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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第五章 英雄ディノス編
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第百四十三話 英雄として9

 ディノスの声と共に掲げられた右腕にそこに居た全ての者達の目が行った。

 手の中でもがき苦しんでいるのはこの小都市のトップである男だ。


 背後には無残な姿になった砦が見え、自分たちが負けたのだと悟る。

 直後に門が開かれホーマ帝国軍が侵入して完全に包囲された。

 魔物たちは全て息の根を止められ、反撃しようと完全に包囲されているこの状況ではただ死ぬだけと言うのは分かっている。


『もう一度言う。この砦は既に落ちた。死にたくないものは武器を捨て投降しろ』


 膝をついて崩れ落ちるものが出てきた。

 そして続いて武器を手放す音も。

 投降したものは手を上げて前に出てくるように指示して、最後まで抵抗の意思を見せるものはその場で死んでもらった。


 こうなると手の中にいる男ももう特に価値はない。

 とは言えただ殺そうにも、何よりも強さがなければトップに立てないこの独特のシステムであれば、この者も実力はあるのだ。

 事実魔鎧兵の手を切ろうとした動きは達人のそれだ。

 だが剣の作りと鎧の分厚さに負けた。

 ただのプレートメイルならば切られていただろうが、それを遥かに超える厚みを持っているのだ。

 そう簡単には切ることは出来ず、剣が悪かったのかその衝撃で壊れてしまった。


 歩兵達が街中に散らばって生き残りを探し出し、物資を徴収していく。

 衣料品や火薬、武器、食糧などが大量に確保できた。

 門を閉めて即座に取り掛かったのは壁の修理と大砲の設置だ。


 制圧が終わると丁度いいタイミングで炎竜に落とされ治療した飛竜が新しい竜騎士と物資を乗せて追い付いた。

 自分たち専用の武器が多いこちらとしては補給が来るのは有り難い。

 食糧は十分に有るため、今日は一旦ゆっくりと休んで置きたいのだがそうも行かない。


「許可する。死体をこの場所から出すという意味でも有効だろう。腐らせると後が厄介だ」


 将軍からもアンデッド化の許可を取り付ける。

 ディノスが死霊術を扱えることは知られておらず、死霊術を使える者達と共に次々とアンデッドを増やしていくのを見て驚かれたが、ここで敵の死体を使うということに関して忌避感を感じているものは殆ど居なかった。

 寧ろ自分たちの代わりに矢面に立ち、敵を倒してくれるという事に肯定的な者と、先の被害を考えて怒りと恨みをもってそう有るべきと感じているもの達ばかりだ。


 次々と立ち上がり、うつろな目をして整列していく元エフェオデル兵士達。

 こうして彼らとつながっていることで分かることは、薬の影響に関してだ。

 恐らく筋力を上げる物も使っている。

 不自然なまでに力があり、頭はさほど良くない。

 力こそが正義であり、強いものが国を治めるのを当然と思っている。


 その防具や装備も全てが力任せに使われるもので、基本的には接近戦がメインとなる。

 魔法を扱えるものも攻撃重視で回復を考えたものは殆ど居ないようだ。

 最も、アンデッドとなった今回復は使えず、代わりに死霊術によるアンデッドの修復が可能になっているようだが。

 指揮官を決めてそれぞれに仕事を割り振る。

 パーツが足りないやつはその辺に落ちているものをくっつけて使わせ、いびつながらも失った手足を復活させていた。


「……初めて見ましたがなんともおぞましい魔法ですね、これは」

「だからあまり使いたくないのだ。正直こんなものは好きではない」


 本当は別にそう思っては居ないが。単純に兵力が倍増するというわけではないが、捨て駒が大量にあるというのは色々と便利だ。

 特に見た目に問題がないものなどは外に配置して援軍を油断させることが出来る。


「これから補給はどうするのですか?またあの炎竜が出てきたら……」

「補給は……ちょうどホーマ帝国とこことを結ぶ最短距離上にもう一つの小都市が有る。あれがある以上遠回りにするほうが安全だが……」


 逆に潰してしまえば有利にことを運べる。

 哨戒に出ている飛竜から既にそろそろ見える距離まで援軍は近づいてきているということだった。

 彼らが進んできた距離からして恐らくはその進路上に有る小都市だ。

 途中まで出てきて置いて、何かしらの合図があった後に横から突っ込ませるつもりだったものと思われる。

 反対側からの援軍はまだこない様だ。


「……ふむ。今向かってきている援軍、上手くすればこちらに引き寄せて一網打尽にできるかもしれないな。そうしたら後はゆっくりと残った奴らを倒して小都市の機能を潰すだけだ」


 大体の数は既に分かっている。

 こちらとそう変わらない規模だ。ただし魔物が大半だが。

 人の数はかなり少なく、魔物をけしかけるのが目的のようで歩兵ではなく全員が馬に騎乗している。

 機動力重視か。


「普通、1日も立たずにここが落ちるなど誰も思っていないでしょう。本当にこれが横から突っ込んできた場合確かに恐ろしい戦力だったかもしれません」

「タラスクは2匹。大きな蜥蜴型の黒い魔物は該当する物が居ない為わからないらしい。他にも黒く小さな人型……ゴブリンに似た何かも多数いたそうだ」

「そんな黒い魔物なんて見たことがないですが……」


 一応、ミレスの横にあった宵闇の森には黒い魔物が居たが、あれもかなり強力な敵だ。

 似たようなものであれば相当苦戦するだろう。

 なにせ魔鎧兵を手に入れたミレスが、隣のハイランドに攻め込もうと宵闇の森へと突っ込んで半死半生で戻ってきたくらいだ。

 全身に引っかき傷や噛み跡が残っていて、中にはいっていた者は気が触れかけていた。

 闇の中から黒い何かが襲ってきて、何が何だか分からない内に腕を引きちぎられ全身に噛みつかれるなどして相当な恐怖を体験したという。

 それ以来、まともに入るような場所ではないということになり、ハイランドは一番近いが一番遠い隣国となったのだ。


 そういえば前にこちらに来てからあの連中は特に何もせずに帰っていき、自分のことを探そうとした気配はない。

 やはり逃げた後に死んだものと思われているのかも知れない。

 それであれば気が楽だ。どの道顔を変えて名前も変わっている時点で探しようがないだろう。

 英雄と呼ばれて目立っていたものの、特に警戒されていた様子はなかった。


 あの時のリヴェリとそれに抱えられていた少女など、あれほど近くに居ても分かっていない。

 そもそも知らされてすら居なかったのかもしれない。

 逃げることに必死で少々気にしすぎていたか。


「ディノス様?」

「ん?ああ、すまない。考え事をな。……少しやってみるか。援軍が近くまで到達するのにどれくらい掛かる?」

「日没前には。どうするつもりなのですか?」

「折角配下になったんだ、アンデッドを使うに決まっているだろう」


 作戦を提案しにいき、確実に成功させる自身があるのならば……という条件で実行権をもぎ取ってきた。

 弾薬は補充されて今のところ問題はないが、これから敵の本陣を叩くという時に後ろから来られても困る。

 とりあえず近い所の奴らを潰しておいて不安材料を消しておいたほうが良い。


 □□□□□□


「エフェオデルの旗を立てておけ、見張りは見た目のまともな奴らを血をふき取ってから壁の上に立たせろ。そこ、生け捕りにしてある捕虜たちからどういう符丁があるのか聞き出せ。連絡手段はなんだ?」


 作戦は単純だ。木の生い茂る森のほうから敵が来るのは分かっている。

 そして未だに雲がかかり視界の悪い空、薄暗くなり始めた景色は余計に周りの状況がつかみにくくなる。

 さらにアンデッドと化したエフェオデル兵は見た目さえ整えてやれば生身の人間と大差ない。

 遠くから見ただけでは若干の被害があるものの、まだ陥落していない砦が見えるに違いない。


 連絡手段はホーマ帝国と同じく発光信号で、専用の道具を使って交信する。

 幸い捕虜にそれが出来るものが居たために隷属させてやらせることにした。


 送るのはこちらが砲撃を食らって一度撤退したこと、被害は軽微で予定通り明日攻撃を仕掛けて来た時に一斉に攻撃するために指定の場所で待ち構えて置いて欲しいということだ。


 一箇所に固まって野営している所を今度は燃やし尽くしてやるのだ。

 前にやったことをそのまま返す。

 こちらの大砲が届く距離を指定し、予めその位置へ照準を定めておけばいい。

 タラスクがそれで死なないようであればまた魔鎧兵で押さえ込む。


 また、幸運なことにこの小都市には数少ないと言われていたテイマーが居た様だ。

 取り調べが進められているが、既に隷属させてあるため命令すればいつでも魔物を操ることも可能だろう。

 これはかなりの戦力増強になる。

 そして捕らえたテイマーからかなり重要なことを聞かされたそうだ。

 曰く、魔物が弱ければ弱いほど数を揃えることが出来る。

 強ければ逆に一度に1匹しか揃えられない可能性も。

 そして炎竜は操っている間は1匹しか従わせることの出来ない強力な魔物であること。

 一度使った後はしばらくの間使えないこと。

 タラスクであれば一人で扱えるのは一度に3匹程度まで……。

 嘘はつけないので事実なのだろう。


 黒い魔物に関しては良く分からないという回答だった。

 従えることは出来ないがそれぞれに特殊な能力をもっていて強力な魔物であること。

 何故か長の命令にのみ従うこと。


 あの夢を見せる魔物もその一種で効果はこちらで予想していた通りのものだ。

 今日あたり来そうな感じなのが困る。


 残念なことと言えばテイマーの人数は把握していないことくらいか。

 後はまあ……特にこれと言った情報は無いようで、基本的には命令されるがままに魔物を操るのが仕事のようだ。


「敵からの発光信号確認!」


 伝令が走ってきて報告する。

 いつの間にかもう大分近くまで来ているようだ。

 発光信号によって現在の状況を伝えあっている状態だ。隷属させられるとその人の命令は絶対となるので意識的にメッセージの内容を変えることは出来ないため、本当に信じていることだろう。


 事実、指定の場所へと全員がひとかたまりになり、火を使わないようにしながら暗くなりゆくなかで休憩を取っているのだった。


 □□□□□□


 深夜、今度はこちらが仕掛ける番だ。

 有り難いことにここを落としたという報告は嘘の情報を流して他の小都市にも伝えてある。

 同族の裏切りというのは怖いものだ。

 手の内を知っているものが、抵抗することすら出来ずにこちらの言うとおりに動いてくれる。


 専用の符丁や、報告時間、内容……それらを全て別な場所へと誘導するために。


 多分今日も夜に仕掛けてくるつもりだろう。

 その攻撃目標は……。


「……始まったようだな」

「まさか、ここまでうまくいくとは思いませんでしたが……」


 援軍がひそんでいる所へ夢の魔物が攻撃したようだ。

 混乱した魔物が仲間のエフェオデル兵を食らっているらしく、混乱しきった音がここまで聞こえてくる。

 他にもどこからともなく魔物たちが近寄っていき、一斉に暗闇に包まれた森の中へと突入していった。


 今、あの森の中では盛大な同士討ちが行われていることだろう。


『魔鎧兵隊、行くぞ』


 魔鎧兵に乗り込み、飛竜によって音もなく森の上まで運ばれる。

 今もなお、魔鎧兵の耳には悲鳴と何かの咀嚼音が響いている。

 数少ないエフェオデル兵はあっという間に魔物に制圧されてしまったことだろう。

 見張りは苦しみだした仲間を助けている間に、混乱した魔物が襲いかかり……眠りながら苦しむ者は夢と現実両方から攻撃を食らって命を落とす。

 ここで魔鎧兵が介入するのは魔物を確実に殲滅するためでもある。


 少し離れた場所に投下され、発光信号を送ると……今同士討ちが行われているところへと榴弾が撃ち込まれ、魔物が激昂する声が響き渡る。

 それと同時に魔鎧兵隊は突っ込んでいき、生き残りの魔物をメイスで叩き潰して回った。


『黒い魔物がいるぞ、力は未知数だ。5人でかかれ』


 タラスクはタラスク同士で喧嘩しているのでとりあえず放っておく。

 その前に影のような黒い魔物たちが、他の魔物たちを駆逐しているのを見て優先的に倒さねばならないものと判断した。


 人型……ゴブリンを黒くしたような奴は大きさは若干大きいものの、流石に魔鎧兵の質量には勝てなかった。

 踏み潰してまわれば良いことが分かり、脅威度は低いと判断する。

 問題は蜥蜴型だ。

 蜥蜴というよりも、巨大な鰐のような造形だが……暗闇の中で黒い肌をしているそれはひたすらに見づらい。

 周りの炎の光があるからこそ分かるようなものだ。


 何も知らない者ならば地竜と間違えてしまうかもしれないほどの体躯。

 太く、意外と長めの足。

 這っている状態で魔鎧兵の腰辺りまである巨大さだ。タラスク並に警戒が必要だろう。


 バートランドが大砲を撃ち込むと、こちらを完全に敵と見なしたようで先程まではこちらに無関心のように見えていたそれが、殺気を隠さずに敵対した。

 次弾を込めているバートランドへ向かって、その大きさからは想像できないほどに素早く加速し、次の瞬間には大砲を腕からもぎ取っていた。


『なっ……速い!!』


 奪い取った大砲はそのまま強靭な顎によって即座に真っ二つに折られ、八つ当たりをするかのように頭を振り木にぶつけては更に破壊を行っている。

 そこに知能はかけらも見られない。

 だが……鋼鉄の塊である大砲を一瞬で噛み切った顎の力は危険だ。


 腕などを噛まれたらもぎ取られると思ったほうが良さそうだ。


『全員メイスを装備。大砲はなるべく使うな』


 全員で一斉に殴り掛かる。

 殴ったら即座に交代して距離を取り、向かってきたら仲間が救援に行くまでを凌ぐ。

 作戦とも呼べないようなそれを実行に移した。


 5人のメイスが狙い違わず頭部と腹部へと向けて振り下ろされ、鋭いスパイクが蜥蜴の身体に深々と突き刺さる。

 身の毛もよだつような悲鳴を上げて滅茶苦茶に暴れまわる蜥蜴を、何度も何度も叩きのめし……ついにピクリとも動かなくなったのを確認する。

 脅威は脅威だが、防御力はさほどではないのが幸いした。


 後はお互いを敵と見なして仲間割れをしているタラスクを1匹ずつ取り押さえてテイマーに操らせる。

 こちらに従順になったタラスクは回収して次の攻撃に使うのだ。


 一度砦へと戻り、次の作戦の準備をする。


 今度もまた飛竜が大活躍する。

 空から急襲をかけるという発想は確かに有用だ。頭上からの攻撃ほど厄介なものはなく、地形や陣形を無視して最初から目的地へと攻撃をすることが出来るのだ。


「急げ!夜明け前に奇襲をかけるぞ!」

「アンデッドを詰め込めるだけ詰め込め!」

「タラスクを引っ張り上げられるだけの縄はあるか!?」


 慌ただしく動き回る兵たちだが、その表情は希望に満ちている。

 援軍を全滅させただけでなく、これからその援軍を送り込んできた砦を落とすために行くのだ。

 しかも帝国兵ではなく、かつて味方だったはずのエフェオデル兵と、地上では最強に近いだろうタラスクという暴力の化身が暴れまわる。


『ではこれから魔鎧兵隊とアンデッド部隊は出発する!他の者達は今のうちに休めるだけ休め!見張りは奴隷どもとアンデッドに任せろ!』


 何よりもこれが一番嬉しいだろう。

 ここ最近、まともに眠ることなどできなかった皆が、安心して眠ることが出来るのだから。

 見張りにすら立たなくていい。

 全ては奴隷とした者達が引き受けてくれる。


 ここに来て、エフェオデルの思惑は段々と崩れ始めていくのだった。


 □□□□□□


 第二目標である砦は一部を除いて明かりはなく、随分と静まり返っている。

 月明かりも雲に隠れ、暗くなった時を見逃さずに大きな箱と、タラスクをぶら下げた飛竜3頭が砦付近へと自由落下を始める。

 魔鎧兵隊10人も全員がそれに続いて小都市の内部へと侵入を果たした。


 即座に飛竜隊は火弾とブレスを砦へと撃ち込み、兵の詰めている所を優先的に火を放っていった。

 突然の急襲に塀の外を見張っていた者達は誰も砦付近の出来事に気づかず、大爆発が起こって初めてその異変に気づく。

 けたたましく鐘が鳴り始め、あちらこちらで明かりが灯り始めるがその瞬間に建物ごと火に包まれていく。


 アンデッド達はその火の海を物ともせずに全速力で走り、次々と味方だと思った兵達を切り捨てていき……そのまま自分の配下へと加えていく。

 死人が出れば出るほどその戦力が増えてゆくアンデッド。

 かつての仲間達が敵となり襲い掛かってくる恐怖はどれほどのものだろうか。


 極めつけはテイマーの手を離れ完全に暴走が始まったタラスクだ。

 目につく動いているもの全てが敵に見えているのだろう、逃げ惑う人々が蹂躙されてゆく。


『魔鎧兵隊、速やかに砦の制圧だ。出来るだけ立ち直れない様に兵器は破壊する』


 メイスの一振りで固く閉ざされていた門ははじけ飛び、その門の中めがけて飛竜のブレスが注ぎ込まれる。

 後は魔鎧兵ごと突っ込んであちこちを壊しながら進むだけでいい。

 時に大砲をぶち込み、次々と砦内の生存者は減っていく。

 兵士達も最初の攻撃によるパニックから、更に飛竜によるブレスのせいで身動きがとれないままに蒸し焼きになる一歩手前と言ったところか。


 魔物のストックは無いようで、あの場所へと仕向けたのが全勢力だったのかもしれない。

 事前に聞いていた小都市の内部の構造と、大まかな都市の地図。

 その中に一件だけ少し独特な形をした建物が身分の高い者の敷地内に置かれている。

 テイマーが魔物を操る時に使う聖堂のようなものだ。


 魔鎧兵を走らせ見つけたそこには、果たして目に包帯を巻き上等な衣服に身を包んだテイマーがこちらを向いて怯えていた。潰してしまわないように握り、目的は達成された。


『テイマーを確保!魔鎧兵隊は戻るぞ!』


 あちこちを吹き飛ばし、ぼこぼこに穴の空いた砦はやがて崩れて行き巨大な瓦礫とかしていくのを後ろに見つつ、魔鎧兵隊は損害を出さずに帰還する。

 飛竜たちもそのまま戻り、アンデッド達に関しては適当に仲間を増やして戻ってこいと伝えてある。

 今は殺して配下に入れてを繰り返しながら小都市を制圧している所だろう。

 タラスクは完全に暴走しているためテイマーの支配すら受け付けない状態だ。


 □□□□□□


 翌朝、ディノス達が見たのは向こうの砦の中に居た者達全てが集まったのではないかと思えるほどの人数が、門の前に整然と並んでいる光景だった。

 その中には魔物も入っており、倒す度に仲間に加えていたのだろう。

 昨日捨ててきたはずのタラスクまでいる。

 死んだタラスクを操っている様だ。


 門を開けるとアンデッド部隊……いや、アンデッド軍を率いるリーダーに指名した者が敬礼をして報告した。


『ご命令通り、都市を制圧。アンデッド化出来るものは全てアンデッドとして仲間に加えて帰還しました。次のご命令を!』


 くぐもった声ながらも、はっきりとした意思を感じる。

 隣に来ていた死霊術使いもこれには驚いて居たかと思ったら今度は興奮し始めた。


「ディノス様……!これは上位の個体です!アンデッドとして蘇らせた者が戦いの中で進化したものと思われます!!」

「リーダーとして率いさせていたのが良かったのか?進化するとどうなるのだ?」

「知能がある程度戻り、この様に話をすることが出来ます。彼は……死霊術に長けたリッチに近い存在へと生まれ変わろうとしている……!」


 だから何なのだ?と思ったが、このまま強くなっていくと普通の人間には対処できないほどの力を持ち始めるという。

 しかしその指揮権はディノスがもっており、反乱することはない。

 リッチは一体出ただけで街が滅びたなどという話もあるほど危険なものであるという。


 ちなみに他の死体達は彼の支配下にあり、ディノスが直接指揮するよりも細かな作業が可能となるそうだ。

 アンデッドの世話はアンデッドに任せればよいということだろう。


「……なるほどな。お前たちは自らをどうやって回復させる?」

『生きとし生ける物を喰らい、我らが肉体へと変じます』

「良いだろう。この辺にも魔物はいるだろう?そいつらを喰らうことを許す。エフェオデル兵が居ればそいつらも良いぞ。俺達はまだしばらくここで休養を取っているから、今日の昼過ぎまでに戻ってこい」

『仰せのままに!』


 ビシっと敬礼を決めて一斉にアンデッド達が走ってゆく。

 なるほど、疲れを知らぬ彼ららしい行動だ。

 放っておけばその辺の魔物を喰らいつつまた戦力を補充して戻ってくることだろう。

 これはいい手下が出来た。

 後で川で身を洗わせておけばぱっと見にはエフェオデル兵そのものにしか見えないだろう。


ついにエフェオデル攻略一歩手前まできたディノス達ですが、次回はテンペスト達の方も少し出てきます。

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