第百五十二話 ホーマ帝国偵察
ネット小説大賞5の二次選考落ちました!
ダメでした~。
ルーベルの港に到着した直後。
最後に到着したのはハイランドの船だった。
まあ、一番遠いから仕方ない。
一度艦長や航海士など一部の船員だけが船を降りてどのように艦隊の陣形を組むか、そして戦闘時における役割分担や展開方法等などを確認して戻ってきた。
それぞれの船の性能が全く違う為、防御重視のルーベルの船が先頭となり、それに続くようにリヴァイアサン、バハムートが縦に並ぶ。
両脇にはコーブルクとハイランドの中型船を配置して広域索敵を可能としている。
もちろん、セイカーによる空中での索敵も行う。
海中に関してはハイランドはソナー以外は特に対策はしていないのだが、コーブルクとルーベルは魔導騎兵を水中仕様の物に改造したものを保有しており、それらが海中での索敵を担当する事になったようだ。
「博士のサーヴァントは水中仕様にしないの?」
「しません。陸と海では全く違いますし、推進用の装置などをつけるなどとすれば陸上戦でのデッドウエイトとなりますから。水中を泳がせたいのであれば、それ専用のものを使ったほうが良いでしょう」
無駄な装備を取り付ければその分機体重量が増える。
空を飛ばすことが出来るサーヴァントは特に水中に潜る意味はない。装備も大半が使用不可能になる水中での活動は専門機に任せるのが一番なのだ。
「潜水艦は作らなかったのですね、そういえば」
「潜水艦?」
テンペストがサイラスに聞けば、初めて潜水艦という言葉を聞くニールが首を傾げた。
水中での活動を可能にする乗り物というのは、今のところあの魔導騎兵だけだ。
それ以外は魔物位だろう。
「常に水中で活動することが可能な船のことですよ、ニール。海面下を探る手段のない船なら一方的に破壊できます」
「怖い!あれ、でも何で作らないの?」
「確かに高性能なものは作れますが……耐圧試験などで少し時間がかかるのですよ。なので作らないというよりは作る研究をまだしていないという感じですね」
作るからにはきちんとしたものを作るため、そしてサイラス自身も潜水艦の設計をしたことがないため色々とわからないところが多い。
恐らくは魔法金属などによるゴリ押しでもなんとかなるとは思うが、どれくらいの圧力に耐えられるかなどの情報はやはり欲しいのだ。
サーヴァントやホワイトフェザーのコクピットも防水仕様になっているが、試験はしていないためどこまで耐えられるかは不明のままだ。
基本的には腰から下までが水没する程度に留めるという運用方法にしているくらいで、あまり積極的に潜るつもりはない。
陣形を整えて出発すれば後は早かった。
以前のように休憩のために島によることもなく、そのまま海流の場所まで到達する。
流石にあのホーマ帝国からの脱出時に敵から奪った推進装置は皆取り付けているらしい。
一気に加速してそのまま突っ切ることに成功した。
渦もかき消す勢いで次々と大きな船が突破していく。
「それにしても、隣の船と離れ過ぎじゃないの?あんなに離れてたら何かあった時に駆けつけられないような気が……」
ずっと海を見ていたエイダが素朴な疑問を口にする。
テンペストの知る艦隊の陣形に比べれば相当コンパクトなのだが、数キロ程度離れているというのがすごく不思議らしい。
それぞれが長距離射程の大砲を装備し、船速の速い船だ。
ある程度離れていないと危険だし、索敵するにも離れていればそれなりに広範囲を見ることが出来る。
とは言え、この海には真下から突然出てきて襲ってくるような魔物も居るので、距離を開けすぎて各個撃破などされても怖いために少し間隔を狭めている程度だ。
当然リヴァイアサンとバハムートのソナー、そして魔法による気配感知などを併用して二重にチェックしている。
しばらくは少し波が荒れているとはいえ特に問題のない船旅が続いた。
□□□□□□
3日目。
嵐が来た。以前のような激しさではないが、それなりに海が荒れている。
船内はそこまで揺れないまでも、やはり船酔いだけは避けられなかったようだ。
今回は特にエイダが酷い。
既にぐったりしたエイダは部屋へと運ばれていき、今は横になっているそうだ。
こういう時は大体眠っておけば間違いない。
「僕は……そこまででもないかな?」
「私達もそこまででは……。あれに比べたらというのもありますが、今回は前方が見えるからでしょうか。少し心構えが出来ますね」
「ああ、そうか。前から波が来てたりするのが見えるから構えられるんだ」
船の前方が見える位置にある部屋は少ないが、テンペスト達の部屋は基本的にそちらに面している。
進行方向が見えていればある程度は予測できるために楽になるのだ。
手元を見ているのが一番危険だ。
「皆も大丈夫かな?」
「それぞれ部屋に帰って居ますが、大丈夫でしょう。以前と違って昼間ですし波もあのときほど酷くはありません。ただまあ、……ニーナ、メイ、動いて壊れそうなものは全て固定するか箱に入れてあるかどうかチェックを」
「はい、畏まりました」
雨脚が強まり雨が甲板を叩きつける。
昼間なのに段々と薄暗くなっていき、外の景色はどんよりと鈍色となった。
どうせ敵も居ないので明かりをつけて室内でゆったりと過ごすことにする。
と言ってもすることは殆ど無いのでニールと一緒にベッドに座って話をするくらいだ。
この船に関してや、異変が起きるのを食い止めた後はどうするのか……。
「……特に考えていませんが、恐らく普通の生活に戻ると思います」
「んーそれもそうなんだけど、ほら、テンペスト達はこの為にここに来た感じじゃない?目的は達成して世界は救われて……とても凄い功績を残すんだよ。普通の生活と言っても難しいかもね」
「それはニールも同じです。あなたは私とともに暮らすのですから……そういう露払いはお任せしましょう」
「うぐ……難しい……けどまぁ、頑張るよ。テンペストの夫として、テンペストのことも守らなきゃね!」
「ええ。その通りです」
胸を張って見せるニールだが、その姿は無理な約束をする子供そのものだ。
傍から見れば微笑ましいのだが。
異変を解決した後……といっても、貴族としての地位を手に入れたテンペスト達は普通にハイランドを支える国民として暮らすことになるだろう。
貴族として任命されたのだから、国に対して尽くすのが当然のことだった。
もちろん何かが起きた時にはその矢面に立つ事も厭わない。
「ま、それは置いといて……終わったらさ、ちょっと旅をしてみない?」
「うん。テンペストと僕達だけで」
達、の中に入っているのはメイやニーナ達付き人たちのことだ。
コリーやサイラス達は入っていない。
要するに……お祝いを兼ねたハネムーンみたいなものだ。
……蜜月を過ごすということは出来ずとも、正式に認められる前の今でもニールとテンペストは結婚したも同然なのだ。
「珍しいですね、ニールが皆と……ではなく私とだけですか?」
「うん。……だって、僕とテンペストだけの時間とか過ごしたいし。それにエキドナなら何処にでも行ける。マギア・ワイバーンはテンペストだけでも動かせるし」
「なるほど、そうですね。色々と世界中を巡ることだって不可能ではないでしょう」
疲れ知らずの鋼鉄の翼竜、マギア・ワイバーン。
激しい空戦をし続けるでもなければ、別にテンペストだけでも飛ばすことは可能だ。
それに、気になるならば戦いを避ける方向で動けばいい。
ニールを乗せて無理をする必要なんて無いのだ。
全てを終わらせた後に、休暇をもらって思う存分羽目をはずしてくる……それがニールの希望だった。
確かにそれだけの事をしても良いくらいの働きはしている。
一月ほど好きなように暮らしたいといったところで許可が出るはずだ。
「空を飛べば地形的な制限を受けません。もしかしたらまだ誰もいない島などをたくさん見つけられるかもしれませんね」
「あぁ!いいね!新しい誰も見つけたことのない島に行ってキャンプとかも楽しそうだ」
「エキドナならば全員中に入って眠ることが出来ます。運転しなくとも置いておくだけで有用な装備ですから」
「あ、運転手……どうしよう。僕運転できないし……」
「使用人の内一人を教育すれば良いでしょう。いつまでもコリーやサイラス達に頼っていても意味がありません」
「それもそうだね」
別に自分達が運転しなければならないというわけではない。
運転手に任せるのが普通なのだ。
馬車でも基本的には自分達では動かさずに御者は別にいる。
2人は後ろに座ってゆっくりしていればいいのだ。
「護衛は……」
「私たちに護衛はあまり必要ではないでしょう。ディノス……モンク司祭が居なくなれば」
「まあ、確かに」
ルーベルやコーブルクなどに出かけて観光というのも良いだろう。
ハイランドのあるカロス大陸にはそれ以外にも小さな国はある。
そこに行って楽しむのも良い。
なんならハイランドの秘境巡りなどをしても面白いかもしれない。
「ハイランドの秘境?」
「ハイランドは山々で形成された特殊な国ですが、それを空から全て見たことはないでしょう?幾つか綺麗な眺めになりそうな場所はあります。国の土地ではありますが、まだ誰の土地でもない場所……そんなところに別荘などがあっても面白いとは思いませんか?」
「……すっごい魅力的……!あ、それなら僕は湖がある所が良いな!」
「該当する場所はおよそ20。小さいのも含めればもっとあるでしょう、もちろん……影に隠れて見えていないものなどもありますのでそれ以上は有ると見ていいです」
あくまでも上から見て水を湛えている場所をピックアップしただけだし、適当に選んだものなので当然候補は絞らなければもっとある。
水質に問題がなければそこに行って遊ぶのもいいだろう。
「あ、博士みたいに海岸沿いのところにある洞窟に秘密基地とか!」
「私達ならば出来なくはありません」
というか、擬似的な砂浜まで作れるだろう。
人工的に湾を作ってあまり波の影響を受けないようにすれば侵食を防げる。
海岸にある海水によって削り取られた侵食洞窟は、潮の満ち引きによって危険な状態になる可能性はあるものの、そこは対策しておけばいいだけだ。
「まあ……一番行きたいところは決まってるんだけどね」
「何処ですか?」
「ほら、帝国の方に言った時に見つけた洞窟。あそこからつながっているここではないどこかだよ!」
「ああ、あの巨木の沢山あるところですね。翻訳もまだ完了していませんでしたし確かに行ってみたいですね。どのようなところか気になります」
「言葉さえわかれば意外といい感じの所っぽかったよね?」
確かに、あの少年と女性を助けた時に簡単に見た感じでは平和そうな良いところだった。
木でできた家というのもこちらの方ではあまり見たことがない。
言葉さえ分かってしまえば、向こうには自分達のことを知っている人間は誰もいない。
つまり貴族というくくりは完全に無視してその辺を彷徨くことすら出来るということだ。
平民の中に混じって買い食いも自由自在。
人目を気にする必要など何もない。
「良いですね。ええ、とてもいいと思います。行ってみましょう」
「出会った魔物を見る限りではこっちとあまり環境自体も変わらないかもしれないしね」
「あの程度であれば対処は可能です。生身で出会った場合にはそれなりに危険ではありますが」
魔法を使った攻撃には自信があるものの、あまり過信しすぎても良くない。
特にテンペストの場合、以前に比べればかなりマシになっているとはいえ、鎧の補助がなければ大人のそれには敵わない。
ニールも基本的には肉体派ではないので力はそこまで無い。
出来るだけ接近戦と物量で負ける相手に対しては喧嘩を売りたくはない。
それだけでも生存率は上がる。
それに、同行する皆は非戦闘員で、そもそも戦うための訓練も魔法も使えない人達だ。
それを2人だけで守りきらなければならない事を考えても、やはり相手にするよりは逃げたほうが得策だろう。
「それを叶えるためにも、必ず異変を……いえ、ディノスを止めなければなりません」
「うん。絶対止めなきゃね。……あれ?いつの間にか嵐止んでる?」
窓の外を見てみると、日が傾き始めた曇り空ではあるが、海の状態も穏やかになっていた。
残念ながら晴れた空と虹は見えなかったが。
□□□□□□
「あー……流石にここに来れるとは思ってなかったな」
「ある程度大きくて艦隊全てが隠せるのはここくらいですからね。少し遠回りになるルートなのでホーマ帝国もまだ見つけていないのかもしれません」
そう言ってコリーと共にサイラスも思いっきり伸びをしてストレッチを始めた。
ここはホーマ帝国から少し離れた場所にある島。
以前ここで異世界へ通じる風穴を見つけた所だ。
一応他の船が近くを通ることも考えられるので、島の影に隠れるように停泊させる。
前回のような遊びなどは出来ないため甲板の上に出ているだけだが。
それでも陸地が目の前に見えているというのは何となく安心感が有る。
甲板上へとエレベーターで上ってきたマギア・ワイバーンには既にテンペストが入っていた。
中央まで出てきてコクピットを降ろす。
「よし、じゃあ行ってくる」
コクピットを格納してふわりと浮かび始めるマギア・ワイバーン。
姿を消しながらホーマ帝国へと向かっていく。
□□□□□□
『偵察コースに乗りました。記録を開始します』
「周囲に敵影なしっと……そろそろポートキャスだな」
帝国領へ近づき、低速で巡航していると段々陸地がはっきりと見えてきた。
以前に上陸したポートキャスという港街だ。
大小の船が停泊したりしていた活気のある街だが……港には軍用の船が並べてあり少し物々しい雰囲気となっていた。
「……あれ、軍船だな。前に見たときよりも変わっている」
『新型でしょうか?こちらの船を見て作り始めたものかもしれませんね、よくよく見ればマストが有りません』
「テンペスト、そこ少し大きくしてくれ」
『軍人ですね。以前はあそこには特にこういう重武装の兵は居なかったはずですが』
戦時中であるという事がそういったところから感じ取れる。
漁に出ている者達も少ない。
『ここは敵の侵攻自体は受けていないようです。まあ、私達が帰った時の場所はもっと奥の方だったのでここまで攻め込まれていたら壊滅状態にあるということになりますが』
「結構いい国だったからな、無事でいてもらいたいもんだが」
『海上の戦力は叩き潰していますから、大分楽になったのではと思いますが』
あの脱出の時の海戦は一方的だったが、物量で見れば相当なものだった。
こちらもかなり消耗していたのは確かだし、あれ以上多く居た場合は危険だった可能性はある。
特にマギア・ワイバーン封印状態での戦闘はレーザーが使えなかったことでも痛手だったわけだが。
あれ程の戦力が一気に入ってきていたら、大軍を動かすにも上手く動かせないままに終わっていたはずだ。
護衛についていた者は役に立たない奴だったがあれは一部であることも分かったし、そちらの戦力は連携が上手く熟練していたのだ。そうそう遅れを取るものではないだろう。
『ポートキャス周辺のデータは収集し終わりました』
「何か気づいたことはあるか?」
『テントの数が気になります。以前偵察した時には広場だったはずの場所に布が貼ってあり、その下が見えないようになっています』
画面上に以前の時の画像が表示されると、その違いは瞭然だ。
「本当だな……避難してきた奴らか?」
『それはなんとも。ただしその可能性が高いです』
「ここまで逃げてきたとなると……。テンペスト、内陸を見に行くぞ」
『偵察ルートを外れ、最短で帝都方面へ向かいます』
高度を取り機速を上げて帝都へと向かう。
途中でポツポツと馬車の車列が出来ていたのが見えると、それが段々増えていき……一部では壊滅した馬車の集まりがスワームに食われているところも出てきた。
間違いなく彼らは避難している。
薄っすらとみえる道が枝分かれしていれば、その各方面へと散らばっていくゴマ粒。
そうやって危険の少ないところへと避難をしているのだ。
「この人数……明らかにおかしい」
『以前はたまにすれ違う程度でしたが……明らかに多いです。また帝都方面へと向かう者は皆無と言っていいでしょう』
「襲われてる連中も助けてやれんが……まずは一旦帝都を見に行かないとな」
『その前に、確か帝都の手前にも小さな規模の街があったはずです。そこを見てみましょう』
地図を表示させると帝都の前に確かに小さな街の構造物が見えている。
以前偵察した時の画像ではある程度活気がありそうな街だったのだが……。
「煙だ……」
『これは……爆破跡です。あの規模の街に火薬庫が置いてあるとは思えません。外部から爆破された可能性が高いです』
「帝都は……持ちこたえているだろうかね?」
『あまり楽観視は出来ないでしょう』
黒煙が風に流されている。
小さめの街とはいえそれなりに人が居ると思われた場所だが、見る限りでは人の姿は見えない。
焼け焦げた家と通り、散乱した瓦礫などが見えるだけだ。
そこに魔物が入ってきたのか、何かを食っているのが見える。
「……酷いな。もう行こう」
『データの収集は完了しました。いつでも行けます』
□□□□□□
帝都プロヴィル。分厚く堅牢な壁に守られ、中心部は更に壁によって遮られたその街はまさに難攻不落の場所と言えた。
広い土地を壁で囲い、その中である程度の自給自足も出来るほどの豊かな土地を持ち、神々への祈りによって捧げられる魔力は、そのまま神による帝都への加護となり街を守る……などと言われていた。
皇帝の居る場所はさらにその中心の白亜の建物。
広大な敷地に専用の宮殿はどの建物よりも大きく、そして白く美しい。
人工的に作ったであろう湖もあり、まさにこういうところに住んでみたいと言うものを体現したような場所だ。
……場所、だった。
「何があったんだ……?」
『分かりません。爆発の跡や大砲の跡は多数。ただあれは……』
一直線に綺麗な一筋の線が引かれていた。
その線は帝都の中心部を分断し、その部分は見事に何も残っていない。
まるで最初からそうであったかのように、鋭い刃物で切りつけられたのかと思うほどの割れ目ができていた。
視点を動かせば重要な施設がある場所には殆どそういった不思議な痕跡が残されている。
「テンペスト、お前のレーザーってやつもあんな感じになるよな?」
『私の出力では不可能です。ここから目視する分には細い線に見えますが、計測上では約3m程の幅があります。被害範囲は約1km』
「射程が長いな」
『兵器にしては短すぎます。しかしブレスとしては長すぎます』
「放ちながら移動した……?」
『空を飛んで放ち、そのまま維持して飛べば同じものは作れるでしょう』
そうなれば、未知のレーザーを持つかもしれない飛竜がこの先敵として立ち塞がる可能性が高いということだ。
帝都は今、壊滅していた。
残念ながら選考からは落ちてしまいましたがちゃんと続けていきますのでご安心下さい。
ということでどでかいフラグを立ち上げた2人です。
サイラスが居たらきっと止めたことでしょう。




