第百三十八話 英雄として4
「見つけたぞグラノス!これで我々の勝利は揺るぎない物となる!!」
そんなディノスの声を聞いた部下が怪訝な目をして見上げている。
初めて見たはずの魔物を何故知っているのか。
しかし元々別な場所から流れ着いた人物であることを思い出して、そういうことも有るかと納得する。
「知っているのですか?」
「ああ、よく知っている。私は以前居た国であれを見たことが有る。倒し方も利用方法もよく知っている」
「利用方法……とは?」
「ふ、それは後で分かるだろう。あいつら以外のエフェオデル兵や魔物が潜んでいないか確認しろ。私は将軍のところへ行ってくる」
エフェオデル側の大地で移動しているのは間違いなくグラノスだ。
ダンジョンケイブを見つけるまでもなかった。野生で生息する種だったのだ。
しかしエフェオデル側に居るのが問題だ。
有用なのは間違いないが、エフェオデルの連中に見つかったら面倒なことになる。
まずは将軍に相談してみることにした。
「向こうにいる魔物を狩りたい?なぜそのようなことを、向こうに大義名分を与えることになるかもしれんぞ」
「分かっています。しかし……ただの魔物ではありません。私の居た国では兵器として使っていたのですから」
「……どういう事だ?魔物を従えていたと言うことか?」
かいつまんで説明していく。
どのような兵器になるのか、そしてそれがどれだけ強かったのか。
あの時だって、最初に壊されさえしなければ結末はもっと違っていたかもしれないのだ。
それだけの力があれにはあった。
そこまで考えて、向こうに奪われた魔鎧兵が見たこともない姿となって戻ってきて、ミレスの魔鎧兵をあっという間に破壊して回っていたのを思い出す。
駄目だミレスと同じことをしていては絶対に勝てない。
だが今はそれをするしか無い。時間がなさすぎるのだ。
とりあえずはエフェオデルを圧倒することができればそれでいい。
「……一体作るのに時間がかかるようだが……なるほど、完成さえすれば確かに強力な武器となろう。実績は有る、作らせるのだ。有用であればなんでもやってみるといい。どういった性能を持つものかなどを教えてもらえれば作戦を立てるのに役立つだろう」
「では、少しばかり兵をお借りしたいのですが」
「私も行く。弱点は腹と言ったな?であれば槍兵が良いだろう」
「出来るだけ傷をつけず、筋肉と筋肉の間を狙う必要があります。そこ以外はやはり武器の通りが悪いので」
人の力では突き通すことの出来ない程の筋肉を持つグラン。その為に腹部から胸部に掛けて開く部分の隙間を狙って中に居るミノスを殺す。
そうすれば無傷のグランが手に入り、修復などしなくて済む分早く使えるようになるのだ。
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クラーテルの東門、エフェオデルに一番近い場所。
そこにホーマ帝国軍が並んでいる。
当初ここに来たときよりもかなり増えたと実感する。
実際に討伐に当たるのは少数だが、何かあった暴れだした時には確実に息の根を止めないと危険なためにバックアップとして来てもらっている。
最初はエフェオデル側へ渡って行こうと思っていたのだが、将軍がもっといい方法があると言って提案してきたのが……橋をかけて少し矢でつついてこちらに渡らせるという作戦だ。
確かに、これならば矢さえきちんと当てれば問題ない。
「橋を架けよ!」
ガラガラと巨大な折りたたみ式の橋を乗せた物が崖の手前までいき、ガッチリと地面に固定される。
カウンターウエイトが橋が展開される方とは逆に追加されていき、ゆっくりと橋が架かっていく。
まさかホーマ帝国がこんなものを用意していたとは思わなかったためかなり驚いたが、こういう立地だからこそ何かがあったときのために作ってあったのだろう。
橋が架かり終わると腕のいい弓兵がウロウロしているグラノスに突き刺さる。
突然腕に刺さった矢を見て、そのまま目線が煌々と火を焚いているこちらに向くと、咆哮を上げて向かってきた。
たまたまそこにあった向こう岸に行くための橋に疑念すらも持たずに突っ込んでくる。
地響きを立てて2匹が釣れた。
「縄を上げろ!!」
号令とともに地面に置かれていた縄が引っ張り上げられ、左右に建てられた頑丈な杭に固定されると、それに気づかないまま走ってきたグラノスが足を引っ掛けて転んだ。
流石に後続のグラノスは引っかからずに止まったが、足止めを目的としているため特に違いはない。
後ろで立っているグラノスに破裂音と共にライフル弾が命中し、小さな穴を開けると……突然意識を失ったかのように膝をつき横に倒れていく。
その前の方で盛大にコケたグラノスには槍兵が群がり、腹の下辺りから何度か筋肉の隙間に向かって槍を滑り込ませていた。
最初のうちはもがいていたグラノスだったが、10回目くらいで大きく痙攣した後に動きを止める。
「仕留めた奴は後ろに下げろ!次だ!」
縄を引っ掛けソリに乗せて魔導車で引っ張っていく。
すぐに広場を空けると次のグラノスに照準を定めて……と繰り返すこと5回。
数名の怪我人を出しつつも犠牲者は無しで8匹分のグランの身体を確保することに成功した。
作戦終了後、速やかに仮設の橋は回収されてエフェオデルとホーマ帝国は分かたれる。
「ディノス、これで良いのか?」
「大収穫でしょう。全てを魔鎧兵にするには時間も資材も無いと思いますが」
「いや、資材はなんとかなるかもしれんぞ。皇帝陛下がこれからエフェオデルとの戦闘が始まるという時に手に取る武器がなければ意味がない、という事で鉱山を解放してくださったのだ」
普段は計画的に採掘している鉱山だが、ここに来て出し惜しみしては負けるという事で無制限に掘り出すことを認めた。
もちろん戦闘終了までの期間限定では有るものの、これによって必要な金属が揃うようになる。
となれば……魔鎧兵の鎧を作るのに必要な金属量を精錬所に注文できる。
「それは……素晴らしい事です。では早速グランの腹を開きましょう。洗浄しなくては臭いがキツくなりますので」
「う、うむ……本当にその中に入るのか?」
「ご安心を。我々の研究の結果、これは肉体を持ったゴーレムのようなものです。臓物はなく血液は有るものの少量。基本的に魔力と中に居る生物の意志によって動くという不思議な魔物です」
ただし傷を受ければ痛みを感じるし、治癒魔法によって傷も塞がるという点では生物としての特性も有る。
広い場所にグランを運び込むと、体毛のない筋肉質な人形の魔物の姿が顕になる。
「頭部が変わった形をしているな。……口がない……?」
「恐らく食事を取る必要がないからでしょう。性器すら無いため繁殖方法は我々も分かっていません。……まずはこのグランの腹を開き、中に居る」
東門近くで明かりの下グランの腹の脇にナイフを差し込み、割れ目に沿って動かしていくと刃が止まるところがある。
そこの付け根のところに突起があり、押し込むとバクンと音がして腹から胸部までが持ち上がった。
「なっ……これは……!」
「なぜ、そうなっているのかは分かりません。我々はただ、これを便利に使っていただけですので。……そして、この中に居る猿ともなんとも言えない奇妙な魔物がミノスです。身長は子供程度から背の低い大人程度まで。ミノスのみであれば例え集団で襲ってきた所で大して怖いものではないのですが……グランと組み合わせることであのように凶悪な魔物へと変貌するというわけです」
「本当にこれに乗れるのか……?」
ミノスを取り出した中身を眺めている。
中はつるりとした卵状の部屋になっていて、大人でも巨体などでなく通常の体型であれば特に問題なく収まる。
しかしそのまま入ると身体を固定することなどが出来ないため、後付で椅子や身体を固定するためのハーネスを取り付ける必要がある。
その他、中から開けるのに楽になるように取っ手をつけたり、降りるときなどに手元が分かるように明かりを取り付けたりと色々詰め込むのだ。
これが個体ごとに微妙に差があるためにそれぞれに合わせて作らなければならない。
中の洗浄が終わり、簡単なデモンストレーションをすることにした。
「椅子がないので乗りにくいが……。では、今から起こすので周りを開けてください」
ディノスが中にはいって腹を閉める。
するとさっきまで全く動く気配すらなかったグランが動き始め、立ち上がった。
『……と、この様に中に入りさえすれば自分の意志でこれを動かせます。力はご覧の通り』
ディノスの乗るグランが、もう1匹のグランを片手で持ち上げる。
かなりの重量があるはずのグランがあっさりと宙に浮き、兵達がどよめく。
今度は皇帝に跪くような格好となり、腹を開いてディノスが降りてきた。
「このようになっています。何故か喋れば声は聞こえるのが不思議な所ですが。どうですか、将軍。これらな奴らを蹴散らせると思いませんか?」
「ふ、ふふふ……気に入った!なるほど、確かにこれはいい。今夜のように近くに居た場合にはなるべく今回のようにして確保しようではないか!皇帝陛下もお喜びになるだろう」
「光栄です。つきましてはこのうち一つを私用に頂きたいのですが」
「問題なかろう。今一番詳しいのはディノス、お前だ。自らが手本となり他の者達へ教えるが良い」
これでホーマ帝国にも魔鎧兵を導入できる。
ここからどうやってあれほどの物を作ったのか、見た目はもう全く面影がなくスマートになっていたはずだ。
とりあえず、今必要なことは身体を固定するための座席を取り付けることだ。
最低限それをやらなければ動かした後に自分が怪我をしていることになる。その後で鎧を着せていき武器をもたせればいい。
自分がこれを操れる日が来るとは思っていなかった。
魔鎧兵を使っていれば、手軽に戦果を上げて自分の安全を確保できるだけでも使う意味はある。
「では、私は皇帝陛下にこの事を伝える。良くやったぞ、ディノス」
「は。私はこれを早急に完成させる様尽力いたします」
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何処をどういじればいいのかを指示して管理を任せ、ディノスは執務室に戻る。
あれをどうやって改良していけば良いのか。
今の頭ならば考えつくかもしれない。
まずはあのグランのまま使うことの問題点だ。
「……ディノス様、お茶をお持ちしました」
「ああ、ヨックか」
「ディノス様はもうすっかり英雄の雰囲気が出てきましたね」
「ん?どういう意味だ?」
「いえ、司祭として私達を導いていた時よりも生き生きとしていらっしゃいます。そして人を率いて魔物を倒してゆく姿など、まさしく英雄のそれでしょう」
あまり考えたこともなかったが、心境の変化が行動や態度に現れているということだろうか。
「……そういえば、こちらに来てからイライラする事が少なくなった気がするな」
「そう思います。以前は何処かずっとピリピリとしていた様に思いますが、今は……どちらかと言うと笑っていたり穏やかにしていらっしゃる時が多いように思います」
「そうか。ふっ、そうだろうな。こちらに来てからと言うものずっと思い通りに行っているのだ。あの博士の持つ知識を頭に収めてから世界の見え方も変わってきた。何もかもが昔の俺ではない。何よりも見ろ、この顔、この身体を。自分ですら気に入らなかった身体を捨てて自信を持って人前に出て行ける。どんなに走っても疲れず、剣を振るっても様になる……最高だろう?」
「私もリーベも理想の身体を手に入れました。そのお気持ちは確かに分かります」
ヨックもリーベもあの時自分と一緒に顔と身体を変えた。
自分が望むものへと変わったのだ、理想であるそれは当然ながら美男、美女であり、俺から見ても整った顔をしている。以前は二人共地味目な見た目だったのだが見違えるようになったのだ。
お陰で二人共モテているらしい。
ディノスも選り取りみどりで楽しめているのは確かだ。
「ああ、そうだ。お前に聞きたいことが有るんだが」
「なんでしょう?」
「魔鎧兵だ。今ここに描かれているのはその元となるグランだが……ミレスでは以前、これにそのまま鎧をつけて戦っていた。覚えているだろう?」
「はい」
少々不格好な人型。2足歩行して武器を扱える器用さを持ち合わせているが……なぜ、ミレスを潰した敵があれ程までに早く、そして強かったのか。
逆にミレスの物は何が悪かったのか。
「実際に乗ったわけではないのでわからないのですが……。逃げる際にちらっと見た限りでは敵の魔鎧兵はより人の形に近かったと記憶しています」
「その通りだ。腰のあたりが相当細くなっていたし、足はこの様な……」
「ディノス様、絵が上手いのですね」
「俺にも分からん。この身体になってから考えている物を描く時に思った通りに筆が進む……どうだ?」
「はい、確かにこの様な形でした」
大まかにシルエットだけを元々描かれていたグランの絵に重ねて描く。
やはり大幅に形が変わっている。
「……腰から下と胴体が特に大きく形が変わっているように思います」
「うむ……だがどうやってこの形にしたのかが分からん。そしてこの形にすることで何が変わる?利点は何だ?」
「そう……ですね、あっ!腕と足の付根の位置がずれています。これだと……腕と足がぶつからなそうです」
「なるほど。動きやすくなると言うことか」
剣を振る動作などをしてみれば、腕と干渉する足の付根が物凄く邪魔だ。
後は実際に乗ってみて試してみるのが良いだろう。
恐らく実際に動かしてみれば欠点などが更に分かるはずだ。
「……まあ、こんなものか……どの道専門外だ、今一匹は解体して調べさせているから何かが分かってくるだろう」
「でしたら今日はもうお休みになられたほうが良いかと。もう大分夜も更けております」
「そうしよう。流石に今日は疲れた」
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翌朝、エフェオデル側から翼竜が飛んできた。
見張りに立っていたものが即座に鐘を鳴らし、それに答えたライフル隊が無事撃ち落としたわけだが、翼竜の割に集団で行動していない。
「エフェオデルが何かを仕掛けてきたと思ったほうが良いのでは?」
「しかし……なぜ一匹だけで?攻撃するならば飛竜一匹の方が効率がいいだろう」
「普段は集団行動するはずの翼竜が一匹だけ……周りの様子は?」
「探させているが今のところ他の魔物などは見当たらない」
それを報告すると確かにおかしいということになって議論になった。
通常翼竜は群れで行動する。最低でも10匹程度は固まって動くので、はぐれにしても近くに集団が居ないことが気になる。
「魔物を操るくらいだ、何か連絡手段があったのではないか?」
「というと?」
「いや……思いつきなんだが……その翼竜にここの様子を言わせたり出来るのかなって……ないな、すまん」
「翼竜にそんな頭が有るかよ……」
しかし、ディノスには何かが引っかかる。
偵察……と考えたら意外とあり得るのかもしれない。
翼竜が見た景色を覚えて帰るのは無理だろうが、翼竜が見た景色を見ていたら?
「待て。そいつの言うとおり、偵察の可能性がある」
「しかし……情報を持ち帰って報告しなければ意味が無いだろう?」
「当然だ。だが……そいつが見ている景色を誰かが見ていたというなら話は別だ」
死霊術師などでたまにやれるやつが居る。
自分が操るスケルトンなどの視覚に入ってその場の状況を見るというものだ。
大抵の場合、自分で動かせるようにもしている為、アンデッドの大群などで一匹だけ動きがおかしいやつが居たら優先的にそれを叩くとアンデッドの統率が乱れることが有るのだ。
「それに、今私達にも似たようなものが有るだろう?」
「……グランか!」
グランは乗ったことが有るなら分かるが、グランの感覚などを全て共有する。
つまり自分がグランそのものになるという感覚だ。
グランの目が見たものは自分が見たものとして感じられ、聞いたものも、感じたものも全てが自分が体験したものとなる。
「それが当たっていれば、クラーテルの状況を少しとは言え見られた可能性があるな」
「翼竜は目がいい。クラーテルの城壁の内側はほんの僅かな時間とはいえ見られたと思ったほうが良いかもしれん」
「対策は?」
「見つけ次第撃ち落とせ。向こうに情報が渡った可能性がある以上、対策を取ってくる可能性が高い」
屋根をかける方法もあるが、自分達の移動なども阻害される。
いい手ではないだろう。そもそも範囲が広すぎて無理だ。
であれば長射程を活かして遠距離で撃ち落とすほうが早い。
後は武装などは建物の中に入れておくことや、シートなどで覆って中身が何かわからないようにしておく事も決めた。
「昔、私の国でこの魔鎧兵を全て壊されたことがある。上空からの攻撃だ。だから始まる直前まで絶対に外に出しておくな。そして何処に仕舞ってあるかも悟られないようにしておけ。ばれていたら飛竜などの攻撃を受けて乗り込む前に潰されることになる」
「経験者の意見は聞いておいたほうが良いな。ではグランの身体は数カ所の建物に分けてばらけさせろ。一箇所にまとめておくとたまたまそこに攻撃が当たっただけで致命的だ。魔導車なんかも同じようにしておけ」
あのときはもちろん、飛竜よりも恐ろしい戦闘機と言う空を飛ぶ兵器による攻撃だったが。
飛竜の攻撃が温く思う程の苛烈で迅速、そして正確無比なその攻撃は未だに脳裏に焼き付いている。
「……近いうちにまた偵察が飛んで来るか、エフェオデルに操られた魔物が押し寄せてくる可能性がある。全員気を引き締めなおせ」
偵察であれば近くまでエフェオデルが来ている可能性もある。
そうなるとこちらの準備次第ではエフェオデルが攻め込んでくる可能性がある。
改めて偵察らしき魔物が飛んできた場合には即座に対処するように伝え、同時に守りと軍の展開に関してを確認しておくように指示して置いた。
その帰り道に自分の魔鎧兵を見るために倉庫へと寄り道をする。
地面に座らせられているような格好でグランが腹部の扉を開いたまま、作業が進められていた。
「ディノス様!?」
「ああ、良い。帰りのついでに寄っただけだ。何処まで出来ている?」
「は、はい、えー……グランの内部を更に洗浄し、なめし革を貼り付けました。中にクッションを入れてあるので少々ぶつかったくらいでは問題はないかと。その上で木工職人に特注で椅子を作らせたので設置している所です」
「昨日の今日だろう?随分と早かったな」
「元々組み上がっていたものを使って合うようにと組み直したものだそうです。強度はそれなりにありますし、クッションを貼り付けてベルトを取り付け終わればとりあえず乗るだけは乗れます」
既に椅子は取り付け終わっている。ちゃんと椅子もただの椅子ではなく、ゆったりと座れるような形のものが収まっていた。
これを入れると相当窮屈になるが、一度乗り込んでしまえば意識はグランと同調するので問題ない。
「そうか、ならば出来たら早速動かして試してみたいことがある。そこまで無茶はしないから仮設置でも構わん」
「わかりました。もしよろしければ中に関しての改善点も仰っていただければ改善いたします」
そして倉庫で待つこと30分程度で仮組みが終わった。
内部にきちんと固定されているので安定感がある。
この玉子状の部屋が分厚い骨にも似たものだからこうしてしっかりと固定できるが、特に同調した時に腹が痛いなどということは無いようだ。
意識がグランと同調していつもよりも高い位置の視点に切り替わる。
周囲を確認しながらゆっくりと起き上がると、倉庫の中央まで歩いていき、腕を振り上げて横に大きく回してみたりぐるぐると肩をほぐすような動きをしてみたりと、準備体操のようなことをし始める。
それを見ていた魔鎧兵の専属整備兵はディノスが何をしているのかが良く分からない。
大きく股を開き腰を落とす。
その辺にあった長い木材を握り、それを剣に見立ててゆっくりと型を取っていく……が上手く出来ない。
一通り感触を確かめた後に元の位置に戻って座り込み、グランから出る。
「……ふむ……」
「あの、今のは一体何を……?」
「いや……、これの弱点を探っていた。やはり実際に動かしてみないことには分からないことがあるな」
あの敵の魔鎧兵に勝てなかった理由……。生身では出来る事が出来ない。
剣を構えてみれば両手で正面に構えると途端に可動範囲が狭くなる。
後ろに回られれば腕が背面に回らず、防御も出来ない。
何よりも足がガニ股風になっているため安定感はあるが走るのには向かなそうだ。
良いデータが取れたと思う。
そしてもう一つ……。
「とりあえず今はこの状態で何とかするしかあるまい。そこでだな……コイツが一人で運用できるように大砲を作れ」
「正気ですか!?」
「出来る。それくらいの力があるのだこれには」
大砲を持ち歩ければ……敵にとっては脅威そのものだ。
エフェオデルがおとなしくしている間にこちらは準備をすすめよう。
魔鎧兵を手に入れることが出来たディノス。
着々とサクセスロードを突き進んでいきます。
俺、この戦争に勝ったら専用の兵器研究所と優秀な人材もらうんだ……




