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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第一章 精霊テンペスト編
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第十四話 合宿二日目

 翌朝、早くからテンペストは起きて身体を拭いていた。

 ロジャーはその動きで起きたが、流石に悪いと思ったのか背中を向けて狸寝入りを決め込んだ。

 紳士である。


「さあ、僕は聞いてないけど昨日の内に大体決めることは決めたんだね?」

「問題ありません」

「ああ、大丈夫だ。絶対にテンペストに攻撃が向かないようにしてやるぜ」

「私も大丈夫です。ゆっくり眠れましたし……」


 朝靄立ち込める早朝の山の中、山小屋から出てきた皆は軽めの食事をとりながら最終確認を行っていた。

 シールドボアは目が悪いため、逆に耳がよく足音などをよく聞き分ける。

 こういった靄が出ていた所で全く意味は無い。


「とはいえ、この靄はすぐ晴れるけどね。後30分もすればすっきりと消えるさ。では今から夕方までには仕留めてくること!スタート!」


 合図とともに鼻の効くコリーを先頭に山の中へと分け入っていく。

 道のない山の中ではコリーの鼻だけが頼りだ。


「ニール、1人でこの訓練をした時には山の中に入るときはどうしていたのですか?」

「ああ、自分だけが分かるように魔力で印をつけていたんだよ。コリーは自前の鼻で道をたどっていけばいいだけだから楽でいいけどね」

「そうでもないぞ。たまに魔物が通ると上書きされて自分の匂いすら分からなくなる時がある。だから俺もちゃんと目印はつけていくぞ。こんな風にな」


 一瞬だけコリーの拳から見えない刃が出て、木に3本の傷跡を残していく。

 軽く撫でただけのような感じに見えたのにかなり深くまで抉れていた。

 これが自分にもできたら……と思わずにはいられない。


「テンペストのイグニッションを風の刃に変えて考えればいい。あれを細くして鋭さを増すように……そうすれば似たようなことは出来るだろうよ」

「なるほど、教えてくれてありがとうコリー」

「テンペストは体力も無ければ魔力もないからな。隠し玉とかもある程度持っておくと便利だ。さっきのあれはそういう時にも使える」


 何度も使うことによって無詠唱でも発動できるようになった風の刃は、発動こそ短時間だがその切れ味は先程の通り。

 たとえ鉄であっても切り裂けると豪語するだけあって、鎧などを貫通して中身にそのままダメージを与えることも不可能ではないのだ。戦いの中では使わずにいて、最悪の場合を切り抜けるときにでも使おうと考えている。


「おっと……止まれ。めんどくせぇのがいる」

「あれはレッサーオーガかな」


 オーガは巨人とも言われるほど大きな魔物だが、レッサーオーガは2~3メートルほどの小型の種だ。

 力は強く鼻が利く。今回は風下からの接近だったので気づかれずにすんだようだ。

 基本的に頭が悪いため、適当に撹乱してやれば一方的に攻撃出来るが力だけは無駄に強いため、接近戦はやらないほうがいい。鍛えられた筋肉も固く、非力なテンペストでは剣を使っても傷を負わせることは出来ないだろう。


 フシューフシューと鼻息荒く通り過ぎていくレッサーオーガを遠目に見ながら、音を立てないように慎重に進んでいく。

 と、唐突にレッサーオーガが居なくなった方向から何かの魔物の悲鳴とレッサオーガの唸りが聞こえてきた。


「……まあ、下手にあれと戦うことになるとああなる」


 テンペストの目には遠くではあるが、レッサーオーガが何かをひたすらぶちのめしているのが見えていた。ひき肉になってしまっているだろう。


「気をつけなければなりませんね」

「そう。しかも今の私たちは無防備にも程がありますから。鎧くらいは欲しいところです」


 魔力を使って何とかしろとのお達しで、最初から武器も防具も持ち込んでは居ない。

 動きやすい格好のままでここまで来ているのだ。

 思いっきり殴られただけでも危険である。

 さらに、敵は魔物や魔獣だけではない。そこら中に生えている草だって、たまに毒草があるし、小さな毒虫だって居る。そういうものにも気をつけなければならないのだ。


「……匂いがするな。近くにいるぞ」

「右です。距離は約50メートルほど。気づいていないようです」

「凄いな……全然分からないのに」

「確かに向こうのほうが匂いが濃いようだ。……よし、この辺は少し開けているし、ここで待ち構えるか。ニール、とびきり頑丈な壁作っとけ」

「はいはい」


『土塊よ、我盾になれ。その守りは槍を弾き、馬をも止めるだろう』


 人が1人隠れられるだけの小さな壁だが、その厚さは1メートルもありそう簡単には砕けないようなものになっていた。

 その土の盾の横に10メートルほど離れて、テンペストは少しだけ土を掘り下げて自分が隠れられるだけのスペースを作り、上に周りの草を掛けて匂いを浄化する。

 今回のテンペストの役割はスナイパーだ。万一の場合でも気づかれないように離れているが、狙うには特に支障はない。


 そしてポケットの中に入っている一発の弾丸を握りしめる。

 それはニールによって固さを増して貫通力が上がった特性のストーンバレット。

 エンチャントが施されたそれはたった一発しか無いが、大きさは20mmで当たれば即死は免れないだろう。


 コリーの陽動が始まる。大きな音を立ててこちらへとシールドボアを誘導するのだ。

 メキメキと木が倒れる音が響くが動かない。地響きが聞こえてくる。

 ニールが壁の上に光球を置いてものすごい速さで走ってきたコリーが壁を飛び越える。

 その瞬間、巨大なシールドボアがニールの作った壁に思いっきり頭突きをした。


『20mmストーンバレット、シングルショット』


 手の中にあったストーンバレットが消えて眼前に出現する。次の瞬間には土煙を巻き上げてシールドボアの頭に突き刺さり……直撃を受けたシールドボアの頭が半分ほど吹き飛んだ。

 尚、それを目の前で脳が飛び散り目玉が吹き飛んでいくのを目撃してしまったニールはそのまま気絶した。


「おおっ!!すげぇ!!テンペスト、成功だぞ!」


 コリーが死体を確認して伝えてくれた。

 体を起こしてすぐにそちらに向かおうとしたその時……先程出会ったばかりのレッサーオーガがテンペストの前に立ちふさがる。


『イグニッション』


 躊躇なく一番早く発動できるイグニッションを使ってレッサーオーガの足元を焼く。


「グギャァァァ!!」

「テンペスト!!てめ、このっニール起きろ馬鹿野郎!!」


 突然足元から炎であぶられて悲鳴を上げるレッサーオーガの声にコリーが気づき、テンペストが危機に陥っているのを把握する。同時にニールを思いっきり蹴って起こしていた。


 怒りで興奮状態にあるレッサーオーガは大きさの割に素早く、折れた枝を棍棒のように振り回しながらテンペストを追い詰めていく。

 身体強化をしているおかげで少しは保っているが、それでも殆ど子供の体力と力しか持っていないテンペストにとって接近戦だけは絶対に避けなければならない物だった。

 木をうまく使って逃げ続ける。しかし反撃するための時間がなかった。


「おりゃぁぁぁ!!」


 コリーがいつの間にか追いついたのか、レッサーオーガの脇腹に強力な蹴りを浴びせる。

 そのまま背中を殴りつけるようにして電撃を放つと、のけぞるようにして動きが一瞬止まった。


『30mmストーンバレット、3バーストショット』


 発射サイクルを大幅に落とし、3発だけに限定して放ったストーンバレットは狙いを違わずレッサーオーガの腹と股間を撃ちぬいていた。理由は一番柔らかそうなところだったから、ということだが、それに気づいたコリーがものすごく辛そうな顔をしてレッサーオーガを見ていた。

 男なら当然だろう。実際にやられているわけでもないのになぜか痛みを感じてしまうのだ。


「おおお……これは……キツイ。あーあーはじけ飛んでるじゃねぇか可哀想に……」


 未だ痛みでもがき苦しむレッサーオーガに慈悲の一撃をぶち込み、その苦しみを終わらせてやる。

 そして今頃になってやっとで合流した役立たずが1人。

 さらに目の前で男の大事な所が吹き飛び、ちぎれかけて内臓が吹き出しているレッサーオーガの死体を見てまたその場で気を失った。


「……ニールはどうしたのですか?」

「あまりの酷さに失神した。役に立たねぇやつだ……」

「……一人の時どうやって切り抜けたのでしょうか……」

「知らん」


 本当にどうやって生き延びたのか疑問に思ってしまう。

 テンペストの中でニールの評価は下がっていくのであった。


「起きろニール!お前が居ないと持って帰れないだろうが!」


 気付けと言うには激しすぎる顔への一撃をくらい、ニールが目を覚ます。


「なんかさっきから起きる度にすっごくお腹とか顔とか痛いんだけど!?」

「お前がさっさと寝ちまうのが悪いんだろうが!匂いで魔物が寄ってくる前にさっさと仕舞え馬鹿野郎」

「だからって殴らなくても……」

「レッサーオーガが来た時に寝ていたのはニール。私達が居なければ死んでいたかもしれない」

「うぐ……」


 テンペストの冷たい目線と言葉に言葉が詰まるニール。

 事実だから仕方ない。

 実際、テンペストがやられていた場合コリーだけでは力で押し負けていた可能性が高く、そうなるとニールは何も抵抗できないままに殺されていただろう。


 それを考えればニールの弱さは致命的だった。


「とりあえず今回お前はテンペストに救われたんだ、それは覚えとけ」

「……うん、そうだね。ごめんよ、テンペスト」

「ううん。でも……どうやってこれを持ち帰るの?」

「こうするんだよ」


『空隙を広げ繋ぐは我が領域。転送せよ』


 レッサーオーガの死体が光の粒子となって消えていゆく。

 それはニールの横にいつの間にか出現した闇へと吸い込まれていった。


「それは……?」

「空間魔法だよ。……ちょっとこれ使うの疲れるんだけどね」

「んなこと言ってる場合か。さっさとシールドボアも仕舞っちまえ」


 血の匂いを嗅ぎつけた他の魔物が来てもおかしくない。

 できるだけ早く回収してしまったほうがいいだろう。


「さて……やることはやったし帰るか」


 □□□□□□


 印を見つけながら元の山小屋へと戻る。

 成果は上々、時間にも余裕で間に合ったのだ。

 早々に帰ってきたテンペストたちにロジャーは不安げな顔をしていた。


「ずいぶん早いようだけど、どうだったのかな?」

「ニール」

「ええ」


 コリーに促されてシールドボアの死体が現れる。

 頭部は眼窩の部分から上が吹き飛んでいるが、シールド部分には特に傷もなく綺麗なままだ。

 それを見たロジャーは不安げな表情から一変して嬉しそうな顔になる。

 ニールはずっと顔を背けたままだ。


「凄いね。まさかここまで早く出来るとは思わなかったよ!さぁ、どうやって仕留めたのか教えてくれないかな!」

「あ、師匠。もう1匹居るんだ」

「え?……これは……レッサーオーガ……?」


 一変して険しい顔になるロジャー。そして、撃ちぬかれた腹と股間の傷を観察していく。


「よく無事だったね?」

「焦ったよ。シールドボアを仕留めた後に死体を調べていたら突然声が聞こえてな。そっちを見たらすでにテンペストが襲われていた。……正直テンペストが死んだと思ったぞ」

「正直な所危うかったですが、コリーのおかげで助かりました」


 詳しい状況を話すと驚いていた。そして未だにあさっての方向を向いているニールをジト目で睨んでいた。後でお説教コースだろう。


「まあ、無事だったならいいよ。それにしてもテンペストの礫弾は凄いね、レッサーオーガとはいえ本来テンペストでは絶対に太刀打ち出来ないレベルの魔物だよ。それでも攻撃が通用している……すさまじい威力だ。狙った場所もいいね、エグいけど」

「何となく腹と股間は柔らかそうだったので」

「そうだね。まあ見た感じだと胸の辺りにあたっても致命傷になったかもしれないけど。……股間だけは絶対鍛えられないからねぇ……これは痛そうだ」

「流石に可哀想になったんで頭を潰してやったんだ。流石に手がいてぇけど」


 見ればコリーの拳には血が付いていた。渾身の力でレッサーオーガの頭を潰したものの、その固さで逆に自分の手も傷つけていたらしい。

 すぐにロジャーに治療してもらっていた。


「じゃあこいつの解体を手伝ってもらおうか。ねぇニール?」

「う……」

「話し聞いた限りだと君が伸びてなきゃすぐに対処できた筈だよねぇ?」

「はい……」

「こんなにかわいらしい女の子が平気なのに君は血を見て伸びていたわけだ?」

「……はい……」

「いい加減慣れなきゃ駄目だよ。君は自分が好きな子が襲われていても血を見て気絶しているつもりなのかな?その間にその子が殺されてもいいのかな?君は皆を守るための力が欲しいって言っていたけど、そんなんで誰が守れるんだろうねぇ。死体を見るたびにいちいち気絶していたら先に死ぬのは君の方だ」


 ニールはロジャーに説教を食らって涙目になっている。

 怒られているからだけではないだろうが、流石に今回は不味すぎた。

 なにせ初心者のテンペストをほっといて1人だけ寝ていたのだから。

 不可抗力ではあったかもしれないけど、それは何かがあった時に致命的な問題だ。


「あ、2人は休んでていいよ。疲れたでしょ?ニールはすでに休んでいるから疲れてないそうだからね」

「お、おう……まぁなんだ、生きろよニール」

「頑張ってくださいねニール」


 すでに死にそうな顔をしているニールだが、昨日捌いた鳥や兎どころではない獲物を捌かなくてはならないのだ。


「……さて、ニール。ナイフは貸してあげるね。流石にシールドボアもレッサーオーガも硬すぎてあの包丁じゃ歯がたたないからね。僕はここで見ていてあげよう。何、気絶してもすぐに起こしてあげるよ。ただ女の子の前で気絶するような事はもうしないよね?」

「は、はい……」

「よろしい。こういうのはね、慣れだよ。確かに匂いもキツイし気持ち悪いだろうね。それでも君は乗り越えなければならない。テンペストに嫌われちゃうかもねぇ」

「の、乗り越えてみせます!!」

「じゃあ手を動かして」


 そんなやり取りを後ろに聞きながら、コリーとテンペストは山小屋へ戻る。

 時間はまだまだ昼を少し過ぎた所だ。すでに食事は用意されていたので先に2人で食べていると、泣きそうなニールの声と叱咤するロジャーの声が響いてくる。


「……ニール……大丈夫でしょうか」

「かと言ってもうあんな状態じゃなぁ。今回のは流石に焦ったぜ」

「マナの実よりは大分マシだと思うのですが」

「それもどうなんだろうな!?」


 テンペストとしては内臓は内臓、血は血、そういうものであるという認識なので特に気持ち悪いとかそういうことは一切感じていない。元の身体の持ち主であるサラであればニールと同じ状態にもなったかもしれないが、そこは究極にドライに対応できるのがテンペストだった。

 しかし実際に口の中に入るマナの実だけは慣れない。

 テンペストはアレを心のなかで悪魔の実と呼んでいた。


 暫くして山小屋の扉が開き、ロジャーが解体を完了したと伝えてくる。

 その奥、巨大なシールドボアの肉の山の向こう側には血まみれのニールが佇んでいた。

 目にはすでに生気はなく、ナイフを握りしめて淡々と肉を切り分けている。


「……師匠。ニールは……あれ大丈夫なのか?」

「作業中は完全に意識を切り替えるようにしたからね。今のニールは別人だよ!血を見たりして倒れそうになると今のモードに切り替わるからもう大丈夫」

「それ大丈夫っていうか!?元に戻るのかあれ!?」


 ロジャーの肩を掴んでガクガクと揺さぶるが、ロジャーは笑っているだけだった。

 最初の時点で吐いて、でろんと臓物が出てきた時点でまた気絶しかけたので何度も何度も叩き起こして続きをやらせて行ったら今のようになったらしい。

 あの状態では完全に己の感情を殺して行動するようになっているらしく、命令されたことなどはきちんとこなせるそうだ。


「元に戻った時が心配です……」

「全くだ。……とりあえず戻ってきたらほめてやってくれ……」

「ロジャーのほうがいいのでは?」

「いやいや、テンペストだから意味があるんだ。頼むぞ」


 すべての作業が終わったニールが、表情がないままにこちらへ歩いてくる。


「……ニール、頑張ったね」

「……テンペスト……?あ、あぁ……テンペストだ……!うん、頑張ったよ!!」

「うわ気持ちワリィ!」


 幼児化したようなニールに思わずコリーは暴言を吐いてしまうものの、本人は全く気にした様子がない。しかも抱きつこうとしている。血まみれの姿のままで……。

 しかしその直前にコリーによって止められる。


「何をするんだコリー」

「うるせぇ、お前その格好良く考えろ、こっちに来い全部洗わないと駄目だろう!」

「あ、あぁそうか、そうだねうん」

「ここで脱ぐな!ほら、こっちに来いって!」


 ズルズルと引きずられるようにニールが木の影に連れて行かれる。

 コリーが血に濡れた服を剥ぎ取り、素っ裸にして体を洗ってやっているようだ。


「……ロジャー。本当にあれは大丈夫なのでしょうか?」

「あ、あれぇ?」


 ロジャーも予想外のようで苦笑いしている。

 着替えはないとの事だったので、とりあえずニールの寝ていたベッドにかけてあったタオルケットを持って行くとニールがテンペストを見た瞬間に満面の笑みになった。


「あぁテンペスト来てくれたんだね!」

「ばっ……お前!前隠せ!」


 そんなニールにタオルを掛けてやり、抱きしめるテンペスト。

 その優しさにニールは涙する。ぎゅっと抱きついてテンペストの体温を感じているのだ。

 コリーはそんな2人をみてニヤニヤしていたが。


「本当にお疲れ様。よくがんばったね、ニール」

「あ、あぁ……ぁ?あれ?テンペスト?私は……な、なんで裸なんですか!?わぁぁ!!見ないで、見ないで下さいテンペスト!!」

「ごめんなさい、もう見てしまいました。お気になさらず。可愛らしいものでしたので気持ち悪かったりはしませんでしたし」

「こっちが気にするんだよ!!っていうか……っていうかぁぁぁ!!」


 そしてついにニールが元に戻った。

 昨日は下着姿を見られ、今日は完全に生まれたままの姿を見られ……ニールのダメージは最後の言葉によって限界を迎えてしまう。

 ちがうんだ、これは水で冷えていたからなんだとぶつぶつと言いながら、タオルケットをギュッと握りしめて焚き火にあたっているニールを見て、テンペストは不思議そうな顔をしていた。


「なぜでしょう、思っていた反応と違いました」

「まぁ、あれだ、見られて凹んでるんだ気にするな……」

「特に気にする必要はないと思うのですが……」

「言わないでやってくれ……マジで」


 しかし追い打ちをかける人物が1人。

 ロジャーだ。ニヤニヤしながらニールの耳元で何事かを囁く。


「今度は好きな子の目の前で醜態を晒したか。全く情けない……」

「あぁぁ……」

「これから先もしっかりと気を持たなければ今回のように恥をかくハメになるのだな。まぁそれはそれで面白いけどねぇ」

「うあぁぁ……」

「このままで良いのかな?悔しくはないか?少しでも悔しいと思うのなら、自分のままで立ち向かえ。これから先何度もああいうことが増えていくんだよ」

「……はい。もう、大丈夫です。次こそはきっと……」


 なら良い、と肩をたたいてその場を後にする。

 1人外に残しておくわけにも行かず、かと言ってなぐやめてやる言葉も見つからなかったテンペストとコリーは、結局服が乾くまでずっと付き合っていたのだった。


 □□□□□□


 そしてその日、後でロジャーからニールが1人でサバイバルしていた時のことを聞く。

 なんと辛うじて捌ける鳥だけを狙い、後は全部植物の実等を食べていたそうだ。

 何度言ってもそれは治らず、諦めかけていた所……テンペストに惚れた事をいいことにロジャーが色々と吹き込み、今日やっとで克服したかもしれないと言っていた。

 ちゃんと克服できていればいいけれど……と思わずにはいられないテンペストだった。


 しかし次の日の朝、鳥を捌いているニールはいつもの青ざめて死にそうな顔をしているニールではなかった。


「……何ででしょうね、今思い返せばそこまで酷いものではなかった筈なのに……。なぜあの時は気が遠のいていたのか……」


 今のところ鳥に関しては完全に克服できたと見て良いようだ。効果はあったということだろう。

ニールがめっちゃ怒られた

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