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第百七十五話 追跡

「ここですね」

「深さはどれくらい?」

「えーと……100m程ですか。少々時間がかかりそうですが……」

「時間なんて無いよ。やれることをやろう」


 翌日。ニール、サイラス、ギアズ、そしてサイモンの4人が崩落した洞窟の真上まで来ていた。

 目的は当然テンペストが消息を絶った原因の調査と、捜索だ。


『……まだ、本調子ではないのだろう?寝ていなくても良いのか?』

「テンペストを失って気が気ではないのはニールだけではないということさ。……私からすれば可愛い娘が行方不明なんだぞ。それに昨日一日眠っていたおかげで動けるようにはなった。問題はないよ」

『一応、ケルベロスで儂と待機となるが、良いか?』

「流石に万全の状態でないのに、彼らに付いていくつもりはないさ。大人しく待っているとしよう」


 サイモンはディノスを討ち取った時に、自分の持つ魔力すらも全て解き放ったこともあり……昨日は簡単に報告を終えた後に気絶してしまったのだった。

 その後は半日以上たっぷりと眠っていた訳だが、未だに魔力は残っておらず、こうして普通に行動するだけでも精一杯の状態となっている。


 それでも皆に付いてきたのはテンペストが戻ってくることを信じているからに他ならない。


 瓦礫の山と化している地面が突如として陥没する。

 ニールとサイラスが土魔法を使って土や岩等を押しつぶし、固めたのだ。


「では行きましょう」

「……うん」


 エレベーターのように邪魔な物を壁に押し付け固めながら一本の縦穴が出来てゆく。

 しばらくすると、突然空洞が現れた。

 ただ掘っただけだったらこの洞窟に落ちていたかもしれないが、足場を作りながら下降していく事で回避できていた。


「まだ少し原型を保っていたということですか。正直意外ですね」

「これ、崩れない?」

「一応移動する部分だけでも補強しておいたほうがいいかもしれませんね。かなり落盤して狭くなっているのでどのみちサーヴァントも呼べません」


 人が立って歩くには支障がないが、サーヴァントでは移動に難がある空間だ。

 そもそも地面が不安定過ぎて重いサーヴァントでは足が取られてしまう。


「さて……奥へ進みましょう。向こうが映像にあった空間の繋がりのはずです」


 他の世界へと繋がるゲート。

 それが映し出されていたテンペストからの映像。

 今はその時の様相とは変わっているが……座標は確実にそこを指している。


 だが。


「……通り過ぎました」

「え?なんで!?」

「入り口はこの辺にあるはずなのですが……」


 しかし眼前に広がるのは奥へと続く洞窟だ。

 そこに何かがあったと言うような様子は全く無い。


「も、もっと奥だったんじゃ……?」

「行くだけ行ってみますか?恐らく、ただの洞窟ですが……」


 座標が間違っているのではないかと食い下がるニールだったが、行けども行けども特に変わったところのない洞窟で、その奥は崩落というわけでもなく元々あったであろう岩盤が道を塞いでいた。

 行き止まりだ。


 その意味を理解したニールの表情に、サイラスがなんと声をかけて良いのか迷う。

 明らかに気を落としているニールだったが、すぐに顔を上げてサイラスに向き直った。


「……ニール」

「大丈夫だよ、博士。まあ……元々分かってたことだし……。そもそも感知に引っかからない時点でここには居ないんだ。それがわかっただけでも良いよ。……テンペストが生きている可能性のほうが高くなったってことだしね!」

「そう、ですね。今分かっているのはここにマギア・ワイバーンもテンペストもコンラッドも居ないということ。そしてそれはテンペストの生存の可能性はまだあるということでもあります。見つけましょう」

「うん。待ってて、テンペスト。絶対見つけるから!」


 手がかりは何もなく、そのまま引き返して縦穴をレビテーションで登っていく。

 ケルベロスから出てきたギアズとサイモンに首をふることで応え、そのままバハムートへと戻るのだった。


 □□□□□□


 ディノス討伐から半月程経った。

 国へ戻ってきた彼らを皆が歓迎し、異変の終結を宣言することで3カ国はお祭り騒ぎとなった。

 その一方で死亡した兵の家族達はそれどころではなく、またその数も相当数に登った事もあり……どれだけ激しい戦闘が行われたのかが明らかになっていくと、亡くなった彼らのために鎮魂の儀式を改めて合同で行おうという話が上がった。


 やはり何よりもセイカーやマギア・ワイバーンの未帰還というのが相当に堪えているようだった。

 無敵だと思われた彼らが戻ってこれなかったという事実は、現れた敵がどれだけ強大なものだったのかを想像するのにそれほど難しいことではなかった。


 また、マギア・ワイバーンの犠牲によって脅威が排除された経緯なども詳しく広められた。


 最初こそマギア・ワイバーンの帰還に希望を持っていた人たちも、日にちが経つにつれて少なくなっていき、今では絶望的という判断になった。


 ニールはカストラへと戻り、未だ意識の戻らないテンペストを預け、正式に身内になったわけではないがテンペストの仕事を引き継ぎ、今まで溜まっていた仕事を片付けたらテンペストを取り戻す旅に出るということを伝え、了承を貰う。

 サイモンからの口添えもあり、ニールはカストラの代官として一生懸命働いた。


 ある日、その館に久しぶりの客が来た。


「やあ」

「師匠!どうしてここに……」

「酷いな。帰ってきてからと言うものボク達の所に来てくれなかったのは君だけだよ、ニール」

「あ……す、すみません」


 ロジャーだった。

 ニールと同じくリヴェリの大魔導師。

 元々はロジャーの下でコリーとニールは弟子として学んでいたのだが……今では完全に独り立ちしている。

 それでも未だに彼はニールの師匠だ。


「ま、経緯は聞いているから良いよ。……ボクだってそうするだろうし。領主というのもなかなか大変でしょ?」

「とても。これをテンペストが一日で終わらせる量って聞いて凹んでます」

「そりゃぁ彼女は特別だからね。昔から書類仕事なんてのはあっという間に終わらせる能力があった。計算は得意だと言っていたしね、ボク達なんかが敵うような話じゃない」


 元々AIとして生まれたテンペストは計算に関しては得意だ。

 領地の税収などのチェックなどは片手間にやれる程なのだ。

 それをニールが真似をするというのは不可能に近い。


「研究室にも来てなかったから、ちょっと心配していたんだけど……その様子だと大丈夫そうだね。それで、近いうちに出発するって?」

「あ、はい。ようやく色々と終わりそうなので……。後は出先でも処理できるように倉庫に入れてもらうつもりです。また、ここを空けてしまうのは申し訳ないですけど」

「ボクも……というか、王様含めて皆がテンペストが帰ってくることを望んでいるんだ。誰も止めないよ。ここは国の方できちんと管理してくれるそうだ、安心していってくると良いよ。それに……これを渡しておくよ」


 そう言って手渡されたのは、幾つかの紙だ。

 描いてあるのは地図と、幾つかの円。その横にメモ書きが書いてある。

 別な紙には物語の一部のような物が。


「これって……ダンジョンケイブの場所?」

「幾つかは実在が確認されているし、探索もされている。だけど、魔物も出て来るしそれなりに危険なところだよ。一人で行くのは止めておいたほうが良い。伝承などでそれっぽい物に関してはまだ未確認だったり、探している人が居る程度で実際には見つかっていない。まあ……ボクとしてはまずは一番安全で一度行ったことがあるっていう帝国の近くにある島の風穴を調べたほうが良いと思うね」


 魔物が出るというダンジョンケイブは、他の場所へとつながっている物も確かにあるという。

 しかしニール一人で行くにはかなり厳しい。

 サイラスと違って魔導騎兵を持っていないし、扱えるのはアラクネ位だ。

 それでも大半の場所は行けるだろうが、やっぱり危険なところに行くなら仲間がほしい。

 ただそんな個人的な事情で彼らを引き回すというのも問題があるだろう。


 ロジャーの言うとおり、安全が分かっている風穴の先のほうがまだ良いのだ。

 あそこであれば魔物の強さと種類、そして街の場所なども分かっているためなんとかなる。

 それに元々そこに行ってテンペストにその世界を見せてやるつもりで居たのだ、一番最初にそこへ行くことは半ば決まっていた。


「僕も、あそこ以外だと一人では厳しいと思う。魔法も力も昔とはぜんぜん違うけど、油断は絶対できないって言うことも今までの旅を通じて知りました。それに……僕がテンペストみたいに空間を切り離されてしまったら……多分もう戻ってくることは出来ないと思うんです」

「それが普通だよ。だけどテンペストはマギア・ワイバーンとともに在る。あれはボク達や親方たち技術者集団の粋を集めた最高傑作だよ?簡単に壊れることはないし、マナがあればそれだけでどこへでも行ける。それに……彼女は自分を造られた存在、人工知能だって言っているけど……エイダ様は精霊だって断言している。それもそこらにいるような精霊とは違ってとてつもなく力を持ったものだって」


 初めてテンペストをワイバーンの機体と接触した時、エイダは激しい精霊の波動を感じたのだ。

 それは大精霊にも匹敵するもので、ワイバーンという機体……つまりは精霊の器を自分自身で操ることが出来るほどの存在だ。

 基本的に精霊は宿った器を自由に操ることはしない。

 大精霊であっても普通ならば自らが顕現する方法を取るのだ。


 そして依代となる少女を与え、テンペストはこの世界に降り立った。

 自分のことを精霊とは認めず、人の手によって造られたと言うテンペストだったが……エイダはそれでも大精霊と同等の存在であると信じている。

 神殿の者達でその事実を信じていない者などは居ないほどだ。

 この世界にこうして肉体を得て生活をしている、ということは本来ならば手の届かない存在が自分たちをより近くで見守っているのだと信じていた。


「人工知能という人の手によって造られた仮初の人格、それでも……こっちの世界に来る時に変質したのかもしれないしね。魔法が存在しない世界から来たテンペスト達は、ボク達とは全く違う理の中で存在していた。それが魔法という不可思議なものに触れて何かが変わったとしても……ボクはあまり驚かないよ。正直、魔法って本当に理解できない存在だからね」

「博士もマナの存在を見つけようとして、結局今の時点では不可能って結論出しちゃったしね。そっか、そうだとしたら……あのアシュメダイとか言う黒い飛竜にも勝てちゃうかもね」

「きっとそうだと、ボク達は信じよう。ニールもそれを信じて旅をするといい。決して気休めなんかではなく、本当に可能性のある事なんだ。そして是非ともテンペストを連れ帰って欲しい」

「わかったよ。師匠」

「……というわけで、ボクからの餞別を用意してある。いや、ボクというか皆からの……だけどね」


 そう言って庭に案内されたニールの目に飛び込んできたのは……。

 セイカーよりも小型で、寸胴な翼を持った乗り物だった。


「え、……何、これ……」

「新しく作った機体だよ。見ての通り空を飛ぶものだけど、マギア・ワイバーンやセイカーと比べて速度は出ない代わりに大きめの格納庫があるからそこに簡単な部屋を作っておいた。飛ぶ時にはレビテーションで基本的に操作するけど、加速する時には魔導エンジンも併用するよ。出力は低くしてあるから十分ニールでも操作可能なはずだ。ってことで飛ばせるように練習してもらうよ」

「え?」

「明日から業務が終わった後に下の滑走路に来るんだ。コリーが教官役を努めてくれるからしっかりと教わるといいよ」

「……えっ?」


 何もかもが突然過ぎて理解しきれない。

 そんなニールにロジャーはイタズラが成功したような顔で説明を始める。


「要するに、これを使って行きなよってこと。空を飛んでれば魔物と出会う確率は低くなるし、最低限飛竜に対抗できるだけの武器も積んでる。海を渡るにも船よりは早いし、何より……ニールがもらってる乗り物って中では生活できないものばかりだからね。4人が寝泊まりできるだけの設備を整えてあるよ」


 加えてコンパクトな機体は取り回しが良い。

 ちょっとしたくぼみにでも入れておけば周りからも見つけにくくなるだろう。

 何よりもテント等を使った野宿は危険が多い。

 エキドナ等の車内で色々できるようにしていると、寝ている最中に襲われたとしても安心なのだ。


 それに小さいことは他の船などに見つかる心配も減るということでもある。

 音速を超えないようにすれば音も静かで目立たない。

 飛竜に出会う確率も減らせるだろう。


 もちろん、レビテーションで飛ばすならば、特定座標までゆっくりと移動させることも出来る。

 これは浮遊都市の技術をそのまま流用した。


「更に……護衛も付けちゃうよ。すでに引退した人だけど、頼んだらすんなり引き受けてくれたよ」


 ロジャーが呼ぶと、機体後部が開いて老練のハンターが姿を現す。


「え……マスター!?」

「久しぶりでございますニール様」


 そこにはいつもの料理人としての姿ではなく、戦いに身を置く者の姿で『煌』のマスターであるヴァルトルが居た。

 軽鎧に一振りのシンプルな槍を持って。


「そ。この街にいる最強のハンター。テンペストの現状を教えたら、いつもは絶対に断るのに即答でニールを手伝うと言ってくれたよ」

「いつも美味そうに私の料理を食べてくれる嬢ちゃんが眠りっぱなしだと聞いたのだよ。私がここに店を出すことを決意したのも嬢ちゃんの為だ。ああ、今は領主様ではあるが……私にとっては可愛い孫のような存在だ、どこぞへと消えたというのならば探し出す手伝いをさせてもらうよ」

「で、でも……もう引退したって……」

「ふむ。確かに私はハンターを引退している。だが……店で出す肉は全て自分で獲ってきている、と言った筈だよ。足手まといにはならないさ。何よりも……目を覚ましたらお腹が空いていることだろう。私の料理を心ゆくまで楽しんでもらいたい」


 あの店で出している肉。それは討伐難易度が高い魔物の肉も含まれる。

 流石に飛竜は難しいが、それでも本人曰く時間と仕込さえしっかりやればなんとかなるだろうと言ってのける辺り、相当なものだろう。


 つまり……一人でもその辺のハンターを雇うよりも優秀な人材だ。


「じゃあ……一緒に来てくれるの?」

「そうだと言ったよ。私のような老いぼれでも役に立つこともあるものだな」

「ありがとうございます!ヴァルトルさん!」

「ま、そういう事で。顔合わせも済んだし……ニールには新型機の操作に慣れてもらってからだね。しばらく時間は掛かるけど……ヴァルトルはどうする?」

「ふむ……なにせ久しぶりだからね、武器の手入れをして置こうと思う。出来れば防具の方も幾つか手直ししたい」


 流石に普段の狩りならばまだしも、自分以外の命を預かる護衛任務となれば、武器も防具もきちんと整備しておきたい。

 もちろん、いつも手入れはしてあるのだが細かいガタツキなどもこの際全て直しておきたいのだ。


 人材は研究所に全て揃っている。なんならもっといいものを新品で渡せる位だ。

 ただ、それはヴァルトル次第だが。


 そしてニールは新しい乗り物を得てテンペストを探す旅に向けて準備を始める。

 捜索の旅に出るまで、あと少し。


 □□□□□□


『……思った以上に時間がかかりますね』


 テンペストは異世界の空を飛び続ける。

 アシュメダイの軌跡をなぞっているがなかなか辿り着けずに居た。

 すでにその場所その場所で相当な時間を食っている。


 というのも、アシュメダイが飛ぶ速度が意外と早かったというわけではなく、単純に道を寸断させられていたからだった。

 別な世界へと続くゲート、それを破壊し、不安定な状態にされていた。

 そのままでは通ることが出来ず、その度に繋がりの解析をしては元の接続へと修復するという作業を行っていたせいだ。

 いくら今のテンペストが大精霊としての力を持っていたとしても、それを修復するための時間というのはそれなりに掛かる。


 対してアシュメダイはすでにルートを知っている為、最短距離を進むだけだ。

 どんどん引き離されてゆくのを感じながらも、一つ一つ修復を完了させて確実にアシュメダイの後を追うテンペスト。


 すでに5つの世界を通過し、今、次の世界へのゲートを開こうとしているところだ。


『解析完了、修復……完了』


 完全に破壊されたゲートであればこの様に修復することは出来ないが……アシュメダイは完全に破壊することはできなかったようだ。

 お陰でこうして跡を追うことが出来る。


 空に世界と世界を繋ぐゲートが再接続された。

 青い光が正円を描き、その中央に向こう側の景色が見える。


 テンペストは躊躇なくそのゲートへと飛び込み……違和感を感じて停止した。


『……空間が閉じている……?』


 入った先は確かに目視の情報では先程までと同じようにどこまでも世界が広がる景色だ。

 しかし……テンペストの探知には有限の壁の存在を感じていた。

 これまでとは違う世界のあり方。

 箱庭の世界だった。


 今まで見たことのないタイプの世界ではあるが、ここからまた更に世界をまたいでいることは確かだ。

 むしろこの空間の狭さがありがたい。

 しかし、また不思議な現象を目にする。

 壁の向こう側を走っていた動物が、壁の存在など無かったかのようにこの空間内へと入ってきたのだ。


『これは一体……いえ、今はアシュメダイを追うことが先決。ゲートは……近い』


 また空にゲートがあるようだ。

 空と言うよりも、天井と言ったほうが良いかもしれないが。


『やはりここも壊されていますか。……解析を開始します』


 やることは変わらない。

 道が残っているのならば……通るまでだ。


 □□□□□□


 十数回程も同じことを繰り返しただろうか。

 その度に変わる世界は過酷なものもあれば、とてものどかな物もあった。


 今テンペストがこじ開けたゲートを潜り見たものは、在りし日の地球のサバンナのような景色だった。

 魔物ではない動物が群れを成し、しかし決定的に違うのはやはり魔物も存在していることだが、その生態は地球のものと似ていた。


『人工物を発見。あれは……?』


 ゲートに飛び込んでアシュメダイの残り香を追い、その近くで見つけたのは一つの集落のようなもの。

 しかし規模の割には守りは堅く、砲台なども備え付けられていた。

 一見してただの集落などではなく、かなりの技術を持った者達の前線基地のようなものではないかと推測されるそれだが、人の気配はない。

 放棄されたと言うよりは一時的に避難しているのだろうか。


 近くまで行ってみるとその建造物の作りがよく分かる。

 普通の家の作り方ではなく、やはり移動などに適したプレハブ構造となっていた。

 すでに出来上がった壁などを立ち上げて固定するだけのその構造は、迅速な陣地の設営には向いている。

 更には明らかに車などの通った跡である轍も見つけることが出来た。


 恐らくこれを作った彼らはテンペスト達と感性が近いだろう。

 もっと観察しておきたかったが……アシュメダイの気配は近い。

 これ以上離されないように、またゲートを探して加速する。


 だが、今回はゲートは見つからなかった。

 しかしアシュメダイの気配は濃厚となり、それどころか付けたマーカーすら表示されている。

 つまり……同一世界内にアシュメダイはいる。


 その気配へと近づいていくと、遠くの空に異常な箇所を見つけた。

 空……有限の空間なので天井だが、そこに巨大な穴が空いていた。

 それはゲートと物理的な穴が混ざったようなものとなっており、より強固な繋がりを形成していた。

 流石にアシュメダイもこれは破壊することができなかったようで、巨大な大穴は無傷で残っている。


 テンペストは躊躇なくその大穴へ突入し……ついにアシュメダイのやってきた世界へと追いついた。


 □□□□□□


 大穴から外へ出ると、そこは海の真っ只中だった。

 海に浮かぶ島の一つにぽっかりと開いた縦穴。

 それが先程テンペストが出てきた場所だ。


 マーカーを確認し、アシュメダイの方角を知ろうとしたとき……もう一つマーカーの反応があることに気づく。


『マーカーが2つ……?まさか、ここは……』


 テンペストが居た世界ではない。しかし、ここには一度来たことがあるということだ。

 そして、テンペストが来たことのある異世界と言えば……あの時、オーク達に襲われていた者達を助けた世界。


 立ち寄った街の文明、魔導車であるオルトロスを見ても全く驚かなかった人々。

 そして大穴の近くにあった構造物。


 ホーマ帝国に行く時に立ち寄った島にあった風穴から通じている世界であるとほぼ断言できるだろう。


『接続を確認……。戻ってこれたということですね。でも、今は……』


 テンペストの倉庫へと魔力を飛ばせば、確かによく知った反応が帰ってきた。

 つまり、今すぐにでもテンペストは帰ることが出来るだろう。

 だが……今はその一瞬でも時間が惜しい。

 すでに何日も引き離されているのだ。その間にアシュメダイが何をしているのかは分かったものではなかった。


『弾薬補充を開始。25mm弾、補充完了。予備のレールガンポッドを発見、装着完了』


 体内に弾薬が流れ込んでくる。

 それらを射出機構へと送り込み、強化する。

 レールガンポッドは予備の物が残っていたらしい。少々傷ついているが問題ない。

 転送後、空中でキャッチしてそのまま融合した。


 飛びながら微調整を開始し……洋上を加速してアシュメダイのもとへと向かう。


 □□□□□□


 名も知らぬ大陸に到達した時、その明らかに何者かの攻撃によって荒れ果てた場所を見た。

 感知に引っかかる大量の人々、魔物の光点。

 それが次々に明滅を繰り返し、数を減らしていく。


 と、凄まじい速度でテンペストの方へと向かってくる、明らかに敵対した光点。

 飛竜だ。

 アシュメダイとほぼ同等と言えるであろうその大きさ、赤と黒が混ざりあったかのような体色。

 それから感じるのは激しい怒りだった。


『ーーーーーー!!!!』


 苦し気に藻掻きながら、こちらをまっすぐ見据え……ブレスを放った。

 超高温のレーザーの様なブレスだ。

 まともに喰らえば以前のマギア・ワイバーンでは耐えきれなかったかもしれない。


 だが今は……。


『25mm、発射』


 レールガン並の速さで射出される徹甲弾。

 それらが一直線にラインを描いて相手の飛竜へと吸い込まれてゆく。

 半数ほどは弾かれたようだが、残りは全て飛竜へと突き刺さり……鱗を吹き飛ばし、大量の肉片をばら撒いていく。


 悲痛な叫び声を上げ尚も攻撃を加えようとする飛竜に向かって、テンペストはレールガンの出力を上げ撃ち込んだ。

 胴体が引き裂かれ、魔晶石が姿を現す。

 すれ違いざまに魔晶石を回収し、自身を強化していく。

 先程の彼は火竜だ。それも上位の個体の。

 本来ならば倒すのが難しいはずの個体だが、物ともせずに倒せた。


『魔晶石融合完了……精霊の力がまさかここまでとは思いませんでした。ですが、これならば……。待っていてください、ニール』


 凄まじい速度で流れてゆく景色。

 その景色に戦闘の爪痕がどんどん増えてゆく。

 この世界の戦闘機らしき者たちも居たがそれを無視して追い越してゆく。


 黒い飛竜は宣言通り、彼の故郷であるこの世界を破壊しようとしていた。

2つの世界の最強が集結。

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