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第百六十六話 新しい敵

「くっ……!」


 急降下を始めると、ふわりとした何とも言えない気持ち悪い感覚に襲われ、地表が徐々に近づいてくる。

 エフェオデルの魔導対空砲と表現出来る兵器による攻撃は、マギア・ワイバーンの行動に追いつけずにカーブを描いて上に流れていくように見えていた。

 しかし後ろから……つまり上からは黒い翼竜と飛竜によるブレスが降り注ぎ、その攻撃予測の赤いラインが視界に写っている。


「これっ……なかなかきついぞ……!」

『耐えて下さい。身体強化を最大限使えば恐らくコリーならば耐えられるはずです。引き起こしまで後5秒』


 恐らくって何だよ!と言いたいところだが、正直そこまでの余裕はコリーには無かった。

 テンペストが示すコースからはみ出ないように、しかし相手の攻撃には当たらないように慎重に……時に大胆に操縦桿を倒し、ペダルを蹴り飛ばす。


 カウントダウンが終わり、機体を戻して一気に引き上げを起こしながら身体強化を全力でかける。


「ぐぅぅ……うぉぉぉぉあぁぁぁぁぁっ!!駄目だぶつかる!!」

『レビテーション最大出力、第三魔導エンジン垂直離陸位置、フルスロットル』

「んがっ!?」


 突然機体がドンと下から突き上げられるように弾かれ、急激にその動きが変わった。

 お陰で速度と旋回によるGがかかり、先程までとは逆に足に向かって全身の血が流れ込んでゆく。

 必死で足に力を入れても、強烈なGは容赦なくコリーの意識を刈り取った。

 それでもなんとか耐えきれたのは獣人の強靭な身体と、それを最大限発揮する身体強化の魔法によるものだ。

 普通の人間ならば、いくら鍛えていようが絶対に耐えられるものではなく、間違いなく首の骨が折れて即死する。


「はっ……?……生きてるのか?」

『3秒ほど意識を喪失していたようですが、特に問題ありません。コントロールを』

「もっと長く感じたよ……アイハブコントロール。それにしても……何だこのコースは!」

『敵の対空攻撃は低い位置、特に木に隠れるようなこの状況下ではまともにこちらを狙うことは出来ません。ブレスは避ける必要がありますが……』


 そんなマギア・ワイバーンを追うように黒いブレスが地面を薙いだ。

 ブレスが当たった地面は黒い線となり、深い溝をその場に残し、そこにあったものは全て消失していく。

 森の木々のすれすれを高速で飛び回るマギア・ワイバーンになかなか命中させることが出来ずにヤケになっているのか次々に黒いブレスの線が上から降り注ぐ。

 複雑な軌道を描いてウロウロと逃げ回る2人を追って翼竜と飛竜は急降下を始めていた。


「対空攻撃は止んだがこれじゃいい的だ!なんとかならないのか!?」

『今それを実行中です。それに現在同時に攻撃も行っています』

「は?攻撃されてるのはこっちだろ?」


 また飛竜からの太いブレスが翼を掠めた。

 大地に大穴を開け、ワイバーンが逃げる動きに追従して地面を抉ってゆく。

 気がつけば森はまるで虫が食ったかのようにブレスの跡が残り、対空法撃の数は減っている。


「……まさか……」

『はい。敵の攻撃をあえて誘導しています。先程から自分達の兵器をあのブレスで掃除してくれているところです』

「はっ……はははっ!まじかよ、この状況下でそれをやるのかよ……」

『半数はすでに破壊されているはずです。そろそろ頃合いです、脱出しましょう。ショートランス全弾発射』


 隠蔽の結界が張ってあるその真上をパスして、ショートランスが一時マギア・ワイバーンを追い越して反転。そのまま後方へ向かって上から迫ってくる黒い翼竜と飛竜に向かって上昇を始めた。


 自分達を狙って放たれたその小さな何かを、飛竜と翼竜は脅威であると認識している。

 これを自分達に近づけてはならないとブレスを放ち、ショートランスは全て消えた。


「なるほど、仕上げはそういうことか……つくづくお前はすげえよテンペスト」

『武装を整えたセイカー隊がこちらへ向かっています。こちらはランスを全て失いました、このまま帰投します。後は彼らに任せましょう』

「そうだな。はっ、ざまあみやがれディノス。自分達の切り札に攻撃される気分はどうだ?」


 低空を行くマギア・ワイバーンを狙う攻撃はもう無い。

 飛竜や翼竜の射程から離れ、魔導高射砲は沈黙している。


『こちらセイカー1。流石だテンペスト。的がよく見えるぜ、後は俺達に任せろ』

『セイカー2、ラウリです。コリー殿、ご無事で!』

「なんとか生きてるよ……今回は本気でもう駄目だと思ったぜ。後は頼んだ」

『任せろ。直にバハムートとリヴァイアサンの艦砲射撃が始まる。文句も言えないようにボコボコにしてやんよ。全機、確認したな?マギア・ワイバーンが切り開いた道だ!対空砲にたっぷりと飯を食わせてやったら次はうるさいハエ共だ!行くぞ!』


 爆装しているのは半分だが、もうそれで十分だろう。

 残りの魔導対空砲へ爆弾が投下され、テンペストが確認した場所は沈黙した。

 はるか後方でセイカー隊がランスとレールガンの掃射を始めたのを確認して、テンペストとコリーはバハムートへと帰った。


 □□□□□□


「大丈夫か、コリー」

「ああ、ハーヴィン候……なんとかな。流石に無茶やらかした……というかやらされたというか、そうせざるを得なかったというか……」

「報告は後でいい。大体のことはテンペストから伝えられているからな。とりあえず医務室へ言って回復してくるといい」

「そうする……あー……首いてぇ……」


 ぐったりとした様子でコリーがマギア・ワイバーンから降りると、サイモンが出迎えてくれた。

 流石に高負荷状態で長時間戦い続けてきたコリーは、サイモンの目から見てもかなり消耗しているのが分かった。

 普通に陸上で戦っていてもここまで疲れるということはなかなか無い。


 加えてあの急激な引き上げによって首を痛めてしまった。

 言われるがままに医務室に行くと……。


「あ、来ましたね」

「エイダ……様……?何故ここに」

「もちろんコリーさんを癒やすためにですよ。テンピーから聞いてましたが……かなり酷いですね、どうぞこちらのベッドへ」

「い、いや、エイダ様の手を煩わせる様な事では……」


 エイダが居た。

 やんわりと断ろうとしたものの、強引に押し切られてベッドに寝かされてしまう。


「……相当、身体に無理をかけたようですね……。筋肉が傷んでます」

「まあ……あれに乗ってここまで疲れたのは本当に初めてだ。仕方がない事とは言え流石に今日のは堪えたよ」

「でも、お陰でセイカーの皆は帰ってこれました。感謝しなくてはならないです」

「大体テンペストのお陰だ。俺は……指示通りに動いただけだよ」


 実のところ、テンペストの指示通りにきっちり動けるだけでも相当すごいことではあるのだが。


「では始めます……『癒やしの精霊エイルよ、彼の者に大いなる癒やしを与え給え。異変を収むる要の者なれば、どうか苦しみを取り除き給え』」

「うお……温かい……?」


 願いは叶えられ、コリーの周りに薄っすらと光の膜が掛かる。

 これまで溜まっていた疲れや、先程の戦闘で受けたダメージなどがすっと消えていくのがわかった。

 それと同時に頭がスッキリして目もはっきりと見えるようになり、感覚が研ぎ澄まされてゆく。


「……どうでしょう?」

「ん……。痛みはない、身体が……とても軽いな。だるさが消えたし感覚がやたらと鋭敏になっている感じだ。さっきまでの状態からすれば目は薄い膜を取り払ったような感じだし、耳は詰まっていたものでも取ったかのようによく聞こえる。疲れまで消えているぞ……」


 思いっきり伸びをすれば関節がパキパキと鳴り、とても気持ちがいい。

 いつもよりも身体の動きが意識に付いてきている感じがする。


「感覚が鋭くなったのは……多分、コリーさんの身体だけではなくてその魂も正常に戻ったからだと思います」

「魂……ね。何もかも疲れていたって事か。なんかいつもよりも力も入るし、これならすぐに復帰できる、助かった」

「それは良かったわ。……まだ、危険な戦場に行かなければなりません。どうか、お気をつけて」

「……分かった」


 無茶をするなとは言われなかった。

 言ったところでしなければならない状況に追い込まれるなど、普通にありえるのだ。

 先程の事もそうだったが、ちょっとした選択肢の違いでどう転ぶかなど誰にも分からない。


 医務室を出てマギア・ワイバーンへと戻ってきた。


「戻ったぞ、テンペスト」

『お帰りなさい。もう身体はいいのですか?』

「バッチリだ。なにせエイダ様に癒やしをかけてもらったからな!今すぐにでも出れるぜ」

『まだ補給が終わっていないため出発は出来ませんが……。朗報です、地下道がどこへと繋がっているかがある程度分かりました。一つは大都市、一つは絶壁の洞窟。そしてもう一つは恐らくダンジョンケイブへと繋がるものです』

「ってことは裏から侵入させられるか?」


 地下道は広く、魔導車ならば入っていくことが可能だ。

 大勢の兵を投入することも出来る。……が。


『そうなりますが、送り込んだ部隊は全滅したそうです』

「何?!」

『途中から通信が途絶えました。黒いブレスを持つ翼竜などがあの場に居ないとは限りません。もしそれと遭遇してしまった場合などであれば特にありえないわけでは……』

「ああ、そうか……敵はあの結界の中から出てきたんだったか」


 中で出てこないという保証など無い。

 単純だったがあまり考えていなかったことだった。

 それでも誰かが行かなければわからなかったことだ。正確な位置を教えてくれた彼らには必ずディノスを倒す事で返さなければならないだろう。


「……まあいい。皆、覚悟の上だ。補給が済んだらすぐに向かおう」


 □□□□□□


 セイカー隊がマギア・ワイバーンとすれ違ってすぐのこと。

 テンペストからもたらされた高射砲の位置へと爆弾を投下する機とその護衛をする機に分かれて、先程は一方的に追い回されていた空の戦場へとコンラッド達は戻ってきた。


 全ての高射砲を破壊し、黒い翼竜と飛竜の攻撃に注意しながら銃弾とランスを浴びせかけていく。


「……流石だよ、テンペスト」


 そうつぶやいたコンラッドの眼下には何本もの黒い線が走っている。

 あのブレスによって地形が変化した跡だ。

 その近くには大きな自然崩落したとみられる穴と、その奥に続く入り口を発見した。


 そこはずっと隠蔽され続けてきた結界の内部であり、今までは見えていなかった場所だ。

 それが今、こうして白日のもとに曝け出されている。


 最後に脱出する時にテンペストが放ったショートランスは、この結界の上で向きを変えてまっすぐに翼竜達へと向かったのだ。

 ランスを脅威とみなしている翼竜と飛竜の食いつきはとても良かった。

 全てのショートランスを即座に破壊し、得意気になっていたことだろう。


 ……その延長線上にあったのは自分達の守るべきものであり、接近していた翼竜と飛竜のブレスは一直線にそれを直撃した。

 隠蔽を維持していた巨大な魔法陣の一部が分断され、致命的な損傷を受けた結果……結界は完全に無効化され、当然のようにその隠されていた中身が丸見えとなったのだ。


 つまり、今見えている洞窟への入り口……かなり巨大なものであるということは見て分かる。

 確かにあれであれば飛竜が出入りすることだって不可能ではないだろう。

 その奥にきっとディノスはいるはずだ。


「全機、自由戦闘開始。出来る限りこのハエ共を叩き落とせ!……俺はでかいのをやる」


 先程までテンペスト達に良いように遊ばれていた黒い飛竜は、また性懲りもなく舞い戻ってきた白い敵に襲いかかる。

 また小さく細い何かを飛ばしてくるが、それを難なくブレスによって消滅させ……。

 次の瞬間、目には捉えきれていない何かが体中に突き刺さった。


 鋭い痛みが襲ってくるのと同時にそれらが身体の中で弾けていく。

 身体の内側がめちゃくちゃにかき回され、燃えてゆく。

 強靭な鱗を持たないペタオサウラには、ガトリング砲の弾丸を弾き返すということすら出来ずにその全てを受けてしまう。


 苦しみの咆哮を上げて自分を攻撃してきた物を睨みつけるが、その力は徐々に失われ……。

 最後の力を振り絞り正面から向かってくるその敵を道連れにしようと、ブレスを放とうとし……失敗なのか、それとも暴走したのかは分からないが、直径100m程の黒い球体が生み出されてペタオサウラもろとも飲み込んで霧散したのだった。


 コンラッドとしてもこれは一瞬の出来事だった。

 テンペストによるサポートもなく、とどめを刺そうとインメルマンターンで戻り機銃を撃とうとしたその瞬間だ。

 黒い飛竜の身体が膨れ上がり黒い球体がそこに広がった。


 真っ直ぐに飛竜に機首を向けていたコンラッドは、逃れようと操縦桿を目一杯引いて機体を離そうとするが……僅かに足りず機体後部が接触したように思われた。


「何だ!出力が上がらない!!」

『隊長!聞こえますか!隊長!』

「聞こえている!クソ、駄目だ、何がどうなっている!操縦桿がスカスカだ!」

『隊長!落ち着いて下さい!機体後部が……消えています!脱出を!』

「何……?」


 部下の言葉で冷静さを取り戻したコンラッドだが、その言葉は絶望的なものだった。

 複雑なスピンを描きながら落ちてゆく1番機の後部を振り返ると……見えているはずだった垂直尾翼も、ラダーも主翼も一切合切が消えている。

 つまり……今このセイカーは機体の中心から後部に掛けてをすべて失い、前方半分だけで空に放り出されている。


 警告音が消えた。

 もう迷っている暇はない。


「こちらセイカー1、コンラッド。ベイルアウト!」


 ゴン、と突き上げるような衝撃とともに、コンラッドが入ったコクピットがまるごと空へと放り出される。

 楕円形のそれは壊れた機体から弾き飛ばされみるみるうちに機体から離れていく。

 内部に映し出された全周の映像は顕在で魔力が切れるまでは周囲の様子を映し出してくれるが……その遠くはなれていくセイカーの無残な姿にしばし言葉を失った。


『ベイルアウトを確認しました。隊長、ご武運を』

「……ああ。一足先に下で待ってるぜ」

『すぐに救助へ向かわせます、それまでは絶対に生き延びて下さい』


 と言われても、真下は敵地。それも少し前まで隠蔽されていたところだ。

 艦砲射撃は予定通り行われるだろう。降りたら即座に離れなければ命はない事は確定している。

 しかし……とてもじゃないが現実的ではない。

 予想着地位置があの大きな穴の近くなのだ。ほぼ中心点から範囲外に逃げるにしても強化されているとは言え足では難しい。


 であれば……一か八か、あの大穴に飛び込み洞窟内に侵入したほうがいくらか生存確率が上がるだろう。


 そう思って穴の方を見やると、新しい飛竜が出てこようとしていた。


「全機、警戒しろ!洞窟から新たな飛竜が出て来る……なんだ、あれは……」


 それは確かに飛竜だったが、鎧のような鱗の上に更に鎧を着込んだような厳ついものだった。

 翼を広げて飛び上がるが、その動きは今までの飛竜とは一線を画するもので、飛び上がってから速度を上げて上昇するまでがとてつもなく早い。


「全機、ブレイク!直ちにこの場から距離を取れ!今上がった飛竜はなにかおかしい!」

『飛竜を確認、全機緊急回避……早い!』

『セイカー5!そっちに行ったぞ!』

『どうなっている!ランサーが避けられた!』

『砲撃を確認!何だこいつ武器を持って……くそ!ブレス……!うああああああ!』

『セイカー5!返事をしろ!』

「良いから早く逃げろ!振り切れ!」

『セイカー5、クリムのベイルアウトを確認……ああ!なんてことを!!クリム!』


 部下たちの混乱した声が聞こえてくる。

 コンラッドが最後に目にしたのは、ベイルアウトした5号機……クリムの入ったコクピット部を掴んで握りつぶした飛竜の姿だった。


 着地のために全魔力が衝撃吸収用の装置へと流れ、同時に周りを映し出していたモニタは消える。

 明らかにおかしい挙動をする飛竜。鎧を着込み、武器を操る?

 そんなものは聞いたこともない。

 しかし……とてつもなく早く、そして強く……頭がいい。


 直後、コンラッドは地面へと叩きつけられ、意識を失った。


 □□□□□□


 ディノスが敵襲に気づいたのは爆撃を受ける少し前だった。

 一番最初に気づいたのは敵の艦隊を攻撃するために用意した特攻艦隊だ。近くまで敵が来ていることに気づいた彼らは、直ちに伝令を送り特攻の報告をする。


 最終的に数隻を沈めたというのだから、よくやってくれたと思う。

 しかし、まさか北側の方へと艦隊が回ってきているとは思っていなかったので正直な所相当焦ったのも事実だ。

 本来ならば大きく迂回して相手の後ろから一気に……と思っていたのだが。


 その後その隠れ港は放棄し、塞ごうとしたが……その前に敵が乗り込んで来てしまった。

 翼竜を1匹送り込んだ所入ってきたものたちは全滅させることに成功したが……ここを突破されていればかなり危険だったことには変わりない。

 やむなく完全に塞ぐことにした。


 大都市とのやり取りはできなくなるが、ここがばれた以上もう使うことは出来ない。


 などとやっているうちに今度は突然爆発音と地響きがダンジョンケイブ内にまで聞こえてきたのだ。

 地上の様子は大混乱で見張りに立てていた者も負傷しているか死んでいるか。

 何があったか聞き出そうにも、今度は耳が聞こえなくなっているという始末だ。

 急いでペタオサウラとペテスタを放ち、迎撃に向かわせる。


「連装対空魔導砲急げ!!奴らを叩き落とすのだ!!」


 レギオンを使い、エフェオデルの役立たずに代わって攻撃をさせる。

 あっという間に防戦一方どころか逃げるので精一杯となった敵の戦闘機を見て勝利を確信した。


 ペテスタは射程は短いものの数は多く、また小さいために狙いにくい。

 なるべく地上の対空魔導砲と連携を取らせて逃げ道を潰しながら攻撃させたことで、攻撃に転じようとしたり、逃げようとしてもそれを難しくしていた。

 ここであの面倒な乗り物は落としておかなければならない。


 この調子で上から攻撃されたら鬱陶しいことこの上ないのだ。


 だが。

 この優勢も黒い機体が来るとあっさりと覆されてしまった。

 攻撃は尽く躱され、反対にペテスタは次々と消えていく。

 なぜあれ程までに絶望的な状況の中で、あれ程動けるのかが全く理解できない。

 まるで見えているかのようにブレスを避け、終いには攻撃の場所を誘導させられていた。


 あれは明らかに狙ってやっている。

 攻撃手段を一つ囮に使って、別な方法でペテスタを落とす。

 ペタオサウラですら翻弄され、彼らが怒りに支配されているのがわかった。


 そのタイミングであれは恐ろしいことを考えついたのだ。

 それはブレスを誘導することでこちらを攻撃することだった。

 頭に血が上った彼らは攻撃が誘導されていることに気づかない。

 しかも低空を飛ばれた結果、魔導対空砲がほぼ使い物にならなくなった。

 対空砲は次々とブレスに飲まれて消滅し……。

 最後はこのダンジョンケイブを隠していた巨大隠蔽魔術が破壊されてしまった。

 もう、場所を隠すことは出来ない。


 このままではやられる。


「魔鎧竜を準備しろ!……俺が出る!」


 魔物の頭だけでは対処は難しい。

 危険ではあるが、自分が出て引っ掻き回したほうが良いだろうと判断した。

 何よりも魔鎧竜は飛竜が本気を出した時の状態を常に保っていられる。

 嬉しい誤算だった。

 速度は早く、魔力も勝手に回復してゆく。

 また、自分が動かすということで特別に作らせた大砲もある。

 魔力を使い、好きなように扱えるそれは、無限と言ってもいいほどの魔力量を誇る竜の身体にとって最高の武器となるのだ。


 次々と落とされていくペテスタ達を感じながら、魔鎧竜に乗り込み出口へと向かった。

廉価版の宿命……

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