第百七十三話 ニールの決意
物凄く投稿に時間が開いてしまって申し訳ありません!!
「皆さん!お告げがありました!この世界の異変は消え去ったとのことでした!……あれ?なんで皆そんなに……テンピーは何処ですか?早く教えてあげたいです!」
異変は過ぎ去ったというお告げを受けてエイダが出てきたが、やたらと暗い雰囲気の皆に戸惑った。
しかし、とりあえず早くテンペストにその報告をしたかったのだがその当人の姿がない。
一緒にいるはずのニールも居なかった。
そこで初めてエイダもテンペストが帰ってきていないこと、そしてコンラッドの死を知る。
お告げにはそんなことまで無かった。
大精霊からのお告げは大きな出来事に関しての事のみという大雑把なものだ。
そこに必要な犠牲などは何も語られない。
「あの子は……もう、戻ってこないっていうの?嘘でしょ……?うそ……」
自分のことを慕ってくれた、妹みたいな存在だった。
金色の髪と瞳が印象的なとても可愛い女の子。
精霊として存在する割に、とても人間らしい子に育っていったのを見ていた。
最初はもちろん、とても手のかかる子だったのだけども。
本来普通にできることが一切出来ず、突然水を飲み込めずにむせたり、歩こうとして歩き方が分からずに転んだり。
赤ん坊よりも物を知らないんじゃないかとさえ思ったくらいだ。
それがどんどん学習して普通の生活が出来るようになれば、今度は魔法をあっさりと習得して見せ、そのまま応用した。
すぐに色々な事を吸収して、数年分の成長を一気に駆け抜けたテンペスト。
その様子をずっと近くで見てきたのだ。
「だって、テンピーは……とってもすごい子で、いつだってどんな魔物も倒して帰ってきたじゃないですか!」
「ダンジョンケイブの奥、別な世界へと繋がる場所へ突入して……その空間の繋がりを断ち切ってしまった物と思われます」
「じ、じゃぁ!まだ生きてる……はずよね?」
「とりあえず、探します。私達もテンペストが死んだとは思っていません、コンラッドは絶望的かとは思いますが、こちらに戻ってこれなかっただけでテンペストはマギア・ワイバーンに宿っていればとりあえず生き残ることが可能です。ですからエイダ様はお告げを聞いてもらっていいでしょうか?」
「もちろんよ!片っ端から話を聞いて……いえ、なんなら大精霊に協力してもらっても!」
見つけるためなら何だってする。
それならば一刻も早くと部屋に戻ろうとするエイダをサイラスが止めた。
「ちょっと待って下さい、まずはやることがあります。異変が過ぎ去ったこと、その大精霊の言葉を皆に伝えなければなりません。今から海へと戻って艦隊と合流しますので、エイダ様は宣言を」
「え、ええ、そうね。……分かりました。神子としての勤めを果たします、取り乱して申し訳ありませんでした」
ゆっくりとバハムートが浮上する。
そもそも陸に巨大な船がある時点で相当変な景色だ。
すでに陸上に居た兵たちは全員収容したが、まだ亡くなった人達は残っている。こちらの回収の方は一度艦隊へと合流した後に改めて明日から作業を開始することになる。
もうすでに外は暗くなっており、捜索自体は出来ない。
艦隊と合流して、エイダの演説が始まった。
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自室に戻ったニールは、エイダの演説が艦内に放送されているのを聞いていた。
異変は去り、世に平和が戻ったこと。そしてそれはエフェオデルという国の脅威もほぼ消えたということでもあった。
未だに残党などは残っている物の、すでに一番の懸念材料であるディノスは死んだ。
この後、ディノスの死体からギアズが情報を引き出していくことになる。
だがそんな事は今はもうどうでもいいのだ。
テンペストが戻ってこなかったこと自体が問題だった。
死んだように眠り続けるテンペストを抱きながら、未だにテンペストが戻ってこないことが信じられない。
今にでも目を開けそうなのに、その気配はなかった。
「……何処行っちゃったんだよ、テンペスト……」
でも。
きっとテンペストは生きている。
死んだわけではないはずだ。
ただ不安はある。コンラッドやギアズのように縛られた存在であれば、自爆と言ってもいい攻撃をしたことによってそのままテンペストも消えてしまっている可能性も無いわけではない。
でもテンペストは精霊と呼ばれる存在で、精霊は魔力を糧にしているものの、魔力で存在しているわけではない……はずだ。
そもそも精霊自体がよくわからないことが多い。
テンペストがエイダから精霊であると言われているのであれば、限りなく精霊に近い存在であることは間違いない。
となれば……。
「生きてる。よね?」
少なくともマギア・ワイバーンのニューロコンピュータが元々の依代であるならば、一度ジャミングによって離れた所でまたそこに戻ってくるのかもしれない。
ニールが今できることはただこうして帰りを待つこと。
……いやそんなことはない。出来ることは有るはずだ。
「テンペストは……別な世界に閉じ込められた。あの島から通じる世界に行けるように、同じように別な世界へと通じるダンジョンケイブは有るはず……」
だったら……探せばいい。
不思議な伝説などが残っている場所を調べていけば、もしかしたら同じ場所に繋がるところがあるのかもしれない。
しかしその前に現実的な問題も有る。
テンペストが不在の今、カストラ領を納める人物が居ないのだ。
ニールはまだ婚約をしたとはいえテンペストの家族というわけではなく、正式にテンペストから経営を任されているわけではない。
どれくらいの間テンペストが戻らないのかもわからない。
その間に領地が荒れてしまったらどう思うだろうか。
戻ってきた時にニールが腐っていたらどう思うだろうか。
「……落ち込んでる場合じゃないよね、やることいっぱいあるし……。繋がっているところさえ見つけられればテンペストは戻ってこれる」
よし!と気合を入れ直してニールは立ち上がった。
今すぐには行動できないかもしれないけど、まずは色々と相談しながら進めなければならないことは沢山ある。
その上でテンペストが居るはずの何処かへ通じる場所を探すのだ。
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「コリー!」
「お、おうニール。……大丈夫か?」
格納庫でぼーっとしていたコリーを見つけて声をかけた。
よくよく考えたらコリーもテンペストという相棒と、自分が乗る機体を失っている。
あまり表面には出していないがどれなりに堪えているだろう。
今の今までそれに思い至らなかった事にちょっとばかり自己嫌悪に陥りかけた。
返答するコリーの声もどことなく力がない。
「大丈夫じゃないけど……落ち込んでばかりじゃいられないし……。明日はどういう予定になったの?」
「サイラスから聞いてたよりは元気になったか?安心したぜ。んで……明日はエフェオデルその物を制圧するんだそうだ。まあこれはホーマ帝国からの要望でも有るらしいけどな。皇帝が他の国への影響も考えて、もうこれ以上の蛮行は許さないとかなんとか。俺たちには正直もうどうでもいいところだが」
「僕たちはそれに参加するの?」
「いや、俺達はやらない。ホーマ帝国の連中だけだ」
こちらもそれなりに多大な犠牲を払ってディノスを討ち、そして異変を食い止めた。
目標自体はクリアしたのですでにホーマ帝国に力を貸す意味はない。
「俺達がやるのは戦死者を集めて弔うことと……行方不明者の捜索だ」
「ああ……」
「そう簡単に仲間を見捨てるわけ無いだろ。俺らは洞窟の跡地に行く。……当然だがコンラッドとテンペストの捜索だ」
「……どうやるのさ?」
「それに関してはサイラスがいいことを思いついてくれた。まあ、真面目に掘り起こすよりはだいぶ楽になるぞ」
砲撃目標地点としてマークした場所。
そこから少し先に行った場所に世界の繋がっていた場所があったのは分かっている。
どれだけ下に行けばいいかも分かっている。だからそこを真下に掘り進めばいい。
上に戻るのが難しくなるが、そこはレビテーションが使えるサイラスが居るのでなんとかなる。
「方角もわかってるしね。……ねえ、コリー。テンペストはどうなったと思う?」
「最悪この崩落に巻き込まれていたとしても、あの機体は潰されることはないってサイラスが言ってるくらいだぞ。滅多なことじゃテンペストの依代が壊れることはない。……あの良く分からない黒いブレスだと無理だが」
「あの大きな飛竜、何だったんだろうね。あれが魔物を生み出していた元だったら、黒いブレスも……」
「んなもん分かんねぇよ。でも、多分テンペストなら大丈夫な気がするんだよなぁ。それによ、俺達が信じてやらなくてどうするんだ?」
「そだね。まあ、僕も今後のことはちょっと考えたよ」
飛竜のことはさておき、現実的な問題に関してコリーにも話をしておいた。
あまり考えてなかったらしい。
すこし落ち着いたら時間を見つけて情報を集めながら色々と動いてみたいということを相談する。
「まあ、代理を立てておけばしばらく不在でもなんとかなる。今だってそうだし、実際前は数ヶ月領主不在なんてのもあったんだ。色々と動き回るには問題ないだろ……俺達には色々と便利なものが残ってるからな」
「うん。バハムートなら空を飛ばなくても色々と海がつながってるならばどこでも行けるし。この大陸にある不思議な伝承とか伝説とかそういうのを探していくのもいいなって」
「ダンジョンケイブを探すってことか……時間がかかりそうだな……。まあ、なんだ。俺も手伝ってやるよ。お前だけにゃ任せられねぇしな」
ともかく、2人で行動するのは確定となったようだ。
どのみち明日の捜索では恐らく見つからないだろうとは思っている。
空間ごと切り離された場所へ行くには、その空間とつながっている場所を探すしか無い。
同じ場所へと通じるものが有るかどうかなど分かるわけもないが……それでも希望は有るだろう。
そしてその世界にテンペストの身体を持っていけば、後は向こうから見つけるに違いない。
「まあ、その前に……以前に行ったあの洞窟に行きたいんだけどね。テンペストと約束したんだ。この戦いが終わったらあっちの世界を少し旅しようって」
「ああ、あのオークぶっ殺した所か。あそこは人もいるし生活とかもかなり安定しているようだしな。観光に行くってのはいいな。言葉分かんねぇけど」
「そこはまあ……向こうだって別な国の人とかだったらどうせ言葉通じないでしょ?なんとかなるんじゃないかな……多分」
「それもそうか。じゃあ眠ってるテンペストに色々見せてやろうか。自分の目で見たいなら早く戻ってこいってな」
「うん。とりあえずは領地の方をなんとかしなきゃね。僕の立場とかは結構怪しいからそこはハーヴィン候を頼らせてもらうけど」
落ち着いたら真っ先にあの場所を見に行きたい。
テンペストと旅をしたい。
それでよくなるわけじゃないのは分かっているけど、戦いは終わって異変は解決したんだって言うことを教えてやりたかった。
もちろん、向こうの世界に何かテンペストを取り戻す手段があったりしないかな……という淡い期待が無いわけではない。
「……そういや博士は?」
「あー……ディノス見に行ってるぞ。自分の手で殺せなかったのが少し悔しかったらしい」
「そういえば……」
ディノスの死体は簡易の祭壇が設置された場所にある。
この後、ディノスの魂を見つけて色々と情報を聞き出そうと思っているのだ。
ギアズと共にサイラスは先に行って居るという。
色々とやられたサイラスとしては、自分の手で引導を渡してやりたかったと悔しがっていたのを思い出す。
とどめを刺したのがサイモンだったため、まあ仕方ないと諦めたようだが……それでも直接見るまではと行ったようだ。
2人も本人を直接見たわけではないので一緒に見に行くことにしたのだった。
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「……おや、ニール……もう大丈夫なのですか?」
「まあ、ね。ちょっと気持ちを切り替えたよ。希望はまだ有るし」
『ふむ。顔が変わったな、以前よりは凛々しくなったぞ』
「そうかな?……まあ、テンペストが帰ってきたとき、僕が腐ってたら幻滅されちゃいそうだしね。今やれることをやろうって思ったんだよ」
『それが良いだろう』
ギアズもニールのことを心配していた。
サイラスからしばらく立ち直れないかもしれないと言われ、気にしていたのだが案外元気そうな顔を見てホッとしたようだ。
もちろん、心へのダメージは大きいだろう。
しかしそれに縛られていてはだめだと自分で気づけなければ前に進めないのだ。
「で……こいつがディノスか。全く、めんどくせぇ奴だったぜ……あんなもんまで持ち出して来やがって」
「その結果がドラゴンスレイヤーによる一撃ですからね。さぞかし驚いたことでしょう。彼の宝剣の話は聞いていましたが、あれを両断するまでとは……私も想像を超えていた」
『最も、あの宝剣は砕けてしまったようだがな……。儂も見てみたが、限界を超えた一撃だったのだろうな、力尽きた、というのがしっくり来る壊れ方だった』
「あいつの鱗やたらと硬かったのによく切れたな……。ドラゴンスレイヤーは伊達じゃないか……。あれと同じものを作れるのかね?」
これに関してはギアズも良く分からない。
出来るだろうが、あれほどの威力を出せるものが簡単に作れる訳でもない。
元から脆い巨大な魔晶石から切り出したあの剣は、そもそもが希少価値の高いものだ。
それを剣身に鍛え上げたのだから普通に材料だけでも高額になるのは間違いない。
同じものを……と言ってもなかなか難しいだろう。
「それで、これがディノス?」
「ええ。綺麗に両断されていますよ。最期の最期に絶望して死んでいったようですから……まあ、ある程度溜飲を下げることは出来ましたよ」
床の上にある布を被せられた死体。
ギアズによってアンデッド化を防ぐようにされているため起き上がることはない。
仮に起き上がった所で大した脅威ではないが。
布の上からでも分かる。胸から少し下、そこには通常ではあり得ない凹みが有るのだ。
身体のパーツ自体はそのまま回収してきたのできれいに並べてあるが、特に継ぎ接ぎはしていないため切り離されたままだ。
サイラスが布を取ると、ある程度洗浄されたそれが顕になった。
「うぇぇ……改めて見るとなんかこう、やっぱり苦手……」
「その場で吐いたり失神しないだけ成長したと思うぞ……?初めてテンペストに会った頃なんて酷かったからな」
「言わないでよ!血の匂いとか、内蔵とかそういうのが苦手なんだから…………そういえばこの下にはそれがないからかな?あまりきつくないのは」
血は洗い流してあり、内臓はすでに処分されている。
別に検死するわけではないからとりあえずこれでいいのだ。
ぼろぼろになった鎧なども全て外され、素っ裸の状態で転がっているだけだ。
その為刺激自体はあまり無かったのだろう。
『さて……ハーヴィン候はどうせまだ起き上がれまい。エイダ様にこれを見せるわけにもいかんだろうし、代わりに儂がやるということで良いな?』
「ええ。エイダ様に流石にこれを見せるのは憚られますからね。男性の裸というだけでも少々目に毒でしょう」
『……では、始めるぞ』
ギアズがディノスの魂を探す。
意思が強ければ強いほど暫くの間残っているわけだが、死に際に死にたくないと漏らした位だからまだ存在しているだろうと思ったのだ。
これが満足して逝った場合にはすぐにマナへと還り二度と戻ることはない。
エイダの還魂もディノスは対象外だったからこの辺に居るのは……。
『見つけたぞ。さあ来い、我に従え。我は死者の王、ギアズ。貴様の名を答えよ』
ゆっくりと身体に重なるようにもやもやしたものが視え始める。
そして何やらうめき声のようなものも。
『答えよ』
『俺……は……モンク……リアム・モンク……だ』
「……モンクって名前じゃなかったのかよ……」
よくよく考えたらありそうではあるけど。
突っ込みを入れたコリーにちょっと同意しつつ、目の前で苦しげにうめき続けているディノス……いやモンク司祭の死体を見つめる。
『ああ……苦しい……ここは何処だ……何も見えない……』
『答えよ。お前は何のためにこのような事をした?』
ゆっくりと語られてゆく、その内容。
ミレスに居た時には拷問を行うために反逆者を回してもらっていた事や、それに女が居れば陵辱していたことなどを赤裸々に告白してゆく。
嘘をつけない彼は、ギアズの問いに対して詳細にそれを語っていった。
『そこに……博士が来た。ああ、ああ彼は素晴らしかった!どれほど痛めつけても情報を吐くことはなかった!実に……うぐ……実に……壊し甲斐のある者だった』
「……私はただの趣味であんな事をされたわけですか、情報を聞き出すなら手っ取り早い方法があったにも関わらずに……。ギアズ、もう一度生き返らせられませんか?いや一度と言わずに何度でも。その度に殺してやりたい」
『無茶を言うな……気持ちは分かるがな。とんでもない男だなこいつは。歴史的に見ても必ずこいつのような者は生まれてきた。儂が居たときなど、どこぞの国の王は子供の肉を喰らうのが好きなどというのもな……。同じように何処か壊れたやつなのだろう』
ちょっと自分がその得体の知れないヤツの食卓に並べられてしまっているのを想像してしまい、激しく気持ち悪くなったニールだったがなんとか耐えた。
むしろサイラスの目が怒っている時のそれになっていく方が怖かったりする。
ペラペラと拷問がいかに楽しいか、どのようなことをすると長く楽しめるかを聞いても居ないのに喋りだしている司祭に対して、流石にギアズも呆れて締め上げた。
『あ、あが……あああ!!身体が!……身体が、消える……!!』
『貴様は我が問に答えるだけで良い』
そうして色々と聞きだした結果……姿を変え、戦場に出る辺りから改心してきていたことがわかった。
根底にあるクズっぷりはあまり変わらず、信徒と呼ばれる存在がどのような扱いのものであったかもわかった。
ホーマ帝国は良い国だと思っていたのだが……一部の人達が虐げられることによってバランスを保っている国であることが判明したのだった。
そして、エフェオデル侵攻を成し遂げた後に巨大な飛竜……アシュメダイが登場した。
最初こそその言葉に耳を貸さなかった訳だが、この辺りから徐々に心の底で変化が出てきたようだ。
欲求が強まり、以前のように国を奪い、全てを手にしたいという欲求。
ミレスという窮屈で、上からの命令には背けない社会の中で成長してきたその欲求は、どんどん膨れ上がっていったようだ。
そして帰国した時に決定的な事が起きる。
「……帝国、もう手を貸さなくても良いんじゃねぇか?」
「僕もそう思うよ。なにそれ、皇帝も碌な人じゃないじゃん!誘拐も国家ぐるみ、信徒はただの性奴隷じゃないか……!上辺では良いこと言って中身は真っ黒……どうしようもないよ」
「そしてハンターなどが規制されている理由は、恐らく自分達よりも力を持つものたちが自由にならないようにするためだったのでしょう。その代わりに信徒を付けて満足させるのも厭わない。何も知らないものたちからすれば、平和的に全てを解決する国家のように見えると」
ついでに礼拝の時に勝手に魔力人から奪って国の結界に回している。
その一部は皇帝のために使用されているらしいが、詳しいことは知らないようだったが。
以外な所でホーマ帝国の暗部が明らかになったのだが、ディノスとしてかなり中央に近い位置まで行っていたからこそ知りえたものだろう。
これは取引などをする上でいい材料になりそうだ。
そうでなくとも、こちらが手を貸さない限りは逆に滅びていた可能性があるのだから、それを考えれば何をするにしてもこちらに有利に手を結ぶことが可能だろう。
「上層部がほぼ全員犯罪者みたいな国と言うのは流石に初めて見ましたね。大抵は一部が腐っているなどなんですが」
『姿を変えてからは理想の自分になれたからなのか、色々と大胆になっていたようだな。充てがわれた者は毎日のように……だったらしい。先程からその思い出が流れ込んでくる』
「その子、助けられない?」
『いや、無理だろう。皇帝の命令によってディノスを暗殺することになった時に手下ともども殺されているようだ』
「……酷い……」
聞いていくと、アシュメダイによって恐らく思考を操作されているようだ。
きっかけは皇帝からの裏切りだが、アシュメダイと出会った時点で何かされている可能性が高い。
というのも、ギアズがモンクと同調している状態なので、その考えや気持ちなども流れ込んでくるわけだが……途中から不自然にその欲求などが強まったからわかったことだ。
テンペスト達との最後の戦闘の辺りになると、怒りと性欲だけが頭を支配している状態となり……モンクの言葉も徐々におかしくなっていく。
『ははは……ガキは……ガキは何処だ。俺が必ずその身体を汚し尽くしてやる!』
「ねえ、こいつ殺していい?」
「ニール!やめろ燃やす気か!?」
よりにもよってニールの前でテンペストをどのように犯すだのと喚いて、それを聞いたニールが怒りのあまり死体を燃やそうとしていた。
どのみちもう聞き出すことは聞き出したし、結局のところアシュメダイと言われているあの黒い飛竜によって色々と狂わされていたのもわかった。
……まあ元からクズだったことには変わりなかったわけだけども。
『もう良い。貴様は消えるがいい』
『なんだ、何をする?……っぐうう……やめろ……消えていく……やめ……』
マナへと還ることもなく、死体に重なっていた物が消え失せる。
ギアズにもよく分かっていないらしいが、完全に存在を消滅させたということだった。
『感覚としては何かに喰われる様なものだと思うがな。さて、このことは報告しなければなるまい。そしてこの身体にはもう用はないが……』
「まあ、幸い首はありますから。アシュメダイという本当の黒幕はテンペストと共に何処かに切り離された上に、すでにこの世界の安全は大精霊によって保証されています。納得するためにもこの首を大罪人としてあげるしか無いでしょう」
納得するためにも、目に見える成果が必要だ。
それにはディノスの首と、飛竜型の魔鎧兵が丁度いい。
全ての罪をディノスがかぶることになるが、大半の人達からすればそれで間違いはないから問題はないだろう。
それよりも心配なのはテンペストのことだった。
「テンペスト……大丈夫かな?」
「あいつが判断したことは間違いじゃなかったって事だな。そして今、テンペストはアシュメダイとやらと一緒にいる」
いつから居るのかもわからないアシュメダイだが、エフェオデルを支配して力を与えたりなどしていたことからも相当前から居る謎の存在だ。
それが今テンペストと同じ場所に居る。
「そういえば……なんでディノスは別な世界の方に爆弾置いたんだろ」
「テンペストのジャミングによって空間が切り離されない限りは……向こう側がブラックホールとなって消滅したとしても、空間がつながっているこの世界はその繋がりを通じて消滅します。見つけにくく、例え侵入されてもあの飛竜の居る空間へは誰も来れないと思ったのでしょう」
「なるほど……」
せめてこちら側にあれば、テンペストは別な世界に閉じ込められるということもなかっただろう。
元々の予定通り、コンラッドを送った後に自分も身体へ戻ってこれたはずだ。
『……とりあえず、まずはこれからのことを考えるのが先決だろう。忙しくなりそうだしな』
報告して、明日は行方不明者の捜索。その後は帝国へ戻って事後処理。まあこの事後処理に関してはニール達はあまり関与することはないが。
それが終わってようやく国へと戻ることが出来る。
まだまだ先は長そうだった。
難産+猛暑+3連休で色々ありました。