第百五十七話 黒い魔物襲来
見張りをしているもの達以外が眠りについてしばらくしてから、あちこちでうめき声が聞こえ始める。
『……何だ?』
この中で唯一、睡眠を全く必要としないギアズがそれに気づく。
テントを覗いてみると、コリー、サイラス、ニール、テンペスト、そして従者たち全てがうなされているようだった。
『これは一体……』
訝しむギアズの耳には他の場所でも同じ様なことが起きているのが把握できた。
眠っている者に呼びかける声がそこら中から聞こえてくる。
「ん……ふう……。……ギアズ、どうしましたか?」
『テンペストか。分からん、突然皆がうなされ始めた。ここだけでなくそこら中でだ、何かがおかしい』
「なるほど、先程ひどい夢を見ていましたが……そのせいでしょうか?」
『夢?』
テンペストに話を聞くと、先程眠りから覚める直前まで夢とは気づけ無いほどの夢を見ていたという。
気がつくと一人誰もいないところで目が覚め、延々と魔物が出てくるというものだった。
当然ながら反撃するために魔法を使おうとするが、何故か発動する様子がなく、徐々に追い詰められてゆく。
そこでマギア・ワイバーンを呼び出してコクピットに乗り込み殲滅する方法を取るのだが、その反応すらなかったことから「おかしい」と感じ始めたようだ。
「ワイバーンに搭載されているニューロコンピュータにすらアクセスできなかったのです。流石にこれはおかしいと感じ、様々な分析結果から何者かによる干渉が行われていると判断しました。その瞬間、目が覚めたわけですが」
目視によるデータと感覚のデータが一致しなかったのだ。
なにせ本物のテンペストはテントで眠っている。故に自分の状態を自己診断してみれば「床に横になっている」ということが分かる。しかし……立って、走って、歩いてもそれは変わらずだ。
最終的に睡眠状態であることを確認したテンペストは、覚醒するための手順を取っていった。
『ふむ……。む?血の匂いか?』
「そのようです、どこから……。……!ニール!?」
『何故だ!?攻撃など無かったはずだ!サイラス!!起きろ!』
「ニール、起きて下さい!とりあえず傷を塞ぎ……そんな……!」
眠っている皆のうめき声が変わったのだ。
振り返ってみるとニールの頬に深い切り傷が出来ていた。
サイラスの方もシーツをめくってみれば足に何かで突き刺されたような跡があり、そこから出血している。
そして……ニールの傷を塞いだテンペストの目の前で、肩に深々と何かが突き立てられたかのような傷が付き、ニールが苦悶の表情を見せた。
即座にこの場の全員の傷を癒やしつつ、広域での索敵を行う。
『どうなっている!……いや、まて……このマナの流れ……テンペスト!敵がいる、恐らく向こうだ!』
「分かりました。方位130に絞り込みます。……発見しました。直ちに攻撃に移ります」
テントの真上にマギア・ワイバーンが現れ、音もなく一気に上昇していったかと思うと雷のような轟音を轟かせて南東方面へと飛んでいった。
『なんと……!』
「敵、複数。ランス、フォックス2」
無表情でテンペストが呟く。元々美形で、年の割には大人びた表情を見せるため、冷たい雰囲気を漂わせているテンペストだが……今はそれこそ周りが凍りつくかのような険しい顔をしていた。
それを見たギアズは下手な事は言えないと冷や汗を流す。いや、実際には流れる訳がないが。
ニールが傷つけられたことで、テンペストは怒っていた。ここまで感情を露わにするのは極めて珍しい。
つまり、それだけキレている。
大分離れた場所で爆発が見える。
テンペストが放ったランスがその場に居た6体の敵を吹き飛ばしたのだ。
ギアズがニール達を見るがまだ目覚めない。
未だに苦しみ続けており、更に薄くなってはいるがマナの流れが途切れては居ない。
『テンペスト、まだ居るはずだ。少し待て……』
「了解、上空で待機します」
返事を返しながらテンペストは皆の手当をしている。すでにニーナ達も危険な状態にあった。
治療はテンペストに任せつつ、ギアズは集中してマナの痕跡をたどる。
『……大分痕跡が薄い。この大人数に仕掛けるだけはある。何だこれは……儂らを覆うようにぐるぐると……ふむ、目くらましか。舐めおって』
「ギアズ、まだですか?」
『もう少し。もう少しだ……見つけた。近いぞ!』
場所を手短にテンペストに伝えると、即座に対応したテンペストがそれぞれの場所へとワイバーンを駆る。
「目標を発見。……攻撃開始、敵、撃破」
甲高い魔導エンジンの音と、バルカン砲の低い音が闇に響き渡る。
治療の手を止めず、どんどん無表情になっていくテンペストがブツブツと呟きながらワイバーンを操っている。
流石のギアズもこの場から逃げたくなるほど、テンペストを恐ろしいと思ったのだった。
ワイバーンの咆哮が6回ほど聞こえたところで、全員が目を覚まし始める。
『テンペスト、成功だ。全員目覚めたぞ!敵は全滅した』
「敵の全滅を確認しました。ワイバーンを戻します」
色々とマナの流れを複雑化して、ただでさえ読み取りづらい流れを更に混乱させていた。
その中から術者に繋がるものを見つけたのだ。
ギアズでもなければ恐らく見つけることはできなかっただろう。
相手はよほど自分の位置を知らせない為に策を練っていたのだろうか。
しかし、おおよその場所が分かればテンペストはレーダーや光学機器などもフル動員して敵を見つけられる。
魔法の索敵しか出来なければ見つけられないほど、敵の気配は希薄だったのだ。
2人が居たからこそ、ここまで短時間に事態を収集できたと言っていい。
「うわぁぁぁぁあ!!!……あ?れ?」
「ニール!良かった」
先程までの表情は何だったのかと思うほどに、テンペストは嬉しそうな顔をしている。
あれは自分の心の中に仕舞っておこう、そう思うギアズだった。
「あれ、ああ……良かった、夢だったのかぁ……って、テンペスト?」
「恐らくその夢は敵の攻撃です。頬、左肩、右ふくらはぎを怪我しませんでしたか?」
「した!!したよ!死ぬかと思ったよ!なんかやたら強い槍を持ったやつに追いかけられて!」
ニールもやはり夢を見ていたようだ。
身長3m程もある黒い鎧の騎士っぽいやつが、周りの人達を次々と殺していって、必死でその攻撃を逃れていたらしい。
何故か傷がすぐに治るから平気だったとは言っているが、握っている手が少し震えていた。
「ああ……あれは攻撃だったんですか……。酷い夢でしたよ。全く、サーヴァントごとやられるなんて縁起でもない……」
「……その様子だと攻撃食らってたらやばかったんだな……。逃げてて正解だったか」
サイラスとコリーも話を聞いていたようだ。
どちらもやはり襲われておかしいと思いつつも反撃していたようだ。最も、コリーは途中から逃げに徹して居たらしいが。
「いや……生身でタラスクとか何の冗談だよ。テンペストも居ねぇし、オルトロスもねぇし。こっちの攻撃はかすり傷程度だし。逃げるしかねぇって」
「そりゃぁ……まぁ……そうだよね」
『とりあえず皆無事で良かった。もし次があっても今度はもう対処法は分かった』
「もう二度とゴメンだぜ……眠った気がしねぇ」
「というか、寝てる時の夢の傷が現実にも現れるだなど、危険すぎますよ。致命傷を負ったら現実でも死ぬということです」
事実、この攻撃で何人か亡くなっているらしい。
そしてニーナ達使用人等は兵士達程肝が座っているわけではない。
起きてから何もないことに安堵して泣いているものも居るくらいだ。
「二人共、もう大丈夫ですか?」
「テンペスト様……はい、なんとか。……夢の中で死んでいたら、本当に死んでしまうって……本当なのですか?」
「恐らく。治癒を使える人が近くに居なかった場合、かなりの確率で死亡するでしょう。とても姑息ではありますが、その効果は実に大きいと言えます」
相手の反撃を貰わずに一方的に殺すことが可能なのだ。
どれほどの防壁に囲まれていようとも、眠ってしまえば防壁などは無視できる。
居場所を探知されなければ……だが。
怯える使用人達非戦闘員を落ち着かせ、被害を受けたものたちの治療を優先する。
「ギアズ、夢に干渉するなど出来るのか?」
『夢魔やサキュバスなどがいい例だろう?夢を食う夢魔と、淫夢を見せて精をすするサキュバス、どちらも夢に干渉している。……とはいえ規模が大きすぎる。たった6体で全員に干渉するなど普通は無理だろうな』
「私が倒したのはその倍でしたが……」
『先にランスを撃ち込んだやつだな?あれは恐らく囮だろう。マナの流れを撹乱し、本物の居場所を隠していたのだ』
本来の流れよりも強く見つけやすい物をわざと流し、自分達へと誘導する。
倒したと思って安心しているとまだ効果が続いている為、こちらが混乱するだろうということを見越したやり方に違いない。
相手はこの攻撃を上手く使いこなしていると言える。
「敵接近。大型です。数は10」
「休ませてくれないってのはマジらしいな」
「敵の増援を確認、飛竜と思われます。数は14。ただし反応2つが同時に動いているため、恐らく飛竜と搭乗員です」
睡眠時間が短い上に、全く眠った感じのしない状態で戦闘を仕掛けられるというのが、どれだけストレスになるのかと言うのは良くわかった。
「さっさとぶち殺して寝るぞ!二度と邪魔などさせねぇ……」
「同感です。私のサーヴァントがあんなに弱いわけが無いじゃないですか。思い知らせてやりましょう」
「二人共寝れなかったのがすごくムカついてたんだね……」
ニールが呆れたように呟くが、実際の所自分も結構参っていたのでやり場のない怒りをぶつける相手が出てきたことはちょっと嬉しかったりする。
他の兵士達にも敵襲は伝わったようで、かなり文句を言いながらもギラついた目で戦闘準備を始めていた。
「敵更に増援確認。小型~中型です。数は多いですがこちらは歩兵たちに任せましょう。ニール、私の身体を」
「任せて!エキドナの中なら安全だよ」
「よーっし、ラルフ、出るぞ」
「ええ、行きましょうナイトレイ殿」
セイカーとマギア・ワイバーンが出現してそれぞれコクピットのハッチを開く。
離陸する頃にはすでに飛竜達は目視距離まで近づいていた。
『飛竜から小さな反応がそれぞれ4つ離れていきます。先程までは感じられなかったのですが……』
「あれは……小さめの翼竜か?」
『飛竜に魔鎧兵がぶら下がっています。なるほど、鈍足であってもあれならば各所へ素早く移動することが出来ますね』
「感心してる場合かよ。こちらマギア・ワイバーン、全員聞け。敵飛竜には魔鎧兵がぶら下がってる。あと何処に居たのか小さい翼竜が居るが正体は不明だ。警戒しろ」
ショートランスを飛竜に向けて発射する。
凄まじい速度で光の尾を残して飛竜へと向かうショートランスだったが……。
『翼竜にブレスの反応。回避を!』
「何だと!?」
テンペストの声とほぼ同時に、ランスに向けて闇よりも黒いレーザーの様なブレスが放たれた。
射程は短めだが正面から近寄っていたセイカーとワイバーンもその攻撃の射程内に入っている。
合図と同時に避けた結果特に問題なくコリーは避けることに成功した。
『うわああ!?』
「ラルフ!大丈夫か!!」
『な、なんとか!翼に喰らいましたがそこだけごっそりと持って行かれました!』
「おい、まさか……」
『ランスの撃墜時の映像を解析していますが、ブレスが通過した所が瞬時に消滅しているように見えます。帝都プロヴィルのラインを作り出した物と推定します』
コリーがその意味を理解して戦慄する。
プロヴィルの建物等を綺麗に真っ二つにした兵器もしくはブレスの持ち主が今、眼の前に居る。
音速を超えるランスを迎撃して消滅させ、セイカーの主翼の一部を切り落とした。
幸い操縦に支障はないものの、絶対に掠ってはならない危険な攻撃であることには変わりはない。
「やべぇぞ……!ワイバーンに当たったらどうなる?」
『分かりませんが、超高熱ならば耐えられますが……熱は特に感知されませんでした。もし物質の消滅などの力を秘めているのであれば、何を持ってしても防御は不可能と思われます。対抗する場合は魔法防御が必要です』
物理的な守りは役に立たない可能性が高い。
しかし魔法防御であっても高密度の攻撃であるブレスだ。それなりのものを使わなければ瞬時に消滅する。
本来分子や原子レベルで分解するには高エネルギーが必要となり、
「……出来るか?」
『解析が必要です。それよりも物質を消滅させるというのであれば、私には切り札があります』
「何かあったか?」
『レーザーです。純粋なエネルギー兵器であれば、消滅させることは出来ないはずです』
「なるほど、着弾までも一瞬だ。兵装を切り替える。ラルフ、お前はショートランスを放ってあいつらの攻撃が地上と俺達に向かわないようにしてくれ」
『了解です。地上には連絡しておきましたので警戒してくれているはずですよ』
ラルフに言われてコリーは警告を発するのを忘れていたことに気がつく。
これじゃリーダー失格じゃないかと自嘲し、あの程度で混乱した自分を落ち着かせる。
当たらなければ別に脅威ではないのだ。
テンペストと違って向こうは生身、そして判断力等は全てテンペストが勝っている。
「全く、びっくりさせやがって……。テンペスト、翼竜を優先的に落とす。記録も取っておいてくれ」
『分かりました。フェイズドアレイレーザー、オンライン。目標の追尾はお任せ下さい』
「頼んだぞ!俺は回避に専念する」
ラルフがショートランスを立て続けに発射していく。
それに翼竜達が反応して次々と撃ち落としていくが、途中で撃ち漏らした。
一発は飛竜に命中したが、魔鎧兵はもうその足には下がっていない。
「いつの間にか魔鎧兵が投下されてるな……それと……テンペスト、こっちの攻撃が当たっているぞ」
『観測済みです。あのブレスは連発できないようです。飽和攻撃でも十分対応できるかもしれません』
「まあいい、今は焼き鳥にしてやる」
攻撃目標を指示してコリーがトリガーを引く。
大容量のマナを生成しながら飛ぶマギア・ワイバーンにとってレーザー兵器はコスト度外視で放てる万能武器だ。
黒い翼竜があっという間に真っ二つになりそのまま火の玉となって地上に落ちていく。
『撃墜確認』
「次だ次!」
チャージが完了したのか、残りの翼竜達のブレスが一斉にマギア・ワイバーンに襲いかかる。
その頭の向きを確認して瞬時にテンペストが攻撃予測を表示させると、それに合わせてコリーは回避行動をしていく。
「くっっそ!!予測とほぼ同時に攻撃が来やがる!」
『垂直尾翼にダメージ。問題ありません。3匹目の撃墜を確認』
たまにセイカーが攻撃を自分に集めて翼竜に無駄撃ちさせる。
飛竜は地上へ向けて降下し、火球を放っていたが、そちらはニールによるレールカノンの狙撃によって撃ち落とされていた。
「おお、ニールもやるじゃねぇか」
『よそ見をしている暇はありません。ブレスが来ます。目標を設定して下さい』
「攻撃と回避同時っての結構きっついぞ!?」
まるで檻のように赤い攻撃予測ラインが表示された瞬間に、その隙間を縫って攻撃を回避しつつ、即座に翼竜に向けて目標を設定してトリガーを引く。
これらをほぼ同時に行いながらも文句を垂れるくらいには余裕があるようだ、とテンペストは判断する。
目標指示を受けて、高速で移動するマギア・ワイバーンと、複雑な動きでこちらの攻撃を回避しようとする黒い翼竜への直線を効率よくエネルギーを伝えるために計算を行い、照射する。
一瞬で小さな身体は燃え上がり大穴が開くか切断され、命が消えた翼竜は黒焦げになりながら地上へ落ちていった。
「よっしゃ次でラストだ」
『照射開始、……撃墜確認。飛竜、翼竜全て撃墜されました』
『こちらセイカー。下の方もほぼ終わったようです』
「……まあ、そうだろうな」
『ライナー殿、相当怒ってましたからね』
サーヴァントの強さを見せつけてやると息巻いて出ていったのだ。
フル装備で。
事実サイラスと不運にも当たってしまった大型の魔物は悲惨だった。
夢で一方的にやられたことをそのまま倍返しにするなどと言って、出会い頭に仕込みのショットガンによるスラグ弾を撃ち込まれ、全ての関節をパイルバンカーによって破壊され……頭部を切り落とされている。
その暴れっぷりにはルーベルとコーブルクの魔導騎兵隊も、誰も近寄らなかったほどだ。
ホーマ帝国はといえば、その性能差に驚愕するのに忙しい。
走っても追いつけず、その動きは流れるように滑らかで無駄がない。
使っている武器も洗練されており、自分達が使っているような物よりも遥かに威力がある。
「伝説の巨人であっても、あそこまで動けないだろう」
とはその時一緒に居たホーマ帝国の魔鎧兵乗りの言葉だ。
戦力の差に驚きつつも、それらが今味方となっていることでホーマ帝国軍の士気は高まっているので良いのだが。
□□□□□□
「こいつはマジで怒らせるとヤバいからな」
「失敬な。そうそう怒ったりしませんよ、私は」
「普段怒らないやつがキレた時とか、それ一番怖いやつだろうが!」
戦果報告をしていると、周りの兵から鬼神の如き働きをしたサイラスの駆るサーヴァントの様子がテンペスト達にも伝えられた。
実際多重人格者の疑いがあるサイラスなので、ニールもテンペストも「まあ、そうだろう」と思っているわけだが。
「テンペスト達の方に居た正体不明の翼竜も気になりますね」
「詳しくはこれにまとめてあります」
そう言ってテンペストが渡したのは紙の束だ。
敵の翼竜の姿形、特徴、ブレスに関する考察などが詳しくまとめられている。
「うわ、すっごくわかりやすい」
「テンペストはこれやらせると本当に凄いよな……。それにしてもなんか、気持ち悪い姿してるなこの翼竜」
「ええ、翼竜というよりもこれは……」
飛竜を小さくして手を無くしたような形をしている翼竜だが、見た目は飛竜などと同じように蜥蜴に似た物となっている。
しかしこの黒い翼竜は、どちらかと言うと蛇やミミズが4つに割れる口を持ち、胴体を膨らませて羽をつけた……そういう物に見えるのだ。
「ブレスはそこにも書いてありますが、恐らく触れたものを消滅させるものです。射程は約400m程で、その挙動はレーザーなどに近いですが熱は発しません。黒い理由は光を吸収するものかと思いましたがこちらのレーザーは素通りしたのでそういうわけでもありません。防御は物理的な物では不可能と思っていいと思います。オリハルコン製の部品も消滅しましたから」
「あの最強の金属と言われるそれもか……。……待て、くらったのか!?」
「数発掠りましたが飛行に問題は有りません。急ぎで修理をしてもらっていますが少し時間がかかるでしょう」
修理が終わるまでセイカーとワイバーンは飛ばせない。
たった1日ではあるものの、これからの事を思うともどかしかった。
「あ、私から少し伝えたい事が」
サイラスが手を挙げる。少し考えているような顔をしているが、あまりいい事を言うつもりはないのかもしれない。どうぞ、と促されて話し始めた。
「今までの戦いですが、確かに手数は多いものの倒しきれそうな数や戦力ばかりです」
「それは……君たちだから、ではないのか?」
「それもありますが、本気で潰すつもりなのであればアンデッド等をけしかけて来るだけではなく、それもただ力任せに等ということは間違っても無いでしょう。事実、あの夢に干渉するものに関してはこちらを撹乱して攻撃するという高度な事をしていたのですから」
きちんと考えて攻撃が出来るはずなのに、ただの力押しでけしかけるだけなどナンセンスだろう……というのがサイラスの考えだ。
「……つまり?」
「我々の戦力、そして戦い方を観察されているのではないかと」
それまで魔物達を蹴散らして高揚していた気分は一気に冷え、室内に重い雰囲気が漂った。
テンペストとワイバーン大活躍。