者達は喜んでいたが。

 自分たちが信頼されていると言うのは、整備をする側からすれば嬉しいに決まっている。


『話を戻しますが。精霊化した時の力によって、そして向こうの世界の住人の力によって、アシュメダイは完全に消滅しました。彼らと私は協力を結びアシュメダイを倒した後……私は一度魔力が枯渇し、マギア・ワイバーンの機能は停止、その後ニールと彼らの協力によって私は復活し……こうして戻ることができました』

「ふむ……それで?」

『彼らはこちらの世界とあちらの世界を結ぶ技術を持っています。要するに転移のゲートを固定し、あたかもドアをくぐるかのように行き来することが出来るというものです。そのゲートの設置によって、相互に交流が出来ることを望むと』

「……なるほど……。これはかなり重要な案件だね、ボク達だけで決めていい問題じゃないよ」

「そうだな。テンペスト、彼らは信用に足ると言えるか?」

『はい。まず一つとして……向こうの世界で交渉をしたのはオルズテア国王、リリアン・ラストという人物です。彼は魔物として生まれながらも人の世界で生きることを選び、そしてたった3年ほどで全ての国の支持を受けて新しい国を貰い受けたということです。また……私やサイラスの居た世界と、彼のいた世界は同じなのです』

『同じというのは……地球というところの出身ということか?しかし魔物として生まれたとか……』

『記憶を残して転生したと。確かに向こうでは一度死に、もう一度目を覚ましたら魔物となっていたそうです。ニールとあまり変わらないように見える少年の姿をしていますが、インキュバスという特殊な種族のため色々苦労をしたようですが』


 今のところ本当に信用できるかどうかは分からないが、テンペスト達と同郷である事は大きい。

 テンペストとサイラス、そしてコンラッドはそのままの身でこちらへ転移してきたが、向こうの王であるリリアンは転生という少し違うプロセスを辿った。

 それであっても、持っている知識等は自分たちの持つものとは全く別なものだ。


 そして、異世界との交流となれば、新しい素材、新しい知識などその他にも様々なものが入ってくる可能性がある。

 幸い、文化レベルは同程度という所だと言うことで、一方的なものにはなりえないだろう。


「しかし、彼らがこちらを乗っ取ろうとするという可能性を捨てきれない。上辺では良いことを言っておいて腹の中は真逆のことを企むなどというのは、貴族や商人では普通だからな」

『当然ですね。向こうもその懸念はしていたようで、お互いに武力行使をしないという確約を結びたいということは考えていました。そこで代表者10名程をこちらへ送り、直接対話という形で話し合いをしたいと』

「なるほど。陛下には伝えておこう」


 サイモンは側付きの者にメモを取らせて眺めている。

 色々と厄介なことが増えてきてどう報告すれば良いのやらと考えを巡らせているのだろう。


「テンペスト。一つ良いですか?向こうの戦力はどのようなものですか?」

「ああ、そうだった。ボク達と比較して戦力が上だとちょっと怖いからね。博士の言うとおりだよ」

『リリアンの持つ軍は私達の持っている兵器と物は変わりませんが、威力と応用は向こうが上のようです。レールガンでキャニスター弾を飛ばすなど考えても居ませんでした』

「きゃに……何それ?」


 サイラスとロジャーの質問は最もだ。国と国との交流であっても相手を見誤ると、そのまま攻め込まれることになる可能性だってあるのだ。


 そしてキャニスター弾とは大砲用の散弾と思えば大体あっている。

 専用のケースに大量に詰め込まれた小さな散弾が、発射後にケースが分解して中身がばら撒かれる。

 ショットガンなどとは比べ物にならない威力の小さな弾が着弾点を広く襲うのだ。


 最も、向こうで使っているのはそのケースに爆薬が仕込まれており、着弾点近くになって起爆してさらに広範囲の敵にばら撒くという方法を取っているため、信管付き弾薬のほうが近いかもしれない。

 これによって数で大幅に圧倒していた敵を、寡兵で打ち破ったという。

 侵攻してくる敵に対し、わざわざラインを引いて警告文章の看板を立てた上で、敵がそれを全員通り過ぎた所で超遠距離からこれを撃ち込まれたという。

 着弾点は酷い状態だったようだ。


「……エグい……」

『更に1000m級の戦闘可能な飛空艇を所持。セイカーと同じようなガルーダと呼ばれる小型戦闘機と、大型ガンシップであるフレズベルクがあります。また、リリアンは単体で竜化が可能でその力は飛竜などとは比べ物になりません。……例えるならば博士が飛竜となったときのことを考えれば納得できるかと』

「なあ、それめちゃくちゃ強くねぇか?博士の頭を持った飛竜とか考えたくねぇんだけど」

「失敬な。しかし……脅威レベルは向こうが遥かに上ですね。正直不安になりますが」

『少なくとも、リリアンは平和主義者です。過剰とも思える装備は向こうの世界の魔物がそれほど驚異的なものであるということでも有るようなので』


 新興国家で数が少ない状態で、敵だらけの土地を治めた時……様々なものを作って実戦投入していった。

 そうでなくとも個々の力がかなり強いため、対抗するにはそれなりの力が必要だったのだ。

 しかし実際の所対話で終わらせられるなら、その方がいいと思っているのがリリアンだ。

 大抵の場合侵攻を受けて初めてその武力を行使している。


「彼がそうでも、他の人達はそうではないということも考えられるんだ。……真意を見るために判定を掛けさせてもらっても良いと言うのであれば許可が取れるんじゃないかな?」

「そうですね。エイダ様、もしその時にはお願いしてもよろしいですか?」

「え?ええ、そうね。良いわよ……。なんだか、内容が凄まじすぎて頭に入ってこないのだけど……」

「正直ボクも頭を抱えたい気分だよ。でも、文化も違うところと交流するということは、それだけお金の流れも出来るってことだ。悪いことじゃないんだよね」


 とりあえず、許可が出るのは今すぐにとは行かない。

 今までの話をよく吟味した上で王様へと上げ、そこで最後の沙汰を待つという事になるだろう。

 先程までに出たような心配事もあり、恐らく大臣達の意見は割れると予想された。

 国としての意見も、最低でもハイランドと協力した国々には話を出したほうが良いだろうし、そうなるとどれ程時間がかかるかもわからない。


「……それと、さっき端折られたけど……アシュメダイの最期は記録しているんだよね?」

『全てではありませんが、はい。データはこちらです。私は一度戻ることになりますが、説明や補足が欲しい時には連絡を』

「分かった。後はこちらでやっておこう。ニールによろしくと伝えてあげて欲しい。テンペストが居なくなったのがわかった後、かなり無理をしていたのは誰から見ても明らかだったからね」

「あー……あれは痛々しかったな。遊びに誘ってもだんまりだったし。まあ、もう直ってるんだろ?」

『昨日は眠っている間私のことを抱きしめていてくれました』


 それを聞いたコリーが妙にニヤニヤしていたが、ロジャーに脇腹を小突かれていた。

 事実を言ったまでだし特に何事もなかったので言葉以上の意味は無いのだが。

 と、そこでテンペストは聞いておきたいことを思い出した。


『それと、私の扱いに関してですが……』

「扱いも何も、王城に呼ばれることはあれど特に変わらんと思うぞ?」

「いえ。そうでもないかもしれません。テンピーが自分を精霊と認め、実際その力を奮ったとなれば神殿側が見過ごすはずがないですから……。でも信仰の対象となるかもしれませんが、精霊の医師の方が尊重される可能性も……?あれ?私も大精霊テンペスト様とお呼びしたほうが良いのでは……」

『やめてください。アディも、皆も今まで通りにで構いませんし、精霊として生活したいとは思っていません。私が言いたい事はこの体のことです』


 精霊化、つまり幻想種になったことでテンペストの肉体はこの世界の物質を使った依代そのものとなった。

 元々その性質があったがために、テンペストが降りた後に少女の体は変異したわけだが……それを任意で行うことが出来るようになる。

 人としての身体を持ちながら、その中身を好きに変えることができるのだ。


『つまり私は人族としてでも、リヴェリでも、獣人でもどの特製を持ち合わせることも可能です。基本的には人族としてと思っていましたが……。私はリヴェリとしての成人の身体を持ちたいと思っています。この姿を保ちながらニールと共に長い時を歩むにはそれが一番であると考えました』

「それはまた……」

『その場合、結婚や子作りに関しての規定がどう定義されるのか、それを聞いていただきたいと思うのですが』


 現状であれば、人族の子としての尺度ではかっているために子供として認識されている。

 大人と認められるまでは結婚は出来ず、それにはまだ数年かかる。

 しかしそろそろニールが色んな意味で限界であるということは、近くにいるテンペストが一番良く知っているのだ。


「……む……それならば、少し強引だがいい手があるかもしれないぞ」


 さっきまでずっと報告をするために頭の中で整理をしていたサイモンが口を挟んだ。


「どうせテンペストの出自は一般には明らかになっていない。耳が人族寄りのリヴェリもかなり稀だが居ることは居る。大抵は人族とリヴェリとの間の子でリヴェリの血が多い場合の特徴となるわけだが……『今までわかりにくかったが実はそうだった』と押しきれんこともない」

「んー……見た目でリヴェリは変化が少ないし、まだテンペストが皆の前に姿を見せてからそこまで大きくは変わってないか……。何よりもボク達リヴェリから見ればテンペストは大人に見える」

「ロジャー殿からも進言していただければ、少々強引では有るが納得させることは出来るのではないか?」


 サイモンが人族の女の子を養子に取ったと言うことは周知されているが、その細かい内容までは知らされていないのだ。

 異世界からの渡航者ということを知っているものはある程度居るが、精霊であると知っているものとなると限られる。

 その身体のベースが全く顔の異なる少女であることとなれば更に減る。


 表向き、親を亡くしたテンペストを保護し、そのまま養子として育てることにしたとは言ってあるので人族と言っていたが実は人族よりの見た目をしたリヴェリであった、という言い訳は出来なくもないのだ。

 その時すでに記憶を失っており、見た目から人族の子と思っていたが実際はリヴェリの大人だったと言っておけば問題ないだろう。


「……ニールが喜びそうだな」

『喜んでくれると思います。サイモン、良い解決法をありがとうございます』

「ああ、さっきから明らかになる問題ごとに比べたらこっちはまだましな方だ。こちらの認識間違いというだけだからな……。はぁ……そのオルズテア王とやらの世界のように国同士が仲良くやっているのなら本当に楽なのだが」

『まあ、仕方なかろう。儂としては巨大な飛空艇の方が気になるがな。それが作れるだけの技術を持っているのであれば浮遊都市を復元することすら可能だろう』

『……行こうと思えば、ギアズはこのまま連れて行くことも可能ではありますが……』

「テンペスト、それはちょっと待って。ボク達研究所の方でも色々とあるからギアズが行くならもう少し先にして欲しい」


 少し行く気になったギアズだったが、ロジャーに現実に引き戻され落胆する。

 とは言えギアズはある意味でいい人材だ。

 物として二箇所を自由に行き来することが可能な上、意識を持って行動できる。


『儂ならば自由に行き来し、都度情報を持ち帰ることができるぞ』

「分かってるけど!実験に協力してもらってるでしょ!途中であまり時間空けるとダメなやつなんだからせめてそれが終わってレポート書いてからにしてちょうだい!」

『む……そうだったな……』

『私よりはギアズの方が自由度が高そうですね。それでは一度戻ります。マギア・ワイバーンは持っていきますね』

「もう行っちゃうの?折角会えたのに……」

『大丈夫です、今度は必ず戻ってこれますから。アディ、正式に行き来が可能になったら向こうを案内しましょう』


 以前とは違って帰り道がある。

 戻ってきた後、また時間が出来たら皆で行くのもいいだろう。

 向こうの世界はこちらと違う文化があり、技術がある。

 そういったものを純粋に楽しむのもいいと思うのだ。


 その後テンペストはマギア・ワイバーンへ戻った後にニールの待つ世界へと帰り、部屋にはいろいろなことが一気に起きてどのように報告すべきかで頭を悩ませるサイモン達が残されるのだった。


「……とりあえずテンペストの帰還と、異世界交流に関して……か」

「じゃあボク達はテンペストの記録を見て纏めるよ。博士悪いけどしばらく徹夜だね」

「仕方ありませんね。何をやらかしてきたのか、ちゃんと見ておきましょう。報告するのは私達ですからね……」

「私は……テンピーが不完全な精霊ではなく、完全な精霊として戻ってきたと報告するべき……なのでしょうか?」

「もう、精霊であることを隠す気は無いようだし、それで良いんじゃないか?神殿が騒いでもテンペストの方が立場は上だぞ?」

『……ということは、テンペストと結婚するニールの立場は……』

「あーもうめんどくせぇな!!」


 □□□□□□


「あ。おかえり」

「只今戻りました。報告を終えてきましたが、返答までは時間がかかるそうです。その間、こちらで情報を集めておけと言うことでした」

「荒れそうだなぁ……お偉いさん方の会議」

「それは私達の判断することではないでしょう。それよりもニール、もっと大切な事があります。サイモンに聞いてきましたが、私の身体の変化に関してどう扱うかという問題に関してですが……人族寄りのリヴェリとして扱うことが可能ということでした。見た目は人族ですがリヴェリ同様長命で見た目の変化がないという条件は今のままでクリアできます」


 サイモンの示した道は、現状のままでも特に問題なく名乗ることが出来る。

 見た目に出ない事は分かりにくいということで通せる上に、テンペストに知識などが有るという点も大人のリヴェリであったということであればごまかしが効くだろう。


「なるほど、そういう手があったか……。まあ王様達は本当のことを知ってるってことになるだろうけど」

「それは問題ありません。そして恐らくその言い分は通ると思われます。……私とニールとの結婚が可能となります」

「……本当に?え、今すぐにでもってこと?」

「私はリヴェリの大人の女性である、と言うことは年齢をクリアしたことになります。法的な問題は障害になりません。当然、性交可能年齢の問題もクリアしたことになります」


 やろうと思えば今すぐにでも結婚を宣言することが出来る。

 それはニールにとっても念願の瞬間で……。


「結婚……。僕と……テンペストが……。本当に……?」

「はい。ただし、私はすでに別の存在となっているわけですが。それでもニールは私と共に居たいのですか?」

「当たり前じゃない!そりゃちょっとびっくりはしたけど、テンペストはテンペストだもん。あ、それに成長しないっていうのはちょっと正直嬉しいかも……」

「そこに関しては今の状況に感謝しています。そして私もニールと一緒に居たいです。あなたのぬくもりを感じ、そして子を産みたいと思っています。ニール、この件が終わったら……」

「待った!」

「?」


 突然話を止めたニールに少し怪訝な顔をするテンペスト。

 この流れであれば当然そうなるであろうセリフを言えなかったことで、少しばかり不安が過ぎる。


「ああ、ごめん。でもこれは僕の方から言いたかったんだ。テンペスト、改めて……僕と結婚して欲しい」

「……はい」


 真っ赤になるニール、そしてテンペストもまた、薄っすらと頬が赤くなっていた。

 それがいつもよりも更に可愛らしく見えて、ニールは思わず抱きしめる。

 テンペストもそれを受け入れ、ゆっくりとニールの匂いを嗅いでその幸せを噛み締めていた。


 □□□□□□


 暫くの間そうして喜びを噛み締めた後、食事の時間になりリリアン達含めて全員の集まる食堂へと移動した。


「ああ、戻ってたんだね」

「はい。ここでの出来事を簡潔に説明し、持ち帰ってもらいました」

「んー……それならしばらく時間かかりそうだね。その間こっちに居るならばボク達の方で客人として迎えるよ」

「ありがとうございますリリアン」


 どの道その予定だったのだ。ここは素直に従っておくべきだろう。

 何よりも豪華な部屋と食事がもれなくついてくるだけでも相当だ。

 それだけでなく装備品なども色々と見せてもらえる可能性も高い。


「テンペスト様。ところでこの世界でどのような事があったのか……教えてはもらえませんかな?」

「ええ、そうですね。食事が終わったら記録を見ながらお教えしましょう」

「ボクの方からも補足できるところがあったら言うよ」


 そうして食後に記録映像の上映会が始まるのだった。


ハイランドにもテンペストの帰還が報告されました。

が、ついでとばかりに持ち込まれた問題に頭を悩ませるのだった。

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