第百四十四話 テンペストの変化
中途半端な時間ですが出かけるんで更新します。
『ほらほらどうしたコリー。撃墜されるぞー』
「くっ……あんの野郎!うるせぇ!男のケツ追いかけて楽しいか!?」
『お前じゃねぇテンペスト追っかけてんだ。舐めんな』
『……ではお手本を見せましょう、コリー』
「なっ、待て、テンペストやめっ……!!うおおおお!?」
ハイランド上空で激しいドックファイトが行われている。
コンラッドがコリーに色々と教えているわけだが、なかなか自分の癖が抜けずに苦労しているようだ。
先程からねちっこく後ろを取られていて全く好転しない。
結局テンペストが操作を奪って操作し始めたのだった。
既に制限速度ギリギリの状態だが、一瞬だけ吹かしたかと思ったらコンラッドの目の前からテンペストが消えた。
『何!?』
目を離してなど居ない。
レーダーにも写っていない。
機影が完全に消えた。
流石に不可視化は禁止しているので使っていないはずだが、それの使用を疑ってしまうほどだ。
『一体何処に消えた!?』
『ここです』
声が聞こえたと思った瞬間、機体後部に着弾した音が響く。
魔導エンジンが死んだ。……と言っても模擬弾なので衝撃と音がするくらいだが。
『嘘だろ……さっきまで何処にも居なかったはずだぞ』
「あー……テンペストが垂直離陸用のエンジンを垂直方向に吹かして後ろに回ったんだ。……死ぬかと思ったぞ……」
『コリーの筋力ならば問題なく耐えられると判断しました。ちなみに、後ろに回った後はあなたの機体の真下へ移動していました。レーダーの索敵範囲外なので恐らく見えなかったと思います。レーダーに頼りすぎるからこうなるのですよ、コンラッド』
『くそ……無理ゲーすぎるだろこれ……』
短時間の間にエンジン出力の調整、一瞬だけ減速して即座に垂直離陸用エンジンと共に吹かし、コンラッドの目くらましをしながらセイカーの上を通って機体の後方へ移動。
ジェット噴流による気流をいなしつつおよそ生身では無理なレベルの操作でピッタリと大きな機体をセイカーの下に隠していたのだ。
更に言えばレーダーは確かに全てをカバーしているわけでなく、円錐状に索敵している。
360度を完全にカバーできるテンペストの気配感知などと併用することで視覚はなくなるが、流石にまだコンラッド自身がそこまでのスキルを身に着けていないのだから仕方ない。
コンラッドがいくら精鋭でもAIレベルの仕事量を一瞬で行うのは不可能だ。
そしてその急な操作をしたせいで中に居たコリーは若干首を痛めている。
それで済んでいるのは獣人の筋肉故だろう。
普通の人間であれば下手をしたら危なかったかもしれない。
マギア・ワイバーンとセイカーは共に着艦する。
そう、ここは洋上だ。
空母バハムートは今ハイランド周辺の海域を巡回中で、その周りには巡視船が4艇浮いていた。
それぞれに1機ずつセイカーを載せられるように出来た巡視船は、最低限必要な武装を積んだ小回りの効くもので今日はその試験運用の為に訓練している所だ。
その最中にテンペスト達は空に上って訓練をしていたのだ。
ちなみに各巡視船に載っているセイカーの竜騎士達は2機のじゃれ合いを遠い目をして見ていた。
まだまだひよっこ同然の彼らはそこまで操縦技術は高くない。
機体に助けられている面が大きくまだまだ一人で飛ばすのは不安が残る。
その為毎日のようにコンラッドに扱かれまくっている訳だが……。その訓練を抜けた先で自分たちが求められているのがあの空戦能力となると乾いた笑いしか出てこないのだった。
彼らからすればコリーですら手の届かないレベルの力量差があり、コンラッドなどは全員で相手をしてもまず確実に撃墜判定を下される。
本気のマギア・ワイバーンとやった時にはそもそも勝負にすらならなかった。
スタート直後に撃墜判定を下され、何が何だか分からない内に終わるという結果となる。
お互いがヘッドオン……つまり向き合った状態で始まり、すれ違った瞬間にはもうすでにコクピットへの攻撃が直撃しているのだ。
避ける暇すら無い。
それでも。若干翻弄される傾向にあるものの翼竜との勝負は勝っている。
飛竜との戦闘はまだ速いとされているものの、しっかりと狙いをつけられるようになれば問題なく実戦投入されるだろう。
この洋上でも浮きに取り付けられた小さな的を撃つ練習などを行っており、コンラッドに怒鳴られながらも徐々に当てられるようになってきていた。
コリーとコンラッドの勝負が終わった後はまたそれが再開される。
テンペストに負けて八つ当たり気味に指示を飛ばすコンラッドの声に、涙目になりながらも必死で訓練に耐え続ける彼らは大変だろうが。
「お帰りテンペスト」
「戻りました」
「今日もすごかったね……流石だよテンペストは」
「あれは私だから出来ることでもあります。人の反応速度では処理できないので事実上不可能でしょう」
「え、酷くないそれ……」
「コンラッドが少し調子に乗っていたようなので。ニールの方は小型艇の操縦には慣れましたか?」
「うん、それはバッチリ!あれ凄く面白いよ」
バハムートの中にあるテンペストとニールの部屋。
広く清潔感のある部屋には大きめの窓も取り付けられており、そこからは遥か水平線の向こうまで見えるかのような景色が広がっている。
ワイバーンやホワイトフェザーなどに行っている間、この部屋に身体を置いていくテンペストのために幾つかの専用設備が取り付けられている他は普通の部屋と同じだ。
ニールは巡視船とは別に10人ほどを運べる小型艇の運転を学んでいた。
海の上を跳ねるように進む小型艇の加速は気持ちがよく、海では滅多なことで何かにぶつかるようなことはない。
思う存分速度を出しつつ目標の場所で停止する練習などもこなしていた。
本番ではこれでホーマ帝国に上陸するなど、色々と役に立つことだろう。
「で、今日はこのあとどうするの?」
「特にありませんが、この船を色々見て回ろうと思っています」
「あ、それ良いね。僕も一緒にいくよ」
この船に乗るのは2回目だ。
前回は王族と一緒だったので全く時間が取れなかったが、この機会に色々と設備を見て回りたい。
避難経路などもあるので気にしておいたほうが良いだろう。
まずは一番上……見晴らしのいいところにある艦橋へといく。
中に入ると艦長とサイラスを含め何人かの船員が静かに職務をこなしていた。
「テンペスト?どうしましたか?」
「いえ。特にやることもなかったのでこの船の内部を色々と見て回ろうと思っただけです」
「ああ、主要なところだけをさっと説明しただけで終わっていましたね。なら、私も行きましょう」
「あれ?ここの仕事は良いの?」
「機能のチェックと皆の動きの確認ですからね。もう私が居なくともこの船を動かすことは出来ます。……では艦長、後はよろしく」
「任せてください。あなたの船を適当に扱うようなことはしませんよ」
艦橋の設備などを説明してもらったが、恐らくリヴァイアサンよりも自動化されている。
大きな箱の中に収めるものなので、ゴーレムコンピュータはかなり性能の良いものを詰め込めたことだろう。
特に監視システムに関してはかなりの距離を知ることが出来る。
ソナーを装備して水中面をカバーしているし、サイラスの索敵もあるためほぼ死角はないと見ていいだろう。
「まあ、こんなところでしょうかねここは。次は火器管制を担当する場所と積んでいる武装に関してを見ますか?ニールは気になっているでしょ?」
「すっごい気になる。博士のことだからとんでもないの作ってそうだし」
どうせサイラスのことだ、何か新しいものを実験的に突っ込んでいるに決まっているのだ。
それもあって提案したのだろうし乗らない手はない。
火器管制室に入ると薄暗い部屋に何人かが座って色々と作業を行っていた。
索敵なんかもここで管理するらしい。艦橋にあるのはその結果を示すモニタのみだ。
敵対しているらしいものが見つかれば即座に艦橋へと報告され、艦長の指示を仰ぐ。
各所に取り付けられた武器はここから出し入れの管理をすることが可能で、それらは全てモニタによって狙いをつけることが出来るようになっていた。
「……ここだけ現代的に思えますね」
「よく分かるね。あれを参考にしてるよ。地球の艦船の火器管制システムと監視システム。出来るだけ使い勝手は近づけるようにしてみた。リヴァイアサンは砲手はそれぞれの場所へと移動するように設計してあるけど、こっちはこの場所で全ての武装を管理しているってわけだよ」
「残りの弾数まで管理してあるのかな、これ……。どうやって数えてるの?」
「単純に重量ですよ。重さはそれぞれきっかり決まっているのですから、それをカウントすることで分かるというわけです。……少々感知が鈍いですが問題ありません」
「んじゃ、こっちのやたらと弾数少ないのは何?」
「これは……まあ要するに新兵装ですよ。弾が少ないのではなくて、使える回数が少ないと思っていいですね。まあ、一発だけなんですけど。撃つと魔力の消費が激しいため回復するまで大半の武器が使えなくなるんですよ」
「いつ使うのそんな危ないやつ……」
一つだけ1/1となっている表記が気になってニールが訪ねてみると、身も蓋もない答えが帰ってきた。
一発撃ったら攻撃手段の大半を失うなんて危なくてやりたくない。
博士にしては変なものを取り付けたなと思ったけども、次に続く言葉を聞いて納得した。
「この砲はまともに試射出来ないんですよね。……強力すぎて」
「え、レールガンよりも?」
「クラーラと会った時のことを覚えていますか?」
クラーラはコーブルクで出会った自称発明家のドワーフだ。
彼女が色々と開発した中で最もサイラスが興味を惹かれたもの。
それは2つのリングだった。
「あー……空間魔法を使ったあれ?確か意図的にやれば武器になるとか言ってたけど、まさか……」
「ええ、そのまさかですよ。あれも少し考えれば簡単なことだったんです。お陰でレールガンを遥かに凌ぐ速度と射程を持った武器が完成しました」
リングを通じて物体を運ぶ魔法。
マナの消費が激しすぎて使えないと思われていたそれは、サイラスによって凶悪な武器と化した。
二点間を移動中に接続を切ると、どちらか片方が固定されている場合には特に問題ないが、固定せずに転送側に大半が残った状態で接続を切ると高確率で転送側に一瞬で移動した運動エネルギーがかかって凄まじい速度で飛んでゆく。
理屈はさっぱりわからないがこれを利用しない手はないと、確実に転送側に吹き飛ぶようにする方法とマナ消費を最小にする方法を考えに考えた。
そこで思い至ったのが、弾丸を最初からある程度加速させて一瞬だけゲートを開き、99%程が向こう側に行った瞬間に接続を切るという方法だ。
物凄く緻密な時間と速度管理が必要なため相当苦労したものの、なんとか完成にこぎ着けたのだ。
距離の限界はこの船の長さ分。最後尾から砲身奥の部分までだ。
大体毎秒1万m程の速度になるらしい。
もう何が何だか分からないほどの速度だが、マッハになおすと大体30位だ。
当然のようにそんなものを大気圏内で打ち出すわけだから、専用の砲は分厚いオリハルコン製で凄まじい速度によって生まれた熱と空気の処理を上手く出来るように設計し、反動を吸収するための機構を備えている。
それでも船が揺れるほどの振動が来るため、船体の構造自体がそもそもこの砲を放つためにあるようなものだ。
「船体に負担がかかるって……何考えてるんですか!?」
「大体あれ使うときは一か八かでしょう。正直あれの機構を考えるのはもう暫くしたくないくらいだったよ」
「そんなに面倒くさかったんだ……」
「面倒でしたね……計算がまず合わない時点でイライラしますから。しかもなぜそうなるのかが分からないのが更にもやもやするわけですよ」
魔力量に問題がないのに全く動かなかったり、大きさと重さは適正にしているはずなのに今度は魔力が足りなかったり。
想定していた速度が出なかったり……。
あまりにも法則性が見つけづらくてやってられなかったらしい。
クラーラは実用化出来たことで喜んでいたが、サイラスの助手をしていて完全に頭がおかしくなりそうと言って今は休養中らしい。
どれだけ無茶をさせたのだろうか。クラーラが不憫でならない。
寧ろなぜサイラスがぶっ倒れないかのほうが気になるくらいだ。
ともかく、そんなロマン兵器が実装されてしまったバハムートだが、本当にこれは最後の手段として取り付けているようで安心した。
恐らくリング自体に何かしらの不具合があるためにこのような現象が起きるのだろう、と言っていたがもうそれを確認する気力もないらしく、しばらくこれの研究は封印するという。
なにせバグを利用したものだ。物を移動させるだけなら同じ倉庫を共有した二人を置いたほうが速いし確実で安全だ。
このリングはそもそもクラーラが不十分な知識で無理やり作ったもので、刻み込まれた魔術式などはかなり滅茶苦茶なのだ。
二点の内片方を何処かに固定していないという点ではとても有用なのだが、そのせいで余計に不安定になっているので正常化してしまうとあのような危険なことは起こらなくなってしまう。
間違ったままでそれを無理やり正常稼働させようとしているのだからそれはそれは面倒なことこの上なかっただろうことは想像に難くない。
「他には?」
「テンペストのマギア・ワイバーンについているフェイズドアレイレーザー、大型レールガン、50mm機関砲、25mmガトリング砲など今まで作ってきたもの等ですね。今まで通りですが、フェイズドアレイレーザーを擬似的に再現できたのは大きいですから折角なので。ああ、ランサーシリーズも撃てますよ」
「空母と言うよりは戦艦などに近い気がしますが……まあ良いでしょう。サイラス、他にも何か隠していませんか?」
「……テンペストは本当に勘がいいですね……。ええ、あります。今はやりませんがこの船は浮きます」
「え、それってもしかして」
「はい。浮遊島と同じようにこれそのものも飛ばせます。レビテーションは少魔力で大質量を動かせるのが魅力ですね。魔力ジェネレーターで供給さえしていれば問題なく動きますから」
「滅茶苦茶だよ!」
下手をすれば一国を相手取ることになるのだから、移動拠点があったほうが安心でしょう?と言われればたしかにと納得するしか無かったが。
そこからエキドナやら何やらを色々展開出来てしまうのだから依然ギアズが言っていた浮遊都市と同じようなものとなるだろう。
むしろあれに比べたらカワイイものである。
非常識の塊のようなサイラスに既に突っ込む気にもならず、まあ自分たちにとっても便利なものであることには変わりがないので気にしないことにした。
「では次に行きますか。居住性はそれなりに確保しているとはいえ、訓練をするという点では地上に劣ります。……という事で運動用の施設も作ってあります」
ベンチプレスなど筋トレなどが行えるものがずらりと並んでいる。
兵士達にはいい運動場となるだろう。合わせてシャワールームも完備していて至れり尽くせりとなっていた。
「本当なら船の中に鍛冶施設でも作っておきたかったんですけどね」
「博士は船をどうしたいの……」
「正直な所自重を超えて作っているので王国に協力はしますけどあまり全機能は使えない感じですし、今回の異変に関してのことが終わったら、過剰なものは取り外して封印するつもりで居ますよ。あれはあくまでも異変の解決のための装備だと思ってください」
「え、そうなの?なんか勿体無いな……」
「レールガンだけでも相当オーバースペックだと思いますからね。ただあれはここの技術で簡単に出来るのでそのまま使いますが。あの面倒くさい砲は取り外しますし、レビテーションも外します。武装も半分程度でいいでしょう。ああ、フェイズアレイレーザーも流石に外しますよ」
「ああ、それくらいなら……確かに良いかな?どうせリヴァイアサンにもレールガンあるしね……」
そもそも船自体がという事は飲み込んだ。
ニールだって格好いいものは好きなのだ。
コーブルクやルーベルの方でも、サイラス式の金属製の船が開発され始めているという事だったので、きっとこのタイプが色々と出てくるに決まっている。
レールガンももうほかの国にある程度の情報を流しつつも重要な部分は分解して見られないようにブラックボックス化しているからあまり問題ないだろう。
というか、そもそも製造技術がない。
リヴァイアサンですら緻密なレーザー加工による魔術式と魔法陣の組み合わせによって動いているのだ。手でそれを作ろうとすると無理だろう。
なにせ手先の器用な研究所の職員が匙を投げたくらいだ。
曰く「そもそも道具を作るところから始まり、力加減は難しい上に加工するのは硬い金属しか使えず、一箇所でもショートすれば全てがアウトというプレッシャーで、あの規模のものを作るなんてどう考えても気が狂ってる」ということだった。
「ああ……あれは……酷いよね。無理すぎるよ」
「しかしあれをやらなければ施設は巨大化しますから。動かすことはまず不可能と考えていいでしょう。要するに真似した所で追いつけないわけです。さて、次はここです。私とテンペスト、ニールの為の簡易倉庫です。ハイランドに送ったりするのもいいですが、ここから動かしたほうが良いこともあるでしょうしね。石は持ってきましたか?」
倉庫を使うための魔晶石だ。
全員がまたあの場所へ行って取ってきた。
サイラスは2つ同時にもらってきてそのうち片方を既に設置済みだ。もう片方はやはり屋敷の地下にある巨大倉庫へと通じている。
それぞれが魔晶石を設置して、動作確認が終わる。
「問題なく繋がるようです」
「僕も」
「ふむ、やはり便利ですねこれは。ニールに教えてもらって良かったと思いますよ」
「博士のはなんか面白かったね。ゲートの形とか取り出し方とかはそれぞれ人によって違うのは確かだけど、大体皆僕みたいな感じなんだよ。突然出てくるテンペストのとか、博士みたいに光が集まるのとかは珍しいっていうか、見たこと無いもん」
「サイラスのは派手ですが目立ちすぎです。暗所では何をしたかバレますよ」
「いや、すまない……あれは私のイメージが悪かったのだと思う。どうも転送とか言うとあんな感じのだったり下からじわーっと出てきたりとかそういうのが思い浮かんでしまってね」
映画などの影響が大きいのだ。
テンペストの場合には物を選択したら手元にある、と言うものを重視していたために完了までが素早くいつの間にか手に持っていたなどということが可能だが、サイラスのものは指定した位置にまばゆい光を放つ光点が収束していきその形を取って、光が消えるとそこに有るという感じになっている。
見た目は格好いいのは分かるのだが物凄く目立つ。
作戦行動中はあまり使わせられないだろう。
「後は機関室やら魚雷発射室、バラストなどの様々な調整を行うための場所だったりメンテナンス用の通路だったりとあまりおもしろいものはありませんね」
「格納庫などは前に見ましたから……少し甲板に出てみましょう」
「ああ、それは良いかも。まだコンラッドは飛んでるのかな?」
甲板に上がると潮風が気持ちいい。
晴れ渡った空の下をまだ新人竜騎士の後を追い立てているコンラッドが見える。
独特な形をした甲板は、耐熱仕様となっていてワイバーンやセイカーなどの熱に耐えることが出来るのは当然なのだが、特筆すべきはその広さだろう。
セイカーとワイバーンを全て並べてもまだ発着するだけの余裕がある。
なんなら魔導騎兵を全機出していても問題ない。
そんな状態なので甲板上をぐるぐると走らされている船乗りたちや、コンラッドに負けて鍛え直されている竜騎士の姿もあった。
「お。テンペスト、上がってきたか」
「コリー、首はもう大丈夫ですか?」
「ああ、もう何ともない。さっき罰則分の周回終わったから今からシャワーでも浴びに行こうかと思ってた所だ」
「ああ……コンラッドの……」
「勝ったと言えば勝ったが、俺の力じゃないからな。それに体動かすのは好きだから気にならんね。新人竜騎士なんざもう30周位から死にそうな顔してるぞ」
「さんじゅ……」
一周何mかは知らないが、結構な距離を走らされているようだ。
何回回ったのかと聞いたら普通に100と答えられたので、獣人でもない限りは相当きついだろう。
「……っ……」
「?……テンペスト?」
「いえ、何でもありません」
「何でもないって……なんか辛そうだよ?」
少し青い顔をしているが、特に問題ないというテンペストをニールが宥めすかして自室に連れて行った。
ここに来るまでに色々と動き回ったりなどしていたので、恐らくその疲れが出たのだろう。
「……本当に何でもないのですが……」
「何でもない訳じゃないと思うけどね。僕はテンペストとどれだけ一緒に居たと思ってるの?僕じゃテンペストの力になれない?」
「そういうわけでは……。いえ、ごめんなさい。そうですね、ニールに対して失礼でした。……少しお腹が痛いのです。風邪を引いたわけではないと思いますが」
真剣なニールに圧されて観念したテンペスト。
ずっと自分のことを好いてそばに居てくれるニールに対して、隠し事をしているという感覚に少し罪悪感を覚えた。本人はそれがどういう感情かはまだ理解していないが。
打ち明けるべきだろう、と思ったことは確かだ。
「変なの食べたわけじゃないしなぁ……。まあ、トイレに行きたくなったらここならすぐにいけるしね。おかしいって思ったらちゃんと喋ってね?」
「わかりました。……ありがとう、ニール」
「どういたしまして」
ベッドに寝かせて布団を掛けてやる。
薄っすらと笑みを浮かべたその表情も、ニールに取っては満面の笑みに見える。
ずっと近くで見てきたニールには些細な表情の変化なども見分けられるようになっていたのだ。
先程までの辛そうな感じはもう無くなっているようで、眠り始めたテンペストを眺めながらいつの間にか自分も眠ってしまうのだった。
次回もテンペスト達が続きます。
ちょっと人によっては嫌だと感じるかもしれないですが。