第十五話 王立図書館
テンペストがロジャーの元へと来てから半月がたった。
未だにマナの実は慣れないようだったが、それでも毎日きちんと食べている。
おかげで魔力保有量は最初の時と比べて大分上がっていた。幼い頃から繰返すことでその容量は増えやすくなるのでテンペストにとっては今が成長する時なのだ。
そして今日はここに来て初めてのお休みの日。
2週間の内に1日だけ与えられる完全なお休み。その間はどこで何をしていても構わないと言う。
コリーとニールはどうしているのか聞いてみたら、こういう時にはお金を稼いでみたり、気晴らしに王都の街中へと出て遊んでくるということだった。
今日は二人共すでに朝から居なくなっており、ロジャーと2人で朝食を食べている。
「テンペストは出かけないの?」
「いえ……ただ、どう過ごせば良いのか分からなくて」
「あの2人みたいに遊びに行ってくればいいじゃないか」
「そうですか……ちなみに2人はどこに遊びに行ったのですか?」
歓楽街……娼館街である。
テンペストが来てから悶々としているニールはもちろんだが、コリーも流石に限界が来ていた。
すっきりして帰ってこようと言う魂胆である。
それを大体察しているロジャーはどう返答したらいいものかと考えたが、話を逸らすことにした。
「まああの2人はいいよ。君のことの方だテンペスト。何か、やりたいことなんかはあるのかな?」
「そうですね……。知識。もっと色々なことを覚えたいです」
「部屋の本じゃ足りなかったかな?」
「あれはもう覚えました」
正確には本をまるまる記憶の中に仕舞ってあるような状態だ。必要に応じて情報を任意で引き出せる。
流石にこれにはロジャーも舌を巻くしか無い。試しに適当なページを指定すると本当にそのページの内容を一字一句間違えずに答えられているのだから本当であると認めるしかなかった。
「うわぁ……完全に暗記してるんだね……これは流石に予想外だった。じゃあ図書館にでも行く?」
「是非。様々な知識を覚えてサイモン達の役に立ちたいのです」
「そうだね。それじゃあ図書館に行こうか。魔法に関してわからないことがあったら僕が教えよう。テンペストはこっちに来てから驚異的な勢いで実力を伸ばしているから、先に知識だけ渡しておいてそれを目標にしてもらうというやり方が出来そうだしね。むしろ自分のやりやすいように作り変えてしまいそうだよ。これはニール達でも出来ることではないんだ、そのある種特殊能力と言っていい力は流石に精霊といったところか……。まあ僕にとっては君は優秀な生徒だ、優秀なら優秀なりに伸ばし方はあるよ。じゃあ着替えてくるといい。ローブは着て来たほうが良いね」
これから行く所は王都の大図書館と呼ばれる所。
魔道書と呼ばれる魔法に関して書かれている本もあれば、様々な図鑑などもある。
優秀な本だったり、貴族がお金を使って複製したものだったりという物であれば、ある程度複製されて市場に出回ることもあるけど、お金がなくて複製本にはならなかったけど優秀な内容のものや理解されない内容のものも数多く収められているという。
中にはただの物語だったり、オトナのための本も。
当然、本自体が貴重なものであるため、立ち入ることの出来るものは限られており、本来テンペスト一人で来た場合は入れなかった可能性が高い。
ロジャーと一緒に来ることでその身分が証明され、その中にある本を見る権利を持つことになる。
王都の中心地にほど近い場所に、とても広い敷地を持った場所がある。
そこが王立図書館、通称大図書館だ。
窓はなく、神殿のような作りをしたその図書館の警備はとても厳しいものだった。
「なぜこんなに警備が居るのでしょう?」
「本が貴重というのもあるけど……ここには魔導書も沢山集まっているんだ。となると自制心のない者がたまに暴走したりすることがあってね……あっ」
外のベンチで紙を見ながらうんうんと唸っていた青年が爆発した。
正確には青年の手元が突然爆発した。
理由は単純。本の持ち出しは禁止されているため、使いたい魔法でも紙に移して持ちだしたのだろう。これ自体は犯罪ではない。犯罪になるのは敷地内で魔法を使うという行為そのものだ。
自分が出した爆発の為自分にはダメージはさほど無いものの、気がついた時には警備の者達に囲まれて首輪をかけられていた。
「あの首輪はなんですか?」
「対魔法使い用の切り札みたいなものだよ。あれを付けられると体内の魔力の流れを乱されて魔力を練り上げることが出来なくなるんだ。つまり、魔法を使うことが出来なくなる。後でテンペストにも体験だけはしてもらうよ」
「そういうものもあるのですね……」
これから彼は連れて行かれた先でこってりと絞られた挙句に多額の賠償金を支払わされることになるだろう。
そして一定期間の魔法封印を言い渡される。あの首輪は特殊な物で、一度期限を設定するとその期間は絶対に外れない。無理に外そうとすると吹き飛ぶように出来ているため、死にたくなければおとなしく期間内を過ごすしか無いだろう。
これが悪用された場合、魔法使いはほぼ無力化されてしまう。その為この類の道具には特に気をつけなければならないのだ。
「ロジャー、なぜここだけは窓がないのですか?」
「ああ、窓があるとそこが弱い場所になってしまうというのもあるらしいけど、一番の原因は陽の光が本に当たらないようにするためだね。ずっと陽の光にあたっているとインクが薄くなって見えなくなったり、本自体がぼろぼろになるんだ。虫に食われたりすることもあるから定期的に浄化魔法がこの建物全体にかけられたりもしているそうだよ」
警備の特に厳重な入り口を通ると、漸く室内に入ることが出来る。
中は照明の明かりが押さえられており、本に気を使っているのが分かる。学者風の者や魔法使いらしき者達が一言も発すること無く机に座って持ってきた本を読んだり、書き写したりしている。
「普通はああやって紙に書き写して行くんだ。テンペストは覚えられるようだから必要はないだろうね。今個室を借りてくるから少し待っていてよ」
受付らしき場所へとロジャーが歩いて行き、手続きを始めた。
ぐるりと内部を見ると、外から見た印象と内部の印象は全く違う。
所狭しと並べられた本棚に大小様々な本が置かれていた。
近くにあった本を手に取ろうとして、図書館の係の人に止められる。
「お待ちを。失礼ですが本を傷つけないよう、手袋をしてもらうことになっております。素手では絶対に本を触らぬようお気をつけ下さい」
「失礼しました。なるほど、本を大事にされているのですね」
「ここにあるのは国中だけではなく、他の国から来た本も数多く存在します。その全てが貴重で複製されていないものがほとんどなのです」
複製はスキャナーとプリンターがあるわけではなく、手作業での写し作業となるため、複製品だからといって安いわけでもない。
ただし、複製を作る者であっても文字や絵の上手さによって金額は上下するという。
「お待たせテンペスト。この手袋を付けて本に触ってね」
「おお、これはロジャー様!と、いうことはこちらのお嬢様は……」
「僕の弟子だよ。とても優秀でね、世間知らずではあるけど驚異的な記憶力を持っているのさ。彼女が写本を作ったらきっと皆びっくりするよ?まるで判子で押したかのようなとてつもなく綺麗な文字を書くんだ」
「ほう……それでは時間のある時で構いませんので、……こちらの本を試しに写してみてもらえないでしょうか。写本師はいくらいても足りませんし、報酬はかなりいいですよ、どうですか?」
「これはここで書かなければならないのですか?」
「いいえ、その本は中身を見れば分かりますが基本的な写本に関しての技術を見るための本です。なので沢山あるので問題ありません。それを一冊お貸ししますので持ち帰って家で作業していただいて構いませんよ」
そもそも図書館の一室を専有して写本するのは難しい。
利用者も多いためずっとこもられていると迷惑になるのだ。その為もし契約して写本を作ってくれるとなれば、この図書館に併設されている宿屋の様な施設で一室をそのまま借りて写本を作成することが出来るようになっている。
「勉強になるし、お金も稼げるからやってみると良いよ。それをやりながらの修行になるから忙しくなるかもしれないけどね。さ、借りた部屋はこっちだよ。あぁ、飲食は禁止。もしインクを本にこぼしたら違約金を払わなければならないから気をつけてね。インクだけじゃなくて汚れは一切禁止だよ」
ロジャーが借りた部屋は執務室の様な少し豪華な部屋だった。
とは言え飲食が禁止されているだけあってグラスなどは一つも置いていない。
トイレがあり、いちいちトイレに行って戻ってきた時には席が取られていたなんていうことがないのが個室のいいところだ。
ペン、インク、紙等は部屋に置かれており、使用した分だけ金額が上乗せになる様になっている。
紙はとある魔物の皮を加工したものだそうだ。1匹当たりでかなりの量が取れるため今では羊皮紙に取って代わって使われている。
インクののりもよく、にじみもないため紙として使うにはとてもいいのだとか。
「そして……ここが魔道書の区画だよ。一度に持ってっていい本の数は3冊まで。専有されるのを防ぐためにそうなってるから気をつけて。後、流石に禁書とされている物はここには無いから」
「禁書とは何ですか?」
「政治的に危険と判断された物や、登場人物がちょっとまずい官能本が大半。後は修復したくても出来ないボロボロの本やあまりにも危険過ぎると判断された魔道書の類だね」
ちなみに、本を開いただけで発動するトラップのような物も実際にあり、開いた瞬間にそこらじゅうから魔物が湧きだすという迷惑なものがあったりする。
そういったものは禁書の中でも厳重に保管されており、手順を踏んで解除、そして内容を解析していくことになるのだ。
ニールが行った異空間への収納と同じように、魔物が湧きやすい所へと繋げた転移系のものだとされているが、出てくる魔物はどう見てもこの世界のものとは違っており、本来は空間魔法によって何かしたかっただけなのに変な所に繋がった結果ではないかと言われている。
「あの魔法はそんなに恐ろしいものだったのですか」
「いや、それを防ぐために今は空間拡張をした部屋とかに繋げるようになってるよ。ニールもあれでいて意外とお金持ちなんだよ?まあ、だからこそ耐性がないというか……。でもここに来てテンペストが居るおかげで克服できてきたみたいだけどね」
「?……まあ、役に立っているのであればいいのですが」
残念ながらテンペストにはまだ「好き」という物は好物程度の意味しか持ち合わせていない。
人からの好意と言うものに気づくのはいつの日になることやらと、ロジャーは嘆息する。
ニールが哀れでならない。
そしてテンペストはロジャーに色々と聞きながら本を選ぶ。
色々と使い勝手の良い空間魔法に関しての技術書を2冊。そして、金属を加工する鍛冶の創造魔法を1冊。
いつかワイバーンが復活した時、空間魔法によってガレージに格納していつでも使えるようにしておきたいと考えていた。魔道具化したワイバーンであれば特にメンテナンスが必要なくなるため、そういった部分でかなりの手間が省けるようになる。そして、お金を稼いである程度広い土地を購入したいとも思っていた。
当然、ワイバーンのガレージ建設のためである。
その為に必要なお金をロジャーに聞いてみたところ、手持ちの金額では全く足りなかったのだ。
どのみちお金を得る事はしなければならなかった。
そこで鍛冶の創造魔法だ。写本も合わせて製造職に就く。ハンターとして登録したものの、どのみち暫くは体力をつけなければ付いて行くのは辛くなるのは明らかだった。
それを前回のコリー達との狩りで思い知った。
山道を歩くと筋力を底上げしているにもかかわらず、強烈な疲労が出たのだ。慣れない山道を歩く事があそこまで負担になるとは思っても見なかったこと。その為移動に関しては相当2人を待たせていた自覚はある。
またレッサーオーガに襲われた時、疲れから足がもつれて転んでしまった。
息がなかなか整わなければまともに魔法を放つことも出来ない。
今のままではハンターとしてやっていけないとつくづく感じたのだ。
「おっと、テンペスト駄目だよ魔法は禁止。試すのは帰ってからだよ。来るときに見た人みたいに首輪嵌められて連れてかれちゃうよ」
「失礼しました。……ふう……頭のなかで考えただけでも発動しそうになるのは気をつけなければなりませんね」
「だから魔法使いは危険なんだよ。集中して居る時なんかは特に頭のなかで考えたことが、そのまま周りで起こる時があるからね。初心者に多いミスだよ。これで力のある人がやらかすと本当に目も当てられない事になっちゃうんだから気をつけてね」
恐らく誰でも思ったことがあるだろう「自分だったらこうする」という想像。
あの場面に自分が立っていたら、こういう風にかわしてこれをこうして……というものだ。魔法を主としていない者がこれをした場合は特に問題ないが、魔法使いが本気でこれをやると、周りでその状況が再現されてしまうことがある。
かつて軍師であった魔法使いがそれをやってしまい、味方の陣地内で暴走した結果幽閉されたこともあるほどだ。だから魔法使いは確実に自分のイメージというものを確固たる物に築きあげ、必要な場面以外では絶対に発動しないように気をつけなければならない。
「まあ最初のうちは難しいだろうからこれを貸してあげる。マナ散らしの腕輪だ。つけていれば頭で考えてるくらいじゃ魔法が発動することは無いよ」
「ありがとうございます。……確かに、体中の魔力が散らされていく感じがします。……でも、どうしてこれをロジャーが?」
「いやー……まぁ、僕も昔やらかしたことがあったからね……今でも戒めにそれを持ち歩いてるんだ」
味方の陣地内で暴走して幽閉された魔法使い。それはロジャーの事だったりする。
2人目の予言の相手を探す際に、魔物が溢れ……その時の軍師がロジャーだったのだ。妙に知性的な動きをする魔物に翻弄され多大な被害が出てしまったため、ロジャーが根底から作戦を練り直す必要があった。その時、頭のなかでシミュレートしていたのだがそれが陣地内で吹き荒れてしまったのだ。
作戦を決めて顔を上げた時、そこにあったのは呆然とした顔をして自分を遠巻きに見ている仲間の兵士と。
槍を向けて警戒する上級兵士の姿だった。
その後30年ほど表に出ることはなかったが、優秀だったこともありなんとか許しが出て、優秀な弟子を育てるという条件でこうして外で暮らせるようになっている。
が、それを弟子たちに話したことは一度もない。
流石に格好悪すぎたのだ。
多くを語ろうとしないロジャーに、無理に何をしたのか聞くこともなくテンペストは次々と頁をめくって内容を記憶していく。
「……早いなぁ……よくそれで記憶できる物だよ、羨ましいね」
「元AIですからこういった作業は得意なのです。最も、あまり溜め込みすぎるのも良くはないでしょうが……それに内容が重複している部分も多いためそれを最適化するのに少し時間がかかっています」
「何言ってるのかさっぱりだよ。とりあえずテンペストが凄いことだけはよく分かった」
しかし、暫く読み進めて20冊に届こうかと言う所でロジャーによって止められた。
「テンペスト、それ以上は危険だ」
「え?」
なぜ?と聞き返そうとした時、テンペストの鼻から血が滴り落ちる。
本はすでにロジャーによって回収されているため無事だ。
脳をニューロコンピューターと同じように扱うことで、無理矢理記憶を進めていたものの……それはやはり負荷が掛かり過ぎるようだ。
今日はこれが限界と判断したロジャーによって、いつの間にか熱が上がっているテンペストは個室の隅で寝かされていた。
「まさか体のほうが限界に達するとは思っていませんでした」
「どうやらかなり負担がかかるみたいだね。1日に覚えられる量は10冊程度に止めたほうがいいかもしれない。これからもかならず僕が付いていよう。じゃないと知らない所で勝手に死なれちゃ困るよ」
「迷惑をかけてしまいました、すみません、ロジャー」
「はは、それに関しては気にしなくていいよ。可愛い女の子を看病するとか男にとってとてもやりがいがあるものさ。ニールが聞いたら血の涙を流して悔しがりそうだ」
ロジャーの脳裏に本当にぎりぎりと歯を食いしばって、自分のことを血涙を流しながら睨んでくるニールがよぎった。ありそうだ。
治癒の魔法もこの館内では禁止されている。
またあのつまらない場所に戻るのはゴメンなのだ。
少し落ち着いた所で図書館を後にし、一度病院へと立ち寄って診察を受けていった。
異常自体は特に見当たらなく、自分の限界を超えた魔力の行使などが問題だったのだろうということになった。実際は脳の使いすぎだが。
「……治癒の魔法も覚えておいたほうが良いですね」
「色々と使える魔法ではあるけど習得は難しいよ?」
「こちらの知識に加えて元々持っている医療知識を合わせて持っているので人体の構造などに関しては問題ありません」
「本当に便利だよねそれ……」
心底うらやましい能力だ。
そして2人は屋敷へと戻り、今日覚えてきた物を1つずつ試していく。
適当に作った布の巾着袋を手にして、その空間を広げるイメージを持つ。
正確にその大きさを把握しているテンペストは、自分がしたい大きさのイメージをはっきりと持つことが出来た。
『空間拡張、2倍拡張』
「出来ました」
「……ああ、うん、確かに出来てるね。こんなにあっさりと空間拡張成功されると立場ないなぁ……」
「ロジャーの教え方が上手いのです。私にとって分かりやすい説明をしてくれているので助かります。それに……やはり今はまだ2倍が限度のようです。容積自体は4倍になるのでそれでもかなり有用ですが……やはりあのハーヴィン領の道具屋の方はかなり優秀な方だったのですね」
「10倍まで出来るって言ってたんだっけ?ものすごく優秀だよ、間違いなくね。王都で店構えていても不思議じゃないレベル。その背嚢はそこで買ったのかぁ。大事にしなよ、作りもしっかりしているしとてもいい物なのは間違いないから」
見た限り縫製技術も拡張技術もかなりの腕前であることには間違いはなかった。
なかなかそこまでの物は売っていない。
それにしても、結構難しいはずの空間拡張をあっさりとやってのけるテンペストはやはりセンスの塊のようなものだと改めて思い知らされる。
というよりも、計算などをしなければならないものに関しては特に覚えが早い。
逆に感覚的に行うようなものは習得に時間がかかっている。
通常のフレイムランスのようなものも、イメージを固定させるまでに時間がかかったというし、自分の頭の中で確実に思い浮かべたり計算できるような事に特化しているのだろうと思う。
「戻りましたー」
「お帰りニール、コリー」
「うおっ、テンペストはずっと勉強していたのか!?」
ロジャーと共に机に向かって色々とやっているテンペストを見てコリーが驚く。
ある意味やりたいことではあったものの、図書館での行動はやはり勉強といえるものだから特に間違いではない。
「遊びに出て気持ちよくなってた君たちとは違って、テンペストは凄いよ?頑張らないと2人共あっという間に追い越されちゃうよ?ニールも荷物持ちの仕事取られちゃいそうだしね」
「まさか!テンペスト空間魔法を!?」
「成功しました。まだ2倍ですが」
「すげぇぇぇさっすがテンペストだ!ニールとは違うな」
そして空間魔法を成功させた事を知り、ニールは呆然として、コリーはそんなニールを見て笑う。
しかし自分の電撃に関しても威力こそ弱いものの、扱うことは出来るようになったテンペストに2人共抜かれてしまうかもというロジャーからの警告は重くのしかかるのだった。
この日を境にちょっとだけ2人は真面目に取り組むようになって、教え甲斐が出てきたと後にロジャーは言う。
□□□□□□
「ぜー……ぜー……ぜー……」
「本当に体力ないよな、テンペスト……」
「あ、足が震えて……」
テンペストたっての希望でコリーが体力をつけるためのトレーニングをしているのだ。
軽くランニングから初めて準備体操の時点でこの状態である。
というかランニングの時点で相当いっぱいいっぱいになっていた。
実際メニューとしては相当軽くしているのだが、歩くだけならまだしも、走ったりとなるともう体力の消耗が激しすぎるのだ。
ちなみに自己強化は禁止されている。
これですでに一週間が過ぎているがまだ準備体操から先へ進めていない。
ぼたぼたと滝のような汗が流れて地面を濡らしていく。
「それにしたって、完全に最低限の装備だけだぞ。鎧だってテンペストのは殆どつけてる感じがしないレベルだし、弓とナイフ位だろ、ちょっと重いのは」
「そう、なのですが…………」
「どうする、また今日もやめておくか?」
「……いえ、今日は先に進みます」
「よし、なら立て。あまり休むと動けなくなる。取り合えずこれを飲んでおけ」
瓶に入った水を飲み、一息ついてすぐにトレーニングが始まった。
棒を渡されてひたすらに振る。力の無い弱々しい振りだが焦ってはいけない。
「もっと鋭く。最初から最後まで同じ速さだぞ、それでは何の意味もない。構えて、振って、止める。その全てが違う動きをしているんだぞ。よく見ていろ、お前の振り方は……こうだ。肩、腕、手首全てが固まっているからどこをとっても同じ速さの役に立たない振りになる。だが……」
ブン!と同じもの振っているとは思えないような音がして、振り切った後は綺麗に静止している。
先ほどのヘロヘロした感じとは全く違う印象のものだ。
「……関節の動きも重要ということですね」
「そんな感じだ。表現しにくいんだけどな、しなりを加えるというか、とりあえずはその棒の先端が手元よりも早く動く事を考えながらやってみればいい。そうすれば最小限の動きで最大の力を得ることが出来る。……まあ俺も戦闘に関しては他のハンター共には負けるからなぁ……」
それでも、この中では一番筋肉があって肉弾戦であってもある程度の強さを持っているのはコリーだけだ。魔法もそれに合わせたようなものが多い。
「たぁ!」
「ほら、ブレてるぞ!」
それから30分後、漸く「朝食前」の訓練が終了した。大体1時間程の短いトレーニングだが、すでにテンペストは立つことも出来ないほどに疲れているのだった。
この日、一番困ったのは食事の時にスプーンすらもまともに持てないほどに手が震えていたことだろう。
巨大な図書館、ブラジルにある幻想図書館みたいな感じの雰囲気って大好きです。