第百五十八話 帝都到着
「くそ……奴らが来た!」
ホーマ帝国に向けて放っていたアンデッド軍団はほぼ壊滅した。
同時に海で待機させていた奴らも、敵を発見した後、消息を絶った。
途中までは上手く行っていたのだ。
自らが取り戻した街を、自らが蹂躙し、そのまま一直線に帝都を攻撃した。
アシュメダイの住む洞窟には大量の黒い魔物達が存在しており、それぞれの魔物は弱くとも突出した能力を持って相手を次々と屠っていった。
例えば翼竜、ペテスタ。黒いブレスは真っ直ぐに飛び、それに触れたものは何であっても消滅する。
これを自分の意志で動かしたときには震えが止まらなかった。
相手が何であろうと、絶対に負けないという全能感。
更にこの上位種として飛竜のペタオサウラが居る。こちらは威力、射程共に倍以上だが自我が強くまともに操れない。
身を守る鱗が無くツルツルとした蛇のような肌を持っているため、攻撃を喰らえばあっという間に死んでしまう脆さはあるが、そうそう簡単に反撃を受けることなど無いのだ。
統率すればこれほど強力な手駒はなかなかない。どんなに頑丈な城であっても、魔法障壁さえ消えてしまえばもうケーキを切り刻むようなものだ。
帝都の白亜の城を真っ二つにしてやったときには笑いが止まらなかった。
残念ながら皇帝は見つけられなかったが、囲っていた女達は全て頂いた。信徒などまだまだ居る。
新型の爆弾の実験場として使わせてもらったから殆どは吹き飛んだだろうが。
それでも、心は痛まない。あの国は裏切ったのだ。国のためになるよう働きかけ、技術も提供していた俺を裏切った。
だから潰れた。ただそれだけのこと。
その時には夢を操るフォボスもよく働いた。
あれは夜しか動けず、攻撃力も自らを守る力も皆無だ。
潰れたボールのような姿に無数の触手を生やして浮いている。
しかし、一度相手が眠りについてしまえば殆ど独壇場となる。夢の中で相手は恐怖に打ちひしがれて死んでいく。その時に負った怪我は手当されない限りはそのまま残り、眠っている内に死ぬことになるのだ。
これは自分達は何とも無いと思っている白い壁の内側の貴族たちにけしかけてやった。
悲鳴と怒号があちらこちらで上がり、多くの貴族が恐怖を顔に貼り付けたままで死んでいき、翌日には誰も夜に眠ることが出来なくなっていた位だ。
その後全て吹き飛ばしたからどうなったのかは知らないが。
他のものは足が早かったり、再生能力が高かったり、数が多かったりと色々といるが目立った活躍ができたのはあの二種位だろう。
だが……。
ペテスタは恐らくミレスを消滅させたあれによって送り込んだ分は全て死んだ。
あのブレスは避けられ大した被害を出すことすらできなかったのだ。
もし、奴らが来たとしても……このブレスがあれば無敵だと、そう思っていた。
しかし現実は……。
「アンデッドは何故か突如消滅、ペテスタは被害を出せず……フォボスと魔道士は自分の場所を知られぬようにしていたにも関わらずに全員見つかって死んだ……何故だ!」
街を荒らし、その場所に居た者達を殺しアンデッドへと変えて操っていたはずだが、突如攻撃を受けたわけでもなくその反応が途切れたのだ。
残った奴らで仕掛けてみれば、明らかに今までのホーマ帝国とは全く異なる戦力で叩き潰された。
ペテスタを使い、魔鎧兵に乗せたアンデッドを通じてみたその光景は……ホーマ帝国のものではない別の者達が混じっていた。それはディノスに取って見覚えのある連中で、自分の故郷を奪った3国の旗にいつか見た博士が復讐するために乗ってきたあの見たこともない魔鎧兵の姿。
優先的に叩き潰そうとするも、大砲を向けた瞬間に一気に接近されてあっという間に行動不能になったかと思えば腹を潰されて強制的に繋がりが途切れた。
知らず手が震えているのに気づいた時、自分が恐怖していることを知る。
ならばペテスタで消してしまえばと思ったが、当然空にはあの空飛ぶ何か……今ならばそれが戦闘機と呼ばれる飛行する乗り物であることは分かっているが……それらが次々とペテスタや飛竜のアンデッドを殺していく。
ブレスは必中と思われた物も尽く避けられ、逆にどんな攻撃を受けたのか分からないままに身体が燃え上がった。
大体フォボスがあっさりと死んでしまったこと自体がおかしいのだ。
自分達がフォボスの攻撃を受けて、その対策を取ったがそれを逆手に取って対策を立てたところで上手く行かないようにしたはずだった。
それが、自分達の対応よりもずっと早く、効率的に潰されていった。
なぜあれほど複雑に出所がわからないようにしたはずの魔力の流れを辿れたのかが分からない。
『荒れているな、ディノス』
「アシュメダイ……俺によこした黒い魔物は何なのだ!役に立たないではないか!」
『何を言う。帝国を滅ぼすには十分なほどの戦力だ、問題なかろう……』
「しかし、ハイランドの奴らが……!」
『それは知らぬ。我はホーマ帝国を滅ぼしたいというお前の願いを叶えたまで。……しかし、そのハイランドとやらは何だ?我の仲間達があっという間に消えていった……』
「俺の国を滅ぼした奴らだ。今となっては滅びても当然とも思えるが、俺の全てを最初に奪った奴らは許せん。奴らの知識は俺達が先に見つけたものだ!」
サイラスを見つけ、その中から様々な知識を引き出したのは他でもない自分だ。
なのにそれを横から掻っ攫い、その力をもってミレスは滅ぼされた。
それが一番許せない。
『お前は我が見た中で、一番道具についての知識を持っている。それでは足りぬか?』
「……いや、知識は最後に奴から奪った。しかし技術が足りない。ここの奴らでは満足の行く物を作り出すことが出来ない」
最低でもホーマ帝国並でもなければ難しい。このエフェオデルの技術力では時間がかかりすぎる上に、教えたところで理解することが出来ない。あの試作品を作るのにもどれだけの労力がかかったことか。
『ならばレギオンを使え。お前は奴らの使い方をまだよく分かっていない』
「ゴブリンのなり損ないのような奴らを……?あんな奴らに通じるのか?」
『あれは貴様等人間を模して作った魔物だ。ひ弱だが繁殖力が旺盛で、学習する。その知識は我も覗くことが出来る……。お前の知識とやら、我も興味がある。レギオンを存分に使いその力見せてみよ』
そうすれば、遠い昔に自分を遠くへと飛ばした奴らにも復讐できるだろう。
神竜などと呼ばれる地上の覇者達。滅ぼす一歩手前まで行っておきながら、最後の最後で策にはまり1匹の竜と共に封じ込められた。
その世界との繋がりは絶たれたが、様々な世界へ通じる不思議なその空間はなかなかに興味深いものだった。
ある時は滅ぼし、ある時はそこに生きるものたちを育ててどう成長するかを見た。
畏れられ、敬われてきたものの、あの敗北が許せずいつかまた戻ってケリを付けたいと思っていたのだが……ついにそこに通じる場所を見つけた。
しかしその穴は小さく、そしてすぐに塞がれていた。
自分の配下にできそうな者が現れる度に、その力を増幅させる加護を授けていたのだが……神竜はその加護を持つものを見つけ加護を消し去った。
今でもまだ力を持っている神竜、そのせいで欲のある者を見つけてその者へ望む力を与えて自分の手駒として使うことはできなくなったのだ。
だがまだ生きているということは、雪辱を晴らすことが出来るということ。
次は必ず倒しあの世界を手に入れる。
『……どの世界でも人間というものは面白い。竜には考えつかぬ道具を使って竜を狩る。ディノス、我の力とその知識、道具を使ってこの世界を統治してみせよ』
「良いだろう、神竜とやらでも消し去ってみせる……!」
『その意気だ、我の復讐もそれで終わるだろう』
「……アシュメダイよ、その復讐が終わったとき、お前はどうするのだ?」
『我が眷属で埋め尽くす。そして繋がっている世界は全て我が手中に……』
「壮大なものだな、その時には俺は生きては居まい」
人の寿命は短い。
その短い時間で知識と技術を吸収し、それを使って新しいものを次々と生み出し、そして消えていく。
しかしその知識の積み重ねは驚異的な速度だ。
竜やエルフなどが物を覚えていくことよりも早く覚え、年老いていく。
知識は本として残され、後世の者達へと受け継がれる……。
その積み重ねが次から次へと後世へと受け継がれ、短いサイクルで凄まじい発展を遂げるのが特徴だ。
人族のその特性がエルフなどが持っていたら……生涯をかけて積み重ねるその知識と技術は何処まで高まるのだろうか。
以前、アシュメダイを名乗らせて支配していた人間は特に力のない、住む場所を追われた者だったが、それでも力を与えれば一国を支配してみせたのだ。
今回、その敵となった者の中に他とは違う歪んだ心を持ったディノスが居たため、呼び寄せてその力を試した所なかなかに面白い結果が出たため乗り換えたが……その知識と技術は初めて見るものばかり。
この中に神竜を下しあの世界を支配するために丁度よい物があるかもしれないと思えば、このディノスに対して協力してやるのは吝かではない。
その相手が強力であればそれを乗り越えることで人族は更に強くなる。
レギオンを引き連れて洞窟を後にするディノスを見送り、アシュメダイは巨体を洞窟の奥へと引っ込めていく。
奥に行けば行くほどに広くなる空間は、いつしか天井も壁も溶けるように消えて荒廃とした毒々しい色の景色が広がっている。
それこそがアシュメダイが封じられた世界。殆ど生物は居らず、餌となる物は存在しない。マナは濃いがただそれだけの場所だった。
ここで何千、いや万の年月を過ごしただろうか。
しかしそれももうすぐに終わるだろう。
以前に見つけた穴よりも更に大きなものをつい最近見つけたのだ。
それが完全に繋がれば……またあの世界へ戻れる。生まれ故郷へと。
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「もし……こちらの戦力を計っているとしたら……」
「ええ、相手にはそれ以上の用意がある可能性が高い。恐らくあの戦力は突っ込ませて蹂躙できればそれで良し、出来なければある程度敵の戦力を計るものだったのではないかと」
「考え過ぎではないか?今までの攻撃も大して変わらなかったはずだ、帝都を襲ったときもそうだったと聞く」
「そうであっても、今回殲滅した戦力は小さくはありません。こちらの戦力を考えて新しく編成した物を送り込むことも考えられます」
ご丁寧にもあの魔鎧兵に乗っていたのもアンデッドだった。
生きた人間はあの中には一人も居ない。
ある意味で捨て駒に近いものでは無いかとサイラスは考えていた。
事実として、帝都を襲った時とは違い兵器を持ってきていなかったという事が有る。
確かにブレスを放つ翼竜は居たが、帝都はもっと大きな物もあった。
飛竜クラスがいても不思議ではない。
あれは全勢力などではなく、ホーマ帝国を滅ぼすためには丁度いいと思われる戦力のみを放ったに違いない。
海上でも接敵し、それらはエイダの精霊術によって壊滅したという。
一撃で多数の魔物と船が呑み込まれたというその攻撃は気になるが……。
もしかしたら、とんでもない力をあの子は持っているのかもしれない。それは恐らくテンペストや自分とはまた別次元のものだろう。
ともかく、異変の原因となっているのは確かなのだ、これ以上の物が無いなどあり得ない。
あの帝都を襲った時の爆弾はすでに破壊力は地球のものを超えかけていると言っていい。
これからより一層気をつけて行動したほうが良いだろう。
出来れば接近される前に倒す。
「我々ホーマ帝国にはそこまで長距離を攻撃する術は……」
「それは私達3カ国で対応します。どちらかと言えば飛竜隊に役に立っていただきたい」
接近されないと殆ど役に立たないホーマ帝国だが、唯一遠距離を攻撃できる存在として飛竜が居る。
敵の送ってきた魔鎧兵は飛竜がぶら下げて持ってきたものだ。
これと同じことをすればいい。
「私達の……魔鎧兵。魔導騎兵と呼称していますが、それを運んでいただきたい。重さは大きく変わりはしないはずですが、攻撃力はご覧の通りです。一気に相手に近づいて行くためにはあれが一番効率がいい」
「分かった……。しかし、このままでは我々の出番が無い。自分達の国を取り戻すための戦いであるというのに、これでは面目が立たん……」
「帝都に到着すれば嫌でも人員が必要になります。生き残り等を保護していかなければならないので」
もし、地下に隠蔽の魔法が仕込まれた空間があるならば……もしかしたらまだ生きているものは居るかもしれない。
かなり淡い期待ではあるが。
夜明けは近い。今は少しでも寝て明日に備えよう。
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「これは……なんということだ!!」
悲鳴にも近い声がホーマ帝国の方から上がっている。
帝都へ到着し、その惨状を見た彼らの声だ。
無事な建物は殆どなく、大半が瓦礫と黒焦げの燃えカスとなっており、そうでなければ深い穴が穿たれているか更地だ。
外から来たのだろう魔物も多く入り込んでおり、そこら中を漁っていた。
こうなることは分かっていたものの、彼らの落胆ぶりは酷い。
それでも、まだ希望を捨てずに号令を出して隊を分けていた。
「待て、帝国だけでやるものではないだろう。協力すると言っているのだ。我らコーブルクも付いていくぞ」
「それは我らルーベルとて同じこと。何をしようとしているのだ?何処かに隠れる場所があると?」
「……ここまで来て隠してくものでも無いだろう、生き残りが居るかもしれない場所に心あたりがあるのだろう?教えてくれ、見つけ出すために」
この期に及んで渋っているのは秘密の場所だからだろうが、ここまで地上が壊滅しておいて秘密もクソもない。
新しく作り直す時には場所を変えればいいだけだ。
今は人の命を優先することにしたようで、その情報を話し始める。
「分かった、帝都だけでなく他の街でも同じようなものだろうが、必ず避難場所が設定されている。
その街の者でなければ入れず、一度入れば気配を感じることが出来ない特別な場所だ」
「では我々は手出しができんな、出てきてもらうしか無いか……」
「そうなる。皇帝の関連者は中央、中央を取り仕切る壁、街の外郭をなす壁にそれぞれ出入り口があり、地下に広い空間があるのだ」
「……その作りだと、全員が避難するのは絶対無理ですね」
「そのとおりだ。そしてある程度の階級であったり、重要とみなされる者達以外には伝えられていない。それでも、自分達の身内などを集める内に相当な数になると思うが……」
避難シェルターが設置されているが、全員がすぐに入れる場所には無いということだ。
壁に近いものしか逃げることが出来ない。何を考えてそういう作り方にしたのかは分からないが。
その入口がある場所は壁一面に掘られたレリーフの内、一定間隔で現れるとあるマークが目印となっているという。
「あの木の芽の形をしたものがそうです」
「……結構堂々と見えてて逆に分からないねこれ」
「他にも同じように何度も出てくるモチーフがあります。それも相まって余計に分からないのでしょう。……壁に人が入っていきますね」
「ホントだ……」
手をかざすとそこが水のように波紋が立ち、ホーマ帝国の兵が入っていく。
恐らくここ以外の別な場所でも同じような光景が見られているだろう。
「幻覚によって入り口が閉ざされているというものではないようです」
「テンペストでも見通せない?」
「音を使って見ましたが、あそこにはたしかに壁があります。穴は有りません」
温度、音波を使ってみてもあの場所には壁しか無い。
波紋が広がればその波も観測できる。
ただ、マナの流れには少しだけ乱れがある。まだまだ使い方を知らない事があるのだろう。
少し待つとぞろぞろと人が出てくる。
かなり衰弱しているようだが、それでも攻撃から時間が経っているとは思えない程度には元気なようだ。
「あの中にはきちんと食糧なども備蓄してあったそうですよ」
「へぇ…………それにしても人多くない?」
「まだまだ出てきますね。よくそこまでの食糧を持っていたものです」
全員出てきたのを数えてみれば200人近くが居た。
どれだけ広い空間なのかは知らないが、短期間逃げるという意味ではそれなりによく出来た空間なのかもしれない。
彼らの世話はホーマ帝国に任せ、こちらは食糧と水の支援をする。
出てきた後の彼らの表情からしても、やはり帝都がここまで破壊されるとは思っていなかったのだろう。
徹底的に破壊しつくされ、象徴であった白亜の城は真っ二つに引き裂かれているのがここからでも見える。
それが帝国の国民達にどのように映るかなど……考えるまでもない。
「最終的に生き残っていたのは外郭はこれくらいですか。……かなりの人数が生き残っていたのですね」
「そのようだが……この帝都の規模からすれば僅かだ。白亜の壁、そしてその内側の壁と中央の隠れ場所を見ていっても、恐らく元の人口からは3桁くらいは減ってるんじゃねぇか?」
コリーの概算はそう外れたものではない。元は100万程度の人口はあっただろうが、生き残りは数千といったところか、多くても10万には達しない程度だろう。
元々の避難場所としてのキャパシティもそこまでなく、決められた人達だけが逃げられる場所だ。
完全な一般人は殆ど生き残れなかったのだ。
それでも完全に助かったものは居ないと思っていたのに対して考えれば、よくぞここまで生き残っていたというのが感想だった。
『しかしどうするのだ?これでは人が多すぎる。食事もそこまで提供しきれん、無事な街などはないのか?』
「今一日を生きる程度ならば良いのですが、確かにこれを続けるのは難しいでしょう。私達の国の食糧分まで減っていきかねません。いくら倉庫があるとはいえそれほどまでに消費していいとは思われないかと」
「テンペストとコリーで街を探す?」
「まずは港街メールを提案したいと思います。あそこには今サイモン達が到着して、現地の様子などは報告をもらっていますので」
「いつの間に……」
「少し前ですね」
以前脱出に使った港街メールは、上陸に使われていたようでやはり壊滅しているようだ。
これはバハムートからの情報なので確かだろう。
ただ、建物の被害は少なめであるということもあるし、何よりも現時点で最強の戦力が集っている事から考えてもそこに逃がすのが良いと判断した。
何よりも海があるということは、そこから魚を取ることも可能だし塩を生成できる。
流れ込む川も近くにあるため水を心配する必要はない。
少しの間はなんとかなるだろう。
「向こうにも避難場所ってあったのかな?」
「まだ報告は受けていませんが、規模の大小はあれどあったと考えたほうが良いかもしれません」
「まあ……徒歩でも行けなくもない感じかなぁ……?帝都はどうするの?」
「それを決めるのは帝国の皆さんですので。……あれは何でしょう?」
「ん?何あれ、真っ白な馬車??」
この場に似つかわしくない白い馬車。
それが瓦礫の散乱する道を進んでこちらへ向かってきている。
俄にホーマ帝国の兵士達が慌ただしくなり、綺麗に整列し始めた。
白い馬車、白い馬、そして白い服で身を固めた者達と、白銀に輝く兵士達。
「……なるほど、皇帝は生きていた、ということのようですね」
「どうでもいいけど、無駄に目立ってるよあれ……白はまずくない?」
「同感だ。上からでもあんな明るい色は簡単に見つけられるぞ。雪山でもない限り無駄に目立つだけだ……。しかし皇帝ってことはお偉いさんだろ?素直に着替えてくれるかね?」
「無理っぽいね……」
話をしている間に門の近くまで到着したようだ。
馬車の上部が開いて、そこから一人の青年が屋根に立って手を振っている。
「……サイモンから話は聞いていましたが、若いですね」
「若くともこの国のトップに君臨してきた人物ですよ、侮らないほうが良いでしょう。……人望はあるのかもしれませんね……。皆、素直に喜んでいるように見える」
「そのようだな。どうするんだ?あんなのを留めて置けるような場所残ってるのかね……?」
「最悪、リヴァイアサン辺りの船室を貸すしか無いでしょう。……私のバハムートにはちょっと勘弁してもらいたい」
「丸投げかよ」
問題なのはその人数だ。
助かった貴族階級以上に人が居るようにみえる。
実際、後ろにずらりと並んだ列は一つの城から全て連れ出したのではないのかと疑いたくなる人数だ。
どうせあの中には侍従やらが入っているのだろう、有事であっても余裕でティータイムをしそうであり、ものすごく面倒な事になりそうだとサイラスを始め皆が思っていた。
そうでなくともバハムートはまだ他の国には明かしていない機能がある。
流石にそれの中に入れて何かされても困るのだ。
あれだけの人数を抱えるとなれば、それなりに危険もはらむということで……警戒するに越したことはない。
「……お偉いさんの世話はお偉いさんに任せようぜ……」
うんざりしたようなコリーの言葉に、全員頷くのだった。
案外人が残っていた帝都。
他の土地でも似たような作りになっているため、偉い人やお金持ち、何かしらにコネがある人達は優先的にその中に入れたり。
当然一般市民は見殺しです。
ただこれは何か巨大災害があった時の世界の対応と殆ど同じようなものなので責めることは出来ませんね。