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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第五章 英雄ディノス編
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第百三十七話 グラノス

「これが船の中だなんて信じられません!」

「この扉は何処に通じているのですか?」

「こら、二人共……今案内してくれているのだぞ。落ち着きなさい」

「ああ、いえお気になさらず。この部屋の左右にある扉はそれぞれ皆様がお泊りになることが出来る部屋です。奥の方は皆で集まる事が出来る広間となっております。食事などはそこで取ることになります」


 広めに作られた廊下の突き当りの扉を開けると、そこは広い空間となっており、正面と左右にドアが設置されている。

 それぞれ左右は個室となっており、王族が寝泊まりするための部屋だ。

 正面はリビングとダイニングを兼ねた広間で、窓も大きく眺めがいい。

 個室の方も他の場所に比べて窓は大きめにとってあるが、当然ながら有事の際にはシャッターが降りてガードされるようになっている。


 だが窓の外はまだドックの内部しか見れない。

 と、僅かに船が揺れる。

 注水が終わり、船が浮き始めたのだ。


「そろそろ海に出ることができますね。では……艦橋へ向かいましょう。バハムートで最も眺めがいい場所です」


 エレベーターを使って艦橋まで行くと、既に作業をしている者達が居たが……国王達が入ってくるのを見るとすぐに作業を中断して跪く。

 しかし国王の作業に戻るようにという指示でまた黙々と出港準備を整えていくのだった。

 内心は相当緊張していただろうが。


 艦橋から見るドックとその船の全体。

 前部甲板は広く、巨大な大砲らしきものが取り付けられているが、半分ほど沈んだ形で収まっていた。

 リヴァイアサンでも使っていたが、昇降式の大型レールガンだ。

 側面にも小型レールガンと50mm機関砲、25mmガトリング砲など凶悪な装備が取り付けられている。


 後部甲板は更に広く、セイカーやマギア・ワイバーンが発着するためのスペースは確保してある。

 その周辺にもやはり武器がくっついており、大分リヴァイアサンよりも強化されている印象があった。


 そして進行方向正面の隔壁が上がっていく。


 魔導エンジンが動き出し、直前のチェックが始められる。

 王様は艦長用の席に座り、王子と王女は前方の窓にくっついている。その横にニールも。

 隔壁が開ききると少し暗い色の海が姿を現す。

 堤防のお陰でそれほど波は無い。


 艦長の号令とともにゆっくりと進み出すバハムート。


「この船、静かですね」

「魔導エンジンの作動音は大分減らしました。それに重量はかさむものの遮音壁を使いとても静かになっていますよ」


 加えて横方向へのロールなどは船体の幅が広いために抑えられ、船体のきしみなどの音も殆ど無い。

 徹底して動くものは固定されているので、多少海が荒れても問題ない。


「さあ、湾の外に出ます。ここからは速度を上げていきますので皆さん席に座るか、周りにある手すりに掴まるなどして身体を固定してください」


 全員が固定したのを見て、サイラスが合図を出すと艦長が両舷全速の号令を出す。

 次々と復唱され、静かだった船に機関音が僅かに聞こえてきた。

 それでも小声で声が聴こえるレベルなので全く問題ない。


 ぐん、と後ろに押し倒されるような感覚とともに強烈な加速をしていく。

 波を割り、水面を滑るように速度を上げていくと漁をしていたであろう漁船が遠くに見える。

 大分離れた位置だったが、あちらもある程度速度が出ていたにもかかわらずあっという間に後方へ消えていった。


「現在最高速度に達しています。波がありますが、船首で波を切り裂くような設計にしてあるため水による抵抗は減っています。お陰で揺れも軽減できました。更に持続時間は限られますが緊急時用のブーストの方も体験していただきましょう」

「更に速くなるというのか!?」

「はい。そして使うと一気にまた加速が始まりますのでしっかりと動かないように掴まっていてください」

「緊急用ブースト解放!全乗員は近くの手すりに安全帯を掛け加速に備えよ。繰り返す……」


 カウントダウンが始まり船内に警報が響き渡る。

 0カウントがアナウンスされた瞬間、先程までとは全く別次元の加速が始まった。

 しっかりと握っていた人も耐えきれずに手を離してしまい壁に頭をぶつけている。


「こ、これは!?」

「これがホーマ帝国から脱出する時、帝国の敵である国が船に取り付けていた推進機関です。魔力を大量に消費するためギリギリまで使わなかったのですが、帆船が突然急加速した時には目を疑いました。その船の装置をもぎ取ってこちらで解析をして改良した後に船体後方に取り付けてあります」

「このようなものを持っているとは……侮れない国だな。帝国の敵であれば我らの障害となるだろう」


 一通りの性能を見せた後、そのまま帰港してドックではなく街の港へと係留してそこで休んでもらうことにした。


 国王から今日は泊まっていきたいというリクエストがあった為、急遽食糧を調達して料理人が厨房へと入っていく。

 とれたて新鮮な魚介類をたっぷりと使った昼食に大満足してくれたらしく、終始ご機嫌だったのは幸いだ。

 王子たちも船の中を色々と見て歩きたいということで、案内と護衛を付けて探索中だ。


 お披露目は満足してもらえたようだ。


 □□□□□□


 ホーマ帝国、クラーテルでは急ピッチで復興作業が行われていた。

 壊れた家、持ち主が居なくなった家などは全て取り壊し、新しく区画を区切り直しつつ何重にも防壁を作る。


 無事だった畑や水路を整備し、成長が早い物を植えて今後に備えつつ、倒した魔物の肉などを不味かろうが確保して配っていく。

 病人が多く出て、毒によって作物への影響も懸念される中王都が出せる物資には限りがある。

 他の場所から来る物資はまだまだ時間がかかるのだ。

 今は不味かろうがなんだろうが腹に入れて生き延びなければならない。

 幸い、水に関しては毒の汚染は消えている事が確認されたので、飲水には困らない。


 酷い環境の中労働に当っている人たちの中にはやはり倒れてしまう者が出てきて、代わりの人員も居なくなってきている。

 だがこれも壊れた箇所を補強し、新しく作った前線の区画が完成するまでだ。

 魔術師のお陰で数日で終わる見込みが出ている。

 後はゆっくりと休ませることが出来るだろう。


 穴を塞がなければ、いつエフェオデルが攻めてくるか分からない。

 ディノスが人々の希望となり、指示を与えて動かしているからこそこの状況下でもなんとか上手くいっている。


 臨時とはいえディノスがこのクラーテルの領主となり、ここをエフェオデルを倒すための拠点とし、更に強固な守りを築き上げる為に協力を呼びかけた。

 全てを奪われ、意気消沈していたものたちもどん底の時に颯爽と現れて敵を蹴散らしてくれたディノスという英雄を前に奮起する。

 奪われた命の対価を求めて、奪われた生活を取り戻すために一般人の中からも戦闘に加わりたいという申し出が出る。


 狩りをしていたものなどを中心に、武器を与えて訓練をさせるがやはり軍人とは違うために別部隊として編成し、奇襲などで成果を挙げさせる方向にするべく突貫で訓練中だ。

 また、食糧、武器、衣服、薬などの生産に関わっていたものたちはそういった実行部隊には入れず、それぞれが持っていた道具などはそのままに移動して、一箇所にまとめた大きな工場を作り上げる。

 個人個人では出来る数は限られてくるが、それら職人を一箇所にまとめて仕事をそれぞれ振り分けることで生産性をあげるのだ。


 エフェオデルに自分の施設を破壊されたものも、そこで道具を持っていきさえすればまた働ける。

 流石に費用は嵩んだものの、これらの策のお陰で大勢をを立て直しつつある。


 壊れた砦も縮小しながらも復旧が進みとりあえず指揮を取り、人が寝泊まりする程度の事は出来るようになっていた。


 その砦の執務室にノックの音が響く。


「入れ」

「失礼します。街の工事進捗の報告です」

「ヨックか……ふう……このままエフェオデルが邪魔をしなければ3日か4日程度で完成できるか」

「はい。今のところ順調です。ディノス様が演説して以来この街の士気は上がり、英雄が居る限り負けはないと鼓舞する声も聞かれます」

「英雄か……」


 最初のうちこそ、モンク司祭であったときの考え方で上っ面だけだろうと思っていたのだが、ディノスとなって外見を変えた後は評価が鰻登りとなった。本当に小さなことでもプラスに捉えられ、やはり英雄だと褒め称えられる。

 はっきり言えば気分がいい。以前はここまで人に好かれたことはなかった。

 上官も、同期も、部下も。

 誰もが汚いものを見る目でモンク司祭という人物を見た。

 直接口に出す物も居た。

 それに耐え続けている内にどんどん考えがねじ曲がったのを今痛感している。


 思えば、審問を行い、拷問をするようになったのもそのせいだったか。

 今となってはどうでもいいが。


 かなり苦しい立場ではあるものの、今を乗り越えればそのまま領主としてこの街を治めることも出来るかもしれないという所にまで上り詰めてしまった。

 例の記憶と言うものが定着するにつれて、自分の頭の中がどんどんすっきりしていき、他の人達が何を喋っているのかが鮮明に理解できるようになり、今自分がしている書類仕事というものなど前は部下に書かせていたものだが自分で書いているのだ。

 自分で考えて、自分でサインをしていく……。


 まだるっこしい言い回しを正確に読み取り、その文章が何を言わんとしているものかを理解できる。

 だからこそ返答を書くことも出来る。


 今、ディノスは満ち足りていた。


「ハンターの方はどうだ?街に残っていたものはどれくらい居るのだ?」

「300名ほどですが、先の魔物の襲撃とエフェオデルの統治の際に大怪我を負っているものが半数以上います。実質動けるのは147名と確認されました」

「……少ないな。訓練に参加していない者は食料確保のための魔物を狩らせろ。魔晶石の回収も忘れないようにな」


 ディノスの作る武器は魔石が必要だ。

 魔法を使う以上仕方ないのだが、ただ火薬を使うよりも簡単に威力と範囲を底上げすることが出来るのだ。

 あればあるほど良い。


「もう一つ、この街に居た貴族の一部から反発が起きています」


 占拠された時に最後まで抵抗した貴族は既に皆死んでいる。要するに残っている貴族はそんな時に反撃もせずに震えていただけの役立たずだった。

 当然、街の者達を分担して管理させようと思ったが、全く役に立たず怒鳴り散らすだけのボンクラ揃いという事で早々に切り捨てて全てをディノスの管理下に置いたのだ。


 当然ながら必要なのはきちんと動いてくれる人員であって、それらに対して住む場所や食べ物などを優先的に確保していったのだ。

 これを帝都でやったらとてつもない批判があっただろうが、今は状況が状況であってまずは生活を安定させつつ守りを固めなければならないのだ。

 邪魔な貴族に関しては後方の一角に押し込めてほったらかしている。


 もちろん、有能な者も居たために彼らはそのまま指示を任せたりなどしているが。


「……声だけ大きな者など放っておけ。そんなものが上に立てば状況は混乱するだけだ」


 ミレスのように。

 あの時の自分もそうだったが、攻めろ、俺を守れという指示だけで内容なんてまったくなかった。

 しかしこの頭を手に入れ、帝国の作戦立案などを聞いて理解していけば理解するほど、実際に動くものたちが一番大切なものだったと気付かされる。

 消耗すればその分だけ敵が食い込んでくるという簡単なことになぜあの時気づけなかったのか。


 自分の考え方も随分と変わったものだと思う。

 このままこうして皆から好かれて行くというのも良いものだと思い始めていた。


 やることを終えたらとりあえずなんとかしてやればいい。

 他の者達も今は耐えるときと認識してやっているのに、寝言を言われても困る。


「ディノス様もまともなベッドで寝ているわけではないというのに、嘆かわしいことです。……始末しますか?」

「……後で何かがあった時に責任を被せるのに丁度いい。残しておけ」

「わかりました」

「ああ、キールを連れてきてくれ。そろそろ休む。流石に疲れたからな」


 今こういうときだからだろうか。昂ぶって仕方ない。

 うつろな目をしたキールが入ってきて膝をついて頭を下げる。


「お待たせいたしました。どうぞ、私の身体で疲れを癒やしてくださいませ」


 ここまで手懐けるのは長かったが、こうなってしまえばかわいいものだ。

 キールを立たせてベッドへと連れて行く。

 今日も、長い夜が始まる。


 □□□□□□


 特にエフェオデルも動くこと無く、街は完成した。

 かなりの突貫工事だったが、強度に不足はない。


 徐々に物資も集まってきており、無事だった店などから道具を回収して魔導車と魔導戦車の整備を始めた。

 ようやくここまでこぎ着けた。

 砲の弾の方も作り始めることが出来るようになり、ここから戦いに向けての準備が始まる。

 時折トカゲのような黒い魔物らしきものがエフェオデル側を走り去っていくのを見かけるが、こちらに攻めてくるでもなかった為放置した。

 橋は既にあの戦いの後に落としており、こちらからは移動式の橋を掛けられるようにしてある。


 上空の警戒も欠かせない。

 ホーマ帝国が飛竜を操ることが出来るのであれば……当然のごとく魔物を操れるエフェオデルが持っていないわけがないのだ。


「……それに、ミレスの時にはあの空飛ぶ機械が全てをひっくり返したからな……」


 堅牢で破るには多大な犠牲を強いられるはずだった門は、たったの一撃で中まで完全に食い破られたのだ。

 その威力たるや、門が吹き飛んだだけではなく壁そのものが崩壊した。


 空を飛ぶものには何よりも過敏になっているのは確かだ。

 空からの攻撃の恐ろしさはホーマ帝国の誰よりも知っているつもりだ。

 そして魔鎧兵。

 あれは何としてでも欲しい。向こうを脱出する時に確保できればよかったのだが、あんな大きなものを運ぶことなど出来ない。

 しかし、この国にはそういったものは今のところ存在していない。


 ミレスのダンジョンケイブで見つけた魔物……ゴーレムのような巨体を持ち、意思を持っているかのような動きをして相手を翻弄する魔物。

 二匹の魔物が互いに依存しあって生きていくという珍しいものだった。

 片方は人間大程度の猿のような魔物で、すばしっこいが攻撃力は殆どなく無力なミノス。

 もう片方は身長4~5mほどの巨大な筋肉質なゴーレムじみた魔物で、大きさの割に素早く動くことが出来る上に力も強く危険だが、ミノスが居ないと全く動くことがないグラン。

 両方が一組になって活動しているものを2つの名前を足してグラノスと呼んでいた。


 後に魔鎧兵として活躍することとなるこの魔物が居なければ魔鎧兵が作れない。

 一から組み上げるのは無理だ。


 とりあえずは戦車の作成だろう。

 特に難しい技術は使われていない。面倒くさいのは動力を伝える機構と、操舵に関する場所くらいなものだ。

 ある程度数を揃えて置かなければ、向こうの魔物の群れには対抗できまい。


 ライフルも重要だ。あれは無力な人間ですら殺戮者にすることが出来る。

 作らなければならないものが多すぎる……。


「ディノス様。報告書です」

「ああ……。くそ、人手が足りないか」

「しかし人を増やせば食糧が枯渇します」

「分かっている。……魔鎧兵があればその分人手を割けるのだがな……」


 細かい作業をすることが出来て力が強い魔鎧兵は、戦闘以外でも重量物の運搬などにも使えたりするのだ。畑を耕すのも容易いことだろう。

 工事作業用としても優秀なのだ。


「無いものを嘆いても仕方あるまい。リーベ、準備をしろ。見回りに行くぞ」

「かしこまりました」


 英雄であるディノスが直々に労働者を見回り、声をかけることでやる気を引き出すのだ。

 少し作業を手伝うために魔法を使うだけでありがたがられる。

 例えポーズだけであったとしても、これをするとしないとでは効率に差が出る。


 店に入ってパンの一つでも買って美味いと言ってやれば、そこに人が入るようになり金が回る。

 身寄りのない子供たちを引き取っている孤児院に金貨一枚落としてやれば、口々に感謝の言葉をもらう。

 信徒の候補を見つけるにも丁度いい。


 以前から変わらないその性癖を持つ身としては、この信徒というシステムは実によく馴染む。

 ここに居る限りはこうして楽しく暮らすことが出来るのだ。

 だからこそ、その安寧の地を脅かすエフェオデルは退けなければならない。

 ようやく成功の道が見えてきたのだ、手放してなるものか。


 そして市民街の広場の中心に建っているモニュメントの下に足を運ぶ。

 ここはあのエフェオデルの侵攻があった時に死んだ者達を忘れないための祈念碑だ。


「隣をいいかな?」

「ええ、どう……あ、あなたは……ディノス様!?」


 祈念碑に花を捧げて祈っていた老人に声をかける。

 もちろんすぐに誰であるかなどはバレるがそれが狙いだ。


「ここで大勢の人が亡くなったのは、私がこの街を離れてしまったせいなのでしょう。ですから私にも祈らせてもらいます」

「そんな……!ディノス様はよくやってくれています!帝都に居たのだって仕方のないことだったのです!誰もディノス様を恨んでいるものなど、居りません!」

「自分に対してのけじめでもあります。為す術無く殺されていった人達、そして抵抗して勇敢に戦って命を落とした人達に誓いを建てるのです。必ず、エフェオデルという蛮族をこの世から消し去ると」


 老人は涙を流して喜んでいる。

 死んでいったものたちもこれで浮かばれるでしょうと。

 自分にとっては茶番以外の何物でもないが……なるほど、人の心を掌握すればここまで簡単に味方につけることが出来るのだ。


 この話が広まれば、またこの街に居る者達からの評価が上がり、ますます仕事に打ち込むことだろう。

 鞭でひっぱたいたりしなくとも、自分から必死で働いてくれるのだからこれ以上楽なことはない。

 帝国が教えてくれた人の動かし方というものはとても効率がいい。


 ミレスが簡単に滅んだ理由は今なら分かる。

 やはりあの威張り散らしていただけの連中は能無しだったのだ。

 まあ、そんな奴らも道中で全員死んだ。


 船の中で全身から血を流して苦しみながら死んでいくさまを見れたのは最高だった。

 あと一歩で自分もそうなるところだったが運良く漂流していた船に乗り換えられたのだから運がいい。

 そう、運がいい。

 このホーマ帝国で英雄として祭り上げられたことも。


 確実に追い風が吹いている。

 我が闘争の神は私を選んだのだ。

 将軍でもなく、その部下共でもなく、司祭であった私を選んだのだ。

 喜びに打ち震えていると、老人の声が聞こえた。


「死んだ者達に涙まで……本当に有り難いことでございます」

「……これは、みっともない所を。ではこれで」


 水を差された感じではあるが、ここで殺してしまっては評価が逆転する。

 にこやかな顔で返事をした後、この場を後にする。

 本当ならばこのような所に来るつもりはないのだ。


 そして数日後、目論見通り「心優しい英雄ディノスが祈念碑の前で涙を流してエフェオデルを滅すると誓いを立てた」という話が広まり、何故か感銘を受けた者達がこぞって自分にできることを全力でやり始めた。


「英雄だけにやらせる訳にはいかない。自分達も出来ることをして手伝うのだ」と。


 予想通りの結果に笑いが止まらない。

 今、資金が必要だからと寄付を募れば、自分達の無い懐をあさり尽くしてでも金を持ってくることだろう。

 人に不幸を感じさせずに操り、自分を讃えさせる事のなんと心地の良いことか。


 更にその夜。

 運の良さがまた力を発揮してしまったようだ。

 見張りからの連絡でエフェオデル側で魔物が彷徨いている事が報告された。

 見たことがないものだというので見に行ったのだが……。


 部下から借りた望遠鏡でそいつを見て、衝撃を受けた。

 ずっと欲しいと願っていた物がそこに有る。


「見つけたぞグラノス!これで我々の勝利は揺るぎない物となる!!」

少しの間ディノス側などの話が続きます。

栄光の道へ向かって突き進むディノス。そしてついに魔鎧兵の材料を見つけてしまいました。

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